たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

42 / 60
2018/07/14投稿


いずく恋・愛・追・跡 その2

 雄英高校一年A組。

 難関の入学試験を突破し、憧れのヒーロー科に入学した皆の顔は明るい。

 初日に個性把握テストによる除籍の危機という苦難に直面したものの、何とか乗り越えて今日を迎えている。

 不安も多いが、それ以上に新生活への期待と希望が満ちている。そんなところだろう。

 そうした明るい雰囲気の中で、一人暗い表情をしているのは爆豪だ。なぜなら――

 

「へぇー、緑谷と爆豪って同じ中学なんだね」

「うん! 中学だけじゃなくて幼稚園のころからずっといっしょなんだ」

「幼馴染ってやつかー。いいなぁ……」

 

 自分の真後ろの席でピンクの肌に角と黒目が特徴の芦戸と話している幼馴染のせいだ。

 日本でも最難関のヒーロー育成高校に入れば、ストーカー気質のこの幼馴染と離れられると思っていたのにしっかりと合格している上に同じクラスとはどんな悪夢だろうか?

 

「かっちゃんとはずっと一緒にいたいから、かっちゃんがヒーロー目指すと決めたら僕も付いていくんだ」

「うわあああ、一途なんだぁ! いいねいいね! キュンキュンするよー」

 

 一途どころじゃねえぞ! 妄執レベルの執着具合なんだぞ!?

 

「雄英を受験する、ヒーローを目指すって言ったときには、かっちゃん心配してくれてね。『付いてくるな、他所に行け』って言われたんだけど……やっぱりそばにいたくてね」

「マジで? 爆豪って、ツンデレじゃん!」

 

 違う、違う、違う! そんなつもりじゃない!

 どんな風に言っても都合のいいように頭ンなかで変換してやがるせいでこっちの意図が伝わってねえんだ!

 誰がツンデレなんだよ!

 付いてくんな、ってか、もはや『憑いてくんな』ってレベルだわ! クソが!

 

 と、自分の背後で交わされる不快な会話に気分がさらに落ち込む爆豪。

 チラッと振り返ってみれば、何故かそのまた後ろの席の峰田と目線が合う。

 何故か、峰田は血涙を流して呪いのこもった目で爆豪を見ていた。

 

『おのれぇぇぇ、リア充め! 爆発しちまえよぉぉお!』

 

 そんな思念が伝わってくるような峰田の表情を見て爆豪はしみじみと思う。

 

『そォ思うんなら、てめえが変わってくれよ』

 

 と……。

 

==================

 

 オールマイトによる戦闘訓練。

 ヒーロー役とヴィラン役に分かれて2対2で行う形式なのだが、爆豪はその組み合わせに不安を覚えた。

 相方は生真面目を絵に描いたような性格の飯田だ。

 正直、爆豪とは相性が悪いといえる。まぁ、そもそも爆豪と相性のいい相手が少ないのだけれど。

 味方との相性も問題だが、それ以上に対戦相手がヤバい。

 

 対戦相手は……麗日・緑谷チームだ。

 

「かっちゃんとは今回は敵味方になっちゃったけど……大丈夫だよ! このくらいで僕らの愛情は揺るがないから。心配しないでね?」

「おう……」

 

 すぐ隣でニコニコと笑っている出久に爆豪は口元をヒクつかせて返事をする。

 大丈夫な要素がどこにあンだよ。と、心の内でツッコむも答えは出ない。

 訓練の準備があるからと送り出し、向こうに行かせたあとに小さくため息を吐く。

 萌葱色の着物に似たコスチューム姿の出久の姿だが、あれも爆豪を悩ます要因の一つだったり。

 なんでも、爆豪の好みに合わせた衣装だとのことで、

 

「かっちゃんは清楚系の服のほうが好きだよね? 直接的なエロスよりも、うなじがチラッと見えているのとか、スリットから少し見える太ももとかがいいんだよね?」

 

 と、本人がノリノリで語っていた。

 自分の性癖(フェチ)がバレているとか、恥ずかしい以前に恐怖を感じる。

 話したこともないのに何故知っているのか?

 

 こうやって自分のことを把握しまくっている相手との戦いである。

 はっきり言って嫌な予感しかしない。

 

「ソッコーで終わらせるしかねえ……」

 

 長く戦いたい相手じゃない。

 そう心に決めた爆豪であった。

 

 

 

 

 

 戦闘訓練開始。

 

「死ィねえ!」

 

 見敵必殺とばかりに繰り出した爆豪の奇襲攻撃。

 一刻も早くこの戦闘を終わらせたい爆豪にとっては当然の選択肢だ。

 だが、その成果が実ることはなかったようで……

 

「すごい! 緑谷さんの言ったとおりだ」

「やっぱりかっちゃんなら来ると思った」

 

 爆豪の奇襲を躱した二人。

 その反応は対照的で、驚いている麗日に対して出久はニコニコといつも通り。

 その姿に爆豪は思わず舌打ちをする。

 

「チッ、俺の行動パターンなんざお見通しってか? ムカツクなァ!」

「いやだなぁ、かっちゃん。僕がかっちゃんのことを何でも知ってるの分かってるくせに」

 

 睨まれているのに嬉しそうに笑う出久。

 その姿にイライラがさらに溜まる。

 

「そういうわけだから、かっちゃんの相手は僕がするね。麗日さんは先に行って」

「うん! 任せたよ、緑谷さん!」

 

 爆豪の相手をするという出久に、麗日もその方がよいと判断して承諾する。

 当然、妨害しようとする爆豪だったが、出久の吐き出した炎によって遮られて先を許してしまった。

 麗日の走り去った方向を睨みつけてまた舌打ちをする爆豪。

 怒っているように見えるが、内心は別の事を考えていたりする。

 

『俺と出久(こいつ)を二人きりにすンじゃねえよ!』

 

 戦々恐々としていた。

 この幼馴染と一緒の空間にいるのが耐え難かったり。

 さっさと終わらせてやるとばかりに、攻撃を仕掛ける爆豪だったが――

 

「右の大振りが癖なんだよね。知ってるよ」

「クソ! 俺の動きが読まれてやがる!」

 

 何度攻撃を仕掛けても、簡単に対処されてしまう。

 それも見てから動くのではなく、完全にこちらの動きを予想された形で。

 なかなかヒットしない攻撃を歯がゆく思っている爆豪に向けて出久は告げる。

 

「僕ね、かっちゃんのことには何でも敏感でいろいろ覚えちゃったんだ。かっちゃんの考え方とか思考パターン、身長とか体重とか体のサイズなんかも当然知ってるよ? あと、走るときや歩く時の足音、汗の臭い、吐息の臭いなんかも。あ、特に声とかよくわかるんだ。調子とか言い方とかで今どんな気持ちなのかとかもよくわかるんだよ? 今は……あれ? どうして、怖がってるの? 一体、何か怖いことでもあったの? かっちゃん?」

 

 不思議そうに首をかしげる出久のことが理解できない。

 どうしようもない恐怖にかられた爆豪は、個性を利用したスタングレネードで視界を奪い……逃げ出したのだった。

 

 

 

 出久から逃走し、目に留まった部屋に駆け込む。

 雑多に物が置かれた場所で、隠れるにはうってつけの場所だった。

 物陰に身をひそめ、息を整える。

 

「何なんだよ、チクショウ」

 

 こうして無様に逃げ出しているのだが、それを屈辱と思える余裕はなかった。

 ぶっちゃけ、怖すぎである。

 俺の幼馴染がこんなにホラーなわけがない。

 そう現実逃避したくなる爆豪であった。

 

「~~~~♪ ~~~~♪」

 

 そうしているうちに、出久の声らしきものが聞こえてきた。

 

「あいつ、歌ってやがる」

 

 声、ではなく唄だった。

 しかも童謡。唄のタイトルは『かわいいかくれんぼ』

 爆豪としては笑えないタイトルである。

 

 その唄では、ひよこも、すずめも、こいぬも、最後には全員見つかってしまうのだから。

 たとえ、どんなに上手に隠れていても……

 

 ガチャリと音がして部屋のドアが開く。

 息を殺し、必死で自分の存在を隠そうとする爆豪。

 対して出久は楽しそうに声を上げた。

 

「かっちゃーん。どぉこに、いったのかなぁ? かくれんぼなんて、久しぶりだね。ちっちゃいころよくやったよね? 楽しいねぇ、かっちゃん」

 

 まったく楽しいとは思えない爆豪。正直ツッコミたいが、声を出すのも恐ろしい。

 部屋を歩く出久はスンスンと鼻を鳴らして部屋をうろつく。

 

「かっちゃんの臭いがする……やっぱりここにいるんだよね? おーい、出てきてよぉ。大丈夫だからさぁ」

 

 その言葉を信じて出ていったらデッドエンドの気配しか感じない。

 身動き一つせず、気配を殺す爆豪。

 しかし、その努力が報われることはなかった。

 

「アハ! 見ィつけた!」

「クソが!」

 

 見つかってしまった爆豪は出久を押しのけて出口のドアに走る。

 そうしてドアノブを回そうとして……その手は宙を切った。

 

「なん……だと!」

 

 ドアノブがドロドロに溶解して原型をとどめていなかった。

 犯人はもちろん、彼女だ。

 

「逃がさないよ、かっちゃん」

「デク、おまえ……」

 

 振り返れば、チロチロと口から火を吹きながら近づいてくる出久の姿が。

 これは、かなり危険な状態だ。長年、不本意ながら一緒にいた爆豪にはよくわかる。

 キレる寸前だと。

 

「どおして、僕から逃げるの? おかしいなァ、かっちゃんがどこかに行くはずがないんだから……

 どこにも行かないように、ちゃんと捕まえておかないとね」

 

 一歩一歩近づいてくる出久に、爆豪は動くことができなかった。

 そうして、爆豪は……捕まってしまったのだった。

 

「やーっと、捕まえた。もう、逃がさない」

 

 そうして、そのまま時間切れとなりヴィランチームの勝利に終わったものの、爆豪は正直喜べなかった。

 戦闘訓練、いいとこ無しだ。

 その後の講評でも「逃げ腰」「根性がない」「臆病」などなど、散々な言われようだった。

 まぁ、実情を知らないからこその言葉なのだけれど。

 あれは本人にしか分からない恐怖なのだから。

 

 放課後、傷心の爆豪は落ち込んだ気分で一人教室を後にする。

 出久には「一人にさせろ」と告げてきたのでついてきていないはずだ。たぶん。

 そんな爆豪に声をかける人物がいた。

 

「爆豪少年!」

「……オールマイト」

 

 今日の授業を担当していたオールマイトだ。

 あまりの情けなさに声をかけに来たのだろうか、と、ネガティブな感情に捉われてオールマイトに向き合う爆豪。

 予想に反してオールマイトのその表情は、なんというか、とっても同情的だった。

 

「爆豪少年。今日の戦闘訓練だが……クラスのみんなには聞こえていなかったが、私は教師として音声を聞いていたんだ。

 その、あれだ、大変だったな。そして、よく頑張った」

「オ、オールマイトォ……」

 

 あれは怖かっただろう。正直私も背筋が凍ったよ。

 と、自分を理解してくれる相手がいて思わず涙がこぼれそうになる爆豪であった。

 生徒のアフターケアもばっちり。オールマイトは本当にいい先生である。

 

 

「憧れのオールマイトとお話しできてよかったね。嬉しいよね。かっちゃん?」

 

 その姿を、出久が校舎の窓から笑顔で見ていたのだった。

 

 

 

オマケ 『没案・Aルート』

 

 出久から再び逃走し、目に留まった部屋に駆け込む。

 雑多に物が置かれた場所で、隠れるにはうってつけの場所だった。

 どこかに隠れようと考えた時に、見つけたのは掃除用具を入れるためのロッカー。

 人一人くらいなら簡単に隠れられそうな場所だ。

 

「かっちゃーん。どこに行ったのかな?」

 

 どうしようかと迷う暇もなく出久の声が聞こえてきたので、急いで中に隠れる。

 数秒後に出久が部屋に入ってきた気配がした。

 ロッカーのわずかな隙間から外の様子を伺えば、出久が部屋をうろついている姿が見えた。

 息を殺し、目を閉じてジッと耐える。

 額から汗が噴き出して流れ落ちていくが、拭うことすらできなかった。

 

 暫くしてドアが閉じる音がした。

 どうやら出久が出ていったらしい。ホッと息をついて汗をぬぐった爆豪はそこでようやく異変に気が付く。

 

「暑い……いや、熱い!?」

 

 慌ててロッカーを開けようとして、金属製の開き戸が熱を持っていて触れることができない。

 隙間から外を覗けば、部屋の中は火の海と化していた。

 

 逃げ場がない。

 そう絶望する爆豪に出久の声が届く。

 

「僕を拒絶して逃げるなんて……許さない。許さないよ、かっちゃん。僕がこんなに愛してるのに、それを受け取ってくれないなら……いっそのこと」

 

 

『安珍ルート』

 没理由:爆破で余裕で脱出できそうなので。あと、これ、デッドエンドじゃん。だめでしょう。いろいろと。

 




最近はかっちゃんに厳しめの話ばかり書いてたから、かっちゃんがすごく愛されてる話を書こうと思ったんだ。
滅茶苦茶愛されてる話になったよ。よかったね、かっちゃん!

……どうしてこうなった?

作中で歌詞は載せていないつもりなのですが、これはアウトなのだろうか?
問題があったら修正せねば。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。