僕達一行はカラチから無事、船でペルシャ湾をわたり、アラブ首長国連邦のアブダビへとたどり着いた。
「しかしたまげたなぁ、この国は! どの家もこの家も全部豪邸だらけじゃあねーか! 」
車のハンドルを操るポルナレフがいう。
「本当。花が咲き乱れていて、きれいな家ばかりですね」
窓の外を眺めながら、彼女が同調する。
「うむ、東京なら30億40億はしそうな家ばかりだ。これがこの国の普通の人々のくらしぶりらしい。ほんの20年前までは砂漠だったのが、オイルショックによる莫大な利益のせいで夢のような都市に成長したのだ」
ジョースターさんが年長者らしく博識なところをみせる。さすがはニューヨークの不動産王、というところか。
「ハッ! 」
そのとき、僕はなにものかの視線…気配を感じ、後ろを振り返る。
それをミラー越し、目の端にとらえたポルナレフはいう。
「どうした、花京院? また誰かに尾けられている気がするのか? 」
現在走っているのは一本道の直線道路で、この車以外の車両は見当たらない。
「い、いや、こんなに見はらしのいい場所だ……追手がついていればわかるのだが、つい……誰かに見られているような気分がしてふり返ってしまう」
「ああ。無理もないぜ。オレだってそーさ。いろんなスタンド使いが次々といきなり襲ってくるもんでビクビクになっちまってる……」
全員の頭にこれまでの怒涛の襲撃が浮かび、うんざりした表情になる。
「うむ、それでじゃ。考えた。これからのルートだが……」
地図を広げながらジョースターさんがいう。
「ここから北西へ100kmのところにヤプリーンという村がある。
砂漠と岩山があるので道路がぐるっとまわり込んでいる。車だと2日はかかってしまうらしい。だから村の住民はセスナ機で移動している、ということだ。
まずこの村へ行きセスナを買ってサウジアラビアの砂漠を横断しようと思う。
今まではスタンド使いによる攻撃のせいで墜落したり、他の人々を犠牲にしたくなかったので飛行機には乗らなかったが……セスナならわしも操縦できるし、旅行日程の短縮にもなる」
「……生涯に3度も飛行機で落ちた男といっしょにセスナなんか、あまり乗りたかねーな」
承太郎がぼそりと、しかし辛辣な意見を放つ。
「……きっ! 」
そんな孫をじろりとにらんだのち、あえて意に介さぬように、ジョースターさんは続けた。
「さっ! それでじゃ。その前にこの砂漠をラクダで横断してヤプリーンの村へ入ろうと思う。
ラクダだと一日でつく」
「ラクダ?! ラクダに乗れるんですか!? 」
「や、保乃宮さん……」
彼女の目が密かに輝くのを僕は見逃さなかった。
前々から思っていたが、やはりこのひと、少し普通の女性とは違うようだ。
スタンド使いだ、とか、例の、過去のことがあるから……とか、そういうことが一因ではあるのかもしれないが……それ以前に。根本的に。どこかずれているというか、浮世離れしているというか、なんというか。
(まぁ、そうでなければこんな旅についてきてはくれないか。それに……)
僕の視線に気づき、小首をかしげた彼女に訊ねられる。
「……ん? どうしたの? 」
「……いいえ」
(……そこがまた、こまったことに、おもしろい、……なんてね)
「おい、セスナはいいがちょっと待ってくれ! ラクダなんか乗ったことねーぞ! 」
抗議の声をあげるポルナレフに対し、ジョースターさんは不敵に笑う。
「フッフッフ、まかせろ。わしはよく知ってる。教えてやるよ。
リラックスした気分で安心しておれ」
「バフー! 」
「うお! 」
「……でけえな」
ラクダだ。動物園などで本物を見たことがないわけではないが、こんな至近距離で見るのは生まれて初めてだ。ましてや乗ることなんて。
「か、かわいい!つぶらな瞳!まつげ長ーい!うらやましいっ! 」
「……」
その迫力に引きぎみな男どもをよそに、うちの紅一点は楽しそうにラクダと戯れている。
(そういえばこのひと、はじめて出逢った時にも猫を助けたり話しかけたりしていたんだっけ……)
どうやら彼女の動物好きは筋金入りらしいと思い至る。
「ど、どうやって乗るんだ? 高さが3mもあるぞ」
「あのじゃな、ラクダっていうのはな。まずすわらせてから乗るのじゃ! 」
ジョースターさんが手綱を下に引く。が、ラクダはぴくりとも動かない。
「まずすわらせてから……のるんだよ。……すわらせてから……乗るッ!
ちょ、ちょっとまっておれ!今すぐすわるからな!」
悪戦苦闘するジョースターさん。しかし、ラクダがいうことをきく気配はまったくなかった。
「「……」」
「おい、じいさん、本当に乗ったことあるんだろーな……? 」
ポルナレフが僕らの頭に浮かんだ疑問を代弁してくれた。
「……わしゃ、あのクソ長い映画、『アラビアのロレンス』を3回も観たんじゃぞッ!
乗り方はよーくしっとるわい。2回は半分寝ちまったが」
「映画ー?? なにー?! ほんとは乗ったことはねーのかッ! 」
「……ひゃー! たっかーい!! 」
「あ……」
そんなジョースターさんを尻目に、いつのまにか彼女は見事にラクダに乗っていた。
「あっ!? お、おぬし!? どうやって!? 」
「え? 目を見て、敵じゃないことを確認してもらって……
で、お願いしたら座ってくれた……ので、乗らせていただきましたー!
わー! 気持ちいいー! 」
「……ナウシカか、おまえは……」
「……ジブリ、好きなのか、承太郎? 」
意外なような、……それっぽいような。つっこみどころがもはや行方不明なことはおいておく。
「そ、そうじゃ! 動物なんてもんは気持ちを理解してやることが大切なんじゃ」
すると、ジョースターさんはどこに準備していたのか一個のリンゴを取り出した。
グーしか出せないあの有名な、青い狸型ロボの如く。効果音まで聴こえた気がしたのは幻聴か。
「ほぉーれ、うまそーじゃろ! おいしいよーっ! 」
そして素晴らしき効果を発揮するリンゴ。
「見ろッ! すわったぞッ! ラクダの気持ちを理解してやればすわってくれるのじゃ。けけけ! 」
そんなこんなでようやく乗ることのできたジョースターさんは、さらに語る。
「やったー!
……いいか? ラクダというのは馬とちがって『だく足歩行』といって、片側の前足と後ろ足が同時に前に出て歩くので、けっこうゆれる……
だがな、そのリズムにさからわずに乗るんじゃ、こういうふうに! 」
手本を見せてくれようとする(ちなみに、ちょっと離れたところでは、楽しそうに『ナウシカ』はラクダを操っている)が……
「まて、こら! ……は、速いッ! おぉっ!いってッ!! 」
振り落とされるジョースターさん。
確かに痛そうだ。ああはなるまい。
「よーし、みんな予定どおり、うまくのれたようじゃのー。
それでは砂漠をつっきるぞ! みんな! 北西に向かって出発進行じゃー!! 」
しかし、威勢のいい号令と裏腹に、全員のラクダはてんでバラバラに動き出す……
「おいおいおいおいおいー! 」
なんとかラクダを制御しつつ、砂漠を進む。
じりじりと肌が焼ける感覚。激しい熱気が僕たちを包む。
「……? 」
そんな中、再び僕は振り返る。……あたかも太陽光線の如く、さすような視線を感じて。
「おかしい。やはり、どうも誰かに見られている気がしてならない……」
振り返る。
しかし、誰も、何もない…見渡す限り、砂漠しかない。
「花京院、少し神経質すぎやしないか?
ヤシの葉で足跡は消しているし、数十キロ先まで見わたせるんだぜ。誰かいりゃあわかる……」
と、ポルナレフ。そこへ彼女がおずおずと手をあげる。
「あの、実は私も、なにかに見られている気がして……」
「おれもだ。さっきからその気配を感じてしょうがない」
さらに承太郎も。ふたりもそう感じていたらしい。
「承太郎、調べてみてくれ」
ジョースターさんが承太郎に双眼鏡を渡し、驚異的な視力をもつスタープラチナの眼で確認する。
「どこかに不審なものでも……? 」
「いや、見えない。何もない……しかしなにか妙だ……なにか……が……」
「おい、行こうぜ。陽が暮れたらテントをはろう。……それにしても暑いぜ。見ろよ、気温が50℃もあるぜ」
温度計を指しながら、ポルナレフがうんざりとした調子で言う。
「砂漠の最高気温はそれくらいにまではなるからな、今の時刻が一番暑い……って、えッ!? 」
時計を確認したジョースターさんが声をあげる。
「承太郎! おまえの時計、いま何時だ? 」
「……20時10……!? 」
「う、うっかりしていたが……ど、どういうことだ! 午後8時を過ぎているというのに! 」
「!? 」
「なぜ太陽が、沈まないッ! 」
「ばっ、ばかなッ! 温度計がいきなり60℃にあがったぞ! 」
うねりをあげ燃え盛る太陽。
「し、沈まないどころか! 太陽がッ! 西からグングンのぼってきているぞッ! 」
そして、たどり着く。ひとつの結論に。
「ま、まさか、あの太陽がッ! ……スタンド!! 」
* * *
『太陽』はますますその勢いを増し、私たちを照らす。
「このまま1日中……いや、一晩中だったな……
オレたちを蒸し照らしてゆでダコ殺しにする作戦か……あのスタンドはッ! 」
「いや……そんなに時間はいらない。
サウナ風呂でも30分以上入るのは危険とされている……」
「どうやって闘うッ! くそったれの気温が70℃に上がったぞッ!
それにあの太陽のスタンド、遠いのか近いのかもわからねーぜ……
距離感がまったくねーッ! 」
「てっとり早いのは…本体をブチのめすことだな」
「うむ……。本体が……どこか近くにいるはずだ。探すのだ……
敵は何らかの方法で我々に気づかれないように潜んで、尾行してきていたのだ……」
「ちょっと待て!!パキスタンで出会った『
「それは考えられん! 力の弱いスタンドなら遠隔操作できる……
しかしこの『太陽』のエネルギーは今……体験しているとおり!
本体は絶対近くにいるはずッ! 」
そんななか、ラクダが……倒れた。
「あっ!! 」
「やばいぜ、暑さでラクダが倒れ始めた……」
「じっとしていてもしょうがないッ! 僕のハイエロファントでさぐりをいれてみるッ! 」
「花京院ッ! 」
「敵スタンドの位置をみるだけです。
どの程度の距離にいるのかわかれば……本体がどこにいるかわかるかもしれないッ! 」
「まって! いっしょにつれていって! セシリア!! 」
相棒を呼び出す。
「ありがとうございます。ではいきますよ!! 」
「20m……40m……60m……80m……」
ハイエロファントとセシリアはぐんぐん上空の『太陽』に近づいていく!
「100…!!」
すると、急に『太陽』の様子が、…パワーをためているかのように、さらにうねりをあげはじめた。
「!? なにかやばい! ふたりとも、スタンドを戻せ! 」
「なにか、しかけてくるぞッ! 」
「そのまえに、エメラルド……」
「ッ! セシリア、ガード!! 」
次の瞬間、『太陽』から放射状に、私たちにむけて強烈なレーザー光線が発射された!
「うぐっ! 」
「きゃあ! 」
そのエネルギーを防ぎきれずにはじきとばされるハイエロファントとセシリア。
さらに光線はラクダたちをも貫いた。
「ラクダがッ! 」
「うおおおおお! 野郎ッ!! 」
ポルナレフさんがチャリオッツで必死に光線をはじき返す。
「おらあ! 」
その隙に承太郎のスタープラチナがその剛腕で地面に穴をあける。
私たちはその中へ、辛くも逃げ込んだのだった。
* * *
「だいじょうぶか?花京院」
わしは敵の攻撃をくらった花京院に声をかける。
「どれ、みせてみろ。治療してやろう。」
『波紋』で、傷を治す。
「ありがとうございます、ジョースターさん。」
「ごめんね、防ぎきれなくて……」
その様子をみて、心配そうに、かつ申し訳なさげに保乃がいう。
「いえ。……すみません、僕がうかつでした。
すさまじいエネルギーだ。もろにくらっていたらどうなっていたか……」
「しかし今の攻撃、おそるべき命中度! やはり敵はどこからかこっちを見ているぜ!
どこだ! どこなんだ、敵はッ!? 」
ポルナレフが焦りの声をあげる。
さらに気温は上がり続ける。もう頭が茹だってどうにかなりそうだ。
なんとか敵の位置を探ろうと、わしは双眼鏡をそっと穴の外へのぞかせる。
その刹那、光線で打ち抜かれ、双眼鏡は無残にもバラバラになってしまう。
「シット!! どこにいやがるッ! どーやってこっちを見てやがるんだッ!
透明人間かッ! 敵本体はッ! 」
わしが叫んだ。
……そのときだった……。
「ウッ! クックックックックックッ……。
フッフッフッ……ホハハハ、フフフフ、ヘハハハハ、フホホアハハハ」
すると、突然。本当に突然……花京院が奇妙な笑い声をあげはじめた……
「おい、花京院……どうした? 」
「ハハハハ、フフフ……
フハハッ、クックックッ、ヒヒヒヒヒ、ケケケケケ、ノォホホノォホ……」
「な、なにを笑っているんだ!? 気をしっかりもて! だ、だいじょうぶか! 花京院!? 」
「……ウヒヒヒ、ウハハハハハハ」
「じょ、承太郎!? 」
「ふ、フフフフフ! ふっ、はは……! 」
「お、おい、保乃も!?」
「フハハハハ! 」
「ハハハハハ! 」
「フフフフフ! 」
「プッ! ウヒヒヒヒヒヒヒ!! ハハハハハハーッ!! 」
「ぽ、ポルナレフッ! おまえまでッ !」
「「「「「フハハハヒヒヒ」」」」
「ゾォー!! オーマイゴッド!!
つ、ついにみんな暑さのせいでおつむがやられちまった……!
わ、わしだけか! 冷静なのはッ! 」
「「「「「ぎゃはははは」」」」」
「おい、気をしっかりもてッ!
こんな苦しい時こそ冷静に対処すれば必ず勝機はつかめるはずじゃッ! 」
孤立無援とはまさにこのこと……ここはわしがなんとかせねば……。
しかし、そんなわしに、気が触れてしまったかに思われた花京院が笑いながら言う。
「ウク、ハハハハハ……勘違いしないでください、ジョースターさん。
あそこの岩を見てください。人が隠れられるほど大きくありませんか? 」
花京院が指さす方には、確かに…岩が見える。
「? なんのことだ? 」
「こんどは反対側にある、あそこの岩を見てください」
「? 」
「まだ、気がつきませんか? 反対側にあの岩とまったく同じ、対称の形をした岩がある。
影も逆についている。ということは……? 」
ポルナレフが笑う。
「ウヒヒヒヒ、ハハハハ、アホらしい! 」
そして、スタープラチナが岩を掴み、投げつける!
「オラァ!! 」
「ドギャース!! 」
岩は、なにかが割れるような音と何者かの悲鳴とともに、何もないところに穴をあけた。
「な! く、空間に穴が!! 」
「やれやれ、情けねーじじいだ。てめー、暑さのせいで注意力がにぶったことにしてやるぜ。
とても血のつながりがあるおれの祖父とは思えねーな」
割れた『空間』に皆で駆け寄る。
「こいつは、鏡だ! 」
「あーあ、砂漠の景色をうつしながら鏡の後にかくれて尾行していたとは、気づかなかったぜ」
「見てください! 鏡の死角のこのメカを! 快適ですよ。エアコンまでついてる」
「え!? ……ということは、こいつ、もうやっつけちまったってことかぁ?もう、終わり?
こいつの名前も知らないのに! 『太陽』のスタンドはきれいにかたづいたのかー? 」
「『
「ふっふふふ! つ、ツボにはまって……笑いがまだ……ふふふ……」
「はいはい、それくらいにして。次の目的地に行きましょう。砂漠の夜は冷えますね」
「ハックシュン! 」
ポルナレフのくしゃみと皆の笑い声が、静かな砂漠の夜にいつまでもこだましていた。
「なぁ……花京院。正気だったってことは、……おまえさん、その……笑い方……」
「ん? なんですか? 僕のエレガントな笑い方がなにか? 」
「……。なんでもないわい……」
ノォホホノォホ……!
あれ? 声にだすと意外とふつーに笑い声ですね。
お試しあれ。
……すみません。嘘つきました。
つぶやいてみて(ほんとにしたんかい)おもいましたが、ニョホホ……に似てなくもない……?
ニョホホといえば、同じ漫画の別の世界の鉄球を操るレーサーさん……!
それと同じ雑誌の別の漫画の、桃好きの怠け者道士さんですね! 再アニメ化、やったね! 超楽しみッス!! カバじゃないッス!!
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
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読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!