お待ちかねのオンラインです。
小狭い店内のカウンター席に座り、水の入ったプラスチックのグラスを片手に料理を待つオールマイト。
カウンター越しの厨房ではアバター名「モリアーティ」ことAFOが調理を行っていた。
そう、もはや恒例のお食事会である。
現役のトップヒーローが元裏社会の帝王から接待を受けていると言うと何やらスキャンダラスなことのように聞こえるが、実情は現実では満足に食事を楽しむことができない体になったおっさん二人がVR世界で飯を食らっているだけなのだけれど。
うん、平和だなー。
温めた丼にスープを注ぎ、湯から引き揚げた麺を腕を思いっきり振り上げて湯切りをする。
丼に麺を移し替え、菜箸で軽くスープと馴染ませたら次はトッピングだ。
ネギ、メンマにチャーシューというシンプルな組み合わせ。スタンダードな醬油ラーメンの完成だ。
「待たせたな。醤油ラーメン一丁上がりだよ」
モリアーティがオールマイトの前に湯気をたてる熱々のラーメンを着丼させると、オールマイトは割り箸を手に臨戦態勢へ。
「うむ、ではいただきます」
手を合わせ食事前の一言を告げる。
まずはスープから。左手のレンゲでスープを掬い一口。
カツオと昆布の出汁がきいた醤油のスープは、「そうそう、これだこれ」と頷きたくなるようなどこか懐かしい味がした。
続けて麺を持ち上げて息を吹きかけ、少し冷ましてから一気に音を立てて啜り上げる。
ちぢれ麺がスープを絡めとって口の中に一緒に飛び込んでくる。
かん水の効果でコシのある麺を噛みしめて食感も楽しみながら味わう。
ネギのさわやかな風味やメンマのほどよい塩味と歯ごたえに口の中でほぐれるチャーシューとトッピングも箸をさらに進める助けになった。
息をつく暇もなく一気に箸を進め、残りはスープのみ。
丼を両手で持ち上げて直接口をつけて傾けていく。
「ふぅ、ああ、うまかった」
スープまで飲み干し、満足げにごちそうさまを告げるオールマイト。
塩分だとか脂質だとか健康への影響を一切考えないでいいVR世界のため、なんの罪悪感も湧かずただ幸せだけがあった。
そんなオールマイトの様子にラーメンを提供したモリアーティも上機嫌に腕を組んで頷いている。
料理人として一仕事終えた達成感というやつだろう。
……料理人? いや、ツッコむのは野暮だ。何も言うまい。
「お粗末様。どうやら気に入ってくれたようだね」
「ああ! こういいうシンプルなラーメンってどうしてか無性に食べたくなる時があるんだよなぁ」
「そうだね。ラーメンと一口に言っても多種多様だからねぇ」
ラーメンという料理の奥深さに二人してしみじみと頷きあう。
語ろうと思えば長々と語れるほど魅力的なのがラーメンという料理であろう。
「エビや貝を使ったシーフードの塩ラーメン。もやし、キャベツ、ニンジンにひき肉の野菜炒めにバターとコーンをトッピングした味噌ラーメン。ガツンとパンチのきいたコッテリスープに固めにゆでた細麺がからむ豚骨ラーメン……いろいろと試したけれど最終的にシンプルなラーメンが食べたくなるんだから不思議なものさ」
オールマイトに食べさせるまでに繰り返した試行錯誤を思い出しながらモリアーティは語る。
苦労もあったが楽しい時間だったことが、その口調からうかがえた。
一方、その語りを聞いたオールマイトは何やら悶えるような表情で。
「オイ! 貴様はもうさんざん食べたからいいだろうが、私はこの一杯が久しぶりのラーメンなんだぞ!! ズルいじゃないか!」
モリアーティの語ったラーメンの話を聞いて「私も食べたい!」と悔し涙を流すオールマイト。
まぁ、無理もない。大怪我をして胃を全摘出する手術を受けてからというもの、ラーメンを満足に食べることなど夢のまた夢だったのだから。
特にコッテリ系の豚骨ラーメンなど望外の彼方の存在だ。
ちなみに、これらを食べられなくなった大怪我の原因は目の前のモリアーティ=AFOだったり。
「ぐっ、貴様が憎い!」
「わかったわかった。今度食べさせてやるから、親の仇を見るような目で見るんじゃないよ。まったく」
食べ物の恨みは恐ろしいね。と、すごい形相で睨んでくるオールマイトを呆れた様子でたしなめるモリアーティ。
親の仇のようなもなにも、実際にオールマイトの師匠を殺した仇に間違いないんですが……
扱いが豚骨ラーメン以下にされた七代目は泣いていいと思われる。
「そういえば雄英体育祭も終わって一段落したところだと思うんだが、調子はどうだい?」
食後のおしゃべりということで、オールマイトの最近の仕事の様子を尋ねるモリアーティ。
プロヒーローとしては長く活躍しているものの、教師としては新人のオールマイトの様子が気になったようだ。
「なかなか大変だな。雄英体育祭が終わったと思ったら一年生をすぐに職場体験に送り出さなきゃならん。イベント目白押しってヤツさ」
雄英体育祭が終わった後に一年生が行う職場体験は、今後ヒーローとしての成長に大きく影響する重要なイベントだ。
体育祭での活躍を見て指名をしてきたヒーロー事務所にそれぞれの目的を持って実際のヒーローの現場を体験するのだが、教師たちは生徒の希望をまとめたり受け入れ先との打ち合わせをしたりとどうやら多忙な日々らしい。
「なるほどねぇ。次世代の芽は順調に育っているようだ……君の後継者はいったい誰になるのやら」
「……知ってどうする? ワン・フォー・オールを継ぐ者を」
さりげなくOFAの後継者について話題が触れたことに、警戒感を抱くオールマイト。
VR世界にハマって腑抜けたとはいえ、やはり因縁の個性のこととなればどうしてもピリついてしまう。
だが、モリアーティはそんなつもりはなかったようだ。
「ん? あぁ、そう警戒するなよ。単に気になっただけさ。君がどんな風に後継者を育てるのかね」
「……そういうことにしておこうか」
何もするつもりはないと告げるモリアーティにオールマイトは素直に信じることができなかった。
だが、そんな猜疑心も次のモリアーティの一言で吹っ飛んでしまったのだけれど。
「後継者選びはしっかりしなよ。なんせ僕は後継者を育てるの失敗しちゃったからねぇ」
「何、貴様の後継者!? って、失敗した?」
後継者がいたという事実に驚き、続いて失敗したということを聞いて肩透かしをくらってしまった。
悪の帝王が後継者の育成失敗とは何があったのだろうか。
裏社会を統べるほどの存在に育てるとなれば過酷な試練を用意していたとしても不思議ではない。もしかしたら、その後継者はすでに生きていないのではないか?
巨悪を育てる過程で起こる様々な悲劇を想像するオールマイト。
悪の帝王の後継者に起きた悲劇とはいったい……?
「うん。僕の後継者、ニートになっちゃったんだよ。気が付けば一日のほとんどをVRゲームに費やすゲーム廃人さ……」
「そ、そうか……」
厳しい表情で答えを待ち構えていたのに、まさかの理由で「何も言えねぇ……」っとなってしまった。
悪事に手を染めるよりは断然いいのだけれど、けっして褒められるわけでもないという。
『後継者選びはしっかりやろう! ホントにな!!』
自分の後継者育成は失敗しないようにしよう。
そう心に堅く誓うオールマイトであった。
「フフッ。よくよく考えたら僕もこうやってVR世界にハマっておとなしくなったし、後継者を育てる計画もVR世界ができたことで台無しになった。
そう考えるとVR世界を作って社会に広めた人物こそ君の“平和の象徴”の真の後継者なのかもしれないね」
自分の状況を改めて考えたのか、モリアーティがふとそんなことを呟いた。
その言葉はオールマイトも頷ける部分があった。
「確かにな。最近ではVR世界のおかげで個性犯罪も減少傾向にあるらしいからな」
規制で雁字搦めに抑圧された現実世界の鬱憤を晴らす場所としてVR世界ができた影響は大きい。
自分の個性を持て余してヴィランになる人間が減ったのだ。
なにせVR世界ならば合法的に、思う存分自分の個性を使用することができるのだから、わざわざ法を犯してまで個性を使ってやろうとは思わなくなる。
その結果が、個性犯罪の減少なわけである。
オールマイトのような犯罪に対する抑止力として平和を守るのではなく、根本的に社会そのものを変えて平和を作り出したのだから、もしかしたらオールマイト以上の影響力かもしれなかった。
「本当に彼には感謝しなくてはならないな……VR世界を広めてくれたおかげに平和になったのだから」
しみじみと言うオールマイト。
そんな彼を揶揄うようにモリアーティが声をかけた。
「そうだねぇ。おかげで美味い飯をもう一度食べれるようになったわけだからね」
「ふっ、ハハハ! それはそうだな!!」
「だろう? こうやって君の胃袋を掴んで支配してやるなんてこともできたわけだし」
「残念だったな、私の胃はもう全摘済みでもうないんだ!」
「そうだった、そうだった。確か君の腹に大穴開けたんだったなぁ……」
「「ハッハッハッ!!」」
冗談を言って笑いあう二人。
ジョークが若干ブラックだが平和である。平和だよね?
「まぁしかし、貴様は感謝ばかりもしてられないんじゃないか? 後継者がニートなった原因になったんだからな」
これから頑張って更生させなきゃな、と、モリアーティを逆に揶揄うオールマイト。
まぁ、このあと思いっきり反撃を食らうのだけれど。
「なーにを他人事のように言ってるんだいオールマイト。僕の後継者は君の師匠の孫なんだぜ?」
「ハアッ!?」
さらっと告げられる衝撃の事実。
宿敵の後継者がニートになったと笑っていたら、その後継者が恩人の孫だった!
「ちょちょちょ、ちょっと待て! どういうことなんだ、おい!」
混乱するオールマイトを気にした様子もなくモリアーティはさらに言葉を続けていく。
「なあに、安心しなよ。彼も最近になって就職活動を始めたらしいからねぇ」
「そ、そうか。うまくいくといいが……」
その恩人の孫は、少しずつニート脱却に向けて動き出しているらしい。
完全な引きこもりというわけではないならまだ安心だろうか。
「って、そうじゃなくてな! 師匠の孫!? それが何で貴様の後継者に!?」
「何故って……そりゃあ君の嫌がることを考えてたら普通に、な?」
「き、貴様というやつは……」
理由が酷すぎて逆に力が抜けるオールマイト。
そんな反応ができるのも最悪の展開を避けられたからなわけだけれども。
『お前の師匠の孫はヴィランだ』
と言われるよりも、
『君の師匠の孫がニートになっちゃった』
と告げれたほうがまだマシなのだから。
いや、それもどうなんだって展開なんだけれども。
とりあえず、七代目は泣いていい。
オールマイト衝撃の真実を知る。どうしようもないから諦めるしかないね。
職場体験は飯田くんはお兄さんのところに行きました。
ステイン? 保須市の事件? オンライン時空だぞ! あるわけないだろ!!
次回のオンライン更新は小ネタ集になる予定です。
・ステインのお話。
・死柄木の就職のお話
次回もお楽しみに。