2018/05/29 投稿
国内でもトップの実績を誇るヒーロー育成高校の実習はいつだって実践的だ。
オールマイトによるヒーロー基礎学。その初授業はヒーローチームとヴィランチームに分かれて行う2対2の戦闘訓練であった。
くじ引きでランダムにチームが決められ、またランダムに対戦相手が決められた。
事件現場に赴けば、よく知らないヒーローと急場のチームを組む必要がある現代のヒーローの実情に合わせた訓練だが、その結果は焦凍にとってはあまりうれしくないものとなった。
ようは、敵味方にチームが分かれてしまったのである。
「まぁ! 緑谷さんのコスチュームはメイド服なんですのね。私の家のメイドさんたちと見た目はあまり変わりませんね」
「一応、素材は防刃加工されたものになっているので、耐久性は十分ありますし、服のあちこちに暗器が仕込めるようになってます。
……それにしても、八百万さんの家にもメイドがいるんですね」
八百万お嬢様とお呼びした方がいいですか?
もう、からかわないでください。
と、仲良さそうに話をしている緑谷・八百万チームをうらやましそうに見る焦凍。
出久とチームを組んでいる八百万がうらやましいというだけではない。チームの相性がよさそうなところがうらやましい。
生粋のお嬢様である八百万と、根っからの職業メイドである出久の相性は悪いわけがないのだから。
ついでに言えば、八百万は焦凍と同じ推薦入学者なので、実力も十分すぎる。
そんなベストマッチな二人に対して、自分のパートナーの不遇を呪わざるを得ない焦凍。
ちらりと相棒を横目で見る。
「あ? 何見てんだコラ! 俺の邪魔したらぶち殺すぞ」
「ハァ……先行き不安だ」
ヒーロー候補らしからぬチンピラじみた物言いの相方。
二人で協力するということなどできそうになかった。
今回、厳正なくじ引きの結果、轟・爆豪チームがヒーローチームとして、緑谷・八百万チームがヴィランチームとして参加するのだが、正直言ってヴィジュアルと役割が正反対な気がしてならない。
『見た目は完全にこちらが悪役だな。主に
と、内心で自身のパートナーに毒づく焦凍。
だいたいからして、爆豪の事は気に食わないのだからその気持ちは余計に強くなる。
というのも、つい先日の入学した日に行われた個性把握テストに起きたことが原因だ。
『緑谷……出久? 出久……てめえ、デクか!? なんでここにいンだよ、てめえが!』
『その呼び方……まさか、かっちゃん!?』
個性把握テストの中で、お互いが知り合いだと分かったらしい出久と爆豪。
話を聞けば幼いころに一緒に遊んでいたという、いわゆる幼馴染の関係だった。
4歳のころに出久がイギリスに渡って以来、会っていなかったそうだ。
そこまでは別に焦凍も気にしない。出久の過去の友人が出てきたからといって、自分の存在も出久にとって大きいものだと思っているからだ。
きっと、それなりに。たぶん……そのはずだ!
そんなことよりも、焦凍が気に食わないのは爆豪の出久に対する態度。
『なにもできねえ“無個性”のデクがどうやって雄英のヒーロー科に!』
『ああ? “無個性”の木偶の坊だから、“デク”だ。間違ってねえだろ?』
とことん出久の事を見下した発言をする爆豪に、イライラが止まらなかった。
何度、燃やそうと思ったことか。
何度、氷漬けにしてやろうと思ったことか!
結局その日は相澤先生が爆豪の暴言ににらみを利かせたことと、出久本人が軽くあしらっていたので何もしなかった。
だが、確実に焦凍の中で爆豪は気に入らないヤツトップ3に入った。ちなみに、父親のエンデヴァーはランキングに入っていない。殿堂入りである。
そんな不安と不満を抱えた状態で、初の戦闘訓練は始まろうとしていた。
「八百万さん、作ってほしいものが……」
一方、円滑なコミュニケーションをとって良好な関係を築いた出久と八百万。
お互いに勝利のために協力をしていた。
出久の要望に応えて道具を作り出していく八百万。
それらを装備した出久は、婦長より教わった心を戦闘モードに入れ替えるための聖句を口にする。
「サンタマリアの名に誓い……すべての不義に鉄槌を!」
「なあ、出久のことは俺はよく知っているから情報を共有しておきてえんだが――――」
「うるせえ! デクが何してこようが大したことなんかできるわけねえだろ! どうだろうがブッ殺す!」
「おまえ、また……」
自宅での訓練でさんざん出久に苦しめられた経験を持っている焦凍がせめて情報共有だけでもと思って声をかけた結果がこれだ。
会話すらしようともしない態度に頭に血が上りそうになるが、冷静を心掛ける焦凍。
何せ、カッとなった頭で相対しては出久の格好の餌食にされてしまうのだと理解していたのだから。
『仕方ねえ。爆豪が建物に入る前にさっさと凍結の先制攻撃をしちまおう』
足並みが揃わないなら先んじて動くことで何とかしよう。
そう考えた焦凍だったが、それは行動に移すことはできなかった。
なぜなら、相手の出久も同じことを考えていたからだ。
「ッ!? おい!!」
「あ? なんだって――」
「伏せろ!」
顔に差した影に気が付き、見上げた瞬間に危険を察知して爆豪に警告する焦凍。
と、同時に右の氷結で壁を作って盾にする。
壁が作られたのに少し遅れて銃声が響き渡った。
「チィッ! 余計なことすんな、殺すぞ!」
「そんなこと言っている場合か!? 奇襲されてるんだぞ!」
銃弾から身を隠しながら言い争う二人。
絶え間なく打ち出される弾丸にどう対処するか考えていると、ドンという近くに何かが落下してきた重い音がした。
半身になって覗き見てみれば、そこには出久の姿が!?
「マジかよ……」
「あのクソ女、どっから降りてきやがった!?」
出久が立っている地面のコンクリは陥没したようにひび割れており、降りてきた、いや、落ちてきたその勢いが見て取れた。
おそらく屋上から飛び降りてきたと思われる出久は、何事もなかったかのようにピンピンとした様子で手にした拳銃にマガジンをリロードしていた。
あまりにも人外な身体能力にしばし呆然とするも、即座に攻撃に移る爆豪。
彼の性格上、やられっぱなしというのはありえない。
「死ねぇぇぇ!」
「野蛮ですね」
爆風を利用して飛び出す爆豪。だが、その攻撃はあっさりと躱され、逆に地面に叩きつけられることとなる。
「グハッ!」
「それでは、ごきげんよう……」
「危ねえ、爆豪!」
仰向けに倒れた爆豪の額に銃を突きつける出久。
それを阻止するために左の炎を使うがノールックで回避されてしまう。
近接戦闘では分が悪いことを改めて認識させられる結果だった。
「おい、爆豪。四の五の言ってられねえ、二人掛かりでやるぞ」
「うっせえ! 俺に指図すんじゃねえ!」
一人ではどうにもならないと、声をかける焦凍。
プライドの高い爆豪はそれを拒否してワンマンプレイを続行しようとする。
これでは駄目か。
そう思った焦凍だったが、出久は予想外にその焦凍の考えに対して行動を示す。
「2対1ですか…………あまりよくないですね。ここは失礼させて頂きます」
スカートの裾をつまんで持ち上げ頭を下げるカーテシーと呼ばれるお辞儀をする出久。
そのスカートから転がり落ちてきたのは筒状の何か。
地面を二、三度跳ねたソレは、軽い爆発音とともに閃光をまき散らす。閃光弾だ!
「チィイ! どこに行きやがった!」
「こちらですよ」
「なっ、いつの間に!?」
視界が戻った後に出久の姿を探せば、建物の二階の窓から顔をのぞかせている。
こちらを誘うように手招きをする、明らかな挑発行為。
それに乗せられたのは爆豪だ。
「あのクソデクがァ……舐めてくれるじゃねえか、あアン!」
「おい、待て!」
焦凍の制止も聞かず、爆破の空中移動で二階に乗り込んでいく爆豪。
味方が建物に入ってしまったため、建物ごと氷結するという大規模攻撃が使えなくなってしまった。
勝手なことをするパートナーに舌打ちをしたくなるが、そんなことをしている場合ではないと慌てて後を追うのだった。
爆豪を追って建物に侵入した焦凍。
周囲を警戒しながら進むその道行きは静かなものだった。いや、静かすぎた。
「おかしい。どうも静かすぎる」
自分の建物への侵入は向こうも分っているはずなのに、何の反応もないことが不気味に感じる。
爆豪が暴れていてそちらに気を取られているというのなら分からなくもないが、それにしては戦闘音がまったく聞こえない。
嵐の前の静けさか。
そんな嫌な予感を感じていると、ひょっこりと曲がり角から爆豪が顔を見せた。
「あ? なんだ、てめえかよ」
「おまえ、無事だったのか」
「俺がやられるわけねえだろ! 舐めてんのか!」
こちらの心配などお構いなしの爆豪。その反応にまたため息を吐きたくなる。
だが、そんなことよりも気になるのは出久の事だ。
「なぁ、出久はどうした?」
「ハッ! ぶっ飛ばしてやったわ! 俺がクソデクに負けるわけねえだろ」
「……出久が?」
爆豪の返事に眉をひそめる焦凍。
あの出久が負けるとは信じられない……
不信感はぬぐえないが、かといってここで話しているわけにもいかない。時間は有限だ。
一旦、話を打ち切って歩き出す。
「まあいい。とにかく核の場所を見つけねえと」
「そおかよ。勝手にしろ」
爆豪の先を歩き始める焦凍。しかし、次の瞬間、振り返って左の炎を爆豪に向けて放っていた。
「てめえ、何のつもりだ!」
炎をからくも躱し、焦凍を睨みつける爆豪。
対して焦凍はその姿を冷静に見定めていた。
「いい加減、小芝居はやめたらどうだ……出久」
「あァン?」
焦凍の言葉にピクリと反応する爆豪。
数舜の間の後に、目の前の爆豪は小さく笑い声をあげる。
――――出久の声で!
「フフッ、さすがですね焦凍さん。どうしてお分かりに?」
「あいつにしては素直すぎたからな」
爆豪に化けていた出久の質問に答えるように、焦凍が理由を説明していく。
そもそも、出久がそう簡単にやられるとは思っておらず、最初から疑ってかかっていたこと。
また、ほんの短い付き合いだが、彼の性格上からして自分が先行して歩くことを黙ってみていたことに違和感を感じたこと。
そして、なにより……
「俺が背を向けた瞬間の気当たり覚えがあったからな」
「勝負を急いで欲がでましたか……まだまだ未熟ですね」
背中を見せた絶好の機会に敵意を見せてしまったと反省する出久だが、相手が出久のことをよく知っている焦凍でなければ成功していただろう。
顔に手を当てて仮面のようなものを取って素顔をさらす出久。
爆豪のコスチューム姿の出久に複雑なものを感じる焦凍だったが、そんなことを言っている場合ではない。
狭い室内。
格闘戦の間合い。
焦凍にとって苦手な、逆に出久にとって得意なバトルフィールドだ。
相手の得意な環境で対峙する場合、どうするべきだろうか?
焦凍の出した答えはシンプルなものだった。
「出久、悪いがおまえとまともにやりあうつもりはねえ!」
一瞬で氷壁を作り、道を閉ざす。
焦凍の勝利条件は出久を倒すことではない。
ならば無理に相手をするよりも、もう一人の八百万を相手にして核を狙った方がよい。
そう合理的に判断して背を向けて走り出す。こうして出久が迂回している間に核を見つけなければいけない。
だが……
「そんな、馬鹿な!?」
「お待ちしておりました。焦凍さん」
階を上がりしばらく進むと、道に出久が立ちふさがっていた。
出久のスピードがいくら早いとはいえ、こうしてすぐに見つかるのはありえない。
まるで自分の位置を把握して移動先を予測されたような……
混乱している焦凍に対し、いつものメイド姿とは違った、レオタードに似た黒色のコスチュームを身にまとった出久が太もものホルダーからクナイを抜き放って構える。
すでに臨戦態勢。
その姿はまさに『くのいち』のようであった。
まぁ、ある意味間違っていないのだが。
なにせ出久は、軍人的な訓練を受けて、かつ古武術や中国拳法を修めつつ、忍術的なナニカを学んだハイスペックメイドなのだから!
……これ、もはやメイドなのだろうか?
そんなスーパーメイド(?)の出久がただ先に場所に着いて単に待ち伏せしているだけで終わるだろうか?
そんなはずはない。
罠はもう仕掛けられている。
「これで終わりです。焦凍さん」
手にしたクナイを投擲し、何かに当てた。と、同時に罠が起動する。
「こ、これは!?」
驚く焦凍。
隠されていたクナイがあちこちから飛び出し、焦凍の周りを360度ぐるりと囲むように刃先を向けて宙を浮いていた。
まるで超能力のようだが、よく目をこらせば細いワイヤーがつながっており、出久の手元につながっている。
「詰みです。僕が手を少し動かせば串刺しになります。降伏を」
「……降参だ」
出久からの降伏勧告に素直に答える焦凍。
ヒーローチームの完全な敗北だった。
「さて、今回の総評だが……ヴィランチームの作戦勝ちだったね!」
HAHAHA! と、笑いながら告げるオールマイト。
その言葉に焦凍も爆豪も顔をしかめることしかできなかった。
なにせ事実いいようにされてしまっていたのだからして。
「今回少女たちの良かったところはまさにチームワークだ。防衛側であるという観点に捉われずに外に出て奇襲を仕掛けてきたことも誉めたいが、なによりもその役割分担がGOODだ!」
オールマイトが手放しでほめるのは二人のチームワーク。
防衛側であることを活かして、八百万が小型カメラを複数作り、出久が短時間で設置。
建物内の状況を随時把握できる環境を作り上げたのだ。
こうして出久が現場での戦闘を担当し、八百万が万が一の核の防衛をしながらモニター越しに通信で指示を出しながら戦うという盤石な体制を作り上げたのだ。
これが、出久が焦凍を待ち伏せできたからくりである。
出久の動きばかり目立っていたが、必要なものを作り出して用意できるその個性と、移り変わる状況を把握し、敵の動きから行動を予測して味方に指示を出す頭脳など、八百万が果たした役割は大きいのだ。
推薦入学者は伊達ではないということである。
これだけチームワークの良い相手が準備万端で待ち受けており、さらに情報戦でも負けていた。そりゃあ勝てない。
ついでに言えば、お嬢様とメイドという相性も抜群。
もう、焦凍が嫉妬するくらいにね。
「もしや、一番のライバルは八百万なのか?」
戦闘訓練で負けたことよりもそっちが気になる
オマケ『爆豪の敗北シーン』
爆豪は怒り狂っていた。
幼いころの、記憶からも抜け落ちていたような無個性のザコが10年越しにしゃしゃり出てきて、自分と同じ場に立っているのだ。
逃げ出して、いなくなったと思っていた格下が、今、まさにこうして自分の目の前に立ちはだかり、あまつさえ挑発すらしている。
プライドの高い爆豪は許せるはずもなかった。
「待てや、クソデク!!」
怒りに任せ、飛び込んだ二階の窓。
ピカピカの床に降り立った爆豪は――――
「ガッ!?」
見事にツルッ、と転んでしまっていた。
後頭部をぶつけ、悶える。
「地面が濡れております。足元にご注意くださいね?」
笑顔で告げる出久の手にはモップが握られており、床をテラテラしたよく滑る液体で拭いた跡があった。
こんな子供だまし的な罠に嵌められて屈辱に顔を歪ませる爆豪。
すぐさま怒声を上げて飛び掛かるが……
「ムギャッ!」
「うわあ、痛そう」
見えない壁に顔面からぶつかり、猫が踏みつぶされたような声を上げて崩れ落ちる。
出久が八百万に頼んで作ってもらった透明度の高い強化ガラスの板だった。
ダメ押しとばかりに天井から金ダライが頭に向けて落ちてきた。
……いい音が響く。
お茶の間……違った、モニターの向こうのクラスメイト達もドリフ的な展開に爆笑である。(オールマイトは教師という立場上必死に耐えた)
こんな感じで隙をさらした爆豪は呆気なく確保テープを巻かれ、御用となった。
もはやギャグである。
「俺は芸人じゃねえぞ! フザけんな!」
なお、この映像を後から見た相澤先生を噴き出させるという快挙を達成したとだけ伝えておく。
約束された哀しきかっちゃん……
どうして君はこんなにかませ犬が似合うんだ!?
ちなみに没案では、簀巻きにされた挙句、出久の変装のためにコスチュームをはぎ取られてパンイチにされるというのを考えていました。
が、同級生男子の衣服をはぎ取るメイドさんはいろいろとアウトでしょう!
しばらくメイドはいーや。次はオンラインあたりかな?
あと、Twitter始てみました。執筆の進捗だとか投稿の予告とかする予定です。
いまいち使い方がわかってないですが、良かったらどうぞ。
@shittaka_tofu