黒の聖女ジャンヌ・ダルク・オルタ。彼女の登場と共に、戦乱は一気に加速した。互いの勝敗は戦場でのみ決するという暗黙の了解を平然と無視し、彼女は何の関係もない村を、街を焼き払い滅ぼしていった。この世界の人間にとって常識の埒外の行動を繰り返す彼女に誰もが対応が遅れていた。
そんな中、白の聖女ジャンヌ・ダルクは機動六課と出会い、この一件の解決に協力してほしいと申し出た。機動六課もこの要請に応じ、少なくともジャンヌ・ダルク・オルタ討伐に関してのみ、協力する事にした。その旅の中で、機動六課の面々は彼女が聖女と呼ばれる理由を理解した。
彼女は恐れない。共に戦う兵士たちの先陣に立ち、兵士たちを鼓舞し続ける。そんな彼女の姿に誰もが勇気づけられる。だからこそ、どれだけ怖くとも、どれだけ相手が強くとも。彼らの前に立つ聖女の姿がある限り、彼らはその恐怖を乗り越えられる。その信頼関係こそが、彼女たちの強さだった。
彼女は折れない。黒の聖女に襲われた町や村を訪れ、人々に拒絶されても助ける事を諦めはしない。手を差し出す事を止めはしない。石を投げつけられても、罵声を浴びせられても。彼女は絶対に人々を救う事を止めようとはしなかった。
何故なら、彼女は信じているからだ。人は弱い生き物で、だからこそ強くあろうとしている事を。今は嘆き怒っていても、いつかはその悲劇を乗り越えていける事を。その為なら罵声や怪我を負うくらいは安い物だと考えているのだ。
彼女たちの旅の行程でとある街に辿り着いた。善良な人々が日々を暮らしているだけの街。何の変哲もなく、何の特殊な要素もない、ごくごく普通の街だった。彼女たちはそこで言葉を交わし、感情を交わした。しかし、その場所は黒の聖女の陣営によって尽く壊された。
残ったのは悲鳴と嘆きと恐怖と怒り。奪われた事への嘆きがその場を満たし、次に奪われる事を恐れ、奪った者に対する消える事のない憤怒が街を埋め尽くした。それを見ても尚、黒の聖女は表情を変える事はなく。ただその場に映る悲劇を淡々と見つめていた。ただ一人、黒の聖女と対面したジャンヌは問うた。
「あなたは……一体何がしたいのですか?」
「愚問ね、白い私。……復讐よ。この世界に生きる者、その総てへの復讐を私は誓った。奪われたのだから、奪い返すのは当然ではないかしら?」
「……私には分かりません。私は奪われた事などない。奪われた者などいない。命を落とした人はいました。二度と会うまいと誓った故郷もあります。しかし、私は奪われてはいない!」
「……ええ、そうでしょうね。私は、正史を生きたあなたの成れの果て。今のあなたとは決して違う存在よ」
「正史……?」
「ええ。とはいえ、私は答える気はない。知りたければ問いなさい。あなたは総てを知る存在を知っているのだから」
「総てを知る存在……それはまさか」
白の聖女がその言葉の真意を理解した瞬間、黒の聖女が従えるサーヴァントたちの前に黒の麗衣を纏う女性――――メヌス・R・フォルネイスが現れた。メヌスが街の惨状を眼にすると、彼女の身体から膨大な量の魔力が放出され、その魔力に呼応、否、共鳴するように神器が振動し始めた。
魔導士が魔力の元たるリンカーコアを全開にするフルドライブとは違うその現象。その現象を目の当たりにした街の人々も戦う兵士たちも、この時ばかりはそれまで抱いていた負の感情を消していた。その現象があまりにも美しく、その美しさを汚してはならないと無意識に判断したからだ。
「猊下、我が不義をお許しください――――
蒼色の魔力がメヌスを覆う。これぞソロモンより賜りし天剣、その力の一端。ソロモンの赦しなくして開放する事は赦されない絶対の力。メヌスの行動は本来、天剣位にいる者ならば絶対に起こしてはならない愚行だ。しかし、彼女は目の前の光景を赦す事は出来なかった。
メヌスが絶対に許せない事が二つだけある。一つはソロモンに対する侮辱。これは天剣位の者たちに共通する事である。もう一つは力のない者を襲う悲劇だ。それだけは絶対に赦す事ができない。認める事ができない。必要であるならばともかく、無用の悲劇を彼女は最も嫌う。
有り体に言えば――――黒の聖女は今、最も彼女の逆鱗に触れた存在となった。
そこからの戦闘は圧倒的な蹂躙だった。街の人々を襲うワイバーンは尽くが斬首され、黒の聖女のサーヴァントたちが三人がかりで挑んでも圧倒されていた。それは天剣の力の一端を解放したというだけではなく、メヌスの殺意が黒の聖女に向いていたのが大きい。
今の彼女は黒の聖女を殺すために意志を向けているため、その方向性に頭が動いている。だからこそ、彼女はどうすれば最短で黒の聖女を殺せるか思考が目まぐるしく動いている。その障害になり得る存在を認識し、いち早く行動を把握しているのだ。
対して、彼女のサーヴァントたちは別に仲間意識がある訳ではない。それどころかこんな仕事はさっさと終わらせたい、という想いすらあった。そんな時に本気で怒っている人間が現れたのだ。彼らも途轍もなくやりづらい状態だった。
彼女の姿こそ、本来英雄が抱くべきあり方その物だ。このような非道を赦す存在が、このような外道を犯す存在が、英雄などであるものか。悪を怒り、憎み、討伐せんとする者こそ英雄だ。そうでなければ、誰が英雄などという物に憧れを抱くだろうか?
「……あなたが怒りを抱くのも当然なのでしょう。しかし、私もここで終わる訳にはいかないの。――――アーチャー、ランサー、ライダー。宝具を持ってそこの女を……撃滅せよ」
背中から赤い翼が現れ、その内の三角が光り始めた。それが魔力の奔流に変わるのと同時に三体のサーヴァントたちに令呪の力が及んだ。それに嫌そうな表情を浮かべながらも、己の得物をメヌスに構えようとした瞬間、誰かが空中から降り立った。
「……そこまでにして貰おうか、黒の聖女。俺たちを相手にタダで済むと思うか?」
「天剣九位のマジェス・G・ガルムシア……あなたこそ、我々を相手にして無事に済むとでも?」
「どうかねぇ。だが、俺もソロモン猊下に仕える天剣なんだよ。早々負けを認められる訳ねぇだろ?」
その言葉と共に赤い魔力がマジェスの身体を覆い始める。それと同時にハルバードに魔力共振が起こり始める。再び戦闘が繰り広げられるのかと思いきや、黒の聖女とメヌスたちを分けるように地割れが奔った。その先には剣を振り抜いた姿勢の男が立っていた。
「今度は天剣一位のクリア・M・ネフティスなのね……良いわ、ここは退きましょう。ただし、次はないわ」
「待て!貴様は、貴様だけは赦さん!ここで……殺してやる!」
龍に飛び乗り、配下のサーヴァントたちもそれに従った。そんな中でメヌスだけは殺意に満ち溢れていた。必ず殺すという意志に溢れ、その権化となりつつあった。それを止めるようにマジェスがメヌスの肩を掴んだ。
「おいおい、このまま終わりそうなんだから噛みつくなよ」
「黙れ、邪魔をするなガブリエル!あの女だけは赦しておく事は出来ない!あの女だけは決して!」
「……ならば、猊下の命令に背くか?ラツィエル」
「そ、れは……」
「猊下は仰った。この戦争はあくまでもこの世界の人間で決しなければならないと。あの黒の聖女がこの戦争の中核にいる。ならば、この世界の問題だ。では、この世界の人間が問題を決するべきだ」
「……ならば、この暴虐を赦せと言うのか?この街の、力のない民が傷つけられた事に憤るなと貴様は言うのか!?」
「猊下の言葉は絶対だ。天剣である以上、天に剣を奉じた人間である以上は絶対の理だ。それに逆らうと言うのなら、天剣を返上しろ。それが天剣の役割だ」
「それは……それだけは出来ない。それだけは絶対に……」
天剣はたった一つだけ恐怖する。それはソロモンに見向きもされなくなる事。ソロモンから恩恵を賜る存在から外れ、一人ぼっちになってしまう事を何よりも恐れる。大なり小なり要職に就く存在は何かに縋っている。それは時に金であり、家族であり、愛であり、神であったリする。
ソロモンの言葉が彼らを救った。彼の残した言葉は多くの者を救い、救われた多くの者がソロモンを崇拝した。天剣も女帝も、ソロモンの言葉に影響された者たちだ。だからこそ、彼らは恐れるのだ。ソロモンに見向きもされなくなるという事は、救われなかった過去に戻る事を意味しているから。
「それに……あの女を殺す事よりも先にしなければならない事がお前にはあるのではないのか?」
クリアはそう言いながら眼前に広がる惨劇を見た。その時、ようやくメヌスも落ち着いて行動する事ができるだけの冷静さが戻ってきた。そのメヌスを見て、ジャンヌは頭を下げた。
「ありがとうございます。本来、関係ない私たちのために尽力してくださって……」
「まぁ、気にすんなよ。俺たちは猊下の命令で動いているだけ、って訳じゃない。人並みには情があって、その為に行動したいと思ってるんだ。今回はあいつが暴走しちまったがな」
「もとより、猊下は戦火の火よりあなたを守れと仰った。その為に行動するのは当然の事だ」
「ソロモン王が私を、ですか……?」
「はい。猊下はあなたの事を重要視していらっしゃいます。それはあなたがこの戦争に現れるよりも以前から」
「え……?」
「まぁ、猊下の考えを理解しようとは思わない事だな。猊下は俺たちの測れる尺度にいるような存在じゃないからな。まさしく神の如く、ってな」
「神?あの方は神だと言うのですか?」
「そうだとも。あの御方は現代に蘇った現人神だ。誰もあの御方がいる領域には届かんし、あの御方の傍に侍る事などできない。我らですら足元にすら及んでいるかどうか……」
「…………………」
ジャンヌは何も口にする事ができなかった。クリアとマジェスが本気でそう言っている事が分かってしまったからだ。彼らは冗談でもなく、本気でそう思っているのだ。だが、ジャンヌにはその想いがどうしようもなく恐ろしいものだと思ってしまった。
彼らの思いはまさに信仰という言葉が相応しく、同時に盲目な物だと思わざるを得ないからだ。彼らはソロモンを奉じ、しかし目の前にいるソロモンと言う存在を見ていない。良くも悪くもソロモンは神代を生きた人間で、現代を生きる彼らはソロモンを特別視する。
同じ人間だとは思わない。同じ生物だとは思わない。この世界で生きる同じ存在だとは絶対に思わないのだ。ソロモンという存在を、奇跡として捉えている彼らにとってはソロモンが人間であると認識する事はない。それを理解しているからこそ、ソロモンは自身に仕える誰にも心を開かないのだ。
当然だ。彼らはソロモンを存在ではなく、事象として捉えている。ソロモンを人ではなく物として捉えているのだから、心など開く訳がない。信用もしているし、信頼もしている。しかし、決して心を開いてはいないし、背中を預けるような事もしない。端からそういう存在ではないのだから。
ジャンヌは直感でそれを理解してしまった。だが、だからこそ、自分はソロモンと話をしなくてはならないと思った。自分はこの戦争の意味を知らなければならない。この戦争に存在する秘密を、この戦いに関わる彼らの意思を。そして、ソロモンの意思を。
「ネフティス様、差し支えなければお願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「あなたの主に……ソロモン王との対談を。私はソロモン王から聞かなければならないお話があるのです」
「……その要求に素直に応じることは出来ない。しかし、もうすぐ定期報告の時間です。その場でソロモン王に伺いを立ててみましょう。それでよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
クリアとしては幾らソロモン王が気に入っているとはいえ、たかが一人の少女の要求に乗るつもりはなかった。しかし、ソロモン王は彼女の要望にできる限り応えるようにと命じていた。ソロモン王の命令を第一に置く彼にとっては、ソロモン王の命令に背く事をするつもりはない。
そして、興味があったのだ。ソロモン王が気に入った少女、ジャンヌ・ダルク。その少女がソロモン王と言葉を交わせばどうなるのか?自分たちと同じようにソロモン王を崇拝するようになるのか?それとも逆に反対する事になるのか?もしくは――――
何にしても、彼女の願いを叶えるために動かなければ。クリアはそう考えると、部下たちを纏め上げて指示を下すのだった。
~ソロモンと作者のQ&Aコーナー~
「さて、そんなこんなで第一特異世界の物語が進んでいきます。シュトレンベルグです」
「お前の出番ないからと言われたが、出番があって安心している。ソロモンだ」
シュ「まぁ、あんたは便利だからね。気付いたら出してたわ」
ソ「適当だな……まぁ、良い。それでは質問の方に行くとしよう」
Q.ソロモンでも初代山の翁ことキングハサンに首を出せをされたら、やはり抵抗出来ずに死んじゃいますか?相手も同じ冠位のお方ですし。
ソ「キングハサン?……あぁ、暗殺王の事か?抵抗しきれない事はないだろうが、一筋縄ではいかないだろう。あれほどの妙技、対応する事はそう易い事ではないからな」
シュ「へぇ、余裕とは言わないんだ」
ソ「当たり前だ。アレは気付けば死んでいる、という域の剣技だ。俺であっても余裕などとは口が裂けても言えん。まぁ、それは冠位にいる総ての存在に共通する事でもあるんだがな」
シュ「と言うと?」
ソ「同位の存在というのは同格という意味ではない、という事だ」
Q.ソロモンってアンリマユの中でもギルガメッシュと同じように寝ながら自我を保てるのですか?
シュ「そもそもギル様が寝ていたかどうかは分かりませんが……どうなの?その辺」
ソ「人類悪、
シュ「そりゃあ、人類最古の英雄王だからね。総てを背負っていると豪語するだけあるって事だよ。で、お前さんはどうなの?」
ソ「俺か?というか、冠位の英霊は人類悪の影響を受けない。何故なら、冠位はそれ自体が既に完成している物だからだ。他者から影響を受けるような事はない。そういう次元にはいないのだからな」
シュ「つまり、バフデバフは一切効かないと?」
ソ「そうとも言うな。他者からの干渉でどうにかなる程度の英霊が冠位など得られる訳がない。冠位とは人類と世界を守るために存在する最終装置だからな」
Q.ソロモンさんの子供に対する反応が予想と違って驚きましたが、実は子煩悩なのですか、作者さん?
シュ「子煩悩、とは少し違いますね。正確に言うなら人煩悩と言ったところでしょうか?これ以上はこの物語に関わってくるので、この質問の返答はここまでとさせていただきます」
『別会場にて』
「出番はないが、仕事はしている。ディアーチェだ」
「変異生物の退治って本当に大変だよね。レヴィだよ」
「しかし、遣り甲斐はある。ソーン様の残してくださった仕事、キッチリとこなしましょう。シュテルです」
「皆頑張っているので、エルトリアは大分復興出来ました!ユーリは寝ているので、今日は代役として私が来ました!アミタです!」
ディ「ふむ、アミタも来るようになったか。これからどんどん人が増えていきそうだな。それはそうと、質問に行くとしよう」
Q.マテリアルの皆さんはソロモンの写真か映像をデバイスもしくは紫天の書に入れてるの?
ディ「そんな物は必要ない。写真や映像は忘れるのを防ぐためにする物だ。我々は殿下を忘れる事などあり得ないのだから、そんな物は必要ないとも」
シュ「そうですね。殿下から与えられた熱は今もこの胸に。この胸の焔、心火が絶える事は決してないのですから」
レ「殿下と共にあった時間は覚えてる。だから、僕らはそれだけで十分なんだ。それだけで十分な栄光であり、十分な報奨なんだから」
ア「ソロモンさんの昔か……私はちょっと気になりますけどね」
Q.レヴィはソロモン前だと、いつものような天真爛漫な性格は抑えるようにしてるの?
レ「う~ん、抑えてたって言うのは正確じゃないかも。今の僕も素だし、殿下の前にいた僕も素なんだ。だから、そうだね。どっちも僕っていうのが合ってるのかも」
シュ「そもそも、人の性格など一面では測れない物。それで良いのでしょうね」
Q.ディアーチェの家事能力の高さはソロモンに仕えてた時に家事系列のしてたからなの?
ディ「……忘れているようだが、これでも我は貴族だからな?女帝時代は家事などした事もなかった。今の家事能力があるのは紫天の守護者になって以降に学んだ物だ」
ア「昔から料理とかが上手だった訳ではないんですね」
ディ「可もなく不可もなく、と言ったところだっただろうな。変に奇を衒わず、レシピ通りに作るぐらいだ。そこまで大層な物は作れないし、作ろうとも思わなかった。……だからまぁ、叶うならもう一度くらいは殿下に料理を振る舞いたい物だ」
ア「……その時はお手伝いしますね、王様」
ディ「ふっ。ああ、頼むとしよう」