魔法少女リリカルなのは~魔王の再臨~   作:シュトレンベルク

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ソロモンと少女たち

 ウーノにその場を任せたソロモンは管理局本部のある地、ミッドチルダに来ていた。その目的はカードの使い方を知ったので、一度豪遊をしてみたいと思っただけである。その昔、王であった頃にはそんな贅沢をした事がなかったからである。

 王と呼ばれる存在であるなら、それなりに豪奢な生活を送れる物と思うかもしれない。しかし、ソロモンはベルカ戦役時代の王。戦争に勝つ事こそが重要で、金があるなら軍事部門につぎ込むのがその時代における当然の行動だった。それはソロモン自身も例外ではなかった。たとえ、ソロモンがどれだけ有能であったとしても、他の者たちまでそうである訳ではない。だからこそ、軍備を整えておくのは寧ろ当然だった。

 

「ふむ、しかし、流石に数百年も過ぎるといろんな物があるな。金はもう下ろしたが、まずは何から行くべきか」

 

 道を歩きながら考え込んでいるソロモンは田舎から出てきた少年の様に周囲を見渡していた。おのぼりさんという表現が正しいソロモンだったが、周囲の人々はソロモンの姿に見惚れていた。田舎から出てきた少年のようでありながら、ソロモンの行動の一つ一つに所作があるのもそうだが、何よりもソロモンの姿が美しかったからだ。

 肩まである美しい黒髪と眼鼻の形が整った少年。まるで絵画の中から飛び出してきたかのような姿に、男女問わずに見とれる者は多かった。その奥底にある圧倒的な力に気付く事はなかったが、それでもネットにその姿は瞬く間に広がっていく事となった。

 

「あの~」

 

「うん?」

 

 結局、どこへ行くでもなくただ道を歩いているだけだったソロモンは道の端に立ってジェイルからかっぱらってきた端末を弄り始めた。使い方は分かっていたが、どうもピンとくる物がなかったので書いては消すのを繰り返していた。そんなソロモンに青色の髪の少女が話しかけてきた。

 

「大丈夫?さっきからずっと何か考え込んでたみたいだけど」

 

「おや、これは申し訳ないな。なに、ここに来たのが初めてだったのでな。どこから行ったらいい物かと考えていたんだよ。もしよければ、お薦めの場所を教えてくれないかな?」

 

「私のおすすめ?う~ん、そうだなぁ。やっぱりアイスかな!」

 

「アイスというと……あの冷たい氷菓子だったか?思えばそういう物は食べた事はなかったな」

 

「えぇっ!?アイスを食べた事ないの?そんなの人生の半分は損してるよ!」

 

「おぉ、そこまで言うほど美味いのか?そのアイスというのは」

 

「もちろん!そうだ、これからティア……友達と一緒にアイスを食べに行くんだけど、君もどう?」

 

「それは願ったり叶ったりという奴だが……良いのか?友達と一緒に遊びに来ているのでは?」

 

「それはそうなんだけどね?でも、困っている人を置いていくなんてするべきじゃないと思うから!これでも将来は管理局員になるんだから、困っている人を助けるのは当然だよ」

 

「……なるほど。では、世話になるとしようか」

 

 ソロモンとしては少女のような存在は予想外だった。完全な善意で行動する人間という物は、王となって以来久しく会っていなかったからだ。古代ベルカ戦役とは、即ち人の巨大な欲望がぶつかり合っていた時代。そんな時代に生きていたソロモンに人の善意は信じるに値しない物でしかなかった。

 しかし、目の前の少女は完全に善意で行動している。それはソロモンに時代の変化と同時に人の当たり前とも言えるあり方を感じさせた。王であった頃、そしてこの時代に生まれ出でてからずっと感じる事のなかった物を、ソロモンは感じていた。それはソロモンに懐かしさと遠い場所に来たのだという事を感じさせていた。

 

 青髪の少女はオレンジ色の気の強そうな少女を連れてきた。その少女はソロモンを胡散臭そうに見ており、青髪の少女はそれに対してソロモンに謝っていた。ソロモン自身は一切気にしていないので、別に構わないと言った。ソロモンが迷惑をかける側なのだから、こういうリアクションをされるのは寧ろ当然だと思った。そもそも、王であった頃にはもっと凄い視線を向けられた事があるので、その程度は気にするまでもない。

 

「ねぇ、ティア。ちょっと落ち着いてよ~」

 

「良い?馬鹿スバル。休みの日に一緒に出掛けるのは良いわ。丁度私も買いたい物があったしね。でもね、私を置いてけぼりにした挙句に見知らぬ人と一緒に行動する事になった、なんて急に言われた私の身にもなりなさい。事態が急展開過ぎて意味が分からなかったわよ……さっきは不躾な視線を向けてごめんなさい」

 

「いやいや、お気になさらず。こちらがそちらの好意に甘えている身の上である以上、寧ろ先ほどの対応は自然であると言うべきだろう。そうやって謝る事ができるだけ、あなたは素晴らしい人間だ。世の中にはもっと酷い視線を向けた挙句、こちらを侮辱してくる人間もいるからな」

 

「……あんまりそういう人とは比較されたくないんだけど」

 

「これまた失礼。ともかく、気にする事はないという事さ。この話はここまでにしよう。これ以上謝り合いをしていても、不毛という物だからな」

 

「……そうね。申し遅れたけど、私はティアナ・ランスター。それで、こっちの青い馬鹿がスバル・ナカジマって言うの。よろしくね」

 

「これは親切にどうも。俺は……ソーン。ソーン・アレクシスだ。よろしく頼むよ、ランスター嬢。ナカジマ嬢」

 

「ティアナで良いわよ。名字で呼ばれるのは慣れてないからね」

 

「私もスバルで良いよ!」

 

「そうか。では、ティアナにスバル。よろしく」

 

 ソロモン――――ソーンは二人の先導の元、アイス屋に案内された。ソロモンが思っていた以上の種類に味があり、目新しい物が多かった。昔の氷菓子は氷を雪のように砕き、その上に果物のソースをかけるのが最大の贅沢とも言えた。しかし、目の前にある物はそれよりもよほど贅沢な代物に見え、ソロモンは目に見えて興奮していた。いくら世界を見渡す千里眼を持っているとはいえ、食べ物の味は分からないのだから。

 

「ティアナ、これはどれがオススメなんだ?」

 

「そうねぇ……最初なんだし、バニラで良いんじゃない?と言っても、その様子じゃどれがどういう味かも分からないでしょうし、好きにすれば良いんじゃないかしら?冒険するもしないもソーンの自由だからね」

 

「そうか……じゃあ、ティアナがオススメするバニラとやらを戴くとしよう。そうだ。折角だし、ここは俺が奢ろう。せめてものお礼、という奴だ」

 

「え?良いわよ、そんな事しなくても。自分の分くらい自分で払うわよ」

 

「いや、ここはお礼として受け取っておいてくれ。ほんの細やかな男のプライドだから、気にしないでくれ」

 

「……そこまで言われちゃ、これ以上文句を言う訳にはいかないわね」

 

 ティアナは大人しくソーンの言う事に従った。そこでソーンは首を傾げた。先ほどからスバルが一言も喋っていないからだ。確かに、ティアナにしか喋っていなかったがまったくリアクションがなかったのでどうしたのかと思っていると、既に注文して商品を待っているようだった。早いな、と思っていると次々と載せられていくアイスに開いた口が塞がらなかった。

 それだけのアイスを注文したスバルもそうだが、そのアイスを積み重ねていく定員の技量に驚いていた。何をどうやったら10段以上のアイスを積む事が出来るのか、ソーンには分からない。ソーンでは積めたとしても精々2~3段、出来たとしても5段くらいが限界だろう。そもそも、10段も積んだらむしろ食べにくいのではないか、とすら思っていた。

 結局、ソーンはスバルの分も合わせて金を払った。10段以上積む技量はそれだけの金を払うに値すると判断したからだ。味云々ではなく、技量が素晴らしいと思っていた。アイスを食べた際に今まで食べた事のない衝撃に、ソーンは大変満足していた。少なくとも、この時代に蘇ってから一番感動した事だろう。

 

「良い時間を堪能させてもらった。さて、この後はどうした物かな」

 

「私たちは買い物に行くけど、もし暇だったらソーンもどう?ミッドチルダに来たばっかりだったなら、いろんな物を見れた方が良いんじゃない?」

 

「ふむ……俺が一緒に行っても良いのか?親しい二人だけでした方が捗るんじゃないのか?」

 

「あのね、こういうのは買う事だけが目的じゃないの。誰かと一緒にワイワイと騒げるから良いんでしょうが。欲しい物があってそれを買うだけなら、こんな馬鹿連れずに一人で行ってるわよ。そうじゃないから、意味があるんでしょ?」

 

「ふふん、こう言って毎回一緒に出掛けてくれるんだからティアって優しいよね」

 

「はぁ?そんなつもりは全然ないっての。そもそもソーンはあんたが誘ったんだから、あんたも馬鹿みたいにアイス食べてないで喋りなさいよ。っていうか、いつも思ってるけど、どうしてそんだけアイス食べて頭が痛くならない訳?おかしくない?」

 

「う~ん、そんな事言われてもなぁ……どうかしたの?ソーン」

 

「いや、気にしないでくれ。俺の周りはとある事情でこんな感じで騒いでくれる奴がいなくてな。昔はそれなりにいたんだが、今ではほぼいないと言っても良い。だから、懐かしいと思っていただけだよ。そちらが良ければ買い物には付き合おう。まぁ、女性の買い物に付き合った事はないから、無作法になるかもしれんがその辺りは勘弁してくれ」

 

「えぇ、荷物持ちとしてこき使ってくれるから、覚悟しときなさいよ」

 

「おや、怖い怖い。お手柔らかに頼むよ。何分、女性に振り回される事など早々なかったからな。体力が追い付く範囲で頼むよ」

 

 ソーンがそうして喋りながら、視線をとある建物に向けた。そこには二人の男女がソーンを見ていた。ソロモンが行方不明になり、総員でソロモンを探す事になった中で偶々ソロモンを見つける事に成功した天剣保持者のNo.6ネムルス・M・アクトヴァーンとNo.9マジェス・G・ガルムシアだった。大慌てで姿を隠していたが、バレている事を二人は理解していた。

 

「ヤバいって……アレ絶対気付いてるよ。陛下、さっきこっちの事絶対に見てたって」

 

「バレてたってしょうがないでしょ。私たちは陛下の剣であり盾なんだから、護衛をしないといけないでしょ。ここで護衛を止めたら、後で女帝どもとネフティスになんて言われるか分かったもんじゃないんだから」

 

「そりゃ、そうだけどさぁ……何でこんな遠距離で護衛しないといけないんだよ。もっと距離を縮めても良いんじゃないのか?」

 

「さっきも言ったでしょうが。陛下が折角一人で散歩をしたいって言ってるんだから、それを邪魔する訳にはいかないでしょ?なんでこんな事も分からない訳?」

 

「いや、監視されているのがバレている時点で同じじゃないか?寧ろチラチラと見られている方が陛下も落ち着かないだろ。というか、バレた理由ってお前のソレじゃねぇの?」

 

 そう言いながらマジェスはネムルスの手元にある望遠カメラに目を向けた。さっきから双眼鏡でソロモンを見ながら嬌声を挙げつつ、写真をパシャパシャと取っていた。正直、傍に居たマジェスは辟易としていた。ソロモンに二人の事がバレた理由もそれだと信じて疑わない程度には、マジェスは引いていた。

 

「何言ってるのよ!我らが王たるソロモン陛下を写真に収めない、なんてそっちの方がありえないでしょうが!今残っている写真なんて百年以上前の代物なんだから、今のうちに取っておくのは当然でしょうが!あんたの方こそ、何で撮ってないのよ!御神体その物でしょうが!」

 

「えぇ~……なんで俺が怒られてるんだよ。また後で陛下に頼んで写真撮ってもらえばいいじゃん。陛下なら頼めば応えてくださるって」

 

「馬鹿言わないで!そんなの……そんなの……私が幸せ過ぎて死んじゃうでしょうが!」

 

「……どんだけだよ」

 

 マジェスは相方の狂いっぷりに完全にドン引きしていた。その後、ネムルスがまともな状態に戻るには数分を要し、その間にソロモンは姿を消していた。そしてまた荒れた二人の事を、ティアナたちの買い物に付き合いつつ千里眼で眺めていた。ある程度眺めた後、昔とはまったく違う服装の量に驚きつつも素材の悪さに眉をひそめていた。

 工業製品である衣類を身に着けた事がないソーンは、大量生産品はどうも肌に合わなかった。王であったという事は関係なく、昔は衣類という物は基本的に手作業によって縫われていた。大量生産はどうしても手作業に劣ってしまう以上、それに慣れきっていたソーンには何となく嫌だった。

 

「……結局、何も買わなかったのね」

 

「俺は欲しい物があった訳じゃないからな。別に構わないよ」

 

「まぁ、あんたがそれで良いなら別に構わないけどね。それで、あんたはどうするの?私たちはそろそろ帰ろうと思ってるんだけど」

 

「それなら俺もぼちぼち戻るとしよう。面倒な奴らも多いからな。まったく……散歩なんだから放っておけば良いというのに」

 

「……なんだかよく分からないけど、あんたも大変なのね」

 

「生きている以上、大変な事など山のようにあるさ。その程度で腐っていては何もしようがないという物だろう。気を落とさずにいる事だ」

 

「ねぇ、ソーン君!」

 

「うん?なにかな、スバル。やり忘れた事でもあったか?」

 

「この出会いも機会だと思うし、アドレス交換しておかない?確か、端末持ってたよね」

 

「俺は別に構わないが……良いのか?」

 

「別に良いんじゃない?また機会があったら一緒に遊べば良いじゃない。どうせこういう機会でもないと、対等に相手してくれる人がいないんでしょ?」

 

「……そうか。なら、そうさせて貰おう。これが俺の端末のアドレスだから、登録しておいてくれ」

 

「ありがとう。私たちの奴はまた後で送らせてもらうね」

 

「ああ。それじゃあ、またいつか」

 

 ソーンはティアナとスバルと別れ、少し歩いた辺りで路地裏に入っていった。少し歩いて誰もいない広場に出ると、天剣保持者たちが膝をついて頭を垂れていた。ソロモンは苦々しそうな表情を浮かべて天剣保持者たちを見下ろしていた。その感情を感知した天剣保持者たちは怯えていたが、唯一トップであるクリア・M・ネフティスだけは堂々としていた。

 

「貴様らは俺の細やかな休日を邪魔するのが生き甲斐なのか?俺が談笑しているところにパシャパシャと……鬱陶しいにも程がある。そもそも、俺に護衛など必要ではない事は貴様らもよく分かっていよう」

 

「申し訳ございません。ネムルスとマジェスには後できつく言っておきますので、どうかご容赦ください。しかしながら、陛下。御身を守る事は我々にとって必要かどうかではなく、最早義務と言っても相違ないのです。たとえ御身が王ならざる存在になったとしても、その事実は変わりようがないのです」

 

「よく語るな、メタトロン。ミカエルにガブリエルにしても、俺を不快にさせるな。次に彼女らと会う時……この地を訪れる時、俺を不快にさせる事があれば貴様らの首はなくなる物と思え」

 

「……恐れながら、申し上げてもよろしいでしょうか」

 

「なんだ」

 

「あの少女たちは御身とは到底格の合わぬ存在。これ以上逢われることはオススメできません。どうかご再考を」

 

「お前が俺の行動に口を出すとは、偉くなったものだな」

 

「御身の事を考えておりますが故の行動、どうかご容赦ください。しかしながら、陛下。陛下は我らにとっての旗頭――――絶対の王であります。あのような小娘とはそもそも同じ土俵に立っておられません。どうか、御身のお立場をご理解ください」

 

「それ故だよ、メタトロン」

 

「と、申されますと?」

 

「あの者らは俺に屈する事をしなかった。知らぬ事とはいえ、下手に出る事はなかった。あくまでも対等であらんとした。そのような者、皆目見た事がない。そういう存在は貴重なのだ。分かるか、メタトロン?」

 

「……私如きに理解できるほど、御身は矮小な存在ではございません。しかしながら、対等たる存在をこそ王は欲されているという事でしょうか?」

 

「欲している訳ではない。だが、そういう存在はいる事自体が貴重だ、という話だ。護衛の件は各々で話しておけ。出る際には一人だけ直衛に着けてやるから、その時に決めておけ」

 

『はっ!了解いたしました!』

 

 ソロモンはため息交じりに腕を振り、魔法陣を展開した。その魔法陣が輝き始めると、ソロモンと天剣保持者たちはその場から姿を消したのだった。

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