たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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1.『爆豪少年の焦燥』
2.『ヴィラン連合オフ会(黒霧マジ苦労人)』

以上の二本立てでお送りいたします。

2018/06/04 投稿


いずくオンライン 小ネタその3

『爆豪少年の焦燥』

 

 爆豪勝己は才能に恵まれている。

 “爆破”という恵まれた個性に、優れた身体能力、同世代よりも物覚えの早い知性。

 

 自分は他人とは違う。

 自分は特別。

 自分はスゴい。

 

 そうして凝り固まった自尊心を爆豪が持つのは当然だった。

 事実、今まではその自尊心を揺るがすような事はなく、爆豪の道を塞ぐものはなかった。

 

 爆豪が想定していた通りの人生計画。

 だが、それは皮肉にも念願の雄英高校に入学することで崩れることとなった。

 

 そこには自分よりも上の実力を持った人間がいたのだ。

 それも3人も。

 最初のヒーロー基礎学で行った戦闘訓練では、成すすべもなくビルごと凍らされ、せめてもの抵抗は風で封じられた。

 負けた後の講評では、自分では気が付かなかった点を指摘することができるクラスメイトがいた。

 個性の派手さ、規模で負けた。

 個性の制御、応用力で負けた。

 知識の深さ、考察力・洞察力で負けた。

 

 自分は他人とは違う。

 自分は特別。

 自分はスゴい。

 

 だが……それ以上に上がいたのだ。

 人生で初めて知る敗北の心理的衝撃は爆豪を打ちのめした。

 それでも、ヒーロー科として乗り越えてやるという向上心で立ち直る。

 同じヒーロー科。同じ土俵の上にいるのなら自分が上に立つだけの事なのだから。

 

 そう、同じ土俵ならば……

 爆豪を追い詰めているのは、自分とは違う立場、違う土俵にいる人間。

 幼馴染の、自分よりも格下だと見下しているはずの緑谷出久だ。

 

『雄英の特待生ったって、サポート科だろ? どうせ、脇役。俺様を盛り立てるモブの一人に過ぎねえ』

 

 中学生の頃の進路調査で担任が漏らしたことで知った、出久の特待生入学。

 その時は、自信をもって格下なのだと断言できたのだ。

 それが高校に入ってからはどうだ?

 自分たちのカリキュラムに参加してきて、ヒーロー科の先生からも特別扱いされている。

 担任のイレイザー・ヘッドだけじゃない。憧れのトップヒーロー、オールマイトからも認められている。

 

『“無個性”のザコのはずだろ!? 何もできない“デク”のはずだ! サポート科なんていう、俺を盛り上げるためのモブのはずだろーが!!』

 

 自分より下の身体能力。

 自分よりも下の学力。

 個性に至っては自分と比べるまでもない。

 なのに……

 

『なんで、あいつがオールマイトに認められてやがる! なんで、何故あいつが……ッ!?』

 

 自分より劣っているはずの出久が、自分よりも上にいるかもしれない。

 そんな考えに至った時、爆豪の心を占めたのは恐怖だった。

 圧倒的な格下で、底辺だった存在がいつの間にか自分よりも上の位置にいる。それも、自分が手を出せない分野で。

 凝り固まった自尊心を持つ爆豪には耐え難いことだった。

 どうにかして否定したいのに、出久と同じ“特待生”の3人に負けた事実が否定をさせてくれない。

 

 追い詰められた精神は、自然と攻撃的になるものだ。

 授業が終わったあと、出久に声をかけたのもそのため。

 

「おい、デクゥ……」

「な、なにかな? かっちゃん」

 

 声をかければ怯えたようにオドオドと返事をする出久がいる。

 その姿に爆豪は安堵と優越感を覚えた。

 

『やっぱり、こんなデクが俺より上のはずがねえ』

 

 それが何の根拠もない偽りのものであるにも関わらず、爆豪はそれに飛びついた。ついてしまった。

 

「放課後に、屋上に来い。こなかったら……わかってるよな?」

「……うん」

 

 それが目指すヒーローの姿とは程遠いものだと気づかぬままに……。

 

 

 

 

 

『ヴィラン連合オフ会』

 

「ネットゲームのオフ会を開きたい」

 

 そんな死柄木の言葉を受け入れた黒霧。

 その理由は単純だ。

 

『こうしてネットの外で活動することが死柄木の成長につながるかもしれません』

 

 ひとえに死柄木の成長(ニート脱出)のため。

 オフ会を開くための段取りを組んだり、必要なものを揃えたり、連絡を入れたり……

 イベントを開くうえでしなければならない色々なことを通して、死柄木が成長してくれることを望んだのだ。

 そのための苦労なら喜んでやろう。

 

 そんな黒霧の期待は――――あっけなく裏切られたのだ。

 え? 最初から分かってた?

 ……希望は、諦めない者の上にのみ来るのです。たぶん。

 

 

「やべえ、お店一つ借り切るとかさすがリーダーだぜ!」

「まあな。俺にかかればこんなもんさ」

 

 死柄木弔。ここは私の店で、準備をしたのも場所を提供したのも私なんですが。

 

「あのー、リーダー。オフ会の参加費はいくらですか?」

「ああ? いらないよ。そんなの。気にするなって」

「おお! まじ、リーダー太っ腹ですね!」

 

 死柄木弔。いままでお金立て替えてるのは私なんですが!

 

「料理もおいしいし、お酒もジュースもたくさんあります。嬉しいなぁ、嬉しいなあ」

「ああ、遠慮せずに食えよ。俺のおごりだ」

 

 死柄木。それも用意したの私なんですけど!

 

「どーもォ、ピザーラ神野店です」

「あれ、誰かピザなんて頼みました?」

「ああ、俺だよ。やっぱり、パーティにはピザがないと」

「ヒュウ! リーダーわかってるなー」

 

 おい、弔ァ! それ、私の財布でしょうが!!

 

 金は出さない。

 準備も段取りもしない。

 ついでに後片付けすらしなかった。

 

 荒れ果てた店内を見て黒霧は怒りで震える。

 もう、限界である。

 

「こんな店、もう辞めだーァ!!」

 

 

 ――翌日。

 

「おい、黒霧。飯はまだか? ……黒霧?」

 

 誰もいないことに気が付く死柄木。

 見つけたのは一通の置手紙だけ。

 

『旅に出ます。探さないでください。  黒霧』

 

 それだけが短く綴られており、行先も書かれていない。

 なんてテンプレートな家出の手紙であろうか。

 

「マジかよ……」

 

 ワープゲートの個性を持った彼の後を追跡などできるはずもない。

 預金通帳は黒霧が握っている。

 生活費は手持ちの分だけだ。どうする、死柄木弔(ニート)!?

 

 




『爆豪少年の焦燥』について。
 前回でかっちゃんへの批判が多かったのでフォローを。
 オンライン時空は非常に平和な世界。そのため、原作の事件の多くがなかったことになってます。なので、
・ヘドロ事件が起きていないので、かっちゃんは出久に救けられたこともなく。
・出久が“無個性”のままなので見下したまま。つまり、出久に対する認識が変わっていない。
・メンタル的には中学3年生初期のまま。
 という状況です。精神的な成長が少ないのです。原作と比べて。
 で、そんな状況で自分よりも実力者が3人もいたと。出久がヒーロー科にいないので夜嵐君もいるので衝撃は原作より上ですね。
 そんな環境で、格下だと思っていた出久が自分よりも認められている。
 まぁ、ストレスをぶつけちゃうのも15歳の思春期なら当然なのでしょう。とか思ったり。

『ヴィラン連合オフ会』について。
死柄木に来るべき時が来た。以上。そういうことです。

暫くは『悪墜ち』と『1/2』の完結を目指すつもりです。
いい加減待たせすぎですから。
それでは、次回をお楽しみに。

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