私の生まれた理由   作:hi-nya

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ながい愛

「出張で、そちらに行く」

 

 とおれが告げると、

 

「じゃあぜひ。また、少しでも会えれば」

 

 とやつがいう。

 

 

 

 ある週末の晩。おれは待ち合わせのバーに向け、歩みを進めていた。

 付き合いで参加せざるをえない飲み会のせいで、時間は押しに押していた。恨めしい気持ちで腕時計に目を落とす。

 

 夜も更けて来たというのに、まだまだ通りは人の波であふれかえっていた。宵街をゆく人々の顔は、嬉しそうだったり楽しそうだったり、またはその逆だったり……その表情はネオンと相まって街をさまざまな色に染めていた。

 

 自分は、どんなかおをしているんだろうな。

 

 そんなことを思いながら、目的地へ急ぐ。

 

 

「よう。すまん。待たせたな、花京院」

 

 ドアを開けると、すでにカウンター席にひとり佇む待ち人の姿があった。

 

「いえ。ご無沙汰してます」

 

 声をかけると振り返り、にっこりとおれに応える。

 

「……お兄さん」

 

 

 

 

 

「ちっ、何度も言ってんだろ。おれはおまえの兄さんになった覚えねーよ。……まだな」

「ふっ。そうですね。……まだ」

 

 挨拶代わりにいつもどおりの軽口を交わす。

 

「どうだ? 元気にしていたか?」

「ええ。まぁそれなりに、ですかね」

「……すまん、愚問だったな」

「いえ。こちらこそ、あいかわらずいい知らせをお届けできず……すみません」

「なにいってんだ。わかってるよ……馬鹿野郎」

 

 そう。わかっていた。

 こいつが、どれだけ、あいつのために、ずっと努力をしてくれているか。なんて。

 もう、痛いほどに。

 

 

 

 あの馬鹿な、本当に馬鹿な妹が眠りについてから既に五年の月日が経とうとしていた。

 しかし、目の前のこの男は、なにひとつかわることなく、妹のことを想ってくれているようだった。

 

 こうして、俺が東京に行く用事があったり、逆に、こいつがうちの地元に来ることがあるたび、こうして酒を酌み交わしているわけだが……。

 

(初見では、スカした気障な野郎かと思ったもんだがな……)

 

 こいつも、初めて会った際の俺に対する印象は最低だっただろうから人のことは言えないが。

 

 初対面の印象、それはとんだ間違いだった。

 

 知れば知るほど、こいつ(花京院)は、真摯で気持ちのまっすぐな……本当に、いいやつだった。

 妹のことを抜きにしても、知り合いになれてよかったとそう思えるほどに。

 

 

 

 だからこそ、申し訳ない思いでいっぱいになる。

 妹があんな『手紙』を残した気持ちが、今やおれにもとてもよくわかっていた。

 

「……もう、いいんだぜ?」

 

 これも、もう何度言ったかわからない。加えて、あいつの兄である自分がこいつにもう会うべきではないのではないか、と思ったことも言ったこともあるが……。

 

「何度も言っているでしょう? 僕は、自分のやりたいことしか、やっていない。と」

 

 そう言われては、なにも言えなくなってしまう。

 

「まったく……頑固な野郎だ」

 

 そもそも、もうすでに、こいつと会うのを毎回楽しみにしている自分がいる。

 

 そんなわけで、ついつい、こんな奇妙な関係が続いている、というわけだ。

 

 もちろん、もしも、こいつに『妹とちがう想う相手』ができても祝福してやれる。

 いや、むしろ、そのほうがいいのではないか、とまで、最近では思うようになっていた。

 

 こいつは、しあわせになるべき人間だ……ならなくてはいけない。心底そう思う。

 

 でも、きっと、こいつは自分ではそうはおもわないのだろう。

 それも、もう、とてもよくわかっていた。だから……

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 お兄さん……義経さんは、会うたびいつもこうだ。

 

 あんなことを言っておきながら、いっこうに結果を出せていない僕が悪いのに。

 きっと、この状況を『申し訳ない』と、思ってくれている。それが、よくわかる。

 わかりやすいのは兄妹そろって、おんなじだな……なんて思う。

 

 そんなことはないのだ。

 僕は本当に、やりたいことをしているだけなのだから。

 いや、正確にいうと、僕の『やりたいこと』なんてあれからずっと、ただひとつしかない。

 その唯一の目的のためにする努力なんて、苦痛でも、なんでもないのに。

 やたらと皆心配してくれるが、僕にとってはなんてことないのだ。そこに関しては。

 

 つらいことなんて、そんなの、ただひとつだけだった。

 

 

 そもそもこうしてちょいちょい会っているのも、気を遣ってのことだと思われているだろうが、そうではないのだ。

 義経さんは、それこそ、初対面では直情的な印象を受けたが、全くそんなことはなかった。

 普段は物静かで理知的で……話していて、結構自分とウマが合う、と感じた。

 だから、こうして会える機会を実は毎回僕は楽しみにしているのだった。

 

 このひとはただ、家族やたいせつなひとに対する情がとても強いだけなのだ。

 たいせつなものを護るためには、つい、ああなってしまうのだろう。

 やはり兄妹。ほんとうに、よく似ている。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 そんなことを思っていたら、義経さんはなにやら袋を取り出し、僕に渡す。

 

「これ。親父とおふくろがおまえに。大学の卒業祝いだそうだ」

「え! そんな……!」

 

「おめでとう。無理せず、がんばってね。だそうだ」

 

 お父さんとお母さんの顔を思い浮かべる。

 こんな僕にもかかわらず、彼らはいつも、やさしかった。

 心がふっと温かいものに包まれ、つい声が詰まってしまう。

 

「……ありがとう、ございます」

「ふっ、おれにいうなよ」

 

「そうですね。明日にでも電話しておきます」

「そうしてやってくれ。春からはおまえ大学院行くんだっけか? まだ勉強すんのかよ」

「抱えている研究テーマがけっこう興味深くて、今やめるのはもったいないかと。それに……」

「それに?」

 

「……社会人になったら自由になる時間が減っちゃうじゃあないですか」

 

 すると、呆れ半分の顔でため息交じりに言われる。

 

「おまえの頭ん中はそればっかりか。社会なめてんじゃねーぞ。まったく。って、おれがいうのもなんだがな……」

「ふっ。では、いずれ僕も避けては通れない……社会人の心得をご教示いただこうかな、先輩に」

「なんだよ、それ」

「最近、どうですか? 仕事の方は」

「そうだな……ああ、そうだ。それが、ちょっと不思議なことが起こっていてな」

「不思議なこと?」

 

 義経さんは警察官をしている。が、彼の次の言葉は、全く予想の範囲外のものだった。

 

「座敷わらし、って知っているか?」

 

「は? あの、妖怪の? 古い家に住んでいて、幸せを運んでくる……とか、そんな感じでしたっけ?」

 

 スタンドならともかく、そういうものは専門外だ。曖昧な知識を頼りに言う。

 

「ああ。そうだ。が、それだとちょっとニュアンスが違うな……妖精、いや、小人、か?」

「あの、話がさっぱり見えないんですが……」

「まぁ、最後まで聞け。順を追って話すか」

 

 そうして彼は、その不可思議な事件について話してくれた。

 

「おれが今、県警から派遣されて、田舎の小さな派出所の所長を住み込みでしているのは知っているよな?」

「ええ。以前聞きましたが」

「その今住んでいる派出所兼、住居なんだが、これがまた、おんぼろでな。幽霊が出てもまったく不思議ではない、そんなところではあるんだが……。まぁ、それはともかく。そこにおれは独りで、暮らしている。にも、かかわらず、だ」

 

 そこで一息、グラスの中身で喉を潤したあと、いう。

 

「身に覚えのない出来事が、次々に起こるんだ。

 脱ぎ捨てて、置きっぱなしだったはずのスーツがしっかりハンガーにかけてあったり……」

 

「それは、無意識に自分でやったんじゃ……?」

「アイロンまでかかっていたんだぜ? パリッとな」

「え!?」

 

「迷子になった子どもを探しまわった日があったんだ。山やら森やらに入ってやっとこさ見つけて……そんなわけで靴は泥だらけさ。よく覚えている。それが翌朝には新品みたいにピカピカに磨かれていたり……」

 

 天井を仰ぎつつ、彼は眉根を寄せる。きっと隣の僕も同じような表情だったに違いない。

 

「あとは書類を書いている途中で寝ちまったことがあるんだが、全部判子が押してあったりな。そのときは自分に毛布もかかっていた。最近では、パトロールから帰ってくると、風呂が沸いていたりもする。細かいことを言ったらきりがない。そもそも、気づいていないだけで、もっとあると思うしな」

 

「それは……たしかに不可思議ですね」

 

「だろう? さすがに気になってな。

 おれは実は夢遊病とかなのかもしれん……まずそう思った。

 だから、自分の寝ているところをビデオで撮ってみたんだよ。

 もちろんがっちがちに戸締りをしてな。

 ちなみにその日は目覚めたら朝食が置いてあった。

 すぐにビデオをみてみたよ。そうしたら……」

 

「ど、どうだったんですか……?」

 

 そろって神妙な面持ちで、彼の言葉を待つ。

 

「……おれはずっと寝ていたんだ。ちゃんと。もうわけがわからん。

 害はない……というか、むしろ正直助かっている部分もある。

 もういいかと思い、開き直って、そのままなわけだが……」

「い、いいんですか? そのままで……」

「仕方ないだろう。いい対策が思いつかん。

 まぁ、おれもあの家の人間だ。花京院、おまえや仁美の『あれ』は見えないが……。

 不思議な現象に対する免疫はある方だしな。

 それとも、ほかに確かめる方法が、なんかあるか?」

 

「うーん。いい、かどうかはともかく、ひとつ方法を、思いつきましたが……」

「なんだ?」

 

「僕が、見張ってみますよ。こっそりと」

 

 

 

 

 

 というわけで、僕は今お兄さんの職場兼、自宅にむかって愛車を走らせていた。

 高速を下りたあと、山や峠道をいくつもこえて、のどかな田舎町……それこそジブリの話にでもでてきそうな……にたどり着く。その町の中心部に派出所はあった。

 なるほど、おんぼろ……たしかに趣のある昔ながらの日本家屋だった。

 

「よお。すまんな。遠くまで」

「いえ、どうせ今暇なので。大学もあとは卒業式だけですし」

 

 そうなのだ。中途半端に時間を持て余していたので、ちょうどよかった。

 

 それに……なにか『予感』があった。

 

 自分が行った方がよい。という。

 

 

 

「なにもないところだろう?」

 

 義経さんは冷蔵庫からビールを取り出しながらこういった。テーブルには彼が自作したであろうつまみが置かれている。あのひとも料理上手だしな……と、ふっとまたそんなことをおもいだしてしまう。

 

「いいじゃあないですか。のんびりした風情で。ただ……」

「ただ?」

「……この土地の人たちはびっくりしただろうなと。急にこんな都会的でスタイリッシュなお巡りさんがやってきて」

 

 クォーターで美形の……つい笑ってしまう。

 

「うるせえな。まぁ、たしかに最初は浮いていたがな。

 もうすぐここにきて1年経つ。こっちも皆の顔はおぼえたし、ようやくあっちもなじんでくれたってところだ。でもおれの任期は2年だから……来年の春にはまた異動だ。ようやく、ってとこなのにな」

「そうなんですね」

 

 警察官は異動が多い、と聞く。しかもこのひと、実は何を隠そう某有名大学の法学部卒で、俗にいう『キャリア』というやつなのだ。余計にその頻度は高いのだろう。

 

「でも、この任期が終わって、本庁に戻ったらまた昇級でしょう? きっと」

「まったく興味ねぇ。おれはこういう、『町のお巡りさん』の方が性に合ってんだよ」

「ふっ、それはそうかもしれませんね」

 

 義経さんらしいな……とおもわずまた笑みがもれる。

 

「町のお巡りさん、かぁ……どんな感じですか? 

 ここ、おだやかそうだから、そうそう事件なんて起こらなそうですが」

「それがそうでもないんだぜ。農作物が荒らされた、とか多いな。

 ……犯人は主にイタチだが。あと、スイカ泥棒とか」

「ぷっ」

「笑うなよ。そんなのはいいんだが……。

 子どもが山で迷子になった話はしたな。そういう深刻な事件も時にあるし。

 あと、けっこうここ、旅行者が通りかかるんだ。そいつらが悪さしたりすることがあるんだよ。

 それに、大雨とか台風が来たりすると、ひとり暮らしのお年寄りが多いからな……気をつけとかにゃいかん。結構大変なんだぜ。こっちはひとりだし」

「なるほど……」

 

 それはたしかに大変そうだ。真面目で責任感のあるこのひとには特に。

 

 そんな話をしていたらつまみもあらかたなくなり、けっこうな時刻になっていた。

 

「さて、じゃあ今日は風呂入ってさっさと寝るか」

「そうですね」

「本当に、すまんな。方法は、おまえに任す。くれぐれもほどほどに、適当に、でいいからな?」

「はい、わかっています」

 

 

 

 

 

 草木も眠る、丑三つ時……要は午前二時頃だ。

 

 僕は寝たふりをしつつ、法皇(ハイエロファント)を家中にこっそり張り巡らして様子をうかがっていた。

 

(今のところ、異常なし……か。ん……?)

 

 すると、台所から、異常……というか気配を感じる。

 

(きたか……あ、あれは!!)

 

 流しにある、先ほど僕らが使った食器(あえて洗わず、置きっぱなしにしてみた。大成功だ)の周りに『なにか』がいる。

 

(やはり……スタンド……か)

 

 なんとなくそんな気がしていた。僕の予想は的中したようだった。

 

(なんだあれ……? メルヘンやファンタジーじゃああるまいし)

 

 体長およそ20センチくらいだろうか。小さな、人……? さながら白雪姫の小人のような、ちょうど人数もそれくらいの集団が協力して食器を洗っていた。ひとりがスポンジをもち、またあるものは洗剤をかけ、さらに別のものが蛇口をひねる、といった具合だ。その様子はまるで、おとぎばなしの一場面をみているかのようだった。

 

(さて、どうしたものか)

 

 小人たちを取り押さえるのはたやすいが、それでは根本的な解決にならないだろう。

 このスタンドは、おそらく、遠隔操作型。いや、というより、この感じは……

 

(セシリアと同じく、半自立型のそれに近そうだな)

 

 あの美しい鳥と、それを繰る、愛しきひとの綺麗なすがたをおもい浮かべる。

 

(ハッ!)

 

 おもい描いたそのすがたに見とれている自分に気づき、呆れてしまう。

 そもそもそんな場合ではなかった。

 

(いかんいかん。ええと……『本体』の居場所を突き止める方が、この場合、適切だな)

 

 食器洗いが終わると今度は流しの掃除……といった具合に家事をひとしきりしていく。

 そんな働き者な彼らを傍観すること小一時間。

 作業はやっと終わったようで、通気口から彼らは次々引き揚げていく。

 

(よし、尾けるか……)

 

 細長く凧糸のようにしたハイエロファントの触手を一人の小人の脚にこっそり巻きつける。

 そして彼らの姿が見えなくなった頃合いを見はからい、ゆっくりとそれを追いかけることにする。

 

 おもむろに僕が起き上がると、義経さんに声をかけられた。やはり律義に起きていたらしい。

 

「……なにかみつけたんだな? おれも行く」

 

 一瞬迷ったが、危害を加えるようなタイプのスタンドではなさそうだ。

 

「……わかりました」

 

 ふたりでそっと家を出る。

 『法皇の尾行紐(ハイエロファント・テイルストリングス)』を手繰りつつ、事情を説明する。

 

「なんだと? そんな能力者が、この村に? 誰だ……? というか、なんのために……?」

 

 

 

「……お疲れさま、みんな。ありがとう」

 

 辿っていった先は、酒屋の軒先にある自販機前の簡素な木のベンチ。

 

 そこに腰掛けていたのは、一人の少女だった。

 

「あの娘……みたいですね」

「わかった……」

 

 

「こんばんは。ちょっといいかな」

「ハッ! お、おおおおお、お巡りさん!? ど、どうしてここにッ!?」

「君は……岩野さんのとこの、なつみちゃんじゃあないか。こんな夜更けになにを?」

 

「な、なんでもないです! そ、その、あの! じゅ、受験勉強に飽きたので、ちょっと散歩に……」

 

 しどろもどろ。その少女……なつみ嬢の狼狽しきった様子は、それはもう、見ていて可哀想になるくらいだった。

 

(……なんだか、だれかさんのことを彷彿とさせるな。このあわてっぷりとわかりやすい感じは……)

 

 だいたい事情が呑み込めてしまった僕はお兄さんに申し出る。

 

「あの、義経さん。少し、僕とこのお嬢さんでお話をさせていただいてもいいでしょうか?」

「え!? し、しかし……」

「当事者じゃないほうが、話しやすいこともありますから」

「そうか……。じゃあ、頼む」

 

 そして、少女に挨拶をする。

 

「こんばんは」

「こ、こんばんは……」

「なつみちゃん、こいつはあやしいもんじゃねえ。安心しな。

 花京院。じゃあ、おれはあそこにいるから。終わったら呼んでくれ」

 

 そういってお兄さんが少し離れた場所に移動する。

 それを見やり、声をかける。

 

「さて……率直に聞きます。あの、小人たちの主は、貴女ですよね?」

「えっ!? な、なんでそれを!?」

 

「これ、……見えますよね?」

 

 百聞は一見に如かず。僕はハイエロファントを出す。

 

「そ、それは! あ、貴方も……?」

「ええ、君と同じような『能力』を持つ者……です」

「そ、そうなんだ……わたし以外にも、いたんだ……」

「その力は……生まれつき、もって生まれたものですか?」

 

 矢に射られたわけではなさそうだが。一応聞いておく。

 

「ええと、いつだったかな? 

 こどものころ『なつみ、手伝ってやるよ』……って出てきて以来?」

 

「頼むと家事やらなんやらをしてくれるんですか? 彼らは」

「はい。だれかのお手伝いをしてくれるんです。すごく便利で、いつも助かっています」

 

 にっこりとなつみ嬢はいう。

 

(便利……か)

 

 一般的(スタンド使いなのに一般というのもなんか妙だが……)には、スタンドとはそういうものなのかもしれないな……などと思う。

 

「そっちのは? どんな能力なんですか?」

 

 そんなことを考えていたら逆に問い返された。

 

(聞いといて全く答えないのもフェアではない、か……)

 

「そうですね……遠くまで行けたり、いろいろ調べてきたり、とかが得意ですかね」

「へぇー。それも便利ですね。こっちは離れると何をしてくれているのかわからないんですよ。

 そっか。わたしの、この子たち、それでみつかっちゃったんですね……。

 ハッ! まさか、お巡りさんも!?」

 

「いえ、彼は違います。いろいろ事情があって、これらの存在をご存知ではありますが……」

「……ほ、ほんとうに……!?」

 

「で、どうしてこんなことを?」

 

 まだ戸惑っている様子だが、本題に入る。

 

「……」

 

 しかし、少女は返事をくれそうもなかった。

 

「……仕方がない。当ててさしあげましょう」

「えっ!?」

 

「……君は、彼に……恋をしているッ!」

 

「うっ!」

「だから、気づかれないように、あんな……違いますか?」

 

 しばしの沈黙のあと、なつみ嬢は泣きながら答えた。

 

「う、うう……。わたし……わたし……! ごめんなさいー!」

「やっぱり……」

 

「……だって、いつも、お巡りさん、ひとりで大変そうで……。

 せめて……なにか、役に立ちたいって……おもって……」

 

「……」

 

(気持ちはわからんでもないが……。どう考えても心霊現象にしか思われないだろう……)

 

 相手が義経さんだったからまだ良かったものの、一般の人にあれをやったらホラー以外のなにものでもない。下手したらノイローゼものだろう。

 

 しかし、まだ続きがあるらしい。なつみ嬢はぽつりぽつりと話してくれた。

 

「それに……」

「それに?」

 

「恩返し……したくて……。お巡りさん、わたしの、恩人、だから……」

 

「恩人?」

「去年の秋のことです。観光で来たっぽい、大学生くらいの男の人たちに、わたし、ナンパされて……。断ったんですけど、しつこくて……。車に無理矢理乗せられそうになったんです」

 

「なんてことを! ありえん。男の風上にも置けないやつらだ」

 

(旅行者が悪さを……そういえばそういっていたな……)

 

 先ほどの彼の話を思い出す。

 

「すごく怖くって……もうダメだって、そう思ったときに、お巡りさんがきてくれて助けてくれて……とっても素敵でした。そのときから、わたし、お巡りさんのこと気になりだして……」

 

 なつみ嬢は頬を染める。

 

「それから、お仕事しているところとかに、すごく、目がいってしまって……。

 そしたら、わかったんです。

 お巡りさんはいつも一生懸命、この村のこと、考えてくれて、みんなのこと、護ってくれているって。それでもう、ほんとうに……だいすきになってしまって……」

 

 恋する女の子は……と、あの旅で皆が散々言っていたが、こういうことなのかなと思う。

 義経さんのことを想って話すときのなつみ嬢の目は輝いていて、別人のように見えた。

 

(あのときの、彼女も……そうだったのかな? 

 僕にとっては常に……最初からずっと可愛かったから、正直わからん。

 たしかにどんどんそれは増していった気もするけれど、それは僕のきもちに比例したものだと思っていたし……)

 

 ちなみにそれを親友B(ポルナレフ)に言うと、

 

「そりゃあ、あいつはおまえをみているとき、常にそういう状態なわけだからなぁ……」

 

 とかなんとかいわれた。だとしたら……

 

(……嬉しすぎるじゃないか。どうしよう)

 

 とか考えてついにやりとしてしまう。

 が、またしてもそんな場合ではないことを思い出す。

 

「だったら、こんな回りくどいことせずに普通にアプローチしたらいいんじゃあないですか?」

「だって、だって。お巡りさん、あんなに大人で、かっこよくって……わたしなんて高校生のガキだし……相手にされるわけないですよ」

「……今は、ね。たしかにそうかもしれません。でも、まだまだ先はながい。

 諦めなければ、いつかチャンスは、あるかもしれませんよ?」

 

 昔、あの旅で、敵スタンド使いに、『小さい子ども』にされたときのきもちをおもいだす。

 

「そ、そうですか!? 脈、あると思います……?!」

「さぁ、それはなんとも。僕にはわかりませんね」

「えぇー……?」

 

 ガックリとうなだれる、そんな少女に言う。

 

「……まぁ、でも、これだけは言えます。

 貴女には見る目がある。

 彼を選んだ貴女の選択は絶対に間違っていない。ってことだけはね。

 せっかくだから、まずは、勇気を出してぶつかってみることを僕はおすすめしますが」

「う……」

「とりあえず、ああいうことは、もうやめましょうね。

 彼も困ってしまうし、貴女もこんな夜更けに危ないし……いいですか?」

「はい……。ごめんなさい」

「……それは彼に、直接言いましょう」

「で、でも……」

「貴方の力になりたかった、と素直に言えば大丈夫ですよ。彼はやさしいから。

 ……頑張ってくださいね」

 

 

 

「終わりましたよ。貴方はお嬢さんを家まで送って差し上げるんでしょう?」

 

 自分の役目を滞りなく果たした僕は義経さんに声をかける。

 

「あ、ああ」

「じゃあ、僕は先に帰っていますね。ごゆっくり」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「あ、あの人はいったい……? お巡りさんのお友だちですか?」

「ああ……。そうだな……」

 

 頷く。

 

「『友だち』……だな」

 

 そして、加える。

 

「……あと、弟になる予定の……変なやつだよ」

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。どうでした?」

 

 なつみちゃんを無事送り届け、我が家に帰ると花京院がにまにまとした顔でおれを待ちかまえていた。

 

「ああ……ごめんなさい、もうしません、ってさ」

「それだけじゃないでしょう?」

「……」

 

 

 ──本当にごめんなさい! これから、二度ともうこんなことはしません……でも、ときどきでいいので、わたし……お巡りさんのお手伝いをしに行ってもいいですか? あなたの力に、なりたいんです! ──

 

 と言われたが……言わない。こいつには。絶対に。

 

「義経さんもスミにおけないなぁ。あんな純粋な女子高生を」

「うるせえ」

「彼女のきもちには気づいていたんでしょう?」

「まぁ……な」

「どうするんですか? お付き合いを……?」

「するか! 三十路近いんだぞ、おれは……。

 いくつ年が離れていると思って……犯罪じゃねーか……」

 

(こいつ、警官になんてことを……)

 

「ええー? いいじゃないですか。

 たかだか、えーっと10歳差でしょう? 

 それにそもそも愛に年の差なんて関係ない。やぁ、至言ですね」

 

 そんな風に減らず口を叩くやつに言ってやる。

 

「ああ? じゃあ、花京院、おまえが付き合え。

 おまえの方が歳は近いし、おなじスタンド使いだろ! 

 おあつらえむきだ! そうしろ!!」

 

 『二人で話をさせろ』こいつがああいったとき、とうとうそのときがきたか……一瞬そう、思った……のに。

 

「はぁ? 無理ですよ。僕は貴方の妹さんにしか興味ないので」

 

 全然違ったようだ。

 

(こいつ……またきっぱり言い切りやがった……)

 

「……おまえ、兄にむかってよくそんなことが堂々といえるな……」

「隠す必要なんてないじゃあないですか。よく知っているでしょう? そんなこと」

「まぁ……そうだが」

「ほら」

 

 言いくるめられそうになる、自分をどうにか叱咤しつつ、いう。

 

「いや、というか、だ! 

 盲目的にうちの妹のことしか見ないからいけないんじゃないのか? 

 前にも言ったが、ちょっとは……」

「……また。そういうと思って……

 実は、自分でも……どうだろうかと考えてみたんですけどね。ためしに。

 失礼な話で申し訳ないんですが、まぁ、仮定の話として」

「は?!」

「だって貴方や皆がそうやってしつこく……

 他に目をむけようとしないからだ! とかいうから、一応……」

「一応って……」

 

(……本当に……なんて変に真面目なやつだ……)

 

 呆れているとなおもやつは続けた。

 

「なつみ嬢は、スタンド使いで……

 どことなく彼女と似ているところがありそうだし……。

 もしも、彼女以外の方に恋をしなければならないのであれば……。

 あなたのいうとおり、もしかしたら『おあつらえむき』な相手なのかなと」

 

「……」

 

 自分で勧めたくせに。

 

 ……にもかかわらず、やっぱり……ききたくない。そう、おもってしまった。

 

 そんなおれに、どこか遠くをまっすぐにみつめながら、零す。

 

「……でも駄目でしたね。

 全然違った。

 自分でも驚くほどに。

 なつみ嬢がどうとか、そんなんじゃあなくて……

 ほかの誰でもきっと同じで……」

 

「どうしても想い出してしまう。

 ささいなことから彼女のことを……。

 どうしても想ってしまう。

 ……彼女だったら、どうおもうかな? なんていうかな? 

 ……彼女とは、ちがうんだな……とか、考えてしまう」

 

「……やっぱり……彼女じゃなきゃ駄目なんですよ。

 僕はどうやら、スタンド使いだ……とか、そういうの関係なく……

 彼女のことが、彼女だから、こんなに、どうしようもなく、すきなんだ。

 彼女が、いいんだ……」

 

「花京院……」

 

「……と、いうことを、結局再認識してしまっただけでした。

 困ったもんですよ。

 だいたい、どうして無理に他の人のことをすきにならなきゃいけないんですか? 

 相手の方にも失礼だし。そんな意味も必要もない。

 僕がこのままでいいって言っているんだから、いいんですよ」

 

「そ、そうか……」

 

 残念なような、ホッとしたような……。

 そんな複雑極まりない心情がふたたび胸をよぎる。

 

 こいつに、しあわせになってほしい。

 

 できることなら、やっぱり……あの馬鹿な、うちの妹と。

 

 ……そんな勝手な、おれの本音が。

 

 

 

「……まぁ、そもそもの話、それ以前に、僕なんてアウトオブ眼中……というやつですよ。なつみ嬢は誰かさんに、そりゃあもう夢中なんですから」

 

 そして、なおもからかうように、おれに言ってくる花京院。

 

「あ、あれくらいの歳の恋愛なんて、そのうちすぐに冷めるさ……」

 

「そんなことはない。それこそ年齢なんて関係ないですよ。

 だって僕が仁美さんのことをすきになったのも17歳のときですよ。

 以後、ず────っと。冷めるどころか、こんなざまですが?」

 

「それはおまえが……いや、おまえたちが特殊なんだよ……」

 

 そういうと、なにやらとても嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「……お誉めにあずかり、光栄です」

 

「誉めてねぇっての……。ふっ!」

 

 そんなわかりやすい様子に、つい笑みがもれてしまう。

 

「ふっ! まぁ、なつみ嬢の貴方への想いが、僕たちのそれとちがうかどうかなんて……そのうちわかるんじゃないですか?」

 

 

「……先はまだ、ながいんだから……」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

 ほんとうに、自分で言っておきながら、まったくもってその通りで……確かにまだまだ、ながかった。

 

 しかし、その先に……

 

 とうとう僕はみつけたのだ。

 

 まったく偶然に、義経さんと訪れた彼の地で。

 

 

 『さがしもの』の片割を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……というわけで、次回からいよいよ最終章に突入です。とうとう花京院が『彼ら』に出逢いますよ! なので五部やら二部やら四部やら、混部気味になりますがご了承ください。あ、今更か……。最終回まであと少し。ペース上げて頑張ります!
ここまで読んでいただいてありがとうございます。しおり、お気に入りや感想、メチャ励みになっています! よろしければまた次回もお付き合いくださるとうれしいです!!

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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