息抜きがてらよろしければどうぞ。
オレが花京院と保乃と、三人で必要品の買い出しにいった日のことだ。
帰り道、突如降り出す天気雨。きっとすぐに止むだろう、と雨宿りがてら、かつ喉の渇きを潤そうと一軒のカフェに立ち寄った。
各々のドリンクを楽しみつつ雑談をしていると、予想通り、いつのまにか雨は上がったようだ。
「よかった。止みましたね。あ……」
すると、窓から外の景色をみていた保乃が、なにかに気づく。
「見て! あの山あい! 虹です! 虹が見える!!」
「ん? ああ、ほんとうだ」
それを見た男は女に問う。
「あなたは虹って、何種類の色で構成されていると思いますか?」
「え? 七色……じゃあないってことだよね? そういうってことは」
「ふふ、そういうことです。七色ではないんですよ。
ひとことでいうと虹というのは赤から紫までの光のスペクトルが並んだ円弧状の光ですが……。
なぜそんな現象が起きるか、に、答えのヒントがある」
「虹のできる理由? 太陽の光と雨とか霧とか、水が関係しているってくらいしか詳しくは知らないかも」
「そう。その詳細をいうと……虹は太陽光が空気中の水滴によって屈折、反射されるときに、水滴がプリズムの役割をするため、光が分解されて、複数色の帯に見えるんです。ちなみにプリズムとは、光を分散・屈折・全反射・複屈折させるための、周囲の空間とは屈折率の異なる透明な媒質でできた多面体のことですね。」
「へぇ! だから、今みたいな雨の降ったあととか、滝とか、ホースで水まきした時とかにみえるのか」
「そうです。ということは?」
「無限……ってことかな。グラデーション……本当は境目なんてないわけね」
「正解。正確にいうと無数にある空気中の水滴の数と同じだけの色……というところですかね」
「はぁ……」
この男の講釈が、また始まったようだ。
(ったく、この唐変木め。女の子はそういうことが聞きたいわけじゃねーんだってーの……)
そんなふうに、ため息まじりにであきれていた。が……
「はい! 質問! スペクトルって、厳密にはなに? よく聞くけど、ぼんやりとしか……」
「物質の屈折率というのは光の波長によって異なるため、プリズムを出る光の方向は波長によって変わる。この現象を分散といいます。
光を分散させることによって、スペクトルを得ることができるんです。
もともと『スペクトル』とは、複雑な情報や信号をその成分に分解し、成分ごとの大小に従って配列したもののことです。分野によってその使われ方に違いはあるんですが、分光学では、電磁波……ようは光ですね。これをプリズムや回折格子といった分光器を通すことにより得られる波長ごとの強度の分布のことをいいます」
「ふむふむ……」
「虹について、もう少し詳しく説明しましょうか。
あ、主虹と副虹……というのがあって、それでまた違うんですが……まぁ、理屈はほとんど一緒なのでそこは端折ります。
観察者が見ることができる虹を主虹で説明すると、無数の雨粒のうち、高い角度にある雨粒からは赤に近い光が、低い角度にある雨粒からは紫に近い光が観察者の目に届くため、赤……波長が長く屈折角が小さいので屈折しにくいものが一番外側で、紫……逆のものですね。それが内側という構造に見えている。
それぞれの雨粒は多色の光を反射していますが、1つの雨粒からはそのうちの1色のみが観察者の目に届きます。
たくさんの雨粒から「太陽」-「プリズムとなる水滴」-「観察者」……のなす角度によって異なる色の光が見えて初めて虹となる。
副虹の場合は色が逆ですが、同じように説明できるわけです。
厳密には、虹はプリズムの分光と同じではなく、もっと複雑な現象なんですがね」
「……というと?」
「ええと、平たく言えば、水滴を固定して太陽光……これを入射光とします。
これを水平に入れ、入射光の高さを水滴の中心方向から徐々に上げていくと、太陽光が水滴から出る方向も次第に下向きになる。
しかし、入射光がある高さ付近になると、太陽光が水滴から出る方向の変化が小さくなり、今度は逆に上がり始める。
この高さ付近から入る太陽光はみなほぼ同じ方向に出て行くことになり、この部分だけ強い光が出て行くことになる……」
「なるほど……それで、『太陽』と『プリズムとなる水滴』と『観察者』のなす角度が、特定の角度になったときに虹が見える……色が分かれるわけね」
「御名答です」
「やった!物理選択じゃなかったし、光の波長とか理屈がいまいちわかってなかったんだけど……。なんかちょっと理解できた気がする! そのあたりわかると楽しいね!」
「ええ。自然科学、実に興味深い。
すべての現象には理由があるのです。ひとつひとつの事象が重なり……」
「……」
(なんだ……? こいつら……)
男の方がこういうやつ、ということはすでによく知っていたが問題は女の方だ。
驚くべきことに、嬉々として耳を傾けている。しかも、ちゃんとこの、小難しく長ったらしい話についていっているようだ。
やはり『そういう』、風変わりな娘だったらしい。この娘は。
「じゃあ……、……ってことは……」
「それはですね……」
完全にふたりの世界である。まぁ、入っていく気も、興味もないが。
もう、ほおっておこう……と、中身のとっくに無くなってしまったコップに刺さっているストローをくわえながら、雨上がりの空に見事にかかる橋をみやる。
(こんなの、見ての感想なんて、ひとつだろ……)
「それにしても、ひさしぶりにみたなぁ……」
とか思っていたら、ほっとするような言葉がきこえてくる。一応この娘、一般的な感性もちゃんと持ち合わせているようだ。
「ふふ、やっぱり、綺麗」
そういって、微笑む。
「……ええ。ああ、……でも……」
そして、そこで、黙りこくる男。
首をかしげる、女。
「どうしたの?」
「……いえ、なんでも」
(ふっ……!)
どうでもいいことにはあんなに饒舌なこの男が……おかしくてたまらない。
ついつい口を挟む。
「……虹よりも、君の方が綺麗だよ。……ってな!」
「なっ!?」
「はぁ? また、ポルナレフさんは……。
誰にでもそんなこと言っていたら、本当に伝えたい時に困りますよ? もう……」
くすくすと笑いながら、言う。
「……まぁ、お世辞でも、ありがとうございます。
じゃあ、そろそろ行きますか? 私、お会計してきますね」
そうして、スポンサーから預かっている財布をとりだしつつ、立ち上がる彼女。
レジにむかう背中を男二人で見送りつつ、問い詰められる、オレ。
「おい! おまえ……っ!」
「へへ、おめーがさっさと言わねーからだ。代弁してやったんだっつーの」
「はぁ!? ぼ、僕はそんなこと……!」
「うわ! ……かわいいやつだな、おまえ。ほんと意外……」
「う、うるさいな! なにがだよ!」
「ふたりともー! どうしたんですかー?」
そして、店の入り口からはそんなことは露知らず、な、弩級に鈍い女の呑気な声が聞こえてくる。
「ほら、いこーぜ!」
「……くそ!」
立ち上がり背中をひとつ叩いたのち、肩を組みつつ言う。
「あ、そうだ」
「なんだよ?」
「こまったときは言いな。いつでも相談に乗ってやろう。この、お兄ちゃんがな!」
「誰がおまえに……ってか、誰が誰のお兄ちゃんだ! まったく。ふっ……!」
「へへ……」
「あ、出てきた」
「……お待たせしました」
「ううん。じゃあ戻りましょう」
「おう」
平静を装い歩き始めようとする男に対し、とどめとばかりに、こそっと耳打ちする。
「(……アレが必要になったらすぐ言え。
いつでもオレが常備しているやつを分けてやるからな)」
「ぬぁ!? ……い、言うかぁーッ!!」
「かっかっか! 紳士のたしなみ、というやつだぞ!」
「黙れ、この変態がッ!」
そんなオレたちを見て、呟く彼女。
「? ほんっと、ふたりって仲良しですよね。いいなぁ……」
「はぁ!? どこがだ! あなたの目は節穴か?! 節穴ですね!!」
「ええ? ひどい! ……ポルナレフ兄さん、花京院くんがいじめる!! ……なんちゃって」
猛抗議を受け、そう訴えてくる妹代理。ひとつ訓戒を授けてやることにする。
「いいか? 妹よ、よく覚えておきなさい。
男という生き物はだな、好きな女の子ほど……」
「……エメラルドスプラーッシュ!!」
「ぐはぁ!」
「ええぇー!? にいさぁーん!!」
雨はとっくに止んだはず……
……にもかかわらず、オレの身体には躊躇なき緑色の豪雨が降り注ぎ、そして頭には鮮やかな虹がかかったのであった。
「……ちゃんちゃん。……ぐふ……っ」
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
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読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!