笑顔が誰にだって出来るって本当ですか   作:コリブリ

8 / 13
鷺沢文香のウワサ
最近は橘ありす以外にも新田美波と仲がいいらしい


第8話 得られたはずの未来

 クローネの面々がダンスレッスンを開始してから時計の針が一周と半分回った。始まる前はどこか締まらない空気であったがレッスンが始まってしまえば許されるはずもなく、トレーナーの指導が部屋に響き渡る。

 この五人が集まって同時にレッスンを行うことはあまりない、というのもシンデレラプロジェクトと違いプロジェクトクローネにはメンバー十人全員の曲が無いからだ。しかし、近々プロジェクトクローネのメンバーのみで行われるミニライブのために合同レッスンが予定され、最近は集まることが多かった。

 具体的には集まっているクローネのメンバーがそれぞれユニットとして出番の際にバックダンサーを行う、今日のメンバーで言えばトライアドプリムスが普段踊っているダンスをありすと文香が、逆もまたしかりといった具合だ。

 だが同じプロジェクトのメンバーと言えどユニットごとの方向性は微妙に違う。シンデレラプロジェクトほどそれぞれの個性を際立たせた魅せ方ではないが、この場にいる二組のユニットの調整は中々難しい。

 トライアドプリムスはクローネに所属するユニットの中では最もダンスが激しいのだ、体力が必要であるとともに要求される難易度も高い。対してありすと文香のユニットは語りかけてくるようなボーカルと所作のひとつひとつを丁寧に魅せるゆったりとしたダンスが売りであり、二人のソロ曲も激しいダンスを必要としないがため、トライアドプリムスの動きについて行くことが難しかった。

 

「ふう……すみません……」

「文香さん、大丈夫ですか」

「少し休憩にするか」

 

 真っ先にバテてしまったのは文香。指先がブレていることを指摘され、正そうとすれば足先のステップが乱れと悪循環に陥っていた。並ぶありすもいっぱいいっぱいであったが文香を気遣うためか努めて表に出さないようにしているようである。

 

「私のせいでレッスンが遅れてしまうのは……」

「大丈夫だって、もうほとんど踊れてるし、最初に比べれば天と地の差だよ」

「まあ、最初はなあ」

 

 そうフォローしてくれる加蓮と奈緒、トレーナーも現状の完成度であれば本番までには間に合うと判断したようで一旦休憩となる。

 何度か行われている合同レッスンだが、第一回では足が絡まってずっこけるという文香にとって語りたくない一幕もあった。

 文香はアイドルとしてそれなりに活動してきたが体力面の問題はそうそう解決することではなく、元々運動が苦手なことも加わり伸び悩んでいる部分だ。もちろんプロとしてアイドル活動をしているがゆえ本番までにはきっちり仕上げるのだが、今回はいつもより完成が遅い。

 

(……失望、されてしまったでしょうか)

 

 文香は今日、美城が視察にきているため、いつもより所作に気を付けて踊っていたのだが予想以上に体力を使っていた。レッスンを眺めている三人――アイドルを評価するような立場の人たち――をちらりと覗けば美城と秘書がなにやら話しており、文香の隣で一緒になって座り込み手を添えているありすも美城たちを気にしているようで、どこか心あらずな視線の漂わせかたをしている。

 

「ありすちゃん、ありがとうございます」

「いえ……私もサビの部分のステップと指先の魅せ方が難しくて苦手ですから……」

 

 二人は似た曲調の曲を踊ることが多く、苦手な部分もまた似通っていた。上手く踊れないとはいいつつも一定の水準以上の、プロジェクトクローネとして恥ずかしくないレベルには既に達している、だがそれよりも更に上、トライアドプリムスと並んでも恥ずかしくないレベルかと聞かれれば、そうではない。

 トライアドプリムスの面々はダンス、ボーカルとハイレベルなものを持っており、ビジュアルと合わさりより一層高められた完成度はトップアイドル間近と称されるにふさわしいものである。

 そんな彼女たちと自らを比べた文香は、少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。三人がありすと文香の持ち曲を早々に踊れるようになってしまったこともあるだろう、だがそれ以上に、ありすに気を使われてしまっている状況が嫌だった。

 

 これではどちらがお姉さんなのかわからないと、頬を軽く張った文香。

 

 アイドルになる前の文香であれば自分はこうだからと、比べることすらせずに大好きな読書を続け、本に視線を落としていただろう。だがアイドルの楽しさや苦悩を知り、その道を歩くと決めた今、同じプロジェクトのメンバーであっても負けたくないと、もう一度立ち上がれるのだ。

 

「一歩一歩、歩みは遅くても……歩き続ければたどり着ける、歩き続けなければ見れない景色がある……」

 

 文香の口から漏れ出たのは、アイドルとして失敗したとき自分を慰めるためにたまたま読んだ本に書いてあった一節だが、妙に心に響いてしまい、それ以来落ち込んでしまった際には鼓舞するように口にしていた言葉。

 

「あの」

「ひゃいっ!?」

 

 文香が休憩が終わる前にステップを一度確認しておこうと立ち上がりかけたところで頭上から声がして、驚愕で妙な返事をしてしまう。もしかして今の呟きも聞かれていたかと見上げれば、そこには前を向いたままの卯月がいた。

 

「あ、あの……秘書さん、でしたよね、何か御用でしょうか……?」

「あなたは、何を意識していますか」

「えっと……意識、ですか」

 

 文香は唐突に喋りかけられたかと思えば意味をくみ取りづらい問いかけをされたていた。一体何を指しているのかわからないのでそのまま聞き返してしまったが、ここで自らの失態に気づく。

 専務の秘書、笑わない怖そうな人、視察としてきているらしい、ここまで条件が揃うと本当はそうでなくてもかしこまってしまうものだ。そんな相手に座りながら質問へ質問で返すなど、失礼にもほどがあるとすぐさま佇まいを直し、卯月と向き合った文香。横にいたありすも慌てて立ち上がると、卯月は胸に手を置き意を決したように俯き気味の姿勢で言葉を紡ぎだす。

 

「――曲がスローテンポからハイテンポへ移調したとき意識だけでなく身体を切り替える必要があります。具体的には基本的に足をコンパクトにまとめてサビのワンフレーズ前でステップの位置を内また気味にしてください。それからサビは指先の動きが重要で波のように動かすにはそのまま指先を意識するのではなくむしろ手前の関節部分それも肩から肘手首と埃をはらうように動かす必要がありま、す……ハァ……ふう……」

 

 卯月は一呼吸すら置かずに言い切ると、息切れを隠すように浅い呼吸になる。

 

「えっ……あ……」

 

 文香の脳は卯月から一気呵成に放たれた言葉の意味を遅れて認識した、それは助言。

 

「えと、足をコンパクトにですか……?」

「……こうです」

 

 ありすも意図を察したのかその助言を聞く姿勢に入る。表情から怖い人なのではないかと若干びくびくしているようではあるが素直に質問をすると実演付きでかえってきたのであった。

 

「あの……肩から動かすというのは……」

「……意識の問題ですが、普段スローテンポで行っていることを早くするだけで全く別の振り付けと感じてしまうことは往々にしてあります。普段ハイテンポな曲を踊らないお二人はその部分のチューニングが上手くいかないのでしょう。なので――」

 

 少しだけといった風に灰色のジャージを着こんだ卯月が構えるが、スピーカーから音楽が流れだした。卯月がぎぎぎと首だけそちらに向ければ、とてもいい顔をしたトレーナーがサムズアップをしている。

 いいフォローだろとでもいいたげな顔を尻目に、より一層無表情になった卯月はサビ手前のフレーズが流れた瞬間からステップを刻みだす。

 踊る卯月を見る文香とありすの二人は言い知れぬ違和感を感じていた。目の前のそれはトライアドプリムスと確実に違っていたから。

 

「――ッ!」

 

 それはまるで叫んでいるようだった。この場所から抜け出したいと。ここから連れ出してくれと。この場所は私に相応しくないと。

 文香は鳥かごに囚われた文鳥が空を見上げるような儚さと、逃げ出そうとする意志の激しさを見せられている感覚を抱く。それは、三人とは違う完成形。力強さを感じさせるのに、うちに込められた柔らかな何かが見え隠れしていたのだ。

 文香の目の前で繰り広げられるダンスは完成度で言えばトライアドプリムスに匹敵するのではないかと思わせるほどに上手い。技術的なことをいうならば、ピンと伸びた指先に乱れのない足先、ブレることすらない腰、レッスンを積み上げ続ければこうなるであろう、基礎の塊。個性という名の贅肉がそぎ落とされ残った実力をまざまざと見せつけている。だけれども、そぎ落せなかった、染みついてしまった彼女自身の色が残っていて――

 

 気づけば曲はサビの中盤、それ以上は見せる必要がないと言わんばかりにぴたりと佇まいを直し、九十度のお辞儀をした卯月は美城の横へとつかつか足音を立てながら帰っていく。

 

「……へえ」

「すごっ……」

 

 トライアドプリムスの面々も見ていたらしく口々に感想を漏らしていた。ありすと文香は目の前で見せつけられ、惚けてしまっていたが、我に返り二人して卯月へとお辞儀を返した。

 同じ完成度でも、まったく違うものがある。それは偶然を運命と言い換えられるように、ダンスの魅せ方も一つではない、そう諭された気持ちであった。

 文香とありすは受け取った助言を反芻しながらトレーナーの元へと移動する。休憩時間はまだ残っているはずだったが、トライアドプリムスも同じ気持ちなのか、早く踊りたくてたまらないといった風だった。

 そこからレッスンが終わるまで、ありすと文香は言われたことをこなせるようにと踊り続けた。いつもなら挟むはずの休憩も取らず、身体に籠った熱を発散するかのごとく。

 それはトライアドプリムスも同じであり、自分たちの持ち曲に別の可能性があるといわれ黙ったままでいられるはずもなかったのだ。一年と少し346プロで活動して、アイドルとしてのプライド、自負くらいは持ち合わせていると一層レッスンに力が入る。

 気づけば二時間と少し、五名はトレーナーにレッスン終了を言い渡されるまでノンストップで踊り、歌い続けた。

 

「今日はいつにも増して頑張ったじゃないか。まあ、あんな発破をかけられれば無理もない話か」

「ハァ……ハァ……一日やそっとで、辿り着ける場所ではないでしょうけど、少しでも近づきたい……そう、思わされてしまいましたので……」

「凄かった、です……ふう」

 

 立つことすら難しいのか女の子座りでへたり込む文香と、滅多にあることではないが床へ全身を投げ出しているありす。トライアドプリムスは三人で背を預け合い呼吸を整えようと声を発せないでいた。

 

「三時間くらいほぼぶっ通しだ、クールダウンはしっかりとやるぞ」

 

 文香は鈍い熱を持ったふくらはぎをほぐすよう、ゆっくりと柔軟を始める。ありすは動く元気すらなかったようだがトレーナーに急かされて背中を押されていた。

 

「私と、いい?」

「ええ、ではお願いします、凛さん」

 

 いつもはありすとクールダウンを行っていた文香であったがトレーナーに相手を取られてしまい、トライアドプリムスであぶれた凛とお互いの背を押し始めた。

 

「ねえ、どう思った?」

「どう思う、とは……秘書さんのことですか」

 

 凛は答えず、卯月へと顔を向けた。それを肯定と受け取った文香は何と答えればいいか逡巡する。凄かったと一言でおさめることもできたし、情緒的に語ることもできた。それほど卯月のダンスに魅せられてしまっていたがゆえに。

 だがいざ言葉に出そうとすればなんと表現すればいいのか困ってしまうのだ。凄かったけれど、どこか教本に書いてる通りで突出しきらない。魅力的だったけれど、個性といった肉付けがない。

 ダンスとして見た時、卯月の動きは一種の完成形だった。しかしアイドルとして培ってきた視点から見ると明らかに足りないものがあるのだ。文香からしてそう思ってしまうのは決して貶める意味はなく、もったいないと考えてしまう。

 

 だから結論として導きだしたそれがしっくりときた。

 

「…………きっと、笑っていたのなら、もっと素敵だったのでしょう」

「……だね」

 

 文香の物腰柔らかな雰囲気にあてられ、凛も静かに同意する。

 

「でも私はそれだけじゃなくて、昔の自分がそのまま成長してたら……ああなってたのかなって思ってさ」

「昔の自分、ですか?」

 

 文香から見た凛の表情は複雑だった。誰かが公園に置き忘れてしまったおもちゃを見つめるようなもの悲しさと、ふと郷愁にかられ遠くへ思いをはせるような儚さでもって卯月を見つめている。

 

「私がアイドルになったきっかけはさ、笑顔なんだ」

 

 他人を引き付ける朗らかな笑顔はできない、周りを元気にするような満面の笑顔はできない、だが凛は儚さを纏った笑顔を持っていた。わかりやすく表に出ることは少ないが元来持ち合わせている優しさやアイドルが純粋に楽しいからこそできる笑顔であることを、文香は知っている。

 

「昔の私は全然笑わない子だったんだ。何やってもつまらなそうな顔してるっていわれて。でも私をアイドルの世界に導いてくれたプロデューサーは笑顔がスカウト理由だって……笑っちゃうよね」

「今の凛さんからは想像できませんが……」

 

 凛がその笑顔を最初から持っていたわけではないと言われ面食らう文香。彼女が知りえないことではあるが、昔の凛はむしろ無表情であることが多くそれのせいで何度かトラブルにも見舞われているほどだ。それでも笑顔を手に入れられたのは、仲間たちとぶつかり合って、アイドルとして成長してきたからこそ。

 

「プロデューサーに笑顔ですって言われた時、鼻で笑ってたんだ。笑顔なんて誰にでも言えるような理由でーって。でもね、それは全然違った」

 

 凛はそこで言葉を区切り、まるで自分に言い聞かせるようにぽそりとつぶやいた。

 

 

「笑顔は誰にだって出来るものじゃない」

 

 

 凛の真剣な表情と放った一言は、そこに万感の思いが込められていることを文香に伝えた。たった一言、されどこれまでのアイドルとしての道のりが、その一言に詰め込まれているのだろうと。

 凛は広げた手のひらに視線を落とし、強く握る。色褪せていく何かを掴むように。

 

「プロデューサーにスカウトされたあと、たまたま街頭からちょっとはずれた場所でアイドルのステージをみつけたんだ、今思うと駆けだしの下積みだったんだと思う。数人のグループで、その中でも微妙に目立たない位置に立ってた子がいて……凄い、楽しそうに踊ってた……笑顔って、あんなに人を引き付けられるんだって、価値観を変えられちゃうんだって」

 

 もう一年以上前だからねと、その時を思い出そうとして上手くいかないのか、微妙な顔をしながら手のひらの開き閉じを繰り返す凛を見た文香は、背負うものの違いをむき出しにされているようで、年下ではあるはずの凛にちょっとした嫉妬を感じていた。とはいってもそれは比べるようなものではなく、文香はむしろ糧としてよりいっそう頑張ろうと燃料にできる程度のものである。

 それに、文香にとって価値観を変えるほどのものは既に見つけられている。アイドルという存在そのものが自らを変えていってくれているのだと、なればこそ、今まで歩いてきた道に意味を見出せるのだから、一歩一歩小さくでも進むと決められたのだ。

 

「それが私のアイドルとしての始まり。あの時の笑顔に近づきたくて頑張ってるけど、上手くはいかないね。写メでもとっておけばよかったよ」

「たいへん、興味深いお話でした……そうすると今の秘書さんは、凛さんのように笑顔に出会えなかったということでしょうか」

 

 凛は昔の自分がそのまま成長したら今の秘書のようになると言った、つまり目指すべき笑顔に出会えなかったらああなっていたかもしれないということだろう。文香にとってのアイドルそのものを、凛にとってのとあるアイドルの笑顔を、卯月は見つけられなかった。

 

「うん、一番の理由はそれ。それ以外にも理由はあって、私ってさ、自覚はないけどオーバーワーク気味にレッスンしちゃうらしくて。それも基礎通りにやろうとするから教本みたいってトレーナーに言われて、ちょっと崩して自分らしさを押し出して踊ってみたらうまくはまったから……そういうのが全くないまま成長したらああなるのかなって」

「なるほど。なら、別の形ではありますが、凛さんと秘書さんは似てるのかもしれませんね」

「そうかもね……聞かれないように気を付けなよ、専務の秘書やってるくらいだし、多分怒ると怖いよ」

 

 くすくすと笑いあう二人。凜からでた冗談は自分の過去を話した気恥ずかしさを隠すためでもあったようだ。

 

「凛さんをこの道へ進ませたアイドルさんは、今もどこかで笑顔を振りまいているのでしょうね」

「そうだといいな……ううん、きっと、そうだよ」

 

 文香と凛がクールダウンを終えて立ち上がると他のクローネメンバーは既に終えていたようで、二人を何やらニヤニヤと見つめていた。

 

「ふーん、随分と仲がいいみたいだね?」

「凛さん、とてもやさしい表情をしています」

「あとで何喋ってたか聞かせてくれよなー」

 

 このあと色々聞かれるだろうと考えたのか面倒そうに嘆息する凛。それも愛おしい日常の一ページだとそっとありすの元まで歩きだした文香はふと今まで話題にしていた卯月を見る。

 

 そこには届かない場所へ手を伸ばすかのように、何かを羨む表情をした卯月がいた。

 

 それも一瞬で真顔に戻ったので気づいたのは文香だけ――いや、凛もまた卯月の方を見て怪訝な表情をしていた。

 

(秘書さん……あなたは、何を羨んで……?)

 

「ほら、レッスンは終わったからさっさと帰る、中々いい感じだったから次もこの調子でな」

 

 文香の思考はトレーナーの号令で振り払われる。卯月が見せた表情は間違いではなく、自分たちに何を見たのか、あれほどの動きを見せた彼女は何を羨んだのか。

 クローネの面々が美城たちに挨拶をしながらレッスンルームを退出するが、文香と凛は同じ思いを抱いていたようで、美城よりも卯月が気になってしょうがないのか、横目で見つめながらの退出だった。

 

 

 レッスンから数日、あの日に見事なダンスを披露した卯月であったが、クローネの面々には仕事が滅茶苦茶できる上にダンスまで上手いと瞬く間に広がっていた、そして無表情の威圧感からか美城隠し子説のおまけつきである。

 しかしクローネからすればなぜ秘書である彼女があんなにもダンスが上手いのか気になってくるのは当然である。アイドルを担当する以上ダンスにも精通している必要があるといわれればそこまでだが、346所属のプロデューサーにそんな技能が要求されるなど今まではなかった。

 アイドルにより近い位置でプロデュースをする武内にしてもダンスやボーカルの技能など専門外であり、そのためにトレーナーがいるのだから当たり前の話なのだが。

 不思議な点はそれだけではない。童顔というにはあまりに少女然としており、見た目から推測される年齢は高く見積もっても二十に届かない。そんな彼女があの美城専務の専属秘書をしているのはどうにも現実味がなく――隠し子説はおふざけが過ぎるため――裏があるのではと勘繰ってしまうのは仕方がないことであった。

 ゆえに年若くウワサ大好き花の乙女なクローネの一部面々が動き出すのは必然であったか、ただ周りからみれば意外なことに一番に動き出したのは凛であった。

 

 

 




渋谷凛のウワサ
いつかアイドルになるきっかけをくれた人と一緒にステージに立ちたいらしい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。