轟家解決編はまだ終わっていない!
――ヒロオン内 タウン
エンデヴァー夫妻が久しぶりの、いや、初めてのコミュニケーションを行っているとき。
それを少し離れたところから見つめる三対の目があった。
それぞれ比率は違えども、紅白の髪を持った三人の人影。
「お父さんもお母さんも楽しそう。よかったぁ」
「グギギ、糞親父め。見た目を変えてくるなんて卑怯な手段を……」
「夏兄ィ、うるせえ」
街路樹の陰から顔を出して様子を伺っているのは冬美、夏雄、焦凍の轟家の兄弟たちだ。
……なぜ見てるんです?
思いっきり不審者ムーブだが、両親が久しぶりに対面するということで気になってしょうがなかったのでこうして出歯亀じみたことをしているわけだ。
こうして両親の逢瀬の現場を覗き見ている三人だが、反応は三者三様といった様子。
「よかった、良かったよ~。お父さんとお母さんが仲直りしてくれて」
純粋に喜んでいるのが長女の冬美だ。
ずっと仲の良い家族というものに憧れていた冬美にとって、両親の和解はその最初の一歩になるかもしれない希望だ。
一方、不満げなのは次男の夏雄だ。
「あいつがやったことがなかったことになるかよ。何をいまさら。納得できるか!」
父親の母への態度。兄への仕打ち。弟への非道。
それらをずっと見てきた夏雄からすれば、エンデヴァーという存在はそう簡単に許せる存在ではない。
両親との間で和解があったとしても、父子の間でのわだかまりはまだ溶けていないのだ。
そして、その兄よりもさらに複雑な気持ちになっているのが焦凍である。
「笑ってるのか、母さん。あいつの前で」
焦凍の記憶の中の母親はいつも泣いていた。
だからこそ父親を憎み、見返すために努力を重ねてきた。
そのはずなのに。その、はずなのだが。
どうして目の前の母親は笑っているのだろう?
焦凍はいままでの自分のやってきたことの正しさが分からなくなっていた。
“父親を否定するために母親から受け継いだ個性だけでNo.1ヒーローを目指す”
その決意が無価値に思えてきた。
燃え盛っていたはずの熱が消え失せて、まるで消し炭のよう。
しまいには何故、自分がヒーローを目指しているのかすらも分からなくなってくる。
ぐるぐると答えの出ない思考の中で、つい先日の出来事を思い出す。
父親に呼び出され、その時のことを。
『焦凍、すまなかった』
両膝を地に着けて深々と頭を下げて言う謝罪。
そんな父親の姿に困惑と怒りが胸中に沸き起こったのを覚えている。
ひたすらオールマイトを超えることだけを見て何もかも犠牲にしてきたはずなのにどうして? という気持ちと共に、今更勝手なことを言うなという怒りだ。
多くのヒーロー志望の人間、それも息子と同じくらいの年齢の子供たちを教導・指導していくうちに、自分の子供たちへの態度を顧みた結果だという。
無茶な修行や特訓をして親が心配し、それを注意することもあったという。
人の振り見て我が振り直せと言うが、他人の姿を通してこそ自分の行いはより客観的に見ることが出来るものだ。
そうして反省した結果が息子への謝罪だったのだ。
まぁ、理不尽を受けていた焦凍からすれば虫のいい話だと怒るのは当然ではある。
謝罪の言葉を受けたその時には、反発して席を立ったことは焦凍も覚えていた。
『謝られただけじゃねえ。その時に何か言葉をかけられたはずだ』
当時のことを思い起こす焦凍。
エンデヴァーはなんと言っていただろうか? たしか――
『おまえにはNo.1ヒーローになれと、俺を超えることを強いてきた。だが、おまえが
そんなことを言われたな。と、焦凍は思い出す。
その言葉になんと自分は返していただろう?
『てめえが言ったことなんか関係ねえよ! 俺は、俺がなりたいからヒーローを目指してんだよ!!』
そうだ、そう返事をしたはずだ。
ということを思い出し、自分の中で何かが納得できるのを感じた焦凍。
遠い昔の記憶。
轟焦凍がヒーローを目指したいと思った“オリジン”がようやく胸のパズルにかちりとハマった音がした。
轟焦凍がヒーローを目指すのは、父親に言われたからでもない。母親ですら関係ない。
ヒーローを目指すのは、成りたい自分に成るためだから。
――雄英体育祭 決勝戦
「どうしたッス! それが全力かよ、轟!!」
「ぐっ、クソ!」
個性が当たり前になった超常社会における日本の一大イベント『雄英体育祭』
その決勝戦に勝ち上がった焦凍は、同じく特待生入学の夜嵐と一対一のガチンコバトルを繰り広げていた。
暴風が吹き荒れ、氷塊が砕ける。
一進一退の戦いを繰り広げていた二人だが、戦況は徐々に焦凍の不利に傾いてきていた。
「攻撃が当たらねえ。地の利がないのはキツイな」
狭いフィールドでは焦凍の氷結による広範囲攻撃は今までアドバンテージであった。
だが、空を飛べる夜嵐にはフィールドを埋め尽くす氷塊も効果はいまいちで当たらない。
直撃しそうなものも、暴風で砕かれてしまう。そして、砕けた氷の破片は夜嵐の操る風に乗ってこちらを攻撃する武器になって返ってきた。
少しずづ追い詰められ、敗北が脳裏によぎる。
「何をやっておるか、焦凍ォオオ! 気合を入れろ!!」
「焦凍、頑張って!」
そんなときに聞こえてきたのは、応援席にいる両親からの声援。
二人の声が耳に届いたとき、焦凍の心に火が灯った感覚がした。
心の火を、魂を燃やしたかのように彼の左から炎が吹き荒れ、フィールドの氷を溶かしつくしていく。
父親の個性だのなんだのと、もう考えるのはやめた。
「ようやく俺を見たッスね。これからが本番か?」
「ああ、待たせた。親父と母さんが、家族が応援してくれてんだ。負ける気がしねえ!!」
「ハハッ! 熱いッスね! こういう熱い展開は……大好きッス!!」
いろいろと吹っ切れた焦凍に、夜嵐も全力でぶつかっていく。
今日この時、雄英体育祭は最高の盛り上がりを見せたのだった。
雄英体育祭を終えた帰り道。
轟家は三人並んで帰路へとついていた。
焦凍は黙って掌の今日の結果の証を見つめている。
夕日をまばゆく反射する銀色の光。銀メダル。
そう、焦凍は優勝を逃したのだ。
「
「いいえ、よく頑張ったわ。焦凍」
「敗北すら糧として成長すればいいだけの話だ。おまえにはまだまだ
両親からの慰めが心にしみる。
今回負けた原因は分かっている。
左の個性練度不足だ。最終的にそのわずかな差で負けたのだ。
正直、悔しさがこみあげてくるのを抑えられない。
その悔しさをバネに、焦凍が父親に教えを乞うのもそう遠くないのかもしれない。
オマケ その1『爆豪の焦燥』
「こんなはずじゃねえんだ……」
雄英体育祭が終わった後の教室で一人席に座ってうなだれている爆豪。
有り体に言って、彼のプライドはボロボロだった。
自分の才能に自信をもって入学し、今回の体育祭で自分の実力を見せつけるつもりだった爆豪。
だが、結果は思っていた物にはならなかった。
第三種目、初戦敗退。
それが彼の今回の成績だった。
最終種目に進出できた?
一回戦目の相手が今回優勝した夜嵐で、運がなかった?
まだ一年生だから?
そんな言葉は爆豪にとってはただの言い訳に過ぎなかった。
そんな言葉で自分を言い聞かせるようなことは、彼のプライドが許さなかった。
厳しい現実を前に爆豪の心は折れかけている。
だがしかし……
「まだだ。このままで終われねえンだよ!」
完全に折れきってはいない。
爆豪は強くなることを決意する。なんとしてでも。貪欲に牙を、爪を研ぐのだと。
オマケ その2『ブラック出久くん』
雄英体育祭を終えた次の日の朝。
雄英高校は休みということもあって静かなものだった。
体育祭で主役を張ったヒーロー科はもちろん、なんだかんだではしゃいでいたほかの学科の生徒たちも体を休めるための必要な時間だろう。
誰にだって休息は必要なのだ。
が、教師陣はそうもいっていられない。
業務が溜まっているとなれば休日出勤も当然ある。
特にヒーロー科は今回の体育祭の結果を受けて職場体験のスカウトの対応が控えているため、意外と忙しいのだ。
「Hu~、毎年のことだが肩が凝るZE。まったく」
そんな休日出勤をしなければならなくなっている教師の一人がプレゼント・マイクだった。
悲しい現実を前に廊下を歩きながら愚痴をこぼす。
現在は校舎の見回りという名目で気分転換の最中だ。
合理主義者の同僚からは「生徒なんていないんだから、不合理だ」と、文句を言われたがそうでもしないとやっていられない。
一応、名目とはいえ見回りということで各教室を見て回ってはいるものの人の気配などありはしない。
ヒーロー科の1年A組から順番に見ていき、ついにはサポート科のH組の教室にたどり着いた。
「Hello! Is anyone there? って、誰もいるわけな――のわっ!? What!?」
どうせ誰も教室にいないだろうと足を踏み入れた瞬間に何かを踏みつけてしまい驚くマイク。
あわてて飛びのいて見てみれば、それは寝袋にくるまって眠る誰かだった。
「uhh……? イレイザー、じゃ、ないよな? 誰だ?」
寝袋ということでいつも愛用している同僚が思い浮かんだが、当の本人は職員室でいまも仕事しているはずだ。
誰だ? と、疑問に思っていると寝袋の人物が目を覚ましたのかもぞもぞと動き始めた。
「うーん、えっと、おはようございます」
「お、おう、グッモーニン……いやいや、何やってんのキミ?」
寝袋で寝ていたのは緑のボサボサの髪をしたサポート科の生徒、緑谷出久だった。
サポート科の特待生として入学し、現在も授業の手伝いをしてもらっていることで出久のことは知っているから、彼がこのクラスに所属であるのも分かっている。
寝ぼけているのか挨拶をしてきたので思わず返事をしてしまったマイクだが、どうして彼がここで寝ているのかすぐにツッコミを入れざるを得なかった。
「す、すみません、ちょっと教室で仮眠をしてて……うわ、もうこんな時間!? 起こしてくれてありがとうございます。プレゼント・マイク」
「起こしたっていうか、踏んづけちまってsorryと言わなきゃならないのはこっちなんだが……てか、仮眠? こんな時間ってまだ朝の7時半だZE?」
踏んづけてしまったことを謝罪するつもりが、逆にお礼を言われてしまい困惑。
というよりも、質問の意図したことと違う返事が返ってきたので、改めて質問をしなくてはいけなくなった。
教室で寝ていたことは見ればわかる。
聞きたいのは、どうして教室で寝ることになってしまったのかということだ。
「体育祭見ててちょっと刺激を受けたので、校内の演習システムを調整してたんです。そしたら思ったより熱中しちゃって……徹夜しちゃったので1時間ほど仮眠を取るつもりで教室で寝てたんです」
30分も余計に寝ちゃいました、と、照れたように頭をかく出久にマイクの顔は引きつりそうになった。
『この子、この若さで
毎年サポート科の生徒には数人こんな感じで時間を忘れて研究や開発に没頭する生徒が現れるということはマイクも知っているのである程度は受け止められたのだが、やはり目の前にするとなかなか衝撃的である。
こういった生徒は自分の体調も無視して熱中することが多く、不健康になりがちだと同僚のパワーローダーが頭を抱えていたことを思い出すマイク。
ふと、目の前の出久のことが心配となり、それとなく注意をすることにした。
「あー、頑張りすぎて体を壊さないように気を付けろよ? ちゃんと睡眠と栄養は摂らないとNA!」
「はい。ありがとうございます。睡眠時間が短い分だけ栄養はしっかり摂ろうと思います」
マイクの忠告を聞いて素直にうなづく出久。
このあと食事を摂るというので、笑顔で見守っていたマイクだったが、出久が鞄から取り出した食品を見て笑みが凍りつく。
「H,Hey! 緑谷、その持ってるのはなんだ?」
「え? これですか? 栄養補給用のゼリー飲料です」
銀色のよくあるパックに入ったそれを手にぺらぺらと説明をしていく。
「これ、すごいんですよ。野座間製薬ってところが作った、体に必要な栄養素が摂れるすぐれものなんです!
もともとは体を鍛える人向けの高タンパク系のゼリーから始まったんですけど、そこからいろいろと発展して健康志向のものやダイエット系とかも作られるようになったんです。
忙しいヒーロー向けにも作られていて、成分も……」
「OKOK。説明はそれくらいでいいぜ、緑谷」
たしかに忠告通り、“栄養は”しっかり摂っているが、そういうことじゃないのだ。
ゼリー飲料だけで食事を済ますのはしっかり食事をしたことにはならないと思うのだが!?
「ちょ、朝食はそれだけか?」
「ええ、そのほうが合理的なので」
合理的……
その言葉にマイクは頭が痛くなった。
いままでは気にしていなかったが、放っておくことができなくなった。
出久にランチラッシュに食事を作ってもらうように言いつけてから、職員室へ踵を返す。
なにがなんとしても変えさせねば!
「イレイザー!」
「なんだ、マイク。うるさいぞ」
「いままで放置してきたが、コレ以上は見逃せねえぞ、イレイザー!」
「な、何の話だ?」
職員室に来て早々、大声を出すマイクに文句を言うが、逆にすごい剣幕で迫られて驚くイレイザー・ヘッド。
そんなイレイザーに先程の出久の様子を伝え、生活態度について諌める。
「おまえのマネをする生徒が出てきたから教育上悪いって言ってんだYO!」
「……合理的でいいじゃねえか」
「オォイ!?」
焦凍「もう考えるのはやめた。心火が燃える。負ける気がしねぇ!」
……いろいろとハイブリッドにしすぎたかも?
一応既出だけど、出久くんがヒーロー科にいないので代わりに夜嵐君がinしてます。
オマケ
・かっちゃん、覚醒フラグ?
・『(セルフ)ブラック出久くん』
ふと思ったけど、エンデヴァーって、ヒーローとしてはオールマイトに勝てなかったけど一人の社会人として見ると
・部下を多く持つ大規模な事務所を運営
・豪華な屋敷持ち
・美人の妻、子宝に恵まれる。
・高身長、恵まれた体格。健康上の不安無し
オールマイト
・部下は過去にいたけど今は無し
・独身
・健康上の問題を抱えている
……普通に勝ち組だよねぇ?