たとえばこんな緑谷出久   作:知ったか豆腐

55 / 60
思いついたので、予告なしの新作です。

2018/07/17投稿


いずくブレス

 世界総人口の約8割が何らかの特異体質となった超人社会において、それらの特殊能力は“個性”と呼ばれ、当たり前のものとして存在するようになっている。

 もはや社会の常識となったこの“個性”だが、世代を経るごとにだんだんと強力になっていく傾向があった。

 親から子へと引き継がれる個性は両親のモノと混ざり合い、深化していく。

 こうして世代を経ること強力になっていく個性は、いつか誰にもコントロールできなくなるのではないかという、「個性“特異点”」と呼ばれる終末論が起こるほどだ。

 

 日本のとある少年、緑谷出久もまた親の個性を深化して引き継いだ新世代の一人である。

 

 

=========

 

 ――雄英高校 グラウンド・β

 

 本日はヒーロー科一年A組の初のヒーロー基礎学。それもいきなりの対人戦闘訓練だ。

 ヒーロー側とヴィラン側に分かれて2対2で戦う形式のこの訓練。

 記念すべき最初の組み合わせは、ヒーロー側は切島・轟チーム。

 そして、ヴィラン側は爆豪・緑谷チームであった。

 

「一緒のチームだね、かっちゃん」

「足引っ張んじゃねーぞ、出久」

 

 爆豪に声をかける出久に、ぶっきらぼうに返事をする爆豪。

 二人の様子に険悪な雰囲気はなく、むしろお互い勝手知ったるといった様子だ。

 同じ中学出身どころか、幼いころから一緒にいた幼馴染だ。連携といった部分では全く心配がなかった。

 

「で? クソナードのてめえのことだ。もういくつか策は考えてあンだろ?」

「うん! それでなんだけど……」

 

 (防衛対象)のある部屋で待機していた時に、爆豪が出久に作戦を尋ねる。

 それに答えて出久が爆豪にそっと耳うちをした。

 

「ハッ、面白れェ! 分かってるじゃねえか!」

「まぁ、かっちゃんとは長い付き合いだし……好みの作戦くらいわかるよ」

 

 出久の案を聞いて獰猛に笑う爆豪に、出久が苦笑いを浮かべる。

 作戦も決まったところで、訓練開始の時間が近づいていた。

 

 

 戦闘訓練、開始。

 始まって早々に建物全体が氷で覆われていた。

 

「うおおお! 派手すぎんだろ!」

「向こうは防衛戦のつもりだろうが……俺には関係ない」

 

 もはや勝ったと悠々と核の場所へ向かおうとする二人。

 そんなヒーロー側の二人に、爆破の奇襲が襲い掛かった。

 

「死ィね!」

「なっ、爆豪!? なんで!?」

 

 硬化の個性を持つ切島がとっさに盾になりその場をしのぐものの、驚きを隠せない。

 すぐさま轟は氷結で反撃するも、爆豪のいたさらに奥から向かってきた炎によって相殺されてしまった。

 その正体に、轟はすぐに気が付いた。

 

「そうか。緑谷、おまえだな?」

「結構強めの火力だったんだけど、やっぱり相殺するので精一杯だ。最初の攻撃からわかっていたけど、凄いよ、轟くん!」

 

 口から比喩ではなく熱を帯びた息を吐きながら姿を現す出久。

 先ほどの轟の攻撃を打ち消したのは出久の個性だったのだ。

 防衛対象を無視して早期迎撃を選んだヴィランチーム。

 攻撃的な爆豪の性格と、相手の個性との相性を考えた結果の作戦だったりする。

 

「うっせえ! 敵の事誉めてる場合か、クソナード! ちゃっちゃと、ヤるぞ!」

「あ、ごめん! それじゃ、打ち合わせ通りに!」

 

 いつもの癖で個性の考察を始めようとする出久を一喝して戦闘を開始する爆豪。

 切島に向かっていった爆豪に合わせるように出久も轟と相対する。

 

「ぶっ殺す!」

「おりゃあ! 効かねえぜ、そんな爆破! もっとかかってこいよ」

「ハァアア、フゥーーッ!」

「そう簡単にやらせねえよ」

 

 爆破を硬化で受け止め、氷結は炎の吐息が溶かしつくす。

 お互いのチームの個性の相性が噛み合った結果、戦況は千日手と化していた。

 このままでは、タイムアップで敗北が条件となるヒーローチームが不利だ。

 焦る轟であったが、一歩出遅れた。先に動いたのはヴィランチーム、いや、出久だ。

 

「かっちゃん、足元!」

「チッ、しくじんなよ! 出久ゥ!」

 

 出久の掛け声に応え、爆破も利用して大きく飛び上がる爆豪。

 それと同時に出久は大きく息を吸い込んで、個性を使う準備をしていた。

 

「大規模攻撃か? 切島、こっちに!」

「おう!」

 

 大火力による攻撃と判断した轟は切島を呼び寄せて目の前に大きく氷の塊を作り出して盾とする。

 これならば炎が来てもしばらくは持つ。

 そう判断した轟だったが、その予想は裏切られた。

 出久が吐き出したのは、赤い炎ではなく、空気中の水分を凍らせて煌めく白い冷気だったのだから。

 

「くっそ、足が動かねえ! 最初の攻撃の意趣返しかよ!」

「火だけじゃなかったのか」

 

 足元を氷で覆われて身動きが取れなくなるヒーローチームの二人。

 切島が声を上げる一方、轟は冷静にこの後のことを考えていた。

 

『俺の()を使えば何とかなる。だが……こんなところで使うわけには!』

 

 “戦闘では()は使わない”

 

 父親への反抗心からそう心に決めている轟は、その誓いを破れば助かる状況に苦悩する。

 まだ一番最初の戦闘訓練なのだ。

 それで、さっそく誓いを破ることになってはこの先やっていけるはずもない。

 

 そう考えるものの、現実は非情だ。

 確保テープを手に近づいてくる相手の姿を見て、敗北を意識してしまった轟は……

 

「左から炎だと!? こいつ、能力隠してやがったのか!」

「やっぱり! エンデヴァーの息子だから考えていたけど、切り札として持っていたってこと?」

 

 全力でなかったことに憤る爆豪と、考察を重ねる出久。

 二人は驚きはしたものの、すぐさま戦闘態勢を整えた。

 何せ、お互いの手札に冷気と炎熱があるのだ。状況はさらに拮抗していることとなる。

 冷気を炎熱が。

 炎の吐息を氷結が。

 お互いがお互いの個性をぶつけあうことで、勝負はなかなかつきそうにない。

 

 そうしている間に、仕掛けてきたのはまたも出久のほうであった。

 大きく息を吸い込み、攻撃準備を整える。

 

『炎か? それとも冷気か? どっちでもいい、打ち消してやる』

 

 両手を構え、攻撃に備える轟。

 しかし、その覚悟はまたも裏切られることとなった。

 

「なんだ、このオレンジ……の」

「切島! クソッ! これ……はッ!」

 

 警戒のしていたところへ吐き出されたのはオレンジがかった何か霧のようなもの。

 切島が驚いて声を出そうとしたが、最後まで言葉を続けることができずに倒れ伏す。

 

『体が、焼け付くみてえだ。これは、麻痺毒!?』

 

 灼熱感とでもいうような焼け付く感覚と共に体に痺れを覚え、続けて轟も膝をついてしまった。

 轟の察した通り、出久が吐き出したのは神経性の麻痺毒。

 吸い込んだ瞬間から体に回り始め、身体の自由を奪っていく。

 

「これで、僕らの勝ちだ!」

 

 口元に手を当てているせいでぐもった勝利宣言を聞きながら……轟も崩れ落ちる。

 立っているのは出久ただ一人。ヴィランチームの勝利だった。

 

 ん? 立っているのは一人?

 

「グゾナ゛ードォ……でめ゛え゛!」

「あー! かっちゃん、ごめんんん!」

 

 さりげなく味方の爆豪が巻き込まれていたり。いや、ヴィランチームだからありなのか?

 こうして、最初の戦闘訓練は終了したのであった。

 

 

個性『ブレス』

 父親の『火を吐く個性』が深化して遺伝した個性。

 口から吐き出せるのは火だけでなく、様々なものを“ブレス”として吐き出せる。

 冷気に麻痺毒や催涙ガス、睡眠ガスなどなど。

 頑張れば雷撃のブレスも吐き出せる……かも?

 吐き出す範囲は肺活量に影響。個性の影響なのか、出久の肺活量はすごかったりする。(限定的な異形型?)

 汎用性が高く、かつ高火力でヒーロー向きの個性。

 小さいころから個性を鍛えるにあたって、爆豪に協力してもらっており、その影響で爆豪との関係が原作よりも大幅に改善されている。

 

 

オマケ『食事時には要注意』

 

 雄英高校の食堂はいつも賑やかだ。

 クックヒーロー「ランチラッシュ」による安価で栄養価の高いおいしい料理が食べられるのだから。

 多くの雄英生が利用する食堂に、出久もまた昼食を摂りにきていた。

 席を探していて、クラスメイトの姿を見つけたので声をかける。

 

「あ、飯田くん、麗日さん。席、一緒にいいかな?」

「いいよ! 一緒に食べよ!」

「構わないが……緑谷くんは爆豪くんと一緒ではなかったのか?」

 

 先ほど食堂に一緒に入ってくるのを見たのだが。

 と、疑問を投げかける飯田に、出久は席に腰掛けながら返事をした。

 

「昔、いろいろあってね。かっちゃんは僕と食事は一緒にしないんだ」

「えー! なんで? あんなに仲良さそうなのに」

「ふむ。差し支えなければ教えてくれないか? 正直、俺も気になる」

「いいよ。隠すものでもないから」

 

 二人の興味津々の目を向けられて、出久は箸を手に取りながら語り始めた。

 それはまだ、個性が発現して間もないときのころの話だ。

 出久は個性のコントロールが十分とは言えず、ふとした拍子に火を吹いてしまうことがあったという。

 特に顕著だったのがモノを口に入れた時。つまり食事の時のことだ。

 

「かっちゃんって、辛い物が昔から好きでね。家のカレーライスも辛口だったんだよね」

「カレーは各家庭で味が違うものだからな」

 

 出久の言葉にちょうどカレーライスを食べていた飯田が頷く。

 思ったより辛口だったらしい。眉間にしわが寄っていた。

 

「それで家に遊びに行ったときに、お昼にカレーライスをごちそうになったんだけど……家は甘口だったから慣れてなくて……口から火を吐くほど辛かったんだ」

「それって、比喩じゃあ……ないんだよね?」

「うん。本当に火を吹いちゃったんだ」

 

 麗日の言葉を肯定する出久。

 その際に、正面に座っていたのは爆豪だったという。

 危うく髪の毛をチリチリにされそうになった爆豪は、それ以来、出久と食事をしたがらなくなったのだとか。

 

「それ以外にも個性のコントロールができるようになるまでは結構大変だったよ。かき氷を食べれば吐息が冷気になるし、甘いものを食べたらなぜか眠気を誘う成分が吐息に含まれるようになるし……」

 

 下手に味のついたものが食べられなくて大変だったと苦労を語る出久。

 同じ甘い物でも、チョコレートの時にはなぜか性的興奮を引き起こす成分が含まれた吐息になったりと、本当に大変だったらしい。

 今はコントロールできるようになったので、食事の時の心配はないのだけれど、爆豪としては昔の苦い思い出があるために嫌でしょうがないとのこと。

 まぁ、気持ちはよくわかる。

 

『緑谷くんが個性のコントロールができるようになっててよかった』

 

 そうしみじみ思った二人であった。

 




かっちゃんと仲の良い世界です。
個性があって能力があれば、それなりに仲良くなる気がします。出久と爆豪は。

読みたい出久の系統は?

  • 後付け個性系(1/2、Dハートなど)
  • 両親個性変質系(ヒロイン、恋愛追跡など)
  • 無個性技能特化系(バトラー、メイドなど)
  • その他

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。