私の生まれた理由   作:hi-nya

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Love & Chain

 事の始まりは唐突極まりない一本の国際電話だった。

 

「よぉ、花京院」

「ああ、承太郎。げん……」

 

「結婚することになった」

 

「は?」

「ガキができた。そういうことだ。一応知らせておく」

「はぁーーッ!? ちょ、ど、どういう……」

「以上だ。また連絡する。じゃあな」

 

 そして言葉通り容赦なく通話は切断され、加えてそれ以降、何度かけ直すも僕の耳に届くのは無機質な電子音のみで、彼の声を聞くことは叶わなかった。

 

 

 そういった理由で僕は今、親友に会うため急遽手配した米国行きの飛行機に揺られ雲の中に居た。

 

 彼があんな調子なのはいつものことなのだが、流石に心配になったのだ。心なしか、ほんのわずかだが『いつもとちがう』そんな気がした。一応、友人歴約5年。それくらいはわかる。が、彼について、もっと知っておくべきことを自分は知らなかったのだろうか。

 そもそも、結婚……なんせ相手が必要なことなのだ。当然ながらまず浮かんだ疑問は「一体誰と?」というものだった。恋人は「それっぽいのならいっぱいいる」とか本気なのか冗談なのかさっぱりわからない、これまた通常通りの仏頂面のポーカーフェイスで言っていたのがまだ記憶に新しい。それくらい、ほんのわずか数か月前に会ったときには全くそんな兆候などなかったはずなのだ。

 

 とはいえ、実は僕にはひとつだけ、心当たりというか、気になっていたことがないわけではなかった。

 

 あれは確か、もう数年前になる。雪がしんしんと降り積もる、寒い夜のことだった。

 

 

──……花京院、おまえ……どうやったら……──

 

 

 あのとき、直感的に思った。

 

 ああ、こいつにも、たいせつなひとができたのか、と。

 

 が、軽く探りを入れたらやっぱりいつも通りの調子ではぐらかされたため、それ以上尋ねるのも無粋か。きっといつか話してくれるだろう……などと、思っていたのだが。

 

 そして『あのこと』も。

 

 いつもそうなのだ。あいつは。

 

(まぁ、直接会って聞くしかないか。なんで電話つながらないんだろう? なにやってんだよ、承太郎……)

 

 

 

「ここか……」

 

 聞いていたアドレスを頼りに、彼のアパルトメントにたどり着く。窓から明かりが漏れている様子が確認できた。どうやら在宅中のようだ。と、とりあえずほっとしつつ、彼の部屋の前でインターホンを鳴らす。

 すると暫しの後、鍵を開ける音がし、チェーンの隙間だけ扉が開いた。

 

「やぁ、承太郎。僕だ。はは、おもわず来ちゃったよ。……って、あれ?」

 

 そこで僕はドアの陰にいるのが友人ではないことに気づく。

 

「……じょ、承太郎の、お知り合いですか?」

 

 そこには心細気な面持ちの見知らぬひとりの女性が立っていた。

 

「は、はい……」

 

 面食らいながらも、慌てて言い直す。

 

「失礼しました。突然の訪問、申し訳ありません。僕は花京院といいます。承太郎は不在でしょうか?」

 

「あ、いえ、少しお待ちください」

 

 そう言い残すと、女性は奥へと引っ込んでいった。

 

 ドアの前で待つ間、思う。

 

(もしかしたら、いや、しなくとも、今の方が? というか、予期しておくべきだった……)

 

 婚約中であるならば、共に暮らしていてもおかしくはない。そりゃあそうだ。

 扉が再び開く。今度は大きく。そこから現れたのは今度こそ、見知った顔だった。

 

「花京院、やっぱりおまえか。なんでこんなとこにいるんだよ……」

 

「ははは、なんでだろうね? まったく……!」

 

 まぁ、上がれや。なんて、僕の恨み節もどこ吹く風でリビングに通される。それどころか……

 

「来るなら連絡ぐらいしろよ」

「したよ! 何回も!! 電話に出なかったのはそっちだろう!?」

「ああ。そうか。しばらくこの家に居なかったからな。それでだな」

「……」

 

 万事がこんな調子だった。まるで暖簾に腕を押しているかのようだ。言い換えるならば糠に釘。呆れて絶句する僕に承太郎はやっぱりしれっと訊ねてきた。

 

「で、どうしたんだ? 急に」

「はぁ? どうもこうもないよ。あんな爆弾みたいな発言落っことしといて、しかも音信不通とか……気になるに決まっているじゃあないか」

「……それだけのためにわざわざ? 暇人か……」

「暇じゃあないっ! 失敬だな、この……! く、くそ、来るんじゃあなかった……!」

「ふっ……すまん。冗談だ」

 

 口の端でわずかに笑いながら、傍らの女性に声をかける。

 

「紹介する。……おい、シャル」

 

 促され『シャル』と呼ばれたその女性は会釈し自己紹介をする。

 

「……シャーリーンです」

 

「こいつは花京院。日本の、おれのダチだ」

 

 続いて紹介を受けて、僕も改めて親友の婚約者(フィアンセ)に挨拶をする。

 

「初めまして。僕は花京院典明といいます。よろしくお願いします」

 

「……っ。よろしく……お願いします」

 

(あれ……?)

 

 不思議に思っているのも束の間だった。シャーリーン嬢はくるりと背を向け、何をするかと思えば、壁に掛かっていたハンドバッグとコートを手に取った。

 

「承太郎。じゃあ、わたし帰るわね」

「ああ」

 

「え? いえ、突然来たのは僕の方なんですから。僕がおいとましますよ」

 

 人騒がせ極まりない友人の無事はわかったのだ。火急の目的はもう果たされた。今回3日間はこの近隣ホテルに滞在予定であることだし、また出直してくればいいだけの話だ。どうやらこの二人同棲しているわけではないようだが、だからって馬に蹴られたくはない。とっとと退散せねば……そんな僕の細やかで密やかな配慮は悲しいかな完全に空振りに終わり、彼らはこんなことを言い出した。

 

「いえ、どうせすぐに帰るつもりだったので」

「そういうことだ。じゃあな」

「ええ、じゃあね。花京院さん、ごゆっくり」

 

「えっ!?」

 

 ふたりのあまりのクールさに驚いてしまう。

 

「い、いや、じゃあ、せめて送ってさしあげろよ、承太郎。もう暗いし……」

 

 この辺り、治安は決して良くはないだろう。しかも、この女性、妊娠……をされているのではないのか? そもそも、よく考えたら何故僕だけがひとりこんなにオロオロしなければならないのだろうか。釈然としない。

 

(な……なんだ? この雰囲気。とても婚約中の恋人同士とは思えないんだが……喧嘩中か?)

 

 もしも自分だったなら……と想像してみる。

 

(……うん。できうる限り、片時も離れたくない。離したくない……離すものか)

 

 相変わらず、夢でしか逢えない最愛のひとのことを想う。

 

(いいなぁ。仁美さんと婚約とか、結婚とか。そんなの、死んでもいい……いや、うそだ。よくない。逆に絶対死にたくない。死んでも死にきれん……)

 

 そんなふうに思考が逸れきっている僕をよそに淡々と彼らの話は進んでいた。

 

「いえ。家近いので。だいじょうぶです。じゃあね」

 

 そう言って、シャーリーン嬢は部屋をあとにする。

 

「あっ! い、いいのか!? 承太郎!?」

「だいじょうぶだ。ほっとけ」

「でも……!」

 

 そうはいわれても、自分が突然訪問してしまったことに責任の一端は確実にある気がする。

 

 しかも……あの、表情。

 

「やはり気になる。僕、行ってくるよ。すぐ戻る」

 

「ちっ、おせっかい野郎め……」

 

 

 

「……シャーリーンさん! 待ってください」

 

「か、花京院さん……!?」

 

 追いつき、声をかける。振り返ったその人は案の定、眼頭をハンカチで押さえていた。

 

(やっぱり。泣いているじゃあないか……)

 

「……なにかあってはいけないので。僕で申し訳ないのですが、送ります」

「……優しいんですね」

「いえ、僕が突然お邪魔してしまったのがいけませんでした。貴女の御気持ちを害してしまいましたね」

「っ! ち、ちがうんです……。ちがうんです……。すみません……」

 

 そういうと、シャーリーン嬢はぽろぽろと涙を零しながら理由を話してくれた。

 

「わたし、わからないんです。承太郎の、考えていることが……」

「え?」

「その、結婚のことも、この子のことも。本当は、どう、おもっているのか……」

「で、でも、婚約中なんですよね?」

「はい、たぶん……」

「た、たぶんって……。えっと、その、なにか彼から言葉とか……?」

「この子のことを伝えたときに、『そうか、じゃあ一緒になるか』と、それだけ」

「そ、それは……」

 

 あまりにあっさりしすぎだろう。承太郎らしいともいえるが。

 だいたい、あの男がそんなミス(子どもができるような……だ。些か言葉が悪いけれど)をするとは思えない。すなわち、『そう』なったからには、『そう』なってもよかった。ちゃんと責任をとるつもりがあった。イコール、それはこの女性のことを、彼は、彼なりにとても『愛している』……そういうことだ。と、僕なら推測できる。

 しかし、当の女性の立場からすると、大層不安になるだろう。それもよくわかる。

 

「そもそも……わたしたち、ちゃんと付き合っていたわけでも、たぶんないから……」

「え!?」

「一度も、愛してる、はおろか、すきだ、も、ないんですよ? それで婚約者とか……わらっちゃいますよね」

 

 シャーリーン嬢は、今にも泣きそうな顔で、笑う。

 

「けど、わたしは彼のことを、ずっと、すきだったので……言葉なんてなくても、それでも、よかったんです。子どものことも、わたしはすごくうれしくて……」

 

 ぽつりぽつり、言葉を紡ぐ。

 

「承太郎はそもそも……だれにも、本当の心をみせない。いつもそんなかんじだった。

 でも、言葉はすくないけれど、やさしいひと。

 そんなことは、わかっていたから、信じて、いて……」

 

(……よかった。それはわかってもらえていたか……)

 

 相変わらず誤解を受けやすい親友のことを、ちゃんと理解してくれていることに安堵する。

 

「なのに、今日、貴方が来たときの承太郎が、とても、嬉しそうで。話しているときも楽しそうで……あんな彼、みたことがなくて。ああ、これがほんとうの承太郎なんだ、って。しかも『友だち』だ、なんて。わたしは、そんなこと、いちども言われたことないのにって……」

 

 曇っていく。そして、再び頬を涙が伝う。

 

「花京院さん、貴方に嫉妬したんです。……おかしいですよね。本当に、ごめんなさい」

 

 それを隠すように、ぺこりと頭を下げる。

 

「シャーリーンさん。あいつは……」

 

(しかし、これは、僕が言っても意味のないことだ……)

 

 躊躇っているうちに目的地に着いてしまったようだ。

 

「あ、これがわたしの家。もう大丈夫です。ありがとう。初対面なのにいろいろ愚痴ってしまってごめんなさい。忘れてくださいね」

 

 そういってシャーリーン嬢は建物の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

「……戻ったよ」

「ああ。どうだ? あいつ、なかなかいい女だろう?」

 

 ソファにもたれ背中越しに、ロックグラスを傾けながら僕にいう。

 

「ああ。非常に君がすきそうな感じの方だね……」

 

 対面に座り、彼の目を見ながら、問う。

 

「承太郎……ちょっと、いいかい?」

「なんだよ?」

「シャーリーンさんに……どうして、もっとやさしくしてあげない?」

「……」

 

 目をそらすかのようにグラスの中身を煽り、無言を貫く男に続ける。

 

「……わかっているよ。

 君は、自分にいつなにがあるか、わからないとおもっている。

 なにかあったときのために、そうしているんだろう? 

 彼女たちに迷惑をかけたくないと、そう考えて」

 

 なおも、押し黙る。氷だけが静かにカラリと音を立てた。

 

「……そして、これでもなお、言ってくれないのかい? 

 僕が気づいていないとでも思っているのかな? 

 君が『あのとき』以来、なにか重要な案件を独りで抱えていることを」

 

「!?」

 

 グラスを持つ手がぴたりと止まる。

 

「君はいつもそうだ。

 僕たちをも巻き込みたくない。自分でなんとかする。

 そう思っているんだろう?」

 

 想い出す。ひとりですべてを背負ったまま『運命』に立ち向かった強く儚いその姿を。

 同時にずきりと胸を抉られ、そしてぽっかりと穴が開く、生々しい感覚。

 

()()()()()に、そっくりだ。

 僕が好感を抱く人間って、どうして皆こうなのかな? 

 もう、二度とごめんだ。あんな……」

 

「花京院……」

 

「僕たち、仲間じゃあないか。もっと信頼してくれよ。

 君にも、君のたいせつなひとたちにも、手出しはさせない……かならず」

 

──私が護る──

 

 彼女もここにいたら、こういうだろう。きっと。そう。そうだ……

 

「……すまん。おまえらを信頼していなかったわけじゃあねぇ」

 

 すると彼は長い沈黙の末、ポツリとこう言った。

 

「『あれ』は、危険すぎる。おぞましすぎる。

 だから……おれは誰の目にも触れないよう、『あれ』を燃やした」

 

 滅多に動じることなどない、強い精神の持ち主である彼の青い瞳が揺らぐ。その珍しい様子にこちらもつい息を呑むと、それに気づいたかのように、彼は補う。

 

「言わずにおいたのは、おまえらにそれを言う必要がない……そう思ったからだ」

「……え?」

「誤解するな。おわった、と……。そういう意味だ」

 

 立ち上がり、もうひとつ空のグラスを棚から取り出し、再び腰掛ける。

 

「口に出して広める方がリスクが高い。だから、これからも言わずに済めばいいと思っている」

 

 ボトルをゆっくりと傾け、琥珀色の液体を注ぎこちらへと差し出す。

 

「……が、万一の時が来たら、伝える。必ず。花京院、おまえにしか、言えん」

 

「承太郎……」

 

「そのときは……、まぁ、頼むわ。……親友」

 

「……わかった。そんなときが来ないことを僕も祈ろう。

 そして、もしものときは……、任せてくれ。……親友」

 

 受け取り、互いのグラスをゆっくりと合わせる。

 

「「フッ……」」

 

 それを皮切りに、どちらともなく一気に中身を飲み干す。

 

「……美味いね」

「だろう?」

 

 銘柄が気になり、卓上に堂々と鎮座する酒瓶に手を伸ばす。

 

「ハバナクラブ15年グランレゼルヴァか。これ、かなりの高級品だろう?」

「まぁな。問題ない。じじいのコレクションから拝借した」

「ふっ……なるほどね」

 

 問題なくはない気がするが。嘆く祖父の姿を想像して、少しおかしくなる。

 こっそり微笑ましく思っていると、承太郎はすっと指を差す。

 

「そのラベルの女……いるだろ?」

「ん? ここに描かれている女性の像のことかい?」

「ああ。それ、どっかの港街に実際に立っているブロンズ像らしいんだが……」

 

 ひょいとボトルを奪い取ると、再びなみなみと僕および自分のグラスに注ぎつつ、語る。

 

「"ヒラルディア"っていってな。いつ帰ってくるともわからねー旅に出た夫を辛抱強く待ちつづけた、って女の物語がモチーフになっているんだと」

 

 そして、にやりとわらう。

 

「……お似合いだろ?」

 

「ふっ。……そうかもね」

 

 もう一度、景気づけにグラスを合わせる。小気味よく響いた音色に押され、僕はもうひとつ彼に気になっていたことを訊ねることにした。

 

「で、だ。どうしてだい? 教えてくれなかったのは」

「なにをだよ?」

「もちろん、シャーリーン嬢のことさ」

「……ああ? そんなの、それこそ……いう必要ねぇだろ」

 

「ちがうね。君は僕に明らかに隠していた」

 

「……」

 

「当ててあげようか? 考えすぎかとも思ったけど、明らかに普段と違う君の態度で確信したよ……」

 

 言い放つ。確信を持って。非常に彼らしい、その『理由』を。

 

「承太郎。君は……僕に、遠慮している」

 

「ッ!?」

「仁美さんの目が覚めるまではと。すきなひとのこと、黙っていてくれたんだろう? 

 僕のつらさが、増さないように……と、そう思って。君は、そういうやつだ」

 

「……」

 

「僕はだいじょうぶだから。幸せそうな誰かをみると、たしかに羨ましいし、彼女のことを想い出して、胸が苦しくなる。でも、それ以上に、彼女のことを想い出せて……それだけでも、うれしいから」

 

「花京院……」

 

「それに安心してくれ。すぐに追いついて、追い越してやるよ。

 僕たちも、君たち以上にしあわせになんて、すぐになってやるからさ。

 そんなの心配せずに、先に、とっとと……しあわせになっといてくれよ。

 僕も……僕らも。君がしあわせなら、けっこうしあわせ、なんだからさ」

 

(ね、そうでしょう? ……仁美さん?)

 

 瞳を閉じ、想う。

 

──もちろん!──

 

 そんなこえが、どこかから、きこえた気がした。

 

 

「……ふん。……ったく、考えすぎだ……。このお節介野郎……共が……」

 

 そういいながらも、俯く親友の目に光るものが見えたのは、きっと見間違えではないだろう。

 

「……それは、まったく……失礼したね」

 

 

 

 

 

「じゃあ、またな」

 

「ああ。またな」

 

 僕の滞在期間はあっという間に過ぎ、帰国の日となった。

 

 あれから、このぶっきらぼうな彼が婚約者にどんな愛のことばをささやいたのか……そんなの、僕には知る由もない。

 

 しかし、空港で彼とともに見送ってくれたシャーリーン嬢の顔は、別人のように晴れやかで……

 

 

 そして、とても、しあわせそうだった。

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 ダチを乗せた飛行機が青い空をまっすぐに進んでいく。

 その様子を眺めつつ、煙草をふかそうか……そうおもったが、やめた。

 

 箱を取り出し、ごみ箱へと放り投げる。

 

「……どうしたの?」

 

 そんなおれをみて不思議そうに呟く、隣の女にいう。

 

「……腹に、よくねぇだろ」

 

「……っ! 承太郎……っ……!」

 

 見開かれたその瞳がどんどん潤んできて、いまにも零れ落ちそうになる

 

「やれやれだぜ。そんなんでちゃんと母親やれんのかよ。ったく……」

 

 おもいだす。あの、春の日を。

 

「まぁ、おまえが泣き虫なのは、最初から……か」

 

(ったく、本当に似合いの酒だぜ。花京院、おまえに……)

 

 

 

(……そんで、おれにも、な)

 

 

 

 

 

 あいつはいつも、ひとりだった。

 

 カラカラに乾いた、湿った空気とはまったく縁がなさそうな、なにもかもが、だだっ広いこの大陸。

 そんな中でもなおさらいっそう、明るく楽しいキャンパスライフとやらを皆満喫している……そんな大学の一室で。

 

「ハイ、ジョジョ!」

「きゃー! 今日もイカしてるわ、ジョジョ!」

「一緒に帰りましょう、ジョジョ!」

「今日、家でパーティーがあるの! ジョジョもこない?」

 

「……やかましい! うっとーしいぞ!」

 

「きゃー! わたしに怒ったのよ!」

「わたしよ!」

「わたしだってば!」

「きぃーッ!」

 

「……」

 

 無言で席を立つ。

 

「あー、行っちゃった……」

「あんたがうるさいからよ!」

「あんたがでしょ!」

 

 女というものは万国共通、こんなふうにどこへ行ってもキャーキャーと群がってくる、うっとーしいものであるのだろうか。うんざりしてくる。

 

 そんな中だったからだろうか? 余計に際立ってみえた。共通に選択している科目が多いのか知らんが、よく見かけた……そのたび、いつもだった。

 

 じめじめと、教室の片隅で暗いかおばかりしている、あの女が。

 

 それはそれで、うっとーしい……

 

 そんなふうに、おもっていた。

 

 

 

 おれが大学進学を機に渡米して、約半年が経った。

 日本では、そろそろ桜の蕾が色づきだす……そんな季節になる頃だろうか。こちらでの生活にも、一人暮らしにも、ようやく慣れてきた。そんなときだった。

 

「もしもし? やぁ、承太郎。元気かい?」

「よぉ。花京院」

 

 日本にいるダチから電話がかかってきたのは。なんでも、知り合いがこちらの病院で大きな手術をするため、その激励にアメリカに来るということだった。

 

「お見舞いついでに君の仏頂面を拝むのも悪くないかなと思ってね。都合はどうだい?」

 

 そんなふうに、1つ年下にもかかわらず生意気な口をたたくやつに言い返してやる。

 

「あん? てか、こないだ会ったばっかじゃねーか。てめーこそ、暇人かよ。大学受かったばっかだろ? なんか準備とかねーのか?」

 

 そうなのだ。受験という見えない鎖に縛られていたこの男、つい先日無事、サクラが咲いた……と、そんな報告はじじい経由で聞いていた。

 ちなみに卒業式を冷やかしにいってやったが、なんだかんだたくさんの人間に囲まれていて……まぁ、それなりの高校生活を送っていたようだ。

 

「準備? 別に。実家から通うし、これといって今やることないんだよ。

 暇人とは心外だな。ようやく得た自由な時間を、いかに有効活用しようか……そんなふうに目下画策しているところさ」

 

「……ああ、なるほどな」

 

 もうひとつの『鎖』の存在を思い出す。

 

 こいつをがんじがらめに……それでいて、なによりもやさしく……こいつを縛っている、それを。

 

 さがしもの、のてがかりを得る。そんな目的がこいつのなかでほとんどを占めているのは確実だろう。

 

(それにしても……)

 

「てめーがそこまで深入りする『知り合い』ってのは、めずらしいじゃあねーか。女か?」

 

 気になったことを聞いてみた。そんな可能性は『あいつまっしぐら』な、この男のことだ。限り無く0に近いだろう……と思いつつ、軽口を叩く。あわてふためき否定する必死の声が受話器の向こうから飛んでくるに違いない。

 

 ……と、そんなおれの予想は珍しく外れたようだ。

 

「ふふ。まぁね。君にも紹介するよ。すごく素敵なレディさ。将来性にあふれた……ね」

 

「なん……だと……?」

 

 

 

 

 

「あーっ! 花京院のお兄ちゃんだ! ほんとに来てくれたんだ! わーい!」

 

「こんにちは。体調はどうだい? みづきちゃん」

 

「……」

 

 あの電話から2週間後。予告通り訪米した男に付き合いやって来た、スピードワゴン財団ゆかりの病院の一室。そこには一人の少女がいた。

 

「紹介するよ、承太郎。みづきちゃん(7歳)だ。どうだい? 言った通りだろう?」

 

「……まぁな」

 

 そんなわきゃーない。そんなことはわかっていたが……

 不覚にも、なぜだかホッとしてしまった、そんな腹いせに悪態をつく。

 

「……色気がねー女が趣味なのは知っていたが、ここまでとはな」

 

「はぁっ!? なんだと!?」

 

 すると今度こそ、いつもどおりの安定の反応が返ってくる。

 

「仁美さんのあの無垢と純粋さのなかに見え隠れする一途な情熱とそれゆえの高潔な色気が理解できんとは……! 君の趣味嗜好こそ僕には理解不能だね。まぁ、わかってもらっても困るといえば困るがな!!」

 

「ふっ……」

「まったく……」

 

 そんなおれたちにくすくすと笑う声が届く。

 

「お兄ちゃんのおともだち? 仲良しだね!」

 

 瞳をきらきらと輝かせる少女。

 

「ふん……。仲良くなんてねーよ」

 

 くしゃりとその頭を撫で、伝える。

 

「……手術なんだってな。……まぁ、がんばりな」

 

「うん! ありがと、お兄ちゃん」

 

 そこでガチャリとドアが開く。

 

「あ! お父さんだ! 花京院のお兄ちゃんがお友だちと来てくれたよ!!」

「おお! 花京院君! ひさしぶり! その節は本当に……」

「いえいえ。僕はなにも」

 

 話から推測するにこの少女と知り合いになったのは、やはりいつもどおりの成り行きお節介の結果らしい。

 なんともこいつらしいな、と思いつつ、ドアノブに手をかける。

 

「じゃあな。花京院、終わったらこい。屋上で……モク吸ってる」

「ああ、わかった」

 

 

 

 

 

「ふぅ……、ん?」

 

 ああいうのは性に合わん。そんな気持ちとともに煙を吸い込んでいると、一人きりだった屋上に誰かが入ってくる気配を感じた。

 向こうからは死角となっているのか、どうやら影で煙草をふかしているおれの存在に気がついていないらしい。

 

(女か。……あれは!?)

 

 見間違えかと思った。が、確かにそれは教室でよくみかける……辛気臭い、あのかおだった。

 

 女はふらふらと端まで歩いていき、柵を越える。

 

「……そっちには……もう道はねーぜ」

 

「ッ!?」

 

 そこに、声をかける。

 

「死にたいならよそでやんな。迷惑だ」

 

「あ、あなたは……!? あ……ああ……っ!」

 

 あっというまにその大きな目、いっぱいにあふれてくる。

 

「……泣くぐらいなら、すんじゃねーよ……」

 

 女はへなへなと力なくその場にへたり込み、泣き崩れる。

 

「……どうして、とめたの……? ほっといて、ほしかったのに……」

 

「なにいってんだ。そんな、たすけてくださいって顔しといてよ……」

 

 見たままの感想を口にした途端、その表情がカッと変わる。

 

「っ! たすけてなんて、いっていない! だいたい、おなじこと。あなたは、無駄なことをした……意味なんて、ないんだから……ッ!」

 

 そうして、あっという間におれを押しのけ、去っていってしまった。

 

「……チッ。わけがわからん……」

 

 閉まりゆくドアをみつめ、呟く。

 

「やれやれだぜ……」

 

 ほんとうに、いけすかねぇ女だ、と。

 

 

 

「承太郎、すまんな。待たせた」

「……ああ、花京院か」

 

 暫時の間の後、再びドアが開いたかと思うと、そこから覗いたのはダチの顔だった。

 おれを認めた瞬間、その顔が、心配そうに歪む。

 

「……どうした? なにかあったのか?」

 

「ああ? なんでもねぇよ。なんでだよ?」

 

 質問の意味が分からなかった。不思議に思い、問い返す。

 

「なんでって……気付いていないのかい?」

 

 すると花京院はその形の良い眉をひそめ、いった。

 

「君のそんなにかなしそうな顔をみるのは、『あのとき』以来、ひさしぶりだからさ」

 

 

 

 

 

 それ以降、あの女は大学に姿を現さなかった。

 

「……おい。あいつ、最近見ねぇな」

 

 気になったわけじゃあねぇ。本当に死なれたんじゃあさすがに寝覚めが悪い、それだけだ。

 あの女の前の席にいつも座っていた丸眼鏡の男に聞く。何度か話していたのを見たことがあった。

 

「あ、じょ、承太郎か。珍しいね。君が話しかけてくるなんて。あいつって?」

「おまえの後ろの席の女だ」

「ああ、シャーリーンのことかい? 彼女なら……」

 

 続く男の言葉におれは耳を疑った。

 

「休学したよ。入院するんだって」

 

「は……?」

 

「あの子、なにか難しい病気らしいよ。ああ、ぼくはハイスクールでクラスが一緒だったから……とはいえ、そんなに詳しいわけでもないけど」

 

 男は両の掌を上に向ける。極あっさりとした口調を伴って。

 

「高校時代から学校休みがちだったし、お金持ちのお嬢様であんな風に綺麗で頭もいい。非の打ち所がない才媛なのに、天はなんとやら……ってやつなのかな? 可哀想だよね」

 

 瞬間、おれは確かに覚えていた。

 

 怒り、を。

 

 が、その原因も矛先もさっぱりわかりはしなかった。

 

 

 

「……よぉ」

「きゃっ!」

 

 そして気がついたら、おれはあの病院に来ていた。

 

「じょ、承太郎? な、なんで……?」

 

 目を瞬かせる女にむけていう。

 

「……みにきた」

 

「は?」

 

「死んでねーか、みにきた」

 

「そ、そう……。おあいにくさま。まだ生きているわ。このとおり」

「そうか」

 

「……」

「……」

 

「ならいい。じゃあな」

 

「あ……! ちょっと! な、なんだったの……?」

 

 

 

 以来、あいつの生死確認のために、こんなふうにふらりと病室を訪ねるのがおれの日課になった。そんな日がしばらく続いた、ある夏の日のことだった。

 

「あ! 承太郎のおにーちゃん!」

 

「おまえは……」

 

 病院の廊下でおれに気付いて駆けてくる、ひとりの少女。

 

(花京院の二号……)

 

──「「ちがうッ!!」」──

 

 時空(?)やらなんやらを超越した息のそろったツッコミが届いた気がするが、無視することにする。

 

「みづき、だったか」

「うん! 今日、退院なの!」

「そうか。……よかったな」

 

「うん! みんなが応援してくれたから、頑張れたよ!」

 

「……おまえが、すげー。ただ、それだけだ」

 

「えへへ、ありがとう。元気になったし、もういくらでも遊んでいいんだって! また、日本でもお兄ちゃんたちと会いたいな。遊んでくれる?」

「……気がむいたらな」

「わーい! ぜったいだよ!」

「ふっ、ああ。またな」

「またねー!」

 

 駆けていく少女のポケットからなにかがひらりと落ちる。

 

「おい、落ちたぞ」

「あ、それ……」

 

 

 

 

 

「よお」

「あ、こんにちは、承太郎」

「……手、出せ」

「え?」

 

 戸惑う女の手を引っ張り、その掌のうえにそっと乗せる。

 

「……やる」

 

「これは……? 鳥……?」

「折り鶴」

「おりづる……?」

「日本で、見舞い相手にやる、『おまもり』みたいなもんだ」

「へぇ……。……かわいい」

 

 まじまじとそれをいろんな角度からみつめ、そうつぶやく女にいう。

 

「ほんとうは千羽やるもんなんだがな。まぁ、おれが折ったんだ。一羽で充分だろ」

 

 すると、珍しく、大げさなくらい目を見開く女。

 

「えっ!? 承太郎が!? これを? 自分で!?」

「ちっちぇーダチに、そこでもらったんでな」

 

──おりがみ。花京院のお兄ちゃんが退屈しのぎにってくれたんだ。承太郎お兄ちゃんにもあげるね──

 

「ふ、ふふ……」

「……おい、わらうな」

「だって、意外……すぎて……! けっこう器用なのね……」

「……精密な動きは得意分野なんでな」

「なにそれ……ッ、ふ、ふふ……!」

 

「……」

 

 はじめて、みた。

 

「わらったかおは……まぁ、辛気臭くねーじゃねーか」

 

「えっ!? っ……あ、あなたこそ」

 

「……あん?」

 

「承太郎、あなた、わらわないのね」

 

 意外なその言葉にびくり、と体が勝手に硬直する。

 

「ずっと、気になってた。

 いつも沢山の人に囲まれているのに、見たことないもの。

 誰といるときも。

 あなたの……わらったかお。

 ……どうして?」

 

「……おれは……」

 

 わらわない、のではない。わらう気がしねぇ、それだけだ。

 

 ……あれから、ずっと。

 

 

 はじめからきまっているような、あのふたり。

 

 だれよりそばにいるべきあいつらを、引き離した。

 

 花京院(たいせつなダチ)の『ほんとうの笑顔』を奪った。

 

 代償だか運命だか、神様だか閻魔様だか知らねーが……

 

 ゆるせねぇ……ゆるされねぇ。

 

 あいつらが、また、わらいあう、その日まで……

 

 

 ……おれは……

 

 

 

「……承太郎?」

 

「……」

 

「ごめんね。もう、きかない。でも、ひとつだけ……」

 

 黙り込むおれに、女はそっと囁く。

 

「あなたがわらえる日、かならず来るわ」

 

 耳をくすぐる、心地よい音色。

 

「だって、生きているんだから」

 

 その声は、おどおどしている普段のそれとも、群がってくる耳障りな女たちのそれとも、全く違った。

 

「あなたは、だれかのことで心を痛めることのできるひと。

 だれかを心からおもえる……そんなやさしいひとだから」

 

 穏やかで凛とした、澄み切った青空のようだった。

 

「わたし、心から願っているわ。はやく、その日がくることを。

 だから、そんなかお、しないで……」

 

「おまえ……」

 

「……承太郎、わたしね、長く生きるには失敗する確率の方が高い……そんな手術を受けるしかないんだって」

 

 そして、あいつははじめて語り始めた。じぶんのことを。

 

「再発したら、手術しかない。それに、ずーっと怯えて毎日生きている心地がしなかった。なのに、結局こう。あの日、あなたと屋上で出逢った日、そのことをドクターに告げられたあとで……」

 

 伏せられた瞼の長いまつげが震える。

 

「完全に、八つ当たり。本当に……ごめんなさい。

 でも、もう、だいじょうぶだから。手術、受けるから。もう、逃げない……」

 

 見上げるまっすぐな視線が、おれの瞳をとらえる。

 

「だって、わたしも、もっと、生きたいから

 ……あなたの笑顔が……みてみたいから……

 だから、……ありがとう、承太郎」

 

 

 

 

 

 それから、季節は夏が終わり、秋が来て……

 

 刻一刻と迫っていた。『手術』の日が。

 

「……こわい、こわいの……!」

 

 それに従って、こいつのかおは……曇っていくばかりだった。

 

「しぬのなんて、こわくなかった……でも、こわくなった……」

 

 誰にでもいつかは訪れるはずのもの。そのはずなのに……

 

「あなたが、こんなに、あいにきてくれて……

 どうしても……ばかだから……期待して……

 そんなこと……あるわけないのに。

 ……あなたがやさしいひと……それだけなのに……」

 

 『死』というものに対する絶対的な恐怖。

 

「でも……こわいの……こわくてたまらないの……

 どんどん……あなたをすきになって、そのぶん、どんどん、こわくなって……

 もう、あえなくなるかもしれないのが……こわいの……つらいの……。

 これ以上あなたをすきになるのに……もう、たえられない……!」

 

 おれはあいつのそれを、拭ってやることができなかった。

 

「やっぱり、わたし、よわいの……にげだして、しまいたくなる……」

 

 呆れるほどに、どこまでもおれは無力だった。

 

「だから、もう、こなくて、いいから。こないで……ほしいの……」

 

 どうすることもできず、ただ、立ち尽くすことしか、できなかった。

 

「もう、かまわないで……」

 

 

「……わかった」

 

 

 ただ、うなずくことしか、できなかった。

 

 

 

 こうして、冬を前におれたちは別れた。

 

 

 

 

 

 年の瀬。日本に帰省したおれは、『ダチ』を呼び出した。

 

 深々とまっしろい粉雪が舞い散る……そんな夜だった。

 

「めずらしいな。君がそんなふうになるなんて」

 

 ひたすらに、酔いたい。今夜はそんな気分だった。

 酒に強い、という己の性質はこういうときこんなにも厄介なものかと思い知る。

 

「……花京院、おまえ……」

 

 それでも、朧げに霧がかかった様な頭の中、すこしだけ訪れてくれた酔いにまかせて隣の男に疑問をぶつける。いや、ほんとうは、わかっていた。こたえのわかりきっていた『疑問』などではなかったのかもしれない、それを。

 

「どーやったら……会えもしねー女を、ずっと、想っていられるんだ……?」

 

「承太郎……?」

 

「しかも、『忘れろ』とか言われといて……なんでそこまで想えるんだよ……」

 

「……さぁね。僕にもさっぱりさ。

 たしかに忘れることができれば、楽になるのかもしれない。

 でも……やっぱり、すきなんだから、しかたないよなぁ」

 

 花京院はいった。

 

「忘れたくないし。忘れられない。

 僕のなかでそれが一致しているし。だからほかにどうしようもない。それだけだよ」

 

 なんてことのないように。あたりまえのことのように。

 

「だいたい、忘れろとかいわれたって、僕からしたらなにいってんだって話さ。どうするかなんて僕の自由だろう? 僕の意思なんておいてけぼりで、まったくもってあのひとほんっっと、自分勝手なんだからさ。そんな彼女の言い分に従う義理なんて、これっぽっちもないね。だから僕も好き勝手に想ってる。それだけさ」

 

「……そうか。好き勝手に、か……」

 

「ああ。それだけ」

 

 やっぱりかなわねーな、そうおもった。

 

「ほんっと、女ってのはどいつもこいつも……勝手なもんだぜ……」

 

「まったく、……同感だね」

 

 

 

 新たな年が来て、米国に戻ったおれはいの一番に、向かった。

 

 あいつの元に。

 

「おい」

「え? 承……? な、なんで……? 夢? 幻?」

「寝ぼけてんじゃねーよ」

 

 泣きはらしたような真っ赤な眼、腫れきった瞼。

 

 案の定だ。

 

 気にくわねー。その表情をまっすぐにみつめ、いう。

 

「いいか? おわったら、かならず、もどってこい」

「……え?」

 

「……おれのところに、もどってこい。……いいな?」

 

「う……ん……っ!」

 

 

 

「まぁ、できれば……その泣き虫も、なおしてこいや」

 

「……無理。だれのせいよ……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に、実は自分があらゆるきっかけをつくった張本人だなんざ露知らず。

 

「で、どうなんだい? せっかくだから聞かせてくれよ」

 

「ああ? なにをだよ」

 

「もちろん、君とシャーリーン嬢の馴れ初め話……というやつさ」

 

 昨晩、今まで散々『ボケ女』とのことをからかってやっていた仕返しでも目論んでいるのか……花京院は心底楽しそうにおれに聞いてきやがった。

 

「すごいよなぁ。あの空条承太郎の……頑なな君の決意を覆すほどのなにか、だなんてよっぽどじゃあないか。そんな壮大なラブロマンスには大変興味があるなぁ。ぜひ拝聴願いたいものだ」

 

「……おまえだけには、ぜってー、いわねぇ……」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 承太郎とシャーリーン嬢に見送られつつ帰国した、あの日から約半年ほど経ったある日。再び一本の電話が僕の元に舞い込んだ。

 

「……産まれた!?」

 

「ああ。女だ」

「そうか、やったな! おめでとう、パパ!!」

 

「チッ……うるせーな……」

「フッ……」

 

 わかりにくいが確実に照れている。そんな受話器の向こうの彼を想像してつい笑みがもれる。

 

「名前は? もう決まっているのかい?」

「ああ」

「へぇ、なんだい?」

 

「……じょりーん」

 

「え?」

 

「……徐倫。

 空条、徐倫……だ」

 

「ああ……」

 

(……そうか。

 ……『ジョジョ』……か)

 

 彼を『受け継ぐ』者。

 

「……いい名前だ」

 

「……だろう?」

 

「ふふ、早くお目にかかりたいなぁ。君の『天使様』に」

「ふん。ああ、そうだ。花京院、ひとつおまえに言っておくことがある」

「ん、なんだい?」

 

「てめーの……三号にはさせんからな」

 

「なんの話だよ……」

 

 

 

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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