今回の話はテロリズムでできている!
2018/02/12 投稿
VRの世界は現実をデータにして再現したものだ。
物をつかむ、飛び跳ねる、走る。
そういった人の動作だけでなく、地面を踏みしめた感覚や暑さ、寒さ、光の濃淡、影の付き方までデータとして設定されていなければ存在しない。
設定しなければならない項目は多岐にわたり、結果的にゲームに関係ない部分は後回しにされてきた。
ゲームリリース後はアップデートを重ねて拡張を重ねてきたのだが、今回のアップデートで新規の感覚エンジンが“ヒロオン”に追加された。
それは、戦闘とはおおよそ関係のない、『味覚エンジン』である。
テーブルの中央にホットプレートが鎮座し、平皿と小皿が重なっている。
端のほうには醤油や酢といった調味料が並んでおり、予備の箸まで用意してあった。
そして、生の餃子が並ぶ四角のトレイが多く用意されていて、まさにこれから餃子を焼く準備が整っていた。
そんなまさしく「これから餃子パーティです」と言わんばかりのこの場において、オールマイトは困惑していた。
「おい、オール・フォー・ワン! 呼び出されて来てみたらこれはいったい何だ!」
「何って、餃子パーティだよ? あと、ネットでリアルネームは禁止だ。ここはアバター名の『モリアーティ』と呼んでくれたまえ」
声を荒げてみたが、こともなげに返されて逆に困惑するしかないオールマイト。
“ヒロオン”にログインしてみると、AFOからメッセージが届いており、指定の場所までやって来てみればこれである。
餃子を焼く準備をしているのは見れば分かるわけで、言いたいことはそうじゃない。
というか、AFOはリアルネームなのか? というか、本名知らないんだが?
だいたい、アバター名が『モリアーティ』って、隠す気ゼロじゃないか!? 裏社会の帝王といえば確かにあってるかもしれないが……
ツッコミどころが多すぎて頭が痛い。
「せっかく味覚が実装されたんだから楽しまなきゃ損だろう?」
「それはそうだが、私でなくてもいいのではないか? むしろ、何で呼んだ!?」
私はおまえの友達じゃないんだが? むしろ、仇敵だろ!? と、言うもののモリアーティはのんびりした様子で。
「つれないことを言うものじゃないよ。なあに、この間はグラントリノと塚内警部と一緒に食事をした後さ。友達の友達くらいの関係と思えば悪くないだろう?」
「何をやってるんだ、師匠と親友ゥゥゥ!!」
oh,my god!
身内が敵のボスと仲良くしている件について!
ちなみに、二人は『たい焼き爺さん』『トゥルーマン』の名前でログインしている。
「呼ばれたのが一番ではなくて残念だったね、オールマイト」
「いや、そこを気にしてるわけじゃなくてだな……」
もう、深く考えたら負けな気がしてきたオールマイト。
自分だけ真面目にやっててバカらしくなってきたのだった。
「で、私を食事に誘った理由は何なのだ?」
「んー、理由がなくちゃだめなのかい? と、言いたいところだが、フッフッフッ、いいだろう、教えてあげようじゃないか」
ガバッと大仰な仕草で両手を広げるモリアーティに、オールマイトが身構える。
罠か!? と、思った次の瞬間に表示されたのは相手のスキルの一覧だった。
「料理:Lv.10」
「調味料作成:Lv.10」
「食材管理:Lv.10」
「火加減:Lv.10」
「包丁
「和食:Lv.10」
「中華:Lv.10」
「フレンチ:Lv.10」
「イタリアン:Lv.10」
「ファストフードの心得:Lv.10」
「パティシエ:Lv.10」
「
・
・
・
見事にカンストされた料理系のスキルが並んでいた。
「中途半端なスキルでは君を感服させることはできない。確実に君に『うまい』と言わせるために今の僕のかけ合わせられる最高・最適のスキルたちで……君の食欲を満たす!」
「……貴様は何を言っているんだ!?」
仇敵の本気のおもてなし感にツッコむ。
いや、本当に何をおっしゃってるのでしょう?
「なあに、料理系のスキルも解放されたからやってみたら存外ハマってねぇ。こうしてかなりのスキルが上がったから自慢してやろうと思ったわけさ」
「自慢かーい!! そんな理由で!?」
「フッ、そういってられるのも今のうちさ。この食事が終わった後には君は泣いて次の食事のセッティングを頼むことになるのさ」
「……フン! そこまで言うなら見せてもらおうか!」
ここまで言われたのなら引き下がれないオールマイト。
ドシリと席に着いて、料理を待つことにした。たかが、餃子程度。そうハマるものでもないはずだ。
そう、オールマイトはタカをくくっていた。
だが、モリアーティには確信があった。
「オールマイトはこのVR世界での美食という毒に捕まる」と。
これは予想だけでなく、本人の実体験も含めての確信だ。
というのも、二人のリアルの身体の状態を思い返してほしい。
AFOは5年前のオールマイトとの決戦で瀕死の重傷を負い、身体に重大な障害が出てしまっている。
オールマイトも同様で、5年前の戦いの後に呼吸器官半壊、胃袋全摘という大手術を受けている。
当然、いままで通りの食事ができるはずもない。
つまり、リアルでの食事の楽しみが極端に減ってしまっているわけだ。
そこに来て、VR世界で味覚が実装され、健常だったころとほぼ変わらぬ楽しみが戻って来たわけである。
これでハマらないはずがなかろうか? いや、ハマるに決まっている(反語)
というわけで、磨きぬいた料理スキルでオールマイトの胃袋を責めることにしたのである。
……うん、説明してみたがどうしてこうなったのかよく分からない。
「さて、スタンダードな焼き餃子から……と、したいところなんだが、やっぱり焼きたてのほうがおいしいからねぇ。これから焼き始めるからしばらく待っていてくれ」
「料理が冷めるところまで再現されているのか……すごいな」
「うん。開発者のこだわりを感じるねぇ……さてと、蓋をしてしばらく蒸し焼きだ」
油をしいて餃子を並べ、熱湯を注いで蓋をして強火で蒸し焼きにする。
このとき水ではなくお湯なのは鉄板の温度を下げないようにする工夫である。温度が下がると皮がベチャッとしておいしくなくなるのだ。
「焼きあがるまでにさっき作っておいたこれでも食べておいてくれ」
「これは……スープ?」
「水餃子というやつさ。本場の中国じゃ水餃子や蒸餃子のほうが一般的らしい」
スープカップによそわれた白みがかった水餃子。
促されるまま蓮華でよそって一口。
皮が厚めに作ってあるからかもちもちした触感があってなかなか食べごたえがあり、かみしめるたびにスープと肉汁が混ざり合って何とも言えないおいしさだ。
「あ~、なんでこういう汁物を飲むとホッと息をつきたくなるのだろう……」
「味に飽きたら胡椒をかけて、変化を入れるとまた楽しめるよ」
ふむ、と、頷いて一振りかけて味わってみれば、また胡椒の味がアクセントになって先ほどとはまた少し変わった味を楽しめた。
オールマイトは少し焦りを感じる。
まだ一品目である。これから出される本命にはたして自分は耐えられるだろうか?
「そうこうしているうちに蒸し焼きは終わりだね。中火にしてごま油を垂らして焦げ目がつくまで焼けば完成だ」
「羽根つきではないんだな」
「えー、あれ、必要かい? あんなの飾りなだけで不要だよ。不要」
「なにおう! あったほうがおいしそうだろう!」
やはりこいつとは分かり合えないのでは?
そんな些細なことで怒りを募らせているオールマイトだが、すぐに出された料理に興味が移る。
「まぁ、そこは好みだからなぁ。ああ、待つ間これでも食べていてくれたまえ」
「揚げ餃子か。中華街で食べた記憶があるな」
ドン、と皿に山盛りの揚げ餃子。
キツネ色にほどよく揚げられていて食欲を誘う。
そのまま一口。
カリッという音と共に肉汁が口の中に飛び出してやけどしそうに感じるも、そこはVR世界だ。舌のやけどなんていうバッドステータスは無いので気にせず咀嚼する。
カリカリの皮がスナック感覚で食べられて箸が進む。
一つ二つと食べたところで、モリアーティが小皿を二つ差し出してきた。
「そのまま食べるのもいいが、餃子はやはりつけだれも楽しまないとね」
「酢醤油に何か入っているが?」
「片方はゆず胡椒、もう片方はマスタードだ」
「何だって? そんなものもあるのか!?」
知らなかった食べ方に驚くオールマイト。
まずはゆず胡椒で食べてみる。
「む、ピリっと辛いが刺激があっておいしいな。良いアクセントだ」
「意外と合うだろう? 次はマスタードを試してみるといい。ゆず胡椒よりも辛みが弱くてマスタードの風味と酸味が揚げ餃子に合う」
「どれどれ……アンビリーバボー!」
意外なおいしさに身もだえする。
こんな食べ方があったとは。
揚げ餃子を楽しんでいるところだが、本命はこの後だ。
「さて、焼きあがったところでアツアツを召し上がれ。VR世界だ、やけどを気にせず食べるといい」
「言われずとも食べてやる!」
鉄板から一つまみ。
酢醤油にちょっとつけてパクリ。
肉汁と共にうま味が溢れだす。ニンニクが多めに入っているのか結構口の中に強烈な風味が広がるが、これもまたたまらない。
勢いのまま次の餃子をつまんで口の中へ。
その瞬間、目を見開いて驚くオールマイト。
「これは……エビ餃子か!?」
「その通り! 同じ具材じゃ面白くないだろう?」
オールマイトは失念していたのだ。
餃子とは、皮の中の具材は食べてみるまで中身はわからないのだ。
今食べたのはスタンダードな合いびき肉にエビ。
だが、変わり種があってもおかしくはない。
「き、貴様、どれだけの種類を用意したのだ!?」
「とうもろこしに、豆腐、カレー味やトマト風味。ああ、さっぱり食べれる大葉や梅干なんかもあるね」
「ぐうぅぅ、楽しみすぎるじゃないか! どうしてくれる!!」
おもわず本音がこぼれるオールマイトにモリアーティは笑みを浮かべ、
「甘いね、オールマイト。種類があるのは具材だけじゃあないんだ」
「何ィ!? ま、まさか?」
先ほどの揚げ餃子で使っていたつけだれの小皿に視線をやるオールマイト。
つけだれの種類、まだ増えるというのか!?
「からし酢醤油に千切り生姜を入れた生姜酢醤油。あとはマヨネーズと刻みねぎを入れたマヨポンつけだれ、マヨネーズとケチャップのオーロラソースだ」
「うおおお! こんなにも種類が!? きさま、貴様というやつは!」
「ハッハッハッ! 思う存分食べるがいい!」
高笑いするモリアーティには腹は立つが、それよりも腹が鳴って仕方がない。
VR世界では感じないはずの空腹感が存在しているように錯覚を覚えて箸が止まらなくなるオールマイト。
このあとめちゃくちゃおかわりした。
満足するまで暴食してからログアウトしたオールマイト。
VR機器を外してベッドから起き上がった彼が最初に感じたのはどうしようもない空腹感だった。
「そ、そんな!」
残念なことにVR世界でいくら食べようとも現実世界では腹は膨れない。
そして、リアルのオールマイトはVR世界のように制限なく食事がとれるわけではない。
これから食べるのは医者の監修によって制限された消化の良い食事だ。
正直……物足りなさを感じてしまう。
「おのれ、AFO! これが目的だったか」
ああ、これは確かに次の食事を頼みたくなる。
敗北感に膝をつくオールマイト。
どんなトップヒーローもおいしい食事には勝てないのだ。
まぁ、仕掛けたAFO本人も同じ苦しみを味わっているんだけどね。
なんという自爆(メシ)テロ!
オマケ
1.「ニー弔。極まれり」
夕食時。
食事の用意ができた黒霧は死柄木を呼びに部屋へ行く。
「弔。死柄木弔! 食事の時間ですよ。いい加減出てきなさい」
「うるさいなぁ……食事なら外で食べてきたから要らない」
目をこすりながらドアを開けた死柄木に黒霧は首を傾げる。
「外で食べてきたって、今日は一度も外出してないではないですか」
「けっこううまいドラゴン肉だったぜ」
「食べてきたって、ゲームの中ででしょう!? 死にますよ!?」
VR世界で食べた気になって、現実世界での食事をおろそかにしないようにしましょう!
食事はしっかり!
2.「必要経費、必要経費!」
ありがとやしたー、という掛け声を背に店を出る出久と茅場主任。
有名ラーメン店を堪能したあとだ。
「ふむ。雑誌で取り上げられるだけあって悪くはなかったな」
「ええ、おいしかったですけど。いいんですか? 会社のお金で」
会社のお金で食事をしていることに罪悪感を感じる出久が尋ねるが、茅場主任は気にした様子はない。
「なに。味覚エンジンの開発のための取材だよ。必要経費というやつさ」
「うーん、そう、なのかな?」
総務部長に怒られなきゃいいけど。
と、心配する出久。
結果は、まぁ、お察しです。
このメシテロはいかがでしたでしょうか?
これ、自爆テロなんだぜ?
夜中に執筆するもんじゃない(泣) ちょっと夜食食ってきます。