もともとは功夫で使う予定だった敵キャラのネタを流用してます。
ヒーローを目指せない出久くんの話です。
人は生まれながらに平等ではない。
世界総人口の約8割が何らかの特異体質となった超人社会においてはその差異が顕著に表れるようになった。
“個性”と呼ばれる超常を持つ者と持たない者の間にはもちろん、個性を持つ者同士でも“没個性”や“強個性”といった格差が生まれている。
そう、個性とは多種多様。
それは時に本人ですら、扱いに困るモノも存在する。
緑谷出久もまた、そんな困った個性の持ち主であった。
“雄英高校 ヒーロー科”
手元の進路希望調査票に第一志望校を力強く書き込んだ爆豪は、そのまま第二志望校の欄を埋めることなくペンを置いた。
自他ともに認める才能の持ち主である爆豪にとって、自分の進路はここ以外考えられなかった。
周囲では学友たちがお互いの進路希望について相談というにはいささか騒がしく話し合っているが、唯我独尊を地で行く爆豪にとって自分以外の進路などどうでもいいことだ。
あとはさっさと担任に提出して終わりである。
たった一人、例外を除いて。
「うーん、どうしようか? いろいろと将来のことを考えて行く高校を決めないと。あと自分の学力に通うことを考えて場所。あと施設設備もチェックしないと。あ、オープンハイスクールの開催も調べておこう」
「おい、出久ァ」
「あ、かっちゃん。どうしたの」
ブツブツと呟きながら進路志望先を悩んでいる幼馴染、緑谷出久の席に近づき声をかける。
爆豪が見れば出久の調査票は白紙のままであった。
「おい、てめえ何をぐだぐだと悩んでンだ?」
「え、でも、いろいろと選択肢はあるわけだし……」
「ああ? てめえの行く高校なんざ一つだけだわ!」
「あ、ちょっと待って!?」
出久の手から調査票を奪い取った爆豪は、勝手に第一志望校の欄に乱暴に「雄英高校 ヒーロー科」と書き殴った。
そうして机に叩き付けるように返却。
書き込まれた内容を見て出久は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「え、いやいや、無理だよ!」
「ふざけんな! どォいうつもりだ!」
弱気な発言をする出久を爆豪は睨みつけて威嚇する。
幼いころからなんでもできて、他者を寄せ付けないほどの才能を持っていた爆豪が認める数少ない人物が幼馴染の出久だ。
それゆえ自分と同じ土俵に立たせた上で、それを超えていくのが爆豪の望みなのである。
なのに、向こうがこちらを相手にしてくれないのでは話にならない。
「だって、僕の個性じゃヒーローは無理だよ」
「あぁ!? なら、てめえの個性の詳細を教えろや! じゃねえと納得できねえ!」
個性を理由に断る出久だが、爆豪は納得しない。できない。
なぜなら、爆豪は出久の個性の詳細を全く知らないのだ。
過去の出来事で強力な増強系の個性を持っていることは分かっている。しかし、逆を言えばそれ以外まったく分からなかった。
というのも、爆豪が出久が個性を使ったところを見たのはたったの一度だけだったのだから。
――爆豪、出久 5歳のころ
『まるで、オールマイトみてえだ』
恐怖からしりもちをついた情けない姿で、幼い爆豪は呆然と目の前の出来事をただ眺めていた。
遊びに行ったいつもの森で体調不良の出久の面倒を見るために友人たちを先に帰し一人残った時のことだ。
その時爆豪はとんでもない化物と遭遇した。
オオカミすら可愛く見えるような、熊のごとき巨体の化け犬。
それが自分の命を狙ってうなり声を上げながら迫ってくる姿を見たとき、爆豪は恐怖で動くことができなかった。
いくら強力な個性を持っているとはいえいまだ幼児の域をでないのだから当然といえば当然だ。
そんな絶体絶命のピンチを救ったのは、幼馴染の出久だった。
顔は真っ赤で息は荒い。
そんな万全とは言えないコンディションで出久は化け犬と真正面からやり合っている。
「Gaaaa!」
「たぁああ!」
鋭い爪を弾き、迫りくる牙を砕く。
もちろんそこに技術などあるわけもなく、だからこそその力が際立っている。
個性によって強化された出久の力は圧倒的で、大ぶりのテレフォンパンチが直撃した化け犬はたやすく絶命してしまった。
自分では勝てないと思えるような相手を簡単に倒して見せる姿は、あこがれのヒーローであるオールマイトにも重なって。
それ以来、爆豪は出久のことを一目置くようになったのだった。
後日、いくらか年を重ねて当時であった化け犬が、違法な実験で動物を強化する事件の逃げ出した一体だったことがわかり、しかもそれはプロヒーローでも苦戦するものだったと聞いた爆豪はより出久を認める気持ちが強くなった。
にもかかわらず、それ以来出久は個性を使ったことはなく、ひたすらに自分の個性を秘匿し続けたのだから爆豪としては納得がいかない。
何故、個性を使わないのか?
それとも使えない理由があるのか?
個性を使用するときに条件があるのか?
ひどいデメリットがあるのか?
etcetc……
ことあるごとに問を投げかけても、出久は困ったように苦笑いをするだけで答えを言おうとしない。
たとえ他人から
「本当は無個性なのをごまかしてるんだろ」
と、馬鹿にされても頑なに自分の個性の詳細を明かすことはなかった。
そのことは爆豪には耐え難いことなのだ。
そういうわけで今日も今日とて、個性について問い詰めるために出久が出かけて行った先に付きまとっていった爆豪。
訪れた地元のショッピングモールで不幸に巻き込まれることとなった。
具体的に言えば、ネームドヴィランとの遭遇である。
「ハッハッー! ずいぶんと楽しませてくれたじゃねえか、クソガキ」
「ぐっ、クソが!」
強く体を打ち付けたせいでよく動けない体を奮い立たせる爆豪。
何とか立ち上がったものの足は震え、目もかすんでいる。
眼前に立つのは肥大化した異形の筋肉を持つネームドヴィラン。
過去にヒーローすらも殺害したことのある凶悪で危険で残虐なヴィランだ。
その名をマスキュラーという。
イラついたからという理由でチンピラを殺害し、そのまま暴れ始めたマスキュラーは駆けつけたヒーローたちすら戦闘不能にしてなお目立った傷もなく健在している。
いまだにヒーローたちの命があるのは、ひとえに爆豪の尽力によるものだった。
ヒーローが打倒され、まさに命を奪われんとしている場面をみて何もしないという選択肢は、ヒーローを強く志望する爆豪という人物にとって選ぶことができないことだ。
気が付けば勝手に体が動いていたといわんばかりに、自らの恵まれた個性と戦闘センスを使いこなしマスキュラーを翻弄すること15分。
なんの訓練もされていない一介の中学生が残した結果としては賞賛されてしかるべきことだろう。
しかし、そんな慰めは今の爆豪には何の価値もない。
このままでは殺されてしまう。
「おまえ! かっちゃんから離れろ!」
爆豪がなかば覚悟した瞬間に、マスキュラーの腕に飛びつく人影があった。
普段は見せないような必死の形相でマスキュラーに掴みかかっている彼こそ、緑谷出久その人だ。
「あ? 邪魔すんじゃ、ねえよ!」
「うあああ!?」
出久の全力の妨害もマスキュラーにとっては煩わしいと思う程度のものでしかなく、あっけなく腕の一振りで宙を舞う。
空中では勢いを殺すことも出来ず、派手な音を立ててリカーショップの棚にぶち当たった。
酒瓶の砕ける音がモールに響き渡った。
「い、出久! おい、返事をしやがれ!」
「だ、大丈夫だよ。かっちゃん……大丈夫」
悲惨な様子に爆豪が思わず声を上げれば、ふらふらと立ち上がり返事をする出久の姿が目に入る。
割れたガラス瓶の破片で顔に切り傷を作ってはいるものの、一応は五体満足の様子。
が、安心はまだできない。
「ハッハッハッ! 丈夫なガキだ。子供はそうでなくっちゃなあ」
「ッ! てめ、どこへ行こうとしてやがる! 出久に手ェ出すな!」
「やだよ。行くね、俄然」
まだ壊れていない
それに気が付いて注意を逸らそうとする爆豪だが、そう言われて素直に止まるような相手ではもちろんない。
徐々に近づいてくるマスキュラーの姿に、出久は迷いを振り払うように首を振る。
「最高のヒーローは、どんな凶悪なヴィランが相手でも笑顔で人を救けることができるヒーローなんだ」
「だからどうした? てめえにそんな力はねえだろうが」
覚悟を決めるために自分に言い聞かせるように言葉を口にする出久。
そして落ちていた無事な酒瓶を拾い上げ封を切り、一気に飲み干した。
「うっ、ゲホ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「あ? 何やってんだこいつ」
「何やってんだ、馬鹿デク!」
アルコール度数の高い酒をそのまま一気飲みしたせいで喉が焼けるように感じて首元を押さえながら叫ぶ出久の常軌を逸した行動についマスキュラーと爆豪の思考が一致する。
あんまりにも訳がわからなさすぎて、思わず出久をぶんなぐってしまったマスキュラーを誰が責められようか。
またもや派手にぶっ飛び、地面に倒れる出久。
足元をふらつかせながら立ち上がったものの、それはダメージからなのか、アルコールのせいなのか分からない。
「なんなんだ、このガキは。まあいいや、さっさと死ね」
もう出久の相手をするのが面倒くさくなったのだろう。マスキュラーが拳を振り上げる。
強化された筋肉から放たれる一撃は出久を今度こそ殺して有り余る威力。
「ああ! やああああ!」
ソレを出久は腕ではじき返し、あまつさえ奇声を発しながら逆にマスキュラーを数発殴り返して見せたのだ。
「ぐああ、ふざけんな!」
「うわああ」
マスキュラーもそのままサンドバッグになるわけもなく、反撃して出久を再び地面に転がす。
だが、その表情には先ほどまでの余裕は全くなかった。
『なんだこいつは。一撃一撃の重さがハンパじゃねえ。増強型の個性? まさか!?』
殴られた個所から感じる出久の強さ。
その力の元を瞬時に考察したマスキュラーはハッと出久へ顔を向けた。
出久が殴り飛ばされた先は先ほどのリカーショップのすぐそば。そこには大量の酒瓶が転がっている。
「ははは、えっへっへっ」
「おまえ……まさか!?」
前後に体を揺らしながら立つ出久。
アルコールで赤い顔をしながらヘラヘラと笑う彼の手には新しい瓶が握られていた。
蓋を開け、喉へ一気に酒を流し込んだ出久は――思いっきり嘔吐した。
「オロロロ……うっぷ」
凶悪なヴィランの前で酒を一気飲みして吐く中学生。
言葉にすればカオスな状況に、マスキュラーは呆れを通り越して怒りが湧いてきた。
こいつ、馬鹿にしてんのか。と。
「さあ、いくぞ!」
「~~ッ! ブッ殺してやる!!」
ニヤついた笑みが癪に障ると、本気で殴り掛かるマスキュラー。
端的に言ってブチ切れていた彼は怒りのまま突進して、逆に出久にボコボコにされていた。
「やああああ! やあやあやあ!」
「ぐっ、ぐあああ!?」
気の抜けるような掛け声と共に繰り出される打撃は、マスキュラーの分厚い筋肉を貫いて体の芯までダメージを伝えてくる。
何度か殴り返すも、先ほどまで吹き飛んでいたのに今はわずかにのけぞるだけで怯む様子もない。
「てい! えいや!」
「あああ!?」
腕を掴まれればその握力に骨が軋み悲鳴をあげさせられ。
「ちょわ、ちょわわー!」
「ガッ!? ふざけてんのか!」
足払いを躱したと思った瞬間にもらった低い位置からの頭突きで膝をつかされ、屈辱の声を洩らす。
「やああ、やあああああ!」
「う、ぎゃあああ!?」
酔っ払いの予測のつかない攻撃に翻弄され続けたマスキュラーは強力な一撃を受けついにノックダウン。
のちに駆けつけたヒーローと警察によってついにお縄になったのであった。
個性「ドランクマスター」
酔えば酔うほど強くなる増強型の個性。攻撃力・防御力ともにパワーアップされる強力な個性。
ただし、要アルコール。法律上、成人するまで個性が使えない。
アルコールの摂取量によって個性の強化が変動する。
お酒に強くなればなるほど強くなれるぞ!
そのため、個性強化訓練はひたすら酒を飲み続けるというヤバい絵面に……
気落ちした様子で警察署から出てくる出久。
それを出迎えた爆豪は、かける言葉が見つからなかった。
凶悪なヴィランを退治した事実は褒められたものの、危険な行為と個性の無断使用、そして未成年飲酒を叱られたのだ。(もちろん爆豪も未成年飲酒以外の事で叱られている。)
ヒーローも警察も自分たちの不甲斐なさが招いた事態でもあるのでそこまで強く叱ることもなかった――感謝しているし、誉めたい気持ちは強いものの建前上叱らざるをなかった――のだが、やはり落ち込まないわけもなく。
特に出久は自分の個性の問題点について改めて認識させられたのだ。
その事実を知った爆豪も何も言うことができない。
「ねえ、かっちゃん」
「……なんだよ」
帰路の途中で沈黙を破って出久が声をかける。
「お酒飲みながらでも、ヒーローになれるかな?」
「…………お、お酒は二十歳になってからだろーが」
無難な答えしか返せない爆豪であった。
Q.酒飲みでも、ヒーローになれますか!?
A.やめといた方がいいんじゃないかな
一応、お父さんの『火を吹く個性』が、実は口からアルコールを引火させている個性で、それが出久くんに変異して遺伝した結果のこの個性なんだよ。という設定というかこじつけは用意しています。使うことないですが。
しかし、書いてて今回のかっちゃんのヒロイン感がヤバかった。
この話、かっちゃんを女の子として読んでみても違った見方ができるかも?
読みたい出久の系統は?
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後付け個性系(1/2、Dハートなど)
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両親個性変質系(ヒロイン、恋愛追跡など)
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無個性技能特化系(バトラー、メイドなど)
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その他