私の生まれた理由   作:hi-nya

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更新遅くなりました。申し訳ありません。
アヴさん&ポルさんとの小話中心です。その二人の視点あります。


Stardust Train

 心地よい振動で自然と目が覚めた。

 ガタンゴトン、という列車特有の規則的な音と揺れが、まだ覚醒しきっていない自分に己の居場所を教えてくれた。

 

 しかし寝すぎた。結局、昼食会場から逃げるように飛び出したのち、ずっとだから……昼寝というには長すぎだ。窓の外にみえる景色はすでに茜色に染まりかけていた。

 時計を見ると16時すぎ。

 

(今の時間ならどうだろ。大丈夫かな? )

 

 思案と共に目的の部屋の前までやってきた。ノックとともに言う。

 

「アヴドゥルさん、いらっしゃいますか? 」

 

 しばしの間のあと、目的の人物が顔を出す。

 

「はい……おお、保乃。どうしたんだい? 」

「ちょっとご相談がありまして……今お忙しいですか? 」

「ああ、いいよ。ちょうどそろそろ休憩にしようと思っていたんだ」

 

 ドアの隙間から見える室内のテーブルには、筆記具や、たくさんの本、地図などの資料、メモやノートが広がっていた。きっとこれまでの旅の記録をまとめたり、これからの計画を立てたりといったお仕事の途中に違いない。

 

「え!? すみません、せっかくの休憩時間に……

 そんなに急ぎなわけではないので、出直しましょうか? 」

「いや、大丈夫だよ。君は本当に遠慮しいだなぁ。まさに『日本人』だな」

 

 笑いながら言われる。

 

「え? そ、そんなことは! 」

「どうぞ、入りたまえ。散らかっていてすまんな」

「いえ、では、失礼します」

 

 ソファを勧めてくれつつ、アヴドゥルさんが言う。

 

「ではお茶を淹れてくるよ」

「あ、じゃあ私が……」

「いいよ。お客様は座っていなさい。

 というか実はけっこう得意なんだ。よければ飲んでいってくれ」

「そうなんですか? じゃあ、お言葉に甘えて」

「チャイにしようか? ミルクティーは好きかな? 」

「はい。好きです」

「では少し待っていてくれ」

 

「さ、お待たせ」

「ありがとうございます!いただきます。……わぁ! 美味しいです! 」

 

 やさしい甘みとミルクのまろやかさ。そして、紅茶と香辛料のいい香りがマッチしていて絶妙だった。

 

「ふっ、それはよかった。」

 

 絶品の紅茶に舌鼓を打ちつつも、本題に入る。

 

「で、相談とは? 」

「はい、セシリアのことなんですけど」

「あぁ、どうした? 」

「皆ちゃんとスタンドをちゃんと制御しているのに、私はセシリアのこと生かしきれていなくて……どうしたらよいものかと。あと以前スタンドは成長することもあるとおっしゃられていましたが、具体的にどうすればいいのか、ご存知ないかと思いまして。承太郎君が聞き出してくれた情報からも、きっと、どんどん、敵の攻撃は熾烈になっていきますよね? だから……」

「ふむ。君や皆のスタンドについて、一度、まとめてみようか」

 

 

 

「……と、いうわけで、君のスタンドは自立型の側面が強いようだ」

 

 そういえばあのひとにも言われたな、とおもいだす。

 

「当たり前だが、スタンドには個人差がある。

 セシリアはハイエロファントより周辺把握や精密な動作は苦手なのかもしれない。

 が、制御という点では、できているのではないかな。

 スタンドが命令をきいて、遂行してくれているわけだから。」

「そうなんでしょうか……」

「まぁ、そもそも、君は今までの戦闘において、よくやってくれていると思うがね」

「え!? 私、全然、何もできていないですよ?! 」

「そんなことはないよ。

 これだけ次々と敵の襲来があるにもかかわらず、目立った負傷者はゼロ。

 せいぜいかすり傷程度だろう? 十分だよ」

「あ、ありがとうございます。でも、まだまだです……」

「ふっ、やっぱり日本人、だな」

「い、いえ! 」

 

 私のせいで日本人のイメージを破壊してしまったらどうしよう、と心配になってくる。

 

「あと、成長性についてだが、残念ながら、わたしもスタンドを成長させる方法は知らない。

 本体の精神の成長が鍵になるのは確かだが、なにがきっかけになるのかまではわからない。

 そもそも“成長性”自体があるかないかもスタンドによるしな」

「そうなんですか……」

「それよりも、状況判断等を鍛えるほうがまだ現実的かもしれないな。

 実践経験が必要になるから、なかなか難しいところだが」

「そう、ですね。みんなすごいですもんね……」

 

 瞬時に適切な判断を下し、ベストな使い方をする。私に足りないと痛感、かつ、先日お説教してもらったものだった。

 

「ジョースターさんは闘いの経験自体が豊富だし、花京院やポルナレフは生まれついてのスタンド使いだ。歴の違いというのもあるから仕方ないところはあるさ。

 承太郎はスタンドが発現してからまだ日は浅いが、喧嘩のエキスパートだからな……それに天性のものもあるのだろう。やつは特別だ。

 一方君は闘いにおいてセシリアを使い始めたのはついこないだだろう。焦ることはない。自分のできることを伸ばしていけばいいのではないか、とわたしは思うが。」

「……」

「ただ、……そう、たとえば花京院。あいつはよく考えているそうだよ。

 こういうスタンドにもし対峙したらどうするか、と。

 仲間の能力的に、どういう状況を創れば有利か、逆にこうなってはまずい……とかな。

 あと弱点を補うにはどうすればよいかってことなども。そういった習慣は大事かもしれないな」

「なるほど……」

 

 さすがだ。見習わなければ、とおもう。

 

「あまり答えになっていないな。すまない」

「そんなことないです! 十分参考になりました。

 いつも聞いてもらってしまってすみません! 」

「構わないよ。わたしもスタンドの研究は趣味のようなものだから」

「ありがとうございます、師匠! 」

「し、師匠……? 」

「あ、すみません……アヴドゥルさん、私にとってスタンドのお師匠様なので……つい」

「はは、光栄だ。そもそも、占い師のわたしにとっては相談されるというのは嬉しいことだからね」

「そう言っていただけると……助かります」

 

 そんなふうにほっとする私に、ぎょっとするようなことを言いだすお師匠様。

 

「他にも悩みがあったらいつでも言いなさい。……恋愛相談とかでもいいぞ」

「ふぇっ!? な、なな……! ないです! 」

「フフフ……」

「そ、そもそも今はそんなこと考えてる場合じゃないでしょう! 」

 

 にやりと笑う師匠に言う。しかしあっさりとこう返される。

 

「そんなことはないよ。それとこれとは別さ。

 むしろプラスにはたらくことだって多いんじゃないか?

 言っただろう? スタンドの強さは心の強さ。本体の精神的な成長がスタンドの成長だと」

 

(……こころの、成長……?)

 

「そうなので、しょうか……」

 

 つい納得しそうになる。

 

「はっ! い、いや、それでも、不謹慎です! ってか、ないですってば!! 」

「……そうやって思っていても、いつのまにかおちている。

 それが恋、というものさ……」

「……面白がってます……? 」

「心外だな。至って真面目なんだが」

 

「……」

 

 その言葉に、おもわず顔をだす、本音。

 

「……。……んです」

「? 」

 

「……よく、わからないん、です」

 

「……そうか。まぁ、焦ることはない。そのうちわかるさ。嫌でも。そんなものさ」

「そうですかね……」

「ああ。自然な気持ちにまかせるのがいい。

 答えは……いずれ出るさ。

 占い師の私の予言を、信じなさい」

 

 微笑みを浮かべ、いう。冬の雪山で遭難したときに、山小屋で暖炉を見つけたら…きっとこんな気持ちになるのではないか。なんだかそんな風に思った。

 

(さすが『魔術師の赤』……だなぁ)

 

「ふふ、そうですね。そうします。すみません、師匠」

 

 そういう私にポロッと師匠も本音を漏らす。

 

「いや、こちらこそ、からかって悪かったね」

「はぁ!? やっぱりからかってたんじゃあないですか!! 」

「あ……。ごほん。時にはこうして本心を引き出してやるのも占い師の務め……」

「……」

「ははは、許せ。君のことを応援したいという気持ちは本当だよ」

「はぁ……。まぁでも、少し気が楽になりました。ありがとうございます」

「ふふ、だろう? 本職だからな。まぁ、いつか答えが出たら、ぜひ教えてくれよ」

 

「……そうですね。いつか、答えが、出たら……」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 来たときよりかは幾分気が晴れたような表情で、丁寧すぎるともいえるお礼をいい、自らの部屋に戻って行く『恋する戦乙女(本人に自覚はない)』を見送り、さて、そろそろ作業を再開しようかと思った時だった。再びノックの音が響く。

 

「今日は千客万来だな。……はい」

「失礼します、アヴドゥルさん。今よろしいですか? 」

「今度は君の方か。花京院」

「今度? ……方? 誰か来ていたんですか? 」

「あぁ。迷える子羊がね」

「はぁ。よくわかりませんが……。出直しましょうか? 」

「いや、構わないよ。むしろ君の意見も聞きたかった。ちょうどいいよ」

「そうですか? では……、『鏡』を使うスタンド使いについて、なのですが」

「……ああ。わたしもそれが気になっていた」

 

 ひとしきり、花京院と話をしていると電話が鳴った。

 

「ジョースターさんだ。そろそろ、夕飯にしようとのこと。

 ちょうどいい。今の話は皆にも伝えて注意を喚起しておいた方がいいだろう。」

「そうですね。しかし、ポルナレフ……」

「ああ、思い詰めすぎなければいいのだが……」

 

 

 

 

 

「あ、師匠! さっきはありがとうございました! 」

 

 食堂車に着くと、またも彼女ににこやかに礼をいわれる。

 

「いやいや」

 

 律義さに感心していると、気づいたように花京院が訊ねる。

 

「ああ、なるほど。あなたが『子羊』さんだったんですね。というか、『師匠』……? 」

「うん。お師匠様だから」

 

 それではまったく彼の疑問の答えにはなっていないだろう…と思うが。

 

「ですよね? 師匠! 」

「ああ。そういうことらしい。謹んで拝命させていただくことにしたよ」

「ふーん」

「あれ? 花京院くんも師匠と? 」

「ええ。……で、子羊さんはなにを迷っておられたんですか? 」

「……それ、私のこと? えーと、セシリアのこと、と……」

 

 しまった、という顔をするうっかり乙女。それを目ざといこの男が見逃すはずはない。

 

「……と? 」

「……なんでもない。お、己を高める方法について、かな」

 

 その返しにおもわず笑ってしまう。

 

「ふっ! ふふ……たしかにそうだ。その通りだな」

「はぁ……そうなんですか?

 なら僕も興味ありますね。己を高める方法。どうしたらいいんですか? 」

「うっ! え、えっと……」

 

 困り果てている弟子に助け船を出す。

 

「だいじょうぶだ、花京院。

 おまえはすでに実践している。いや、しつつある、かな。おそらくな。ふ、ふふ……」

 

 こちらには自覚があるのか否かは不明だが。

 

「えっ!? そ、そうなの!? 」

「なんです? そのリアクション。だから、もう少し具体的に……」

 

 そしてまたも素直な反応をみせ、つっこみを入れられる弟子。

 

「も、もういいんだって! あ、そ、そうだ! 師匠のチャイ、すっっごく美味しいよねっ!! 」

 

 苦し紛れにそんなことをいう。

 

「はぁ? チャイ!? ちょっと、アヴドゥルさん! 僕飲ませていただいてませんよ! 」

 

 おかげで矛先がこちらを向いてしまう。

 

「ああ、ええと、弟子特典、というやつさ」

「ふふ、やったー! 」

「ええ? ずるいなぁ。そんなに美味いんですか? いいなぁ……」

「うらやましかったら花京院くんも弟子入りしたらいいじゃない」

「……なんか、そういわれると非常に癪です。

 だいたい、そんな不純な動機で弟子入りなど……けしからん」

「すなおじゃないなぁ」

「うるさいな。アヴドゥルさんの弟子というのはいいんですよ。

 しかし、今入門するとあなたが姉弟子になってしまう。それが納得いかないんですー」

「なっ! ひどい! 」

 

 そうして小競り合いを始めるふたり。

 

「わ、私の方が年上なんだよ! 」

「精神年齢は僕の方が上です。圧倒的に」

「はぁ!? 」

 

 傍からみたら犬も食わない『あれ』にしか見えないが……一応止めてみる。

 

「あーもう、わかったわかった。あとで作ってやるから」

「ほんとですか! 」

「あ、じゃあ私も! もう一杯飲みたいです」

「ふっ、いいよ。では、準備しておくから、食べ終わったら来なさい」

 

「「はい!」」

 

 仲良く返事をする。

 

「美味しいんだよ。ほんとに」

「それは楽しみだ」

 

 さっきまでしていた口論は何だったのか。現金なものだ。

 

「おい、保乃、あまり言うな。ハードルが上がるじゃあないか……」

 

 苦笑いするわたしに満面の笑みでいう。

 

「だいじょうぶですよ。だって絶品ですから。師匠の紅茶!」

 

「……」

 

(ふっ……! )

 

 その横顔から、ひとつ気づいてしまったことを隣の男に囁く。

 

「……はて? おまえがうらやましかったのは……紅茶だけかな? 」

 

「っ! ……な、なんのことでしょうか? 」

 

 すると、普段は大人顔負けのこの男が年相応の表情をみせる。

 おかしくてしかたがない。

 

「どうしたの? 」

「なんでもないです! 」

「えー? 」

 

 そんなふたりの様子をながめつつ、思う。

 

(まったく、なんて可愛い友人たちだ……)

 

 部屋に戻ったら、とっておきの茶葉の封をあけてやろう。

 

 ……そんなことを考えながら。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

(あぁ、しまった、昼間に寝すぎた。眠れない……)

 

 ベットからもぞりと起き上がり、部屋をそっと出る。

 深夜の寝台列車は人気なくシンと静まり返っており、車輪の音だけがゆっくりと響いていた。

 最後尾の、景色を楽しむためだろうか。夜風に当たりたいと思い、幌で囲まれているだけになっているこの車両までやってきた。

 

(ん? あれは……)

 

 するとそこに見慣れたシルエットが浮かんでいることに気づき、声をかける。

 

「……ポルナレフさん? 」

「ん? あぁ、保乃か。どうしたんだ、もう夜中だぜ」

「ちょっと眠れなくて。散歩です。ポルナレフさんこそ」

「オレは……ちょっと考え事をしていてな」

 

 いつもの陽気な表情とはうって変わったその様子から内容を察する。

 

(……妹さんのこと、だよね……)

 

「承太郎が敵から得た情報……鏡を使うというスタンド使い」

 

 ポルナレフさんはポツリポツリと話してくれた。その心の内を。

 

「おそらく、近々、対峙することになるだろう」

「……はい。」

 

「やっとだ! やっとこの時がきたんだ……! 妹の……、シェリーのかたきが、やっとうてるッ!! 」

 

 小さく、しかし、力づよく、叫ぶ。そのためなら……と考えていることが、痛いほど伝わってきた。

 

「妹さん、シェリーさんっていうんですね」

「あぁ」

「どんな方……か、聞いてもいいですか? 」

 

 そんな様子に、つい、今なら……と、ずっと気になっていたことを尋ねてしまっていた。

 

「……シェリーのこと、か。」

 

 しばしの沈黙のあと、ゆっくりと言葉を紡ぐポルナレフさん。

 

「……そーだなあ。歳は、……生きていればお前と同じ、19だ」

 

(あぁ、それで、あのとき…)

 

 先日、自己紹介をしていた時のあの一瞬の表情の意味を理解する。

 

「兄のひいき目を抜きにしても器量良しでなー、オレに似てモテモテだったぜ。

 ハイスクールでは毎日のようにラブレターもらってきてな!

 ……ま、オレが全員ぶっとばしてやってたけど! 」

「な、なんてことを……」

「な、なんだよ! 可愛い妹にふさわしいかどうか、テストしてやってただけだ!

 オレの眼にかなわねぇ奴なんかに大切な妹をやれるかよ! 」

 

 記憶の箪笥の引き出しが開けられた、そんな気持ちだった。ため息を漏らす。

 

「はぁ……。世のお兄さん方っていうのはみんなそういう感じなんでしょうか」

「あれ、お前も妹なのか? 」

「はい、私はシェリーさんほどモテモテでも可愛い妹でもないですけどね。

 兄が、似たようなことをしてくれたことがあります」

「へぇ……どんな? 」

「ええと、前に……私と、その……お付き合いをしたいという奇特な方がいまして……。

 不思議に思いつつ、お断りしたのですが、ちょっと困った事になってしまって……」

「困った事? 」

「電話が毎晩かかってきたり、手紙とか花とかが下駄箱やポストに入っていたりとか……ですね。

 家族に迷惑がかかりますし、資源やその人の労力や時間も無駄だし……。

 やめてほしいと言ったんですが、そうしたら今度は朝や放課後、待ち伏せをされ始めまして」

「まじか……。なんてしつけぇやつだ。男らしくねぇなぁ……」

「別の道を行ったりして気をつけていたんですが、ある日うっかり見つかってしまいまして。

 逃げたんですが、あっちは自転車だったから、追いつかれてしまって」

「はぁ?! 大丈夫だったのか? 」

「はい。ちょうど通りかかった兄が、おもいっきり、こう……ガツンと……ぼこぼこに……」

「そ、そうか……。まぁ、そりゃ、殴るわな。しゃーないわ。オレでも殴るわ」

「それが最たる例ですね。

 以来、似たようなことが起こりそうになるたびに兄が脅してくれました。

 ……まったく、過保護なんですよ。

 しかも、そのたびに、おまえに隙があるからだ! とかいって叱られるし……」

「そうか……」

「まぁ、ほんとは……すごく感謝していますけどね。……本人には言ってないけど。それに……」

「それに? 」

「……申し訳なくて。……私なんかのために、いつも。

 これも……ちゃんといえていないんです。……ずっと。

 だめな妹ですよ。ほんとに」

 

「……。いいんだよ。きっと兄さんはわかってるさ…兄さんだからな。」

「……そうなんですかね? 」

「ああ」

「……そっか。そうだと、いいなぁ……」

 

 おもいだす。実家を出てからは、とんと会っていない。兄の顔を。今度会うときには、勇気を出して、言ってみようか。

 

 いままでごめんね、と、そして、ありがとうを。

 

 そうしたら、どんな顔をするだろう? また「なにいってんだ」なんて叱られるのは確実だろうけど……でも……。

 

 ちょっと楽しみになってきた。その日が。

 

 いつになるかは……わからないけれど。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 きっと愛しい兄さんのことを思い出しているのだろう。夜風を楽しみつつ、やさしい表情を浮かべる横顔を微笑ましく……そしてすこし羨ましく見る。

 するとそれに気づいたのか、あわてたようにオレに言う。

 

「はっ! すみません。私の話なんていいんですよ! つ、続きを聞かせてください! 」

「ああ……」

 

 今夜は、語りたい気分になっていた。なんだかんだいって、おそらくとてもブラコンなこの娘につられてしまったのだろう。最愛の妹のことを。

 

「続きか。そうだな……。性格は、外では優等生で誰にでも優しいんだ。

 でも、オレにだけはわがままで、扱いひどくてな……」

「へぇ……」

「小さい頃とかもひどかったんだぜ。

 オレの飼ってた金魚を砂まみれにして、天ぷらーって……泣けたぜ……」

「ふふ……」

「バレンタインは毎年、試作品の黒焦げチョコ食べさせられるしな。

 ああ、そうだ。こんなこともあった」

「なんですか? 」

「オレが中学のときかな。初めて彼女ができたんだわ」

「わぁ!すごい!早いですね!」

 

 いや、おめーがおせぇだけだろ。というつっこみと、こいつモテるくせになんでだ……という疑問。同時に湧いたそれはとりあえず横に置いておく。

 

「で、すっげえ浮かれてたんだよな。オレ」

「そうでしょうね」

「でもあいつは、すっげぇ不機嫌でさ。ずっと」

「……そうでしょうねぇ」

「で、問いただしたら、『もう、シェリーのこといちばんじゃないんでしょ! そんなお兄ちゃんなんて、嫌い!! 』ってさ」

「あらら。やきもち焼いちゃったんですね」

「笑いごとじゃねぇよ。しばらく口も聞いてくれなかったんだぜ。まいったなぁ、あのときは。

 そのくせ、自分に彼氏ができた日にゃ『お兄ちゃんには関係ないでしょ!』だぜ? ひでーよなぁ」

「ふふ……」

「ほんと、困った奴だよ」

「でも、それがまた可愛いんでしょう? 」

「……そうだな」

 

「……可愛い妹、……だった」

 

「……ポルナレフさん……」

 

 気づいていた。この娘が敢えて、『過去形』を使っていないことは。そして……

 

「……おまえが、そんな顔するなよ」

「す、すみません……」

 

 おひとよしなやつだ。本当に。

 

「いーや…、ありがとうな」

 

「……私も、全力で、お手伝いしますから」

「サンキュー、でも、それは……オレがやる。

 オレがやらなきゃいけないんだ。気持ちだけ受け取っとくよ」

「……駄目です! たとえ、かたき討ちがうまくいったって、ポルナレフさんになにかあったら……! ぜったい……! 絶対に、そんなのシェリーさんはッ……! 」

 

「……ストップ」

 

「……っ! 」

「わかっている。……だいじょうぶだ。そんなに心配すんな」

「……」

「さ、冷えてきたし、そろそろ戻ろうぜ」

「……はい」

 

 まだなにか言いたげなの様子に気づいて、軽口をたたいておく。

 

「また眠れなかったら呼びな。お兄ちゃんが添い寝をしてやろう! 」

「そっ!? け、けっこうです!! 」

「ははは、おやすみ」

「……おやすみなさい」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 列車生活も二日目を迎えた。

 三泊四日をこの列車で過ごすわけだから、ちょうど折り返し、といったところか。

 皆で朝食を摂った後、ずっと部屋で読書をしていた僕。しかしさすがに少し疲れてきた。ひとつ軽く伸びをし、時計を見る。昼食までもまだ時間がありそうだ。

 読み終わってしまった小説をテーブルに置き、立ち上がる。

 

 外の空気が吸いたくなり、最後尾の観覧スペースのある車両までやってきた。

 すると、まばらに見られる観光客らにまじって、見知った顔を発見する。

 

 そのひとは手すりに頬杖をつき、流れ行く景色を眺めていた。考え事でもしているのか、その表情はどことなく憂いを帯びている。

 鬱蒼とした森林を駆ける異国の列車。物思いにふける横顔はそれと絶妙にマッチしていて……。

 

 なぜか急に思い出した。シンガポールでスケッチブックを買い忘れたことを。

 

「はぁ……」

 

 さらにため息までつきだす始末。いい加減、こちらに気づいてくれないものかとおもうが、その気配はまったくない。相変わらずのこの警戒心の薄さはなんとかならないものか。もう少し観察していたい気もしたが、訓戒として……という建前の、妙案をおもいつく。

 むくりと湧いてきた悪戯心に抗えず、僕はそれを実行に移すことにした。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「はぁ……」

 

(……どうしたらいいんだろう……)

 

 うっすらだが嫌な予感がしていた。しかし、それを阻止するための対策はいっこうに出てこない。出るのはなんの役にも立たないため息くらいだ。そのまま特に建設的な考えは浮かばぬまま、しばらく森の木々とにらめっこをしていた。

 

 そんなときだった。

 

「……わっ! 」

 

「うひゃあぅっっ!! 」

 

 思いもよらない突然の刺激に今度はへんてこりんな声が出る。ついでに心臓も飛び出るかとおもった。

 

「な、なに?!」

 

 しかし、声がした、および肩をつつかれた方向をみるも誰もいない。というか、壁だ。

 

「あれ? 今、たしかに……」

 

 首をかしげていると、また声が聞こえる。

 

「……はずれ。こっちですよ」

「え……? あっ! 」

 

 そう言われ、振り向くとそこには満足そうににやりと笑う彼のすがたがあった。

 

「か、花京院くん!? 」

「ふふ、また驚かせちゃいましたかね。

 しかし、なんて声出すんですか……こっちがびっくりしましたよ」

「うっ! そ、そりゃ驚くよ! しかもハイエロファントまでつかって! 」

「おっと、タネはバレていたか。僕もまだまだだな……」

「犯人がわかればさすがにそれくらいわかるよ!

 というか、そんなことよりもっと別のこと反省してよ! もう! 」

「ふっ! はいはい、ごめんなさい」

「……。ちっともおもってないでしょ……? 」

「いいえ。おもってますよ。……ちょっとは」

「ちょっとぉ!? 」

「で、どうしたんですか? ため息なんてついちゃって」

「むぅ……」

 

 必死の抗議もやはりさらっと流されてしまう。若干釈然としないながらもさっさと諦めることにする。

 

「ん? あれ? みてたの? 」

 

 そして、またそんなところを見られてしまっていたのか……と、浮かんだ疑問を口にする。

 

「え、ええ、まぁ。たまたま、目に入ったんで。

 まったく、あなたってひとは全然気づかないんだから。

 一応、敵がどこに潜んでいるやらわからない状況なんですから、注意してくださいよ?

 ひとりのときは特に」

 

(ああ、なるほど)

 

 そういう意図でのことか、と理解する。きっと私にそれを戒めさせるためにやってくれたことなのだろう。まったく心配性なのだ。このひとは。反省しつつも、ついうれしくなってしまう。

 

「……うん。そうだよね。ごめん。……ありがと」

「い、いえ。……それで? 」

「あ、そっか」

 

 すこし考えたのち、おとなしく相談しておこうと思い、ぽつりと呟く。

 

「昨日の夜中にね、ポルナレフさんと会ったの」

「はぁ?! 夜中!? なんで?! 」

「へ……? いや、なんで、って特に理由は……。昨日私、夜眠れなくて散歩がてらここに来たら、ポルナレフさんが先客だった、ってだけなんだけど」

「な、なんだ……。それだけか……」

「? 」

「……なんでもないです。つづき、どうぞ」

「…? うん」

 

「それで、話してくれたの。……いろいろ。妹さんのこと……」

「ああ……」

「…ポルナレフさん、大丈夫かな……? 」

「……」

 

 目を閉じ、一瞬の沈黙のあと、彼は言う。

 

「……そうですね。僕もそれは危惧していたところです。

 思い入れが強ければ強いほど、足元をすくわれ易い。

 冷静さを欠き、視野も狭くなる。

 ましてや敵はポルナレフのことを知り尽くしている。能力も、性格も……。

 その感情を利用して襲ってくるであろうことは目に見えていますからね」

「……だよね」

「しかし彼の意思は固い。他者がどう言っても、詮無き事でしょう。

 僕らができるのは……みまもること。それしかないでしょうね」

「うん……」

 

 やはりそうか。わかってはいたけれど……とおもっていたら、違ったようだ。

 

「……わかってないでしょう? 」

「え……? 」

「みまもるって……『視て』、『護る」、ですよ。

 僕とあなたの得意分野じゃあなかったですか? 」

「あ……」

「だいじょうぶ。みすみすやつらの思い通りになどさせやしない。……ね? 」

 

 そういって、そっと頭に手をのせられ、ぽんぽんとなでられる。

 

「……っ! 」

 

(も、もう……また、このひとはっ! )

 

 高鳴り出す鼓動。かおが、あつい……。

 

(……やっぱり……ぜんぜん、ちがう……)

 

 偽者には、ちょっと肩を触られただけであんなに気持ち悪くてしょうがなかったのに。不思議なものだ。

 

(……いやじゃない……んだよね……)

 

 からかわれたって……

 ……ふれられたって。

 

 まいってしまう。

 

 それどころか、おおきな、あたたかいてのひらは、とても心地よくて……。

 

「……うん」

 

不思議……だけど、なぜなのか……なんて、もういいやという気になるくらい。

 

(……自然なきもちに、まかせる……かぁ)

 

ならば……許してもらえるだろうか?

 

もうすこしだけ、こうしていたい。

 

……そう、おもってしまうことも。

 

 

 




アヴドゥルさんのびっくりどっきりスタンド研究メモのコーナーッッ!

☆Guardian St. Cecilia of cosmos
 秋桜色の守護聖女(ガーディアン・セシリアオブコスモス)
・暗示:女教皇(直感、安心、期待、聡明、神秘…)
【破壊力-E(防御力ならA)/スピード- B/射程距離- C/持続力- D/精密動作性-D/成長性-A】

薄桃色のクリスタル状で、コスモスの花弁のような羽をもつ鳥型のスタンド。物理的な衝撃を遮断する障壁に変型し、護る。
待機時は本体をオートガード(致命的またはそれに近い攻撃からのみ)。その性能は『屋上から落ちても無傷』『トラックにぶっとばされても無傷』『最強スタンド、スタープラチナのオラオララッシュを30秒は完璧に防げる』という具合に優秀。衝撃だけでなく、スタンドのエネルギーによる攻撃…エメラルドスプラッシュ、クロスファイヤーハリケーン…等も防御可能。
本体の意思により、盾のように変形させて使うことや、命令して特定の人や物を護らせることも可能。その場合『スタンド能力の基本』にのっとり、強度、持続時間は本体との距離やガード範囲に反比例。もちろん強い攻撃を受ければ持続可能時間も減る。また離れれば離れるほど到着までの移動時間もかかる。
本体の精神状態によりその性能は上下。限界を超えると意識を失う(が、効果は持続)。射程というか護るため探索に離れることができる距離は100mほど(無論離れれば離れるほど紙装甲)。対象とそれ以上距離があると命令不能(帰ってくる)。
周辺把握能力や精密動作性は高くなく、主人の手を離れたあとはその命に従い勝手に動く(半自立性。主人はその位置がぼんやりわかる、くらい。とのこと。)そして、その間本体は全くの無防備。



というわけで、ひたすらシンプルなバリア系能力者です。が、無敵なわけはなく、弱点、穴だらけ(黄の節制戦より)。なにより本体が無知かつ未熟でまったく生かしきれていない。そして、まだまだ明らかになっていない点が多々ある模様。

……ええ。ありがちすぎ&厨二です。いいんです……彼らを護れれば。

またもう少し話が進んだら、懲りずにこのようにちょいちょいまとめられたらと思います。
お付き合い、ありがとうございました!

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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