つまり、このお話は……お察しください。
2018/08/28 投稿
ある日のこと。
もはや恒例となったVR内でのオールマイトとモリアーティ(AFO)の食事会のときだ。
「ふー、ごちそうさま。白米が進む食事だった……」
「今回は肉系の煮込み物で攻めたからねぇ。濃い味付けだから当然だよ」
満足げなオールマイトを見て、これまた満足そうなモリアーティ。
場面だけ切り取れば食事処の店主と常連客の会話のようだ。
数年前まで殺し合って、いや、今でも現実で出会えば戦わねばならない間柄だとは思えない。
平和ダナー。
食後の満腹感から幸せそうな顔をしていたオールマイトだったが、ふと、何かを思い出したのか、ゴクリとツバを飲み込む動きをした。
それは何かを欲しがるような寂しげな様子で……
自慢の料理をたいらげた後にそのような顔をされては、プライドに障るというものだ。
モリアーティが追求の声を上げる。
「どうした、オールマイト。そんな物欲しげな顔をして。僕の料理に不満でもあったかい?」
「いやいや、美味だったよ。ただ、なぁ……」
「何かね? ハッキリ言ったらどうなんだい?」
煮えきらない態度のオールマイトに苛つくモリアーティ。
食べたのは煮込み料理なのに、煮えきらない態度とはこれいかに?
そんな冗談が頭をよぎったが、相手から本当に怒りの気配がしたので正直に答えることにしたオールマイト。
別に隠すことでもないのだ。何せ料理への不満ではない。かといって、どうにもできない話なのだから。
「煮込み料理を食べてて、つい、お酒が欲しいなー、と……」
「くっ、その気持ちは同意せざるを得ないな」
料理には、食べていて酒が欲しくなるというものがある。
今回の料理はそうだったのだ。
例を出すなら『モツの煮込み』
弾力のあるモツ肉を噛みしめれば、染み込んだ醤油と味噌の濃い味付けの煮汁の味が舌に広がる。そこに酒を流し込めば最高だろう。
日本酒や焼酎のような和風の料理に合う酒ももちろんだが、ビールのような酒で口の中を洗い流すように一気に飲み干すのも良いかもしれない。
モツ肉に飽きたら、一緒に煮込まれた大根や人参などの根菜類やこんにゃくなどに手をつけるのも良い。
生のまま細かく刻まれた青ネギも忘れてはいけない。
そうやって、煮込みの味を噛みしめた後にまた酒を喉に流し込めば……それはもう幸福のループが完成する。
想像する至福の時間……しかし、目の前に酒は無い。
味覚エンジンが実装され、料理のレパートリーは日々増えている。
しかし、酒類はまだ実装されていないのだ。
あるのは調理用の酒だけ。あれは飲むものではないしなぁ……。
「早く実装されないかねぇ? 僕も久しく飲んでないんだ」
クイッ、クイッ、とコップを呷るような仕草をするモリアーティ。その顔には寂しそうな表情を貼り付けていた。
オールマイトに敗れるまでは、裏社会の帝王としてそれなりに高価な酒を所有して、時折その味を楽しんでいたモリアーティ。
だが、現実で飲めなくなった今となっては見て楽しむだけのコレクションだ。
というか、視覚も潰されているので見て楽しむこともできなかったり。
本当に宝の持ち腐れだ。
その気持ちはよくわかるオールマイト。だが、首を縦に振ることはできなかった。
「まぁ、望みは薄いだろう。何せヒロオンのメイン開発者の彼はまだ未成年だからな。お酒はまだまだ先だろう」
「ほう……そうなのかい? どれくらいかかりそうなんだい?」
オールマイトの漏らした言葉に興味深そうに尋ねる。
少し考えた後に、オールマイト答えた。
「そうだな……後3年、いや5年だな。それくらいしないと無理だろう」
「そうか、それは待ち遠しいねぇ」
しみじみと言葉を吐くその裏で、考えを巡らせるモリアーティ。
オールマイトの言う“未成年”、“彼”、“3年~5年”というキーワードから開発者のことを想像する。
人物を特定するのは、ここまで情報があれば難しいことではない。
あとはどうやって接触して、酒類を実装させる圧力をかけようかといったところだ。
と、そんな
『何? 酒類が実装されてないって? 逆に考えるんだ。無いなら作ればいいやって……』
その時、モリアーティに電流が走る。
そうだ、この世の中、酒好きは多い。
それこそ、VR技術に関わる人間の中にも当然いるはずだ。そして、自分と同じような不満を持っているはず。
それが実現できない理由は金か? 時間か? 環境か? 人か? 技術なのか?
自分ならそれを用意できる。少なくとも金と環境と人なら集めてみせる!
何せ自分は――
「フッ、裏社会の帝王と呼ばれた僕の力を見せてやろうじゃないか!」
クックックッ、フハハハー!
と、高笑いするモリアーティを前にオールマイトはため息をついた。
「何をするか知らないが、ほどほどにしておけよ?」
軽く注意をする。
止めないのかって?
いや、なんか悪いことする感じしないんだよなー。と、すっかり丸くなった裏社会の帝王を見て思うのだった。
……そろそろ『裏社会の帝王』の肩書きに“元”がつく日も近いのかもしれない。
というか、もうついてる?
時は流れて、4月中旬を過ぎたころ。
雄英の教師たちは、新年度の始まりの山場を乗り越えて肩の荷が少し軽くなった頃であった。
入学試験の採点、合否通知。入学の申込み受諾。新入生のクラス配置。担任・副担任の決定。カリキュラムの見直しなどなど……
新学期を始めるにあたっていろいろと仕事が山積みとなっており、それらに一息つくのがこれくらいの時期であった。
少し過ぎればまた、中間テストや体育祭などのイベントが控えているのは分かっているが、今はこの苦労に対するご褒美が欲しい気持ちが起こるのも当然のことだ。
「つーわけで、お疲れ様会しようZEー!」
「やらない」
「ツレねえこと言うなよ、イレイザー!」
プレゼント・マイクの提案を一言で切り捨てる相澤。
合理主義のこの男。お疲れって言うならそれこそ帰って休むべき、くらいは言いそうなものである。
実際、そう思っていてもおかしくはない。
「あら、ちょっとくらいなら構わないでしょ? イレイザー。明日は休みなんだし」
「だろー? さすがミッドナイトは分かってるぜェー!」
「俺は休日は何もしたくないタイプなんで」
ミッドナイトが同意するも、バッサリの相澤。
なかなか手ごわいと見たマイクは、味方を増やす作戦に出る。
「なぁ、皆も一緒に飲みに行こーZE! こういうのは大人数でパーッといかなきゃソンってもんだ! そうだろォ、皆」
「一理あるな。今年も良い生徒に恵まれて気分がいい。俺も付き合うとするか」
「悪くないですね。お付き合いしましょう」
マイクの呼びかけにブラドキングとセメントスが真っ先に賛成してくれた。
そこで流れができたのか、次々と参加を表明する人が出てくる。
「飲ミ会カ。二次会ニカラオケニ行クノヲ所望スル」
「カラオケ! いいねー! 今夜は飲み明かそうZE!」
「……雄英の教師らしさを……損なわないように……グルル」
エクトプラズムとハウンドドッグの参加も決定。
なかなか盛り上がってきた。もう一押しだとマイクは感じる。
あと、誰かのもう一押しが欲しい。
その一押しをしたのは後輩の13号だった。
「それに、オールマイトの赴任歓迎会もしてませんもんね」
『よくぞ言った、13号! ナイスな発言だZE! 今日のMVPはおまえダァ!!』
13号の言葉に心の中でガッツポーズを決めるマイク。
あの堅物の相澤と言えど、No.1ヒーローのオールマイトと一緒に飲めるとあれば頷くはずだ。
テンションが高まるマイク。
「あ、私、健康上の理由からお酒飲めないんだ」
『オ、オールマイトォォオ!!?』
で、水を差したのは当の本人であるオールマイトだったり。
しかも断る理由が健康上の理由とか、ごもっともすぎて文句も言えない。
皆が酔っ払っている中、一人素面でいろというのもひどい話なのだから。
「健康上の理由なら仕方ないでしょう。それに、ひと段落したとはいえ次々とイベントが控えてます。酔いつぶれている暇なんてありませんよ」
オールマイトの言葉を受けて、完全に帰宅体勢に入った相澤。
長年の付き合いのあるマイクには、オールマイトが参加するとなりそうな時に、興味を持っていたのは分かっていたのだ。あと、一息のところだったというのに。
『あーあ、久しぶりに同期で飲めると思ったんだが……umm、惜しいぜ。あいつもオールマイトとの飲み会には興味持ってたのになァー』
相澤の参加がお流れになりそうと分かって残念な気持ちを隠せないマイク。
人付き合いの良くない親友をこれでも心配しているのだが、なかなか気持ちは伝わらなかったようだ。もっとも、余計なお世話かもしれないが。
落ち込むマイク。
だが、そこに救いの手を差し伸べたのもまた、オールマイトだった。
「あー、一つ提案なんだが……私もお酒が飲める方法があって、なおかつ明日に酔いを残さない方法がある……って言ったらどうする?」
「それでは、入学のあれこれお疲れさん、と、オールマイトの赴任を祝って!」
「「「「乾杯!」」」」
マイクの音頭でグラスを掲げる雄英教師たち。
広々とした個室で思い思いの席に座って、それぞれ好みの酒を飲んでいく。
目の前にはズラリと並んだ料理があって、なかなか豪華な宴会となっていた。
「それにしても、意外でした。オールマイトさんがこんなお店を知ってたなんて」
「ハッハッハッ! 知り合いが運営しているお店でね。最近開店したばかりなんだが繁盛してきているらしいよ」
ちょうどオールマイトと反対側に座った相澤が本当に感心した様子で声をかけてくる。
珍しい相澤からの称賛に思わず胸を張って答えてしまうオールマイトだが、内心は苦々しいものがあったり。
なぜなら……
「VR居酒屋なんて、どこから情報を手に入れたのか。いや、そんなところにまで知り合いがいるとは……」
さすがトップヒーロー、顔が広い。
などと、頷く相澤に笑みが引きつるオールマイト。
『言えない。実は裏社会の帝王と呼ばれたヴィランが経営してるなんて』
ホーリーシット!
最後まで利用することをためらったが、雄英教師たちとの飲み会という誘惑には勝てなかったオールマイト。
ここはVR居酒屋『おーる・ふぉー・とぅでい』。
定額の料金を支払えば飲み放題・食べ放題のフルダイブVR・オンライン居酒屋である。
少し前に、AFOが持ち前の人脈と資金力に物を言わせて技術者と設備をかき集めて開発したのが、これである。
すでにある味覚エンジンを拡張してアルコールを摂取したさいの酩酊感のパラメーター設定に始まり、各種お酒の銘柄の味の再現まで行っている。
これの開発のために、AFOは秘蔵のコレクションを開帳して技術者に味を覚えさせたというのだから、その本気度が伺える。
人間、食にかける熱意は馬鹿にできないのだ。
ちょっと前くらいには、完成していたことは知っていたものの、これ以上相手に胃袋をつかまれるのも癪だと我慢してきたが……オールマイトだって、お酒は飲みたい!
酔っ払って騒ぎたいのだ!!
手にしたグラスには外側に水滴が付くほど冷えたビールが注がれて、泡を立てている。
口をつけて一気に流し込めば、ホップの苦みと一緒に爽やかなのどごしが通り過ぎていく。
「くぅー! 生きててよかったァ!」
5年ぶりの飲酒に感動がとまらない。
そこまで酒が好きだったわけでもないオールマイトだが、それでも二度と飲めないと思っていたものが飲めたのだ。
無感動ではいられるはずもない。
「おおげさですよ。オールマイト」
「いやあ、医者には止められてたからね。久しぶりなんだよー」
思わずといった様子で苦笑する相澤に、照れを隠せない。
アルコールが入ったからか、相澤も少し対応が柔らかい気がした。
その相澤が口を付けているのは、定番のおつまみ、『枝豆』だ。
緑のさやごと、豆を口に入れれば塩味が最初に出迎えてくれる。続いて豆を噛み締めれば、豆に含まれる甘味や旨味が広がる。
この組み合わせは間違いない!
「ヘーイ! 楽しんでるかァー! お二人さん。こいつはお土産だ!!」
「チッ、うるさいのが来たなって、おい。なんだこれは」
「おお!? 迫力満点だ」
現れたマイクに絡まれて迷惑そうにする相澤だったが、その手に持っているものを見て目を丸くする。
オールマイトが思わず歓声を上げるほどのそれは、ボウルと見間違うほど大きな丼に、山盛りに盛られた唐揚げだった。
「子供のころに夢見たことあるよなー! 喰いきれないほど山に盛られた唐揚げ……そいつがこれだー!!」
「非合理的だ。食べきれないだろ、コレ」
「ノー! こいつはVRだぜ、お残ししても罰は当たんねえさ!」
現実でやれば、いろいろと問題があるかもしれないが、ここはVRの中。
こういったおふざけも許されるのだ。
「ウォッカと~、バーボンに~、オレンジジュースとトマトジュースを混ぜ混ぜして~」
「また、ミッドナイトのデンジャラスカクテルか! 誰か、止めろ!!」
「あら、ブラド? そんなに声を出して~、我慢できなかったかしら~? いいわ、飲ませてあげる!」
「やめろ! 無理やり飲ますな! ぐっ、うおおお!?」
ミッドナイトの酒癖は、そこにあるものを何でも混ぜて作るデンジャラスカクテルを他人に飲ませるというものだ。
その犠牲になったブラドは酷い味だったのか、それとも高いアルコール度数にやられたのか悶絶している。
その様子を見てケラケラと笑うミッドナイト。
……なんと無残な光景だ。見ていられない。
「うん。唐揚げもカリっと、それでいてジューシーでおいしいな」
すべて見なかったことにしたオールマイトは山盛りの唐揚げに舌鼓を打ってごまかすことにした。
口に入れて噛み締めれば、あふれ出る肉汁がすべてを忘れさせてくれる。
うまい料理は何物にも優先するのだ。
そこにビール。至福!
「だからですねぇ~、貝さんは汚い水をきれいにしてくれる、掃除屋さんなんですよぉ~」
「そうだね。環境は大事にしないとね~」
アサリの酒蒸しを食べながらセメントスに絡む13号。
なんともめんど……いや、意外な一面だ。
環境に一家言あるらしい彼は海鮮系の料理を頼んでいるらしく、刺身の盛り合わせやホッケなどが並んでいた。
よく見れば、生ガキもある。
「何を見てるんです? オールマイト」
「いや、13号のところに生ガキがあるのを見つけてね。久しく食べてないなぁと」
「あー、ずいぶん前に当たってから食べてねえなー! VRなら食あたりもないし、久しぶりに食ってみるか!」
一つくれと、突撃しに行くマイクを見送ったあと、相澤と一緒にメニューを開く。
せっかくならVRじゃないと食べられないものを食べてみたいと思うものだ。
「お、ユッケがありますね。食ったことはないな」
「肉の生食については法律が厳しいからねぇ」
現実ではなかなか出せなくなったユッケが置いてあるのを見て、悩む二人。
メニューを見れば変わり種はもちろん、定番のフライドポテトや塩キャベツ、たたききゅうり、ホッケや手羽先に焼き鳥なども並んでいて迷う。
「決めました。たこわさと漬物の盛り合わせ、揚げ出し豆腐とだし巻き卵を。あと、だし汁に白米を」
「相澤君、がっつりいくね?」
「ええ、あまり酒は飲まないので。普段はつまみもそんなに何ですが、どうせVRならいろいろ試しても損はないかと」
淡々とした様子で大量注文する相澤に、びっくりのオールマイト。
つまみというよりは完全に締めのごはんな気がしないでもないが、まぁ、VRの飲み会だ。なんでもありだろう。
現実と違い、調理時間というものがないので、注文したものはすぐにテーブルに届く。
いつの間にかビールから日本酒に切り替えていた相澤は、だし巻き卵に箸を伸ばしてからクイッとお猪口を呷る。
なんともその姿が似合っていた。なんていうか、色気を感じる気がする。
揚げ出し豆腐は、衣にしみ込んだだし汁が豆腐の味を引き立てて何とも言えない。ちょっと七味を振りかければその辛みもまた食を進ませる。
仕上げとばかりに、白米にたこわさをたっぷりのせ、上からだし汁をかければたこわさ茶漬けの出来上がりだ。
「相澤君、アレンジかい? なかなかやるね」
「……別の店でやってたのを再現しただけですよ。誉められたものじゃないです」
オールマイトからの称賛に、ぶっきらぼうに応じて飯を掻き込む相澤。
照れてる? 顔が赤いのはアルコールのせいだけではないだろう。
そういうのもあるのか、と、オールマイトはまたメニューに向き合う。
今宵は楽しい飲み会になりそうだ。
「カラオケノ、オプションマデ有ルトハ……コレハ歌ウシカアルマイ!」
「イエーイ、盛り上がってきたゼー!」
「俺は、B組のあいつらと、成長していきたいんだァー!!」
「丸み、丸み。フフッ、やっぱり丸みは良い」
「聞いてますか!? 貝さんはねぇ~、どれだけすごいかといいますとね~!」
「できたわ、最高のカクテルが!」
「グルル……表示がバグっている、何を混ぜた!?……ア、アオーン!」
……同時にカオスな飲み会にもなりそうだった。
「オールマイト! 俺が真剣に話しているというのに……」
「あの、相澤くん。それ、置物のたぬき!」
小説版の3巻の飲み会風景が楽しそうだったので。
居酒屋の料理ってなんだかんだ言っておいしそうなの多いよなぁ。
なお、知ったか豆腐は下戸であまり飲めないのであしからず。
唐揚げの大盛りは過去に行ったことのある居酒屋『ちばチャン』をイメージしてます。
「バカ」と付くメニューのボリュームはすごかったので印象に残ってますね。
機会があればまた行きたいものです。
活動報告でアンケートやってます。期限は8月いっぱいまで。
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