私の生まれた理由   作:hi-nya

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 ミドラーさん戦です。

 第二章のラスト……かな。
 記念に(?)やっちゃん描いてみました。


【挿絵表示】


 イメージ壊したらすみません。そっ閉じして下さい。
 背景は今年は桜が綺麗だったですね! ってことで描きたくなっただけなので、特に意味はないです。たぶん。



シラセ

「うおおおおー! 」

「すっごーい!! 」

 

 潜水艦だ。本物なんて初めて見る。師匠がアラブのお金持ちを装って調達してきてくれたものがこれだ。それにも多種多様、散々な目に遭ったらしいが……

 

「これで紅海を渡るんですね! 」

「追手から姿を消せるかもしれないが」

「ずいぶんと金のかかる旅行だな……この旅はッ! 」

 

 皆で感想を口にしつつ、艦内に乗り込む。

 本当に、ポンとこんなものを買ってしまえるあたり、不動産王のジョースターさんとスピードワゴン財団、さすが世界有数の企業はスケールが違うようだ。

 

「アヴドゥル、操縦できるのか? 」

 

 承太郎君がたずねる。

 

「わしもできるよ。わしも」

 

 そこへ、ジョースターさんが名乗りをあげる。

 

「……アヴドゥル、よろしく」

「たのむ、アヴドゥル」

「アヴドゥルさん、お願いします」

「師匠、がんばってください! 」

「……おい、おまえら……」

 

 満場一致。今回の操縦士は師匠にお願いすることとなった。

 

 

 艦はゆっくりと海底にその身をひそめ、進んでいく。

 艦内は地上に比べると若干蒸し暑いくらいで、想像していたよりは快適である。平衡感覚にあまり自信がない私は、気圧の変化で耳がキーンと詰まってしまったかのようになるあの特有の感覚や乗り物酔い……それを覚悟していたのだが、流石は最新鋭の潜水艦。内部環境は一定に保たれているようで、不安は杞憂に終わった。この壁を一枚隔てると海中だなんて、とうてい思えない。

 

 しかし、そんなことよりも何よりも、気がかりは勿論敵方の放った追手であろう。

 が、師匠の苦労の甲斐あって、この潜水艦の存在は敵に知られていないのか、航行は順調であった。

 

 ……今のところ。

 

 この旅の『乗り物運』のなさを考えると、ついついネガティブになってしまう。

 

「どうしたんですか? 神妙なかおして」

 

 そんな私に気づき、花京院くんが声をかけてくれる。

 

「ああ、うん。順調だなと。……めずらしく」

「ええ、めずらしく、ね……。何事もないのも、逆に落ち着かないですね」

 

 どうやら似たような心境らしい。ふたりで苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、あと少しの辛抱ですよ」

 

 腕時計に目をやる彼。つられて、自分も見る。

 

「上陸予定時刻まで、あと一時間くらいですから」

「ほんとだ」

 

 その短針と長針は合わせて『L』の字を形作っていた。

 

「あ、それにちょうどお茶の時間だね。珈琲でも淹れようか? 」

「ああ、いいですね」

 

 この潜水艦、備品も大抵のものは揃っていると聞いた。

 ジョースターさんに詳細を訊ねると、どっかその辺にあるじゃろ、とのこと。

 花京院くんと艦内を捜索して、コーヒーメーカー、ミルと豆を発見した。ついでにおやつのクッキーも。

 

「あ、これ豆から挽くやつだよね? やり方知ってる? 」

「フッ、もちろん。任せてください」

 

 そうなのだ。この彼、実は本来、珈琲にはなかなかのこだわりがあるひとなのだった。ということで、そちらはおまかせすることにする。

 

「あとは……カップはどこかな? 」

 

 引き出しを探すとすぐ目的のものは見つかった。

 

(1、2、3、4、5、6……あ、ちょうど6つある)

 

「おい、早くコーヒー入れてくれ! のみてーよぉー」

「自分で入れろ! 自分で! 」

 

(……ぷっ! )

 

 ポルナレフさんの催促を一蹴しつつも、花京院くんが機械にセッティングした水の量はちゃんと6人分。

 そんな様子におもわず吹き出しそうになる。

 

(なんだかんだで、ポルナレフさんともいいコンビだよね)

 

 そのとき、望遠レンズで海上の様子をうかがっていた師匠が叫ぶ。

 

「ん! ……おい! アフリカ大陸の海岸がみえたぞ! 到着するぞッ! 」

 

 どこから取り出したか、地図を広げる師匠。それを皆でのぞきこむ。

 

「ここのサンゴ礁のそばに自然の浸食でできた海底トンネルがあって内陸200mのところに出口がある。そこから上陸しよう」

 

 皆で頷き合う。

 

「いよいよエジプトだな」

「ああ、いよいよだな」

「エジプトか……」

「……」

「……はい……」

「ああ。いよいよだ」

 

 

 

 珈琲とクッキーをならべ、テーブルを囲む。すると承太郎君からもっともな指摘を受ける。

 

「おい、なぜカップを7つ出す? 6人だぞ」

「あれ? ごめん……うっかりしてた。6コのつもりだったんだけど……」

 

 おかしい……たしかに6コ数えたはずなのに。嫌な予感がした。

 

 そのときだった。

 

 ジョースターさんのカップから急に腕が生え、その鋭い爪が手首を切断した。

 

「なっ、なにィィッ! 」

 

「ぐっ! 」

「じ……じじいッ! 」

「ジョースターさん!! 」

「うぐ……! 」

 

「ドギャァース! 」

 

「バカなッ! 」

「スタンドだッ! いつのまにか艦の中にスタンドがいるぞッ!! 」

 

 大きさは大人の掌程度で、アステカの部族の仮面のようなたてがみに覆われた大きな顔に、バランスの不釣り合いな大きめの腕がついている……そんな容貌のスタンドだった。

 

「オラァッ! 」

「ブギャアーッ!! 」

 

 承太郎君のスタープラチナが先制の一撃を入れる。が、しかし、それは空を切り……

 

「き、消えたッ! 」

「いやちがうッ! 化けたのだッ! この計器のひとつに化けたのだッ!

 コーヒーカップに化けたのとおなじようにッ! 」

 

 師匠が指した操縦席付近の壁には艦の様子を表すメーターがずらりと並んでいる。速度、水圧、エンジンの回転数……どれがどれを示しているなのかなんて私には到底わからないほど、たくさんの数のものが。

 

「この中の、ひとつにッ!!」

 

 敵スタンドは計器と完全に同化しているようで、まったく見分けがつかない。

 フロントガラスの外を見て、ポルナレフさんが嘆く。

 

「もうサンゴ礁だ。あと数百mでエジプト上陸だっていうのによッ! 」

 

「ジョースターさん! 」

 

 すぐさま花京院くんと、攻撃を受けてしまったジョースターさんにかけよる。

 

「……傷はあさいが、気を失っている……。義手でよかった」

「ほ、ほんとだ。よかった……」

 

 そうして、艦内は一瞬シン、と不気味に静まり返る。嵐の前の静けさ、とはまさにこのことなのだろうか。その静寂を破るかのように、師匠が教えてくれる。

 

「……この、スタンド使いの名は、ミドラーという女だ」

「知っているのか? 」

「ああ。聞いたことがある。

 能力は金属やガラスなどの鉱物なら何にでも化けられる……

 プラスティックやビニールはもちろんだ。

 さわってもたたいても、攻撃してくるまで見分ける方法はないという……

 かなり遠隔からでも操れるスタンドだから、本体は海上だろう」

「し、しかし、どこから、この潜水艦にもぐり込んで来たんだ? 」

 

 すると、ポルナレフさんの問いに応えるかのごとく、壁に穴があき大量の水が入ってきた。

 

「な、なるほど、こーゆーこと?

 単純ね。穴をあけて、入ってきたのね……」

「浮上システムを壊していやがった。どんどん沈んでいくぞ! 」

「いつの間にか酸素もほとんどない。航行不可能だ! 」

「つかまれッ! 」

 

 同時に、潜水艦はものすごい衝撃と音とともに、海底に激突した。

 

「あぁ……」

「やっぱりこーなるのか」

「オレたちの乗る乗り物ってかならず大破するのね……」

 

 緊急事態を知らせる警報音がけたたましく鳴り響く中、いつものポーズ……帽子に手をかけ溜息をつきながら承太郎君はいう。

 

「やれやれだぜ……花京院、スタンドのやつ、どの計器に化けたか目撃したか? 」

 

「た、たしか……この計器に化けたように見えたが」

 

 問われた彼がひとつを指さす。

 

「おれもだ……よし」

 

 承太郎君も頷き、敵が化けたとおぼしき計器の上で拳をかまえる。

 

(ハッ! )

 

 しかし、そのとき、花京院くんの背後の壁で、何かが動くのがみえた。

 師匠が叫ぶ。

 

「ちがうッ! 承太郎! もう移動しているッ! 花京院のうしろにいるぞッ! 」

 

 同時に私もスタンドを放つ。

 

「セシリア! 」

 

 敵のスタンドは花京院くんに飛び掛かりその鋭い爪で首を抉ろうとする。

 が、その攻撃はすんでのところでセシリアの障壁にはじかれる。

 

「あ、あぶない……。ありがとうございます」

「だいじょうぶ!? よ、よかった、間に合って」

 

 やられてばかりはいられないとばかりに、スタープラチナが鋭いパンチを入れる!

 

「オラァ! 」

「ムッギィーッ! 」

 

 しかし、敵の姿は機械に同化して、再び見えなくなってしまう。

 

「みんな、ドアの方に寄れ!

 い、いつの間にか機械の表面を化けながら移動しているんだッ!

 この部屋にいると全員狙われる! となりの部屋に行くんだッ! 」

 

 言いつつ、隣室への扉を開くハンドルを掴む師匠。

 

「密室にして、閉じ込めるんだ! 」

 

 だが、『それ』はハンドル、ではなかった。

 

 現れる。

 太い、腕が。

 不気味な顔が。

 

「ば、ばかな! すでに移動してドアの取っ手に化けてやが……」

 

「アヴドゥルさん! 手をはなすんだッ! こいつの爪はジョースターさんの義手をも切断するッ! 」

「しまっ……! セシリア! 」

 

(いけない! 間に合わない! )

 

「ゲッ!? アギャース! 」

 

 が、その瞬間、スタープラチナが敵の腕を掴んでいた。

 さすが、『弾丸をつかむほどの正確な動き』は伊達じゃあない。

 

「やったッ! 捕まえたぞッ! 」

「あ、あぶなかった……」

 

 歓喜とともに一同胸を撫でおろす。

 

「スタープラチナより素早く動くわけにはいかなかったようだな。こいつをどうする? 」

「承太郎! 躊躇するんじゃあねーッ! 情無用! 早く首をひきちぎるんだ! 早く! 」

「アイアイサー」

 

 ポルナレフさんの言葉を受けて、承太郎君がすぐさま敵を握りつぶす。

しかし……

 

「! うぐぅ!! 」

 

 スタープラチナの、そして承太郎君の……握りしめた拳から血がしたたり落ちる。

 

「けけけ」

「や、ヤロー……カミソリに化けやがった……! 」

「きゃはははは! 」

 

「ば、ばかなッ! 」

「コイツ……強い! 」

「承太郎にいっぱいくわせるなんて……」

「なんて敵だ……」

 

 そんな暗澹たる状況の中、唯一の吉報が訪れる。

 

「う……」

 

 気絶していたジョースターさんがゆっくりとその目を開いた。

 

「ジョースターさん! だいじょうぶですか!? 」

「あ、ああ……」

「よかった……」

 

「ヒヒヒャホホ…」

「……」

 

 敵スタンドの勝ち誇ったような不気味な笑い声が艦内に響き渡る。

 その元凶を睨み付ける承太郎君。

 そこに師匠が声をかける。

 

「かまうな承太郎ッ! また化けはじめるぞッ!

 浸水しているし、とにかくヤツを閉じ込めるんだッ!

 闘う作戦はそれからだ! 」

「ムッキャア! 」

「……」

 

 それを受け、移動する。扉の向こうへ。

 

「……てめーは、この空条承太郎がじきじきにブチのめす」

 

 厳かで静かな怒りを秘めたその言葉を確かに刻み付けながら。

 

 

 

 全員が隣室にとびこんだところで、鍵をかける。

 

「これからどうします!? ヤツか、我々か……閉じ込められたのがどちらかわからんが……

 いずれ遅かれ早かれあの部屋から何かに穴をあけてここまで来るぞッ! 」

 

 と、花京院くん。それに対し師匠はいう。

 

「この機械だらけの密室の中では圧倒的に我々の不利!

 この潜水艦はもうダメだ! 捨てて脱出するのだ。

 とにかくエジプトに上陸するのだ」

 

 せっかく苦労して買ったというのに……自らその発言をせざるを得ない師匠の気持ちはいかばかりか。しかし確かに、命には代えられない。

 そこにポルナレフさんがもっともな疑問を口にする。

 

「しかしここは海底40m……そんなに深くはないがどうやって海上へ!? 」

「それは……これじゃ! 」

 

 ジョースターさんが部屋の隅の倉庫をあける。

 備えあれば憂いなし。本当にこの艦には備品も大抵のものは揃っていたことが証明された。

 

「……今度はスキューバダイビングかよ」

「やれやれ……」

 

 

 

 酸素の入ったタンクを背負いながらジョースターさんはいう。

 

「義手を切断しているから装備をつけるのがしんどいわい。

 この中でスキューバダイビングの経験のあるものは? 」

 

「ない」

「ない」

「ありません」

「ありません」

 

「となりの部屋からヤツが襲ってくる! 早く潜り方を教えて下さいッ! 」

「あわてるな、アヴドゥル」

 

 師匠を制し、唯一の経験者、ジョースターさんは説明を続ける。

 

「いいか、みんな。まず、決してあわてない…。これがスキューバの最大 注意だ。

 水の中というのは水面下10mごとに一気圧ずつ水の重さが加圧されてくる。

 ……海上が一気圧……ここは海底40mだから5気圧の圧力がかかっている。

 いっきに浮上したら肺や血管が膨張破裂する。

 体をならしながらゆっくりあがるのだ……

 エジプト沿岸が近いから、海底に沿ってあがっていこう」

 

 ジョースターさんが傍のコンピューターのスイッチを操作すると、バルブから水がでてきた。

 

「水を入れて加圧するぞ」

 

 さらに解説はつづく。

 

「これがレギュレーターだ。

 中が『弁』になっていて息を吸ったときだけタンクの空気がくるしくみになっている。

 吐いた息はこの左のところから出ていく」

 

 逆流しないようになっているらしい。心臓の弁と同じか。よくできているものだと感心する。

 

「それと、当然のことながら、水中ではしゃべれない……

 ハンドシグナルで話す……簡単に2つだけおぼえろ。

 大丈夫のときはこれ。OKだ。……やばいときはこうだ」

 

 てのひらを下にむけ、振る。なるほど。

 それを受け、師匠が提案する。

 

「我々ならスタンドで話をすれば? 」

「それもそうだな」

 

「なぁーんだ。ハンドシグナルならおれもひとつ知ってるのによ」

 

 そういうと、ポルナレフさんはなにやらジェスチャーを始めた。

 なんだかバラエティー番組のクイズゲームのようだ。

 

 手を一度たたく。

 ピースサイン……いや、2?

 オーケーサイン……。

 そして額に手を水平にあて、遠くを眺めるようなしぐさ。

 

 すぐさま花京院くんが答える。

 

「パン ツー まる 見え」

「YEAAAH!! 」

 

 歓喜の声をあげるポルナレフさん。

 

 ぱしっ!ピシガシグッグッ!!

 

 ふたりは、ハイタッチのあと、固い握手を交わす。

 

 息ぴったりだ……なんだこのコンビ……。

 

「襲われて死にそーだっていうのに、くだらんことやっとらんで行くぞッ! 」

 

「…」

「…」

 

 そんなふたりに承太郎君とともに冷たい視線を投げかける。そして、心から思う。

 

(よかった……私。今日スカートじゃなくて、ほんとうに、よかった……)

 

 

 

 本当に、そんな場合ではなかった。急いで装備をつける。

 気を抜くと後ろにひっくり返ってしまいそうなほどずっしりとした重みを背中に感じる。酸素を供給してくれる存在ではずであるのマスクがむしろ息苦しい。が、そんなことにもかまっている場合でもない。

 

 部屋が水に覆われたところで次々に皆ハンドシグナルを出す。

 

 全員オーケー……かと思いきや、ちがった!

 

 ポルナレフさんが、手のひらを下に向けて振っている。

 これは……やばい、のしるしだ!

 

 よく見ると、ポルナレフさんの口元に敵が張り付いている! 確かにやばい!

 

「!! 」

「ポルナレフッ! 」

「いつの間にッ! や、やつがすでにレギュレーターに化けていたッ! 」

「口の中から入って体内をくいやぶる気だ……やばいぜ! この部屋を排水しろッ」

「もう遅いッ! ヤツめ! この時をねらっていたのか!! 」

 

「おらぁ! 」

 

 スタープラチナが掴もうとするも、すんでのところで一歩間に合わない。

 敵スタンドはポルナレフさんの口にスルッと入っていってしまった。

 

「し、しまったッ」

「体内へ入っていったぞ! く、くいやぶられるぞ! どうするッ! 」

 

 師匠が嘆くと同時に、ふたりが動いた。

 

「ハーミットパープル! 」

「ハイエロファントグリーン!! 」

 

 細長いふたりのスタンドが鼻からポルナレフさんの中に入っていく。見ているこっちが痛くなってきた……。

 

「ハッ! お、オゲッ! 」

「のどの奥へ行く前につかまえたぞッ! 花京院! 」

「僕もですッ! 変身する前に吐き出させるッ! 」

 

「オガー! 」

 

 口から排出される敵のスタンド。

 

「やったッ! 」

 

「いや、倒したわけではないッ! 別の物に変身するぞッ! 」

 

 またもや形を変える……これは!

 

「水中銃に変身したッ! 早く脱出しろっ! 」

 

 

 

 急ぎ、全員で艦から海中へと飛び出す。

 

「だいじょうぶだ。OK……助かったぜ。ありがとうよ……」

 

 ポルナレフさんは承太郎君に掴まり、体勢を整えることができたようだ。泳ぎなから、周りの景色をみてつぶやく。

 

「なんて美しい海底だ。ただのレジャーで来たかったもんだぜ……」

「ほんとですね……」

 

 すきとおるコバルトブルーの海に色とりどりの魚やサンゴ礁。思わず目を奪われてしまう。確かに、こんな状況下でなければどんなによかったか……。

 

 後方を確認する師匠に承太郎君が問う。

 

「追ってくるか? 」

「いや、見えない! ヤツは金属やガラスなどに化けるスタンド……魚や海水には化けられない」

 

 ジョースターさんが続ける。

 

「後ろに注意して泳ぐのだ。

 追ってくるとしたならスクリューのあるものかなにかに化けて追ってくるはず。

 動く石ころや岩に注意するのだ」

 

 いうとおり、あせらず、ゆっくりと後方に注意しながら進む。

 

「見ろ! 海底トンネルだ……深度7m」

「ついにエジプトの海岸だぞ! 」

 

 もう少し。そう思った瞬間だった。

 そんな油断を、敵も狙っていたのかもしれない。海底全体が激しく震動し始める。

 

(な、なに? 地震!? )

 

 そして海底にパックリと大きな穴があらわれる。よくみると、これは、口だ!!

 

「なッ! 」

「なにッ! 」

「スタンドだッ! この海底に化けていたッ! こんなにでかくッ! 」

「く、食われるッ! 」

「うわぁーッ! す、吸い込まれたッ! 」

 

 全員が海底の巨大な口の中に呑み込まれてしまうと同時に、あのスタンドの甲高い声が聞こえてくる。

 

「ムキャッ! ナハハハ……頭のトロイやつらよのーッ!

 石や岩も鉱物なら海底も広く鉱物ということに気づかなかったのかッ! 」

 

「ばかなッ! この巨大さはッ! 」

「なんだ!? このスタンドのパワーは!? 今まであんなに小さかったのに!? 」

「! それはきっと、私のと同じなんですよ! 」

 

 私の足りない説明を、花京院くんがわかりやすく補足してくれる。

 

「そうだ! セシリアと同じで、パワーが距離に比例しているんだ。そもそも基本的にそうです!

 スタンドのパワーが大きいのは本体が距離的に近くにいるせいだ! きっとものすごく近いぞッ! 」

 

 その時、女性の声が聞こえてきた。スタンドの本体、の声のようだ。

 

「あたしはそこから7m上の海岸にいるよッ!

 しかしお前らはあたしの『テフヌト神』の中ですりつぶされるから、あたしの顔を見ることはできない! 」

 

「……『テフヌト神』!? 」

「……確かエジプトの女神様の名前ですよね? ……タロットじゃあないんですね」

「もう全部出てきたからじゃね? 」

「そうでしたっけ? 」

「タロットの起源は古代エジプトに……という説もある。それでかもしれないな」

「まぁ、それはここを脱出したあとゆっくり考えましょう。まずはヤツを倒さなければ」

 

 全員で頷く。

 

 

「ここはやつの……体内のどこだろう? 」

 

 周囲を見渡して花京院くんが言う。

 

「まだ口の中じゃ。のどの奥にはのみこまれていない……」

 

 と、ジョースターさん。

 皆で様子を探っていると、再びあの女性の声が聞こえてきた。

 妖艶な雰囲気の、おとなの女性の声。

 

「承太郎! おまえはあたしの好みのタイプだから心苦しいわね……

 あたしのスタンドで消化しなくっちゃあならないなんて」

 

(わぁ……泣く娘もホレる、さすが承太郎君。敵の女の人まで……)

 

 おもわず感心してしまう。

 そんな敵の女性の声を聞いて、ポルナレフさんがなにやら承太郎君にひそひそとささやいている。

 

「ひそ……やれやれ……言うのか……」

「ひそ……言え。ホレ、いいから、早く言え」

 

「……一度あんたの素顔を見てみたいもんだな。

 おれの好みのタイプかもしれねーしよ。……恋におちる、か、も」

 

(……。なんという棒読み……)

 

「……♡」

 

(でも……効いてる……)

 

 ただしイケメンに……とはこのことか。ちがうか。

 それに味をしめたのか、男性陣が口々に敵の女性を褒め始めた。

 

「お、オレはきっとステキな美人だと思うぜ。もう声でわかるんだよな、オレは」

 

(ポルナレフさん……重みがなぁ。……みんなに言ってそう)

 

 

「うむ。なにか高貴な印象をうける」

 

(わぁ! 師匠が女性を……!

 師匠の恋の話も聞いてみたいなぁ……私ばっかりいろいろバレてるし。

 ずるい! よし、今度聞いてみよっと)

 

 

「わしも、もう30歳若ければなぁ」

 

(ジョースターさん、若い頃ってどんなだったんだろ?

 超絶イケメン波紋戦士……とか言ってたっけ……)

 

 

「女優のオードリーヘプバーンの声に似てませんか? 」

 

(ッ!? ほ、褒められているッ……!

 いいなぁ……

 ……そういえば私、褒められたことって、あれ……? )

 

 彼との会話を思い返してみる。

 

(あ、あった……? いや、あれは……セシリアが褒められたのか……)

 

「……」

 

(……いつも、なんかおかしい、とか、へんだ、とか、世話が焼ける、とか、しょうがないひとだ、とか……そんなのばっかりじゃない……? ……事実だけど……)

 

 これは作戦。そんなこと、頭では理解している、が……。

 

(しかも、オードリーヘプバーン、か……)

 

 自分とは似ても似つかない、あの大女優の姿を思い浮かべる。

 

「……」

 

 そんな私の視線に彼は気づいたようだ。

 

「な、なんですか? そんなに睨んで……」

「……べつに。なんでもないもん」

「え? な、なんで……? なんで怒ってるんですか?!

 ちょっと、保乃宮さん!? 」

 

(……ふーんだ)

 

 またもそんな場合ではなかった。

 敵の女性の怒鳴り声が響く。

 

「きっさまらーッ! ……心から言っとらんなああ! ぶっ殺すッ! 」

「や、やっばぁーい!! 」

 

 その怒りはまずい事態を引き起こしたようだ。

 赤く、縦横無尽に、激しく、不規則な動きをするものが私たちに襲い掛かってきた。

 

「な、なんだこれ? 」

「舌だ! スタンドのベロだッ! 」

「あぶない! 気をつけろ! 」

 

 可愛さ余って……というやつなのか、大きなスタンドの舌はまず承太郎君をはじきとばした!

 

「ぐはっ!」

 

 そして、とばされた先には……

 

「じょ、承太郎ッ! 」

「は、歯だッ! 奥歯だッ! 」

「! セシリア!! 」

 

 

 臼歯は咬み合わさって承太郎君を押しつぶそうと迫ってくる!

 

「承太郎! この歯の硬度はダイヤモンドと同じ……きさまからつぶし殺すッ! 」

 

「あぶない! ……ぐ、うう……」

 

 必死にガードするが、途轍もないプレッシャーをセシリアを通じて感じる。

 

「いけない! 人間の咬む力はその体重、もしくはそれ以上といわれている……

 この馬鹿でかいスタンドのそれなんて……! 」

 

「チッ! このアマ! おまえもいっしょにつぶしてやる! 」

 

 敵はそんな言葉とともにさらに圧力をかけてくる!

 

「く、すご、い……でも……」

 

 折れるわけにはいかなかった。

 少しでも気を抜けば承太郎君が……というのは勿論大前提。

 

(まけられ、ない……)

 

 それに加えて私を支えていた。

 

 それに比べたら本当に……

 

(……この、女性に、は、まけたくないッ!! )

 

 ……本当につまらない、ささやかな意地、が。

 

「させないッ! っあああああああ!! 」

 

「きぃッ! こ、の……! 」

 

「……っ!! 」

 

 私の意識は、そこで途切れた。

 

 

*         *          *

 

 

 セシリアが消えた瞬間、敵スタンドの臼歯は、がっちりと咬み合わさってしまった。

 

「じょ……!? 」

「承太郎ッ! 」

「承太郎が歯ですりつぶされたーッ! 」

 

「ひ、仁美さん! しっかりしてください! 」

 

 叫びつつも僕は崩れ落ちる彼女に気づき、受け止める。

 

「……だ、だいじょうぶ……」

 

 すると、気を失ったかに思われた彼女がぽそりとつぶやいた。どうやら意識を手放したのはほんの一瞬だったらしい。

 

「はぁ、はぁ……。もう、だいじょうぶだ……だそうです。

 スタープラチナが、セシリアに、もういい、と……」

「!?」

 

「よく、聞いてください……」

 

「……? ハッ! なにか聞こえるぞ……」

「遠くから、聞こえるような……」

「だんだん近づいてくるような……! 」

「こ、この声は!? 」

 

「……オラオラオラオラオラ……」

 

「は……歯だ! 歯の中から聞こえるぞッ! 」

「みんな身をかがめろーッ! 」

 

「オラオラオラオラオラオラオラ!! 」

 

 破片が飛んでくる……歯のかけらが。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……!! 」

 

「ダイヤと同じ硬さなのに、歯を掘って出てきたッ! オーマイゴッド!

 ついでに! ヒィーッ! 他の歯もへし折ってるぞーっ! 」

 

 どこからともなく、歯医者さんで聞く、『チュイィーンッッ!! 』という、あの反射的に身の毛がよだつ音が聞こえた気がする。空耳なのはわかっているが。自分もなんだか歯が痛くなってきた。

 

「おい、みんな、このまま外へ出るぜッ!

 おおおおお、オラァ!! 」

 

 承太郎の号令とともにスタープラチナが前歯を破壊。僕たちはそこから脱出した。

 

「やれやれ。ま、たしかに硬い歯だが、たたき折ってやったぜ……

 ちとカルシウム不足だったようだな……」

 

 あとには宣言通り、『直々にぶちのめした』……そんな有言実行の頼りになる男の言葉がこだましていた。

 

 

 

 そのまま岩づたいに泳いでどうにか海岸に上陸すると、倒れている一つの人影が見えた。

 

「おい、女が倒れているぞ」

「本体の、ミドラーだ」

「どうします? 再起不能でしょうか……」

「美人かブスか、みてこよーぜ……」

 

 全員で近寄る。

 

「は、歯が全部折れてる……ひぃー!! 」

 

 若い女性が、総入れ歯か……不憫だが、せめていい歯医者さんと出会えますように、そっと祈る。

 

 そして、敵は最後の力を振り絞るかのように叫んだ。

 

「ち、くしょう……!

 く、くくく! し、かし、あたいはしょせん、前座!

 ……これからエジプトの神々が、貴様らを次々に襲うのさ……! 」

 

「なんだと!?」

 

(……エジプトの、神々……)

 

 僕達の心に、まるでバケツの水に垂らされた一滴の墨汁のような発言を残しながら、敵は意識を失った。再起不能、だろう。これは。

 

 

 

 皆で砂漠の方を見やり、感慨にふける。

 

「しかし、ついにエジプトへ上陸したな」

「ジェットなら20時間で来る所を30日あまりもかかったのか」

「いろんなところを通りましたね。脳の中や……ゆ……」

 

(あぶない、皆知らないのだった。夢の中を通ってきたことは)

 

 それを聞き咎めたのか彼女が訝しげな顔をする。

 

「ゆ……? 」

「……いいえ、なんでも」

「?」

 

 誤魔化してしまおうと、話題を変える。

 

「ゴホン。……それより! なんであんなにムキになってたんですか? 」

「っ! べつに、ムキになってなんか……うっ……」

 

 立ち上がり反論しようとするも、まだ先ほどの疲労が残っているのかふらつく彼女。

 

「ほら、無茶するから、まだフラフラして……。……あ!? 」

 

 支えようとした、そのとき、僕は、気づいてしまった……。

 

 

*         *          *

 

 

 勢いよく立ち上がると、瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

 確かに少し能力を使いすぎたのかもしれない。少し経てば回復するので問題ないが。

 しかし、心配性で、……やさしい、このひとを、またやきもきさせてしまったのだろうか。

 いつもこうだ。

 

(……なのにさっきはあんな……)

 

 自分の態度を省みて、落ち込んでしまう

 

 

「あ……!? 」

 

「え……? 」

 

 反省とともに回転していた視界がゆっくりと安定してきた。

 すると、目の前に写る彼の様子がおかしいことに気づく。

 なにか言いかけたかと思えば、口元に手を当てたまま黙りこんでしまった。

 

「? どうかした? 」

「い、いや……! 」

「?」

「……そ、その、それ……」

 

 彼の目線をたどる。

 

「ハッ!? 」

 

 さっきまでそのままの格好でスキューバダイビング。当然服はずぶ濡れだ。

 濡れたシャツがぴったりと張り付き、内部が透けてみえる。くっきりと。

 

「あっ、わわっ……! 」

 

 後ろを向き、必死に胸元を隠す。

 

(し、しまったー! ど、どうしよ! )

 

 着替えなんて、全部海の底だ。

 今からとりあえず近隣の町や村に向かうことになるのだろうが、それまでずっとこのまま恥をさらし続けなければなけないというのか。

 

(っていうか、みられたー!? )

 

 恥ずかしさとこれからのことを考え、途方に暮れていた。

 

(……え? )

 

 すると、ふわりと何かが被さってくる感触。

 

「……? 」

 

 ……彼の、学生服だ。

 

「それ、……どうぞ」

 

「か、花京院くん……」

「は、早く! とりあえず着て! 」

「はっ、はいっ! 」

 

 おずおずと袖に手を通す。

 

「……」

 

 ぶかぶかだ。そりゃあそうだ。

 

 ……どきどきする。そりゃあそうだ。

 

「あの、……ありがとう……」

「……いえ」

 

「……」

「……」

 

 なんだろう……恥ずかしさは確実に増した気がする。

 

「おーい。出発するぞー」

 

 何とも言えない空気が流れる中届く、天の助けのような声。

 

「は、はいっ! 」

「い、いきましょう」

 

 

 

 

 

 2、3時間ほど歩いただろうか。いつもの如く、神様、仏様、スタープラチナ様……の御力で、発見した町にたどり着く。

 

「ご、ごめんなさい、私、とにかく、とりあえず部屋に行かせてくださいッ! 」

 

 宿をみつけチェックインするやいなや、その叫びを残し、部屋に駆けこむ私。

 

 とにかくお風呂に入りたかったので、浴槽にお湯を張ろうと、蛇口をおもいきりひねる。

 勢いよくあふれ出てくる温かいそれを眺めつつ、その間に洗濯をしてしまおうと思いたつ。

 

(学生服って……洗ったら縮むよね……? でも海水につかったままっていうのも……)

 

 悩んだ末、結局手洗いでやさしく軽く洗って干しておくことに。

 

 洗濯を終えるとちょうど良いタイミングでお湯が溜まったので、そのまま入ることにする。

 

「ふわぁー!」

 

(気持ちいいよぅ! やっぱりお風呂サイコー! )

 

 さっぱりしたところで、考える。

 

(さて、着るものがないんだった……)

 

 物資は明日、財団が届けてくれるよう手配するとのことだったが。

しかたないので下着だけはなんとかドライヤーで乾かし、部屋に備え付けの、パジャマ代わりとおぼしき長めのシャツを発見したのでそれを着ておくことにした。

 

(乾くまで、今日はもう部屋から出られないなぁ……。服のこともあるし、花京院くんに言っておこう)

 

 と、電話の受話器を持ち上げたところで気づく。

 

(しまった……部屋番号、わかんないや……)

 

 彼のどころか、全員分わからない……。焦って部屋に来たためでもあるが。

 

(どうしよう……。あ、そうだ)

 

 机の上にあった備え付けのメモに手紙を書く。

 

「セシリア、御願い! 」

 

 

*         *          *

 

 

 ふわりと美しい鳥が僕のもとにやってきた。

 

「セシリア……?! 」

 

 何事かあったのか、一瞬どきりとしたが、よくみると何かをその嘴にくわえている。

 

「……手紙? 僕にかい? 」

 

 開いて中身をみる。

 

【服が乾くまで部屋から出られないので、今日はみんなと夕食に行けません。ごめんなさい。

 みんなに伝えておいてくれると、助かります。

 

 追伸・上着、もう少し借りていても大丈夫ですか? 】

 

「フッ、了解です」

 

 返事を書くべく、ペンを走らせる。

 

 しかしどうやって渡すか。それが問題だ。

 

 ハイエロファントに行ってもらおうかとも思ったがやめた。

 

 着るものがない……すなわち、彼女は今……。

 

(うっ! い、いかん! なにを、考えて……! )

 

 そんなところに我が相棒を送り込むのは非常にまずい。

 律儀に待ってくれていることでもあるし、セシリアに返事を頼むことにした。

 

 

*         *          *

 

 

【わかりました。伝えておきます。しかし、お腹すくんじゃあないですか?

 何か買って後で部屋に届けてあげますね。

 その他、何か必要なものがあれば遠慮なく教えてください。

 

 追伸・返却は明日でかまいませんよ。御心配なく】

 

「……やさしいんだから……」

 

 彼からの返事に思わず心がほっこり温かくなる。

 

(なんとかこの恩返しをしたいけれど……)

 学生服を乾かしつつ、頭を捻る。

 

(そうだ! ボタン! )

 

 そうであった。先程この町に来るまでの道中のことだ。

 

 

 

 

――「あれ? 保乃おまえ、なんで花京院の服なんて着てんの? 」

 

「ぎく! 」

「……うるさいな! 察しろ! 」

 

 ポルナレフさんの相変わらずの無駄に鋭いツッコミに戸惑う私と若干理不尽な助け舟を出す花京院くん。

 

「はぁ? ……」

 

 その言葉を受け、考え込む。

 

「……ああ! わかった! ブラジ……」

 

 ガン!

 

 瞬時に彼の容赦ない裏拳が顔面にきまる。

 

「いってぇー! 」

「……デリカシーのない男だな! 本当に!」

「くっそ……! あっ! よく考えたら、てめー、またひとりでいい思いしやがって! 」

「うっ! 」

「いや、むしろお目汚しでしょう……って、聞いてないし……」

 

「……何色だったか教えろ! ほれ、お兄ちゃんに言ってみろ!」

「だ、誰が教えるかッ!

 何度も言うがお前のようなお兄ちゃん持った覚えはないッ! 」

 

 どこかの猫とネズミの如く、いつものように仲良く喧嘩を始めるふたり。

 それを傍観しながら、所在なく腕を見て、ふと、気づく。

 

(あれ? ボタン外れてる……ここも? あれ……? )

 

 私の様子に気づいたのかポルナレフさんの頬をつねりながら、花京院くんがいう。

 

「ん? ああ、ボタンでしょう?

 『吊られた男』と闘った時に取っちゃったんですよ。

 一回つけたんですけど、腕のところとかがまた取れちゃって……」――

 

 

 

 

 

(そうと決まれば、善……でもないけれど、急げ、だよね)

 

 フロントに電話をかけて、ソーイングセットをポストに入れてもらうように頼む。

 

 裁縫は正直あまり自信がないが、ボタンつけなら、なんとかだいじょうぶだろう。

 恩返し、というほどのことではまったくないけれど、せめてなにか自分にできることをしたかった。

 

 

「終わったー! 」

 

 無事作業を終える。すると部屋のチャイムが鳴った。

 

「はーい」

「僕です。……あ! で、出なくていいです! そのままで!! 」

 

(あ……そ、そうだった……

 うっかりこんな格好で出ちゃうとこだった……)

 

「遅くなってすみません」

「ううん! わざわざごめんね」

「いえ、これしきお安い御用です」

 

「今夜はなにを食べにいったの?」

「エジプト名物、コシャリです。アヴドゥルさんおすすめの」

「へぇ、いいなぁ! おいしかった? 」

「ふっ……」

「どうしたの?」

「いいえ。……やっぱりってね。そういうとおもいました。

 まぁ、それは食べてのおたのしみ……ということで」

「えっ? も、もしかして……」

「……置いておきますから、あたたかいうちにどうぞ」

「あ……」

 

(……やっぱり、おみとおし)

 

「……ふふふ」

「? そっちこそ、どうしたんですか? 」

「ううん。

 ……うれしいな……って」

 

 扉を背に、もたれかかりながら……これは、おみとおされてしまわないように……すこしだけ、ほんとうのことをいってみる。

 

「……ああ。おそらく、期待は裏切らないかと。

 なんせ、あの承太郎を唸らせるほどですからね」

「ほんとに!? それは……!……余計お腹空いてきた……」

「ふっ、それは加えて、最高のスパイス、というやつですよ。よかったですね」

「うん! たのしみ! 」

「ほんと、美味かったんですよ。けどね……

 また、調子に乗ってポルナレフが注文しすぎるから……

 アヴドゥルさんの忠告を無視して」

「あらら。それはまた、なんていつもどおりな……」

「ええ。あいかわらずですよ。ほんとに。

 で、メインは即刻食べつくされ、残ったのを食べるのはやっぱり何故か 僕の役目なんですよ?

 ほんっと皆、協調性というものが欠片もないんだから……

 おかげさまで、しばらく豆は見たくないですね」

「ふふ、おつかれさまでした。」

「あ! だからといって、残りをあなたに……というわけではないですよ?」

「もう、そんなのわかってるよ。でも、別に残りでも全然かまわなかったのに。

 むしろちょうどいいじゃない? 」

「そういうわけにはいきませんよ……またそんなことを……

 まったく、少しは理解していただきたいものですね。

 部屋で退屈、かつ、お腹を空かせて、ひとりまっているであろうあなたに、せめて美味しいものをたべさせてあげたい……という、僕の深い、……友情を」

「はいはい。いつもひしひしと感じております」

「ふっ、……ほんとかよ」

「ふふ、……ほんとだよ。

 ……ありがと」

 

 そのまま、つい、とりとめのない話をしてしまう。

 

「そういえば、明日にでも、エジプト上陸記念に写真を撮ろうといっていました」

「写真?!  へぇ、いいね! 撮りたい!! 」

「でしょう? 僕もじつはけっこう楽しみにしていたりします」

「あ、でもカメラって、こないだまたジョースターさんが壊しちゃったんじゃあなかったっけ? 」

「……それだけ聞くとなんか誤解を招きそうな発言ですよね……。

 ジョースターさんが触る機械はみな故障……超機械音痴、みたいな」

「ち、ちがう! そうじゃなくて……! 」

「ふっ、わかっていますよ。

 明日財団に持って来てくれるよう頼んでいるらしいですよ。カメラ」

「あ、そうなんだ」

「ええ」

「そっか。ほんと……いいなぁ。撮りたいね。……みんなで」

「……はい」

 

「……」

「……」

 

一瞬の、沈黙。

 

「……仁美さん? 」

「……ん? 」

 

「……とうとう、ですね」

「うん。……とうとう、だね」

 

「……もうすぐだ。

 もうすぐで……」

 

「……、うん……」

 

(……そうだ。もう、すぐ……)

 

 おもいだす。旅立ちの前、あの日の……あの、ことば。

 

 このひとの、強い、意思を。

 

「……」

 

「……おっと、すみません。お腹空いているところに……」

「……ううん、こちらこそ」

「そうそう、忘れるところでした。明日は9時にロビー集合とのことです」

「うん、わかった」

「ゆっくり休んでくださいね。今日は疲れたでしょうし。……だいじょうぶですか? 」

「うん、もう、なんともないよ。平気」

「……よかった」

「うん、……ありがとう」

「……いえ。……じゃあ、おやすみなさい」

「……うん、おやすみなさい」

 

 

 

 ドア越しに彼を見送った後、置いていってくれた晩御飯をありがたく食す。

 

「……いただきます。

 わ、ほんと、おいしい! 」

 

(……けど……)

 

 なぜだろう?

 

「……あれ? 」

 

(……さみしい……? )

 

 旅にでてから、ずっと、さわがしい晩御飯で……。

 こんなに静かな晩御飯、ひさしぶりだった。

 

(独りでご飯……が、さみしいだなんて。……私がなぁ)

 

 おもわず苦笑いを浮かべてしまう。

 

(……むしろ、楽だったはずなのに、ね……。)

 

 みんなのかおを思い浮かべる。

 

 ジョースターさん。

 承太郎君。

 師匠。

 ポルナレフさん。

 

(……護りたい。……皆を。)

 

 ……そして……。

 

 

 

 もう今日は彼のいうとおり、早く休もうと思い、寝る準備をする。

 その前に彼の服の乾き具合を確認してみる。

 

(よかった。もうほとんど乾いているみたい……)

 

「……」

 

 みつめながら、想う。

 

(どうしよう。……すき……だなぁ)

 

 言葉をかわすたび、彼を知るたび、ともに過ごすたび……

 どんどん彼にひかれていく。自分でも驚くほどに。

 

 

 しかし、それにともなって、ふくれあがってくる、不安……。

 

 

 ……わきあがってくる、『予感』。

 

 

 己に流れる『血の……

 

 

(……いや、やめよう。……そんなこと……)

 

 

 気づかないふりをする。

 そう。考えたくない。…まだ今は…。

 

 

(……だいす……きだよ)

 

 

(……つよく、なりたい。

 あなたの、ために…)

 

 

(ううん……)

 

 

(あなたを、まもりたい

 ……ただ、じぶんの、ために……)

 

 

 

 

 




 やっちゃんが『女教皇』うばっちゃったのでミドラーさんの暗示が……! 前座扱いすみません。 アアッ! 奥歯ですりつぶさないでッ! すみません!!

 そんなこんなでとうとうエジプトに着きました。長かった……。

 不穏な空気を醸し出しつつ、次回から新章突入です。無駄に改変しない、がモットーなのですが、これからは結構原作と違うかもです。すみません。

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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