私の生まれた理由   作:hi-nya

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DIO戦終わって約3カ月程経ったあたりの話。学校にもちゃんと行っとるもんね! ガクセーはガクセーらしく、ですよ。という話です。……たぶん。


Calling

 ゴールデンウイーク直前……しかしながら曇った心と裏腹の卯月晴れ。そんなある日のことだった。

 

「あの、わたし、花京院君のこと、好……」

 

 今回は昼休みの屋上。

 

「申し訳ありません」

 

 どこだって同じだ。時刻も、場所も。

 これが放課後体育館の裏だろうが、早朝の校長室だろうが。

 

「は、早っ! え、えっと、どうして? 彼女はいないって聞いて……。あ、あの、お友達からでも……」

 

 答えなんて、決まっている。誰であろうと、同じなのだ。

 

「いえ。僕には……想う、ひとがいるので。貴女の御気持ちには、どうあっても御応えすることはできません」

 

 相手は、あなたではないのだから。

 

 変わるはずがない。変わってなど、くれない。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ひきつる表情。傷付けてしまったのだろう。

 

「……わかりました。ごめんなさい……」

「こちらこそ……」

 

 うつむきがちにその人はこの場から去っていく。

 

「……はぁ」

 

 共通点は、クラスのみ。特段会話を交わした記憶もない。よって僕には何の罪もない……はずだ。それでも罪悪感は拭えず溜息が漏れる。

 

 すると僕の内心に応えるかの如く、屋上の出入口がある建物の上から声が降ってきた。

 

「……あーあ。ったく、罪な男だぜ」

 

 馴染みのあるそれに心臓が飛び跳ねて停止しそうになる。

 

「うわぁあっ!! じ、承太郎!? き、聞いてたのか!?」

 

 彼は長身をひらりと翻し僕の隣に舞い降りると、心外だとばかりに……いや、撤回する。そうでもないかもしれない。いつものようにぶっきらぼうな調子で苦言を呈す。

 

「聞こえたんだ……昼寝の邪魔しやがって」

「というか、何故君がここに……?」

「願書の関係でな。書類を取りに来た。いい天気なんで、在学中を懐かしみつつ、一眠りしていたというわけだ」

 

 あの旅の後、春に高校を出席日数ぎりぎり、なんとか無事卒業した承太郎は、今秋米国の大学を受験予定だった。まぁ、実のところ、進級関連については、僕も人のことはまったく言えない身なのだが。

 『後始末』がひと段落し、再び僕らが日常に戻る……登校することができたのなんて、すでにほぼ学年末だった。よく考えたらDIOに肉の芽で意識を乗っ取られた転校前あたり、要は秋以降、ほぼまともに授業を受けていない我が身に降りかかる怒涛の補修&追試攻撃(いや、実際のところ恩赦なのだから感謝すべきなのかもしれない)を華麗に次々とパスした僕を誰か褒めて欲しいものだ。誰の為かって、自分の為であるのだが。

 

「はぁ……そうかい。そいつは失礼したね」

 

 呑気に欠伸をする男に向けて不服ながらも一応の謝罪の辞を述べると、彼は帽子をかぶり直しつつこんなことをいう。

 

「ふん……べつに、いいんじゃあねーのか? そんなに操を立てねーでも。そもそもぐーすか寝てやがるあいつが悪い」

 

「……。残念ながら、興味ないね。全くもって。……じゃあな」

 

 背を向ける。

 

「……おい。待て」

 

 歩き始めようとする僕になおも飛んでくる低い声。

 

「……なんだよ?」

 

 首だけで振り向きつつ返事をする。

 

「冗談だ。すまん。そんなに怒んなよ」

「……。はぁ、わかっているよ。そんなこと」

「いいや、目がマジだった。ったく、おまえ、あいかわらず、あいつのことになると弱いのな」

「……うるさいな」

 

 忌々しくも口の端でちいさく笑うと、男はさらに続ける。

 

「今日放課後、うちに来れるか? じじいが来ていてな。おまえに会いたがっている」

「ジョースターさんが!? そうなのか! もちろん、お邪魔させてもらうよ」

 

 そこで、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。

 

「おっと、じゃあまたあとで」

「おう」

 

 階段へ続くドアを開ける。束の間の別れの直前、届く呟き。

 

「……ったく、罪な女だぜ」

 

「ふっ……」

 

 まったくだよ。

 

 そんな届くはずのない僕の嘆きは閉まる扉の音に遮られ、消えた。

 

 

 

 

 

 教室に戻り、授業を受ける。5限目、6限目と、滞りなく終了し、さて、空条邸に向かおうかと立ち上がったところで声をかけられた。

 

「おい、花京院。ちょっといいか?」

 

 クラスメイトの木村だった。彼は気さくかつ陽気でおちゃらけた性格をしており、軽率な行動が目立ち失敗も多いが周囲にからかわれつつ、なんだかんだでクラスの人気者。そんな人物だった。今は故郷のフランスにいる、あの『電柱頭』彷彿とさせるような。最近なぜか僕に話しかけてくることが多く、不思議に思っていたのだが。

 

「なんだい?」

「ここじゃあ、話せねぇ。少し、顔貸せ」

「申し訳ないが、今日はこれから用事があってね。またにしてくれるかい?」

「……時間はとらせねぇ。頼む」

 

 そんな彼が、今日はめずらしく真面目な顔をしている……いや、怒っている? 

 

 溜息と共に、伝える。

 

「……仕方ない。手短に頼むよ」

 

 

 

 

 

「……で、どうしたんだい?」

 

 連れだって校舎裏に移動したところで改めて問うと、木村は逡巡した様子をみせつつも、重い口を開いた。

 

「……なんで、断ったんだ?」

「は?」

「決まってるだろ?! さやかちゃんのことだ!」

「さやかちゃん……? ああ……」

 

 昼休みの……そういう名前だったのか。それすら知らなかった。そんな我ながら若干見当違いの事柄を考えているうちに、男は息を巻く。

 

「花京院、おまえ彼女いないんだろ? いいじゃねえか! なんでだよ!?」

 

 先ほどのあの人が、なぜ僕に恋人がいない(いないんじゃあなく正確には眠っているだけだ。……と、いえたらいいのに)ことを知っていたのか、疑問に思っていたが、納得した。そういえばこいつがしつこく聞いてくるので「いない」とだけ言った覚えがある。

 

「……君には、関係ないだろう」

 

 そうだ。そもそもこいつに対しての説明義務など全くない。……はずが、男は追撃を仕掛けてくる。

 

「想い人ってなんだよ?!」

「……」

 

(しっかりあの人から聞いているんじゃあないか……)

 

 そういえば二人して五限目の授業を欠席していた気がする。

 いったい、なんだというのか……。

 

(……まぁ、なんか、わかってきたけど)

 

「誰だよ!? クラスのやつか?」

 

 そんな僕をよそに彼は追及を続ける。

 

「さやかちゃん以上の女の子なんていねえ! 付き合ってみたら絶対おまえも好きになるって! すっげえいいこなんだから!」

 

(おまえ『も』ね。ああ、やっぱりか……。なんだよ、こいつ……)

 

 どうしたものか、対処を考えていると、目の前の男は衝撃的な言葉を吐いた。

 

「いるってんなら、連れてこいよ!」

 

「……ッ!」

 

 呼吸が、止まりそうになる。まるで深海にテレポートしてしまったかのようだった。包み込まれる。真っ暗な感覚に。

 

「……」

 

「な、なんとか言えよ!」

 

 必死に感情を抑えつつ、懸命に口を動かす。

 

「今は……無理だ……。

 ……彼女は……、……夢の国、にいる。……いや、氷の国……かな……?」

 

「なんだよそれ! ふざけんな!」

「……ふざけてなど……いない……」

 

(……冗談だったら……、……どんなに……。

 ……連れてこられるなら……、……どんなに……)

 

 とおい……何処からなのかも定かでない光。つよければつよいほど、つくりだす影はふかく、くらく、ぐるぐると自分を取り巻いていく。

 

「……もう、やめて!!」

 

 すると悲鳴のような甲高い一声が場の膠着を切り裂いた。

 

「ハッ! さ、さやかちゃん!?」

 

 さっきから何者かの気配を感じると思っていたが、例の、さやか嬢のものだったようだ。

 

「やめてよ! なんなのよ! そんなことしたって、わたしが余計みじめになるだけじゃない!」

「うっ……!」

 

「木村の……バカーッ!」

 

「あっ! ま、まって……! さやかちゃん!!」

 

 涙ながらにそんな捨て台詞を残し、さやか嬢は駆けていく。

 

 そして、この馬鹿はというと、さらに馬鹿なことを言いだした。

 

「……花京院! 何してんだよ! 追いかけろよ!」

「はぁ? なんで僕が……」

 

 木村は泣きそうな声で続けた。

 

「なんだよ! いいじゃんかよ! ちくしょう! ただ……彼女に、幸せになってほしいんだよ。たのむよ……」

 

 声をつまらせながら言う男にどうにか訊ねる。

 

「……君は、君の気持ちを、伝えたのか?」

 

「っ! ……そんなこと、できるわけないだろ! 無理って、わかっているのに……オレは、あきらめるしかないのに!」

 

(……なん、だと……?)

 

「オレじゃあ、ダメなんだよ……おまえじゃなきゃ……!」

 

 項垂れる木村。

 

「……いいかげんにしろッ!」

 

 そして、とうとう僕の感情は爆発した

 

「なにが、あきらめるしかないだ! 

 なにが、無理ってわかっているだ! 

 ふざけるなだと……? それはこっちの台詞だ!」

 

 一度決壊したそれは、留まることを知らなかった。

 

「追いかけたら、つかめるかもしれないところに、いるのに……。

 僕が君なら、闘う前からあきらめるなんて、しない。

 ぜったいに、誰にも、譲らない……」

 

「……いいじゃないか。君は伝えられるだけ……。羨ましい、かぎりだ……」

 

「花京院……」

 

「まぁ、そもそも僕には関係ないことだ。君の自由さ。じゃあ、失礼するよ」

 

 

 

 

 

(ああ……余計なことを、言ってしまった……)

 

 重苦しい気分を抱えたまま校舎の角を曲がったところで、またもやなじみのある声が聞こえた。

 

「よぉ……お疲れだったな」

 

「うわああっ! じょ、承太郎ッ!? また聞いていたのか?!」

 

 指でキーホルダーをくるくるまわしながら彼はなんてことないことのように答える。

 

「おふくろに買い物を頼まれたんでな。車だし、ついでに迎えにきてやった」

「そ、そうか。ありがとう。しかし……暇なのか? 承太郎……?」

 

 なんたるデジャヴ。本日二回目。この親友の神出鬼没っぷりには本当に驚かされてばかりだ。

 

「まったく、なんだっていうんだ……まいってしまうよ、本当に……」

 

 駐車場に向かって、並んで歩く。

 

「おい……」

「なんだい?」

 

「……。泣くなよ?」

 

「……。泣くかよ」

 

 そうだ、涙を流す理由など、ない。

 

「僕だって、伝えてやるんだからさ。いつか、ぜったいに」

「……ああ。そーだな」

 

 承太郎が僕の背中をばしっとたたく。

 

「……ったく。やっぱり……なんつー罪な女だ……あいつは……」

 

「ふっ……。ほんとうにな……」

 

 

 

 

 

 連休明け、教室のドアを開けると僕を待ち構えている人物がいた。

 

「おはよう! 花京院! そして……すまん!!」

 

「えっ? あ、ああ、木村か。おはよう。いや、もういいよ。別に」

 

 むしろほじくり返したくもなく、固辞する僕の言葉も聞かず、やつは続ける。

 

「……本当に、すまない……。おまえの気も知らずに……オレ……。

 おまえの……好きな人が……まさか……その、亡くなっているなんて……」

 

「……はぁ!? し、死んでなどいないッ! 貴様、縁起でもないことをいうな!」

 

(冷静によく考えたら仕方のないことなかもしれないが、僕的には)とんでもないことを言う勘違い野郎に、つい声を荒げる。

 

「えっ? そうなの? だ、だってこないだの……」

「彼女は……、……事故……で、眠っているだけだ!」

「そ、そうなのか……」

「用事はそれだけか? ならさっさと自分の席に戻れ! ったく……」

 

 しかし、予想に反する言葉とともに、食い下がる男。

 

「い、いや、ちょっとまってくれ! その、礼を、言いたくて……」

「……礼?」

 

「実は……あれから、伝えたんだ。ちゃんと。おれの、きもち。

 ……今は無理……って、断られた」

「そうだったのか……」

「……でも、きもちの整理ができたら、かんがえてくれるって。

 ……まっててくれるか、って。オレ……がんばるよ。あきらめない。

 おまえのおかげだ。……だから……」

 

「……ありがとう」

 

「……そうか。……がんばれよ」

「ああ……」

 

 そうして、若干の照れくささを誤魔化すように木村は言う。

 

「そっちも、その、早く、ええと……起きるといいな、彼女さん」

「……そうだな」

「オレも会ってみたいなぁ。どんなひと? 花京院ほどのやつがそこまで、ってことは、さぞかし……」

「どんな、か……」

 

 瞳をとじて、おもう。

 あざやかにうかびあがる、そのすがたを。

 

「……ふつうの人だよ。たぶん、君にとっては」

「え? そうなの?」

 

「僕にとっては……、僕にだけは、『とくべつなひと』だけど、ね」

 

「へへっ……。なるほどね」

「フッ……」

 

「キスでもしてみたら? そしたら起きるかもよ」

「……もう、とっくにした」

「なっ!? 花京院おまえってやつは! まさか寝込みを!? なんてことを! このスケベ!」

「ち、違うッ! 勘違いするな! あれは、人命救助的な……その……あれだッ!」

「……プッ! 意外と純情……」

「う、うるさいな! 悪いか!」

 

 

 

 

 

 結局、この後しばらく経ってからだが、件のふたりは無事、お付き合いをするようになったらしい。

 

(まったく……なんで僕がこんな……。でも、まぁ……)

 

 仰ぎ、思う。

 

(……ありがとう、か。たまにはこんなのも、悪い気分では……ないかな。あなたのせいで、僕は少々、お節介になってしまったのかもなぁ)

 

 呼びかける。遥か悠久の蒼に。

 空は繋がっているんだもんね。そういっていた、他ならぬあなたにむけて。

 

(……ねぇ、仁美さん?)

 

 

 きこえていますか? 僕の愛しい『眠り姫』。

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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