私の生まれた理由   作:hi-nya

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主人公

 花が咲いたみたいだとおもった。

 

 

 モノトーンでしかなかった僕のキャンバスを鮮やかな色彩で染め上げたのは、あなたなのに。

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「……あ……。え……?」

 

「くくく、どうだ、小娘。高圧電流の味は? もう答えられんか」

 

 電流? 感電? 全く想定になどなかった、これからも一切無関係を決め込みたくなるような物騒な単語が頭の中に響き渡る。

 

 

「……スタンドが消えたな。死んだか?」

 

 

「う、そだ……」

 

 信じたく、なかった。

 頭の片隅に浮かんだそれを必死に否定する。

 理解することを拒んでいた。

 

 しかし、現実は、答えは、出ていた。

 

 意識がなかろうが、今までは……。

 

 セシリアが消えた。

 

 それが、残酷にもはっきりとすべてを表現していた。

 

 

(うそだ……うそだ……うそだ、うそだ……うそだ……)

 

 

 おそるおそる、倒れている彼女のもとへ、かけよる。

 

「ひとみ……さん?」

 

 傷なんてほとんどない。まるで、ただ眠っているようにみえた。

 

「……寝ている、場合じゃあ、ないでしょう?」

 

 彼女の口元に手をかざす。

 

 息をして……いない。

 

「……やだなあ。演技なんて、もう、しなくていいんですよ?」

 

 彼女の右の手首にふれる。

 

 脈が……ない。

 

「……そうだ。前の、アヴドゥルさんのときと同じなんだ……きっと。

 ……そうでしょう?」

 

 彼女の胸元にそっとふれる。

 

 心臓が……

 

 

 ……うごいて、いない。

 

 

「……あ……あ……」

 

 

「……うわぁあーーーーー!!」

 

 

 

 

「ん……? 花京院、おまえもしや……。

 そうか。……く、くくく、ふはははは! これはいい」

 

 

 奴の言葉が、妙に遠くから聞こえる。

 ざらざらと頭の中を不快になでる。

 

 

「……滑稽な。だから言ってやったのだ。ふたりでもどってこいと。おまえのせいだ。従わなかったおまえが悪いのだ。おまえのせいでこの女は死んだのだ」

 

 

「どうだ? 惚れた女が、自分のため、自分のせいで死んだ気持ちは? くくく」

 

 

「まるで安いB級映画のエンディングを観ているようだよ。まぁ、いい暇潰しにはなった」

 

 

「心配するな。すぐにおまえも同じところに送ってやるよ」

 

 

「……これで、ジ・エンドだ!」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「……ハーミットパープル&波紋!」

 

「……なに?」

 

 激情を懸命に抑え呼吸を整える。全力を乗せた紫の茨を放ち、花京院に向けて振り上げられたDIOの腕に絡み付かせる。

 

 二人を残し飛び去ったものの、どうしても全身に纏わりつく嫌な予感が払拭できず、後ろ髪をひかれるように引き返してきた。

 

 だが、時は既に遅すぎたのだ。

 

「保乃……! くそッ!」

 

 白状する。わしには、本当はわかっていたのかもしれない。こうなることが。

 

 

 ──ともに、ありたいんじゃな? 君は──

 

 

 さっきあの娘と二人で話した、あの時に。

 満面の笑みでうなずく彼女には何の迷いもなかった。いっそ清々しいほどだった。

 

 反面、強く感じた、不吉すぎるその予兆。

 しかしそれを、わしは無理矢理打ち消してしまった。

 打ち消さずにはいられなかった。いや、打ち消したかったのだ。

 

 あまりにも、似ていたから。

 

 決意と覚悟の信念を纏ったその眼を見た時、また想い出してしまったから。

 

 

 親友(シーザー)とおなじ、透きとおった碧色の、あの瞳を。

 

 

「逃げろ! 花京院! 仁美を連れて、一旦ひくんだ!」

 

「ジョセフ・ジョースター……、か。

 やつの……ジョナサンの、孫……」

 

「……」

 

「花京院? おい! 花京院?? くそっ!」

 

「……」

 

 しかし、何度呼びかけるも全く反応はない。動く気配も。

 只々、うなだれた、まま。

 

 まるで、そこにいるのに、そこにいないかのように。

 

「……馬鹿野郎! 立て! なにをしているッ!」

 

 無理もない。わかりきっていることだった。そんなこと。

 

 彼にとって彼女の存在がどれだけ大きなものであるかなど。

 彼らと共に旅をしたこの50日間。わからないはずがない。

 

 今、どれだけの喪失感が彼の全身を取り巻いているかなんて想像したくもない。

 深い深い愛情に相対する、深い深い……。

 

 そして同時に、わかっていた。

 彼に伝えなければならない。その意志を。

 やらせるものか。これ以上。させてなどなるものか。

 

 腹の底から、力の限り叫ぶ。

 

 

「……保乃の、想いを、無駄にするなーッ!!」

 

 

「……ッ!」

 

 届いた。かろうじて。

 脊髄反射の如くはじかれるようにして彼女を抱きかかえ、花京院が飛び去る。

 

「ちっ、逃げたか。まぁ、いい……。

 あんな脱け殻同然の負け犬、ほうっておいて、なんら問題ない。

 それより、ゴミどもと遊んでいたら、少し腹が減った」

 

 睨めつけるような真っ赤な双眸がぎろりとこちらへと動く。

 

「ちょうどいい。ジョースター家の血統……おまえは血を吸って殺すと予告しよう。

 ……ジョセフ・ジョースター」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 滑稽。ほんとうに、そのとおりだ。

 

 おかしいだろう?

 

『勇者は悪の大魔王をやっつけて、お姫様としあわせに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』

 

 心のどこかで、きっと僕はおもっていた。

 自分もなれるとおもっていたんだ。

 

 

 そんなありきたりな物語(ハッピーエンド)の『主人公』に。

 

 

 あしもとが、しかいが、ふわふわする。

 

 にげる? 

 

 どこへ? 

 

 なにから? 

 

 ぼくが いますぐ にげだしたいものなんて……

 

 

 このうでのなかにあるのに。

 

 

 なぜだろう。こんなにも必死に足を動かしているのに、ちっとも前にすすんだ気がしない。

 まるで、暗くて深い海の奥底にでも迷い込んでしまったかのようだった。

 

 一体どこに向かっているのかなどちっともわからなかった。

 闇雲に、ただ無我夢中でじわじわと侵食し迫ってくる『なにか』から逃げていた。

 

 永遠に感じる途方もない闇の中で、もがく力もなく彷徨っていた。

 

 

「……花京院! ……おい、花京院!?」

 

 

 すると、ふいに肩を掴まれ、どうにか、自分の名前を呼ばれたのだと気づく。

 

「あ……」

 

「どうした? すごい光が……。一体なにが……!?」

 

「……アヴドゥルさん……」

 

 その視線が僕の腕の中に移動する。

 

「はっ! や、保乃……? まさか!?」

 

「……」

 

 もう、なにもかもが、まっくらで、まっしろだった。

 

 すべてがどこか遠くで起きている出来事のように感じた。

 ……いや、そうだと思いたかった。

 

 そんな僕を指し示す、熱き真っ直ぐな声が届く。

 

「馬鹿者! ぼさっとするな! 

 救急車を呼んでくる! 

 あきらめるな! 救命活動をしておけ!」

 

 

 踵を返す彼の姿を見送る気力もなく、崩れ落ちるように地面に膝を付き、彼女を横たえる。

 

 なんどみてもしんじられない。

 

 眠って、いるようにしか、みえない。

 

 

「かえって、きてくれ……」

 

 

 唇を重ね合わせ、息をふきこむ。

 

 

(……ちがう。こんなの……ちがう……)

 

(いつか、あなたと、現実でする、ってきめてたのは……。

 こんなのじゃ、なくて……)

 

(だって、こんなにも……

 ……なんの熱も感じない……

 ……なんの、反応もない……)

 

(……夢では……あんなに……)

 

(……こっちが、現実なんて、嘘だろう……?)

 

(……だって、悪い夢よりも、よっぽど……)

 

 

「……ちく、しょ、う……」

 

 

 全身の力が、抜ける。

 絶望という巨大な魔物にすべてを吸い取られ呑み込まれていくかのようだった。

 

 

 そのときだった。

 

 

 ──ジョースターさんッ……!──

 

「……っ?!」

 

 彼女の声が、きこえた。

 

 声のした方を見上げると、遥か向こうに立ち上る紫色の雲にジョースターさんがみえた気がした。

 

「……ま、まさか! ジョースターさん……!?」

 

 天を仰いだまま呆然としていると、地の方から服の裾をひっぱられる感覚に気付く。

 

「ガウッ(しゃきっとしやがれ、馬鹿野郎!!)!」

 

「……イギー……?」

 

「ぐゥ……(てめー、これで、いいのか? 本当に?)」

「……。でも、僕は……」

 

「クゥ……(こいつは、信じてたぜ。いつでも、おまえのこと。……ちがうのか?)」

 

「……あ……」

 

 

 

 ──花京院くんは、強いよ──

 

 ──だいじょうぶ、できるよ。絶対!──

 

 ──あたりまえのこと……それだけじゃない?──

 

 

 いつかの、彼女がくれたことばたちが、こだまする。

 

 

 

 ──護りたいね、みんなを──

 

 

 

 視界を覆っていた霧が、すこしずつ、晴れていく。

 

「……すまない。ありがとう」

 

「ワン(けっ、わかりゃーいいんだよ)!」

 

 言葉と裏腹、尻尾を揺らすそのちいさな頭を撫でる。

 

「いっしょに行くか? 

 おまえも……仁美さんのこと、だいすきだもんな」

「バウッ! (ふん! てめーほどじゃねーよ! ばーか!)」

 

 

 

「花京院!」

 

 まもなくして財団の救急車を誘いアヴドゥルさんが戻ってきた。収容され、慌ただしく医師達による蘇生活動の準備が進められる中、伝える。

 

「……仁美さんのこと、お願いします」

「なッ……花京院、お、おまえは……?」

 

「闘いに……、承太郎たちのところへ、行きます」

 

「なにッ……!」

 

「……皆を、護る。彼女の代わりに。

 こんなときにここにいたら、あとできっと彼女に怒られてしまいますから」

 

「……そうか、……そうだな」

 

 それ以上、彼はなにもいわなかった。ただ優しく強い一言を除いて。

 

「……死ぬなよ」

 

「……はい」

 

 力強く肩に乗せられたその手から、燃えるような温かさを感じる。それは僕に教えてくれているようだった。

 

 『生』の重みを。

 

「よし、いくぞ、イギー!」

「ワァウ(ちっ、あとでなんか奢れよ! ったく!)!」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 ──もう、やめてください! あなたは! ほんとは! ──

 

 ──だいじょうぶ、これ以上、あなたにだれも傷つけさせない──

 

 

 わけがわからなかった。

 

 なぜ、わかってくれるのか。

 

 どうして、いつもみつけてくれるのか。

 ほんとうの僕を。

 

 不思議だった。

 

 なぜ、すべて、受け入れてくれるのか。

 

 そうだ。あなたは、信じてくれた……いつだって。

 

 ずっと不思議だった。

 なぜ、彼女は、いつも、あんなにも、無条件で、不変的で、絶対的な信頼を寄せてくれるのか。

 

 わからない。

 でも、僕は……

 

 いつもそれが、うれしくて、しかたがなかったんだ。

 

 わからない。理由なんて。

 僕は、彼女ではないから。

 

 でも、ひとつだけたしかなことがある。

 

 彼女が信じてくれた、『僕』。

 

 それを、僕が信じないわけにはいかないだろう? 

 

 裏切りたくない。応えたい。彼女の想いに。

 

 彼女の信じてくれた僕でありたい。

 

「……」

 

 法皇(ハイエロファント)をみて、考える。

 

 僕は……

 

 花京院典明とは……

 

 

 ……『じぶん』とは、何なのか。

 

 

 あなたの、瞳にうつった『僕』。

 

 

 それは……

 

 

 瞳を閉じ、そして……

 

 ゆっくりと開く。

 

 

「……ハイエロファント……?」

 

 

 そのときそこにあった。

 

 求めていた、こたえが。

 

 

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「……じじいの、魂……か? これは……。幻、覚か……」

 

 

「おい、どこをみている? 承太郎。フン……!」

 

 ぼんやりと宙を眺めている男に些か苛立ちを感じ、見せつけるが如く倒れたジョセフの心臓に爪を立て、残った血液をすべて吸い取る。

 

「! や、やろう……!」

「しぼりカスだッ! フフフフフ!」

 

 成功だ。奴は般若の如き憤怒の表情で我の方を見据える。

 

「こんなことを見せられて頭にこねえヤツはいねえッ!」

「クックックッ……最終ラウンドだ! いくぞッ! 

『世界』! 時よ止まれッ!」

 

 驚くべきことに、我が時の止まった世界に『入門』してきた承太郎。

 

「WRYYYYYYY──―ッ! 

 1秒経過ッ!」

 

 少しずつ時の止まっている承太郎に近づく。

 

「2秒経過ッ!」

 

 しかしまだまだヒヨッコ。やつが止めていられる時、止まった時の中を動ける時間はほんのわずか。いつその『時間』を使ってくるか、それがミソだ。

 

 ……が、いずれにせよわたしの敵ではない。

 

 不覚にも一時追い詰められたが、『知恵比べ』に勝利し形成逆転。やはり勝利への追い風は常にわたしへとむかって吹いているようだ。

 

 力が漲る。全身から溢れ出して来る。ジョセフの……やはりジョースターの血はこの『体』によくなじむ。今のわたしに、敗北の要素など微塵もない。

 

「3秒経過ッ!」

 

 次の瞬間、奴が、戦況が動く。

 

「4秒……!」

 

「……オラァ!」

「ウィリャアッ!」

 

 拳を打ち合う。パワーはわずかに、ヤツが……上。

 

「ウグゥ!」

 

 拳が裂ける。しかし、瞬時に回復する。

 

「7秒経過! 

 まだまだパワーを感じる……まだまだ止めていられるぞ……

 ところで承太郎……おまえはもう動けないはずだな……ククククク……!」

 

 急停止した男にほくそ笑む。

 

「8秒経過! 

 実にスガスガしい気分だッ! 

 歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ! フフフハハハハ! 

 100年前に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ! 

 絶好調のハレバレとした気分はなかったなぁ……! 

 最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアハハハ!」

 

 承太郎の背後に回り込む。

 

「9秒経過! 

 新記録だ! しかし時をとめていられるのは今は9秒が限界といったところか……」

 

 時は動き出す! 

 

「WRYYYYYYY──―ッ!」

「う、ぐっ!」

「スタンドのパワーを全開だッ! 承太郎、さっき頭にきているとかぬかしていたなッ! 

 おまえの怒りなどそんなもの! フンッ! 無駄無駄無駄無駄―!」

 

 承太郎にラッシュを浴びせ、ふっとばす。

 

「ふん、はるか彼方にとんでいきおったわ……」

 

 追いかけて、飛ばした先……橋の上にたどりつく。

 ピクリと動く承太郎。まだ息があるようだ。

 

「間髪入れず、最後の攻撃だッ! 正真正銘最後の時間停止だ! 

 これより静止時間9秒以内にッ! カタをつけるッ!」

 

 横たわる男に宣告する。

 

「『世界』!」

 

 奴に動き出す気配はない。死んだふりでもして、ギリギリまで時間を稼ぎ我が油断を誘っているのか。本当に動けない可能性もあるが。

 

「くく……あれだ。いずれにせよ、これで……」

 

 承太郎の視界外に、いい『もの』があることに気づき、悠々と目的のものの前まで移動する。

 

「8秒経過! 時を止めようが、もう遅い! 

 脱出不可能よッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!!

 ウリイイイヤアアッー! ぶっつぶれよォォッ!」

 

 そして、それ……近くに止まっていた、戦車のように馬鹿でかい車輪をもつ自動車を持ち上げ、そのまま勢いよく地に伏したままの承太郎に投げつける。

 

「9秒経過! 

 やった……! おわったのだ! 『スタープラチナ』はついに我が『世界』のもとにやぶれさったッ! 不死身ッ! 不老不死ッ! スタンドパワーッ! フハハハハ! これで何者もこのDIOを超えるものはいないことが証明されたッ! とるにたらぬ人間どもよ! 支配してやるぞッ! 我が『知』と『力』のもとにひれ伏すがいいぞッ!」

 

 言いつつ、その死に様を確認してやろうと車を軽く持ち上げる。

 

「10秒経過! 

 フフフ、そして時を静止させることも10秒を超えた。どれ、ちょうどいい。

 承太郎の死体から血を吸いとっておこう……吸いとる血が残っていたならな……ん?」

 

 しかし、あるはずのものは、そこには存在しなかった。

 

「なッ!? これは……砂……!? はッ!」

 

 時は動き出す! 

 

「な、なんだ……これは……。どこへ隠れたッ!? 承太郎ッッ!?」

 

 苛立ちと共に辺りを見回していると、ゆっくりと我が耳に届く。

 

 

「……こうも簡単にひっかかるなんて、滑稽だね」

 

 

 不愉快極まりないその言葉に振り向くと……あの男が立っていた。

 

 

「花京院……!?」

 

 

「……」

 

『法皇』の花京院典明。

 

 半年程前だっただろうか? 

 それすらも、よく覚えてはいないが。

 

 スタンド使い同士はひかれあう。

 

 エンヤの言葉ではないが、まぁ、そういうことなのであろう。

 

 夜の街をいつもどおり空中散歩していたら、珍しい、『物』を見つけた。

 これは面白い。いい拾い物をしたものだ、と。

 

 東洋人風情が、こんなところをたまたま、生意気にも旅行などしているのが悪いのだ。

 己の不運を呪うがいい……いや、幸運の間違いか。

 

 戯れに声をかけてやったら、まさに蛇に丸のみをされる前の蛙のように……ゲロを吐くほど震えあがっていた。あの情けなく滑稽な姿はよく覚えている。

 

 『思い出』と共に抑えきれない嘲笑がこみ上げてくる。

 

「ククク……まさかもう一度現れるとはな。あの女のかたきでもとりにきたのか? 

 フハハハハ……そのような輩を返り討ちにしてやることこそ至高! 

 それともあれか? 自殺を志願するついでの特攻……というやつか? 死なば諸共と? 無駄無駄……おまえだけだ。死ぬのはな」

 

 いや、既に死んでいるに等しい。あの女の亡骸を腕に、魂の抜け殻のように打ちひしがれていた。そんな亡霊に一体何ができるというのか。

 

 そうだ。亡霊など、怖くはない。

 どんな人間も……

 

 

 死んでしまえば、それまでだ。

 

 

「あの砂はおまえの仕業か? おまえが手品まがいのことをしだした時には少々驚いたが……とるにたらん。なんの意味もなさん。やはりゴミはゴミよ! 道化師にはふさわしいショーだったがな!」

 

 それにしても呆れてしまう。我を倒す、という、甚だ夢見がちで完全に達成不可能な目標に、未だ固執している愚かさに。

 

 案山子のようにただ立ち尽くすのみ。返事をしない男に向け畳みかけるように吐き捨てる。

 

「そんなふうにのこのこ姿を現すとは……全く、なんの学習もしていないのだな。せっかく、このDIOが幾度となく学ぶ機会を与えてやったというのに……片腹痛いわ」

 

 館でも、車上でも。そして、ほんの数分前にも。

 光栄なことに、三度も我が『世界』を拝ませてやったにもかかわらずだ。

 骨身に、脳髄に、心底染みわたったであろうに。まだこうして性懲りもなくわたしに立ち向かってくるとは……

 

 やはりどこまでも愚鈍で、滑稽な男よ。

 

「……再び思い知れ! 『世界』!!」

 

(驚かせおって……が、こいつは放っておいてもなんら問題ない。

 ……死なない程度に痛めつけておいて、先に承太郎を殺るか。

 雛鳥とはいえ、時止めの可能性が僅かにでもある承太郎をな。

 せっかくだ。花京院にはその死に様をみせつけて……絶望の淵に再度叩き落した後にとどめをさすとするか。くくく……)

 

 幽波紋すら出さず、わたしからほんの5mほどのところで突っ立っている間抜けな男。

 先達てはあの小娘に邪魔立てされたが、今度こそ、と、そのどてっ腹に拳を突き立てるべく歩みを進める。

 

「……ん?」

 

 しかし、雷撃のようにそれは訪れた。

 

 突如、我が身を貫く『違和感』。

 

「な……なんだ? からだのうごきが、に、にぶいぞ……」

 

 身体が『なにか』にからみつかれているような……そんな感覚だけがあった。

 

「ち……ちがう……動きがにぶいのではない……う、動けんッ! 

 ば、ばかな! ま、まったく……か、体が動かん!?」

 

 もがけばもがくほどにその自由さは失われる。とうとう声帯を震わせることすら叶わなくなり、あまつさえいつのまにか自らの身体が宙吊りになっていることに気づく。

 

(な、なにが起きた!? いかん……じ、時間が!!)

 

 

 時が動き出す! 

 

 

「……まったく。蘊蓄が長過ぎてうんざりしたよ」

 

 

(なっ、なにィィ──ッ!)

 

 

「そして、やっぱり……滑稽だね」

 

 

(ば、ばかな! 花京院……!? どういう、ことだーッ!?)

 

 

「なぁ? DIO……」

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!

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