笑顔が誰にだって出来るって本当ですか   作:コリブリ

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美城専務のウワサ
シンデレラの舞踏会以来は都合がつけばプロジェクトクローネのライブは必ず見に来ているらしい


第12話 いばら姫はガラスの靴を履かない

『それでですね――卯月ちゃん大丈夫ですか?』

「えっ、うん……へーきだよ」

 

 プロジェクトクローネによるミニライブの前日、卯月は日付が変わろうかという時間まで茜と電話をしていたのだが明日に気が行っている彼女の受け答えには精彩はなかった。

 細かい事をあえて気にはしない茜が指摘するほどと言えば程度が分かるだろうか。

 

『ならいいのですが、まだ先の話にはなりますが楽しみですね! 今から燃えてきましたっ!』

「う、うん」

 

 卯月は茜の言葉が何も聞こえてなどいなかったが平気と答えてしまったがため、とりあえず返事をして抱いているハート型のクッションへやんわりと体を預けながらどうしようと思案する。

 

「え、っと、茜ちゃんはアイドル、楽しい?」

 

 無理やりではあるが聞いていなかったことを察されないよう話題を変える卯月。しかし咄嗟に思い付いた言葉は、咄嗟だったからこそ普段から彼女が押しとどめている言葉だった。

 しまったと気づいても遅い。

 

『楽しいですよ! 舞台に立つまでの緊張感、ライブが始まってからの仲間やファンとの一体感、終わった後の高揚感、全部が楽しいです!』

 

 当然と言わんばかりにあらんかぎりの楽しい思いを伝えてくる茜、それは卯月も知っているはずの感覚。規模は違うだろうが、いつだか卯月が少なかれ抱いた感覚なのだから。

 茜の言葉を聞いた彼女は天井へと手を伸ばす。

 

(ああ、まだ……私は、まだ、羨むほどに、アイドルに焦がれているんだ)

 

 太陽と月は卯月が辿り着くべき場所を照らし続けている。

 だからこそ卯月は、辿り着いた先に星があると信じて枷のはまった足を一歩前へ進めた。

 

 

 映画館のように段々と座席が組まれている中規模ホールの最後列よりも後方、客席とは鉄柵で阻まれた通路の壁に背を預けてステージを見下ろす卯月がそこにいた。

 

『みんなー! 見に来てくれてありがとねー!』

 

 ミニライブの開演から既に数曲を披露し終え、次の出番である大槻唯がバックダンサーである鷺沢文香と橘ありすをつれて舞台下手から登場するとともに感謝の言葉がファンに向けて放たれ盛り上がっている。

 楽しそうに笑うクローネのメンバーを、ステージを、卯月はきりきりとした痛みを胸に抱えながらただただ見つめた。

 沸いている客席とは真逆に黙りこくる卯月だったが心が乱れているかと聞かれればそうではない。

 開演してから一曲目、アナスタシアのステージが始まった瞬間に踵を返して帰ろうとしたのだが、ふと見えたステージの中央で踊るアナスタシアの姿が目に焼き付いて離れなかったのだ。それはアナスタシアの美しさに見惚れただとか単純ことではない。

 ファンたちの怒号ともとれる声援、後方に位置するはずの卯月ですら感じる地響き、そこへ鳴り渡るアイドルの声――これが、本当のアイドルのステージなのだと、思わずにはいられなかったから。

 

(プロジェクトクローネ)

 

 美城専務が推し進める、今やシンデレラプロジェクトに並び346プロにとって花形ともいえるプロジェクト。

 リーダーの速水奏を筆頭として、塩見周子、宮本フレデリカ、アナスタシア、大槻唯、以前にレッスンを見た五人――誰を切り取っても346プロという大きなお城を象徴する存在だ。シンデレラプロジェクトの面々のように一人一人の強烈な個性とはまた違うアイドルの形。

 

 卯月はレッスンとは全く違うアイドルたちの姿に呑まれた。

 

(私は、あんな風に、なれる?)

 

 その後も続くライブ。レッスンの見学をしたときに指摘した文香とありすでさえ、今の卯月とはまるで違う場所、遥か高みにいる存在に見えていた。

 卯月は今までの自分ではなく、今の自分を見て考えてしまう。

 今までを比べる事は詮無きことだ、だからこそ今を比べなければならず、なればこそあまりに遠かった。ステージで踊るアイドルたちは全員、卯月よりもアイドル歴で見れば短い、それでいて今の彼女よりもよほど輝いている。

 努力の差がないとするならば、あまりに、あまりにも残酷な真実。

 卯月の心が凪いでいるのは、ただ受け入れがたい事実を受け入れてしまいそうだったから。怒りでも嘆きでもない、諦めという名の行き止まりで立ち尽くす。

 

(私の四年間は、彼女たちの一年間にも足りないのかな)

 

 それは才能の壁だと、卯月は真っ先にその結論に至ってしまった。

 プロジェクトクローネという巨大な城の壁を見上げれば、ぎちぎちと、聞こえるはずのない音が卯月の耳に届いた、彼女を縛る鎖は今をもって足を、腕を、胸を、首を、締め付けにかかる。

 

(私の今までは、なんだったんだろう)

 

 卯月の首にかかった鎖は、彼女が憧れたアイドルたちの手によって、ゆっくりと音を上げて巻き上げられていく。

 

『見に来てくれて、ありがとう』

「――っ」

 

 月の明かりも太陽の光も届かぬ真っ暗闇へと響き渡る透き通った声。

 不意に会場の音が止まり――一つのユニット曲が終わり――この場にいるファンたちは新たに現れたステージ上の人影を見つめる。

 先に放たれた言葉はこの場にいる全員に向けてられていたはずの言葉。聞く者が聞けばおこがましいと言うかもしれない、だが卯月だけは違う意味で受け止めた。

 なぜならステージの上に立つ存在、渋谷凛の視線ははっきりと、卯月を捉えていたのだから。

 

『今日はミニライブだけど……私にとってはちょっと特別。伝えたいこと、全力で歌に乗せるよ――最高の笑顔で!』

 

 普段多くを語らない、ある種ミステリアスな凛がマイクパフォーマンスを披露したことによる興奮が次々にファンへと伝播する、曲のイントロが流れた瞬間、既に最高潮へと達したステージで凛は舞い始める。

 卯月は――目をそらさなかった。いや、そらせなかった、が正しいのだろう。

 渋谷凛と共に舞台で舞う神谷奈緒、北条加蓮、三人のダンスは素晴らしいの一言に尽きる。一糸乱れぬと言葉通りの完成度、激しいダンスの最中つま先から指先までブレることがなく、同じく歌声も淀みなく響き渡り会場全体が熱気で包まれていく。

 だが卯月はそんなダンスやボーカルのレベルの高さではなく、奈緒の、加蓮の、渋谷凛の表情にこそ目を奪われた。

 ダンスの技術に目を奪われたのも事実だ、ボーカルに聞き惚れてしまったのも事実だ。でもそんな事は今の卯月にとっては些事でしかない。

 

 笑顔があった。

 

 ステージの上で輝く宝石、ダンスやボーカルは装飾品でしかなく、本当に輝いているのは渋谷凛の笑顔。

 そんな凛の笑顔を見たファンたちが湧かないわけがなく、いつしかステージと客席は垣根を超え一体となり一つの舞台を作り上げる。シンデレラだけが踊る事を許されたステージは、周りを巻き込んで一つの作品となった。

 

 そこには笑顔が溢れていた。

 

 それこそ卯月がいつしか夢見たもの、自分と他人の壁を笑顔でもって壊したその先。

 早く終わってほしい、まだ終わらないでほしい、矛盾した感情は卯月を心を空にしていくが、それも凛が天高く指先を掲げポーズをとると同時に音楽が止まり一瞬、鳴りやまぬ歓声に包まれる。

 

 その歓声を後ろ手に卯月は駆けだしていた。

 

 まるで魔法が解けたシンデレラが薄汚い服を、自分を見せぬようにと必死に舞踏会から逃げ出すように。

 考えるまえに身体が動いたのか、感情がそうさせたのか、逃げ出した理由すらわからないままひた走る卯月は気づけば誰もいない廊下で壁にぶつかるようもたれかかった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 卯月の体力をすれば息切れすることは無いはずのなんてことはない距離、ここまで呼吸を乱したのは慣れ親しんだ走り方すらできないほどに身体も心も彼女の制御を離れたから。ほとんど過呼吸のような息をして、どうにか脳に酸素を送ろうとしてもお腹から込み上げる何かがせき止め邪魔をする。

 暗い廊下の突き当り、非常出口の電灯から漏れ出る緑色の光が、うつろな卯月の瞳を照らした。

 五分、十分、ゼンマイが切れた人形のようにだらしなくへたり込んだ卯月は動かない。何を考えられるでもない、かといって動けるわけでもないその姿はまさしく人形か。

 

(は、はは……)

 

 逃げ出してきた場所であってもステージの振動は届いた。

 

(なんだ……私が、私だけのものだって思ってた笑顔……そうじゃなかったんだ……)

 

 ようやく動き出した卯月の思考はぼうとしていたが、奥底から引っ張り上げるよう次々と湧きあがる。

 

(ううん、知ってたはずなのに。あの時先輩に奪われた笑顔は、ちゃんとあの人のものになっていたから)

 

 笑顔だけが取り柄、だからこそ誰よりも良い笑顔を持っていたかった。

 

(特別なんかじゃない……私の笑顔は……)

 

 それは事実でもあり、事実ではないこと。

 

(笑顔が取り柄だって、笑顔だけは負けないって……ああ……)

 

 振り返った道には何もない、そうではないとしても、そうなってしまう。

 

(私には何もなかったんだ)

 

 そう思ってしまえばそれは真実になる。

 

(だから笑顔だけは、って)

 

「――笑顔なんて、誰にだってできるもん」

 

 自分にはできないのに、あいつらはできる。だから笑えすらしない自分には何もないのだと、卯月が自嘲を込めたその言葉が廊下に響く。

 かつての先輩、先ほどの渋谷凛、そして卯月自身、誰が一番良い笑顔だったか、考えれば考えるほど自らの笑顔は道化のそれであったと、彼女の心から何かが漏れ出ていく――はずだった。

 

「本当にそう思うのか」

 

 誰もいないはずの暗い廊下に聞きなれた声、卯月はその声が聞こえた瞬間、はっと顔を上げる。甲高いヒールの音とともに影を裂くよう現れたのは美城だった。

 

「美城さん……」

「随分と、面白い事を言うようになったな」

 

 美城は怒っているような、ともすればいつも通りのような声色で卯月へと詰め寄る。

 

「なぜ君がここにいるのかは問うまい。大方誰かに誘われたか、自らの意志で足を運べただけでも前進したと見るべきか……まあ、今の姿を見るに、前進よりも後退の方が大きいようだが」

「私は……凛ちゃんに……」

 

 美城は分かっていたとでも言いたげな表情をしてへたり込む卯月を目の前で見下ろした。

 

「――君が思ったことを素直に話しなさい、彼女たちに何を見て、何を感じて、どうしたいのか」

 

 美城はどこか諦観めいた雰囲気を見せて目を閉じた。それもまた、美城にとっては答えが分かっている問いだったのだろう。

 一息を置き、卯月はぽつりとつぶやき始める。

 

「私の笑顔は、どこにでもある笑顔でした。少し前までは、武器にできるくらいには自分の笑顔に価値があると思っていて……でも、違うんです……凛ちゃんの笑顔……あれが、本物なんだって」

「…………」

 

 美城は何かを言いたげに、しかし語ろうとせず無言で続きを促す。

 

「プロジェクトクローネは凄いです。ダンスも、ボーカルも、笑顔も輝いていて……私なんかじゃ太刀打ちできそうにないな、って」

 

 卯月の脳裏にはつい昨日の、美城の激励が思い起こされている。この人に認めて貰えているのだと、それはまさしく自負にもなりえるほど卯月を支えている。それでもなお、今の卯月にはプロジェクトクローネが天上の星にすら思えた。

 小汚い服を着た小娘と、お城に住むお姫様のように、どうしようもない差があるのだと。

 

「それが君の出した結論か、島村卯月」

「……っ」

 

 卯月は美城の顔を見上げることができなかった。

 ただ、怖かったのだ――諦めの言葉をかけられることが、失望の眼差しを向けられることが、そして、ここでアイドルが終わってしまうことが。

 卑しいと思う気持ちが卯月の心に沈殿していた。あれほどやめたいと言っていたアイドルを再び目指すきっかけをもらい、道を示してもらい、今またやめたいと口にした上で、終わってしまうのが怖いなどと――どこまで甘えれば気が済むのか、卯月は惨めな自分を張り倒したかった。

 

「自分から諦めるような言葉を言っておいて、終わるのが怖いか」

 

 まるで心の内を読まれたかのような言葉に卯月は瞠目した。なぜ分かったのかと、ゆっくりと顔を上げれば、そこには思いもよらない、悲しそうに目元を垂らした美城がいたのだ。

 

「私は今の君のような顔をした者達を何人も、何十人も見てきた。揃って同じことを言う。自分には荷が重かっただの、才能には勝てなかっただの――そうだ、人には持って生まれた才能がある。なぜ当たり前の事を理由に挫折する」

「そう言えるのは、美城さんが持っている人だから、です……私には、何も、ない……っ」

 

 奪われたから、そんな理由で逃げる必要すらなく、最初から何もなかった自分には輝く権利すらなかったのだと、卯月はやけっぱちに答えた。

 

「そうだ、私には才能があった。人を扱う才能、同時に商才も持ち合わせた。だが、今の私はそれだけで成り立っているような人間に見えるのか?」

「……」

 

 詭弁だ、とは卯月は言えなかった。美城を見て、大企業に上り詰めるだけの才能があったのは事実であろう。しかしそれだけが彼女を構成する全てではないことを卯月は知っている。悪い言い方をすれば美城社長の血縁というコネが無ければ傲慢なだけの無能に成り下がる可能性もあった。それを補完しているのは、周りを認めさせる彼女自身の努力がなかったなどと、言えるはずもない。

 

「今の島村は、立ち止まったままだな。いつしか言った、待つという君の根底が出てしまっているのだろう。諦めて見せることでその場から動こうとしない――反吐が出る」

 

 本当に吐き捨てるように言った美城の表情は変わらず悲しそうなままで。

 

「努力すれば報われるのか、頑張れば成果は得られるのか、必ずしもそうではない。だが私は知っている。努力すらしない者は何も掴めない、頑張りすらしない者には何も変化などない」

 

 この業界では当たり前のことだ、と一息置き、美城は続けた。

 

「聞け、島村」

 

 美城の言葉は、卯月の心へと突き刺さる糸車の針。一節続けばそのたびに、卯月の意識は真っ暗闇へと落ちていく。一拍置いて、最後の一言になるのかと安堵すら覚えた卯月。

 ここに来てようやっと、卯月と美城の視線が交差する。

 

「――傷ついて得た笑顔が、無邪気な笑顔に劣るなんてことを。努力した微笑みが、天然の微笑みに負けるなんてことを。努力が才能に負けるなんてことを。私は許しはしない」

「あ、え……?」

 

 不甲斐ない卯月を叱責する言葉が続き、ようやっとアイドルとしての卯月が終わる時が訪れたのだと思っていた。あれほど目をかけていた者に全てを諦めると同義のことを言われれば見限るのは当たり前だろう。ゆえに卯月は美城の言葉を上手く噛み砕けなかった。

 

「君が努力を怠らず進み続けるのならばという前提の上で、だがな」

 

 美城の言とは裏腹に、努力は才能に負ける、そんなことは二人とも分かっていた。だが美城が言いたいことはそうではないと卯月はおぼろげな思考で理解する。

 そこで卯月はやっと分かったのだ。美城がプロデュースする卯月が努力でのし上がろうとするのなら、才能に負けることは許されない――ただ、それだけだ。

 

「いつしか言ったな、私は君をトップアイドルにすると。その言葉に嘘偽りなどない、ゆえに君も応えたのだと思っていたのだが」

 

 卯月は細く開けた目で美城を見上げる。

 

 だらんと力が抜けたままの卯月は思う、この人はいつだってそうだったと、合理主義で、現実だけを見続けて、利益と損失が全てで、今だってきっと自分を立ち上がらせることにこそ利を見ているのだと。

 だが美城がそれだけではない事を卯月は知っている。

 美城は現実的に考えているからこそ、簡単に人を切り捨てたりはしない、少し気が緩むことがあるほどには人間味を帯びていて、少しお茶目なところもある。

 だからこそ、卯月はこの人を信じてみようと思えたはずなのだ。先ほどの言葉も、卯月だからこそ美城の表情を見て分かった。利だけじゃなく、ほんの僅か、本当に少しだけ、卯月を励まそうとしている部分があったと分かったのだ。

 

 卯月はかすれた声で、しかしはっきりと応えた。

 

「私は……私には何も、ない。仮に持っていたはずの笑顔を無くして……その笑顔すら、誰かに負けてしまうようなものだった」

「今日のライブを見てそう思ったか」

 

 ゆっくりと卯月は立ち上がろうとするが、美城は手を差し伸べない。

 

「だって、わかるんです、わかってしまったんです」

「…………」

 

 卯月の震える足を見て、力の入らない腕を見て、美城は手を差し伸べない。

 

「凛ちゃんの……あれはいつかの私、あの笑顔は、心底楽しいから出来る笑顔だってことが、アイドルが楽しいからこそ出来る笑顔だって、わかるんです……っ!」

 

 卯月の瞳からぽたりぽたりと零れ落ちる涙が足元にシミを作り上げていく。一言一言が弱々しく、か細い声で叫び続けた。

 

「羨ましい」

 

 壁に手を付けていない片方の手のひらが強く握りしめられる。

 

「羨ましい、羨ましい、私には出来なくなってしまった笑顔が出来るあの子が、羨ましくて仕方がないんですっ!」

 

 卯月は目じりに溜まった涙を握りこぶしで拭い去った。

 卯月を奮い立たせたのは羨望だった。茜に語られた夢のようなステージで、凛が描いた現実のステージを、自分自身で描いて見せたいと。

 それは卯月が子供の頃に夢見たアイドルそのものだ。

 

「ならばどうする、島村卯月。その思いを抱えたまま傷つかぬよう立ち止まるのか、それとも」

「――もう、あんなみじめな思いはしたくない。この道を進めば阻む壁がきっとある……それでも私は、この身が、想いが、果ててしまったとしても掴みたい。燃え尽きても、今この想いを、夢を、もう一度、掴みたいんですっ……!」

「――出来るのか?」

 

 美城は既に普段の表情へと戻っていたが、普段よりも幾分喜色が混じっているような声色で挑発する。

 だから卯月も同じように喜色が混じった声色で返すのだ。

 

「トップアイドルにしてくれる、でしたね?」

 

 美城は得心したとばかりに、頷き、身を翻し歩き出す。そこが定位置だと言わんばかりに、卯月も無言で美城の後に続き、暗い廊下には涙の跡だけが残っていた。

 

 

 いばら姫は素足で棘の森を走り出した。ガラスの靴などありはしない。足の裏に突き刺さる痛みは上へと突き抜けていき胸へと痛みを告げてくる。だが、おとぎ話ではありえるはずのなかった未来。

 

 いばら姫は呪いをまといながら、自らの意思で走り出した――魔女とともに

 




島村卯月のウワサ
最近は秘書も悪くないなと思っているらしい

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