私の生まれた理由   作:hi-nya

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皆様(とっくに)明けましたね。今年もどうぞ宜しくお願い致します。

ということで、VSダービー(兄)戦。続きです。……ざわ……ざわ……


The GAMBLER(後)

 ジョセフ・ジョースターとジャン・ピエール・ポルナレフ。

 敗北者である彼らの魂はこのダービーの『オシリス神』によって手中に収めた。

 残るはあと二人。波に乗って次のゲームを持ちかけようとしたときだった。細やかな事件が起こる。

 突如、相手側に増援が現れたのだ。

 とはいえ、今さら一人増えようがこちらとしては全く問題はない。青天の霹靂の様な登場の仕方にいささか驚いたのは事実ではあるが。不覚にもその存在に少しも気づかなかった。どうやらジョースターとの勝負に夢中になりすぎてしまっていたらしいと反省する。

 

「な!? か、花京院! いつのまに……」

「つい先程到着したばかりです、アヴドゥルさん。が、少し前から『視て』いましたので、状況は大体把握済みです」

「おまえ……」

「ああ、承太郎。言葉の通りさ。勝負はまだついていない。今度は僕がいこう」

 

 そう仲間に宣言すると、我が新たなコレクションにむけ語りかける。

 

「ジョースターさん、ポルナレフ……待っていてください。すぐに助ける」

 

 物言わぬ、ましてや聞こえているはずもない『もの』に向けて。

 

「くくく、花京院か。いいだろう。何で勝負する? ポーカー? それともルーレットかね?」

 

 『法皇(ハイエロファント)』の花京院典明。その頭脳は敵ながら称賛に値するともっぱらの噂であった。このような相手こそ勝負のしがいがあるというものだ。興が乗ってきた。

 しかし、そんなわたしの問いかけに花京院はかぶりを振る。

 

「うーん……生憎、僕は本来、勤勉かつ真面目なフツーのガクセーなもので。そういった類いの賭け事は本分じゃあないんですよね」

 

 両掌を天の方向にむけ首をすくめる。そうだとしたら何故しゃしゃり出てきたというのか。落胆と相混じって、小馬鹿にしたようなそのしぐさと口調に多少のイラつきを覚える。

 

「……ならば、どうするというのだ」

「そうだな……では、こういうのはどうだろう? 」

 

 すると少し考えた後、花京院はわたしの背後のカウンターを指さした。

 

「次に入店し、あのバーテンダーにドリンクをオーダーするのは、男性か、それとも女性か」

 

「!?」

 

「提案したのは僕だ。選択する権利はそちらに譲ろう。その方がフェアだろう? それとも貴様に有利過ぎて、逆に恐ろしいかい?」

 

 聞き捨てならないその言葉に表情筋が反射的にぴくりと収縮する。

 

「……わたしがビビっているとでも?」

「違ったか? そいつは失礼したね」

 

 不遜な態度に、はらわたが煮えくり返りそうになりながらも内心ほくそ笑む。

 

「わかった! それでいこう」

 

 愉快でたまらなかった。『それならば、わたしの勝利は揺るがない』。この気障ったらしい顔を恐怖でゲドゲドに歪ませて敗北に追いこみ、我がコレクションに加えることが可能なのだから。

 

「僕が勝ったら……わかっているな?」

 

 漏れ出そうになる高笑いを必死に堪えつつ、敗北が決定している憐れな挑戦者の質問に答える。

 

「勿論だ。わたしはこのコインを賭けよう」

 

 『ポルナレフ』を摘まみ上げ掲げてみせる。

 

「ならば、花京院。そちらもなにかいうべきことがあるんではないのかね?」

 

「ああ。……賭けよう。僕の『魂』を! 」

 

「グッド! 」

 

「ば、バカな! やめろ、花京院! こいつはジョースターさんよりも上手(うわて)の男なんだぞッ! 勝てるわけ……」

「勝てるわけがない……と? どうしてですか? これはギャンブル。100%なんて存在しないはずでしょう? やってみないと……ね」

「しかしッ! き、危険だッ! 」

「ありがとうございます。アヴドゥルさん。……大丈夫です」

「花京院……! 」

 

「ククク、そのとおりだ。やってみないとわからない、ククク……」

「決まりだな。では、どちらに賭ける? 」

「フム……この店の客層は全時間帯で鑑みると老若男女偏りがない。とはいえ今は圧倒的に男が多いようだな……かといって、次にやってくるのが女ではないとは限らない……さて、どうしたものかな」

 

 店内を見回し、悩み苦慮する『ふり』をしてみせる。

 

「能書きはいい。考えて答えが出るものではないだろう? さっさと決めたらどうだ? 」

 

 その物言いにまたも若干ムッとしつつも抑えて答える。

 

「いいだろう……男だ。男に賭ける」

「わかった。ならば、僕は女性ということになるな」

 

(ククク……その通り。考えなくても、答えは出ている)

 

 疑うこともなくあっさりとそれを吞む。浅はかなことだ。すべてこのダービーの計画通りに事が運んでいるとも知らずに。しかし、そう思った矢先に花京院は少々思いも寄らないことを言い出した。

 

「あ、そうだ。ハンデとして、僕が勝ったらDIOの館の場所も教えてもらおうかな」

「な、なんだと……? 」

「何度も言うようだけれども、僕は所詮ただの高校生だ。断るはずがないよな? 『賭博者(ギャンブラー)』さん?」

「ぐぬぬ……」

 

 冷静になれ。挑発だ。乗るな。自分に言い聞かせる。そうだ。この勝負、負けなどありえないのだから。

 

 花京院が賭けの内容を提示した瞬間、奴ら三人の死角となる場所から一人の男が立ち上がり、こちらに合図をするとともに密かに店外へ消えた。

 

(……残念だったな、花京院)

 

 この店内のみならず、視界にいる全員がこのダービーの仲間だ。店員も、客も、辺りで遊んでいる少年達ですら。

 

(『100%』……あるのだよ、それが)

 

 新たな入店者など、来るはずがない。来るのは関係者。それだけだ。頃合いを見計らって先程の男が戻ってくるだろう。

そこで思い立つ。ゆさぶりをかけたつもりのこの青二才の冷静な態度をくずし、鼻っ柱を逆にへし折ってやろう、と。それに加えて、一石二鳥。奴らを一気にカタにはめるための策を。

 

「その手には乗らんぞ。それを言うなら『魂』が足りないんじゃあないのか? わたしは今回の勝負にこのコインを賭けると言った。花京院、この勝負万一お前が勝ったとしても、戻るのはポルナレフの魂だけだ。それ以上を望むのならば、その分の上乗せ(レイズ)をしてしかるべきだと思うが……くくく、どうするね?」

 

「……いいだろう。おれがのるぜ」

 

 するとすかさず、厳かな声が場に響く。

 

「この勝負……花京院が勝つ方に、おれの魂をかけよう」

 

「承太郎……!」

 

「……ならば、わたしも賭けよう。……魂を」

 

 そして、もうひとりも続く。

 

「フッ、わたしだけ、のらないわけにいくまいよ」

 

 冷や汗を浮かべながらも、男はまっすぐに言い放つ。

 

「それに、わたしは賭け事向きの性格をしていない。けっこう熱くなるタイプだからな。ダービー、おまえと勝負すればわたしは確実に負けるだろう。しかし、わたしは信頼している。花京院を、承太郎を。

……信じて賭けよう。わたしの魂だろうが、何だろうが」

 

「アヴドゥルさん……」

「アヴドゥル……」

 

「仲間に運命を委ねる……か! なんと麗しい! 到底理解なんぞできんがな。する気もないが。ククク、いいだろう。花京院、おまえが勝てば、ポルナレフもジョースターも元通り! そしてお前たちの知りたがっている館の場所も教えてやる……ク、クククククク! フハハハハハ!! 」

 

 もう止まらない。くだらぬ友情ごっこ。アイソレーショニズムの欠片もない。こんなにもあっけなく全滅するのだ。ジョースター一行が。まとめて。このダービーの手によって。

 

「いや、まだだ……」

 

「なんだね? ククク、今さら降りるなど……」

 

 背負うはめになったものの重圧にさぞかしすくみ上っていることだろう……そんなわたしの予想と次の花京院の発言は180°異なるものだった。

 

「そんなわけないだろう。レイズするのさ」

「ふん、もうレイズするものなど……」

 

 どこからともなく取り出した真っ白なハンカチをピッと広げ、こちらにみせつける。

 

「信用ならないだろうからね。ほら一筆かいてやったぞ」

「な、なにを……」

 

『僕、花京院典明は友人保乃宮仁美の魂を賭けに負けた場合、さし上げます』

 

「な、なにィッー!! こ、この場にいない、女の魂をッ!? 」

 

 おもわず息を呑む。繊細かつ神経質そうな外見からは到底想像ができない、その大胆さに。

 

「お、おい、花京院おまえ……一体どうした!? そ、それだけは! おまえにとって、その魂だけはッ……!」

「……いいじゃあねーか、アヴドゥル。どうせ『同じこと』だ」

「じ、承太郎……! それも、そうか……」

 

 奴らのやり取りの中で察する。男にとってのこの魂の『重み』を。

 

「……そういうことだ。その代わりダービー、貴様にも見合ったものを賭けてもらうぞ」

 

 その、覚悟を。

 

「喋ってもらおう。DIOのスタンドの秘密を」

 

「な……んだと」

「到底、釣り合うとは思えないがな。貴様の下衆な魂などと、彼女の魂は……」

 

 一見冷静なようだが、完全に目がすわっている。その有無を言わさぬ胆力に……そして、やつの言う通りだった。何よりも、その代償の途轍もなさに一瞬怯みそうになる。もしも負ければ、自分は破滅だ。DIO様の秘密を洩らす……すなわち裏切者。それが辿る結末には、死。それしかない。想像するだけでも奥歯ががちがちと音を立てるのがわかる。しかし、そもそもの前提として、負けるはずがない。負けるはずがないのだ。

 そんな自分の背中を押したのは、皮肉にも見透かしたかのように鼻で笑う男の一言だった。

 

「ふっ、まさか……今さら降りるなどと、言わないだろうな? 」

 

「な、なめやがって……い、いいだろうッ! 」

 

 

「Open the Gameだッ……! 」

 

 

 

 

 

 まさに、雌雄を決する……その時はすぐにやってきた。

 

「あ、あれはッ……!?」

 

 正規の入り口に設置されているウエスタンドアが勢いよく押し開けられ、『客』が店内に入ってくる。帽子にサングラスを身に着け、口元を覆い隠すように首にぐるりと巻かれたスカーフが揺れていた。くるぶしまでおよそ180cmの身の丈のほぼ全てを包み込むほどの長い外套を羽織った、その上からでもわかるほど筋肉質で体格の良い……先程目配せをして出ていった男に相違なかった。

 

「こ、これまでか……」

「……」

 

 底の厚いブーツをカツカツと鳴らしながら、一歩一歩カウンターに近づいていく。それをみとめ、がっくりとうなだれるアヴドゥル。目を伏せ、帽子を目深にかぶりなおす承太郎。

 

(うぷぷ……!)

 

 込み上げてくる。まだだ。もう少し我慢しろ。高らかに勝利を宣言するにはまだ少しだけ早い。

 男が丸椅子のひとつを選び腰を下ろすと、すかさずバーテンダーが声をかける。

 

「いらっしゃい、ご注文はなんにしやす? 」

 

 固唾を吞んで見守っていると、くぐもった低い声で待ちに待った一言がもたらされる。

 

 

「……アイスティーを、ひとつ」

 

 

「……勝ったッッ! みたかッ! 花京院!! わたしの勝ちだッ!! 」

 

 飛び上がり吠えたあと、敗者の顔を覗き込む。が、しかし、コインにする前にその絶望面を心行くまで拝んでやろう……と、そんなわたしの思惑は、大きく外れた。

 

「どうした? 何を喜んでいる?」

 

 涼しい顔をして男はいう。

 

「お前こそ何を言っている! ふはは! そうか! あまりのショックで気が触れ…… 」

 

「落ち着いてもう一度よく見てみたらどうだ? いったい、あのひとのどこをどうしたら男性にみえるというんだい?」

 

「……え……?」

 

 言われるがままその方向に首を回す。すると次の瞬間、己の目に信じられないものが映った。

 

「な、なにィいぃぃぃッ!?」

 

「あー、暑かった。もう、喉渇きすぎて死にそうです!」

 

 『男』だったはずの人物が立ち上がり外套を脱ぎ捨てると、現れたのはさっきまでと一転、細身で華奢な姿。帽子とスカーフを取ると同時に長い黒髪がさらりと流れ、そしてとどめとばかりに、サングラスを外しながら発されたその声は、男のものとは到底思えない高い音でその場に響いた。

 

「バーテンダーさん、すみません、ミルクもつけて下さいますか? 私、いつもミルクティーなので。あっ、ちょうどおやつの時間だし、このメープルパンケーキも追加しちゃおっかなぁ。えへ、デザートはベ・ツ・バ・ラ、ですよねっ」

 

「お、おおおおお、女ぁッーーッッ!?」

 

「なッ!! や、保乃ーーッ!?」

「く、くくく! やっぱりか。やりやがったなッ!」

 

「あ……あ……!」

 

 腰を抜かして叫ぶアヴドゥルも腹を抱えて笑う承太郎も、ぐにゃりと歪みはじめた視界には、もはやまともに映ることはなかった。

 

「……どうやら賭けは、僕の勝ちのようだね」

 

 ただ、目の前の男が静かに勝利を謳う声だけが、ワンワンという耳鳴りとともにわたしの頭に響き渡っていた。

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「くくくくく……! ほら、捕まりな、アヴドゥル」

「す、すまない。ありがとう、承太郎」

 

 未だ収まらないらしい笑いと共に差し伸べられた仲間の手の助けを借りて、あまりの衝撃に抜けてしまった腰を叱咤しどうにか立ち上がる。

 

「まさかあれが保乃だったとは……たまげたな」

「ふっ、そうだな」

 

 確信していたはずの勝利がするりとその手から逃げていき、楽園から急転直下まっ逆さま。待ち受けている地獄への道筋に顔面蒼白の男は幽霊でも見たかのようにカウンターをわなわなと指さしながら嘆く。

 

「が、『守護聖女(ガーディアン)』!? あれは、か、花京院、おまえの女じゃあないかッ! 」

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふ……」

 

 それに対し返ってきたのは若干ずれた反応であったが。

 

()()か……ふふ、いいね。素晴らしい響きだ」

「……そこかよ。花京院、おまえさてはさっきの誓約書の『友人』、自分で書いた癖に本当は否定してほしくてしかたがなかったクチだな……?」

「う、うるさいな、承太郎! 心を読むな! そして可哀想なものを見る目でみるなッ!」

「すまんな、ツッコミが遅れて。……なんでやねん。よし、これでいいな」

「おざなりすぎるだろうッ! もうええわッ!」

 

 もはやどちらがボケかツッコミかもわからない、息だけはやたらとぴったりな漫才もどきのあとに、ようやく本題に戻る。

 

「何故だ!? そんなはずが……! か、花京院ッ! お、おまえ、まさか、わ、わたしの……ッ!」

「……当然だ。『少し前から視ていた』といっただろう? 誰も彼もが貴様の一挙手一投足に注目している、貴様の会話ひとつひとつに聞き耳を立てている……そんな異様な状況から、気づかないわけがないじゃあないか」

 

 切り替えが早すぎて正直ついていけない。さっきまで漫才をしていた人間と同一人物とはとても思えない厳しい口調で、敗者から絶え絶え発された疑問に勝者が答える。

 

「……グルだな。この場にいる者、全て。有視界内の全員が、な」

 

「な、なんだとッ!?」

 

 店内の人間ならまだしも、そんな、まさか……と否定しかけたところで、よく考えたら先の猫すらこいつの仕込みだったことを思い出し、納得せざるを得ない気持ちになる。それにしたって現場に立っていたはずの自分は全く気付かなかったが。

 

「まぁ、おかげで思いついたんだけどね。それを逆手にとった、この『100%勝つことのできるギャンブル』を」

 

 しかもあの短時間でだ。『法皇』の、そして花京院の観察眼および発想力に改めて舌を巻く思いだった。

 

「ひ、卑怯だぞ! い、イカサマじゃあないか! だましやがったなぁッ! 」

 

 往生際悪くも血走った目で男が訴えるお門違いのそれを花京院はにっこりと一蹴する。

 

「おや? 貴様の言を借りるならばイカサマとは見抜けなかったその人間が悪いのだろう?

 言っていたじゃあないか……騙される方が悪い、と」

 

「う、うううぐぐぐ!! ……はぁーっ、はぁーっ!」

 

 二の句も継げず、男の唸りが喘鳴ともに発され、その額に尋常ではない量の脂汗が浮かぶ。

 

「もっとも、借りはしても個人的には甚だ同意しかねるがね。まったく理解に苦しむ……」

 

 とどめとばかり、まっすぐに花京院は言い放つ。

 

「……騙す方が悪いに、きまっているだろう?」

 

「うぐぅッッ!!」

 

「さ、もういいだろう。約束は果たしてもらうぞ。

 ふたりの魂を解放し、館の場所、そしてDIOのスタンドの秘密をおしえてもらおうか……! 」

 

「あ……あ……うわあぁああぁああぁー!! 」

 

 花京院が凄むと、ダービーは断末魔のそれかのように叫び、よっぽど恐ろしかったのだろう。後ろにひっくり返り、泡を吹いて気絶した。

 

「……おおっ! 」

 

 同時にコインがボフンと音を立て、『ポルナレフ』と『ジョースターさん』が各々の身体に滑り込む。

 

「ん? あれ? オレ……? 」

「わしは……いったい? 」

 

 途端、彼らはその意識を取り戻した。

 

「ダービーの奴、あまりの緊張で気を失ったな。心の中で負けを認めたから二人の魂が解放された、というわけか」

 

「イヒ、イヒヒヒヒ……ポヘェーッ!」

 

 かと思いきや、飛び起きた男から奇妙な笑い声が聞こえてきた。

 

「イヒヒ、そぉーれぇッ! みんなあーーいっしょにマージャンやろーよおー!バックギャモンもたのしーしサイコロもスリルあるよぉ! ぼくがいちばんだろーけどさぁーッ!」

 

 どうやら正気も失ってしまったらしい。その眼はここではないどこかを見ているようで、もはや何の光も映し出しては居なかった。わけのわからないことを喚いたか思うと、放り投げられたバインダーから無数の光の柱が立ち昇る。

 

「奴のコレクションもあの世に放されたようだ。しかしこの様子ではもうDIOの秘密は聞き出せないな……」

「しかし、強敵だった……」

「ああ。たった一人でおれたち全員を倒そうとしたんだからな。たいした奴だぜ……」

 

 

 

 

 

「みなさーんっ! やりましたねっ!」

 

 彼女がちゃっかりというかしっかりというかアイスミルクティーを片手に(あっけにとられつつもバーテンダーはきちんと仕事をしたらしい。最初にこの店でガックリ感と共にアイスティーを一気飲みしたときにも思ったが、なかなか天晴な商売魂である)嬉々としてこちらへ駆け寄ってくる。

 

「ん……?」

「おや、保乃……? 」

 

「うめけけケケケ……それ、当たりッ! ロ―――ンッ!」

 

「うわ! だ、ダービー……? どしたの? あれ」

「か、勝ったんじゃなッ! い、いったいどうやって!?」

 

 彼女の方を見やる過程で徘徊している亡者を目の当たりにしてしまい、たまげるポルナレフとジョースターさん。

 

「そうなんですよ。花京院が、みごとに! そ、そうだ! あれはいったいどういうことだ? 入ってきたコートの客はどう見ても男だったのに……」

 

 二人に状況を説明しようとするも、自分でもさっぱりわからないことが多すぎることに気づき、疑問を投げかける。

 

「いやちょっと待て。そのまえに……」

 

 すると、真面目な表情でジョースターさんが横槍を入れる。

 

「保乃おまえ……なんでおるんじゃ? 」

 

「え? あ、あの、その言い方はあんまりでは? いてはいけない存在ですか……? 私……」

 

「いや、そうじゃあなくてだな……だって、なあ……」

「はい……」

 

 同意をもとめられ、首を縦に振る。ジョースターさんに同感だった。『彼女はホテルで休んでいる』。そのはずであったのに。その証言者に全員の視線が移る。

 

「ああ。ありゃ嘘だ」

 

 承太郎はしれっと答える。祖父顔負けの調子で。

 

「でなきゃあ、花京院がこの場にいるわきゃねぇだろ。こいつをひとり置いてよ」

 

「……たしかに」

「そうじゃな……」

 

「……」

「な、なんですか! みんなして……!」

 

 謎の説得力に当事者以外が心の底から頷く。

 

「まったく、承太郎、君ってやつは……どれだけの無茶振りだと思ったよ」

 

 それを皮切りに始まる『種明かし』。手始めに苦笑いとともに『密書』かつ『指令書』が公開される。

 

「! あの、承太郎がセシリアに渡した『手紙』か!?」

 

 花京院と承太郎が頷き、彼女が代表で音読する。

 

「『おまえらまだ来るな。イカサマ賭博師、賭けに勝ったら魂を奪うスタンド使いと交戦中。時間をかせぐ。絶対に勝てるギャンブルを思いついたら来い』……ね」

 

「ああ。伝書鳥、ご苦労だったな。

 バレにくいよう日本語で書いたが、それでも気づかれんかひやりとしたぜ……

 それにしても……鳥、賢いな。ちゃんとおれの意図を察して、あいつにバレんように大回りをしておまえのところに戻っていた」

「でしょう!? セシリア、すごいでしょ! 」

 

 相棒への称賛に珍しくも鼻高々の彼女。しかしその鼻はすぐにぺきっとへし折られる。

 

「ああ。本体よりいいんじゃねーか? ……頭」

「ぐぅ……! お、おっしゃるとおりですよ……! 」

 

 その反応を楽しげにくつくつ笑う影の策士。

 

「くくく、冗談だ。スタープラチナで遠目におまえらが近づいて来ているのが見えたからな。おれは裏方に徹することにした、というわけだ。うまくいったな」

「ああ」

 

「ぜ、絶対に勝てるギャンブル……」

「そんなのあったら皆やってるだろう」

「ええ。考えましたよ。そりゃあもう、必死に……」

 

 花京院がその時を思い出すかのように眉間に手を当てる。

 

「が、あちら側も思惑は一緒です。100%……勝利を確定的なものにするために何らかの策を弄してくる。ならばそこを返り討ちにするのが一番手っ取り早いと思いまして。要は僕が勝負として提示する二択が、①どちらか一方の選択肢をヤツに『明らかな正解である』と思いこませ、そちらに誘導することができる。②それを最終的に覆してやることができる。……以上が可能であればよいわけです。まさに言うは易し、ですけどね、本当に」

 

 行うは難い、それこそ魔法でも使わなければ不可能そうなそれを現実のものにした男はその秘訣を語る。

 

「しかし、こういう時こそ急がば回れ、です。まずは利用できる環境や条件を洗い出すべく、周囲を観察し、情報を収集、分析しました。で、先程も言いましたが場の全員が奴の仕込みであることに気づいた。これを利用しない手はない」

 

 『魔法使い』はにっこりと笑う。

 

「『次に現れるのが男性か女性か』という賭け自体は割とよく聞くベタなものであるかと思いますが、そこは別にシンプルで構わない。こちらには彼女がいる。彼女を『仲間の男』だとヤツに思いこませることさえできればいい。その方法はすぐに思いつきましたし」

 

「それが『二人羽織』……だよね!」

「その通り」

 

 そこで彼女の合いの手が入る。これまた息ぴったりだ。

 

「まずはヤツがジョースターさんとの勝負に熱狂している間に、最も素肌が出ていない格好の男をハイエロファントで密かに操り、手洗いを装い僕達の元に来させて外套、帽子、スカーフ、ブーツを拝借する……」

「ちなみにその方自身は花京院くんの秘技『当て身』で気絶させて、裏の物置に丁重に放り込ませていただいています」

 

 あっけにとられつつも狐につままれたようでいまいち腑に落ちず、わたしは重ねて問う。

 

「し、しかし、それらをこの娘が着たとしても、ぶかぶかで一発でバレるだろう……あれはどうみても男の体格だったぞ?」

「もちろん。ですので……」

 

 肯定しつつおもむろに『法皇』を出す花京院。

 

「こうやって、ぐるぐるぐるっとね」

 

 まるでヒーローものの変身シーンを見ているかのようだった。キラキラした緑色の触手が彼女の身体に巻きついていく。

 

「こんなふうに、それらを身に着けても不自然でない程度にハイエロファントで彼女の身長および骨格や肉付きの量増し(かさまし)をしていたんです」

 

「よっと」

 

 彼女が外套その他を拾い上げ、身に纏う。

 

「おおっ!! 」

 

 まさしく彼女とハイエロファントの『二人羽織』。あっという間に『あのときの男』の出来上がりだった。

 

「知っての通り、そのサングラスだけは僕の私物ですがね。変装が完了したら、隙をみてそっと承太郎とアヴドゥルさんの死角に当たる、ヤツにしか見えない位置に移動する。これで仕込みは完了です」

 

 首をすくめつつ男はこちらをみる。

 

「とはいえ、『隙をみる』……実はここが地味にかなりの難関だったのですが、アヴドゥルさんがヤツに飛び掛かっていってくれたでしょう? あのおかげで悠々彼女は配置につけたんですよ」

 

「な、なんと……!」

 

 直情的な己の失態だと思っていたあの行動が意外な形で役に立っていたらしい。なんとも複雑な気持ちだった。

 

「これで準備は万端。ヤツの前に僕が登場し、賭けの内容をあたかも今思いついたかのように提案する。あとは彼女が、はいはーい! 私行きます! とヤツと周囲にジェスチャーでアピールし、一旦店から出て頃合いをみて戻ってくる……と、以上が全容です」

 

 あんぐりと口を開けたままの我々に向け、花京院は続ける。

 

「あからさまな罠に奴が喰いついてくれるかどうかが最大の胆だったのですが、まんまと嵌ってくれました。ジョースターさんを見習って奴の平常心を揺らがせて注意力や判断力を鈍らせるべく、ひたすらに煽った甲斐があったというものです」

 

「あ……」

 

 目下繰り広げられていた、手に汗握る心理戦を思い出す。

 

――(さ、さすがジョースターさん。わざと名前を間違って、怒り……精神的動揺を誘っているッ! )――

 

「何も考えず完全にただ運を天に任せている短慮な若者を演じ油断を招いた甲斐も。

 『相手が勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している』……そうでしたよね、ジョースターさん? 」

 

「ふっ、その通り。おまえ、人の十八番を……まったくほんに生意気な奴じゃ!」

 

 言葉と裏腹にジョースターさんは心底愉快そうにからからと笑う。

 

「そして、承太郎が『彼女がこの場にいるはずがない』という前提を作ってくれていたのも大きい。途中のあの誓約書のくだりもそのアピールです。まぁ実は、あそこを考えたのは彼女自身なんですが」

 

「あ、ちゃんと賭けてくれたんだ。私の魂も。実は単純に大きな賭けにしちゃった方がいいかなって思っただけなんだけど。その方が引くに引けなくなるでしょう? それにいっぱい賭けといた方がいいじゃない。せっかく『ぜったいに勝てる』んだから」

 

 あっけらかんと言い切る。意外と大胆なのは彼女も同じらしい。加えて、なんという絶大な信頼感だろうか。この娘のことだ。「しかたがない。では、あなたの魂を……僕にあずけてもらえますか?」とか、せつなげかつ情熱的に花京院に囁かれて密かに鼻血吹きそうになっていたに100ペリカ……この勝負こそ、100%勝てる。間違いない。どれだけこの男のことがすきなのか。

 

 そんなゆるぎない彼女に逆に動揺の色を隠しきれない様子で花京院が補足をする。

 

「え、ええ……。それに、奴ほどの相手に同じ手は二度と通じない。一発で全て取り返す必要がありましたから。承太郎とアヴドゥルさんもそれに乗っかってくれたので、さらにプレッシャーが増しました。というか……」

 

 そこで花京院は一呼吸し、こちらへ向き直る。

 

「……うれしかったです。単純に。ふたりとも、信じてくれて……ありがとう」

 

「フン……しかたがねーからな」

「ふっ、そうだな」

 

 見せてくれた年相応の表情に、寄せてくれた素直な感情に、こちらも口元が緩む

 

「そんなわけで、結局のところこれは、全員で掴んだ勝利、というやつなんですよ」

 

 だが、いい感じにまとまりそうだった所へすっかりその存在を忘れられていた男が哀し気に呟く。

 

「……お、オレは? なぁ、花京院、オレの役割は……?」

「ぽ、ポルナレフ? ……は、ええと……」

 

「……」

 

 シーン、と場に流れる沈黙。

 

「……それはともかく、だ」

「……おいッ!」

 

 それを鮮やかに聞かなかったことにする花京院。

 

「ひでぇぜ……」

「ま、まぁまぁ。どんまいですよ、ポルナレフさん。その悔しさがきっと明日へのレッスンです!」

「……どこのスポ根漫画だよ。そりゃあ……」

 

 いじけてしまったポルナレフに隅で彼女が慰めにもならない言葉をかける。その間に気を取り直して改めてまとめに入る花京院。

 

「おほん。……ヤツは仲間に運命を委ねる……それをあからさまに見下していたようだけれどね。

 その癖、自分は所詮金でしか繋がっていない『仲間』しかこの場にいなかった。そしてそんな人間に自らの運命を委ねて美味しすぎる選択肢に飛びついてしまった……」

 

「それが奴の敗因……か」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「いやはや、それにしても助かったわい!」

「ちっ、てめーはあっさり目論見にハマりすぎだ、じじい……」

 

 説明会の後は反省会へ。そういう流れらしい。危うく難を逃れた祖父は孫に手ひどい叱責を受ける。

 

「ま、ポルナレフはそれ以前の問題だがな。あの変な刀に操られてひでぇ目に遭ったの、もう忘れたのかよ……ったく」

 

 そして、まとめて怒られるオレ。ハブられた上にこの仕打ち。天中殺か。まぁ実際やらかしちまったのは事実だが。

 「へへ、面目ねぇ……」なんて頭を搔いていると横で「おまえちっとも反省してないだろう……?」と、アヴドゥルが呆れたように呟いていた。

 だってめげていたって始まらない。性分じゃあない。勿論『明日へのレッスン』にはちゃんとするつもりだが。

 

「じじい……てめー、おれが小さい頃から自慢してやがったくせによ。

 『わしは真のギャンブラー。わしが通った後にはぺんぺん草一本も生えん』とかいってよ。なさけねーな……」

「ふーんだ! たまにはこんなこともあるものよ! 猿も木から落ちる……だもんねーっ! 」

 

 冷ややかな承太郎の視線を敢えて意に介さず、ジョースターさんはなおもいう。

 

「そうだ! いいことおもいついたっ! 花京院、わしとベガスにいかんか?

 おまえとわしのコンビならガッポリ稼げちゃってウハウハじゃぞ!

 にしし……! 一生遊んでくらせちゃうよ? 豪邸も、キレーなおねーちゃんも買い放題じゃ!」

 

「にゃッ!? ……き、き、きれーなッッ!? 」

「……焦りすぎだ。おちつけ」

 

 承太郎に諫められる、大変わかりやすい様子の彼女とは対照的に、冷静極まりない返答をする花京院。

 

「はぁ? また何を言い出すんですか。まったく。僕まだ高校生ですよ?

 ああ、でも成人しても変わらないだろうな。ギャンブルには、あまり興味ないですね。

 さっきも言いましたが僕は堅実な人間なので。……ただし……」

 

 熱き闘志を秘めた流し目とともに。

 

「……やるとしたら、負ける気はまったくしませんが?」

 

「……けっ、こいつもじゅうぶん気障な野郎だった……あーやだやだ……」

 

「……」

 

「って、ええ!? や、保乃? お、おい! しっかりしろ!!」

「はっ! わ、私……?」

 

「……。おまえ、奪われてたぞ。今」

「え? だれに? なにをですか?」

 

 

「……花京院に。……魂」

 

 

(まぁ、今にはじまったこっちゃあねぇけど、ってか)

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 ずっと考えていたことがふたつある。

 

 ひとつ。

 

 僕は……。

 

 間違っているのかもしれない、と。

 

 いや、本当は……。

 

 わかっていたんだ。

 

 頭の片隅に、いつもあった。

 迷っていた。

 でも、わかっていた。

 

 なのに……。

 

 

 

「……おい」

「はっ!」

 

 だれもいない、ホテルの屋上。

 

 薄く広く夜空を覆う雲の下、物思いにふけっていた僕は、後ろからふいに掛けられたこの男の声で我に返る。

 

「……承太郎」

「なにしてんだよ、こんなところで」

「……いや。なんでもないさ」

「ふん……」

 

 そして、もうひとつ。

 

 煙草に火をつける男に、告げる。

 

「なぁ、承太郎? 」

「あん? 」

 

「君に、たのみたいことがあるんだ」

「……なんだよ? 」

 

「……決戦で、もしも僕に……」

 

「しらん」

 

「は? 」

「おれはしらん。御免だ。……ほうっておく」

「ま、まだ何も言って……」

 

「ああ。まぁ、気が向けば取り巻きの一人くらいにならしてやってもいい」

「はぁ!? だ、駄目だ、そんなのッ! そ、そうじゃないッ! そういう意味ではなく……!

 ただ……その、きっと、泣くだろうから、なぐさめてあげてくれって……、それだけで……」

 

「……いやか? あいつが……ほかのだれかのもんになるのは」

 

「っ……! あ、あたりまえだろう……! 」

 

「……なら……」

 

 ピン、と空気が張りつめる。

 

 

「……死んだって死ぬな」

 

 

「……っ! 」

「……じゃあな」

 

「……」

 

 去り行く背中に向け、呟く。

 

「……ありがとう、承太郎……」

 

 

 

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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