こんなのですが、本年もどうぞよろしくお願い致します。
「オレさー、ちょっと思うところがあるんだが、いいだろうか?」
カラチの宿にて、ポルナレフが言い出したことを皮切りに、事件は起こる。
夕食後、全員で歓談をしていた一行。
「ふふ、もう、ジョースターさんったら……」
いつもの如く、ムードメーカーのジョースターとポルナレフが場に笑いを誘いつつ、和やかな時間が過ぎていく。
すると、しばしの後、柱時計が、ボーンボーンという響きと共に、時を告げる。
「あ、じゃあ、私はそろそろ。
すみません、お先に失礼しますね」
それをきっかけに立ち上がる彼女。
「ああ。お疲れ」
「おやすみなさい」
(……珍しいな)
その背中を見送りながら花京院はおもう。自分から彼女がこう言い出すのはあまりないことであったからだ。
(まぁ、昼間のあのクズ野郎との戦いで、疲れたのかもしれないな……)
今日も彼らは卑劣な、敵の刺客を退けていた。
その直後のことだ。ポルナレフが、何となしに、そんなことを言い出したのは。
「思うところ? ……なんだよ?」
さりげなさを装いつつ、気になって仕方がない……そんな様子を隠しきれない花京院が続きを促す。それにゆっくりと答えるポルナレフ。
「最近……あいつ、可愛くなったよな……」
「は、はぁ!? な、なにを言い出すんだ! 真面目な話かと思ったのに!」
「オレは大真面目だ! お兄ちゃん代理としては見過ごせん」
いつのまにそんなものになったのか。ポルナレフは続けた。
「なにかあったんじゃね? はっ! まさか大人の階段を!?」
「ぶふぉー!!」
スプラーッシュ! 食後のコーヒーがその必殺技の如く、動揺を露わにした男の口から盛大に吹き出される。
「落ち着け……。それは……ないだろ。(こいつがこの様子じゃあな……)」
あきれつつ、そこにおしぼりを投げ渡す承太郎。
必死に彼が平静を取り戻そうとした矢先、年長者のジョースターまでもがこんなことを言い出す。
「まぁ女の子は恋をすると綺麗になるというからのう……というのが妥当じゃろ」
「な、なにィ!? だ、誰に!?」
恋……聞き捨てならないそのワードにまたも動揺を隠しきれない男。
「……」
そこに一斉に、集まる、視線。
「な、なんだよ! みんなして、なぜ僕を見る!?」
「いや、だって、……なぁ? (めんどくさい野郎だぜ……)」
「ああ……(普段はあんなに洞察力があって頭もキレるくせに、なんで気づかないんじゃ……)」
「気にするな。ただの憶測だ(ほっとけ。面白いから)」
「? よくわからんが……そうなのか?」
空中で会話をする仲間たち。知らぬは本人ばかりなり……とはまさにこのことだろうか。
しかし、そんな朴念仁にも、思い当たるふしがないわけではないようだ。
(でも確かに……最近、以前よりも、くだけた感じのかおをみせてくれることが増えた気がする。
緊張感が薄れたというかなんというか。ハッ、それに!そういえば、今日も……)
その脳裏に浮かぶのは、昼間の彼女のすがた。
想う相手がいるのか。そう問うと、逃げ出すように駆けていってしまった、あの。
(もしかしたら本当に、いるのだろうか……。いや、ちょっとまて、それ以前に……)
「そ、そもそも、あのひと……に、日本に恋人とかいるんじゃあないのか!?」
(そうだ……! キスは、その、未経験だということは、前に話の流れで聞いていたが……。
それとは必ずしもイコールではないのではないか……)
「……花京院おまえ、自分で言っといてそんなに落ち込むなよ」
「う、うるさい! 落ち込んでなどいない!」
自覚なく項垂れる男に、承太郎がまたもあきれた声を出しつつも、ポルナレフと共に慰めの言葉を差し伸べる。
「安心しろよ。オレ、それ前に聞いたけど、いないっていってたぜ」
「いたらこんな旅についてこねーよ。今どころか今までずっといねーな。あの感じは」
「そうだな。いねーと思うぜ。
このポルナレフ様に負けじとも劣らねぇ、怖え兄ちゃんもついてたらしいしな」
「な、なんだそれ?」
「えー、なんか、あいつにつきまとって困らせてた男を端からぶん殴って、護ってたらしいぜ」
「そ、そうなのか……」
その情報に、男の胸中に複雑なおもいが走る。
(それは……安心……なような、明日は我が身な……って、なんで!? ちがうだろ! 僕は関係ないッ!)
「おなじお兄ちゃんとして感動した!
だからこの旅ではオレがあいつのお兄ちゃん代理としてだな……」
「……と、いうわけだ。安心しろ」
「そ、そうか……。いないか……。い、いや別に安心とかしてないし!」
「「はいはい」」
「な、なんだよ!ふたりして!」
その男の抗議は当然のように流され、本題に戻る。
「まぁ確かに、ポルナレフの言わんとすることはわかる」
「だろだろ!」
「な!?」
「可愛らしいお嬢さんだったのが、すこーし最近大人になったかのう」
「そうそう。すこーしな!ふと色っぽいときがあってだな」
そんな一同に耐え切れず声を荒げる男。
「や、やめろッ! み、みんなして!
だ、だいたい仲間のことを、そーゆー目で見るとか! ありえないだろう!」
そこに年長者から鋭い突っ込みが入る。
「ほーぅ……じゃあ、花京院。おまえさんは、そーゆー風に見ていない、と?」
「む、無論だッ!」
「うっそつけー!あんだけ世話焼いといて!それはないわ!」
「そ、それは……。なんか、気にな……し、心配なだけだ!
あのひと、ほっとくと平気で自分を犠牲にしようとしたり……危なっかしいからだ!」
「まぁ、それはわかるけどなぁ。……じゃあ、オレ、ホンキで狙っちゃおーかなぁ!」
「ぬぁッ!?」
普段は……とくにあの娘の前では……知的で冷静な男を気取っている彼の、傍から見れば大変わかりやすい必死の抵抗におもわず悪戯心が止まらないポルナレフ。
「(ぷぷぷ、おもしれー! いつもの仕返しだよっと!)承太郎は?」
「おれは、前にも言ったが、興味ねぇ。もう少し男慣れしてる女の方が楽でいい」
「まーなぁ、それは確かに……。でも、一から自分の好みに……ってのもよくねぇ!?」
「おっ! ポルナレフ! おまえさんなかなかわかっとるじゃあないか! 育てる歓び! ありゃたまらんぞー! 承太郎もまだまだお子ちゃまだな!」
「……このエロジジイ。おばあちゃんにいうぞ。……ちっ、それもめんどくせぇな……」
「じいさん、あんたいくつだよ!」
「はぁ!? わしはまだまだ現役じゃぞ! ししししし!」
いつのまにやら、結局、自分たちの趣味嗜好の暴露に夢中になっていた。
そんな彼らは気づいていなかった。
ゴゴゴゴゴゴ……
すぐ傍で、いつもよりも確実に多めに練られている強大なエネルギーの塊に。
「「「ハッ!」」」
「……あくまで……あくまでだ!
彼女の……、『仲間』として……
そして、『友人』……、として……」
「そのようなこと、この僕が許さんッ!! 決してッ!!
くらえッ! 天誅ーッッ!!」
チュドーン!!
「オーノォーー!!」
緑色の嵐に吹きとばされながらもポルナレフの脳裏に浮かぶ思い……。
「ぐふっ! また……かよ……。
もう二度と……あんな馬鹿真面目なヤツ、からかわないと、誓うぜ……」
* * *
「まったく! なんてやつらだ!
あのいかがわしき獣どもの毒牙から彼女を護らねば! なんとしてでも!」
(そもそも、『最近』ってなんだ! あのひとは最初から、かわ……。
……あ、あれ?)
何故か自分でも思わぬ方向に思考が向き、焦る男。その瞬間だった。
「あ! 花京院くん!」
「うわぁあー!!」
彼の脳裏に浮かんだ、まさにその本物が現れた。問題の張本人が。
「そ、そんなに驚かせるつもりは……。ごめんね」
「い、いえ」
「なんかさっきそっちからすごい音がしたから、何かあったのかとおもって……」
「……。だいじょうぶです。
……どこかの狼どもが正義の狩人に仕留められでもしたんじゃないですかね?」
「? なにそれ?? そうなの?」
「ええ。安心してください」
しれっとそんなことをいったのち、ちらと彼女の様子を窺いつつ、訊ねる。
「それより、あなたは……?」
「ああ、私? 私はお風呂行ってきた帰り。
大浴場、広くて素敵だったよー! さっすが、最高級ホテル!
ジョースターさんに今日も感謝だね!」
「そ、そうですか……」
にこにこと上機嫌な彼女。なるほどよく見ると、お風呂グッズを手にしている。そう、よく……みると……。
(風呂上がり……か。どおりで……)
いつもは下ろしている髪を、まとめていて……。
(新、鮮だ……)
少し上気した頬……白い首筋にうなじ……そこにはらりと流れる一束の髪の毛……。
(色っぽ……い。……って)
「うおおぁあー!」
(こ、これじゃあ、あいつらとおなじじゃあないか!)
自らの浅ましさに耐え切れず、うずくまり頭を抱える男。
「え!? な、なに?! どうしたの? 気分わるいの? だ、だいじょうぶ……?」
明らかに『おかしな彼』を心配するあまり、前のめりに様子を窺う彼女。
「だ、だいじょうぶです! だいじょうぶですから!」
(い、いつもにもまして、なんかすごくいい匂いするし……!
というか、近い! うれしいけれど近いッ!!)
純粋で真面目な彼女の親切心が生み出したこの状況も、どうやら今の彼には裏目かつ限界なようだ。
「ちょ、ちょっと離……あ!?」
そして極めつけに、とんでもないものがその目に飛び込んでくる。
「ぐふぁッ!」
「??」
「す、すみません! すみません! すみませんー!! うわあぁあーー!」
「か、花京院くーん?!」
すぐさま、立ち上がり駆け出す男。
(すみません! すみません! ……あとは寝るだけ……それはそうだろう! しかし!)
(……そんな胸元がゆるい服で迂闊に屈んだりする、あなたも悪いんだーッ!!)
* * *
「い、行っちゃった……どうしたんだろ……?」
彼の去った方向をみつめながら、残された彼女は呆然と立ち尽くしていた。
「……ちっ、あいつ、マジでぶっぱなしやがって……」
そこへ、見知った顔が現れる。
「あ! 承太郎君!いいところに! ど、どうしよう!? 花京院くんが!」
「あぁ? あの馬鹿がどうしたよ?」
(? 馬鹿……?)
不機嫌極まりない様子でそんな風に吐き捨てる承太郎に首をかしげつつ、彼女は答える。
「いや、なんか、調子悪そうで……。
顔色も青くなったり赤くなったりだし、
聞いてもだいじょうぶって言うけど、全然だいじょうぶそうじゃなくて……。
で、なぜか謝りながら絶叫して、走り去って行っちゃった……。
何かあったの?? ど、どうしたら……?!」
「……」
承太郎は彼女の様子を一瞥し、ただひとこと、こう呟く。
「……ほっといてやれ」
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
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読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!