ケーキに舌鼓を打ち、コーヒーで余韻を楽しんでいる最中。サンは何の気なしに探査魔法を使った。すると、奥の方に何やら巨大な建物――――道場がある事を発見した。士郎の言っていた古武術と言われる奴を稽古する場所なのかと思い、訊いてみた。
「マスター。何やら大きな建物があるようだが、あそこで古武術とやらの稽古をしているのか?」
「はい。と言っても、今ではめっきり使わなくなった物なのですが。私も技術はあっても、身体がついて行かないというぐらいには衰えていますので。基本的に使うのは娘なんですよ」
「技術の伝承か。良きかな良きかな。連綿と続く物を絶やさないというのは良い事だ。とはいえ、色々と大変なのではないか?」
「技術の方は息子が継いでおりますので。ただ、息子も基本的には海外にいる身なので中々会えないのですが……この後お時間があるようならご案内しましょうか?」
「ほう、良いのか?」
「ええ。今は息子とその娘――――孫が使っていますが、その後でもよろしければ」
「無論、構わないとも……と、俺が言うのは勝手か。メヌス、この後に予定などはあるか?」
「サンのお好きに為されるがよろしいかと。元々、そのための旅なのですから。それにもとより、あなた様のしたいと思う事を阻む権利など私にはございません。どうかお好きなように」
「ふむ……そうか。では、頼めるかな?マスター」
「ええ……という訳で、この場を頼むよ美由紀」
「えっ!?ちょっと、お父さん!?」
ハッハッハ、と笑いながら士郎はサンたちを連れて店を出た。その際、キッチンで調理していた妻は仕方ないわねという表情を浮かべ、いきなり店を任された娘は混乱しきっていた。確かに、クールタイムと言っても良い時間だったが、それでも店は開いているのだから。
「ここが道場です。普段は娘ぐらいしか使いませんので、少し汚いかもしれませんがご勘弁ください」
「大丈夫だ、マスター。こちらが頼んでいる身なのだ。そんな恥知らずな事は言わないとも」
「それでは、どうぞ。稽古の途中だと思いますので、お静かにお願いいたします」
「それはもちろん。出来うる限り、邪魔をしないようにしましょう」
サンがそう言った瞬間、まるでその場から消えてしまったかの如くサンとメヌスの気配が消失した。士郎も目の前で見ていなければ気の所為か、と思ってしまうレベルの気配断ち。本当に何者なのかと思ってしまう。
道場の扉を開き、中に入るとちょうど休憩中だったのか一人の青年が水を飲み、その足元で少女が息絶え絶えという状態で倒れていた。どんな過激な鍛練を積んでいたのか、と思ってしまう状況でありながら、サンは別の要因で驚いていた。
「……人外種、それも吸血種か?こんな魔法文明のない未開の地にまだ生息しているとはな。これは驚きだ」
「そうですね。今となっては相当に数を減らしていますしね。私も実物を見るのは初めてです」
「「っ!?」」
サンとメヌスにとってはどうという事はない事実。しかし、それは士郎やその息子――――恭也にとってはそうではない。人は違う存在であるが故に、人外は人々に狙われ続けてきた。その事実を考えれば、恭也の取った行動が間違いだとは誰も言い切れないだろう。
サンたちとの距離を詰め、手に持っている木刀を叩きつけようとした。
天剣に選ばれる人間は真っ当な存在ではない。場合によるが、単体で
その攻撃を見た誰もが、間違いなく恭也は死んだと思った。メヌスは平常の状態とトップギアの差が激しい。であるにも関わらず、トップギアまで至るのは一瞬だ。コンマ以下の時間で彼女の精神は変化させる事が出来る。しかし、それはあの男にとってもまた同じ。
「……?」
「そこまでにしておけ、メヌス。今のは俺の無遠慮な言葉に反応してしまっただけだ。俺に危害は加えられていないし、気にする程の事でもない」
恭也の身体に当たるまでほぼ零と言っても良い程の距離。そこで一ミリにも満たないような盾が構築されていた。そんな針で突けば壊れてしまうようなサイズでの盾に、メヌスの攻撃は止められていた。流石に衝撃までは殺しきれなかったのか、防いだ際に起きた衝撃と爆音で恭也は吹き飛ばされていた。
「しかし、殿下。あの者は殿下に危害を加えようとしたのです。極刑にして然るべき罪状です」
「殿下って呼ぶなと言ってるだろうが。それに俺が許すと言っているのだ。それ以上の危害を及ぼすというのなら、その時は俺が相手をする事になるぞ?」
「……畏まりました」
「すまないな、マスター。邪魔をしないと言っておきながらこの始末だ」
「あ……いえ、息子を、恭也を助けていただきありがとうございました」
あの瞬間、士郎は動く事が出来なかった。間違いなく恭也は死んだものと思った。自分が現役だった頃でもなす術もなく殺されていたであろう一撃。それを事もなく防いでみせた。たとえ、普通の方法ではなかったとしても助かった事は事実だ。
「いいや、気にする必要はない。こちらが無礼を働いたのだ。寧ろ怒るぐらいで丁度良いんだぞ?」
「ハハハ……」
サンはあまりの衝撃に動けなくなっている恭也に近付き、手をかざした。一瞬だけ魔法陣が現れ、恭也を包み込んだ。すると、恭也の身体から痛みが消え去っていた。それを確認すると、サンは立ち上がった。そして壁に立てかけてあった木刀を手に取った。
サンからすれば、武芸の鍛練とは本物の武器で行うのが当然なのだ。切り傷や打撲の類は当たり前で、場合によっては死んでしまう事や重傷を負ってしまうのは当然の話だった。木を削り、こんな武器を使うような事はサンの考えではありえなかった。
故に、真新しいという感想を抱かざるを得なかった。軽いのが不満と言えば不満だが、木が原料となっているのだから仕方がないと思った。そこでふとサンは思った。
――――
「……そうだよな。俺ってあいつらの実力をよく知らないんだよな」
そう思った瞬間、サンは握っていた木刀をメヌスに投げた。メヌスがそれを受け止めた頃にはサンは別の木刀を手に持っていた。メヌスにはサンの目的が分からず、呆然としていた。木刀を構えながら、サンは告げた。
「思えば、俺はお前らの実力をよく知らん。お前たちが天剣と名乗っている事以外、俺はお前たちの事など知らないからだ。――――故に、お前を測ってやろう。真に天剣を名乗るに相応しいか、示してみせるが良い」
剣を構える。それ即ち、鍛練の始まり。古代ベルカにおいて最強を誇った魔王を相手にして行われる、一生に一度あるかないかと言われるほどの出来事。初代天剣保持者たちですら、魔王との鍛練をした者はそうはいない。
「――――喜んで、お相手努めさせていただきます」
「良い。全力を尽くせ。さもなくばその首、無いものと思え」
サンがそう言った瞬間、重圧の感じる剣戟が
肉体は限界まで強化され、それに応じて得物も限界まで強化される。今ではサンの――――ソロモンの剣戟について行く事が出来ている。ソロモンの伝承における極致――――初めて握った武器すら十全以上に使いこなすソロモンの技量。
拳であれば名を馳せる拳闘士を撲殺し、剣であれば騎士と呼ばれた天才どもを斬殺し、鎗であれば無二の鎗手ですら穿ち殺した。その類稀なる魔法の才だけではなく、武技の才でもソロモンは万人を凌駕した。ジェイル曰く、如何なる得物ですら壊すほどに使い潰す程の逸材。
そうでなくとも――――天剣保持者とはソロモンを前にして、最後まで立っていた者の順番なのだから。
空気が炸裂する。腕がぶれる度に何かが衝突する音がする。メヌスが必死に動き回り、何とかソロモンとの距離を詰めようとする。しかし、それでも。ソロモンの身体を動かす事は叶わない。たとえ背後に回ろうとも、如何なる術理か剣戟は背後にすら届く。
壱にして百を知る?いいや、否。零にして千を知る?いいや、否。真実、最強にして絶対無敵なる存在とは得物を握った瞬間から万を知る者。始まりから極点へと至る者。それこそが唯一無二なる至高の存在。常勝不敗と謳われ、世界に畏怖の念を抱かせる超越存在なのだから。
「どうした?現代の天剣とはその程度の力しかないのか?」
「ぐっ……!」
防戦一方。天剣とは天に捧げられた剣であり、天に敵対する事を考慮していない。いや、天に敵対する事など烏滸がましい傲慢。ソロモンを神として掲げる宗教において、あり得べからざる大罪なのだ。だからこそ、どうしても剣が鈍る。
主に剣を向ける奴隷がいようか?慈愛をもって接する親を率先して害そうなどという子がいようか?主に逆らう騎士がいようか?そして――――神に逆らう事を、神を傷つける事を率先して行おうとする使徒がいようか?いいや、否。上の者が下の者に報いる限り、そのような事が起こりよう筈がない。
「……ふん。では、こうするとしよう」
「……?」
「本気を出せ。さもなくば……貴様から天剣位を剥奪する。俺の言葉に従えない者など天剣には相応しくない。天剣とは王を守る剣であり盾である。その命は総て王のためにある。王の力になり得ないなら、天剣など不相応な物だろう?」
世界で天剣からその位を剥奪する事が許されるのは二人だけ。即ち、剣を捧げた王とその始祖たるソロモンのみ。そして、天剣にとって最も不名誉な事はその位を剥奪される事だ。その昔、当時の王が良かれと思って天剣位を取り上げた結果、自殺した天剣保持者がいる程に。
ただの王ですらそうなのだ。ソロモン相手に天剣位を剥奪されれば、それどころの騒ぎではない。一族郎党全員が自殺しても足りない程、その行為が齎す物は途轍もない影響を持つ。それに何より、ソロモンから見放される事を彼らは極度に恐れる。それこそ、それ以外が総て些事に変わる程に――――
ソロモンの言葉と同時に、メヌスの気迫が明確に変わる。メヌスの中ではこれが鍛錬だという事すら消え去り、完全に戦闘状態に移行した。間違いなく、その刃はソロモンの命へと届かせようとしている物へと変化している。
響き渡る音がより重々しい物へと変化させる。その攻防は完全に鍛練の枠組みを超え、命のやり取りへと変化していた。それを如実に理解させるように、木刀に注ぎ込まれた魔力や気が合わさり剣気へと変化していった。
「…………」
二人の剣戟に士郎は目を惹かれていた。瞬きをする時間すら惜しいと感じさせる程の極致。これこそが、剣のあるべき姿だと思わせられるほどの剣だ。集中しても微かにしかその剣戟を見切れない。そんな自分が情けないとすら思ってしまう。
「そうだ。このぐらいはして貰わなければ、俺も安心して護衛など任せられん。だが、これで終わりではなかろう?たとえ、自分専用の得物ではなくとも、この身に一撃を与えてみせよ。その程度できなければ、お前は第二位など名乗れまい」
ソロモンの言葉を聞いたメヌスは如何なる術理か、ソロモンの距離を詰めた。その行動にソロモンは微笑を浮かべながら、踏み込む。剣よりも内側の間合い。これでは互いに全力を発揮できない――――訳がない。
魔力で高められた剛力の掌底がメヌスに迫る。メヌスはそれを捌き、逆に吹き飛ばそうとした――――が、そのような小細工をソロモンが許す訳がない。風の流れでこれは捌ききれないと判断したメヌスは距離を離そうとする。
しかし、メヌスの移動術――――縮地をソロモンは大地の経脈を揺らす事で阻む。万事休すという状態となってしまったが、それで慌てるようではそれこそ天剣失格だ。木刀の柄をソロモンの腕に当て、弾かれる事で距離を開けた。
改めて、剣を構え同時に衝突した瞬間――――両方の木刀が砕け散った。二人の強化と攻防に木刀の方が耐え切れなかったのだ。柄を残して何もなくなった木刀を見下ろしたソロモンは笑い始めた。その笑い声に安堵したように、メヌスも笑った。……流石に苦笑と呼ぶべき物であった事は致し方ない、という他ないだろう。
~ソロモンと作者によるQ&Aコーナー~
「リアルが忙し過ぎた所為で大分時間がかかりましたが、何とか戻ってきました。シュトレンベルグです」
「時間を置きすぎな気もするが、これからも遅れる可能性が非常に高いので勘弁してやってほしいと思う。ソロモンだ」
シュ「それでは今回も質問に答えて行こうと思います。まずはこちら」
Q.管理局の白い悪魔、魔王と言われてるなのはさんですが、この世界ではソロモンが魔王として言われてるので、この世界でも魔王と呼ばれてるのかな?
シュ「岬サキ様、感想共々いつも拝見しています。今回もお便りいただきありがとうございます。で、その辺はどうなの?」
ソ「こちらからすれば、そのなのはとやらの事は知らないが……俺以外にも魔王と呼ばれている者がいるのか?」
シュ「はい、そんな訳でこの王様は特に役に立たないのでこちらが答えさせていただきます」
ソ「分かっているなら、何故話を振った……」
シュ「え~、まずなのはさんとこの王様では魔王の意味合いが違います。
なのはさんの場合は魔王の如き力で破壊をもたらす魔導士という意味合いの魔王。
この王様の場合は総ての魔導士の頂点に立つ王様という意味の魔王です。
なので、どうやってもなのはさんとこの王様の意味合いが被らないので、魔王と呼ばれる事でしょう。運命からは逃げられない」
ソ「ふむ、けったいな魔導士もいるのだな。一度会ってみたい気もするがな」
シュ「止めて。君たちが出会ったらその場所は間違いなく大変な事になるから。……本当に止めてよ?冗談じゃないからな!?」(ピコンッ!フラグが立ちました)
ソ「(余計なフリをするから……)まぁ、その話は良い。次に進んだらどうだ?」
シュ「そ、そうだな……次はこちら」
Q.シュテルの家系の説明で、そこまでやるのかって狂信者ぶりがありましたが、レヴィやディアーチェと後はユーリの家系にもシュテルの家系のようなものはあるのですか?
ソ「うむ……まぁ、そうだな。あいつらの沸点は俺の話題に限り、途轍もなく低い。和平の条約を結びに行ったはずが、そのまま相手国を滅ぼしたなんて話もあるぐらいだからな。俺が悪辣非道な魔王と呼ばれる理由の大半はあいつらの怒りだからな」
シュ「えっと……何したの?」
ソ「基本的に俺の参謀である煉獄女帝が有名なんだが、他の連中も大概だった。殲滅女帝は俺を侮辱した連中を国ごと闇に沈めたし、斬滅女帝は一族郎党斬首して晒し首にした後、腐り始めると何事もなかったように消し炭にしていたな。
破壊女帝は確か……住まい事圧縮して肉塊に変えていたか?少なくとも、原形も残る事はなかったな。なんにしても、ろくな事にはならなかったな。普段は優秀なんだが、俺の事が絡むと途端に過激になるからな」
シュ(ここにあの四人を招かなくて本当に良かった……これからも絶対に招かないようにしよう)
ソ「まぁ、俺の関係者など大概ろくでもない連中だからな。俺の事になれば過激になるのはいつもの事だ。放っておけば良い。それで次は?」
シュ「質問は一応次で最後だな。最後はこちら」
Q.今代の女帝や天剣達の実力ですが、やっぱり一対一なら誰が相手(なのは、フェイト、はやてのレベルも含めて)でも負けなく、悪くても引き分けになる実力は兼ね備えてるんですか?
ソ「そんなにその者らは強いのか?この平和なご時世には珍しいな」
シュ「ああ~……まぁ、青春を仕事に捧げている人間だから、じゃなくて!元々才能のある女性だから!皆そう思っちゃうんじゃないかな!?」
ソ「何を慌てているのだ。それで?実際のところ、その辺りはどうなのだ?」
シュ「ふむ。今回の話を読んでいただければ分かりますけど、基本的に天剣やら女帝に選ばれる人材というのは化け物レベルです。この王様に追随する事が出来るぐらいの力量はあります。じゃなければ、こんな化け物守ろうとは思いませんから」
ソ「化け物とはひどいな……昔であればあの位の力量の者は他にもいたぞ?」
シュ「どんな人外魔境なんだ、古代ベルカ……ともかく、相対評価としてはそもそも眼中にないのが正解です。序列によって実力の違いが半端ではないので、誰がどのくらいかというのは一概には語れません。というのが質問の回答です。分かりにくくてすいません(土下寝)」
ソ「さて、質問は以上か。岬サキ殿、二回連続で質問を入れてくれて感謝の意を表明しよう。これからもこの物語をご愛読いただけると幸いだ。他の読者殿も、な」
シュ「それでは皆様、また次回お会いしましょう。さようなら~!」