私の生まれた理由   作:hi-nya

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「……。なんで僕トイレ前で出待ちさせられることが多いんですかね……? 」
「……すまん! わざとだ!!」



Tiny Drops

「アヴドゥル……いよいよインドを横断するわけじゃが……その、ちょいと心配なんじゃ。

 いや、敵のことはもちろんだが。インドという国はこじきとか泥棒ばかりいて、カレーばかり食べていて熱病かなんかにすぐにでもかかりそうなイメージがある……」

「オレ、カルチャーギャップで体調を崩さねぇか心配だな」

「ふっ、それはゆがんだ情報ですよ。心配ないです。

 みんな、素朴な国民のいい国です。わたしが保証しますよ」

 

 一行は列車、そして船の旅を経て……シンガポールを発って約一週間。ようやくたどり着いた。

 

「……さぁ、カルカッタです。出発しましょう。」

 

 インド。この新たな地に。

 

 一層苛烈な闘いの幕明け。そんな予感とともに。

 

 

 

 

 

「「めぐんでくれよう! 」」

「ドルチェンジ、レートいいよ」

「ハロー、友達、マリファナ、安いよ……」

「女の子、紹介するよ……ばばあじゃないよ。べりぃヤングね」

 

「いらん! は、はなせ! 」

「うえぇ、牛のうんこ踏んずけちまった……チクショー! 」

「僕はもう、財布をすられてしまった……」

 

「恵んでくれないと天国にいけないぞ」

「歌上手いだろ、駄賃、駄賃くれ! 」

 

(……予感、当たっちゃった)

 

 一歩足を踏み入れた瞬間からこれだ。地元の人々だろうか。身動きがとれないほどの数、どこからともなく集まって来て囲まれてしまう。予想通り、激しい闘いが私達を待っていた。村人たちとの。……なんか違うか。

 

「た、たまらん雑踏だ。アヴドゥル、これがインドか? 」

 

 嘆くジョースターさん。

 

「ね、いい国でしょう? これだからいいんですよ。これが! 」

 

 そして余裕の師匠。さすがは師匠? ……いや、やっぱりなんか違う気もするが。

 

 

 

「要は慣れですよ。慣れればこの国のふところの深さがわかります」

「なかなか気に入った。いいところだぜ」

「マジか、承太郎!マジに言ってんの?おまえ」

「ふっ……! 」

 

 さすがに一般人をブチのめすわけにはいかない。逃走、そして昼食を兼ね、大通りに面した一軒の料理店に辛くも飛び込んだ私たち。

 毎度の孫と祖父での掛け合いを楽しみつつ、食後のチャイをいただいていた。すると隣の席から溜息が聞こえてきた。

 

「ふぅ、インドか、驚くべきカルチャーショック……。なぁ? 」

「はい。『世界は広い』、ですね、ポルナレフさん」

「ああ。さて、……頃合いだな」

「ど、どうされたんですか? 」

 

 正直な感想を述べると、深刻な表情で頷く。驚き、何事か訊ねると一転おどけた調子になる。

 

「ちょっとトイレ行ってくらぁ! 」

 

「な、なあんだ。いってらっしゃいです」

 

 拍子抜けしつつ、普通に見送ってしまった、この時の私。

 

「……はっ!」

 

 ワンテンポ遅れてたどり着く、『虫の知らせ』。

 

 あの情報の通り、『鏡』には念の為、注意を払うべき……そんな風に皆で話していた。

 

 トイレ。もちろん、そこには……。

 

「……」

 

 おもむろに立ち上がる。

 

「……保乃宮さん」

 

 ……のを、そっと制される。

 

「あ……」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 同じくなにかしらの予兆を感じ取ったのだろう。手洗いへと立ったポルナレフの後を追おうとした彼女。しかし場所が場所である。女性に行かせるわけにも……と代打を申し出た僕はトイレの傍でやつが出てくるのを待っていた。

 

「……ぎィにゃぁーー!! 」

 

(むっ!! )

 

 すると、ほどなくして聞こえてきた絹を裂くような(? )悲鳴。

 

「ポルナレフ!? 大丈夫ですかッ!? 」

 

 すぐさまドアを激しくノックすると、飛び出てくる、男。

 

「か、か、花京院!? う、うわーん! 」

「うわッ! だ、抱きつくなッ!

 そして、とりあえずなによりもまず、パンツをあげろおぉッッ! 」

「あ……そっか。失敬失敬。てへ! 」

「てへ、じゃあないッ!……まったく」

 

 彼女に行かせなくて本当によかった。代わりに見たくもないものを拝む羽目になってしまったが。

 

「どうしたんですか? いったい……」

「あ、あれ……! 」

「あれ? 」

 

 怯えるポルナレフの指す方向に目をやる。

 

「べ、べべべべ便器の中に、ぶ、ブタ! ……ブタがッ! 」

「はぁ? 」

 

 すると確かにいた。洋式の……その穴からブヒブヒと鼻を鳴らす生物が。

 

「なんだ……豚か。てっきり敵かと。紛らわしいなぁ。慌てて来て損しましたよ」

「は?! ぶ、ブタだぜ!? 」

「ええ。……豚ですね」

「……。おまえ、顔に似合わず意外と男前な性格なんだな……」

 

 呟く男を放置し、さらっと現場を観察する。

 

「ふーん。珍しい方式のトイレですね。エコだなあ」

「! こ、このブタはそのためにいるのか!? 」

「おそらく。ん? 待てよ。ということは……」

 

 水洗でも汲み取りでもなく、豚に。すなわち、先程食べた豚肉は……いや、考えるまい。

 見たくもないものに続いて、知りたくもないことまで知ってしまった。なんてことだ。おもわず漏れ出たため息とともに、八つ当たりがてらいう。

 

「はぁ、なんならチャリオッツで突いてみればいい。そしたらひっこむんじゃあないですか? 」

「はぁ!? おまっ!? 自分がやるんじゃあないからって適当なこというなよ!

 あ、そーだ! なら、おまえのハイエロファントで……」

「……それじゃあ。ごゆっくり」

 

 加えて、したくもないことをさせられるのは御免だ。聞かなかったことにしてさっさとドアを閉める。

 

「ま、まて! ひとりにするなッ! 」

 

 慌てて僕に続いて飛び出てくるポルナレフ。

 

「おや? 続きはいいんですか? 」

「ホテルまで、ガマンする……」

「ふっ、それは賢明な判断ですね」

 

 すっかり汗をかいてしまったらしい。彼は廊下に出たところにあった洗面台で手のついでに顔を洗い始めた。

 

「フー」

 

 そのときだった。

 

「!? はっ! 」

 

 急に振り返る。

 

「いない……き、気のせいか……」

「ポルナレフ? 」

「いや、今、窓の外に、なにか異様なものがいたような気がした、が……」

「なに!? 」

 

 しかし、窓の外は雑踏に曇り空。ただそれだけだった。

 

「なにも……、いないが……」

「だ、だよな。スマン。無理もねぇか。便器の中にブタがいたんだからな。

 そりゃあ窓の外に怪物の幻でもみるか……」

 

 いいつつ、向き直るポルナレフ。が、またも叫ぶ。

 

「な、なにぃ!?」

 

 再び振り返る。鏡を見る。を繰り返す男。

 

「い、いない、やはりいないッ! い、いや! ……いる……! 」

「お、おい……? 」

「な、なんだ?! こいつは?! 鏡の中だけにッ!見えるッ! 」

「か、鏡……だと? まさかッ! 」

 

 見ると、本当に、いた。包帯を巻いた、ミイラ男のような『怪物』が。

 鏡の中のその姿はゆっくりと窓を開け、近づいてくる。

 

「なにィッ!!」

 

そして『それ』はナイフを取り出し、こちらへ向ける!

 

「な、なにかやばいッ!『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』!! 」

 

 すぐさまスタンドを出し、刺突を繰り出すポルナレフ。

 バラバラに砕け散る、『鏡』。

 

「ち、ちくしょう!」

 

 急ぎ窓を開け、改めて二人で外を見る。……現実の。

 

 しかし、雑踏は行き交う人の波であふれていた。

 

「ほ、本体は、どいつだ……? 」

「こ、この人の数! く、くっそぉー! 」

 

 

 

 

 

「ま、待て! ポルナレフッ!! 」

 

 飛び出て行こうとするポルナレフをなんとか諫める。

 

「どうした!? ポルナレフ、花京院」

「何事だ!? 」

 

 そこで音を聞きつけたのか、皆が駆け寄ってきた。

 

「今のがッ! 今のがスタンドとしたなら……ついに! 」

 

 男は叫ぶ。

 皆に、そして自分に言い聞かせるように。

 

「ついにやつがきたぜッ!

 承太郎! おまえが聞いたという、鏡を使うというスタンド使いが来たッ! 」

 

「! 」

 

「オレの妹を殺したドブ野郎ーッ! ついに会えるぜ! 」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 すぐに全員で店外に出る。しかし、件のスタンドの本体らしき人間は見あたらなかった。というか人が多すぎてわからない。

 辺りをうかがっていると、しびれを切らしたかのような不穏な声が響く。

 

「……ジョースターさん、オレはここで、あんたたちとは別行動をとらせてもらうぜ」 

 

「!」

 

「妹のかたきがこの近くにいるとわかった以上、もうあの野郎が襲ってくるのを待ちはしねぇぜ。

 敵の攻撃を受けるのは不利だし、おれの性に合わねぇ……こっちから探し出してブッ殺すッ!! 」

 

「……相手の顔もスタンドの正体もよくわからないのにか? 」

 

 ジョースターさんが眉間に皺を寄せる。

 

「『両腕とも右手』とわかってれば十分! それにヤツの方もおれが追っているのを知っている。

 ヤツもおれに寝首をかかれねぇか心配なはずだぜ」

 

 そう息まくポルナレフさんにむけて、一歩踏み出したのはこのひとだった。

 

「こいつはミイラとりがミイラになるな! 」

 

「!? 」

 

「ポルナレフ、別行動はゆるさんぞッ! 」

 

「なんだと? ……アヴドゥル、おめー、オレが負けるとでも? 」

「ああ。敵は今! おまえをひとりにするためにわざと攻撃をしてきたのがわからんのか! 」

 

 正論。それが常に万人にとって正しく、受け入れ易いものであるならこの世に争いなど起きないのかもしれない。吐き捨てるようにいう。

 

「……いいか、ここではっきりさせておく。オレはもともとDIOなんて、どうでもいいのさ。

 香港でおれは復讐のために行動をともにするとことわったはずだ……

 ジョースターさんも承太郎もそれは承知のはずだぜ。

 オレは最初からひとりさ。ひとりで闘っていたのさ」

「……」

 

(そんな……)

 

 全員が息をのむ中、師匠が叫ぶ。

 

「かってな、男だ! DIOに洗脳されたのを忘れたのか!

 DIOがすべての元凶だということを、忘れたのかッ! 」

「てめーに妹を殺されたおれの気持ちがわかってたまるかッッ!!

 ……以前DIOに出会った時恐ろしくて逃げだしたそうだなッ!

 そんなこしぬけにおれの気持ちはわからねーだろーからよォ!! 」

「! ……なんだと?」

 

 逆に返された挑発的な言葉に、おもわず掴みかかる。

 

「さわるな……香港で運よくオレに勝ったってだけで説教はやめな! 」

「きさま! 」

「ほぉー、プッツンくるかい! だがな、オレは今のてめー以上にもっと怒ってることを忘れるな。あんたはいつものように大人ぶってドンとかまえとれや! 」

「こいつ……! 」

 

 振り上げられる拳。しかし、それは横から制止される。

 

「ジョースターさん……」

「ふん……。あばよ……」

 

 そして、去っていく。振り返ることもなく。

 

「もういい、やめろ。……行かせてやろう。こうなってはだれにも彼をとめることはできん……」

 

 首を振るジョースターさん。目を伏せる師匠。

 

「いえ、彼に対して幻滅しただけです……。あんな男だったとは思わなかった……」

 

「……」

 

 残された私たちを、重苦しい空気と沈黙が包む。

 

 思い出す。列車で妹さんのことを話していたときのポルナレフさんの様子を……あの、強い意思を。

 

 そして……

 

――たすけて――

 

――わたしの、せいなの――

 

「……」

 

(たしかに、わからないかもしれない。でも……! )

 

 躊躇いつつも、口を開こうとしたときだった。このひとが先に口火を切る。

 

「……しかし、ほおっておくわけでは、ないんでしょう?」

 

 花京院くんだ。そして、ジョースターさんはいう。

 

「ああ。手分けして彼を探して、見張るんだ」

 

「……やれやれ」

 

 言葉とは裏腹に、にやりと笑う承太郎君。

 

「……はいっ!」

 

 負けじと、つよくうなずく。

 

「バレたら反発は必至じゃろうからなぁ……あやつの性格的に。こっそり手助けするしかないじゃろ。

 どう分かれるか……能力のバランス的には……」

 

「……この町はわたしの庭のようなもの。わたしはひとりで大丈夫です。先に行きます! 」

「お、おい、アヴドゥル! 」

 

 思案するジョースターさんの傍ら、抑えきれない焦燥に押し出されるかのように、言うが早いか、あっという間に路地裏を駆けて行く。

 またも嫌な予感がした。師匠の、あの思い詰めた表情に。

 

(……いけない! )

 

 すると、また彼に先を越される。

 

「……この状況ではアヴドゥルさんも心配です。僕、追いかけてもいいですか? 」

「わ、私も同感です! 師匠と言えど……」

「……うむ、そうじゃな。じゃあ頼んだ。わしと承太郎は逆から探す。

 君らもくれぐれも無理をするんじゃないぞ! 」

「はい! 」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 いつのまにか雨が降っていたようだ。

 地面がぬかるんでいて走りにくい。しかしそれをまったく意に介さぬように、隣を全力で駆けつつ彼女から僕はひとつの相談を持ち掛けられた。

 

「セシリア、飛ばしといたほうがいいかな? でも……」

 

 セシリアは同時に二人は護れない。ポルナレフか? アヴドゥルさんか? 確かにどちらが適切なのか、今のところわからなかった。

 

「いえ、どういう状況に陥るかわからない。むしろ待機状態のほうがいいかもしれません。

 いつでも誰にでも使えるように。とりあえず方向はわかりますし」

「そうだね。了解! 」

 

 

 迷路のような路地の角をいくつもまがり、比較的大きな通りに出た。

 

「いた! 」

 

 みつけた仲間たちの視線の先。西部劇のガンマンのような男の手に握られている、銃。あれは、本物ではない……スタンドだ。と気づくと同時にふたりに向け銃弾が放たれる。

 

「どけッ! 」

 

 それを焼きつくさんとし、ポルナレフをかばうように押しのけ魔術師の赤(マジシャンズレッド)を構えるアヴドゥルさん。

 しかし、続いて僕達の目に、あまりにも衝撃的な映像が飛び込んでくる。

 

 後方にある大きな水たまりにナイフを構えたミイラ男のような怪物が現れ……

 

「……あッ!! 」

「しまった! せ、セシリア!!! 」

 

 ……アヴドゥルさんの背中を、刺した。

 

「ぐっ……! 」

 

 たまらずよろめくアヴドゥルさん。護ろうと放たれた鳥の羽ばたきもむなしく……

 

「だ、弾丸がッ!! 」

 

 その眉間に、無情にも凶弾が直撃する。

 

「な……にぃ……?! 」

「アヴドゥルさんッ! 」

「ま、間に……合わ、なかっ、た……し、師匠っ! 」

 

 ほんの一瞬の出来事だった。

 倒れ臥す彼の額からは、夥しい真っ赤な鮮血がとめどなく流れ落ちていた。

 

 

 

「ほぉ! こいつはついてるぜ!

 このおれ『皇帝(エンペラー)』ホルホースの『銃』……

 そして『吊られた男(ハングドマン)』J・ガイルの旦那の『鏡』はアヴドゥルの『炎』が苦手でよぉ。

 一番の強敵はアヴドゥルと思ってたから……ラッキー! もうこわいもんはねぇぜッ! 」

 

「アヴドゥルさんッ! ば、バカなッ! 」

「師匠っ! 」

 

 急ぎ、彼女とともに倒れた彼のもとへ駆け寄る。

 対称的に、こちらに背を向けるポルナレフ。

 

「……ちっ! 説教好きだからこーなるんだぜ。なんてザマだ」

 

 その台詞に、つい頭に血がのぼる。

 

「な、なんだと? ポルナレフ……」

 

「だれが助けてくれとたのんだ。

 おせっかい好きのしゃしゃり出のくせにウスノロだからやられるんだ……。

 こういうやつが足手まといになるからオレはひとりでやるのがいいといったんだ」

 

「な、なんてことをっ!」

「た……助けてもらっておいて……なんてヤツだ。」

 

 が、次の瞬間、ふたりして気づく。

 

「「はっ!」」

 

 雨はもうとっくに上がっている……にもかかわらず、だ。

 

「……迷惑なんだよ。」

 

 男の足元に降り注ぐ、大粒の雫に。

 

「自分のまわりで死なれるのはスゲー迷惑だぜッ! このオレはッ!! 」

 

 振り返る、その眼は、頬は……溢れ零れる涙で濡れそぼっていた。

 

 

 

 

「し、ししょう……? 」

「け、けがをしているだけに決まっている……かるいけがさ……ほら、しゃべりだすぞ……

 今にきっと目をあける……アヴドゥルさん、そうでしょう? ……起きてくれるんでしょう?

 お……おきてくれ!たのむ……アヴドゥルさん!! 」

 

「……」

 

 しかし、返事はなかった。祈るような気持ちで腕をとる。

 

「…………脈が……、な、い……。」

「そ、そんな。……そんな!! 」

「バカな……!か、簡単すぎる……あっけなさすぎる……」

「う、そ……? 」

「……くっ……! 」

 

 項垂れる僕らの耳に届く雑踏を踏みしめる足音。

 

(……はっ! ポルナレフ……! )

 

 まっすぐに敵を見据え、歩みを進めていく。

 

(いかん! )

 

 あまりのことに放心してしまっている彼女に声をかける。

 

「……仁美さん、今は気を、しっかりもって」

「はっ! う、うん。ごめん! 」

「あなたは……アヴドゥルさんを護って。そしてジョースターさんたちにこのことを。

 いいですか? 必ず、『あなた』が、ふたりに伝えてください。……意味、わかりますよね? 」

「……。……花京院くんは? 」

「僕は、ポルナレフを連れて、敵を引き付けます。

 そして、奴らのスタンドの秘密を暴いて、必ず……! 」

「ッ! でも! 」

 

「だいじょうぶ。……僕を、信じて。

 そして、頼みます、アヴドゥルさんを。

 ……僕も、あなたを信じていますから」

 

「……。

 わかった。……信じる。

 だから……、ぜったい……気を、つけて……」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「ま、人生の終わりってのはたいてーの場合、あっけない幕切れよのぉー。

 さよならの一言もなく死んでいくのが普通なんだろーねぇ。

 ヒヒ、悟ったようなことをゆーよーだがよぉー」

 

「……!」

 

 敵のへらへらと舐めきったその態度と台詞に血液が沸騰しそうになる。

 そんなオレに矢のような一言が突き刺さる。……花京院だ。

 

「ポルナレフッ! ……相手の挑発にはのらないでください。まだわからないのですか?

 アヴドゥルさんは言った……『ひとりで闘うのは危険だ』と。

 しかし貴方はそれを無視した……。

 ……貴方は相討ちしてでもかたきを討つと考えているなッ!!」

「……オレに、どうしろというのだ……」

「アヴドゥルさんはそれを心配して、貴方を追って来てこうなった……

 勝てるみこみが見えないうちは戦うな! こいつらのスタンドの性質がよくわからない……

 ここは一時ひくんだッ! 」

 

(……な、んだと……)

 

「……アヴドゥルは背中を卑劣にも刺された。……妹は……無抵抗で殺された……

 この『無念』を! おさえて逃げろというのか!? 」

「……自分も死ぬような戦いはやめるんだッ! アヴドゥルさんはそれをいっているのだッ! 」

 

(ぐっ……)

 

 頭では、とっくに理解していた。しかし……。

 

「カモォーン! ポルポルくぅーん! 」

 

(……どこまでも癇に障る……)

 

「ポルナレフ! ゆっくり僕の所までもどってくるんだ! あのトラックで、逃げる! 」

「野郎……! 」

「ポルナレフ! 」

「……はぁ、はぁ……お、おさえろと、いうのか……。ち、ちくしょう、わ、わかっ……」

 

「クク……おい……ポルナレフ……」

 

 どうにか抑えきろうとした、そのときだった。

 傍の建物のガラス窓……そこに、最も許せぬ人間……そのスタンドの姿が映る。

 

「! またヤツが!! ポルナレフ!! 」

 

 振り返るが、またも実際には見えない。

 近寄ってくるスタンド。

 そして最も聞きたくない相手から最も聞きたくない言葉を聞かされる。

 

「……アヴドゥルはおまえのために死んだ。アヴドゥルに借りができたってことかなぁー。

 おまえがいなけりゃ、死ななかったかもなぁ。ククク、ククククク! 」

「や、野郎ー! 本体はどこにいやがるッ! 」

「ヒヒ……」

「ポルナレフ、おちつけッ! 」

 

 なおも、ヤツは吐き続ける、卑劣極まりない、台詞を。

 

「でも、悲しむ必要はないな。喜ぶべきだと思うぞ……すぐに面会できるじゃないか……

 おまえも死んで、あの世で……マヌケなふたりといっしょにな……クク……」

「ぐっ……」

「おまえの妹はカワイかったなぁ、ポルナレフ……妹にあの世で再会したなら聞かせてもらうといい……。どーやってオレに殺してもらったかをなぁああああーーーッ! 」

「!! 」

 

「ポルナレフ、挑発にのるなァーッ!! さそっているんだーッ!! 」

 

 花京院の必死の叫びは耳に入ってはいたが、届いてはいなかった。

 無理だった。限界だった。抑えることなど……不可能だった。

 

「野郎ォッー!!! 」

 

 チャリオッツで窓ガラスをバラバラに砕く。

 しかし無駄だった。破片の中でヤツが不敵に笑う。。

 

「ククク、お前のチャリオッツにわが『吊られた男』は切れない……おれは鏡の中にいる。おまえのスタンドは鏡の中に入れない……だからだッ!クク、くやしいかぁー、くやしいだろーなあー! 」

「ぐぅっ! 」

「おい、ホルホース、撃て……このアホをしとめるとしよう! 」

「アイアイ! サー! 」

 

 背後から弾丸がオレに向かってくる。

 軌道が変わる、スタンド銃の弾丸。

 そして、ナイフを構えたガラスの中のヤツも同時に襲い掛かってくる。

 

「死ねッ、ポルナレフ! 」

 

(くそっ!! )

 

 ここまでか、と思いかけた瞬間だった。

 

「エメラルド・スプラッシュ! 」

 

 あの男の声と、きらりと輝く緑色のしぶきが目の前に広がる。

 

「!!」

「なに!? 」

 

 激しい衝撃。ふっとぶ、オレ。

 

「うぐあッ! 」

「なんとッ! ポルナレフを! 」

「うちやがったッ! 」

 

 敵とともにあっけにとられた、ぶっ飛ばされたオレのそばに軽トラが滑り込み、車内にひきあげられる。

 

「ポルナレフの命を助けるためかッ!! 花京院とやら、やりおるぜッ! 」

 

 勢いそのまま猛スピードで走り去り、辛くもその場を逃げ切ることができたのだった。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 小さくなっていく(ターゲット)に照準を合わせつつ呟く。

 

「ちっ、射程外だ。逃がしたか……」

 

 そして、気づく。『相方』がいないことに。

 

「ん? 旦那……追ったか。とことんポルナレフを始末する気だな……ヒヒ」

 

(さ、おれはアヴドゥルに一応とどめをさしてから、旦那を追うか……)

 

 万一のことがあったらDIOの野郎に何を言われるかわからない。念には念を……というやつだ。

 

 皇帝(エンペラー)を、構える。

 しかし、倒れ臥したアヴドゥルのまえに、立ちはだかるひとりの女がいた。

 

「……お嬢さん、どいてくれないか」

「嫌です」

「おれは世の中の女性すべてを尊敬している……手荒な真似はしたくない……さぁ」

 

 手を伸ばした瞬間だった。

 

「……アヴドゥルさんに、触らないで!! 」

 

 眩い桃色の光にはじきとばされそうになる。

 

「チッ、君もスタンド使いか! 仕方ない……気絶だけしてもらおうか」

 

 出力を弱めた弾丸を発射する。

 

「……させない……! 」

 

 だが、それはすべて女の身体を包み込む障壁にはじかれてしまう。手加減したとはいえ……という驚きとともに理解する。

 

「なに!? ……そうか、お嬢さんが噂のジョースター一行の『守護者(ガーディアン)』か! 」

 

 やつらの中に、そのような能力者がいるらしい……という報告は受けていた。

 おもわず心中満面の笑みを浮かべる。

 

 女……それは便利なものだ。

 愛してる。そんな適当な甘い言葉を少し吐いておくだけでいい。

 手懐けておけばなんでもしてくれる。命もおしくないって風に。

 

 こいつもだ。この能力……。

 利用するのに、ここまで適した女はめったにいないだろう。

 

 猫なで声でいう。

 

「こりゃあいい。この出会いにおれは運命を感じたよ!

 ……君、あいつらなんて裏切って、おれと組まないか? 」

「! 」

 

目を見開く、女。ゆっくりとおれに問いかける。

 

「……貴男、自分が何をいっているのか……理解していますか……?

 貴男は、私たちから、アヴドゥルさんを……、大切な仲間を、奪った……。

 許さない……許せるわけがないッ!!

 そんな人間の誘いに、私が耳を貸すと、そんな可能性が少しでもあると、思うんですか?!

 ありえない! なめるのもいいかげんにして下さい。

 ……二度と、言うなッ!! 」

 

 燃えるような瞳でこちらを睨みつけてくる、女。

 

(ちっ、さすがに今は無理、か。まぁいい)

 

「おっと、そんなに恐い顔をしないでくれよ。

 とはいえ、護るしか能のない、攻撃性皆無の君のスタンドなど、恐るるに足らないがね」

「!!」

 

 牽制しつつアヴドゥルの様子を横目で確認する。あの出血量、とても助かるまい。ほおっておいて問題ないだろう。

 

「まぁ、考えておいてくれ。君とおれは相性がいい! 最高にな! ではまた、お嬢さん」

「くっ……!! 」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 荒野を走る、一台のトラック。

 

(……なんて、ことだ……)

 

 オレの頭にのぼりきっていた血液もようやく下におりてきた。

 ずっと無言を貫いている、運転席の男に言葉を発する。

 

「……すまねぇ、花京院」

「……」

「お、オレは……オレは、妹のかたきをとるためなら、死んでもいいと思っていた……」

「……」

「でも、わかったよ。アヴドゥルの気持ちがわかったよ……。奴の気持ちを無駄にはしない。

 ……生きるために闘う……! 」

 

 すると、やっとこちらをちらと窺い、男は言う。

 

「……、ほんとにわかったのですか? 」

「ああ……。ッ!? 」

 

 その瞬間だった。顔面に衝撃が走る。

 

(ひ、肘鉄ッ……!? )

 

「……それは仲なおりの『握手』のかわりだ、ポルナレフ」

 

 容赦のない一撃に、くらくらしながらも、こたえる。

 

「ああ、サ、サンキュー。花京院……ブ……」

 

「今度やつらがおそってきたら……」

 

 そして、力づよく、言い放つ。

 

 

「……僕たちふたりが倒すッ!」

 

 

 その瞳に、熱く、光るものを浮かべながら……。

 

 

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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