私の生まれた理由   作:hi-nya

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HAPPY BIRTHDAY

「それじゃあ、お疲れ。おやすみ、承太郎」

「ああ」

 

 僕らは、今再びエジプトにいる。大学の夏休み、長期休暇を利用して。

 『あれ』から、あいかわらず僕は承太郎や仲間たちとともに、DIOの残党を討伐しつつ、あの例の弓と矢のことや、スタンド及びスタンド使いの情報を、集めていた。

 ちなみに、もちろん彼女や彼女のご両親と約束したように学業もきちんとこなしている。出席日数がぎりぎりなのは秘密だが。

 

 僕は、ただひたすらに探し続けていた。彼女を『治す』ことのできる、スタンド使いを。

 

 しかし、求めるものは未だ、手がかりすらみつかってはいなかった。

 

 就寝前に日記、というほどでもないが、今日一日の成果を記しておくのが日課になっていた。いつの日かこれが役に立てば、と、日付を記したところで、ふと気づく。

 

(あれ? 明日、いや、あと少しで今日だけど……誕生日じゃあないか、僕)

 

 もうすぐ、二十歳になる。なってしまう。

 あのときの、あのひとの年齢を追い越してしまうのだという事実に、時の流れの残酷さを痛いほどに感じてしまう。

 

(たとえ何歳になろうが、関係ない。あきらめるつもりなど、毛頭ないのだから)

 

 この気持ちも、時が経てば少しずつ風化してしまうのかもしれない。

 それが、恐かった。

 

 しかし、そんな心配など無用だったようだ。

 

 まだ二年? もう二年? わからないけれど……

 

 僕のこころのなかにあるこの想いは、鮮やかなまま、色褪せることなどなかった。

 

 あのときのまま、いや、行き場を失った想いは、募って、ふくらんでいくばかりだった。

 

「いったいどうやったら、会えもしねぇ女を、そんなに想い続けてられんだよ……。か」

 

 前に親友が、めずらしく少し酔っているときに溢した言葉を呟いてみる。

 

(そんなの、僕の方が知りたいよ)

 

 別に無理をして忘れていないわけではない。

 忘れられない。それだけだ。

 

 女々しい思いに支配されそうになる。

 もう寝てしまおうと、目を閉じる。

 

 

 

(……逢いたい。こえが、聴きたい……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……かきょういんくん……」

 

 

 

 

 

「……花京院くん?」

 

「……はっ!」

 

 呼ばれるこえで、目をあける。

 聴き間違うものか、この、こえ。

 

 ずっと聴きたくてしかたのなかった、このこえを。

 

 

「……ひさしぶり」

 

 

 求めてやまなかった、愛しきひとのすがたがそこにはあった。

 

 

 

 

 

「あまり、変わらないね。あ、でもすこし、背が伸びた?」

 

「あ……!? え??」

 

 僕は、この事態にとても混乱していた。

 ちなみに彼女の言う通り、たしかに僕の身長はあれから2cm伸びて180cmの大台に到達していた。

 

 しかし、僕が驚きと戸惑いで声も出ない様子をどうやら彼女は違う風にとらえたらしい。

 

「あ、あれ? も、もしかして、忘れちゃった? 

 あの、私……えっと、前に一緒に旅をさせてもらっていた者なんだけど」

 

(……そうくるか。相変わらず予想の斜め上をいく……)

 

 おかげで再会の感動とかそういうのがどこかへいってしまったではないか。

 

「わかりますよ。あなたも、ちっとも、変わらないな……仁美さん」

 

 どうやら、本気で忘れられていると思っていたらしい。僕のそのことばに、心底ほっとしたような、そしてすごくうれしそうな、そんな表情をうかべる。

 

(忘れるわけ、ないだろう。忘れられるわけ……)

 

 あいかわらずだ。ほんとうに、このひとはちっともわかっていない。

 

 そのくせ……いつも。

 

「……夢、か」

 

(というか、ここ、日本の僕の……?)

 

 出した結論を呟く。あたりを見回し確認できたのは、先程目を閉じる前に見ていた見慣れないカイロの宿の一室ではなく、つい先日日本を出立したときのままの見慣れた我が家の見慣れた部屋だった。

 

(やっぱり夢か。しかし、それにしては、やけにいつもよりリアルだ。この天然具合……)

 

 彼女が夢に出てくることなんて、しょっちゅうだった。

 

 それはあの旅の思い出をなぞるものであったり、『あの瞬間』のフラッシュバックであったり……もしくは、とてもではないが、だれにもいえないような内容であったりもした。

 

 しかしどれも結末は……。

 

 でもそれでもよかった。

 悪夢でも、なんでも。逢えるなら。

 

 

「ここはあなたの夢。だけど、夢じゃあないんだ。私は」

 

 そして、またよくわからないことを言い出す彼女。

 訝しげな表情の僕をよそに、彼女はつづけた。

 

「セシリアに御願いして、連れてきてもらったの。どうしてもあなたに、伝えたいことがあって」

 

「伝えたいこと? なんですか!?」

 

 おもわず詰め寄る。警告、誰かに危険が迫っているとかそういう類いのことだろうかと思った。

 

「……っ! えっと、あの……ね」

 

 しかし、しばし言いよどんだ後、彼女の口は僕にとって予想外の言葉を紡ぎだした。

 

 

「……お誕生日、おめでとう」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 まっしろで、なにもない。

 

 ここが私の、いま、いる場所。

 

 どのくらいの時間が経ったんだろう? あの、瞬間から。

 もう、まったくわからない。

 

 みんなは……あのひとは……どうしているのかな? 

 

 元気だったら、それでいい。

 

 

「マスター」

 

 一羽の小鳥がふわりと私の肩でその薄桃色の羽を休める。

 そう、私はひとりじゃあない。

 相棒、セシリアがいる。だから……さびしくない。

 

 彼女がいうには、ここは私の意識の底の底で、この『私』はその、意識のかけら。脳に不可逆的な損傷を負ったことで、表……現実には出られなくなった意識。

 『現実の私』がずっと『夢』をみているようなものらしい。

 セシリアは『夢』と関わりが深いスタンド。

 だから、私の代わりに外の世界を視ることができるそうで、時にその様子を教えてくれる。

 

「どうだった?」

「ええ。家族も、仲間たちも、かわりはありません」

「そっか、よかった」

「相変わらず、みな、あなたを目覚めさせる方法を探してくれているようです」

「……そうなんだ。もう、いいって……言っておいたのにな……」

 

 涙が一筋、こぼれる。

 うれしい反面、やはり足枷になっているのだ。自分は。

 

(もう、いっそのこと……)

 

「……馬鹿なことを考えないでください」

「っ! ご、ごめん……」

「いえ……」

「そうだよね! 生きていて、こうしてみんなのこともわかるんだし。それで充分って思わなきゃいけないよね」

「……」

「もっと、外のこと教えて! 今って季節は? 何月くらい? 

 あれ……? 私って……どれくらい眠ってるんだっけ……?」

 

「……あれから、約二年半。季節は夏。現実世界では……」

 

「え!?」

 

 その日にちをきいて、胸がどきりと音をたてる。

 

「どうしたんですか?」

 

「明日だ……誕生日」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 わたしはセシリア。彼女の、幽波紋(スタンド)

 

 主を護る。それが使命。それはずっと、変わらない。

 

 あれから、マスターはずっと、この世界にいる。

 心が、かなり弱っている。

 無理もない。いつまで続くのか、わからない。永遠に感じられる時間を、なにもない、ここで、孤独に過ごしているのだから。

 なんとかしたい。なんとか、しなければ。

 

 ここでの心の死は、すなわち……。

 

 現実世界の様子を伝えるのは逆効果なのかもしれない。しかし、それくらいしかいまのわたしにできることなど思いつかなかった。

 

 そんな中、現実の日時を伝えたとき、主の顔に、久しぶりに生気が戻った。……かと思えば、また沈んでしまったようだ。

 

「誕生日? 誰のですか?」

 

 問うも彼女はうつむいたまま、答えは返ってこない。

 

「……いえ、わかりました」

 

 しかし、聞くまでもなかった。

 彼女の想い人……命を懸けて護ることを選んだ、『彼』の、であろう。

 

「二年半か……。お祝い、するねって、約束……したのにな……」

 

 彼女の頬に再び、涙がつたう。

 

「ご、ごめん! なんでもない、なんでもないから! そうだ! ここから! 伝わらないけど、せめておめでとうって思うことに……」

 

 慌ててそれを拭い『わらう』彼女に問う。

 

「……伝わらなくて、いいんですか?」

 

「……セシリア?」

「伝えたいんでしょう?」

「……ううん、そんなの……」

 

 望んではいけないこと。そうかもしれない。それでも。

 

「教えてください。正直な気持ちを」

「……」

「いいから」

 

「……、た、い……」

 

 大粒の涙が、一粒、また一粒と零れ落ちる

 

「おめでとう、って……いい、たい……! 

 ……逢いたい、よ……!」

 

 彼女の、心の底からの言葉とともに。

 

 それをみて、わたしは心を決める。

 

「……行きますか? 伝えに」

「え……?」

 

 

「記憶には、残らない。それでも、いいなら」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「……お誕生日、おめでとう」

 

「……はい?」

 

 なにかの舞台から飛び降りるかのように、おもいきってそういうと、彼からはそんな、なにかが豆鉄砲を食ったようなリアクションが返ってきた。

 

「あ、あれ? もしかして違った!? も、もう、零時すぎてるよね!? 今日じゃなかったっけ?!」

 

 あわてふためきつつ、訊ねる。

 セシリアに無理を言って、ありったけのスタンドパワーを使ってここに連れて来てもらったのに。間違えていたとしたら間抜けすぎる。なにより彼に失礼だ。

 

「そうです……。そうですけど……」

「よ、よかった。だよね。そうだよね!」

 

 ほっと胸をなでおろす。

 

「……それだけ?」

「うん」

「それだけのために……?」

「う、うん。ごめん……

 でも、どうしても……! どうしても、伝えたく……て……ッ!?」

 

 いいおわる前に、私はすっぽりと彼のうでのなかにおさめられていた。

 

「まったく、あなたってひとは、やっぱりだ。

 どうして……こう、いつも……!」

 

「……」

 

 涙がこみ上げてくる。

 

 ずっと、ずっと、求めていた。あたたかい……。

 変わることのない、だいすきな、彼。

 この……こえ。まなざし。ぬくもり。

 

 逢いたかった。ずっと。

 逢いたくて、しかたがなかった。

 

 こうしてまた、抱きしめてもらえるときがくるなんて。

 

(ああ、いけない。やっぱり私、またもらってばかりだ……)

 

 今回は私が彼の誕生日を祝いにきたはずなのに。

 

「ごめんね、プレゼント、なにもなくて」

 

(あそこ、なにもないからなぁ。時間だけはあるのに)

 

 お祝いすると約束した、あの星降る夜。

 なにをあげようか、がんばってかんがえると、きめたのに。

 

(今の私にあげられるものなんて、なにも……)

 

 そんなふうに落ち込む私に、投げかけられる。

 

「またそんな、すっとぼけたことを……」

「す、すっとぼけ!? ひ、ひど……」

 

「僕の、ずっと、ほしかったものが……

 いま、このうでのなかにあるのに?」

 

「え……っ!? そ、それって……?」

「あーもう、わかりました! はっきりいいます……」

 

 ひとつ、ふかく息を吸い込む彼。

 そして、じっと、まっすぐに瞳をとらえられる。

 

「仁美さん、あなたに逢いたかった。

 僕がほしくてしょうがなかったのは、ずっと……あなた、だけだから」

 

「……花京院く、ん……」

 

「これ以上ない……最高の贈り物です。

 ありがとう。逢いにきてくれて」

 

「……っ!」

 

 涙があふれて、とまらない。

 

 

 どうしてだろう。

 

 うれしいのに、うれしくてしかたがないのに、どうしてこんなにかなしいのだろう。

 

 どうして、こうなってしまったのだろう。

 

 どうして私は……彼のそばでいま生きられないのだろう。

 

 どうして……

 

 

「泣かないでくださいよ。せっかく、逢えたのに……」

「そうだね。って、自分だって……」

 

 お互いの、涙をそっとぬぐう。

 そうして、また、きつく抱きしめ合う。

 

 

 どうしたらいいんだろう。

 

 後悔したくない。……もう二度と。

 

「……」

 

 おもいうかんだ。うかんでしまった。

 ひとつだけ。あった。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ……いや、()()()()()()()()が。

 

 ここは『彼の夢』。……でも、『私』は……

 

 相棒の言葉が、響く。

 

 

 ──記憶には──

 

 

(……だからって……いう、わけでもないし……)

 

(……だからって……いい、わけも、ない)

 

 

 わかっていた。そんなこと。

 

 ほんとは、こんなこと……だめに、きまっている。

 

「……っ!」

 

(……でも……それでもっっ!)

 

 堰切って、あふれだしてしまった想いは、とめることができず……

 

 

 私の背中を、押した。

 

 

「……じゃあ、もらって、くれる?」

「? なにを?」

 

 

 

「……私の、こと」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「い、いま、なんて!?」

 

 聞き間違いかと、おもった。

 

「……あなたが、望んでくれるなら。

 その、私は……あなたに……もらって、ほしい……」

 

 しかし、僕の胸にかおをうずめ、耳まで真っ赤に染めながら、彼女はそんなことをいう。

 

「そ、それは……! その、ど、どういう……?」

「な、なんかいも、いわせないでよ……!」

「す、すみませ……」

 

「っ……、私だって……。ずっと……!」

 

 

「……あなたしか、いらない……!」

 

 

「あなたのことが、す……! っ……!?」

 

 その言葉を彼女は最後までいうことができなかった。

 

 

 ……僕が、塞いでしまったから。

 

 

 

 

 

 もう、言葉など必要なかった。

 

 僕たちは互いに求めあい、与えあった。

 

 もうなにも考えられなかった。

 

 ……このひとのこと以外、なにも。

 

 すがた、こえ、かおり、あまさ、やわらかさもぬくもりも。

 五感を総動員して彼女のすべてを感じた。

 

 そして彼女に刻み付けた。

 僕のすべてを。

 熱く、激しく、深く……。

 

 このまま、とけあって、まじりあって……

 

 ほんとうにひとつになってしまえれば、いいのに。

 

 そうすれば……

 

 

 もう、はなれなくて、すむのに……

 

 

 

 とろけるような時間は、あっというまにすぎていく。

 

 おわってほしくなかった。いつまでも、さめないままでいてほしかった。

 

 

 時が止まってくれたらいいのに。

 

 

 ……というのはなんて、皮肉だろうか……

 

 

 

 

 

 

 

「また、ここで……逢えるかな?」

 

「……」

 

 彼女はだまったまま、あいまいに微笑む。

 

「……そうか。じゃあ、ひとつ……約束して、ほしい」

「……うん。なに?」

 

「……あきらめないで。僕も、あきらめない」

 

「……っ!」

 

「信じてほしい。

 かならず、迎えに行くから」

 

「……うん、……うんっ! 信じて、る!!」

 

 強くうなずき、彼女は泣きながらも、笑顔をくれる。

 

 僕のだいすきな笑顔を。

 

 

「……じゃあ、『また』」

「うん、『また』……」

 

 

 そうして、彼女の姿は消えた。

 

 

 

 

 

「……セシリア! いるんだろう! セシリア!」

 

 すぐさま、僕は叫ぶ。

 

「……頼む! 消してしまわないでくれ! 

 僕から、奪わないでくれ!! この、記憶を! 

 頼む、から……!」

 

「……お久しぶりです。花京院」

 

 すると、久方ぶりにみる、薄桃色に輝く美しい鳥が僕の前に舞い降りた。

 

「奪うだなんて……わたしはなにも、いじわるでやっているわけではないのですよ」

「セシリア……」

 

「あなたも痛いほどわかっているでしょう? 

 夢が幸せであればあるほど、目覚めたときの喪失感は……。

 あなたは、それに、耐えられるのですか? 

 あなたに、そんな思いをさせるのは、彼女の本意ではない。

 これにより、あなたをさらに、縛ってしまうことも……。

 だから記憶は、消させていただきます」

 

「そんなことは、よくわかっている! それでも僕は……!!」

 

「これは、わたしが……

 貴方のためではなく、彼女のためにやったことなのです。

 弱くなり消えてしまいそうだった彼女の心を、護るために。

 利用してしまい、申し訳ないですが」

 

「それに、もしも、貴方がいつか彼女を目覚めさせることができたとしても……

 そのとき彼女はこのことを、忘れてしまっているのです。

 今のあの彼女はいわば幽霊のように儚い存在。

 そんな状態での記憶など、いうまでもありませんね。

 だから、貴方も忘れるべき……」

 

「……」

 

「……なのですけれど。

 夢。それとわたしは深い関わりがある。

 ……が、本分ではないんですよ。

 花京院、貴方がいつぞや闘った『死神』ほどにはね」

 

「っ!」

 

「ですから……『失敗』してしまうかもしれませんね。

 そこまで強く想われては。こまりました。ふふ」

 

「セシリア!」

 

「わたしも、『信じて』いますよ、花京院。

 なるべく早く、迎えに来てあげてくださいね。

 わたしの親愛なる主を」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「おはよう、承太郎」

「よお……ほら」

 

 なにか袋を投げてよこされる。

 

「え? これは?」

「花京院、おめー、今日誕生日だろ?」

 

 そういえば昨日なにやら街で買っていたのはこれか。

 いつもそっけない親友の、さりげない心遣いに嬉しくなる。

 

「……ありがとう」

 

「それにしても……どうしたよ? 

 今日はやけに、なんつーか……いいツラしてんじゃねーか」

 

「……そうかい?」

 

 想いを馳せる。あの、しあわせなときに。

 

 そして、鋭いのは相変わらずな、この親友。

 

「なんかいい夢でもみたか?」

 

「……ああ。そうか。そう、かもね」

 

「は? なんだそりゃ?」

「フッ、なんだろうね? じゃあ、いこうか」

 

 

 

 夢。

 

 すべては、ただ僕の願望がかたちになったもの、誕生日がみせた夢だったのか。

 

 それとも……。

 

 

 どちらでも、かまわない。

 

 どちらにしても、かわらない。

 

 

 僕は、あきらめない。

 

 かならずあなたを、迎えに行く。

 

 

 

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。マスター」

「ただいま、セシリア」

 

 いつものばしょ、にもどってきた私。

 いつものようにふわりふわりと佇んでいる相棒に、恐る恐る、問う。

 

「……あ、あの……」

「どうしました?」

「……みてた?」

「なにをですか?」

「えっと……、その……」

 

 言い淀んでいると、相棒はとんでもないことをいう。

 

「あぁ、あなたと花京院のセッ……」

「わぁあーーー! は、はっきりいわないでーーー!!」

「……マスター、わたしはあなたのスタンドなんですから……」

「そ、そっか、そうだよね……。

 いや、あの、まさかね、その……。そんな展開になるとは……」

「なりますよ。そりゃあ。

 愛しあう若いふたりの約三年ぶりの逢瀬なんですから。

 織姫と彦星の三倍ですよ。三倍! そりゃあもう、激しく熱くもえあが……」

「わぁーああー!!」

「別にいいじゃあないですか。

 ほんとうにヤったわけでもなし……」

「や、やっ……!?」

「あなたは意識、彼も意識。心と心がつながっただけなのですから」

「そ、そう……なの、かな?」

「そうですよ。現実のあなたの処女膜は無事です。

 近い将来、ほんとうにするときに花京院によからぬ疑惑をもたれる心配はないので安心してください」

「しょっ!?」

「ああ、でもあなたはもう一度、あの破瓜の痛みに耐えねばいけないわけですね。

 ご愁傷さまです。痛かったでしょ?」

「……う、うん、まぁ」

 

 たしかに、あれは、痛かった……。

 彼はすごくやさしかった(……はず。他なんて知らない……知る気もない……ので、わからないけれど)のに。腕が呑み込まれたあの時より、炎で焼いてもらったあの時よりも痛いことが、この世の中にあるなんて。

 

 でも、それいじょうに……

 そんなのどうでもいいくらいに……

 

 ……うれしかった。

 

 おもいだして、ついにやけていると、相棒がまたとんでもないことをいう。

 

「それでも二回目以降はすぐに快楽に変わっていったようで……よかったですね。そっちの相性も良くて」

「わーーーーーっ!!? 

 だからなんでいちいち、ぐ、具体的なこというの!? な、生々しいッ!! 

 セシリア、そんな性格だったっけ……?」

「重ねていいますが、わたしはあなたのスタンド。

 スタンドと本体は一心同体……」

「……私のせいーッ!?」

 

「ふふ。瞳に生気がもどりましたね、マスター。安心しました」

「あ……」

 

「……よかったですね」

「うん。ありがとう。セシリア」

 

(しあわせすぎるよ……ほんとうに)

 

「ただ、あの、御願い、セシリア……」

「なんですか?」

「母さんには……内緒にしといて」

「ふふ、どうしましょうかね」

 

 

 

 逢えた。それだけでも、じゅうぶんだったのに。あんな……。

 

 

 

 ありがとう。

 

 信じて、まってるね。

 

 

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!

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