私の生まれた理由   作:hi-nya

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というわけで、いい加減探せよ! というお叱りの声に応え、ちゃんと探しとるんよ! の回。探索パート、情報収集フェイズです。君を探し彷徨える碧い花京院。DIO様の部下たちをたずねて三千里です。ダイジェストでお送りしますので、時間軸的には一応前話(二年半後)の続きから入って、回想(DIO戦直後~)を経てまた三年半後へと流れます。うん、わかりづらい!すみません。



pilgrim

(ここか……)

 

 待ち合わせ(ランデヴー)の場として彼から指定のあったアスワン市内、鄙びた学校の図書室のドアを開ける。

 歩みを進める度、自らの靴音だけが響き、舞い散る埃が窓から差し込む日光を反射しきらきらと輝く。室中は無人であった。唯、一人の少年を除いては。

 

「……おひさしぶりなのです。みどりのお兄さん」

 

 今回のエジプト訪問の主目的、僕は『彼』との再会を果たしていた。

 

「やぁ、ひさしぶりだね……ボインゴ君」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

『昨日の敵は今日の友』

 

 アヴドゥルさんのお姉さん、アイシスさんのお告げによると、以前の敵対者……すなわち、ぶちのめしたDIOの元配下達の中に『さがしもの』をみつけだすための鍵を握る者がいる……そういうことになる。

 

「あいつら今、どーしてんだぁ? ってか、何人いたっけ……?」

 

 国へと帰る前のポルナレフの台詞である。

 

「そうくると思ったよ。ほら」

 

 そんな彼の疑問は織り込み済みであった。僕は手帳を取り出し、即刻調べた『奴らのその後』をまとめたページを開く。

 

 

 ・塔:再起不能(介護施設入所中)

 ・月:消息不明(海の藻屑?)

 ・力:財団管理下の動物園へ。調教中。

 ・悪魔:消息不明

 ・節制:再起不能(入院中)

 ・吊男:地獄在住(推定)

 ・皇帝:消息不明

 ・女帝:再起不能(入院中)

 ・車:消息不明

 ・正義:肉の芽死

 ・恋人:再起不能(入院中)

 ・太陽:再起不能(入院中)

 ・審判:再起不能(入院中)

 

 ・テフヌト女神:再起不能(入院中&歯科医院通院中)

 ・ゲブ神:自決。

 ・クヌム&トト神:改心。

 ・アヌビス神:河底? 

 ・バステト女神:再起不能(入院中)

 ・セト神:ふっとばしすぎて消息不明

 ・オシリス&アトゥム神:精神崩壊。

 ・ホルス神:爆発。

 

 とはいえ、このように、半数以上が消息不明だったり、すでにこの世にいなかったり、そもそも猿だとか刃だとか、人格崩壊したとかでコミュニケーション不可だったり……。

 

 しかし数少ないというか、現在ある唯一の手がかりなのである。諦めるわけにはいかない。

 僕はそのときそのときで空いていた仲間とバディを組み、居所がわかっているものから順に、しらみつぶしに当たっていった。

 

 

 

 

 

「よぉ……」

「お、おまえらは!?」

 

 そうしてまずやってきたのはシンガポールのとある病院。

 

「アゴをつなげる手術は無事終わったみてーだな」

 

 割った張本人(承太郎)がしれっと言う。

 

「ふ、ふん。ついでに整形までしてやったぜ。ハンサム顔が2割増しだろう? へへ……」

「元を覚えてねぇ」

「……」

 

 そんなラバーソールについツッコミを入れる。

 

「いや、おまえなら、わざわざそんなことしなくたって、好きな顔に化けられるんじゃあなかったのか? ほら、僕の時みたいに」

「あ……」

 

「「……」」

 

「そ、そんなこまけーこたぁ、いいんだよ! なんだよ、今さらよぉ」

「情報が欲しい。スタンド使いの情報が。居場所、その種類や能力……おまえの知る限りを教えてくれないか?」

 

「……」

 

 ヤツはしばらく黙りこくったのち、にやりとこういった。

 

「……いいぜ。他ならぬアンタらの頼みだ。教えてやる」

 

 瞬間、迸る殺気。

 

「……なんていうと思うかよッ! 死ねッッ!!」

 

 男がスタンド……ゲル状の黄色い肉片を飛ばしてくる。

 

「……スタープラチナ・ザ・ワールド」

 

 

 

「いってぇえぇぇ! な、なんで!? 急に!?」

 

 厳かな一言が聞こえるやいなや、せっかく整形したはずの男の顔がまたも無残に変形していた。

 流石は頼りになる男。手が早い。……そういう意味ではない。無論、物理的にだ。

 

「変わんねーな、てめー。いいか? もう一度だけ言う。知っているスタンド使いの情報を教えろ」

 

「ひぃぃぃい! し、しらねーよぉ! おれが知ってるのはあの館で会ったことあるやつくらいだよ! 能力なんてなおさらだ! 前にも言っただろ! 例え仲間でも、教え合ったりしねーもんだって! 実際闘った事のあるアンタらの方がよっぽど詳しいんじゃあねーのか!?」

 

「そうか……」

 

 確率が低いことなどわかりきってはいたが、やはり落胆の色が滲んでしまう。

 

 そして、どこまでも懲りない男。

 

「……油断したなッ! 今度こそ、死ねッッ!!」

 

「オラァッ!!」

「ぐあああぁああ!!」

 

「ほんとに変わんねーな……」

 

 

 

 

 

 変わんねーといえば、続いて向かったパキスタン、カラチにて面会したこの最低野郎も、であった。

 

「ひゃはは! やった! あの看護師の耳の中に入った! 動くなよぉ! 動くと……あれ?」

 

「……甘いね」

 

 久方ぶりに小さくした法皇(ハイエロファント)の細長い触手で、男のスタンドをぐるぐる巻きにしてやる。

 

「う、動けない……!? オレの方が!?」

「ふん、あいかわらずの勉強……今度は『復習』不足、というやつだな」

 

 承太郎が隣でにやりと笑う。

 そして僕は、スティーリー・ダン(こいつ)といえば、非常に重要な案件があることを思い出す。

 

「そうそう。貴様に関しては本件とはまた別で、個人的な用事があるんだった」

「ハッ!」

「聞いているよ? 貴様がジョースターさんを盾に……彼女に無理矢理何をしようとしたか。まさか忘れたとか、言わないよね?」

 

 にっこりと法皇を構える。

 

「未遂とはいえ、ひとのもの(※予定)を奪おうとしたその罪……万死に値する。賠償責任は果たしてもらおう……」

 

「ぎゃひーッ!!」

 

「……」

 

 仕置き後、さらさらと取り出した紙に文字を綴り、ぴらぴらと男の眼前に突きつける。

 

「はい、これ。ツケの領収書だよ」

 

「花京院、おまえ、それが言いたかっただけだろう? だれに聞いたよ……」

 

 今度は呆れたように呟く承太郎。

 

「ん? そんなの言うまでもないだろう?」

「ああ、そうだな。聞くまでもねーな……」

 

 改めて転がっているダンに訊ねる。

 

「よし、知っていることを洗いざらい話せ。スタンドのこと、矢のこと……なんでもいい」

「ひぃ! お、オレが知っているのはスタンドのことをDIOに教えたのも、あの矢を持ち込んだのもあのばばあだってことくらいで……」

「ふむ、あの婆さん、その道にかなり通じていたようだからな……」

「こいつの手にかからなければ、あのお婆さんの持つ情報は非常に魅力的だったんだが……」

「嘆いていてもしかたねぇことだ。次行くぞ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 そんなふうにしおらしい態度で改心したかにみせかけて、襲い掛かって来る者が続いたが……

 

「ひぃぃぃぃ! こ、来ないでくれ! オレはなにも知らねぇ! もうこりごりだ! あんたたちやDIOになんて、二度と関わりたくなんてないんだよぉぉ!!」

 

 こんなふうに怯えきって逃げまどう男……『太陽』のアラビア・ファッツもいた。

 話にならないのはどちらも同じだったが。

 

「え!? オレの出番、またこれだけ!?」

 

 

 

 

 

 そして、ある意味まさに『はなし』にならなかったのがこの女性……

 

「ふぁはひは、はひほしあ……」

 

「……とりあえず、早く歯医者に行け」

 

「ひょうひゃろう! ひょほひょほほまへのへい……」

 

「「……」」

 

『テフヌト女神』のミドラー。『歯なし』で話にならなかった(は? さむい? よかったな。暑気払いになって)。

 歯は一生モノだ。その大切さが身に染みてわかっただけだった。

 

 

 

 

 

 そんな中、まぁ、かろうじて話にはなったのが、他の女性陣だった。

 思い返してみると、何故か女性スタンド使いとばかりやたら縁のあった彼に同行してもらっての面会になった……のだが……。

 結論から言うと、僕的には正直もうあまり振り返りたくない。そんな訪問になってしまった。

 

 

 

 

 

「……ちゅみみーん、か」

「はい。ちゅみみーん……です」

 

 直接耳にしてはいないが、あの戦闘にて散々聞かされたのだろう。ジョースターさんと彼女が揃ってしばらくの間何かにつけて口にしていたため、僕にも結局うつってしまった。そんなやたらと感染力のある女性の口癖(あるいはスタンドの鳴き声なのだろうか? 定かではないが)をふたりで確認しつつ、病室のドアをノックし開ける。

 ひとり佇む女性。その姿は当時とは似ても似つかぬものであった。

 

「他のスタンド使い? 知らないね。あたいはホルホース様に言われるまま、あんたたちを襲っただけだ」

「ちなみに、そのホルホースなんだが……消息が掴めない。何か知らないか?」

「しらないよ。あの人いろんな街にアジトを持っていて、世界中飛びまわってばかりだったからさ」

 

 うつむき、呟く。その頬に涙が一筋、流れる。

 

「……でもいつかきっと、あたいを迎えに来てくれるはずなんだ……。

 ……そうに、きまってるんだ……」

 

「……このお嬢さんも、ある意味被害者なんかもしれんのう」

「ええ……」

 

 そう零したあと、ジョースターさんは優しく女性に囁く。

 

「ネーナさん、じゃったな。他人の皮を被るのは、やめたんじゃな。

 その方が、実にキュートじゃあないか! 自信を持ちなさい。きっと君の『本当』を好いてくれる男がすぐに現れるよ」

 

「……」

 

 しばし黙って俯していた女性だったが、ふいに顔をあげた。

 

「……おじさま……!」

「……へ……?」

 

 その眼はなんだか輝いていた……ぎらぎらと。そして、その口からは甚だ衝撃的な一言が飛び出す。

 

「あたいの次の恋の相手は……おじさまにする!!」

「はぁ!?」

 

 先程までの殊勝な様子とは180°うって変わったその態度。『女心と秋の空』とはまさしくこのことか。

 

「き、気持ちは嬉しいが、わ、わしには妻子がおるし、その、君は娘、いや、孫ほどもも年下……」

「大丈夫! 年の差も、奥さんのことも、気にしないわ!」

 

 後ずさる男。詰め寄る女。

 

「さぁ、ダーリン……誓いの熱いベーゼをッッ!!」

 

「ひぃいいっ! に、逃げるぞ、花京院ーッッ!」

 

 

 

「はぁ、はぁ! こ、怖かったよう! 喰われるかと思ったよう!」

「な、泣かないでくださいよ……」

 

 迫りくる巨大な口にガオンされる直前、紫の茨を窓から伸ばし命からがら逃げ切った(無論念の為僕も同時に逃げた)、僕にすがりついてくる情けない色男に苦言を呈す。

 

「まったく、自業自得、というやつですよ。女性にあんな歯が浮くような台詞をほいほい言うから……」

「はぁ!? お、おまえにだけは言われとうないわ!」

「は? 僕は彼女以外の女性にそのような発言をした覚えはまったくありませんが……?」

「あー、そうですか! そうですね!!」

「あ、今後するつもりも一切ありませんよ? 言うまでもないですが」

「わかっとるわ! ふーんだ! ばーか、ばーか!!」

「何怒ってるんですか……。完全八つ当たりじゃあないですか。そして、その悪口レベル……小学生か……」

「……このむっつりすけべ! 変態紳士! ストーカー!!」

「なにぃ!? それは聞き捨てならん! そこになおれ! 成敗だ!!」

「べぇーだ! やーいやーい! ここまでおいでーだ!」

 

 そうして、再び僕達はベナレスの街を走り回る羽目になったのだった。

 

 

 

「……い、いたい……ッ! 身体中が……動けん……ッッ!!」

「……だから無理するなって言ったのに」

 

 翌々日、案の定、遅ればせながら彼の全身を襲った筋肉痛から復帰するのを、宿で介抱しつつ待つ羽目になった……これもまた言うまでもないことだろうか。

 

 

 

 

 

「知らねーよ! 知ってても教えねーよ! このビチクソがぁ!」

 

 続いてやってきたのはルクソール。そのスタンドで鉄製のスプーンをフワリと引き寄せ、『バステト女神』のマライヤはプリンを食べつつ汚い言葉を吐く。

 

「レディ……失礼するよ。ハーミットパープル!」

「あ、このスケベジジイ! 勝手に頭覗いてんじゃねーよ!」

「心外じゃなぁ……。……本当に知らない、か」

 

 そうして、やっぱり懲りていなかったこのひと……。

 

「にしし。DIOよりわしの方がいい男だってわかったろ?」

「……フン。どうかしらね。ま、待遇によってはあんたの愛人になってやってもいいわよ?」

「ほ、ほんとに!?」

 

 満更でも……というか、その鼻の下が伸びきっている……そんな彼の様子に慌てる。

 

「な、なにいっているんですか!? ちょっと!! 駄目ですよ、ジョースターさん! それって不倫ッ……」

「じょ、ジョーダンじゃって」

「フン、カタいことお言いでないよ。そうだ! 花京院、アンタといえば……あたしは感謝されたっていいぐらいじゃあないのかい? きゃはははは! うれしかったくせにさ。あ・れ♪」

「な!? な、な、な、なにを根拠に……! そんな……」

「ふふん、知ってるんだよ? あたしからは見えていたからね……身体は正直ってヤツだねぇ」

「はッ! ま、まさか!?」

「アンタあのとき……」

「ぬあぁああああ! そ、それ以上言うなぁーッ!」

 

 加えて、『ブルータス、おまえもか』。追い打ちの如く、しれっと味方のはずのこのひとにも後ろから袈裟切りにされる。

 

「ああ、あれ? 気づいてないの、あの鈍感娘だけじゃろ……」

「うわあああぁあぁー!」

「まぁ、思春期にはよくあることじゃ……気にするな」

「う、うるさいよ! なんだよ、そのイイ顔は!!」

「ししし……」

「し、知らないなら用はないッ! もう帰る!」

 

「あら残念。じゃあこれ、連絡先。……待ってるわ、ジョセフ」

「い、いいの……?」

「……こらーッ!!」

 

 結局有益な情報はひとつもなかったうえに不名誉極まりない暴言を吐かれ、弱みを握られ……

 

「はぁ……」

 

 隣でメモを片手に御機嫌の彼の顔をため息まじりに見る。

 

(このひと……飛行機の災難だけでなく、女難の……)

 

 そして、一抹の不安を残しただけであった……。

 

 

 

 そんな僕の予感は当たった様な……当たっていないような……。

 

 

 それを僕が知るのは、まだ先の話になるわけだが。

 

 

 ちなみに、この困ったプレイボーイ、ちゃっかりもらった番号に本当に電話したらしい。

 

「はい、まいどどーも、来々軒でーす!」

 

 繋がったのは近所の拉麺屋にだった。

 

 ……なんて、やっぱり極めてありがちなオチに帰着するわけだが。

 

 

 

 

 

 全身大火傷からようやく話ができるまでに回復するのを待って、あれから約一年が過ぎた頃の訪問となった、僕自身は直接の面識はない男『審判』のスタンドマスター、カメオ。病院のベッドで男はぶつぶつなにやら呟いていた。

 

「ションベンこわい……飲尿こわい……

 ……しょうゆ……醤油もこわい……醤油……悪魔の飲み物……

 悪魔……天使のような……悪魔の……微笑み……

 こわい。……こわいこわいこわいこわいこわいーッ!!」

 

「な、なにがあったんですか? こいつ……?」

 

 この際同行してもらったのはアヴドゥルさん。おもわず発した僕の問いに何故か滝のような大量の冷や汗を噴き出す。

 

「……さ、さぁ? わ、わたしが燃やしすぎたかな……は、はは! き、きっと、それだけさ!!」

「? ……それだけでなんでこんなトラウマを……?」

「し、しらん! しらん! さ、次に行くぞ!!」

 

 何度重ねて問うも、結局頑なに詳細を教えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 ようやく見つけたと思ったら、こんな転職(?)をしていた者もいた。

 

「……ええと、たしかこの辺だったはずだが……」

 

 助手席にて、地図を広げる。

 

「すまんな、わたしはあのとき共にいなかったからなぁ……」

 

 懐かしい、切り立った崖に囲まれている細いカーブの続く山岳地帯を運転しつつ、申し訳なさそうな表情を浮かべるアヴドゥルさんにこちらこそ謝る。

 

「いえ。むしろ、それなのに付き合わせてしまってすみません」

「ガウ(まったくだ。おれまでこんなさみー山に連れてきやがって……)」

「はいはい、すまんすまん、おまえの鼻、頼りにしたくてな」

 

 後ろの座席で不満げに毛布にくるまっているもうひとりの同行者を引き寄せ抱き上げる。

 

「……おまえも寒がりなんだな。毛皮がある癖に」

「ぐぅぅ……(フン、しゃーねーな……)」

 

 あのまま餓死している可能性もあるが。けっこう僕達はひどいことをしたものだ。とはいえ、あの時僕は彼女をあんな目に遭わされて正直それどころではなかった気もする。というかそもそも先に殺しに来たののはあっちだった。それにしたって白いカルシウム片になっていたらどうしよう……などと思いつつ、激情のまま『運命の車輪』の暗示の男を縛りつけた岩場の周辺を探索する。

 

「いないか、さすがに……。うーむ」

 

 幸い、だかなんだか、現場には誰もいなかった。ついでに骨も。

 どうしたものか、と思案していると、声をかけられた。

 

「……旅の方か? 誰かをお探しかな?」

「ええ、実は、このあたりに……あっ! おまえ!!」

「おや?」

 

 その姿を見て目を丸くする。

 

「その太い腕のわりに貧弱な体つきはッ!」

 

 するとあちらもこちらのことに気づいたようだった。

 

「ああ、君たちか」

「な、なんだ? その格好は……」

 

 頭は剃髪、そして身に着けているのは、オレンジ色の袈裟のような……。

 

「ああやって放置されたあと、わたしは運命の出会いをしたのだよ……」

 

 ──おぬし入門者か? 方法をまちがえてはいけない――

 

 そうして連れて行かれた先は大層立派な寺院だったらしく……

 

「優しかった。皆……」

「あ、ああ、そうなのか。そ、それはよかった……のか、な?」

「そんなわけで、君たちに受けたアレ……カトゥーがきっかけでわたしは修行僧として開眼したのだ。俗世の欲望にまみれて君たちの命を狙った……そんな心卑しき己を今、悔い改めているところだ」

 

 悟りとはかくも素晴らしいものなのか。

 

「さぁ、修行だ……では失礼するよ」

「あ、ああ……頑張れよ……」

 

 めでたしめでたし……? 

 いや、全く肝心の情報はやっぱり得られないままであったが……。

 

「修行に終わりはない……」

 

 

 

 

 

 そして、能力的に大きな期待を抱いていたものの逃げ足の速さは相変わらずで行方知れずだったこの男、『セト神』のアレッシーをようやく発見したのもこの頃だった。

 

「やっと追い詰めたぜ! ったく、おめぇには大変お世話になりましたってもんだ! おかげですっげーイイ……いや、ひっでー目に遭ったんだっつーの!」

 

 顔を見るなりやっぱり逃げ出したアレッシーを久々に現地集合で共に行動することとなったポルナレフと迷路のようなルクソールの町を追いかけ挟み撃ちにする。

 

「待て! 危害を加える気などない! 話を聞け!」

「ひぃぃぃぃ!」

 

 それでも逃げようとする男の首根っこを捕まえつつ詰問する。

 

「いいか? 正直に答えろ。そうしたら離してやる」

「は、はいっ! な、なんでしょうか!?」

「貴様の能力で昏睡状態の人間を若返らせれば……どうなる? 意識を戻すことは可能か?」

「え? む、無理ですよ。あくまでオレのセト神は『若返らせる』それだけだ。老化によって衰えたものであれば別ですがね。子どもにはなるが、眠ったままだ。それだけですよ」

「……そうか……」

 

 

 またも空振りに終わった……約束通り奴を解放したのち、足取り重く宿へ戻る道すがらのことだった。

 

「……」

 

 隣の男がある一軒の家の前で立ち止まり、その窓を見上げる。

 

(そういえば、ここは……)

 

 気づいて振り返る僕に言う。

 

「ああ、すまん。……さ、いこーぜ」

 

 いつもどおりの笑顔を作り、歩き出そうとするポルナレフに告げる。

 

「……会っていかなくて、いいのか?」

 

「うるせーな。だれにだよ……」

 

 そのときだった。

 

「あ……!」

 

 家の中から、誰かが出てきた。

 

 あのときの女性だった。

 

 ……やさしそうな、男性とともに。

 

「……」

 

 ふたりは笑顔でみつめあいながら、連れ立って街の雑踏へと消えていった。

 

 とうに過ぎ去っていってしまったその背中を見つめ、ただひとこと、男はぽつりと呟く。

 

「……よかったわ。しあわせそーで」

 

「……。ポルナレフおまえ……、かっこいいな」

「……うるせー」

 

 僕はそれ以上何も言わず、ただ、彼の背中を叩いてやった。

 

 

 

 

 

 そういえば、もうひとり、期待していた能力……と言えば、だ。

 

「……ばぶー……チッ、ただの赤ん坊の振りも楽じゃねーぜ……」

 

 一人で会いに行かざるを得なかった、その『赤ん坊』の元へ向かい、周囲に誰もいないのを見はからってそっと声をかける。

 

「……おい、マニッシュボーイ」

 

「うぎゃぁあ! あ、あんたはッ!」

 

 とりあえず、まず重要事項を確認する。

 

「あれから、貴様のスタンド、デス13……悪用などしていないだろうな?」

「あ、あたりまえですよ!! あの味はわすれられねぇ……。うっぷ! 思い出すと、また……。もう、こりごりですよ。ただの赤ん坊してるほーが何倍もましだ」

 

 事実こみ上げている模様。その様子に心底の反省を感じ、涙を呑んで非道なお仕置きをした甲斐があったものだ、と満足感とともに頷く。

 

「よし、ならばいい。今日は聞きたいことがあってきた」

「な、なんですか……?」

「ひとつは……おまえの能力で昔、僕の腕の傷を消したことがあっただろう? あのように、現実で負った損傷を治す……そんなことは可能なのか?」

「ええと……。む、無理だと思います。あれができたのは、あの傷がもともとぼくのナイトメアワールドの中でついた傷だったからで……」

「まぁ、そうだよな……。そうだとは思っていたが」

「はい、すみません……」

「いや。あと、他に、だれでもいいんだが、スタンド使いの居所や能力に心当たりは?」

「いえ、居場所や能力までは……。あの館でしか、ぼくは他のスタンド使いになど会ったことがないので」

「そうか……」

「あ、でも……」

「なんだ!?」

「い、いえ、全然、どうでもいいことかもしれないんですが……」

「いい。言ってみろ!」

「は、はい! ええと、実はあの館でぼくとおなじような赤ん坊を何人か見かけまして。あいつらもスタンド使いなのかなーって。ぼくみたいな超天才児めったにいないでしょうに、なんか気になって……」

 

(赤ん坊……?)

 

「……そうか、協力に感謝する」

「は、はい、滅相もないです。そ、その節は本当に申し訳……」

「いや、もういい。今考えると……みせてもらったからな。いい夢も」

「へ?」

「なんでもない。……いい子で暮らせよ」

 

 

 

 

 

 そして、ふたたび『いい夢』をみたあと……

 

 アスワンで出会った兄弟の、弟の方と僕は改めて面会していた。

 

「ずいぶん背が伸びたなぁ。見違えたね」

「そうですか? えへへ……きっと成長期なのですよ」

 

 おどおどしていたあの頃と、その表情も全く異なるものであった。

 

「わざわざ連絡、ありがとう」

「いえ……じゃあ、さっそく、お見せするです」

 

 ボインゴ君がそのスタンド……一冊の書物を出し、開く。

 

 この少年には、実は手がかりを求め一番最初に会いに行っていた。

 しかし、あの事件直後は、この『予言の書』は真っ白なまま、なにも現してはくれなかった。

 

 そして、約3年後の現在、とうとう反応を示した……と先日、約束通り連絡をくれたのだ。

 

「これ、なのです……」

 

 そこにはこんな漫画が描かれており、このように締めくくられていた。

 

『二人の少年の力によってお姉さんは……

 なんと、ぱっちり目を覚まし、ちぎれた左腕も元通り! やったね!』

 

「ど、どこにいるんだ! その少年たちは!」

「そ、それが詳しい予言がまだ浮かび上がってきていないのです。まだ遠い未来の出来事だからか……よくわかりませんが」

「そうか……」

「この絵の感じからすると、金髪と黒髪みたいですね、はい。

 どちらも、なんだかやたらと個性的な髪型ですね……」

「ほんとうだ……」

 

 頭に浮かぶ。

 

(『ふたつの国』の、『ふたつのピース』か……?)

 

「すみません、あまり役に立てなくて。でも、トト神の予言は絶対なのです。はい。

 ……だから、お姉さんは、必ず……!」

「ああ、それがわかっただけでも大きな収穫だ。ありがとう!」

 

「それはこちらの台詞なのです」

「……え?」

「あのとき……お兄さんにどきどきしながら声をかけたとき……一歩踏み出せた。それで、ぼくはすこしだけ変われた気がするのです」

 

 少年はにっこりと笑う。

 

「ぼくが世のため、誰かのために、この能力は使うべきだと気づけたのも……

 そして、今オインゴおにいちゃんと仲良く、自分らしく暮らしていけているのも……

 きっとお兄さんと、そして、お姉さんのおかげなのです。

 だから、必ず、お姉さんを起こしてあげてほしいのです!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 強く頷く。

 

「また、あのコロッケパンを、お姉さんと食べたいのです……」

 

「うん……僕もだよ」

 

 そして少年に礼と別れを告げ立ち去ろうとした。そのときだった。

 

「あの! あと、これは言うべきか迷ったのですが……

 こないだカイロの街へ行ったとき、実はあいつをみかけたのです……」

 

「……なに!?」

 

 

 

 

 

「久しぶりだな……ホルホース」

 

 そして、それから半年後、少年の目撃情報を頼りに居所を掴んだ男に会いに行った。

 

「てめぇは! 花京院!?」

「オレもいるぜ!」

「ぽ、ポルナレフまで!? お、おいおい、おそろいで何の用だ? おめーらがDIOを倒した、ってーのは風の噂ってやつできいたぜ。もうおれにはアンタらを狙う理由なんてこれっぽっちもねぇ。追われる理由もねぇはずだが?」

 

 明らかに腰が引けつつも虚勢を張る男に問いかける。

 

「おまえに聞きたいことがある」

「聞きたいこと? そんなのに答える義理もあったかねぇ?」

 

 馬鹿にしたような調子でうそぶく男に対し、呆れたように吐き捨てる仲間。

 

「けっ! あいかわらずだぜ、こいつ! しかも、結局ピンピンしてやがる。ゴキブリ並みの生命力だな……ある意味尊敬するわ」

「……便器舐めさせられてたどっかの誰かさんに言われたかないね」

「う、うるせー! 忘れろ! あんなの!!」

 

 あの嫌な記憶が甦ったのだろう。苦虫を嚙み潰したような顔をする彼をよそに、こちらに向け軽口を叩く。

 

「しかし、コイツとのコンビたぁずいぶん色気ねぇじゃあねーか。

 花京院、愛しのハニーは? どうしたよ? いっしょじゃあねーのか?」

「あっ! そ、それは……!」

 

 慌てるポルナレフ。それを制し、僕は重い口を開く。

 

「……彼女は……」

 

「……そうか」

 

 それを聞くと男は帽子を目深にかぶり直しながら、ぽつりと呟く。

 

「嬢ちゃん……やっぱりか……」

 

 聞き捨てならないその言葉につい反応してしまう。

 

「なに? ホルホース貴様、何か知っているのか?」

 

 すると奴は天を仰いだのちこちらを見据え、ばつが悪そうに切り出した。

 

「……あの日、病院で、嬢ちゃんにばったり会って……

 館の場所を教えてやったのは、他でもない……

 ……この、おれだ」

 

「おまえ、が……!?」

 

 ずっと不思議だった。あのときどうして、彼女はもどってくることができたのか、が。

 

 ……もどってきて『しまった』のか、が。

 

 すべてを断ち切り、おいてきた。

 そのつもりだったのに……

 

「なぜだ!? 僕が……ッ! ……なんの、ために……ッ!!」

 

 気がついたら掴みかかっていた。

 

「……」

「お、おちつけ!! 花京院!」

 

 わかっていた。

 こんなの八つ当たりにすぎない……そんなことは。

 だが、抑えることなどできなかった。

 

「……花京院。おまえには、悪かった、と思っている。

 ……が、負けちまったんだ。おれは。

 嬢ちゃんの……あの、一途で情熱的な……澄んだ眼に……

 頼みを断れば、それが曇っちまうのはわかりきったことだった。

 必死だったぜ。おまえに見せてやりたかった。本当に」

 

「……」

 

「……すまなかった」

 

「……。わかって、いる。……こちらこそ、すまない」

 

「花京院……。うっし! そんなわけで、だ!!」

 

 ねぎらうように僕の背中を叩きつつ、ポルナレフが明るく仕切り直す。

 

「ホルホース、おまえに聞きたいことってのは、オレら、あいつを『治せる』スタンド使い捜してんだわ。何か知らねーか?」

 

「『治す』スタンド使い、か……。そんな強い力を持つスタンド使いなんて……」

 

 そう発した後、考え込むように押し黙る

 暫しの間の後、男は僕たちに問う。

 

「……DIOが『なにしようとしていたか』は知っているか?」

 

「DIOの目的? スタンド使いを集め、その頂点に立ち、世界を支配する……本人がそう言っていたのを聞いたが、そのことか?」

 

 答えると、含みを込めた言葉が返ってくる。

 

「ああ。まぁ、表向きは、そうだ」

 

「表? ってことは裏があんの?」

 

 ポルナレフがそれを突っ込む。

 

「らしい……が、そこまではおれも知らん。だが、奴には秘密裏に何か大きな目的があって、味方になるスタンド使いを増やそうとしていた。これは確実だ。で、その方法のひとつが……」

 

 先んじて解答する。

 

「弓と矢」

 

 男は頷くと続けた。

 

「ああ。それは知っていやがったか。じゃあ知っているか? もうひとつ。強力な、しかも味方になる確率の高いスタンド使いを増やす『方法』を」

「なに……?」

 

「やつには……『子供』がいる。それもひとりやふたりじゃあねぇ」

 

「なッ!?」

 

「気づいたか? スタンドには遺伝するタイプがある。おれや……おまえらもか? そうじゃあねぇ方のが多いのかもしれんが。ジョースター家のやつらはその代表例ってもんだろう?」

 

「……」

 

 思い当たる。

 

(そうだ……彼女の一族も……)

 

「DIO……あいつの『身体』は、ジョナサン・ジョースター。

 それを利用して、手駒になるスタンド使いを増やそうとしていたみてーだな」

 

「な、なんて野郎だ! 人の身体で……!!」

 

 ポルナレフが語気を強める。まったくの同感だった。吐き気がこみあげてくる。

 

「ちなみに、エンヤ婆も言ってたぜ……あと30若ければ! ってな……」

「……あのババア……」

「まぁ、ババア、若い頃はこっちからお願いしたくなるくらいの絶世の美女だったらしいがな」

「マジかよ……」

「それはともかく……だ。そんなわけで、DIOにとって、ふつう、女は『食料』にすぎなかった……が、スタンド使いの母親となりゃ話は別だ。確率考えたのか知らんが、自身もスタンド使いの女は特にな。嬢ちゃんもそんな風に誘われてなかったか?」

 

「そういえば……」

 

 ──他の女性はどうだか知りませんけど、私は死んでもお断りします──

 

 きっぱりと一刀両断していた、あの凛としたすがたを想い出す。

 

「ま、どっかのキザ野郎ひとすじな頑固一徹嬢ちゃんは例外として……

 実際そんなのに協力的な女ばっかだったってのが、またぞっとする話でな」

 

 ──女は皆……それを望む──

 

 そして奴の言葉を思い出し、身の毛がよだつ感覚がした。

 

「もしかしたら……いや、どっかに確実にいるDIOのガキたち……

 やつらがそんなとんでもねースタンド使いになっているかもしれねーってことだ。まぁ、問題は……」

 

 お手上げ。そんな様子で両手を天の方向へ向ける。

 

「そんなやつらがおまえらの『お願い』を叶えてくれる……

 ……なんて、到底思えねーことだがな……」

 

「……」

 

(それどころか……)

 

 まだ形にもなっていないような、大変漠然としていておぼろげな……

 

 しかし確かに、胸中には穏やかではないざわめくものの存在を感じていた。

 

「おれが知ってんのはそれくらいだ。まぁ、でももし、またなんかわかったら連絡してやる」

 

 それだけいい残し去ろうとするホルホースに、もう一つ浮かんだ疑問を訊ねる。

 

「ああ。感謝する。しかし、なんでまた急にそんなに協力的に……?」

「あん? そんなの決まってるじゃあねーか。おれは……」

 

 振り返りテンガロンハットを脱ぎ捨て言い放つ。

 

「世界中の女性の幸せを、心から望んでいる男だからだ」

 

「あ……」

「……けっ! どっちが気障野郎だよ!」

 

 隣でにやにやとポルナレフが笑う。

 

「嬢ちゃんのこと……あきらめんじゃあねーぞ、花京院」

 

「ふっ、愚問だ。おまえにいわれるまでもない」

「けっ、ならいい。……じゃあな」

 

 

(……『子供』か……)

 

 

 

 この、たったの一年すら経たないうちの、ある日のことだった。

 

 

 僕が『彼』から耳を疑うような知らせを受けたのは。

 

 

 

 




ここまで読んでいただいてありがとうございました!

お気づきの方いらっしゃると思いますが、いろいろ地味にわざとこっそり原作と勝手に変えてるとこありますです……今更ですが。すみません。あまりお気になさらず……。いやはや、それにしても元敵の皆さん書くの楽しすぎますね。出せなかった人もいるし。また、ひとりずつ突っ込んだのを描きたいなぁ……!

次回は、あのひと誕生秘話の予定です。またお付き合いいただけるとすごくうれしいです!


もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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