Prologue
【Ⅰ】
カタン、という物音がひとりきりの書斎に響く。
文字の海に溺れるのにも、ちょうどうんざりしてきたところだった。睨めっこをしていた、完成間近の報告書から顔をあげ、伸びをする。
「……」
できるだけ物音を立てぬよう廊下を進み、リビングへと続くドアを開ける。
すると、そこには予想通りの人物の物憂げな顔がひとつ。やはりな、と、先程の物音の原因を確信する。
「……どうしたんだい?こんな夜更けに」
「……あ」
「眠れないのかい? 」
「うん……」
「そうか……」
その表情には見覚えがあった。記憶の糸を手繰り寄せるまでもない。
そっくりだった。
遥か昔……毎日、見ていた。……それに。
「……じゃあ、ひとつ、『おはなし』をしてあげようか? 」
「……おはなし?
そんな、こどもじゃああるまいし……」
その反応、それこそが、まだまだきみがそうである証だろう……。我慢できずに漏れ出てしまった笑みとともに、愛すべき『こども』を説得すべく、いう。
「ふっ。まぁ、そういわずに。……いいじゃあないか。
明日は休みだろう? すこし付き合ってくれよ」
「まぁ、そうだけど……」
「それに、きみが、ぜったいに、しらない……
きみにとって、けっこう、興味深い内容だと思うけれど? 」
「……。どんな話? 」
思惑通り、その好奇心をくすぐることに成功したらしい。隠そうとしているようだが、興味津々……そう顔に書いてある。
素直すぎるその様子に、またも湧いてきたものをどうにか抑える。一体誰譲りなのか……なんて考えるべくもなく、その心当たりはすぐに頭に浮かんでしまったが。
「そうだね……。
……ある男が、失ってしまったたいせつななにかを取り戻す旅に出る……。
……そんな話さ」
「ふーん……。なら、御願いしようかな」
「よし。いいだろう。
じゃあ……まずは、珈琲でも淹れようか」
「……ながいはなしに、なりそうだから」
【Ⅱ】
蝋燭が照らす薄明かりの中、男は闇に呑まれ消えた。
その両の腕のみを残したまま……
砂埃とともに、おびただしい鮮血をまといながら、
その小さな身体を横たえる一匹の獣……
赤く光る満月と星々に見守られながら、
冷たい水にその半身を浸し、ゆっくりと瞳を伏せる青年……
『これが、彼等の未来。このままの、未来』
「……い、やだ! そんなの、いや! 」
『そうですか。
……あなたという存在は、小さい。
しかし、その存在は確実に周りに影響を及ぼす。
落ちた小さな石が、泉全体に波紋を起こすように……
けれども、忘れないで下さい。
加えた力はひずみを生み、何処かへ解放を求める……
……なにかを得る為には、なにかしらの代償が、必要だということを』
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
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そのまま4部にクルセイダース達突入
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花京院の息子と娘が三部にトリップする話
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花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
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読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!