たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

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生存報告と息抜きを兼ねて投稿です。

2019/01/14投稿


いずく功夫H その3(USJ編)

 ――雄英高校 USJ(ウソの災害や事故ルーム)

 

 雄英高校が誇る各種災害・事故を再現した救助訓練施設。

 ヒーロー科1年A組がその場で受けるはずだった救助訓練は、“ヴィラン連合”を名乗る集団の襲撃により生死を賭けた戦闘に早変わりしてしまっている。

 敵のワープの個性により、バラバラに分断される生徒たち。

 出久もまた、分断されてしまった生徒の一人だ。

 

「ブッ殺してやる!」

「覚悟しやがれ、クソガキども!!」

「な、嬲り殺そう……手足から、ズタズタに、しっしよう」

 

 飛ばされたのは海や河川での活動を想定して作られた巨大なプールのある水難ゾーン。

 その水場に一つだけ浮かぶ大型のプレジャーボートに逃げ込んだものの、周囲を水中に適性があるヴィランたちに囲まれてしまっていた。

 

「どぉすんだよ!? 囲まれちまったぞ!!?」

「冷静になりましょう、峰田ちゃん。叫んだって何も変わらないわ」

 

 出久と共に同じエリアに飛ばされた峰田と蛙吹が出久の隣で話をしている。

 突発的な襲撃に混乱する峰田。それを落ち着かせようと声をかける蛙吹。

 両者ともに反応は違うが、現状を打破する方法は思いついていない様子。

 一方、出久はというと……

 

「どうしよう、どうしようか……」

「おまえまで不安になるようなこと言うなよ。気持ちはわかるけどさぁ!」

 

 顎に手を当てて考えこんでいる。

 打開策が思い浮かばずに困っているように見えたのだろう、峰田がその様子を見て弱気な声を出す。

 が、その考えは的外れだ。

 

「どうやったら、一番早くあいつらを倒せる?」

「……何言ってんだよ、おまえ~!?」

「緑谷ちゃん、凄い自信ね」

 

 どうやったら一番簡単にぶっ飛ばせるかを考えていたり。

 もう倒すこと前提とか、この出久、好戦的である。

 驚く二人に対し、出久はあっけらかんと返事をする。

 

「え? いやでも、アイツらからそんなに強い気配感じないし……」

「こいつ地味な顔して何なんだよォ!?」

 

 周りを囲むヴィランたちを全く脅威と思っていない出久に峰田はドン引きだ。

 先日まで自分と同じ中学生だったとは思えない肝の太さ。

 というか、気配って何!?

 

「こいつらよりも気になるのは、やつらの“切り札”だよ」

「“切り札”? って、何のことだ?」

「最初にあいつらが宣言していたオールマイトを殺すっていう目的。その手段のことかしら?」

 

 出久の口にした懸念に首を傾げる峰田と、思い至った考えを口にする蛙吹。

 出久は蛙吹の言葉に頷いて持論を述べ始めた。

 

「雄英を襲撃してオールマイトを殺すって言うくらいの相手だから、当然その手段は用意してるはずだよ。それに、アイツらが出てきた時にひと際重たい気を感じたんだ。……きっとアレがオールマイトを倒す切り札だ」

「おまえが何を言ってんのか全部は分かんねえけど、そんなヤバそうなやつがいんだろ? じゃあ、オラたちが行ったところで意味なんてないんじゃ――」

「だからこそだよ! オールマイトが苦戦するかもしれない相手がいるのに、僕たちの救助までしなきゃいけなくなったら、それこそオールマイトの足を引っ張ることになる!」

 

 オールマイトに対抗できる敵がいるからこそ、オールマイトが憂いなく戦えるようにそれ以外の敵を倒しておくべきだと強く主張する出久。

 その言葉は尤もだが、出来るかどうか不安で仕方がない峰田。

 だから、気って何なんだよ。何を感じてるんだこいつは。などなど、ツッコミどころが多くて言葉が出てこない。

 そんな気持ちを察したわけではないだろうが、話題を変えて蛙吹が出久に疑問を投げかける。

 

「緑谷ちゃんの考えは分かったわ。でも、この現状をどうにかしないと何も始まらないわ」

「うん。それなんだけど……僕に一つ考えがあるんだ」

 

 対応を考えなければと口にする蛙吹に、出久は考えがあるという。

 そのアイデアを告げられた二人の反応はというと――

 

「おまえ、バッカじゃねーのぉぉお!?」

「緑谷ちゃん、クレイジーね」

「え、ええっ!?」

 

 かなりぶっ飛んだものだったらしい。

 結局すったもんだの末に、時間もないということで出久の案が通ったのだが。

 それでも峰田は最後まで文句を言っていたのだった。

 

 

「クソガキども、全然動かねえな」

「埒が明かねえ。さっさとブッ殺そうぜ」

「まぁ、待て。ガキどもの個性が分からねえ。うかつなことはすんな」

「っても、よぉ。ずっとこうしてるわけにはいかねえだろ。軽く小突くくらいいいだろ」

 

 動かない出久たちに焦れて攻撃を仕掛けようとする空気が強くなる。

 さあ、攻撃だ。と、思ったところで、船から何かが飛び出してきた。

 動きを止めてその飛び出してきたものに目を向ければ、それはマントをはためかせて飛ぶ人影であった。

 

「なっ、空を飛べる個性があったのか!?」

「にしちゃあ、悲鳴あげてねえか?」

 

 空飛ぶ人影。あれは誰だ? 鳥か? スーパーマンか?

 いや、峰田だ!

 

「うああああ! フザけんなよ、緑谷ぁああ!!?」

 

 悲鳴を上げながら宙を飛ぶ峰田。当然、自分の力で飛んでいるのではない。

 彼は出久によってぶん投げられたのだ!

 

 出久の作戦の第一は、水上で囲まれているという不利な状況を脱出することだった。

 相手は水中での活動に特化した編成をしていると考えられる。

 対してこちら側は水中戦ができそうなのは蛙吹くらいしかいないという、地の利も数の利もない状況。

 この状況を脱するためにとれる手段は何か?

 考え付いたのは――空中を行くというトンデモな手段だったわけである。

 どうしてこうなった?

 

「よし! 行くよ、蛙吹さん!」

「どこからそんな力があるのかしら。あと、梅雨ちゃんと呼ん――――ケロォ!?」

 

 峰田を投擲した出久は続けて蛙吹を腕に抱えて船縁を強く蹴り、宙へ飛び出す。

 急に姫抱きにされた蛙吹は思わず驚いた声を上げてしまっていた。

 

「な、なんじゃそりゃあ!?」

「ロープアクションかよ!?」

 

 上を見上げ、口を開けて呆然としているヴィランたち。

 空中を駆けるように高速で跳んでいく現実離れした出久の姿に頭が理解を拒否してしまっている。

 何の妨害も受けなかった出久は途中で峰田をキャッチして、見事、岸に渡り切った。

 

「うまく、いったぞ!」

「オイラ生きてる、生きてるよォ」

「ケ、ケロォ~」

 

 もう離れないと地面に縋りつく峰田に、言葉も出ない蛙吹。

 うん、衝撃体験だった。敵も味方も。

 

 その衝撃から立ち直ったヴィランたちが岸に押し寄せてくる。

 さあ、作戦の第一段階は終わった。

 次はどうする?

 

「や、やべえ。緑谷、どおすんだよ?」

「大丈夫。任せて」

 

 迫りくる敵に怯える峰田に笑みを見せた後、軽く目を閉じて息を整える。

 数瞬後、カッと目を見開いてヴィランたちへ鋭い視線を向けた。

 

失せろッ……

 

 相手を威圧する気迫を込めた一睨みは、チンピラに毛が生えた程度のヴィランに耐えられるものではなかった。

 耐えきれずに次々と意識を失っていくヴィランたち。

 視線一つで相手を殲滅だった。

 

「な、なにをしたの? 緑谷ちゃん」

「えっと、気当たりっていうんだけど――」

 

 動物が威嚇されて本能的に動けなくなる現象がある。

 人間にもその本能が残っており、それを気をぶつけて引き起こす技を使ったのだという。

 正直説明されてもよくわからないが。

 

「じゃあ、なんで先に使わなかったんだよォ?」

 

 最初から使っていればよかったのにと峰田が文句を言う。

 自分が危険な空中の散歩をする必要などなかったのではないかと思うのは当然だろう。

 

「囲まれてたから、やろうとすると峰田君も巻き込まれてたんだけど……」

「……そんなぁ」

 

 空中散歩(命綱無し)と威圧で気絶していたの、どちらが良かったのだろうか。

 判断に迷って、口ごもる峰田であった。

 

「とりあえず、緑谷ちゃん。下ろしてくれないかしら」

「あっ、ごめん!」

 


 

「先生を離せ!」

 

 気が付けば出久は敵の真正面に飛び出してしまっていた。

 黒い肌にむき出しの脳みそという気色の悪いヴィランに取り押さえられ、腕がありえない位置で折り曲げられた相澤先生をただ見ていることなどできなかったのだ。

 

「威勢のいいガキがいるじゃないか」

「よせ、止めろ。緑谷!」

 

 それを面白いモノでも見つけたように嗤う死柄木と必死に制止する相澤先生。

 

「破ッ!」

 

 気合裂帛。

 体重を乗せた掌底を黒肌のヴィランに向けて打ち込んだ。

 が、しかし――

 

「効いて……ない……!?」

 

 後方へ吹き飛ばすつもりで撃ち込んだ攻撃が効いておらず、驚愕を隠せない出久。

 身体に染み付いた反応で相手からの攻撃を回避するものの、鍛えた武術が通用しない事実にショックを受けていた。

 

「無駄無駄。こいつは改人・脳無。ムカつくオールマイトをブッ殺すために用意した特別品さ」

「やっぱり、オールマイトを倒すための切り札だったのか」

 

 死柄木が自慢気に黒肌のヴィラン=脳無について説明を始めた。

 オールマイトを倒すために複数の個性を与えられた改造人間であり、オールマイト並の素のパワーに加え、攻撃を無効にするショック吸収やダメージを回復する超回復などの個性を持っているという。

 わざわざ手の内を晒したのは、実力差を示して出久を脅してやろうという意図に加えて脳無自体への信頼が見て取れた。

 いや、そこまで高尚なものではないかもしれない。

 死柄木のその目には、弱い相手をいたぶってやろうという昏い愉悦が浮かんでいたのだから。

 

「もうイレイザーもぼろ雑巾だしなァ。生徒一人を滅茶苦茶にしてやった方があの男は悔しがるかもなァ」

「おい、止めろ! ぐあっ!」

 

 出久にターゲットを移した死柄木を止めようと声を上げるが、重傷を負った身体ではいかんともできず昏倒させられてしまう相澤。

 救援もなく対“平和の象徴”と相対することとなった出久は必死で打開策を考えていた。

 

『どうするどうするどうする!? “ショック吸収”の個性? なら打撃は駄目か? 関節を破壊して動けなくする? 駄目だ! “超回復”の個性がどれくらいのモノか分からないけど、口ぶりからしてかなりの重傷でも回復できると考えていい。 締め技? 駄目だ。カウンター? 駄目だ。防御専心? 駄目だ駄目だ駄目だ!』

 

 複数の個性を持つ脳無に対して打開策が思い浮かばない出久。

 行き詰った時には、初心に戻る。

 そう心を落ち着かせた出久は、老人から貰った三冊の武術書の内の一冊の冒頭を思い起こした。

 

「そうだ。相手が防御を固めるのなら、それを打ち破る一撃を放つのみ、だ!」

 

 “ショック吸収”ならば許容限界量があるはず。その許容限界を上回る一撃を打ち込むしかない。

 そう覚悟を決めた出久は堅く拳を握りこんだ。

 

「なんだ、やる気か。あのガキ。いいぞォ、やっちまえ脳無」

「ハァアアア!」

 

 脳無を出久へけしかける死柄木。

 高速で接近してくる脳無へ対し、出久は強く一歩を踏み出した。

 

 ドン、と、地を震わせる震脚が足から胴体、腕を通し拳へ伝わる。

 身体のひねり、突き出す腕の動き。それらすべてを乗せて拳が脳無に直撃する。

 

八極拳 絶招 无二打(にのうちいらず)・猛虎硬爬山

 

 肉を打ったとは思えない、大きな破裂音が響き渡る。

 一瞬の静寂。

 そして音を立てて人が倒れ伏した。

 

 立っているのは…………出久だ。

 

「そんな、馬鹿な!?」

 

 切り札である脳無が一撃で倒されて目を見開いて驚く死柄木。

 ショック吸収の許容限界を超えたダメージを受けて、脳無は口や鼻から血を噴出して倒れていた。

 内臓にひどいダメージがあるからか、なかなか超回復でも回復しきれないようだ。

 想定外の事態にストレスから首をかきむしって、わめきたてる。

 

「おまえっ、何をした!? 何の個性だ? 何をやったら脳無が一撃で倒される!?」

「……“その威、八方の極遠に達す。ゆえに八極拳”」

「八極拳? なんだよ、それ。脳無がただの武術にやられたっていうのか!?」

 

 個性ではなく武術の技によってなされたということが信じられない死柄木。

 混乱する彼に追い打ちをかけるように、腹心である黒霧が悪い知らせを運んできた。

 

「死柄木弔、悪い知らせです。生徒一人に逃げられました。じきにヒーローの救援がやってくるでしょう」

「……は?」

 

 黒霧の言葉に動きが止まる。

 しばし硬直した後、死柄木は大きくため息を吐いた。

 

「はぁーー。お目当てのオールマイト(ターゲット)にも出会えてないのに、脳無はやられてる。ついでにヒーローの救援が来るゥ? ゲームオーバーだ、完全に詰んだぜ! 何なんだよ、この結果は!!」

 

 望まない展開に激昂する死柄木だったが、すぐに気分が落ち込んだように肩を落とし呟く。

 そして、撤退を決定した。

 

「おい、緑色のクソガキ。いつかてめえはブッ殺す。覚えておけ」

「……負けない!」

 

 ワープゲートの個性に体を沈めながら出久を睨みつける死柄木。

 出久は真っ向からその視線を受け止めた。

 

 

 この先、何度も戦いを繰り広げる雄英高校ヒーロー科とヴィラン連合。

 その中でヴィラン連合からターゲットとしてことさら出久が狙われるようになるきっかけとなる事件となったのだった。

 

========================

 

 ――ヴィラン連合、アジトの一つ。

 

 車いすに座った顔のない男が笑い声をあげる。

 

「そうかそうか、武術家か。そんな時代遅れの人種がまた新しくでてくるとはねぇ」

 

 感慨深そうに言葉を口にする“先生”と呼ばれる男。

 超常黎明期から生き続けているこの男は、過去の時代に思いをはせる。

 

 超常が当たり前ではなかったころ、武術は力を得るための手段と目的の一つだった。

 その研鑽のために殺し合うことなど裏社会ではよくある話であったのだが、超常が広がるにつれて廃れていった。

 なにせ、武術一つ極めて達人になるよりも、持って生まれた個性を鍛えたほうが圧倒的に早く強くなれるのだ。

 例えばだが、パンチ一つ強くするのと、口からより強い火を吹けるようになる。どちらが早く、強くなれるかと言えば圧倒的に後者だろう。

 

 そんな時代の流れもあって武術家という存在は廃れていったわけだが、まったくいなくなったわけではない。

 そして、その少数派の生き残りたちは自分の腕を試してみたくてウズウズしている。

 ここに新たに生まれた年若い武術家の存在を、彼らに教えたらどうなるだろう。

 

「フフッ、なかなか楽しいことになりそうだねぇ」

 

 波乱の予感がする。




悪堕ちが全然筆が進まないので、ちょっと気分転換に思いついたのを書いてみました。
描き始めた理由?
そんなの老書文師父が格好よかったからに決まってます!(なお、未召喚)

遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。
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