笑顔が誰にだって出来るって本当ですか   作:コリブリ

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美城専務のウワサ
ファーストフード店には入ったことがないらしい


第5話 捻くれ者のいばら姫

 島村卯月にとって美城専務は疑念を抱く相手でしかなかったが、それは既に過去だ。

 

 出会いはよくわからないことをのたまうおばさん程度の認識であり、夜の公園で母親に泣き言を漏らしている所に現れ灰被りだのソメイヨシノだのと心を抉った上にいきなり名刺を渡してアイドルにスカウトされたのだから驚愕こそすれ途轍もなく偉い人物であるなど分かるはずもなかった。

 本当に346プロの専務だと判明した時、卯月はスカウトされた嬉しさよりも今更と言う思いが強かった。アイドルに貴賤が無いと思い込んでいた時分、774プロにスカウトされた日は346プロのシンデレラプロジェクト選抜オーディションの落選通知が届いた日であったのだから。もしあの時346に入れていたのならこんな辛い思いをせずにすんだと恨み言が渦巻いた。

 

 774プロが悪い場所であったかと聞かれればそうではないと答えるが、それでもアイドルに対して抱いていた夢が破れることは無かったはずだ、故に今更という思いが強かった。

 

 とはいえ最大手プロダクションにスカウトされた事実に変わりはない、いきなり重責を背負うことになった卯月はFランクアイドルとして活動していた今までを振り返り、未来への希望よりも過去の枷を強く感じることとなる。今までの全てを持ってしても通用するのかと言う不安、失敗すれば失望され今度こそ再起不能になるであろうことは想像に難くなかった。

 

 契約にあたり卯月の家に訪れた美城と母親の話し合いは難航した。それもそうだろう、あれほど泣きはらしながら愚痴を零した娘をもう一度同じ道へ進めようとするほど卯月の母は放任主義ではない。最終的に判断は卯月へと任され、承諾する事となる。

 卯月にとってもういっそアイドルへの夢を木っ端みじんに砕いてほしいとの願いもあった。全てを諦めるにはまだアイドルとしてやりたいことが多すぎる、しかし346ほど大きなプロダクションであれば頑張ったところでどうにかなるとは思えなかったため、全てを諦めるために自らの手ではなく業界そのものに押しつぶされたと逃げ道を作ろうとした結果の承諾だった。

 

 そのような後ろ向きな考えであってもレッスンで手を抜く事はしない。卯月本人の、従来の気質もあったが346プロダクションで受けるレッスンはトレーナーの質も段違いであり、機材に至るまで今まで見たこともない高品質の物であったからだ。

 卯月はアイドルとして活動してきた一年間を思えば、そのような環境でレッスンを受けられるのが楽しかったのだ。例えそこが本来346所属のアイドルがレッスンする別館とは違う場所であり、狭い地下牢が如くと言った場所であってもだ。

 地下へ向かう際ロビーですれ違うテレビで見知ったアイドル達の楽しそうに喋る姿を見るたび嫉妬や劣等感に苛まれはするが、諦めの念が強い卯月にとっては最早それ以上に決着をつけたいとの思いが強かった。楽しさと悲観がせめぎ合い結局は何を考えるでもなく、空っぽな卯月だけが残る。

 

 そんな思いでレッスンを続ける中、美城専務は最初のレッスンを見た切りであったため、卯月からすれば他のアイドルの賑やかし程度に考えられているのだと感じていた。故に唐突にレッスンルームに現れた美城を見た卯月はやっと終わるのかとわずかに安堵すら覚えていた。

 そうして美城から出て来たのはタメ口で話せとの指示、身構えていた卯月は現実味の無さからとんでもなく失礼な口調で聞き返したがそれすらも受け入れられた。そこからは思考が追いつかないほど怒涛の展開だ。

 検討中とはいえCDデビューやライブの話が上がり、あまつさえ心配していないとまで言われたのだから、卯月の心は驚天動地であった。続けられた言葉を聞くたびに理想と幻想の世界が広がるのを感じる卯月。

 二時間でバテる体力しかないとの思い込みはそうなるようにレッスンしていたのだから当たり前だと、むしろ346プロダクションアイドル部門で言えばトップクラスの体力であり期待を寄せられていて、あまつさえ美城が直接プロデュースを行うために引継ぎを行っていたから顔を出せなかったと聞けば、卯月は今までの不安は何だったのかと自分自身のちっぽけさに自責すらした。

 

 卯月はそうして溢れ出した涙を止めることは出来なかった。

 

 驚きや嬉しさ、打ち砕かれた不安もごちゃ混ぜになり全てが流れ出て、気づけば漏れ出ていたのは感謝の言葉、その時ようやっと346プロ所属のアイドルとしてスタートラインに立てたのだ。

 スカウトされてからレッスン期間を経た一月足らずの不安はその全てが卯月の思い込みから生まれたものでしかなかったと、絶望を打ち砕いてくれた美城への感謝の念が尽きる事はない。

 

 

 卯月はそうして疑念を抱くだけだった美城への評価を百八十度変えてから初めての休日、スーツ姿で待ち合わせ場所である駅前広場の噴水で何度も手鏡を確認していた。

 

(美城さんは歓迎会って言ってたけど何をするんだろう……やっぱり料亭の一室とかなのかなぁ)

 

 卯月にとって歓迎会とは小さなオフィスビルの一角かカラオケ辺りで騒ぐイメージが強かったが、美城が言う歓迎会がそれに当てはまるとは考えられなかった。料亭で厳かにこれからについて話すか、あるいはお高めのレストランで優雅に食事をしながら、などの方が美城のイメージに合っているし、そうなるであろうと想定していたが故に私服でドレスコードに引っかかる事を避けようとわざわざスーツを着て来たのであった。

 美城が歓迎会とあえて柔らかな言葉を使ったのも生活レベルで言えば庶民である自分に合わせてだろう、そんな事を考えながら待つこと数十分、噴水の裏から声を掛けられる。

 

「待たせたか」

「いえ、美城さんをお待たせするわけにもいかないので私が早めに来ていただけです」

 

 待ち合わせの十五分前、キッチリとした灰色のレディーススーツに身を包む美城と、胸元がV字で大きめに開いたおしゃれさを意識した群青色をしたスーツの卯月が揃う。休日にスーツを着込み対面する二人は完全に周りから浮いていた。

 

「それはいい心がけだが……島村、君はなぜスーツなんだ」

「ええっ? そんなこと言ったら美城さんもスーツじゃないですか」

 

 歓迎会の体とはいえ上司と二人きりで食事に行くのだから、休日であっても仕事の延長だとスーツ姿で臨んだ卯月であったが、美城の思惑は全く別にあった。

 

「歓迎会だと伝えていただろう、堅苦しさを持ち込みたいのなら望みどおりに」

「それは遠慮したいです」

 

 ただでさえ吊り目とお堅い言動でキツいイメージを与える美城だ、そんな彼女と二人で堅苦しい話し合いをしたいと思えるアイドルは346プロダクションには存在していないだろう、勿論卯月も例に漏れるはずもない。

 

「私とて休日にまでとやかくは言わない――時間が惜しいな、速やかに向かうぞ」

 

 美城はハイヒールの音を鳴らしながら足早に歩きだした。歩く姿一つとっても気丈な態度が現れる彼女の後ろ姿をぼうと眺めて動き出さない卯月、この状況は一月前であれば死刑台へと連れ出される囚人の思いであっただろうが今はそうではない

 

卯月の瞳に映る美城の背中は頼もしかった。

 

 

 美城専務に付き従うこと十分程度、その間ずっとそわそわとしていた卯月であったが、今は視線を目下のポテトとハンバーガーとアイスティー、そして前に座った専務を交互に見ていた。

 

「カロリーとおいしさは比例するとどこかで聞いたが、まったくそんなことは無いようだな……島村、どうした?」

 

 そんな卯月を意に介さずハンバーガーを小さく齧りすぐに包みなおした美城。

 

「あの、料亭は?」

「君が何を考えているのかは理解できる。あえて言うなら、君の言う通りここを料亭というには聊か粗末だな」

 

 二人が訪れたのは卯月が考えていたような料亭ではなく、アメリカ発のどこにでもあるファーストフード店。それも卯月がいつも利用している店舗のいつも座っている端っこの席だった。

 

「……ドレスコードがあるお店に連れていかれるのかと思っていました」

「スーツからして察したが、だろうな、全くの見当違いだ。そもそも私たちは接待される側だぞ、自らセッティングして料亭に行くようなことは殆ど無い」

 

 なるほどと声に出ないほど小さく呟きポテトを摘まむ卯月であったが、ならば何故美城が言うところの粗末な店に来ているのかは謎のままだ。

 

「私に合わせた、とかでしょうか」

「ああ、歓迎会と銘打っているのだから無駄に緊張するような場所では歓迎も出来ないだろう、いくらか砕けた態度でなければ聞けないこともある」

 

 今西に相談した結果、二人きりならこのような場所、いわゆる今どきの女子高生が慣れていそうな場所の方が打ち解けられると言われたからであり、最初はもう少し格式高いレストランを予定していたことを美城はわざわざ言わない。

 

「そうだったんですか、ありがとうございます! 高級レストランとかだったら、きっと緊張しちゃって味とかわからなかったと思いますから」

「…………そうか」

 

 歳が親と子と程離れた相手と一対一の食事経験など皆無であった美城は、今西の言った通りだった事に少し焦りつつも、飲み物を一口、ハンバーガーの塩気で乾いた喉を潤す。

 対して卯月は怖そうな見た目をしていてもしっかり相手に合わせ、場所をセッティングする美城に大人を見てちょっとした尊敬と親しみを感じていた。

 

「んんっ、格式ばった場所での食事経験も君の成長に繋がるだろうから今度連れて行く。それはそれとして最近のレッスンに問題はないか?」

「ひえ……あ、二時間で倒れてしまうのは変わりませんが、トレーナーさんからは、ダンスについてだけはよい感触だと言われています」

 

 レッスンが始まってからひと月経とうとしている今、美城はトレーナーの報告書から、卯月がレッスンを始めてから極めて順調に能力を伸ばしていることを知っている。それはもちろん美城にとっても喜ばしい事であるが、知りたいことはその先にあるようで、更に問いかけた。

 

「それはトレーナーからも聞いている、よくやっているようだな。では……描く方向性はあるか? 持っているアイドル像と言い換えてもいい」

 

 ――美城からして、この質問は試金石でもあり、本来ならばあり得ない質問であった。

 

 方向性とはプロデュース側が本人の能力を見て決める事であり、本人の好きにさせるなどとんでもない事であると美城は考えるからだ。

 武内プロデューサーにしてもある程度の方向性は自分で決めてアイドルへの提案を行う、故にどれほどふざけた質問であるかなど美城の口からは説明すらしたくないレベルのものであるが、あえて聞いたその真意は彼女の心の内にのみあった。

 

「え、……と……」

 

 それを聞いた卯月の動きは止まる。それもそうであろう、アイドルとして道を歩んできてやりたいことはあれど、自らの方向性を自分で考えることはなかった、身を置いていた環境では成るようにしか成らなかったが故に口から出るのは「ただやりたいこと」のみである。

 

「CDは一応出したので、ラジオか、テレビに出たい、でしょうか……?」

「ふう…………」

 

 美城は予想していた範疇、どころか想定通りの答えを聞いて深いため息をついた。

 

「そ、そうですよね、無理ですよね、私なんかが烏滸がましいことを言いました」

「勘違いするな、君が言ったやりたいことはいずれ叶う。私が聞きたいのはやりたいことではなく、辿り着く場所……道半ばに見たい景色ではなく、目指すべき地を聞いているのだ」

 

 美城は口調を強めて語りかけた。卯月にとって「アイドルとは何か」、それは美城ですら持っている答えだ。

 美城にとってアイドルとは城を輝かせる存在、そして城と共に輝く存在である、どちらかが欠ければ成り立たず、故に彼女はアイドルをナンバーワンとして輝かせる為のプロデュースをする、自らの城がナンバーワンであることを誇示するために。武内にとってはみんなに笑顔を与えるオンリーワンの存在とでも言えばいいか、とにかく、卯月にとっての「アイドルとは何か」を知りたかった。

 しかし卯月の口から出てきたのはアイドルとしての矜持ですらなく、ただ自分が見たい景色のみ――それが悪いとは言えないが、美城からして、それはあまりに稚拙が過ぎた。

 

「砕けた会話が出来る様にこの場を選んだのは、私も直接的なことを聞くためだ、故に言わせてもらおう」

 

 美城に見据えられた卯月は蛇どころか大型の熊に見つかったかのように身を強張らせながらも聞く姿勢に入る。

 

「――島村、君にとってのアイドルとは、アイドルらしくなること、でしかない、違うか?」

「っ……それ、は」

 

 美城は卯月に息継ぎの暇すら与えずに次の句を放ち続ける。

 

「私から見た島村卯月という人物はアイドルに憧れ、夢を見て、そうなりたいと言う願望が詰め込まれた、自分が夢見たアイドルをトレースしてそうあろうとレッスンを続けてきただけの存在だ」

「…………」

「君の本質は、待つ、それに尽きる。指摘されるまで待ち、与えられるまで待ち、チャンスすらも待つ」

 

 美城の口から告げられる言葉は刺々しく突いてくる。卯月がそれに対して何も言い返せないのは考えれば考えるほどその通りで、どうしようもないほどの真実だったから。

 

「自分から動こうとしない者に、掴めるものは何もない」

「っ! そんなこと、分かって――」

 

 椅子から勢いよく立とうとした卯月は、中腰の状態まで上体を上げたが、発した語気の薄れと共に再び座る。

 

「分かって、いなかったんですね。だから、前のプロダクションではみんながいなくなるのも止められなくて、言われたままに歌って、踊って……自分からやったことは自主レッスンくらいでしょうか」

 

 卯月は自嘲するように呟いた。アイドルを目指し始めた当初、昔の彼女なら悲しく思いこそすれ、ここまで自虐めいた思いは持たず、彼女にとってのアイドルとは何かを真剣に考え始めただろう。

 しかし卯月は既にアイドルの裏側を知ってしまっていた。煌びやかなだけじゃない、ドロドロとした煮こごりのような、焦げ付きのような、渦巻く感情がそこには存在していることを。それは、他人を蹴落としてでものし上がる、そんな覚悟も含まれている。

 だからこそ自らを振り返り、どれほど彼女が盲目的にアイドルを追い求め、何もしてこなかったのかを理解できてしまった。

 

 それからたっぷりと数十分ほど、両者の間には一切の会話がなく、卯月は俯いたままだった。そんな陰気を切り裂くように、もう時間だと言いたげに、美城の眼光が卯月を貫き、言葉が発せられた。

 

「――もう一度問おう。島村卯月とってのアイドルとは何だ?」

「…………私にとってのアイドルは」

 

 卯月は一度言葉を切り、心の奥底に沈んだ何かを探すように、引っ張り上げるように、言い放つ。

 

「私にとってのアイドルは、みんなに笑顔を届けられるような存在です」

「ふむ、それは君にとっての理想が形を成した存在でしかないと指摘したつもりだったが、伝わっていなかったか、あるいはそれだけではないか」

「はい、それだけじゃないです」

 

 卯月はもう間違えない、美城によって掘り起こされたものではあったが、それは彼女の中でかっちりとはまったものだ。

 

「アイドルが、私にとってみんなを笑顔にする存在であることは変わりません……ですが、それは私の笑顔を届けるだけではなく、みんなが私の歌や踊りを見て、笑顔になってくれるような存在、だと思います」

「……ふむ」

 

 その結論は、卯月が笑顔だけでは成せないことがあると知ってしまったが故の結論でもある。それを聞いた美城は多少の方向転換は必要かと頭の中で計画をはじき出しつつ、概ね満足のいく答えを得れた。

 

「私の自慢は笑顔でした、事実、私が笑うのを苦手になってからファンは減っていきましたから……だから、私は笑顔を武器にして、歌も、踊りも、全部……上手くなりたいです、そんな私を見て、凄いって思ってもらって、笑顔にできたらなって思います。自分を見てもらいたいなんて、承認欲強すぎかもしれないですけど」

「そこまで考えられたのなら上出来だ」

「そ、そうですか?」

 

 卯月は照れ臭そうにするが、どこか卑屈な表情でもあった。

 専務からして、笑いたくても上手く笑えなくなってしまったのは環境からしてどうしようもない事だが、そのままにしておくべきことではない。

 そして、それを解消するためには、卯月一人ではどうしようもないことを理解していた。ならば誰がやる――プロデューサーである美城しかいないのだ。

 

「……私も伝えておくべきことがある、君にはトップアイドルになってもらう予定だ。それは私の為でもある、一人、見返してやりたい者がいてな」

 

 これは腹の奥底から言い放った卯月に対する敬意と、これからの関係を進めさせるために必要だから伝えたのだと美城は言うだろう。一蓮托生とまでは云わずとも、計画の要を意識してもらうことは重要であるがゆえに。

 

「――――」

 

 それを聞いた卯月はどう思うか、自分の為じゃなかったと憤慨するか、利用されているだけだと捻くれるか、あるいは。

 

「……美城さんも、結構子供っぽいところがあるんですね」

「憤慨だ」

 

 むしろ美城が気分を害するような返しをした卯月であった。それもこれも、アイドルの汚い部分を知ったため、人間には笑顔だけでは語れない部分があることを知ったためだ。

 卯月が美城の真意を許容できるようになってしまったのは成長と言っていいのか、大人になったと褒めるべきなのか、中々に難しい部分ではあったが、美城にとってこの距離感は今西との関係性よりも軽い何かを感じ、悪くない気分であった。

 

「笑顔を武器に、と言えたのは大きい事だと私は考えている、当面はそれ以外のアイドルとしての要素をひたすらに高めてもらうことになるがな」

「はい……私、笑うの苦手ですし」

 

 卯月はもはや自虐ネタに出来るほど、今の自分と向き合えていた。それほど美城の言葉は彼女にとって核心を突き、考えさせてくれるものだったのだ。

 

「笑顔は……今はちょっと、どうすればいいかわからないですけど、それ以外ならとにかくレッスンでどうにかして見せます」

「ふむ、見違えるようだな……歓迎会を開いてよかったと思えるほど、有意義なものになったよ」

 

 時間にすれば一時間ちょっと、関係性は大分変容していた。

 

「島村、君にとってアイドルとは目的であり、目標であり、到着地点であっただろう」

「――もう、違います。私にとって描くアイドルは、その先にありますから」

 

 笑顔を届けられるアイドル、そこは初めて夢見た時と変わりなく。

 だけれども、ちょっと捻くれてしまった島村卯月と、ちょっと優しさを感じる美城専務の、おとぎ話がそこにはある。

 

 

 

「さて、短くはあったが出るとしよう」

「え……まだ食べきってませんよ?」

「これは少々、脂っこすぎる。もっと良い物を食べに行くとしよう、ドレスコードがある場所へな」

「うぐっ、憶えていたんですか……」

 

 卯月の歓迎会は続くようで、美城が携帯を取り出しつつ席を立ったのに続いて卯月も急いでバッグを持ちかけだした。

 

 

 そんな二人を遠くから見つけたプロジェクトクローネの面々に、卯月と美城が気づくことは無かった。

 

「……あれってもしかして専務だよね?」

「うわーほんとだ、こんな場所くるんだ」

「スーツ姿で誰かと話し合い……もしかして秘書さんかしら」

「今まで専属の秘書はつけて無かったよねー、報告はあたしたちのプロデューサーから受けるだけだったし」

「あたし達と同じくらいに見えたけど、専務に目を付けられるって事は優秀なのかなー、いつかお話する機会はあるかな?」

 

 その日、美城がファーストフード店で不味そうにハンバーガーを食べつつ謎の少女と会話する姿の写真が、クローネメンバーが所属するLINEに張り付けられた事を美城と卯月はまだ知らない。

 

 

 




島村卯月のウワサ
最近は母親から逞しくなったと言われるらしい

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