『たとえばシリーズ』の新作投稿です。
いずくギミー
世界総人口の約八割がなんらかの特異体質を持つ超人社会となった現在。
かつての超常・異能は、“個性”と呼ばれ日常にある当たり前の存在となっている。
世代を重ねるごとに個性は混ざり深化し、より強力により複雑になってきているという。
「やがて強すぎる個性はコントロール不能になり、社会が崩壊する」
そんな“個性特異点”と言われる終末論が囁かれるほどに、人類の持つ超常・異能の深化は進んできている。
「超カッコイイなああ!! 僕も“個性”が出たらこんな風になりたいなああ!!」
No.1ヒーロー「オールマイト」の活躍する動画を見て無邪気にはしゃぐ緑谷出久四歳。
子供らしくヒーローに憧れる姿に母の
『私の“ちょっとしたもの引きつける”個性と夫の“火を吹ける”個性じゃ……期待はできないかしら』
両親そろって持っているのは、世間で活躍するヒーローたちに比べればなんてことはない弱い個性。いわゆる“没個性”というやつだ。
そんな自分たちの個性がどう息子に遺伝するかわからないが、息子が望むような超カッコイイヒーローになれるような個性が発現する可能性は低いだろう。
彼女はそう考えていた。
それは半分正しく、そして半分間違っていたのだと後に知ることとなる……
事件は出久が友人たちと遊んでいたときに起きた。
おかしのおまけとしてついてくるヒーローカードを集め、それを持ち寄って友達と見せ合うという楽しい時間を過ごしていた時のこと。
「ヘヘン! スゲーだろ! スーパーレアのオールマイトのカードだぜ!!」
友達の一人が自慢げに見せるのは各シリーズごとに1種類しか入っていない超激レアヒーローカードだった。
大人と違い手に入れることができる数が限られる子供にとって、相当運がなければ手に入らない代物。それを持っているだけで周りからヒーロー扱いされるのは間違いなかった。
「うおお! オレにも見せてくれよ!」
「おい、次は俺だろ! 順番は守れ」
「スゲー、ほんとスゲー!」
激レアカードに群がる子供たち。
出久も興奮して一目見せてもらおうとその友達を囲む一人となっていた。
カードが回ってくる順番を待つ間、そのカードのことを思う出久。
『いいなぁ、オールマイトのスーパーレア!! 僕も
母親に頼んでお菓子をまた買ってきてもらおうか?
そんなことを考えていると、なんだか騒がしい。
ふと顔を上げると、カードを当てた友達が慌てた様子で声をあげていた。
「消えた! カードが消えちゃったよ!! ちゃんと手に持ってたはずなのに」
「俺も見た! 今一瞬で消えたよな!?」
「えーっ!? 何が起きたんだ?」
どうやらカードが突然無くなってしまったらしい。
大変だ、一緒に探さないと。
そう思った出久の手には、そのレアカードが握られていた。
『な、なんで?』
何が起きたのかわからず、その無くなったカードが自分の手の中にあることに混乱する出久。
このときにカードがあったと周りにすぐ伝えられていれば、この後のつらい出来事はなかっただろう。
だが、間の悪いことに友達の一人が出久の手にカードがあることに気が付いてしまった。
「あーっ、出久のやつがカード持ってる!」
「ホントだ、いつの間に」
一人が叫んだことで全員の視線が出久に集中する。
思わぬ注目を浴びてビクリと固まってしまった出久に、カードを持っていた友人が怒鳴り声をあげた。
「返せよ、オレのカード! 返せ!!」
「あっ……」
その友達は急に自分の宝物が無くなった恐怖もあったのだろう、そのせいで強く出久を責め立てるものになってしまっていた。
そんな騒ぎの中にあれば、正義感から動く子供が出てきてもおかしくはない。
「うっ、痛っ……なにするんだよ、かっちゃん」
カードをひったくられ、突き飛ばされて尻餅をつく出久。
それをしたのは、幼馴染の
地面に倒れた出久を見下ろしながら、勝己は義憤に燃えた目で睨みつけて言う。
「おい、出久ゥ! いくらオールマイトのカードが欲しいからってドロボウしてんじゃねえよ!」
「な、僕はドロボウなんてしてないよ!」
子供らしい短絡的な発想で出久がカードを盗んだと断言する勝己。
もちろん出久は盗んでいないと主張するが、元来気弱な性格の出久とリーダーシップがあり友人たちの中心となるガキ大将的な勝己とではその発言力の差は明らかだった。
「じゃあ、なんでテメエがカード持ってたんだよ?」
「分かんないよぉ」
「ふざけてんのか、アァン?」
何より出久本人ですら何が起きたのか分かっていないのだ。
身の潔白はもちろん、反論することさえ満足にできなかった。
「謝れよ、このドロボウ野郎」
「そうだそうだ、謝れよ」
出久に対し謝罪を要求する勝己に、場の雰囲気に同調したのか友人たちも一緒になって出久を責め立て始めた。
だが、出久もやってもいない罪を認めることなどできできるはずもなく、精一杯自らの潔白を主張をした。
「僕は、やってない! 信じてよ」
「うるさい! この嘘つき!」
しかしながら、周囲の同調圧力のあるなかで出久の主張が認められることはなく。
出久は友達からドロボウ扱いされ、仲間の輪から追い出されることになってしまったのだった。
「出久くんの個性はとても強い個性だね」
歯車型のゴーグルをかけた白衣の医者が告げられた事実に母親の引子は驚きを隠せなかった。
先日、友達と喧嘩をして帰ってきたという息子から話を聞いた彼女は、息子に発現した個性が原因なのではないかと疑い、専門の機関を訪れることにしたのだ。
その予想は正しく、あの騒動は出久に発現した個性が引き起こしたことであることが分かったのだった。
それが出久に発現した超常の力であった。
母親の“ちょっとしたもの引きつける”個性が深化したもので、引子の個性のように物を少しずつ引き寄せるのではなく、望んだものを一瞬で手元に移動させる異能である。
分類するならば発動型の特殊な転移・空間系の個性といったところだろうか。
専門機関の中で行われた簡単な検査だけでも強力な個性であることが判明しており、正確には不明ながらも視界に入っているならば確実に有効範囲になっているという。
また、発動条件も呼び寄せたいモノを思うだけでよいという緩い条件しかない。
逆を言えば、この緩すぎる発動条件が最大のデメリットであった。
ちょっと欲しいと思っただけで発動してしまう条件。
それは幼い精神では制御することが難しい、厄介な個性であると言えた。
「そっか! 僕にも個性が出たんだ!」
そんな厄介さなど知らず、無邪気に喜ぶ出久。
幼い彼にはそれがどういうことをもたらすのか理解も想像もできていなかったのだ……
個性の検査を終えた翌日。
自分の個性のことを勝己たちに伝えるために家を飛び出す出久。
『かっちゃんたちも僕の個性のことを知ってくれたら分かってくれるよね』
友達と喧嘩別れになってしまったあの出来事は、あくまで個性の事故でありわざと盗んだのではなかった。
その事実を伝えることができれば、また元のように仲の良い友達に戻れる。
出久は、そう信じていた。
「なるほどなァ……テメエがやろうと思えば、いくらでもドロボウできるヴィラン向けの個性ってことだな?」
そう言って出久を警戒したように睨む勝己。
出久が自らの個性を伝えたところ、帰ってきた結果は彼の望んだものではなかった。
ヴィラン向けの個性という言葉に動揺する出久。
「ち、ちがうよ!」
「いいや、違わねえだろ? 人のモンをいつでもドロボウできる
盗みをするつもりなんてない、と主張し、自らの個性と潔白を改めて説明する。
しかし、早熟の天才肌で幼いながらに聡明であった勝己はその説明を聞いて出久の個性の危険性を理解してしまったのだ。
出久の個性はやろうと思えば誰にも気づかれずに物を盗むことが可能であり、ほかにも悪用しようと思えばいくらでも悪用できてしまう個性だ。
それは確かに事実だろう。
不幸なことに、勝己は出久の個性の危険性に気づくことができる年齢に見合わぬ聡明さは持ち合わせていた。だが、大人ほどの思慮深さはなく、年相応の子供らしい言動でその事実を扱ってしまったのだ。
「ヴィランみたいな個性持ってるヤツが俺たちの側に来んじゃねェよ!」
「ひ、ひどいよ。かっちゃん。僕はヴィランじゃないよ」
「アァン? そんな個性持ってンならヴィランみたいなモンだろ」
個性を理由に出久をヴィラン扱いして仲間から排斥しようとする勝己。
友人たちも勝己に合わせるように出久を責め立てる。
「そうだそうだ! あっちいけよ、ヴィランやろう」
「ドロボウなんかと一緒に遊ぶわけないじゃん」
子供というものは単純なもので、『悪いことができる個性を持っている』ことが『悪いヤツ』であることとイコールで簡単に繋がってしまったのだ。
彼らにとって目の前にいる出久は“人のモノを盗む悪いヤツ”という風に見えてしまっている。
そして、子供特有の無垢な正義感は時に無邪気に残酷な仕打ちをしてしまうものだ。
「そォだ。ヴィランなら悪いことする前に俺たちが退治しねェとなァ?」
「やっ、めて、やめてよ! かっちゃん」
「抵抗すんな、ヴィランめ!」
勝己が拳を振り上げて出久を殴打する。
それに続くようにほかの友達も出久を囲んで手を出し始めた。
人を殴るのは悪いことだと彼らは知っている。でも、彼らは悪いことをしているつもりは全くなかった。
だって、悪いヤツを退治するのは
あぁ、これはなんて残酷な“ヒーローごっこ”
友達だった人たちにボロボロにされながら、出久は思う。
『僕の個性は、悪いモノなんだ……』
友人たちから糾弾され、出久は自分の個性が悪いモノなのだと心に深く刻みつけられてしまった。
その心の傷は深く、とても深く……
『僕は……ヒーローになれない』
幼い夢を諦めるには十分すぎる
これは緑谷出久が齢四歳にして直面した残酷な現実。
過酷すぎる最初で最悪の挫折だ。
gimme:欲しがること、ねだること
リハビリがてら新作の短編を作ってみました。
個性を持っているけど原作以上にひどい思いをする出久くんでした。
久しぶりに書く話がこんなお辛い話になってるってどうなってるんだ……
幼少期編でこれって、本編開始のくらいになったらさらにお辛い展開にしかならないじゃん……
でも、最近あった本誌のトガちゃんの話とか見てると有る無しでいえばありそうなお話じゃないかと思ったり。
少年編のプロットもあるけど、どうしましょ。
次回もお楽しみに?