「じゃあ、身体に気をつけて」
「おまえもな。じゃあな」
まだ残暑も厳しい夏のある日のこと。いつもどおりそっけない言葉を残し
彼は見事、希望するアメリカの大学に合格した。留学……というのも元々がハーフかつ祖父がニューヨーク在住の彼にとっては違う気もするが。
今日はそんな彼が米国へ発つ日であった。飛び立つ航空機を見ながら、思う。
(……やはり、寂しいものだ)
それぞれに新たな道をゆく。あたりまえのことだ。プラスな意味の別れではあるが、寂寥感は否めなかった。
(ずっと、ひとりだったのにな……)
こんな感傷が自分にあるとは知らなかった。おもわず笑ってしまう。会おうと思えばすぐに会える。物理的な距離が大きくなろうとも、彼と親友であることになにも変わりはない。そんなことはわかっているはずなのだが。
少し重い足取りで家路につく。が、真っ直ぐ帰る気になれず、すこし遠回りをすることにした。
帰宅してやることがないわけでは決してないはずなのだが。そもそも人の心配ばかりしている場合ではない。僕も高3……一応世間でいう受験生なのだ。試験が終わるまでは決して終わりのない、受験勉強というものが家で待っている。休みの度に日本全国、可能であれば海外へとちょいちょい調査に出かけているため、家で腰を据えてできるときには机に向かっておかねばならないわけではあるのだが。勉学や他のこともちゃんとやる、と約束したからにはおろそかにするわけにもいくまい。
とはいえそんなに無理をする気はない。志望校も決めているし、模試も合格圏内だ。すこしぐらいはまぁ、いいか……と自分を甘やかすことにする。
(あ……ここ、やっと、完成したんだ。喫茶店、昼はカフェで、夜はバーもやっているのか)
そして、一軒の店の前で立ち止まる。建設工事中なのは知っていたが、何ができるのかは知らなかった。普段と違う道を通ると、新たな発見があるものだ。
店の入り口には営業中の札がかかっていた。せっかくだから、入ってみるか。とドアを押し開けようとしたところで壁の貼り紙に気づく。
「『占い、人生相談、承ります』……?」
(どうしよう。胡散臭い……)
やはりやめておこうか。躊躇していると後頭部に衝撃が走る。
「ぬぁッ! いってッ!!」
同時にずしりと重みを感じる。なにかがはりついている?
「な、なんだ……!?」
はりついている『なにか』をつかんで引きはがす。髪の毛が数本もっていかれた。ちくしょう、返せ……! 返せよ……! もしや敵のスタンド使いに攻撃を受けたのかと思ったが、ちがった。
「くそ、いてて……。あっ! お、おまえはッ……!」
「わん!(よぉ、相変わらずしけたツラしてんじゃねーか。けけけ!)」
「い、イギぃーッ!?」
「ど、どうしておまえがここに?!」
「わふ!(さぁ、どーしてだろうな? けけけ)」
「ん? 待てよ、おまえ確か……」
今は仲間のうちの彼と行動を共にしていたはず……と思い至ると同時に気付く。
「……はっ!? 占い!? まさかッ!」
急ぎドアを押し開け、中に入る。カランカラン……とベルの音が響くと同時に聞きなれた声が僕の鼓膜を震わせる。
「やぁ。いらっしゃい」
「やっぱり……」
「ふふ、待っていたよ、花京院」
にやりと笑う、喫茶店のマスター。それはまさしくあの、彼であった。
「アヴドゥルさん……」
「な、なんで、ふたりとも日本に!?」
「まぁまぁ、座れよ」
促されるまま、カウンターに腰掛ける。
「さ、ご注文は? 何にする? しかたがない! お客様第一号だからな。マスターの奢りだ! 特別だぞ!」
(な、なんだ? このハイテンションは……)
聞きたいことは山のごとくあったが、ついその勢いに押されてしまう。
「じゃあ……紅茶を。ストレートで。茶葉の種類は、おまかせします」
「よし、わかった! 少し待っていろ」
待っている間、周りを見回す。なんともアヴドゥルさんらしい、イメージそのまま。アジアンテイストを基調にしつつも、店内は落ち着いた雰囲気であった。カウンターの向こうの壁には夜のバー用のものなのか、ウイスキー、リキュール、ブランデーといった様々な酒瓶がずらりと並んでいた。
そして、すみにはちゃんとイギーのものと思われる、クッションでできた小さな家が置いてある。いつのまにか寝床に戻り、家主は昼寝をはじめたようだ。
(それにしても、いつのまにこんな……)
「ほら、お待たせ」
「ありがとうございます。いただきます」
一口含んだ途端、茶葉のいい香りがいっぱいにひろがる。
「……」
あの旅のときと、少しもかわらないものが、ここにもあった。想い出が、よみがえる……。
(好きだったな……あなたも……)
あのひとは、紅茶もいつでもミルクティーで……。
──まったく、こどもなんだから──
なんて、よくからかっていた。……ほんとうは思ってもいないくせに。
そうしたら、彼女は……
──失礼な……私の方が年上なんだよ!──
なんていって、怒って……
でも、この紅茶を飲んだらすぐに、
──おいしいね──
と、僕にあの笑顔をくれて……
「……あいかわらず、絶品ですね。アヴドゥルさんの紅茶は」
「そうかい? ありがとう」
「さて、それはそうと……聞かせていただきましょうか?」
「ん? なぜ我々がここにいるか。ということだったかな」
「はい」
「カイロでの調査もひと段落したからな。休暇がてら、大好きな日本で念願だった喫茶店を開店することにした……というだけだ。あっちの店は姉者に任せておけば安心……というか実は姉者の方が人気で、居場所がなくなってしまったのでな。がはは!」
「……」
「まぁ、そういうことだから、これからはご近所さんだ! よろしく頼むぞ!」
「……まったく」
とはいえ、この美味しい紅茶がいつでも飲める……という口実のもと、
……ふたりにいつでも会うことができる、というのはとてもうれしかった。
様々な話をしていたらいつのまにか日は暮れ、いい時間になっていた。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ります。また、来てもいいですか?」
「ああ。もちろんだ! いつでも待っているよ」
立ち上がり、会計をしようとするが、「言っただろう? 今日は奢りだと。次からはちゃんともらうから」と、固辞されてしまったのでついお言葉に甘えてしまった。
「……」
去り際、ドアの前で立ち止まり気になっていたことを尋ねる。
「アヴドゥルさん、……ほんとうは?」
「……なんのことだ?」
「ほんとうは、なにか別の理由があるんでしょう? ここに来た」
するとアヴドゥルさんはわしわしと頭をかきながら、困ったような顔でこういった。
「はぁ、やはりわたしは隠し事が苦手なようだ」
「ふっ、そうですね」
「……かわいい不肖の弟子のいうことはきいてやらんといかんだろう? 師匠としては」
「!?」
彼女の『手紙』の一文を思い出す。
──ほかのひとはちゃんと彼が私のお願いをきいてくれているか、しっかり見張っていてくださいね──
「あ……!」
いつのまにかイギーが真下にいた。僕にとびかかってくるちいさな身体を受け止める。
「ガウ!(帽子野郎が日本にいなくなったら、てめーが寂しがんだろうってな。しょーがねぇからおれたちが近くにいてやんよ!)」
「ふたりとも……」
熱くなった目頭から零れようとするものを抑えながら、どうにか呟く。
「まったく、みんなそろって、過保護なんだから……」
こうして開店した、喫茶店『Hell 2 U』(……なんて名前だ。というかなぜ僕はすぐに気づかなかったのか……不覚だ)。ここを舞台に、僕らは様々な珍事件を体験、解決していくこととなるなんて……
このときの僕に、そんなの予想できたわけもない。
もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?
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読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!