オールマイトによる初の戦闘訓練。
ヴィランチームの守る核兵器を制限時間内に奪取するか、ヴィラン役の二人を確保テープで捕らえるかすることがヒーローチームの勝利条件となる。
ヒーローチームとなった出久と麗日だったが、その作戦の主体は出久が考えていた。
「まず相手の出方だけど、十中八九かっちゃんがオフェンスで飯田くんがディフェンスにまわるはずだよ」
「二手に分かれてくるんだね。でも、どうしてそう思うの?」
出久の予測に麗日が理由を尋ねる。
聞かれた出久は順序立てて説明を始めた。
「まずは二人の個性。二人とも機動力のある個性だから、それを活かすことを考えればターゲットを守ってジッとしているとは考えにくいよ。かといって、防衛目標をフリーにするなんてこともしないだろうから、オフェンスとディフェンスに分かれてくると考えられるんだ」
「なるほど~。でも、オフェンスが爆豪くんなのはどうして?」
「一つはかっちゃんの性格かな。守るって感じの性格じゃないし。あと、二つ目は僕対策……かな?」
「デクちゃんくん対策? どういうこと?」
頭に疑問符を浮かべた麗日に出久は少しはにかんで答えた。
「自分で言うのもなんだけど、僕の個性は初見殺しだから」
「そ、そんなにすごいのか、緑谷くんの個性は」
一方、ヴィランチームは飯田が爆豪から出久の個性の危険性を教えてもらっているところだった。
「ああ。耐性が無きゃ一発アウトだ。あのブドウ頭みたいになるぞ」
「クラスメイトはちゃんと名前で呼びたまえ! だが、きみの言うことはもっともだ。幼馴染で慣れているきみに任せて、俺はここを守ることに専念しよう」
「最悪、デクのやつは俺が足止めをする。てめえは丸顔の対策をしておけ、メガネ」
「人を物の名前で呼ぶんじゃあない! まったく口が悪いな」
小言を言いつつも爆豪の作戦に文句はないようで、麗日への対策を考え始める飯田。
その隣で爆豪は顔をしかめ、苦い表情をする。
『どうせ、あいつのことだ。俺がこうやって単独行動をとることも予測済みだろう。だが、ンなこたあ、百も承知だ。その予測を覆すには俺が直接対決で勝つしかねえ!』
心の内で闘志を燃やす爆豪。
その結果はいったいどうなるのか……
「死ねェ!!」
死角からの奇襲で容赦のない爆破を行う爆豪。
だが、次の瞬間に手ごたえの無さを感じて顔をしかめた。
「チィッ! やっぱり読んでいやがったか」
「さすが、かっちゃん。読めてたけど避けきれなかったよ」
「ごめん。私をかばったせいでデクちゃんくんが!」
コスチュームの一部を爆炎で焦がしながらも、笑みを浮かべて感嘆の声を上げる出久。
その顔に舌打ちをしてイラつく爆豪であったが、感情に任せるようなことなどしない。なにせ、相手は心理をつかむのが上手いのだから。
心配する麗日をよそに、出久は嬉しそうに笑う。
「大丈夫。麗日さんのせいじゃないよ。かっちゃんの攻撃の威力も速度も僕の予測以上だった」
「フン! その割にはピンピンしてるじゃねえか。俺には嫌味に聞こえるがなァ?」
「フフッ、そこは鍛えているからね! まあ、鍛えてたのは僕だけじゃなかったみたいだけど」
片方は鬼のような形相で、もう片方は仏のようなほほえみで視線を交わし合う。
表情は違えども、お互いに戦意に満ち溢れていた。
「麗日さん、作戦通りに! 僕がかっちゃんを引きつける」
「う、うん。デクちゃんくんも気をつけて……って、うわあ!?」
出久の言葉を受けて走り出そうとする麗日だったが、爆豪の爆破が進路を塞いだ。
「引き留めるだァ? そいつは俺のセリフだ、バカデクが!」
「ふ、二人一緒に相手をするつもりなん!? あんまりナメないでよね、爆豪くん!」
2対1という不利な状況で戦おうとする爆豪に声を荒げる麗日。だが、爆豪はそれを鼻で笑って返す。
「ナメてなんかいねえよ、バァカ! 俺にとって時間は味方だ。足止めに徹していればそうそう負けはねぇよ!」
そう、この訓練はもともとヴィラン側が有利なようにできている。
極論を言えばヴィランチームは時間稼ぎをしていればよいのだから。そうしていれば制限時間という勝利条件を達成できる。
そして爆豪の個性はその任に非常に適していた。
「オラ! 吹き飛べや!」
「くう、爆風で前に進めない!」
「麗日さん!? ッと、危ない!?」
「よそ見とは余裕だな、デクゥウウ!」
爆破で進路を妨害し、爆風で吹き飛ばして前へ進ませない。
決して近づかず、さりとて決して近づけさせず。
一定の距離を保ったまま足止めに徹した爆豪は、その反射神経も合わさって鉄壁のガードマンとなっていた。
ジリ貧の状況に出久が仕掛ける。
「なら、これなら!」
個性全開でウインクを投げかける。
出久の必殺技を受けた爆豪は硬直――
「今だ、麗日さん!」
「うん! ……って。うわわわぁ!?」
「通さねえって言ってんだろうがァ!!」
――していなかった。
「かっちゃん、何で!?」
必殺技にまで昇華させた個性を破られて動揺を隠せない出久。
その疑問に爆豪が怒鳴り返した。
「ハッ! 何年一緒にいると思ってやがる! てめえの顔なんざ見飽きてんだよ!」
幼いころから見てきた幼馴染に今更何を感じろと?
そう告げる爆豪のプレッシャーに二人はじりじりと下がっていく。
「さァ、こっから先は一方通行だ! どォするンだァ? ヒーローォ」
テンションが上がってきたのかノリノリで演技する爆豪。
正直はまり役すぎて吹き出しそうになった出久だが、状況はそれどころではない。
ここにきて、出久は今まで見せてこなかった個性の使い方をすることに決めた。
「麗日さん、これから僕が隙を作るから一気に駆け抜けて。できれば僕の方をなるべく見ないように」
「う、うん。わかった」
小声で麗日に指示を出し、意識を右手に集中させてゆっくりと左から右に動かす。
ただ、それだけの動作なのに、爆豪の視線は
「ッ!! しまった!」
「邪魔はさせないよ、かっちゃん」
意識がそれた瞬間に駆け抜けていった麗日を追おうとするが、出久の個性によって強制的に意識が向けられ、追うことができない。
「デクゥ! てめえの個性か!?」
「そうだよ。これが新しい僕の個性の使い方だ!」
“人を惹きつける個性”を応用した、人の視線を強制的に惹きつける必殺技。
言ってしまえば意識を逸らすという効果なのだが、単純なだけに使い道の多い必殺技である。
こうして1対1に持ち込んだ勝負。
仕掛けたのは出久であった。
「捕らえる!」
「させるか!」
投げ技に持ち込むべく、右手で爆豪の左腕をつかむ出久だったが、反射神経に優れた爆豪は即座に爆破で距離をとる。
接近戦は分が悪い。そう判断して距離をとって戦おうとした爆豪だったが……
「痛てて、そう簡単につかませてはくれないよね」
「誰が好き好んで投げられるわけァねえだろうが!」
「うん、でも、関係ないかな」
「ハァ!?」
投げ技を失敗したのに飄々とした態度の出久。その理由を次の一言で告げた。
「かっちゃん、右手、大丈夫?」
「ッ痛ゥ!」
その言葉にハッとなってみれば、ブラリと力なく垂れ下がる右手首が!
関節が外されていた!? いつの間に? どうやって?
「てめ、何を……」
「古武術にはね、組まない極め技もあるんだよ? それに、意識が向いてない部分ってすごい弱いんだ」
僕の個性は、分かるよね?
そう口にする出久に背筋が凍りつく爆豪。
そして、また意識がそれた瞬間に、次は体が宙を舞っていた。
投げられた!
そう思って体勢を立て直そうとしたが、何かに背中がぶつかりうまくいかない。と、同時にパリンとガラスの砕ける音がした。
「あっ、思ったより遠くに投げちゃった」
「て、てめええええええ!!」
窓を破ってかっちゃんビルからアウト。
ちなみに現在ここは地上三階の高さである。
強制的にビルからダイブさせられた爆豪は何とか勢いを爆破で殺すことができたものの、見事に地面に激突してしまう。
その様子を見ていた出久は……
「あ~。まぁ、かっちゃんなら大丈夫だよね。それより麗日さんを救けにいかないと」
かっちゃんならワンチャンダイブしても問題ないさ!
という、謎の信頼感によって放置を決定したのだった。
戦闘訓練はヒーローチームの勝利に終わるのだが、当然怒られたに決まっている。
「デェクゥ、てめえ、殺す気かァ!!」
「ご、ごめんなさ~い!」
ヒーローの卵になっても爆豪の苦労は終わりそうにない。
これにてヒロインは一旦終了。
次は1/2の飯田戦です。
ちょっと次回予告っぽく
「この狭いフィールドでは小回りのきく妾におぬしは勝てぬ!」
――緑谷出久(乙音)――
「スピード勝負か。いいだろう、ひとっ走り付き合ってもらおう。10秒間だけな!」
――飯田天哉――