私の生まれた理由   作:hi-nya

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『恋人』戦です。おや、珍しくちゃんと闘って……い、る……?


King of the street

「ひゅう! けっこう大きな町だな。」

 

 私たちはパキスタンの都市、カラチの街までやってきた。

 山岳地帯の霧の街で捕らえた『正義(ジャスティス)』……スタンド使いのお婆さんを馬車の後ろに乗せて。

 敵の情報を得るためだ。どうやら意識はまだ戻っていないようで身動きひとつしないが。

 

 街を進む。路肩には様々な露店が並んでいる。

 道中、腹ごしらえをしようと馬車を停め、ジョースターさんがそのひとつでなにやら買って来てくれた。

 

「ケバブじゃ。とってもお安く買えたぞ。みたか! わしの交渉術!」

 

 焼いて薄切りにした肉をはさんだ、ハンバーガーのようなものらしい。

 いい匂いが鼻孔をくすぐる。

 

「わぁ!ありがとうございます。いただきまーす!」

「はっ!?」

 

 しかし、口を開けたそのときだった。

 私たちの後ろに目をやった、ジョースターさんが叫んだ。

 

「おいッ! みんな、そのバアさん、目を覚ましておるぞ!」

「えっ!」

 

 振り返って見ると、お婆さんの眼はカッと見開かれ、その顔は恐怖にゆがんでいた。

 

「わ、わしは何もしゃべっておらぬぞ! なぜ、おまえがわしの前に……!?

 このエンヤがDIO様のスタンドの秘密をしゃべるとでも思っていたのかッ!?」

「えッ!」

 

 その視線の先にはさきほどの露店商の姿がある。

 そちらに気を取られたほんの一瞬のことだった。

 

「ぬぁあああー!!」

 

 なんと、お婆さんの目、鼻、口……あらゆる穴から細長い触手が飛び出した!

 

「な、なぜ、きさまがこのわしを殺しにくるーッ?!」

 

 息も絶え絶え、お婆さんが叫ぶ。

 

「DIO様は何者にも決して心を許していないということだ。口を封じさせて……いただきます。そして、そこの5人……お命ちょうだいいたします。」

 

 ターバンとサングラスを外し、露店商……だった一人の男が言った。

 

「ギギギギギ……!」

「ばあさんッ!」

「うぽわぁー!」

 

 触手はどんどん大きくなり、とうとうお婆さんの顔面を引き裂いた。

 

「わたしの名はダン……スティーリー・ダン。

 スタンドは『恋人(ラヴァーズ)』のカードの暗示。

 君たちにも、このエンヤ婆のようになっていただきます。」

 

 良心。そんなものはまるっきり存在しないかのように、敵は倒れたお婆さんを意にも介さず、こちらに自己紹介をはじめる。

 

「なんてことを! このバアさんはテメーらの仲間だろーが!!」

 

 ポルナレフさんが叫ぶ。

 同時に、花京院くんは何かに気付いたようだ。

 

「おばあさんの体から出ているのはスタンドじゃあないぞ!

 実体だ!本物の動いている触手だ!!」

 

「……あの方が、このわしにこんなことをするはずが……『肉の芽』をうえるはずが……

 DIO様はわしの生きがい……信頼し合っている……」

「肉の芽!?」

 

「……バアさん!」

 

 その言葉を受け、ポルナレフさんがチャリオッツのレイピアで触手……肉の芽を切り離す。

 それは日光に当たると、シューシューと音を立てて、溶け始めた。

 

「これは! ……『肉の芽』! 吸血鬼……、DIOのやつの細胞だ!!」

「いかにも。よく観察できました。それはDIO様の細胞、『肉の芽』が成長したものだ。

 今、このわたしがエンヤ婆の体内で成長させたのだ。」

 

 敵の男はお婆さんに冷たく言い放つ。

 

「……エンヤ婆……あなたはDIO様にスタンドに関しての知識を教えたそうだが……

 あなたのようなちっぽけな存在の女に心をゆるすわけがないのだ。

 それに気づいていなかったようだな。」

「ぐ、ぐ……」

 

「ばあさん!DIOのスタンドの正体を教えてくれっ!」

「!」

 ジョースターさんが、必死にお婆さんに問いかける。

「言うんだッ!DIOという男に期待し信頼を寄せたのだろうが……。

 これでやつがあんたの考えていたような男ではないとわかっただろう!?」

「ハァ、ハァ……」

「わしは、DIOを倒さねばならんッ!たのむ!言ってくれッ!」

「で、ディ、オ……様……は」

「!」

 

「……このわしを信頼してくれている。いえるか。……ぐふ……」

 

「!OH!GOD!!」

「おばあさん!」

 それだけを言い残して、お婆さんは息を引き取った……。

 

「くっくっくっ……悲しいな……どこまでも悲しすぎるバアさんだ。

 だがここまで信頼されているというのもDIO様の魔の魅力のすごさでもあるがな……くっくっく」

 

「……!」

 

(……許せない……!!)

 

 敵スタンド使いは舐めきった態度で、いつのまにかオープンカフェのテーブルに座ってコーヒーなんて飲んでいる。

 ザッ!と、それを取り囲む、私たち。

 

「オレはエンヤ婆に対しては妹との因縁もあって複雑な気分だが……てめーは殺す」

「5対1だが、躊躇しない。覚悟してもらおう」

「立ちな」

 

 しかし、それでも敵は、その態度を崩すことはなかった。

 

「おいタコ!カッコつけて余裕こいたふりすんじゃねぇ……てめーがかかってこなくてもやるぜ」

「どうぞ……だが君たちはこのスティーリー・ダンに指一本さわることはできな……」

「オラァッ!」

 

 敵のセリフが終わるのを承太郎君が待つはずもない。

 いうが早いか、敵はスタープラチナのラッシュでふっとび、壁へと激突した……

 

「ぐふっ!」

 

「……ぐえっ!」

 

 同時に、なんとジョースターさんの身体も『敵とおなじように』後ろにふっとんだ!!

 

「なに!?」

「!?」

「ど、どうした?ジョースターさん!こいつとおなじようにとんだぞ!」

「なにもしてないのに?!」

 

 ふっとんだ敵がよろよろと立ち上がり、口の端の血を拭いながら言う。

 

「このバカが……まだ説明は途中だ。もう少しできさまは自分の祖父を殺すところだった……。

 いいか? このわたしがエンヤ婆を殺すだけのために姿をあらわしたと思うのか……?」

「き、きさま、『恋人』のカードのスタンドとかいったな……いったい、それは……?!」

「……もうすでに、戦いは始まっているのですよ……ミスタージョースター」

「!」

 

 私たちはあたりを見まわし敵のスタンドを探した。が、みつからない。

 

「おろかものどもが……探してもわたしのスタンドはみつかりはしない……

 おい小僧、駄賃をやる。その箒の柄でわたしの足を殴れ」

 

 近くで掃除をしていた少年に、敵は言う。

 

「ハッ! まさか!」

「殴れ!」

「え、えいっ!!」

 

 躊躇いながらもその少年は思い切り男の足を殴る。その瞬間……

 

「うげっ!」

「じ、ジョースターさん!?」

「い、痛い!わけがわからんが足に激痛が!!」

 

「くくく……気がつかなかったのか?ジョセフ・ジョースター。

 わたしのスタンドは体内に入り込むスタンド!

 さっきエンヤ婆が死ぬ瞬間、耳から貴男の脳の奥にもぐり込んでいったわ!!」

「なにっ!?」

「スタンドと本体は一心同体。スタンドを傷つければ本体も傷つく……逆も真なり!

 このわたしを少しでも傷つけてみろッ!

 同時に脳内でわたしのスタンドがわたしのいたみや苦しみに反応してあばれるのだ!

 同じ場所を数倍の痛みにしてお返しする!

 もう一度いう!きさまらはこのわたしに指一本ふれることはできん!」

「!!」

「しかも『恋人』はDIO様の肉の芽をもって入った! 脳内で育てているぞ!!

 エンヤ婆のように内面から食い破られて死ぬのだ!!

「な、なんてことだ……!」

「ま、はっきり言ってわたしのスタンドは力が弱い。

 髪の毛一本動かすことさえできない史上最弱のスタンドさ。

 だがね! 人間を殺すのに力なんぞいらないのだよ! わかるかね、諸君!

 もしわたしの身に何かあれば……そのダメージはあなたの身に何倍にもなってふりかかる!

……そして、10分もすれば脳が食い破られ、エンヤ婆のようになって死ぬ」

 

「……!」

 

 瞬間、承太郎君が敵に掴みかかろうとする。

 

「じょ、承太郎!おちつけ!バカはよせ!!」

 

 花京院くんがそれを制止する。

 

「いいや……こいつに痛みを感じる間を与えず、一瞬で殺してみせるぜ……」

 

 それに対し、挑発めいた言葉を発する敵。

 

「一瞬か……いいアイデアだ……やってみろよ。

 ほら。どこをぶっとばすんだ? 顔か? のどか? 胸か?

 それとも石で頭を叩きつぶすってのはどうだ? ほら、石をひろってやるよ」

 

「……あまりなめた態度をとるんじゃあねーぜ。おれはやると言ったらやる男だぜ……」

 

「うッ……」

 

 そんな敵を承太郎君は鋭い眼光をむけ、首をしめあげる。

 

「うぐぐ……」

「! ジョースターさん!」

 

 同時に苦悶の表情を浮かべるジョースターさん。

 

「はやまるなッ! 承太郎ーッ!」

 

 再び、花京院くんが承太郎君を、そしてハイエロファントがスタープラチナを必死に抑える。

 

「こいつの能力はすでに見たろう! 自分の祖父を、本当に殺す気か!?」

「や、やると言ったら本当にやりかねねーヤツだからな……」

 

 ポルナレフさんも加わりどうにか止める。

 

「ぐっ……」

 

 歯噛みをする承太郎君。

 

「なめたやろーだ……!」

 

 その隙に敵は、承太郎君のみぞおちを思い切り殴った。

 

「う……ぐ……」

「承太郎!」

「オレをなめるな……

 ジョースターのじじいが死んだらその次はきさまの脳に『恋人』をすべりこませて殺すッ!」

「な、なんてことだ……孫が殴られてわしが助かるとは……」

 

 

「これでは……だめだ! ジョースターさん、ポルナレフ!」

「! うむ!」

「わ、わかった!」

 

 八方塞がりな状況をどうにか打開すべく、花京院くんが言うと二人が走り出す。

 同時に彼は承太郎君に向けて叫ぶ。

 

「承太郎、そいつをジョースターさんに近づけるなッ!

 僕らはそいつからできるだけ遠くへ離れる!」

 

 そして、私にそっとこう告げた。

 

「あなたはまだ走れない……隠れながら承太郎を援護してやってください。

 ただし、くれぐれも無理はしないこと。いいですね?」

「……うん! わかった。そっちも、気を付けて」

 

「こっちのことは、考えがあります。任せてください」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「おい! この堀を渡るための、橋になれって言ってんだろ?」

 

(あっ!)

 

 花京院くんたちが駆けていくのを見送ったのち、私は建物の陰に隠れて二人を尾行していた。

 街を歩きながら、敵は調子にのって、承太郎君に次々と無理な命令をしているようだった。

 

「てめー、だんだんガラが悪くなってきやがったな。それが本性か……」

「……いいのか? ……そんな態度だと……おら!」

 

 敵は自らの足で電柱を思い切り蹴る。

 

(あっ!

 同じ場所を数倍の痛みにして……ということは今頃ジョースターさんの足が……!?)

 

「ちっ……」

「そうそう、それでいいんだよ! くくく……」

 

 仕方なく寝そべる承太郎君を、敵の足が踏みつけようとする……。

 

(いけない! セシリア! こっそり! 承太郎君を御願い!)

 

「……。」

「硬い……? 気のせいか。まぁいい……」

 

 無事、向こう岸に渡り終えた敵。

 どうにかバレずに済んだことに胸をなでおろしつつ、再びあとを尾ける。

 しかし、二人に追い付いた途端、またも聞こえてきた。敵のとんでもない注文が。

 

「おい、承太郎。背中がかゆい。かけ」

 

(ひぇっ! あの承太郎君になんてことを! ファンに殺されちゃうよ! あの人!!)

 

 取り巻きのお嬢様方(ゆりかごから墓場まで)の顔を思い浮かべる。

 

(いまここに召喚できたら……いや、だめか。)

 

 敵が袋叩きの刑に処されるのは確実だ。そんなことになったらジョースターさんが……。

 

(あれ? そういえば……痛み以外の感覚も……?)

 

 そこで、ふと思う。痛覚以外の触覚……それも倍になって伝わるのだろうか?……と。

 背中を掻かれる感覚を強調……想像がつかなかった。

 ちなみに、「死ぬかとおもったわい……笑いすぎて。」……と、あとで訊ねてみたところ、ため息まじりにジョースターさんが語ってくれたその苦労。

 ……それをまさか自分も後に嫌になるくらい実感する羽目になろうとは……。

 このときの私は、露ひとしずくほども知らない……。

 

 

 

 

 

 電柱の影に隠れて、引き続き二人の動向を見守っていると、今度は何処からともなく、ブラシと布と靴クリームを出す敵。どうやらこれで靴を磨けと言っているようだ。

 渋々従う承太郎君。……なにかを物語る背中が怖い。

 

 そして、さらに、なにかあったのか、突然高らかに言い放つ敵。

 

「ふはははは!ほれっ!なにやってんだッ?しっかりやれ、承太郎。

 わたしは今すごく機嫌がいいッ!この今の気分と同じように晴れた空が、くっきり写りこむくらいピカピカにみがいてもらおーかな!」

 

(……も、もうやめてー!)

 

 肉体的な仕打ちはともかく、こういった精神的な攻撃に出られると何もできない無力な自分に歯噛みをする。

 

(ご、ごめんね……)

 

「……」

 

 やはり黙々と従う承太郎君。その静けさがやはり逆に恐い。

 この状況……いつプッツンしてもおかしくはないだろう。

 

 ……見ているだけの私ですら、いいかげんキレそうなのだから。

 

 が、そんなことになったらジョースターさんが……。

 

(くっ……た、耐えて! 承太郎君……!)

 

「……」

 

 靴磨きを終えた承太郎君は、手帳を取り出し、なにやら書き込んでいるようだ。

 

「きさま! 何を書いている!?」

 

 それを取り上げ、読み上げる、敵。

 

「……【ハラを殴られた、財布を盗られた、時計を盗られた、

  どぶ川の橋にされ踏まれた、背中をかかされた、靴磨きをさせられた……】……

 なっ、なんだこれはッ!?」

「おまえに貸してるツケさ……必ず払ってもらうぜ……忘れっぽいんでな。メモっていたんだ」

 

「こ、の!!」

 敵の平手打ちが承太郎君の頬に入る。

 

(あっ!しまっ……! 間に合わなかった……ごめん、承太郎君……!)

 

「オレを、なめるなと言っているだろぉが!!」

 

 敵が恫喝する。

 

 それでも承太郎君は、不敵にほほえんでいた……。

 

 

 

 

 

 その後、何かを思いついたかのように、敵スタンド使いは承太郎君を連れて宝石店に入っていった。

 少し遅れて、私も追いかける。

 

「ふはは、なぁ、見ろよこの金の腕輪。

 一流ブランドのデザインもいいが、まれに無名の逸品ってやつはこういう店で出会えるものさ。

 喜ぶぜーーー。女の子にこういうものをプレゼントするとなぁ。

 承太郎……ガラスのすきまがあるだろう……そこからスタンドで、それを盗れ」

「……」

「……盗れ、といっているんだぜ、ボケっ!早くしろ。

 それともなにか……このわたしがガラスをぶちやぶって盗ってもいいんだぜ……

 わたしが捕まってぶちのめされてもいいのか?ジョセフのじじいは確実に痛みで死ぬぜ」

「……」

「早くやれッ! 今店の女は向こうむいてる!」

 

 承太郎くんのスタープラチナが、腕輪を掴む……そのときだった。

 

「ああーっ! こいつ万引きしてますよぉー!」

 

(なっ!? 自分がやれって……!)

 

「てめえ……」

「くくく!」

 

「なにー、盗人だとぉ!」

「こいつか!」

「この東洋人の若僧か!?」

「オレの生まれた田舎では、盗人は手の指を切断される!!」

 

 承太郎君が店の人達に取り囲まれる。

 

「フッフッフッ……」

 

(いけない! セシリア! また、こっそり!!)

 

 店の外に連れ出され、袋叩きにされる承太郎君。

 

 その隙に、敵の男はなにか別の物を盗んで懐に入れていた。

 

(ほ、本当に……なんて、卑劣な……!)

 

 

 

「早く俺たちの国から出ていけ!」

「指は切らねーでそれくらいで勘弁してやるぜ。」

 

 倒れている承太郎君に、にやにやと敵の男は近づいていく。

 

「ふはははは!でかしたぜ。よーくやった。

 おまえのおかげでドサクサにまぎれてもっとでかいもの手に入れたからよ」

「……」

「……ん? あれだけ殴られておいて、なんでおまえそんなに平気そうなんだ? ……まさか!?」

「!?」

 

(し、しまった、気づかれた……!?)

 

「誰かいやがるな!出てこい!……さもなくば!」

 

 敵は自らの首筋に、ナイフをあてがう。

 

「……チッ……。」

 

「……くっ! やめてください……!」

 

「何かおかしいと思ったら……てめーか! 女ぁ……こっちに来な!」

「……わかりました」

 

 仕方なく姿を現し、その命令に大人しく従う。

 

「……フン、なめた真似しやがって……

 このおとしまえはきっちりつけてもらうからな」

 

 下卑た笑みを浮かべ、私をジロジロと見てくる、敵。

 

「へへ……なにをしてもらおうか……

 ……とりあえず!」

 

「……ッ!!」

 

 腕を掴まれ、引き寄せられる。

 

「おまえもうれしいだろ?こんなハンサムが相手でよぉ……!」

「……。……どこにいますか?そんなかっこいい人。

 花京院くんはここにいないし……あ、承太郎君のことですか?」

「ああ!?」

「……今、私の目の前にはいませんね!

 性格のねじ曲がった、卑怯で、卑屈で、気持ち悪い!最低のクズ男しかッ!」

「くっ!このアマ!」

「ふ、ふん!」

 

 せめてもの抵抗……込み上げてくる寒気と吐き気をなんとか誤魔化したくて、精一杯の虚勢を張る。

 

「へ、へへ、無理すんなよ……震えてんじゃねーか!」

「そ、そんなことありません!

 ら、乱視なんじゃあないですか? 眼科行ったらどうですか?」

 

 そして、そんな最低な男は、最低な男らしい……最低の行動を思いついたようだ。

 

「……わかった! そのうるさい口、今、塞いでやるぜ!」

 

「「なッ!?」」

 

「……もういい!! やめろ!」

 

 承太郎君が叫ぶ。

 

「へへ……」

 

(さ、最悪! で、でも……がまんしなきゃ……)

 

 じわじわと近づいてくる男の顔。

 

(……。まさか、こんな形で……)

 

 脳裏に浮かぶのは、あのひとの、ことば。

 

 

 ――初めてのキスは――

 

 

(……ッ! ……嫌……)

 

 逸らした私の顔を向き直そうと、男の手が伸びてくる。

 

(いや!! ……やっぱり無理ッ!!!)

 

 歯をくいしばる。

 

 

(……この人じゃあないッ!! ……やだーっ!!)

 

 

「うごぉっ!」

 

 そのときだった。

 まばゆい桃色の光の壁が私の前に現れ、敵をものすごい勢いではねとばした!

 

「あッ! ちょっ! せ、セシリア!?」

 

(し、しまった! 嫌すぎて無意識にでちゃった……!?)

 

「いけない!」

 

 そのままセシリアでふっとんだ衝撃から敵を護る。

 

「あっ!」

 

 ……瞬間、私はようやく閃いたのだった。

 

(そうだ! そうだよ……!!)

 

「てめぇぇぇ、このアマぁ!!」

 

 鬼のような形相で起き上がった男に言い放つ。

 

「……おあいにく様!

 私のファーストキスは貴男なんかにあげるために、とってあるんじゃないんですぅー!

 んべぇー!! 嫌がる相手に無理矢理とか! やっぱり最低な男ですね!」

「ああー!? くそ! もうゆるさん!! 刺すぞ! コラ! 後悔しな!」

 

「はい、どうぞ。できるものなら……」

 

 にこやかに頷いてやる。

 

「なめんな! うらぁ!」

 

 キィン、という金属音が辺りに響く。

 その刃は敵の男の皮膚にくい込む前に薄桃色の障壁にはじかれていた。

 

「な、なにィ!」

 

「……私って、ほんと馬鹿。どうしてもっと早くに思いつかないかなぁ……」

「フン! なるほどな」

 

 承太郎君もにやりと微笑む。

 

「ひっじょーーにッ、不本意ですが……

 私が『貴男』から『貴男』を護らせていただきます……!」

 

「あッ! く、くそッ!

 チィッ! ……っ、が、しかしッ!忘れたのか!

 肉の芽がジョースターの脳を食い破るまであと1分もない! そんな状況なんだぜ!」

 

「フッフッフッフッフッ……」

「ふふふふふ……」

 

「な、何を!? 貴様ら何を笑っているッ!?

 

 口々にいう、私たち。

 

「……残念ですが、それはありえないですね。向こうには、花京院くんがいますから」

「フフフ、きさまは、おれたちのことをよく知らねぇ。

 ……花京院のやつのことを知らねぇ」

 

 

「な、なんだと……? はっ!」

 

「うわあああ!」

 

 瞬間、敵の男の頭から、血が噴き出した。

 

「おやおやおやおや……そのダメージは花京院にやられているな。

 残るかな? おれのお仕置きの分がよ。」

 

 

 

 

 

「い、イテーッ! イテェよぉ!! あ、あ……!!」

 

「……どうした?なにをあとずさりしている?

 おれのじいさんの方では何が起こっているのか、話してくれないのか?」

 

 形勢が不利になったとみるや、敵は踵を返し逃げ出そうとした……が、しかし、がっちりと承太郎君に髪を掴まれる。

 

「おいおいおいおい……なにをあわてている? どこへいこーってんだ。

 まさかおめー、逃げようとしたんじゃあねーだろーなー……いまさらよ」

「ヒィィィィィーッ!

 ゆっゆっゆっ、ゆるしてくださぁあーい! 承太郎様ーッ!

 わたしの負けですッ! 改心します! ひれ伏します! 靴も舐めます!」

 

 土下座をし、そういって男は本当に承太郎君の靴を舐め始めた。

 

「命だけは、助けてくださいぃぃぃ!!」

 

「なさけねーやろうだ……消えな」

 

 心底呆れかえった顔で承太郎君が背をむける。そのときだった。

 

「きゃー!」

「「!?」」

 

 なんと(というか、正直予想通りというか)敵は近くで遊んでいた無関係な少女を捕まえ、その首筋にナイフをあてがった。

 

「承太郎! ぐはははは! バカめぇーッ! この女の子を見な!」

「!」

「今この女の子の耳の中にわたしのスタンド『恋人』が入った!

 脳に向かっているッ! 動くんじゃねー!」

「……」

「聞いてるぜぇ!そのピンクのスタンドは一人の人間しか護れねーんだってな!

 この巻き込まれちゃったカワイソーな女の子を助けたければ……

 まず、そのクソアマを承太郎、てめーのスタンドでぼこぼこに殴って再起不能にしな!

 うぬあははは!」

 

 その姿を見て、おもわず漏れ出る率直な感想。

 

「はぁ、やっぱり……最低な男ですね」

 

「早くやれーッ!やらんと、直接この女の子を刺すぞ!」

 

 血走った目で喚く男に、承太郎君も溜息まじりに告げる。

 

「やれやれだ……いいだろう、やってみろ」

 

「ほ、本性を現したな! や、やるぞ! ちくしょ……?! あ、あれ……?」

 

 しかし、その威勢とは裏腹に敵のナイフを持つ手はピクリとも動くことはなかった。

 

「どうした……? ブツリと突くんじゃねーのか。こんな風に……」

 

 そして、にやりと笑うと、承太郎君は動けない男の手を掴み、その頬へナイフを突き刺した!

 

「ギャアーッ! か、からだが動かないッ! なぜ……!?」

「……自分のことは知ってんじゃねーのかよ。よく見ろよ」

 

 そこで、ようやく気付いたようだ。

 

「ゲッ!『恋人』になにかが、巻きついているッ! な、なんだ、これはッ!」

 

「気づかなかったのか? 花京院はハイエロファントの触手をおまえのスタンドの足に結びつけたまま、逃がしたようだな。凧の糸のようにずーっと向こうからのびてきているのに気づかねーとは……よほど無我夢中だったようだな」

 

「あっ! わっ! ゆるしてくださーいっ!」

「……ゆるしは、てめーが殺したエンヤ婆にこいな」

「!」

「おれたちは、はじめっからてめーをゆるす気は……ないのさ」

「でぃ、DIOから前金をもらってる……そ、それをやるよ!」

「やれやれ。正真正銘の史上最低の男だぜ」

 

「……てめーのつけは……金では払えねーぜッ!!

 

「ひぃいー!!」

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……」

 

 

(な、長い……。さすがにちょっと気の毒……)

 

「……」

 

 そう思いかけた瞬間、浮かぶ、数多の敵の、許し難い行い……

 

(……でもないか。これぞ『自業自得』ってやつだよね! うん!)

 

 と、素直にすっきりすることにした。

 

 

「……オラァッッ!!」

 

 そして、承太郎君はさらさらとなにやら手帳に書き、ページをやぶると、投げつけた。

 それはひらりと、もはやとても受け取ることができないであろう男の上に舞い落ちた。

 

「つけの、領収書だぜ……」

 

 

 

 

 

「よし。ヤス……御苦労」

 

「そちらこそ、お疲れさま。

 ……というか、うん、それじゃあもう私、完璧、承太郎君の舎弟だよね?

 まぁいいんだけどさ、どう呼んでも……」

 

 敵スタンド使い……だったものを転がしたあと、承太郎君は私にいった。

 どうやら、もはや『乃』すら、つけるのが面倒くさくなったようだ。全国のヤスさんごめんなさい。

 

「それはともかく……気づくのが遅くてごめんね」

 

 そうなのだ。私が最初から敵を護る案を思いついていれば、数々の……あんな嫌な思いをさせずに済んだのだ。

 

「……まったくだ。あとでなんかおごれ」

「えー!? ……はぁ、もう、しょうがないなぁ……」

 

 すると、承太郎君はうなだれかけた私に言う。

 

「……冗談だ。……すまんな。うちのジジイのために。

 怖え思いを、させちまったな。」

 

「……ううん」

 

 なんだかんだ、やはり口は悪いが優しいのだ。

 

 ……とか、思ったのに……。

 

「しかし、なかなかいい啖呵だったじゃあねーか。……間抜けでな。

 にしても、おまえ……キスすらしたことねーのかよ……」

「あ!? し、しまっ……!」

 

 前言撤回。うっかり勢いで口走ったことを後悔する。

 

「くくく……、心配すんな。あいつはむしろ喜ぶだろうよ」

「ぐっ! な、なによッ! 馬鹿にして……! あ、あいつって誰のことよッ!」

「さぁな。自分の胸にきいてみろよ。

 ほら、噂をすれば……戻ってきたぜ」

 

 わかりづらい……が、このひとにしては大変楽しそうな表情で指をさす。

 

 その先には、たしかに……砂煙を上げて駆けてくる……ひとつの影がみえた。

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「ふたりともー! 大丈夫ですかー?!」

 

 心配で一足先に戻ってきた僕は、承太郎たちを見つけ、声をかける。

 

「おう。なんとか、な」

「うん」

「よかった……。

 が、しかし! ……あなた、見つかったでしょう!」

「ぎくぅ!」

 

 二人の無事な姿にほっとしつつも、僕は気づいていた懸念事項を口に出す。

 

「まったく! 隠れてって言ったのに! ほんとに大丈夫だったんでしょうね?」

「まぁ……うん、一応……」

「……ん? なんですか、歯切れの悪い……。

 はッ! ま、まさか!あの男になにかされたんじゃあ!?」

 

 そうして問い詰めると、彼女はとんでもないことを言い出した。

 

「だ、だいじょうぶだよ!ちょっと……キス……」

「はぁぁぁぁーー!?」

 

(……あの男、殺す……

 ……あのまま、ひきちぎってやればよかった……

 ……承太郎に譲るんじゃあなかった……)

 

「ち、違う! されてないっ! されそうになっただけ!」

 

 すると、僕の燃え上がるような憎悪及び殺気を感じたのか、必死に否定する彼女。

 

「ほ、ほんとでしょうね!? 承太郎ッ?!」

 

 すがるような思いで承太郎に問う。

 

「ああ。……みごとな拒絶っぷりだったな。

 セシリアが勝手に飛び出て、はねとばした。

 ……滑稽だったぜ……よく飛んだな、あいつ……。10mくらいか?くくく……」

「そ、そうか……」

 

(……よ、よかった。ありがとう、セシリア。

 というか、やはり、か。そういう使い方もできるんだな……)

 

 安堵とともに、以前からの僕の推測はどうやら正しいらしいと思い至る。

 ……あえて本人には伝えていない彼女のスタンドに関する推測が。

 

(それにしても……

 仁美さんにちょっかいをかけると、そんなにぶっとばされるのか……。

 ……って、なんでそんな心配してるんだよ……僕……)

 

 そんなことを考えていると、承太郎のやつが、もうひとつ爆弾を落っことしてきた。

 

「おい、しってるか? 花京院。

 こいつのファーストキス、やるやつは、もう決まってるんだとよ。」

 

「「……ぬぁッ!?」」

 

「あ、あぁッ! ちょ! なに言ってんの!?」

「な、なにィッ!? それは聞き捨てならん!

 だ、誰だ!? 誰にだーッ!?」

「い、言ってないッ! そんなことは一言もー! ちょっと! 承太郎君!!」

「くくく……同じようなもんじゃねーか」

「ぜんっぜん、ちがうよぉー!」

「……じゃ、あとはふたりでやんな」

「ま、待ちなさいよ!このQ太郎ぉー!」

「いいや……待つのはあなただ! そんなので誤魔化されるとでも?

 さぁ、吐け!吐いたら楽になれますよ……」

「や、やめてー!!」

 

 

 

 

 

「……だから、そう言っただけだって。

 ……前に花京院くんがいったでしょう? あれだよ」

「ああ……なるほど……。あれか……」

「うん……あれ」

 

 以前シンガポールにてふたりで話した。そのときの自分の言葉をおもい出す。

 あの……我ながら、なかなかこっ恥ずかしい台詞を。

 

「……」

「……」

 

「……で?」

「……ん?」

 

「……あなたは、そんな……。

 その……、あげたいと、想う相手が、いる……わけですか……?」

 

「! うッ! ……そ、それは、その……あの……」

「?」

 

「しらないーッ!!!」

「あっ! まだ走っちゃだめです! って……行っちゃったよ……」

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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