たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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思いがけず、反響があったので筆がはかどりました。

2018/09/26投稿


いずく功夫H その2(小ネタ)

その1『老・人・再・会』

 

 ヘドロヴィランの事件で実力を見せつけた出久であったが、その本人は修行を続けており、まだまだ満足していなかった。

 しかし、10年の歳月も一つの武術書を読み込めば新しいモノなどそうそう得られるはずもない。

 緑谷出久は伸び悩み、つまり壁にぶつかっていたのだ。

 

「なかなか上手くいかないな……」

「何かお困りかな? 少年」

 

 学校からの帰り道、思わずつぶやいた一言に返事をする人が。

 声の方向へ首を向ければ、そこにはいつぞやの老人の姿があった。

 

「あ、あなたは!?」

「む?」

 

 出久が驚いた顔をしているのを見て、一瞬だけ『おや?』というような顔をした老人であったが、すぐに顔をほころばせて話しかけてきた。

 

「おお、あのときの。見違えたぞ。立派に功夫を積んでおるようだな」

「おかげさまで! 覚えていてくれたんですね」

「うむ! しかし、そんな君が何を悩む?」

「じつは……」

 

 思わぬ再会に喜ぶ出久は、これも何かの縁とばかりに悩みを打ち明ける。

 最近、武術が向上している感覚がない。どう修行しても身についていく実感が湧かない。

 そう心中を洩らす出久に、老人は顎髭を撫でながらしばし考えこむ。そして何かを納得したように語りだした。

 

「今の君に足りないものは心の修行だろうの」

「心の、修行?」

 

 おうむ返しに聞き返す出久に頷いた老人は、解説を始めた。

 

「“一胆・二力・三功夫” この言葉を知っておるかね? これは武術を練るにあたって一番大切なことはまず度胸。すなわち心であるという言葉だ」

「僕に度胸が足りないということでしょうか?」

「結論を急ぐでない。そう慌てなさんな、若者よ。要は技と体の修行をしても効果を感じないというならば、心の修行をしてみてはどうか? という提案じゃよ」

 

 日本にも“心技体”という言葉があるだろう?

 と、告げる老人の言葉にどこか納得した様子の出久。

 こう言われてみれば、心の修行というのも分るような気がするのだ。

 しかし、心の修行と言われても何をしたらよいものだろう? そんな疑問が頭に浮かぶ。

 

「心配するな。儂に良い考えがある」

 

 出久の疑問を見透かしたように、老人は胸を叩いて自信ありげに言ってのけた。

 

 

 ――市営多古場海浜公園

 

 出久の住む街に近いこの海浜公園は、もともと漂着物が流れ着きやすい場所であるということもあり、それに便乗して不法投棄が横行してみるも無残な状態になっている。

 そんな状態の砂浜に来て何をするのか?

 

「さあ、ここのゴミを片付けていくのだ」

 

 清掃活動である。

 

「あの、理由を聞いても?」

「もちろん。考えなしに清掃活動というわけではないぞ。」

 

 理由を尋ねる出久に、老人は丁寧に説明をしていく。

 精神修行をするといえば、思いつくのは座禅をして瞑想したり、滝行などの苦行を受けたりなどが思いつく。

 それをしても悪くはないが、一番簡単なのは感謝や思いやりの心を持って活動することだという。

 そういった人への感謝・思いやりの心というのは人間的な成長につながるものだ。

 そういった感謝・思いやりを分かりやすい形でできるのが奉仕活動だと告げる。

 

「人としての成長がまた武術を深めていくものなのだよ」

「は、はあ……」

 

 いまいち理解しきれない出久であったが、なんとなく腑に落ちるところもあって一応頷いておく。

 まぁ、ゴミ山を片付けていくのもよい修行になるだろうと納得させた。

 

「やれやれ。若者に無償の奉仕をさせるというのも酷な話じゃしの。よし、頑張って片づけを終えたら、新しく武術書を譲ってやろう。それも2冊もだ!」

「本当ですか!?」

 

 出久のやる気を出させるために分かりやすい“ご褒美”を見せる老人。

 張り切った出久は、熱心にゴミ掃除を始めたのだった。

 

 

 そして、わずか三か月後。そこには綺麗になった海浜公園が!

 

「うむ。見事じゃ。約束通り、武術書を授けよう」

「ありがとうございます!」

 

 満足そうに頷く老人から武術書を受け取る出久。

 海浜公園の掃除を通して、身体も鍛えられたのかさらに引き締まった体が出来上がっていた。

 雄英高校入試までの残り7か月間。出久は新たな武術の習得に費やしていくのであった。

 

 

 

 とあるスクラップ・廃品買取業者にて。

 

「おや、じいさん。いつもいつも、どっからそんな大量に持ってくるんだ?」

「まぁ、あるところにはあるものさ。さ、いくらぐらいになる?」

「えーっと、だいたいこのくらいの値段で――」

 

 

 

その2『毎度恒例の……』

 

 雄英高校ヒーロー科入学実技試験にて。

 

五行山・釈迦如来掌!

 

 巨大な掌の形に体を凹まされ、吹き飛ばされる0Pヴィランロボ。

 地面にゆっくりと倒れながら彼は何を思うのだろう。

 

『……知ッテタ』

 

 どうあがいてもぶっ飛ばされる0Pヴィランの哀しき宿命であった。

 

 

 

その3『ほんのご挨拶です』

 

 無事に雄英高校ヒーロー科に入学し、A組に在籍することとなった緑谷出久。

 そんな彼の元を訪れる一人の影があった。

 

「あんたが緑谷出久かい?」

「そうだけど……君は?」

「わたしは拳藤一佳。1年B組ヒーロー科所属だよ」

 

 A組の教室を出たところで話しかけてきたのはオレンジのサイドポニーを肩より少し伸ばしたくらいの女子生徒だった。

 要件は……と、聞こうとしたところで相手の目を見て気が付いた。

 というよりも、おのずと察することができた。

 

「分かってるみたいだね」

「……うん」

 

 首を縦に振る出久。

 次の瞬間には拳藤の右手の手刀が首筋を狙っていた。

 

「ハッ!」

「フッ!」

 

 左肘で手刀を跳ね上げ、右の肘撃を即座に打ち込む。

 が、それは相手の左の掌に受け流され、その勢いのまま体を回転させて反撃につなげられてしまった。

 出久の後頭部を狙う一撃を身をかがめ躱す。その低い体勢から腕を鞭のようにしならせて振り上げる。

 半身になって躱す拳藤。

 反撃、対応、即反撃。

 めくるめく攻防を両者の立ち位置を入れ替えながら行う姿は、まるで一種の舞踊のようで誰も近づけなかった。

 

「破ッ!」

「喝ッ!」

 

 出久の震脚を伴う背中からの体当たり=鉄山靠と拳藤の両手の掌打がぶつかり合い、距離をとる二人。

 しばしの静寂の後、二人は何事もなかったかのように右拳を掌で包む抱拳礼をして笑い合った。

 

「いやぁ、武術をやってるっていうから試しに来たら、八極拳と劈掛掌とは驚いたよ。噂通りの防御を打ち破る力強い武術だね」

「そっちも、凄いね! 変幻自在の八卦掌。身をもって体感したよ!」

 

 先ほどの拳を交わし合っていたのがウソのように談笑する二人に、周囲は呆然としている。

 そしてなんとなく思うのだった。

 

『これが武術家の挨拶ってやつなのかー』

 

 映画のワンシーンのような演武を見た周囲はウンウンと頷き始める。

 なんとなく、理解したような気持になっていた。

 そんな中、一人首を傾げる人物が。

 

「いや、普通じゃないからね。武術やってる人みんなこういうわけじゃないから!」

 

 A組所属。尾白猿夫。

 武術経験者という特徴があるが、“ザ・普通”の生徒である彼はツッコミを入れざるを得なかった。

 というか、トンデモ武術家がいては、彼のアイデンティティはどうなるのだろう?

 

 

蛇足・解説

『その1』

 再び現れた謎の老人。

 それは偶然か? それとも意図して接触してきたのか?

 心を鍛えるべく、海浜公園での奉仕活動。これは本当に心の修行が目的か? それとも出久を利用して廃品回収で金銭を得るためか?

 答えはあなたの心次第です!

 どちらとも受け取れるように書いたつもりなので、好きに想像して楽しんでいただければと。

 個人的には、中国武術の師父ってこう、食えないところとか怪しいところがある感じが好きです。

 

『その2』

 拙作のシリーズではたいていぶっ壊される運命にある0Pヴィランロボ。

 だが、僕だけではないはずだ! ヒロアカ二次を書いている作者なら、雄英に生徒として入学させるときにぶっ飛ばすのが定石だろォ!?

 0Pヴィランさん、ごめんなさいね?

 

『その3』

 前回の感想で、「武術やってるなら拳藤さんがヒロイン?」というコメントがあったので、頑張って絡ませてみました。

 こんなキャラだろうか? 彼女……

 物間くんを手刀で黙らせている印象が強いからか、握りこぶしで打つ武術よりも、掌を開いたままで戦う印象があったので独断と偏見で八卦掌の使い手になって頂きました。

 彼女の武術、どんな感じなんだろう?

 とりあえず、武術家は挨拶代わりに手合わせしているとカッコいいよね!

 




B組に中国出身の子がいるけど、あえてスルー。
蟷螂拳とか使いそうな子もいるけど、スルー。
B組の情報が、足りない!

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