「あ……あぁっ……! 」
突然の急展開になすすべもなく突っ立っていた。
「おい、おまえ……無事か? 」
「はっ! は、はい……あ、貴方こそ、だいじょうぶなんですか? 」
そんな私に声をかける承太郎さん。
かがんで、倒れている保険医さんの様子をみつつ、続けていう。
「さっきはふいをくらってちょいと胸を傷つけただけだ。
……女医も、手当てをすれば、助かるか」
「そ、そうなんですか……よかっ……。ハッ……! 」
我に返り、激しい攻撃をくらい窓際にまでふっとんでしまったひとのもとにかけよる。
「し、しっかり! しっかりしてください!! 」
「心配すんな……言ったとおりだ。殺してはいねえ」
「う……」
みると、傷だらけ血まみれで、しかも意識はないようだが、確かに……生きてはいた。
「ほ、ほんとだ……」
とりあえず少しだけほっとする。
「おまえ……おれたち、こいつに殺されるとこだったんだぜ? 」
「そ、それはそうですけど……! 」
呆れたように呟きながら、承太郎さんもこちらへ様子をうかがいに歩み寄る。
すると、私の顔を見て、なにかに気づいたようにこういった。
「……あん? おまえ……たしか、ケーキ屋の……」
その言葉をきっかけに、自分の頭にも閃く。
「え……? あ! もしかして、ホリィさんの、息子さん? 」
(そうだ! 背の高い、学ランの……それに、名前、承太郎君、だった! )
バイト先の常連さんの息子さんだ。遠目にしか見たことはなかったが、その特徴的なシルエット、および彼女との会話の端々に出てきていたその名前には覚えがあった。
承太郎君は何かを考えるように一瞬押し黙ったあと、倒れている彼の方へと顎を軽くしゃくり、私に訊ねる。
「……。おまえ、こいつの、知り合いか?」
「ううん、しらない。今日はじめてあったひと……だけど……」
その問いに答えようと口を開いたところだった。
室外に感じる、がやがやとたくさんの人が押し寄せてくる気配、そして、誰かが通報したのであろう。パトカーのサイレンの音も聞こえ始めた。
「ちっ! 騒ぎがでかくなってきやがった。ずらかるぞ」
いいつつ、承太郎君は気を失っている彼をかつぐ。
「こいつにはいろいろしゃべってもらわなくてはいけないからな……。
……おまえも、こい」
「う、うん……」
道すがら、尋ねられる。
「……おい、ケーキ屋。おまえなんであんなとこにいた? 」
「え、私?
えっと……朝、貴方が石段から落ちてきて……このひとと話しているのを偶然見かけて……。
そのときに、彼のあれ、がみえて……気になって……
こっそり追いかけて来たんだけど……」
自分でもまだ俄かに信じがたい出来事を目の当たりにして戸惑っていたが、どうにか、順を追ってありのままを説明する。
「ああ。……スタンド、な。
おまえも、あのピンク色の……。あれは、なんだ? 昔から使えるのか? 」
「……あれは……」
一瞬、躊躇したが、なぜか隠す気にならず、話してしまっていた。
「……うん。私の命が危険な時とか、出てきて衝撃から護ってくれるんだ。
意図的に、ではないし、使うっていうのはなんか違う気もするけどね」
「……命の危機ってのは? 」
「え? 車に轢かれたり、高いところから落ちたり……とか」
「そんな経験が何度もあるってのはどうなんだよ……」
「え? い、いや、だから、今まで、えーと、そんなにないよ。うん。
7、8回……くらいかな。たぶん」
今日のを入れずに……だが。
「……」
十分多い。沈黙がそう語っている気がした。取り繕うように、続ける。
「母が言うには、これは私の家の女性だけに代々現れる、守護霊のようなもので……
然るべきときに、私と、私の大切なものを、護る力、だ、って」
「護る力、か……」
「スタンドっていうんだ……。この能力……。
みえるひと……もっているひと、沢山いたんだ……このひとも、貴方も……」
「沢山、じゃあねーだろうが……。
……こいつのことは、本当に知らないのか? 」
「うん。むしろこっちが聞きたい。だれ? 」
「……。それにしちゃあ、やけに、こいつをかばうじゃねえか」
「へっ!? そ、それは……」
そうこうしているうちに、目的地に着いた。
(こ、この豪邸……承太郎君の家だったんだ……)
近所にこんなお屋敷があることは知っていたが、まさか足を踏み入れる日がこようとは。
その長身をひょいとかがめつつ入る承太郎君に続いて、自分も玄関の門をくぐる。
「お、お邪魔します……」
縁側を進む承太郎君についていく。
庭では承太郎君のお母さん……ホリィさんが洗濯物を干していた。
「あ、承太郎ったら今学校でわたしのこと考えてる。息子と心が通じ合った感覚があったわ! 」
「……通じ合ってねーよ」
「きゃっ! 」
そんなお母さんにツッコミを入れつつ、通り過ぎようとする承太郎君。
当然だが一目みて異常な状況に気づき、ホリィさんがいう。
「承太郎! が、学校はどうしたの……?
それに、その人は……? 血が……! ま、まさか、あなたが……?」
「てめーには関係のないことだ。おれはじじいを探している。どこだ? 」
「ぱ、パパなら、茶室に……アヴドゥルさんといると思うわ」
それ以上なにも説明しようとせず、再び歩きはじめる承太郎君。
息子はともかく、私はそういうわけにもいくまい。せめて挨拶だけでも、と、声をかける。
「あの……ホリィさん、こんにちは」
「あら! 『シャンティ』の仁美ちゃんじゃない! どうしたの!? 」
「え、ええと……これにはいろいろと事情がありまして……」
しかし確かに、なんと説明したらいいものか、と、口ごもっていると制された。
「……いいから行くぞ」
「う、うん。ごめんなさい……ホリィさん」
「ええ……」
俯くホリィさん。
(……でも、お母さんなんだから、もう少し優しくしてあげたらいいのに……)
そんなことを考えていると、角を曲がろうとしたところで承太郎君がいう。
「おい…今朝はあまり顔色がよくねえぜ…元気か?」
「……! いえーい! ファイン! サンキュー! 」
「フン」
「……ふっ……! 」
おもわず、笑みがもれてしまう。
「……うるせえな」
(……余計なお世話だった、みたい)
ある部屋の前で承太郎君は立ち止まり、障子を開ける。
そこには二人の外国人男性がいた。
初老の欧米人の方と、褐色の肌で頭にターバンを巻いた、30代くらいの方だった。
「なんだ? 承太郎……はっ、そ、その男は?! そしてその娘は?! 」
「こいつは、……DIOの刺客だ。ぶっとばしてやったが」
「…」
彼を下ろしながら承太郎君がいう。
「で、こいつは、通りすがりのスタンド使い。……敵じゃあ、ねぇ。……おそらく」
「お、おそらくって……」
「君は……? 」
承太郎君と話していた、初老の男性に、じっと目をみられる。
「あ、あの……」
「ふむ。……わしは、承太郎の祖父、ジョセフ・ジョースター、じゃ。
……君の話はあとで聞こう。まずは、そこの青年からな」
ジョースターさんが横たわる彼の様子を確認し、いう。
「なるほどな……。
見ろ……この男がなぜDIOに命令に従いおまえを殺しに来たのか……
その理由が……ここにあるッ! 」
いいつつ、ふわりと長い、一房の前髪をめくる。
その額には、ひくひくと動く、気味の悪いクモのような形をした肉片が埋まっていた。
「なんだ……これは……? 」
「それは『肉の芽』……DIOの細胞だ……」
(は? ……え? さ……細胞? でぃ、DIOって……何者……? )
私の顔全体に浮かんだ疑問符に気づいたのかジョースターさんが説明をしてくれる。
「DIOは……簡単にいうと、4年前に100年の眠りから復活を遂げた、邪悪な吸血鬼じゃ」
「……は、はぁ……」
……が、逆に疑問は増すばかりだった。
それ以上聞くに聞けない私をよそに、ジョースターさんは続けた。
「肉の芽は彼の精神に影響を与えるよう、脳にうちこまれている……
これによって支配して、この花京院という青年に我々を殺害するように命令したのだ」
幽波紋(スタンド)……、それを使役する人々……、復活した悪の吸血鬼……、人を意のままに操る細胞……。
正直、まったく話についていけていなかったが、ひとつだけ、すごく納得がいった。
(それで、か……)
「……わたしも出会ったんだ。四ヶ月まえ、カイロで……」
もうひとりの男性が、いう。たしか、アヴドゥルさんといっただろうか。
「わたしの職業は占い師でね。店の階段に、ヤツは静かに立っていた……。
その異様な雰囲気……すでにジョースターさんと知り合いだったわたしはすぐにわかった。
こいつがDIOだと……。
ヤツはいった。
『君は……普通の人間にはない特別な能力を持っているそうだね。
ひとつ……それをわたしに見せてくれるとうれしいのだが』」
「そして、やつはわたしにむけて肉の芽を伸ばそうとした。……恐ろしかった。
わたしは必死に逃げた。闘おうなどと考えもしなかった。
まったく幸運だった。話を聞いていて、DIOだと気づいたから、一瞬早く窓から飛び出せたし、地の利もあって、追走からなんとか逃れることができた……」
「そうでなければわたしも……この青年のように……
『肉の芽』でDIOに忠誠を誓わされ……『スタンド』をやつに利用されていただろう」
「そして、脳を食いつくされ……死んでいたろうな……」
「なっ!? 」
(……え……? )
「この男はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」
(……死……? )
おもわず叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待ってください! このひとは……!
……り、利用するだけしておいて? 」
「……」
「……あんなに……つらいめにっ! ……そのうえ……! 」
「DIO……は、そういうやつ……なのだ。気の毒……だが」
「そんな! な、なにか! なにか、方法はないんですか?! 」
「……ない」
首を横に振られる。
「そ、んな……」
力が抜け、その場にへたりこむ。
「……死んでいた? 」
そこへ届く力強い声。
「ちょいと待ちな。こいつはまだ、死んじゃあいねーぜ! 」
「承太郎君……!? 」
「おれがひっこぬいてやるッ! 」
「承太郎ッ! 」
「……こいつの脳に傷をつけず、ひっこぬく。
おれのスタンドは一瞬のうちに弾丸をつかむほど正確な動きをする」
ぐっと掴んだ、その瞬間だった。
「やめろッ! それは生きている! 」
なんと肉の芽が新たな触手を出し、承太郎君の手の甲に突き刺さり、潜り込んでいく。
「摘出しようとする者の脳に侵入しようとするのじゃ!! 」
「ぬうう……」
そのとき、意識が戻ったのか、彼の目が開いた。
「ハッ……な! 承太郎……お、おまえ……!? 」
「動くなよ。花京院。しくじればてめーの脳はお陀仏だ……」
触手は、皮膚の中で承太郎君の腕をつたい、顔を這いあがっていく。脳へむけて……。
「承太郎! まずいッ! 手をはなすんだ! 」
たまらずアヴドゥルさんが叫ぶ。しかしそれを制止するジョースターさん。
「待て……。わしの孫はなんて孫だ……。
体内に侵入されているというのに、冷静そのもの……ふるえひとつおこしておらんッ!
スタンドも! 機械以上に正確に力強くうごいていくッ! 」
次の瞬間、承太郎君のスタンドが、肉の芽を見事引き抜くことに成功する。
「やったッ! 」
「うおお……!! 」
つづいて、自らの体内を浸食しようとしていた触手もずるりと引き抜く。
「
そして、引き抜かれた肉の芽は、ジョースターさんの攻撃で消滅したのだった。
驚きの表情をうかべながら、彼は承太郎君に問うた。
「な、なぜ……おまえは自分の命の危険を冒してまで……僕を助けた……? 」
「さぁ……。そこんとこだが……おれにもようわからん」
「……」
「……よかった……」
少し潤んだその瞳は、たしかに『彼』のものだった。
(……もどれたんだね。……ほんとうの、『あなた』に)
つい、凝視してしまっていたらしい。視線に気づいたのか、彼と目があった。
「……っ! あ、あの! ……あなたは……? 」
そして、もっともすぎる質問がとんでくる。
「え!? あ、そ、その……! 」
注がれる全員の視線が、痛い……。
そのとおりだ。いったい、なんだというのだ。私は。
「よ、よかったですね! じゃあ、私はこれで!! 」
「あっ! 」
いたたまれなくなり、勢いよく立ち上がる。
「お、おい、君……! 」
「あの、だいたいのことは、承太郎君に話したとおりですから! で、ではっ! 」
「あっ! 」
そして、どうにかそれだけ言うと、わき目もふらず、駆け出した。
* * *
「……ちっ、にげやがった……」
ものすごいスピードで部屋をとびだしていった彼女。
残るのは風のみ。まさに脱兎の如し、だ。
あっけにとられつつも、僕は承太郎に尋ねる。
「か、彼女は? 」
「……てめーの女……とかじゃあねーのかよ? 」
「は!? ち、ちがう……!
……はじめてあう……ひとだ……」
ジョースターさんも、重ねて問う。
「承太郎、なんだ? 彼女は? 何者だ? 」
「……あいつは……」
そうして、承太郎は話し始めた。
なぜ彼女があそこにいたのか。
彼女のスタンドについて、を。
「……だそうだ」
「そうか。……わたしはきいたことがある。」
「アヴドゥル? 」
「昔、日本に、スタンドの力を駆使する、要人の警護が生業の一族がいたと。
そしてその一族のスタンド使いは皆女性だと。彼女はおそらくその末裔だろう」
「ふーん。しかし、罠かもしれんことを考えて、一応あいつの身元、調べたらどうだ? じじい」
「ああ、そうじゃな……」
「……まぁ、違うだろうがな。……おふくろも元々よく知っている女だ。
それに……そうだったらもっとましな嘘をつくだろうよ」
「は? どういう……ことだ? 」
「あいつ、おまえのことを、こんなふうにいっていやがった……」
―「……こいつのことは、本当に知らないのか? 」
「うん。むしろこっちが聞きたい。だれ? 」
「……。それにしちゃあ、やけにこいつをかばうじゃねえか……」
「へっ!? そ、それは……。
……そこのところなんだけど、私にもよくわからなくて……」
「はぁ? 」
「ただ……」
「さっきのは、ほんとうの、このひとじゃ、ない……そんな、気がした……」
「全然しらないひとなのに……おかしなこと、言っているのは自分でもわかってる……
……でも、そうとしか、おもえなくて…。」―
「なっ!? 」
「……おれにはあのときのおまえは完全に敵にしかみえなかったがな。
肉の芽のことも知る前だぜ。意味がわからん」
「……どうして、そんなふうに……? 」
「さぁな……。これ以上はおれも知らん。聞きたきゃあいつに直接聞け」
「……」
「よし、彼女のことは、調べておくよう言った。
医者も呼んだから……。花京院、君はとりあえず身体を癒しなさい」
「はい……。ありがとうございます」
「では……2、3日は安静にされてください。お大事に」
「わかりました。ありがとうございました」
治療を終えた医師が退出していく。
「……」
そうして、部屋にひとり残された僕。
「……まだ、生きているんだ……。僕は」
おもわず、呟く。
―「もう助からん。この男は、死ぬ」―
あんな醜態をさらし、罪と屈辱にまみれ……
もう、このまま死ぬべきなのだ。……そう思った。
なのに……
混濁した意識の中、はっきりと聞こえた。ふたりのこえ。
他でもない……『自分』が手にかけようとした……ふたりの……。
「……生かされた、んだ……」
静寂に背中を押され、先程にじんだ……零すまいと必死に抑えたそれが、ぽたりぽたりと布団を濡らす。
―「さぁ……。そこんとこだが……おれにもようわからん」―
(……なんて……男だ……)
そして……もうひとり。
―「だいじょうぶです……。もう、これ以上、あなたにだれも、傷つけさせない……」―
そうだ。たしかに彼女は、あのとき、『自分』の奥にいる、『僕』に気づいてくれていた。
きっと、承太郎にいったことはほんとうなのだろう。
(それにしても……)
たずねたいことが、たくさんあった。
(また、あえるだろうか……)
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
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読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!