私の生まれた理由   作:hi-nya

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はい! ということで、『審判』戦後半です!

今回、ほぼ、珍しいポルナレフ視点でお送りさせていただきます。


ねがい(後)

 ねがい。

 オレの、真に心から望んでいること。

 

 ……そんなもの、決まっている。

 

「おれの、殺された妹を生き返らせてみろッ!

 友人のアヴドゥルを生き返らせてみやがれッ! 」

 

 オレの叫びが周囲の空気を震わせる。

 

「……いいだろう、ポルナレフ。君の願い、叶えよう。

 ひとつずつ、順番に……

 まずは、妹からだ」

 

 無機質な声で魔人が告げる。

 

 

Hail 2 U(君に幸あれ)!! 」

 

 

 いうやいなや、ドローン、と煙の中に消える。

 

 すると、すぐに……どこからともなく、きこえてきた。

 

「な、なんだ……? 」

 

 ザクッザクッ……とまるで土を掘り返しているかのような音。

 そして、それだけではないことに気づく。

 

「……ハッ! 」

 

「しくしく……しくしく…」

 

「お、女の、泣き声……」

 

 意志とは無関係に、全身の肌が粟立ち、汗が噴き出す。

 

「だれだッ!そこにいるのはッ!?」

 

 オレは感じていた。得体のしれないものへの、『恐怖』を。しかしそれに比例するがごとく、たしかにこの胸は抱いてしまっていた。……膨れ上がる期待を。

 カラカラの口腔内、呑み込める唾もなく、しかたなく空気をゴクリと空嚥下しながら、鬱蒼と生い茂る草を一気にかき分ける。

 

「こ、これはッ!」

 

 すると、己の目にとびこんできたのは地面にぽっかりと開けられた、穴。

 その大きさは、ちょうど人一人が横たわったほどのもので、それは否が応にもオレの頭に連想させた。……『墓穴』というものを。

 さらに、傍にはばらばらと髪の毛が落ちていた。ウエーブのかかった長い長い、女の髪の毛が……。

 

「ば、ばかなッ! 」

 

「しくしく……しくしくしく……」

 

 恐る恐る、すすり泣きの方向に視線を向けると、暗がりにひとりうずくまり泣きじゃくる女の姿に気づく。

 

「うそだ! うそだ!!

 オレの妹は……フランスの、オレの故郷の墓の下にいるはずだ!

 だれだ!? だれなんだ? おまえは! 」

 

 オレのその泣き叫ぶような問いに、答えは返ってこなかった。

 

「しくしく……来な……いで。苦しいの……まだ、完全にからだが……できてなくて……しくしく……」

 

 代わりに、なおも女の嗚咽が漏れてくる。

 同時に、とぎれとぎれに、微かに聞こえてくるそれを確かにこの耳でとらえていた。

 

「その声は……」

 

 間違えるはずなどない。最愛の人間のその声を。

 

「……シェリー!! 」

 

 

「……」

 

 しかし、驚愕と歓喜の入り混じったオレの呼びかけに応じることなく、その姿は無言でガサガサと草の中へと消えていく。

 

「どッ、どこへ行くんだ!? シェリー、オレだよ!

 待ってくれッ! なぜ逃げるんだ、シェリー! 」

 

 自らも草の海を泳ぐように……溺れるように追いかけていく。

 

「泥まみれなんですもの……髪の毛だってバサバサだし……しくしく……」

「なに泣いているんだ? なにが悲しいんだい? 」

「しくしく……」

 

 涙声にそう問いかけた瞬間、月明かりが差し込み、オレたちを照らす。

 そこには美しい、オレが求めてやまなかった、いとしい横顔がみえた。

 

「おお! おお! シェリー! おまえだッ! まさしくおまえだ! 」

 

 しかし、感激に乗じて歩みを進めようとしたオレを『妹』は鋭く制す。

 

「だめ! こないで! 」

「な、なぜだ……?」

「だって、あたしの事きらいになるわ」

「きらい!? 一度だっておまえのこと嫌いだって言ったことあるか? 」

「あるわ……こどものとき、お兄ちゃんの飼ってた熱帯魚をネコにあげたとき、すごくおこって嫌いだっていったわ」

「!」

 

 なつかしい記憶が甦り、おもわず歓びでうちふるえてしまう。

 そんなことを知っている……それこそが、まぎれもない『証拠』であるのだから。

 やさしく、囁く。

 

「ああ、あの時は怒ったけど……

 いつでもおまえのことは愛していたさ。今でもさ」

「ほんと? いつでもあたしのこと愛してくれていた? 」

「あたり前さ」

「どんなことしても、愛してくれる? 」

「どんな時でも愛してる。

 ……でもなぜ泣いているんだ? なにが悲しいんだ? 」

「悲しい?

 ……いいえ、お兄ちゃん、あたし悲しくってないてるんじゃあないわ」

 

「……え……? 」

 

 やけに明るいその声音に、悪寒とともに胸中に粘っこい不安が広がる。

 

「……あたし、お兄ちゃんを……」

 

 しかし、もはや、時すでに遅し、であった。衝撃の一言がオレの鼓膜に突き刺さる。

 

「……食べられるから、うれしいのよッ! 」

 

 爛々と不気味に濁った光を放つ双眸がオレをを捕らえるやいなや、『それ』は、とびかかって来た。

 

「うわああああああ!! ああああああ!!! 」

 

 何が起きたのかわからなかった。

 

 ただ、激しく脈打つ心臓の鼓動とそっくり呼応して己の脳に伝わる、ドクンドクンと燃えるような灼熱感、そして、勢いよく吹き出し視界の端を真っ赤に染めていくそれによってどうにか理解した。

 

 オレは『ここにいる妹』に、肩の肉を千切りとられたのだ、と。

 

 心臓までえぐりとられた思いだった。あまりのショックに痛みすらよくわからない。

 脳内を駆け巡る混乱の嵐のなか、本能的に相棒を呼び出す。

 

「うぐっ! チャ、チャリ……オーッツ…!」

 

 すると、またも妹(?)は四つん這いの動物的な動きで、すぐさま草叢にダイブし逃げ込む。

 

「シェ、……リィ……!! はぁ、はぁ……」

 

「かみついてごめんね、お兄ちゃん」

 

 聞こえてくる。周囲を駆け回る、ガサガサと草を揺らす音と声。それは、オレの脳を、心を、さらにぐるぐると掻き乱してゆく。

 

「まだ体が完全にできてなくって…お兄ちゃんの肉を食べれば元に戻るわ。

 ……ねぇ……いいでしょ? 食べても。

 いつもシェリーの言う事、なんでもきいてくれたじゃない」

 

「か、カメオーッ! 」

 

 その名を呼ぶと、すぐにドローンと魔人は姿を現す。

 

「なんだ? 」

「き、きさまーッ!! 」

「なんだ? おれはおまえの願いをききいれた……

 『願いをきく』それだけがおれの能力……あとはおまえ次第さ」

「うう……な、ならば3つめの願いをいうぜ……」

 

 必死にそれを口に出す。

 

「い、妹を消してくれ! 土にもどしてくれ!! 」

 

「いやだよおォォォォォーんンンン!! 」

 

「……は……?」

 

 あっけにとられるオレに対し、魔人は至極楽しそうに、非情な現実を告げる。

 

「まだわからんのかッ! ポルナレフーッ!

 おれは『審判(ジャッジメント)』のカードの暗示をもつ『スタンド』さ! 」

 

「な、なにィッ! 」

「能力は……その人間の心からの願いを『土』に投影して願いを作ってやること!

 おまえは『自分の心』で妹を作ったのだッ!

 姿も、言動も、記憶ですら……『本物』そのままで驚いただろう?

 ……くくく、当然だ。おまえの頭が望み、描く『相手』そのものなんだからなぁッ! 」

 

「……な、んだと……? 」

 

「すごいショックだろうなぁー! そんなにも大事な存在に食われて死んでくんだからなぁ」

 

 もはや放心状態のオレに対し、なおもヤツは心を嬲るような言葉を流し込んでくる。

 

「……人間は心の底から願うことに最大の弱点全てがあらわれる!

 『死んだ人間が生き返るのが不自然なこと』とはこれっぽっちも考えない。

 愛する者がいつまでもこの世のどこかに生きていると思いこんでいる……

 明日にでもひょっこり目の前にあらわれて……

 『おはよう』とあいさつしてくれるのを待ち望んでいるのさ!

 そんなはずはない、などと口では言いながら、信じているのだ。

 ……そんなはずなど、本当に、有るはずが無いのにな」

 

「……そ、んな……」

 

「クク、この勝負、このおれの勝ちだ! ……やれ! 」

「うふふ、いただきます。」

「くっ! 」

 

「……ありがとう、……おにいちゃん! 」

 

 ぎらりと鋭い牙がオレの喉元に突き刺さる……かに思われた瞬間だった。

 

「ぐっ! 」

「はっ!」

「なにぃ!?」

 

 それはオレの身体を包む、見慣れた薄桃色の障壁に阻まれる。

 

 

「……いいじゃあないですか。それのどこが悪いんですか? 」

 

 加えて、ゆっくりとオレの耳に届く。

 

「……『どこか』で、わらっていてほしい……

 ……『いつか』、また、あいたい……」

 

 聞き慣れた、まっすぐな声が。

 

「そう、ねがってしまうことの、なにが!? 」

 

 普段とは少し異なり凛とした……そして、普段とはかなり異なる怒気をはらんだ、その声が。

 

「……そんなおもいを利用するなんて、許せない……! 」

 

 振り返ると、草原の中、声とスタンドの主である彼女が立っていた。

 

 

 

「や、保乃、おまえ……! 」

 

 

「うう……うっ! 」

 

 しかし、その姿を確認すると、一転、うずくまり、それは涙声になってしまう。

 

「……お、おい! おまえまで!? な、なに泣いてんだよ……? 」

 

 あわてて駆け寄り訊ねると、ぽそりという。

 

「かきょういんくん……」

 

「……は? 」

 

「……花京院くん、はねとばしちゃった!

 ごめん……ごめんなさい!! うわーん! 」

 

「……いや、わかるけどさ。泣かんでも……」

 

 慰め半分、呆れ半分の言葉を投げかけると、なおもこぼす。

 

「わかってた……わかってたもん。

 ……がっかりなんて……してないもん……」

 

「……ああ、そうか。うん。なんつーか……ドンマイ……。

 おれも、泣きてぇよ……」

 

 そんなオレたちの耳に、聞こえてきた。

 やっぱり聞き慣れた、あいつの声が……。

 

 

「……ひどいなぁ……仁美さん……」

 

 

「「はっ! 」」

 

「あんなふうに……はねとばすなんて……」

「ひゃゃぁああ! またでたぁ!? 」

 

「おかげで……身体が少し、壊れてしまったじゃあないですか。

 ……どうしてくれるんですか? 」

 

 いつも通りの碧色の学生服から伸びる腕が脚が……憎たらしくも整った顔が……へんてこりんなあの前髪が……精巧にあいつを形作るそれらが、たしかに所々ボロボロと崩れていた。

 

「あ……! ……か、花京院く……ッ! ご、ごめ……」

 

 悲哀がこもったその言葉とその姿に、彼女の表情があたかも己の身体が傷つけられたかように、歪む。

 

「食べればなおるんだよ! そうだよね? お兄ちゃん!! 」

「し、シェリー!? 」

 

 そこに無邪気な妹の声が割って入る。

 

「……そうなのですか? ……それはよいことをききました」

 

 それをうけたあいつは、熱っぽい視線とともに、彼女に投げかける。

 ……本物そのままの、その声で。

 

「……食べてもいいですか? いいですよね?

 ああ、もう、がまんできない……!

 ……食べたい! ……いますぐに、……あなたを!! 」

 

「……」

 

「お、おい! こら! おまえ、ちょっとときめいちゃってんじゃねーよ! 」

「はっ! と、と、ときめいてなんて……ッ! 」

 

「……じゃあ、いただきます(はぁと)」

 

「……きゃあぁあああー!? 」

 

 そして、にっこりとそういうやいなや、彼女に飛び掛かる花京院(土)。

 この彼女の悲鳴がどういう種類のものなのか、もはや正直よくわからないが。

 

「や、保乃! や、やめ……はっ! 」

 

 ……しかし、ひとの心配をしている場合ではなかった。

 

「しんぱいしないで。

 おにいちゃんは、わたしが、ぜーんぶたべてあげるから……ねっ! 」

 

「うわぁあああ!! 」

 

「い、いけない……ポルナレフさん! ……セシリ……ぐっ!? 」

 

 再び牙を向けられたオレを助けるべく、己のスタンドを差し向けようとするも彼女は地面に抑え込まれてしまう。

 華奢なその身体に覆いかぶさりながら、あいつの姿をしたものは囁く。

 

「……だめだよ。……他の男なんて、みないで……。くく、くくく……! 」

「っ! ううっ……! 」

 

 

 

「……ちゃ、チャリオーッツ! 」

 

 このままではふたりして食われてしまう。

 やぶれかぶれに突きを繰り出し、どうにか妹の姿をしたそれを振り払う。オレ……庇う相手がいない方が逆に彼女は安全なはずだ、と考え至り、体制の立て直しも兼ね、勢いそのまま駆けだす。

 

「あれ? ……お兄ちゃん、おにごっこしたいの? ふふ、ひさしぶりだね……」

 

 ゆったりとしたその台詞と対称的に、物凄いスピードで迫ってくる足音。

 うしろを振り向くことなど、とてもじゃあないができなかった。どれくらい走ったかもわからないくらい脇目も振らず走る、そして、叫ぶ。

 

「……た、たのむ、もう! ……き、消え……! 」

 

 そこに届く、調子は軽いのに、冷徹な声。

 

「……だめだよ-ん。

 貴様はすでに『第3の願い』をいっている……」

 

「はっ! 」

 

 残酷な事実に気づき心臓をひゅうっと、冷たい手で鷲掴みにされたような感覚に陥る。

 

「『アヴドゥルを生き返らせてくれ』と!! 」

 

「あ、あああ……!! 」

 

「Hail 2 U!! 」

 

「うっ、うわあああああ!! やめろぉーー!! 」

 

 オレの懇願をあざ笑うかのように、やつの言葉と共に、ザァっとなまぬるい風が草の海をかき分ける。

 

「……」

 

 すると、そこには恐れていたものが立っていた。

 

 インドで別れた……友の……すがたをしたもの、が……。

 

 

「あ、アヴドゥルッ!」

 

「……」 

 

『それ』は凄まじい勢いで突進してきて、鋭い爪でオレの肉をえぐる。

 

「ぐわぁああッ!!」

 

「……ポルナレフ……」

「つーかまえた♪

 あれ……お兄ちゃんのおともだち?

 しょうがないなぁ、……じゃあ、はんぶんこ、ね」

 

「よ、寄るなッ! おまえたち……もういい! 土にかえってくれ! 」

 

 あとずさるオレを、友と妹が取り囲む。

 

「来るなぁ! お願いだ! こないでくれぇ!! ……チクショーッ! 」

 

 せめて抗おうと、チャリオッツを出す。

 

「ハッ!? ……しまっ!! 」

 

「……お願いだと?もう、願いはない! 3つともすでにかなえてやった。

 ククク、4つ目の願いはありえないよーん! 」

 

 が、抵抗虚しく、残酷なセリフを吐くカメオに相棒は抑えつけられてしまう。

 

「ぐっ! や、やめろ! やめてくれ!! 」

「くはははは! 死ぬ前におもいきり泣き叫ぶがいい……ここは島の奥地。

 海辺まで声はきこえん。誰も助けに来てはくれん。クキキキキ……」

 

 ザッザッと迫りくる、脅威の足音に取り囲まれる。

 

(もうだめだ……オレはもうおしまいだ。

 ……死ぬんだ……やられちまうんだ)

 

 出血のためか、朦朧としてきた意識の中、嘆く。

 

(……え? )

 

 そんなオレの目に、ありえないものが映る。

 

 アヴドゥルの腕を、後ろから掴み抑える、アヴドゥルの姿が。

 

(なんだ……? 目がかすんで、焦点がぼやけてきたか……

 アヴドゥルが二人に見えちまってるぜ……

 幻覚をみるとは……本格的に死が迫ってきたってことか……)

 

「ん……!? 」

 

 だが、次に映し出されたさらなる衝撃的な映像により、オレの頭にかかっていた霧は一気に晴れる。

 

「……ふっ! 」

 

 うしろのアヴドゥルがにやりと笑う。

 

「ギニャァアア!! 」

「な、なにぃ!? ば、ばかな! 」

 

 瞬間、カメオの驚きの声と同時に、砕け散る土人形の腕。

 

「やっぱりもうひとり、アヴドゥルがいるッ!

 目の錯覚じゃねーっ! 土人形じゃねぇ……アヴドゥルがいる!! 」 

 

 懐かしい声とともに吹き荒れる熱風が生温い空気を吹き飛ばす!

 

「『魔術師の(マジシャンズ)……! 」

 

(レッド)』!! 」

 

 そして、燃え盛る紅蓮の炎が、土人形の方の『友人』を跡形もなく灰と帰した。

 

「バカなッ! 死んだはずの! 『吊られた男』J・ガイルに背中を刺され……」

「死んだはずの……おまえはッ……! 」

 

「チッ♪ チッ♪ 」

 

 人差し指をゆらす……その人物の名を、オレは歓喜と共に叫ぶ。

 

「モハメド・アヴドゥル!! 」

 

「YES I AM !!」

 

 

 

 

 

「アヴドゥル! おまえなのかッ? ほ……本物のおまえなのかッ!? 」

 

 奇跡のような展開を俄かには信じがたく、おもわず何度も問いかける。

 

「ポルナレフ……成長しとらんな……

 いまだに相変わらず、後先考えず『妹』『妹』といってるんだからな」

 

 すると返ってくる、それこそ相変わらずのにくったらしいお節介焼きの言葉。

 不覚にも胸のまんなかあたりがジーンと熱くなるのを感じていると、オレと共通の疑問をカメオが投げかける。

 

「バカなーッ! 生きているはずがないッ!

 情報では背中を刺されたあと、脳天をホルホースに撃ち抜かれ即死したはずッ! 」

「ああ、たしかに撃たれたさ……この眉間をな……

 だが……ホルホースの弾丸は、わたしの皮膚と頭蓋骨をちょっぴり削りとってかすめていっただけで脳まで達する致命傷ではなかったのだ……。逸れたのだ。ほんのわずか」

 

 ゆっくりと眉間の布を取りながらその問いに答えるアヴドゥル。

 

「……この娘の……セシリアの能力でな!! 」

 

 そして、極めつけに、バーン!と後方を指し示す

 

 そこには、またしても彼女が立っていた……

 

「……おもいきり、とばしたら……

 ……ばらばらに……

 ばらばらに……なっちゃった……

 かきょういんくん……ばらばらに……っ……」

 

 うつむいて、なにやらぶつぶつと呪詛のように言葉を紡いでいる、彼女が。

 

「……」

「ご、ゴホン!

 じゃ、『審判』のカードのカメオとかいったな。

 とりあえずこいつをやっつけるのが先決だ! 」

 

 見なかったふりをして、必死に気を取り直す友人。カメオに向け、高らかに宣言する。

 

「地獄を! きさまに! HELL 2U! 」

 

 

 

 対峙する、カメオとアヴドゥル。睨み合いに、火花が散る。

 

「……モハメド・アヴドゥルが生きている。

 このバッドニュース、早いとこDIOの奴や仲間のスタンド使いどもに知らせなければいけないんじゃあないか? え? カメオよ」

 

「ああ……3つめの……第3の願いだけは本物だ……かなった……!! 」

 

(知らせなくては! 本当に、知らせなくては!

 ジョースターさんに! 承太郎に! 花京院(本物)に! )

 

 それを見守りながらもオレは感動に打ち震えていた。

 

 一方カメオはアヴドゥルのその言葉を受け、変わらず飄々という。

 

「たしかに、驚くべきニュースだ。

 だが、ニュースの文面はこう変更されて伝えられる……

 『審判』カメオは、ポルナレフと『守護者(ガーディアン)』の娘と……

 ついでに生きていたアヴドゥルをぶち殺しました。

 そんなグッドなニュースにな!! 」

 

「『魔術師の赤』! 」

 

 それを開戦の合図とばかりに、先手必勝。アヴドゥルが火炎を放たんとする!

 

「ふん……貴様らに、幸あれ!」

 

「ああッ! 」

 

 しかし、卑劣にも、やつは妹の土人形を放り投げ、こちらにぶつけてくる!

 

「なにッ! 」

 

 逆流して炎と共にこちらに襲い掛かるマリオネット。

 しかし、それはおれたちの身を焦がすことはなかった。

 

「……させないッ! 」

 

 すかさず、彼女がセシリアでシールドを張る。

 どうやらようやく精神攻撃から立ち直ったらしい。

 

 しかし、投げられ、ぶつけられた衝撃でばらばらになってしまう……妹。

 

「や、野郎! 土人形で偽者とはいえ……オレの妹を! オレの妹を! ちくしょお! 」

「……心中お察しします、ポルナレフさん……うう……」

 

 前言撤回。心の傷は深いようだ。……オレのも。たしかにこれはトラウマものだ。

 

「く、こいつ、相当のパワーがあるスタンドだ……」

「気をつけろ、パワーだけじゃあねー。スピードもかなりあるぜ」

 

 呟くアヴドゥルに助言を送る。

 

「くくくくく……」

 

 すると、やつはまたもふざけたことを言い出す。

 

「アヴドゥル……3つの望みをいってみろ!

 かなえてやろう、今度こそ本当にお前が死ぬ前にな……」

 

「「!? 」」

 

「さあ! ためしに言ってみろ! 願いを3つな」

「て、てめー、ふざけやがって! 」

 

 頭に血がのぼる、オレ。しかし反対にしれっとこんなことをいう、友。

 

「……4つにしてくれ。」

 

「なに!? 」

 

「願いだよ、願い……

 3つの願いを4つにしてくれというのが願いだ……

 チッ、チッ! 」

 

 またもリズムよく、指を左右に振りながら。

 

「きさま、そういう冗談は……! 」

「いやだというのか! カメオッ! 」

「!? 」

 

「きさまが言い出したのだ! 約束は守ってもらうぞ!! 」

 

 一転、威厳と怒気をはらんだ言葉とともに、炎をまとった蹴りを放つ。

 

「……アヴドゥル! また無駄なパワーくらべをしようというのかッ!

 ……クヒヒヒヒ、やわな蹴りだぜ……」

 

 舐めきった様子でそれを受け止めようとする、『審判』。

 

「あぎ!? ……ひっ! 」

 

 が、次の瞬間、その腕は、バラバラになっていた

 

「やった、すげえ!! 」

「さすがですっ! 師匠っ!! 」

 

 彼女とともに歓びの声援を送る。

 

「チッ、チッ……

 第一の願いはきさまに『痛みの叫び』を出させること……かなったな」

 

「バ、バカな! 強い!! さっきより断然強いぞ!? 」

「『吊られた男』に刺された背中がまだ完全に治ってなくてな。

 さっきはそのキズをかばっていたせいでパワーを出し切っていなかったのだよ。

 インドでやっと立てるようになったのも、つい3日前……

 ここまでは飛行機に乗れたから旅は楽だったがな」

 

 驚き慌てる敵に解説するアヴドゥル。完全に彼のペースだ。なおもそのターンは続く。

 

「そして、第2の願いはッ! 」

 

 魔術師が、両手から出した炎でカメオの首を絞める!!

 

「ムギャアアアア!! 」

「……『恐怖の悲鳴』をあげさせること。

 さらに第3の願いは! 」

「ヒィイイイイーッ! 」

 

 追い打ちとばかりに豪快なジャンピングキックが決まる!

 

「『後悔の泣き声』だッ!! 」

 

「ヒィ……!」

 

 そして、ふっとんだヤツは、そのまま、ボフンと煙を出して……消えた。

 

「ああっ! 」

「や、野郎! 逃げたぞッ! 待ちやがれッ! チクショーッ!! 」

 

「しっ、二人とも、静かに……」

 

 慌てるオレと彼女に向け、人差し指を口に当てつつ、いう。

 

「あのパワーとスピード……

 本体は、かなり近くにいなくてはならないのが『スタンド』のルール。

 ……どこか、ものすごく近くにかくれているはずだ。……どこかな……」

 

 こっそりと、さがす。

 

 すると、すぐにみつかった。

 不自然極まりなく、地中からひょっこり出ている、竹筒が……。

 

「あっ! 」

「……忍び……? 」

 

 彼女が呟く。ジャパニーズニンジャ……噂には聞いたことのあるそれを、いつか日本に行って見てみたいものだ。

 

「……」

 

 アヴドゥルがそっとその筒の上に、葉っぱを乗せる。

 

「プーッ! 」

 

 すると瞬時に上空に舞い上がる、木の葉。確信とともに心の内で叫ぶ。

 

(ヤロー、この地面の下に本体が隠れてやがるのかッ!

 おのれ! どうしてくれようか!妹まで利用されたのだ!

 地獄をみせてくれるぜッ! HELL 2 U! )

 

「いろんな物、入れてやるぜ。泥、砂、クモ、蟻……! 」

 

 思いつくまま、とりあえずその辺にあるものをつっこんでみる。

 

「ごほ、ごほ……! 」

 

 地底からむせ返る音が聞こえてくる。

 

「まだまだぁ! 」

 

 こんなもので腹の虫がおさまるはずがない。

 そんなオレに、アヴドゥルがとんでもないことを言い出す。

 

「……おい、ポルナレフ。なんか、もよおしてきたのぉ。

 いっちょ! ひさしぶりに、男の友情! ツレションでもするかぁッ! 」

「は?! 」

「チッ、チッ」

 

 一瞬意味がわからず、首をかしげるオレに、下を指さす。

 

「こ、これに!? 」

 

 そして、彼女にいう。

 

「少々失礼するよ。すまんが、君は……」

「あ、はい。私は、むこう向いていますね。ごゆっくり」

 

 にっこりと送り出される。

 

「ほれ! 笑え、ポルナレフ! 」

「大声で笑いながらするのが作法だぞ! 笑え、笑え!! 」

「……アヴドゥル……おまえ性格かわったんじゃあねーか?

 前はこんな下品なこと思いつくやつじゃあなかったのに……

 うへへ……へへ……頭撃たれたのが原因じゃあねーだろーなぁ」

 

 つられて笑っていると、たしかに本当に、非常に楽しくなってきた。

 

「「ワッハッハハ! ワッハハハハ!! 」」

 

 オレ達の笑い声が草叢に響き渡る。

 

「アガガガガオゲゲーッ!!」

 

 そして、地上と対照的に、下からは、苦悶の声が聞こえる……

 しかし、飛び出ては来なかった。

 敵ながら、天晴……なかなかに根性のあるやつだ。

 ……まぁ、出て来たら待っているのは地獄だからだろうが。

 

 

「あの……私も、実は『いいもの』を持っているんですが……」

 

 ひと段落したタイミングを見計らって、彼女がいう。

 

「なんだ?」

 

 すると、彼女は天空高らかにそれを掲げる。

 

「醤油です」

 

「……おまえ……」

「なんでそんなもん持ってんだ……」

 

 おもわず友とそろってツッコミの声を上げる。

 

「え? ……肉じゃがとブリ照りを作るためにきまってるじゃあないですか」

「「…」」

 

 あっけらかんと返ってきたのは、そんなふうになんともズレた答えであったが。

 

 絶句しているオレ達をよそにさらに彼女はおどろおどろしく、語り始めた……。

 

「……じつはこれ、けっこう危ないんですよ……

 別に毒とか薬じゃあなくても、身近なもの……水とか砂糖とかなんでも……『致死量』…って、あるんですって……醤油の場合……個人差はあれども、それが実はたったのコップ一杯で……数時間後には嘔吐、下痢、口渇、頭痛、発熱などを発症。および尿細管壊死による腎障害、体内水分の貯留によって脳浮腫、肺水腫をきたし……呼吸停止に至る……。

 まぁ、要は……死んじゃう人は死んじゃうんですって……。有り得ないくらい壮絶に苦しんで。

 ここにあるのは1リットル入り……。実際どれだけいけるのか……ためしてみたいなぁ……」

 

 黒い液体がなみなみと入った容器。赤いキャップがなんだか尚更一層デンジャラス感を引き立てていた。それを片手に、にこにこと満面の笑みを浮かべる彼女。

 すべてがシュールで不気味極まりないその光景に、こちらまで身の毛がよだつかのようだった。

 

「さ、たーんと、召し上がれ……」

 

「ぎゃひぃーッ!! 」

 

 たまらず飛び出てくる、男。

 

「なーんて。ほんとにやるわけないじゃあないですか。冗談ですよ」

 

 しれっとそう言ったのち、またもぶつぶつと呟く。

 

「……土人形とはいえ……花京院くんにあんな……

 そりゃあ、もう二度とそんなこと考えつきもしないように、お仕置きですよ……

 あたりまえじゃあないですか……ふふ……ふふふふふ……」

 

「お、おまえも……あいつのためってなったら、けっこう性格変わっちゃうのね……」

「……恋のちから……やはり恐ろしい……」

 

 

「ヒイイイイイ!! ゆるしてくださああイイイイイーッ!! 」

 

 そうして、姿を現した必死に命乞いをする敵に対し、この男が言い放つ。

 

「『4つ目の願い』それは……おまえの願いはまったくきかないこと……

 『魔術師の赤』はゆるさん……だめだね」

 

 瞬間、そこには、黒焦げの男が出来上がっていた。

 

「チャンチャン! とくらあ!! 」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「アヴドゥル……」

「ふっ。……幽霊ではないぞ。ちゃんと足もある。ほら」

「ふっ、……わかってるよ。バーロー」

 

がっちりと、握手を交わす二人。

 

それを見守る私。安堵と感激で眼頭が熱くなる。

 

(……よかった)

 

「……おかえりなさい! 師匠……!! 」

 

 

「おっと、そうだ!

 じゃあ、オレ、ひとっ走り先に帰って、みんなに知らせてくるわ!

 べリーグッドなニュースをなっ!! 」

 

そして、いうがはやいか、駆けだしていく。

 

「あっ! ちょっと! ポルナレフさん!

 ……しまった! 言いそびれちゃった……」

「まったく、しょうがないやつだ……」

 

 

*         *          *

 

 

「ポルナレフ! 心配したぞッ! 」

「どうした、そのキズは? 」

「敵に襲われたのか? 」

 

 僕と承太郎は大量の魚(さすがにブリはいない。というか結局ちっとも釣れなかったので、直獲った。そのすがたは鮭を狩る冬眠明けのクマの如し……さすがスタープラチナ。そこにしびれ……以下略)を抱え、小屋に帰ってきた。しかし、明かりは灯っておらず、中は無人。首を傾げていると、これまたちょうどタイミングよく用事を終え、戻ってきたジョースターさんとともに、さすがに遅い。なにかあったのではないか……と、嫌な予感に圧され、残る三人を探しに行こうと外に飛び出たところだった。

 そこに、肩や腕から血を流しつつも、嬉々として駆け寄ってくるポルナレフの姿が見えたというわけである。

 その様子に驚き、口々に疑問をぶつける僕達にむけ、興奮気味にいう。

 

「ああ。『審判』の暗示のスタンド使い……。

 なかなか手ごわかったが、ばっちりやっつけてやったぜ! オレと保乃と……

 そう!そんなことより!聞いてくれよ!誰に出会ったと思う!?」

 

「たまげるなよ、承太郎ッ! 」

「? 」

「驚いて腰ぬかすんじゃあねーぞ、花京院! 」

「? 」

「だれに出会ったと思う!? ジョースターさん! 」

 

「ぽ、ポルナレフさん! 待って! 」

 

 そこへ彼女もやってきた。

 

 ジョースターさんがしれっという。

 

「うん。アヴドゥルじゃろ? 知ってる知ってる」

「え!? ま、埋葬したって……じいさん、あんた……」

 

「ああ。すまんかったな。ありゃあウソだ」

 

「はぁあ!? み、みんなしってたの? 保乃も? 」

「はい……」

「ど、どおりで全然驚いてないと……!! か、花京院、おまえも!? 」

「ああ。というか……

 敵にバレないように、おまえには内緒にしとこうといったのは、この僕だ」

「はぁー?! 」

「おかげで無事に傷を治すことができたよ」

 

「ちくしょう! 仲間外れにしやがって! 」

「まぁまぁ、この娘の美味いメシでも食って、機嫌なおせ。なッ! 」

「ちぇー! 」

「あ、そうだった! すみません、すぐ作りますね! 」

 

 なんやかんやで一件落着。

 『おいしいごはん』のちからは本当に偉大であるということか。

 

 

 

 そうして、一同ぞろぞろと家の中にむかう。

 その途中、僕は彼女に声をかけられた。

 

「……。あの、花京院くん……」

「なんですか? 」

 

「……ごめんね」

 

「は? なにが? 」

「う、ううん。ちょっと、謝りたくなっただけ」

「なんですか、それは……また、薮から棒に。へんなひとだなぁ」

「……そ、そうだよね。……はぁ……」

 

 そして、気づく。

 

「……ん? よく見たら……、

 保乃宮さん、あなた……なんでそんなに土まみれなんですか? 」

「はっ……! 」

「まるで、犬かなにかにじゃれつかれたみたいですけど……」

「え、ええと、その……あの、これは……」

 

 あわあわと口ごもる彼女の代わりに、この男がいう。

 

「あー、あぶなかったんだよなぁ! おまえ!

 たべられちゃいそうだったもんなぁ。

 かっこいい『狼さん』に! 」

 

「ぽ、ポルナレフさんッ!? 」

「まぁ、うれしそーだったけどな。おまえ。へへ」

「ちょ! そ、そんなこと……な……ッ! 」

 

なぜだか真っ赤なかおで誤魔化そうと必死な彼女に僕も溜息まじりにいう。

 

「……はぁ? もう、動物好きなのはよく知っているけど……

 ほどほどにしといてくださいよ。……怪我は? 」

「な、ない……です……」

「ほんとうですか? 」

「ほ、ほんとだって! 」

「まったく……、やっぱり目が離せないんだから……」

「うぐぅ……」

 

 

「けっ、……かなえてもらう必要なんて、ねぇんじゃねーか。

 ……あほらし。なぁ、アヴドゥル」

「ふっ、まったくだな……」

 

「は? どういう意味だ、ポルナレフ? 」

「い、いいの! 気にしないでッ!! 」

 

 

「……くそぉ、……オレも赤い糸の女の子に早く逢いてぇよぉー! 」

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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