私の生まれた理由   作:hi-nya

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Golden road

「で、どうしたものかね? あの親分さんたちを護りきるためには、だ」

 

 ほとんど空になったジョッキをテーブルに置きつつ、義経さんが閑話休題。本題へと話を戻す。

 昼食とも夕食ともつかぬ半端な時間であるからであろうか。夕暮れの、まだ客の数もまばらな食事処兼バーのような店の一角に僕達三人は腰を落ち着け『作戦会議』を開始していた。

 

「うーん、どうすっかね。しかも、なるべく本人らにバレないようにこっそりやるんだろ? うお! あっちぃ! けど、うんめぇー!」

 

 運ばれてきた焼きたてのピッツァ(シンプルなマルゲリータにポルチーニ茸をトッピング。これがいいんだよ、これが! ……とはリクエストした本人談。さすがヨーロッパの民……なのか?)。その天まで伸びるかのような熱々のチーズと格闘しつつもポルナレフがいう。

 

「ハフハフ! なら、もう近づかせる前に全部片付けちゃうのが一番じゃね?」

「うむ。となると、外で待ち受ける形がいいか。にしても、どこで……」

「ふっ、そうくると思いましたよ」

 

 これぞ待ってました、である。こうなるであろうことを半ば予期していた僕は、あらかじめ防衛対象建築物の間取りを法皇(ハイエロファント)で把握しておいたのだ。メモを取り出しサラサラとペンを走らせ、必要な情報を描き出す。

 

「あの建物に出入口はふたつ。正面の正規の入り口と、ここ、裏口……抜け道からつながるもののそれです」

 

 図面のポイントを指しつつ、覗き込む二人に示す。

 

「今日の『下見』の様子からして、あちらもそれは調査済でしょう。少数精鋭で暗殺しにくるのか、はたまた昼間以上の大所帯で数にものをいわせてくるか……敵側がどのような手段を用いてくるかはわかりません。ちなみに、直接わざわざ乗り込んで来たことからもわかるように、この建物の窓はすべて防弾ガラス完備。スナイパーによる遠距離からの狙撃は考慮に入れなくてもよいかと。よって、どちらにせよ、まずここを目がけてくるのは確実でしょうから……」

 

「なるほど、その2点の進入路を見張ればいいってわけだな」

 

「ええ。僕が少し離れた場所から建物全体を含め正面入口を見張ります。で、貴方達二人には裏口をお願いしたい」

 

「「なに……?」」

 

 すると、顔を見合わせたあと口を揃える義経さんとポルナレフ。

 

「駄目だろ。それじゃあ花京院、おまえが独りで危ねぇじゃねーか」

「おめー、オレ達がいねーとさみしくて泣いちゃうんじゃね?」

 

「……過保護か。そして、誰が泣くか!」

 

 なんだろう? これが、『兄』という種族に共通する習性とでもいうのだろうか。苦笑しつつ返す。

 

「僕のことは御心配なく。適材適所、というやつですよ。三人の中で遠距離かつ広範囲担当できる能力を持つのが僕、と理由は唯それだけです」

 

「まぁ、そうだが……」

「うーん……」

 

 しばし眉間に皺を寄せて『兄』達は唸っていたが、結局それ以上の代案は出なかったようだ。しぶしぶであるがどうにか了解を得ることに成功する。

 

「しゃーねぇ。それでいくか」

「くれぐれも無茶すんじゃあねーぞ」

 

「もちろん。そちらこそ気を抜かないでくださいよ? 

 精鋭が忍び込んでくるとすれば裏の方が確率高いんですから」

 

「うーん。精鋭か……どんな奴がくるんだろうな?」

「だいじょーぶだって! オレらにかなうやつなんてそうそういねーだろ」

 

 腕を組み唸る義経さん。そこにかけられるお気楽男(ポルナレフ)の声。

 

「……まっさか、刺客でスタンド使いが来ちゃうわけでもあるまいし!」

 

「「……」」

 

 一人陽気な男のその台詞に、義経さんとともに頭を抱える。

 

「おい、ポルナレフ……」

「教えてやろうか……?」

 

「ん? なにを?」

 

「そういうのを、日本では……」

「『フラグを立てる』っていうんだよ……」

 

 スタンド使い同士は引かれあう……もう、幾度となくこの身に染みて実感している、あの言葉がまたも僕の頭にこだましていた。

 

 

 

 

 

 一抹の不安と確信めいた予感を抱えたまま、日付の変わる少し前、宵闇に紛れて僕達は再び護衛対象……マランツィーノさんの事務所までやってきた。

 

 周囲はシンと静まり返っている。どうやらまだ『お客様方』は到着していない様子だ。

 

「それでは手はず通り、配置につくとしましょう」

 

 皆に声をかける。それに呼応し響く仲間の声。

 

「ああ」

 

「おう!」

 

「はい」

 

(……ん? なんか返事の数が……)

 

 違和感。その元をたどる。

 

「「「って、はぁ!?」」」

 

 その存在に気づいた僕たちの、呆れきったユニゾンが闇夜に響く。

 

「おい……」

「ちょっと待て……」

 

「おや? どうかされましたか? 皆さん」

 

 

「……ジョルノ君……」

 

 

 

 

 

「じょ、ジョルノ!?」

「どうして君がここに……」

「来るなって言っただろう!」

 

 そんな僕たちの声もどこ吹く風か。しれっと少年はいった。

 

「ぼくもここで見守ります。当然でしょう? 

 依頼主はこのぼくなのですから。顛末を見届ける義務がある」

 

「はぁ!? 駄目だ! 帰りなさい。どんな危険があるかもわからないんだぞ」

「そうだぜ。おめーを護ってやれる余裕は……」

 

「かまいませんよ。ぼくはただ居るだけなので。どうぞお気になさらずに」

 

 全員で必死の説得を試みるも、それを柳の如く柔らかく受け流す少年の態度は巌と石のように頑なで、とても聞き入れてもらえそうもなかった。

 

「参ったな……」

「どうするよ……」

 

「はぁ、しかたがないな……」

 

 ここで長々と押し問答をしている時間もない。やむを得ず、妥協案を提示することにする。

 

「僕の傍にいるといい。比較的安全だろうから」

 

 

 

 

 

 そんなわけで僕は成り行き上、ジョルノ君と共に事務所全体が見渡せる、現場から少し離れた小高い丘の上で監視を開始していた。

 相変わらず建物は静寂を保っていた。これが嵐の前のなんとやら……というやつであろうか。

 

「……」

 

 ちらりと隣の少年を見る。

 いつギャング同士の抗争がおっ始まってもおかしくない。そんな状況なのだ。恐怖心を感じるものではないのだろうか? 一般的な少年ならば。

 しかし、その表情からは不安げな様子すら微塵も読み取ることができない。これまた相変わらずの年齢に似合わぬポーカーフェイスを貫いている。

 不思議に思い、少年に尋ねてみることにした。

 

「ジョルノ君、ひとつ聞かせてもらいたい」

「なんですか? 花京院さん」

 

「理由さ。どうしてそこまで彼らのことを護りたいんだい? 『一般人』の君が、だ」

 

「……どうして、そんなことを聞きたいんですか?」

「別に。まあ、同じく『一般人』の好奇心、かな。まぁ、いいじゃあないか。おしゃべりも。ただ待つだけの時間は長いものさ」

 

「……」

 

 暫しの沈黙、逡巡を経たその後に、少年はぽつりと言葉を紡ぎだした。

 

「……恩人、なんです」

 

「マランツィーノさんがかい?」

「いえ、彼の傍にいつもいる……」

「ああ、あの……」

 

 主を、その身を厭わず献身的に支えている……そんな様子が印象的だった。あの側近の方の精悍な顔つきを思い出す。

 

「あのひとのおかげでぼくは……『にんげん』になれた」

 

 少年の表情が、やわらかくなる。年相応の、それに。

 

 そうしてジョルノ君は語ってくれた。凄惨ともいえる、その生い立ちを。

 

 彼との深い『友情』を。

 

「……」

 

(この少年も、形は違えども……

 ずっと、『ひとり』だったのだ……)

 

 そして、救われたのだ。きっと。

 かけがえのない出逢いによって。

 

 思い浮かべる。

 あの旅でであった、仲間たち、そして……

 

「……なんですか? 同情などいりませんよ?」

 

 黙り込んだ僕に、そんなことをいう少年。

 

「同情なんて、これっぽっちも。

 若干『同調』はしているけれどね」

 

「え……?」

 

「いや、なんでも」

 

 不思議そうな顔の少年に確信を告げる。

 

「……『たいせつなひと』、なんだね。彼は、君の」

 

「……。変なひとですね。花京院さん、貴方は。

 普通、自分の財布をスろうとした悪ガキの言うことに、そんな……。

 とんだお人好しだ」

 

「ふっ、そうかい? 

 前はこんな人間じゃあなかったはずなんだけれどね。僕は。

 変わっちゃったんだよね……きっと。

 ……底抜けにお人好しなだれかさんのせいで」

 

 頭に想い描く。『だれかさん』のかおを。

 

「……」

 

 そんな僕の顔をじっと見た後、少年はいう。

 

「……なるほど。その方が、『たいせつなひと』、なんですね。花京院さん、貴方の」

 

「……さあね」

 

「ふっ、まったく。本当に変な方だ。

 おかげで、つい余計なことまで話したくなってしまう……」

 

 そして少年は、その瞳を星の様に輝かせる。

 

「ぼく、ジョルノ・ジョバーナには、夢がある」

 

「……夢?」

 

「ぼくは、強い憧れを抱いている。

 ……彼のような、真のギャングスターに」

 

 力強く、まっすぐに。

 

「彼は、この世界にぼくを関わらせたくないと言っている。

 でも、なりたいんだ。必ず……なってみせる。

 あなたのおかげで、あなたのようになれた……と。

 いつか、伝えたいんだ。だから……」

 

「ああ。わかっているよ。

 護ろう。……必ず」

 

 

 

 

 

「……来たな」

 

 監視開始から二時間ほど経過した頃だった。その数およそ50人といったところか。銃を手に武装した連中が隊列を組んでぞろぞろと正面入り口前に集まってきた。

 

(さすがに多いな……なに!?)

 

 とはいえ、それくらいなら想定の範疇だ……などと考えていた僕に衝撃走る。

 

(全員……同じ、顔!?)

 

「……ポルナレフのせいだ」

「花京院さん?」

「いや、……こっちの話」

 

 案の定のフラグ回収。そして、あの言葉の重みを改めて実感する。

 

 連中の一体をこっそり調べてみたところ、スタンドエネルギーを感知。『実体』ではないようだ。おそらくは分身のようなものを生成するスタンド使いの仕業なのだろう。

 

(少数精鋭で数にものをいわせてきたか。なんかそんな気はしていたけれど……)

 

 しかし、この事態『自体』が僕を慌てさせることはなかった。

 このようなタイプのスタンドに対しては、中に混じっているであろう『本物』を見つけ出すか、もしくは全員一気に叩けば問題ないはずだ。

 

 ──オー、ノォーッ!!──

 

 とか言われつつ、脳の中で闘ったあの旅の一幕を思い出す。

 今さら気づいたが、あれは御老公(ジョースターさん)お得意のダジャレだったのだろうか? 今度会ったら聞いてみよう……そんな至極どうでもいいことを考える余裕があるほどに。

 

(しかたがない。時間はかかるが、また一体ずつ調べるか……)

 

 思い出にふけっていた……そんな僕への戒めだったのだろうか。

 

「すみません、花京院さん」

「……ん?」

 

「ぼく、行きます!」

 

「あっ!」

 

 何を思ったやら、そう言い残し、なんと突然少年が敵の渦中へと一目散に駆けだした。

 

「な、なにィッ! なぜ!? 

 戻れ! 戻るんだ! ジョルノ君ッッ!!」

 

 止める暇など全くなかった。

 

「……敵……」

「……排除……」

 

 彼の接近を奴らが気取らぬわけもない。ガチャリとその銃口が一斉に少年の方を向く。

 

「くっ! やむをえん!」

 

 緊急事態(トラブリュー)発生。予定変更だ。一気に叩く案を採用することとする。

 

「くらえッ! 半径20mの……エメラルドスプラッシュをッ!!」

 

 密かに張り巡らしていた『法皇の結界』から群衆に向け碧色の嵐を叩き込む。

 次々と煙のように姿を消していく分身体。

 

「……。しまった……」

 

 消えてしまった。全員。

 それはすなわち……

 

「そこに隠れているヤツ……出てこい!」

 

(くっ! やはりか……)

 

 倒したのは全員、分身。本体はその中にはいなかったらしい。

 

 野太い声がした方を見やると分身と全く同じ顔の男……

 

「……このガキの命がおしかったらな!」

 

 そして捕獲され、頭に銃口を押しつけられている、少年の姿があった。

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「大丈夫だろうか、あいつら……」

 

 花京院とジョルノと分かれたのち、オレと義経にーちゃんは予定通りのポイントに潜み、屋敷への隠し入り口を見張っていた。小一時間程たった頃、ぽつりと発された一言に返事をする。

 

「だいじょーぶだろ。花京院がついているし」

 

「それは、そうなんだが……」

 

 それでもまだやっぱり難しい顔をしている相手に素直な感想を述べる。

 

「義経にーちゃん、ほんとに過保護で心配性なんだなぁ……」

「ああ? そんなことねーよ。

 ただ、あのかっこつけのお人好し……クールぶっているくせに、いざって時は平気で自分を犠牲にしかねんからな……ったく」

「ふーん……」

 

 それを聞いて、つい感情が表に出てしまっていたらしい。不思議そうな顔で問われる。

 

「……なんだよ、その顔は」

「ん? うれしいのさ。にーちゃんが花京院のことすげー理解してくれてるってことがさ」

「い、いや、だってあいつ、要領いい癖にやたらと実は不器用だしさ……」

「そーそー。そんな弟分を持つと気苦労が絶えないわけよ……とか言ったら肘鉄がとんでくるから本人には言えんけど」

「ふっ!」

 

 噴き出す義経にーちゃんに、改めて頭を下げる。

 

「花京院のこと、これからもよろしく頼むな」

 

「……ちっ! ポルナレフ、おまえこそだろ。過保護なのはよ。

 しかたねーから頼まれてやるか。そのうち俺にとってもほんとの弟になるらしいからな。あくまでしかたねーからだからな」

 

「そっか……そーだな」

 

 そして、またも、甦ってくる記憶。

 

「なんだよ? またにやにやして」

 

「いや、思い出し笑いってやつさ。

 やっぱ、義経にーちゃんは、『いいにーちゃん』だったんだな、って。

 懐かしいな。昔仁美が話すの聞いてたときに思ったとーりだ。へへ」

 

 今と同じように夜風に吹かれながら列車で交わした、あの会話。

 

「はぁ? からかうなよ。

 ……だったら、よかったんだがな。

 いい兄なんかじゃあない。

 なんにもしてやれてねぇからな……俺は。

 ガキの頃から……ずっと、な」

 

「にーちゃん……?」

「いや、なんでもねぇ」

 

 そういったきり、黙りこくってしまった相手に、またも素直な感想を述べる。

 

「……。わかるかもしんねーわ。オレ。……たぶん。ちょびっと」

 

「なんだそれ……。

 ……ああ、そうか。おまえ、そうだったっけな。……すまん」

 

「いーや」

 

 『なにか』に気付いたらしい。そんな彼に本音を零す。

 

「あーあ、まったく、兄貴ってやつはつらいよなぁ」

 

「……だな」

 

 

 

 

 

 そうこうするうちにどうやら『いい時間』になったようだ。

 ざわざわと周囲に集まってくる無数の気配。

 

「……ッ! おい、ポルナレフ!」

「……ああ、来やがった……!」

 

 敵を視認したところですぐにオレは異常に気づく。

 

「は!?」

「同じ顔……の集団!?」

 

 そして、もうひとつ。

 

「こいつら……スタンドじゃあねーか!」

 

 オレの驚きの叫びに対し、花京院からスタンドに関してだいたいの事柄は聞いているのだろう。隣から疑問が投げかけられる。

 

「え? でも、俺にも見えるぜ?」

「え? そうなの!? 

 ええと……そうだ。スタンドにはなんかそういう普通の人にも見えるタイプがあるんだよ」

 

 前に何度か遭遇したことのある、スタンド使いでない人間にも見えるスタンド。ということは、敵はなかなかに強力なパワーを持っている、ということかもしれない。

 

「とにもかくにも……だ! スタンドはスタンドでしか倒せねぇ! 

 オレに任せて下がっててくれ」

 

 義経にーちゃんを制し、戦闘態勢を取るべく躍り出る。

 

「……チャリオーッツ!!」

 

 相棒、銀の戦車(シルバーチャリオッツ)を出すと、一気に勝負をかけるべく甲冑を脱ぎ捨てさせる。

 

「行くぜ! 先手必勝! ……うおおおおおお!!」

 

 レイピアをかまえ、フルスピードで突きのラッシュをぶちかまし、並み居る敵を次々と薙ぎ払っていく。

 

「……おお! すげえ! 全員消えたぜ!」

 

「へっ! ざっとこんなもんよ!」

 

 

「……やるな。一瞬であの数を」

 

 

 しかし、場のすべての兵隊を片付けたところで、闇夜から拍手とともに不気味な声が聞こえてくる。

 

「なにィ!?」

 

「……スタンド使いの護衛がついているという情報はなかったな」

 

 声のした方向に目を凝らすと、そこには一人の……一見、優男風の、女性かと見紛うような真っ直ぐな長い黒髪の男が立っていた。

 男はオレとチャリオッツを見比べつつこういった。

 

「貴様のスタンドのスピード、かなりのものだ。12体ほどに見えた」

 

「ふん。……ゾッとしたかい? 

 理由あって修行をしなおしたのさ。あの旅が終わってから、また、な」

 

「ほう……」

 

 こちらも負けじと訊ねる。

 

「あの分身……黒ずくめ達はてめーのスタンドか?」

 

「さぁ? どうだろうな。くくく……」

 

 

「……敵……」

「……排除……」

 

 敵の男に気をとられている間に、またも湧いてくる黒服共。

 

「チッ! また……!」

 

「排除!!」

 

 その手に握られたマシンガンが一斉掃射される。

 

「くっそ! チャリオッツ!!」

 

 弾丸をすべてレイピアではじき飛ばす。が……

 

「我が存在を忘れてもらっては困るな」

 

(しまっ……!)

 

 その一瞬の隙をついて死角から放たれた、長髪の男の飛び蹴りがオレに炸裂しようとする瞬間だった。

 

「あぶねぇ! ポルナレフ!」

 

「ッ!? 義経にーちゃん!?」

 

 掌底で、見事敵の攻撃をはじき返す。

 

「おまえは、スタンドの方頼む!」

 

 さらに背後にすっと立つ。オレの背中を『護る』ように。

 

「……このロン毛野郎とは、俺がやるぜ」

 

 

 

「我の蹴りを止めるとはなかなかやるではないか。貴様もかなりの使い手だな。その構え……どこの流派かな?」

 

「さぁ? 俺もそれがわからずに困っている」

 

「なんだそれは? 意味がわからん」

「だろうな」

「まぁいい。それでは我も本気でお相手するとしようか」

 

 言うなり、敵の全身に不気味な紋様が浮かび上がる。

 

「なんだ!? 奴の肌に変な模様が!」

 

「このタトゥーは我がスタンド、白き鎧(ビアンコ・ロリカ)

 纏えばその拳は大地を砕き、蹴りは空を裂く。

 ……このようにな」

 

 壁を手刀で一閃すると、あたかも布をハサミで裁断したかの様にスパッと切れ目が入り、ガラガラと崩れ落ちていく。

 

「自分を強化するスタンド、ってことか……?」

 

 あっけにとられていたオレをよそに、これまた妹に負けず劣らず、の懐かしき香りのする天然発言が飛び出す。

 

「話の腰を折ってすまんが……模様? ……見えん……」

 

「あ、そ、そっか、そうだよね……」

 

「が、しかし……だ。

 なら、……俺には関係ねーな」

 

 そして、再び、敵に向け構える。

 

「くく、くくくくく……」

 

 すると、またも不気味に笑う男。それに真っ向対峙しつつ、にーちゃんが問う。

 

「何がおかしい?」

 

「くくく……『見えない』といったな、貴様。スタンド使いでもない身分で我に挑むとは笑止千万。尻尾を巻いて逃げ帰ったほうがよいのではないか? 『一般人』は」

 

「……」

 

「スタンド使いとは、神聖なる騎士。選ばれし民、貴き強者である。

 下賤な弱き民……一般人とは決して相容れぬ。

 その間には海より深く山より高い……

 どんなに努力しても越えられない壁があるものよ。

 スタンド使いは搾取する側。一般人は搾取される側。

 その差は覆ることのない……もとより決定している事柄なのだ。諦めろ」

 

「なっ!?」

 

 反吐の出そうな台詞に、おもわずオレの方が反応してしまいそうになる。

 

 そんな中、うつむいたままポツリと義経にーちゃんは呟く。

 

「……いいよなぁ」

 

「は?」

 

「そうやって考えられる人間が『そう』だったなら、きっと、よかったんだろうな……」

 

 どこか遠くの空を仰ぎながら。

 

「その存在を、運命を受け入れつつも……

 ひとりで、ずっと、ずっと苦悩して……

 そして今なお、逃げずに立ち向かっている。

 生憎、俺のよーく知っているスタンド使いはな、

 みーんな馬鹿で、真面目で、不器用で……

 でも、そのぶん、だれよりも、つよくて、やさしい。

 ……そんなやつらでな」

 

「……にーちゃん……」

 

 そして、わかっていない敵に対し、静かに、それでいて、熱く燃えるような怒りを込めた視線を向ける。

 

「……余計に負けるわけにはいかねーな。

 てめーみたいにゲスなスタンド使いにはな」

 

「ふん。いくぞ……」

「ああ、……来い!」

 

 睨み合う両者。

 

(すげー気迫だ……)

 

 変わらずわらわらと湧いてくる分身共をいなしつつ、オレはその闘いを見守る。

 

 

「うおおおおォォ!!」

 

「うりゃああああ!!」

 

 

 勝負は、一瞬で決まった。

 

 オレの眼にも止まらぬ速さで二人が交錯する。

 

(ど、どっちだ!?)

 

 

「……ぐふ……っ」

 

 

 ゆっくりと崩れ落ちる、敵。

 

「……だからいっただろう? 

 スタンド使いとか、そーじゃねーとか……」

 

 

「……そんなの、『俺には関係ねー』、ってな」

 

 

 

「すげーじゃん!!」

「へっ! どうだ? 『一般人』もなかなかやるだろう?」

「……いや、すまん。めっちゃ水を差すようだけど、義経にーちゃん、全く一般的ではねーからな」

「うるせぇな。……ああ、俺こそすまん。もう、『力』使い果たしちまった。……動けん……」

 

 そういってへたり込む。

 

「はぁ!?」

 

「な? ほら、普通だろ?」

 

「ったく! はいはい、お疲れさん! 

 あ! またわらわら来やがった! ほんっとしつけーな! ……って、あれ?」

 

 呆れ半分に、苦笑しながら義経にーちゃんを起こそうと手をさしのべようとすると、また現れた黒服分身共。それに対しチャリオッツのレイピアを向けた時だった。

 

「消えた……!?」

 

「ああ、倒したんだろ。あっちが」

 

「……ああ、なるほどね」

 

 それに安堵し、すっかり油断していたオレは気づくのが遅かった。

 

「くそ……。許さぬ……! 

 せめて……貫け、我が(ピルム)……!!」

 

 辺に乱射され散らばった銃弾。

 その一発を拾い上げ、最後の力をふりしぼるかの如く、それを指で弾く敵の姿に。

 

Palla finale(パッラ・フィナーレ)!!」

 

 猛烈な勢いで飛んでくる弾丸が、座り込んでいるにーちゃんの頭を狙う。

 

「しまった! 義経にーちゃん! あぶねぇ!!」

 

「ぽ、ポルナレフーッ!!」

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「チッ、スタンド使いがマランツィーノのやつに肩入れしていやがるとはな……。スタンドひっこめて出てきな! さもなきゃガキの頭はハロウィンのカボチャみたいにコナゴナだぜぇ!」

 

 若干意味のわからない……頭の悪そうな脅しだった。が、聞かぬわけにもいくまい。

 僕は要求通り法皇をひっこめ、ゆっくりと彼らの元へと歩み寄る。

 

「妙な動きすんなよ……。くそ、おまえ何者だ? 気迫が半端ねぇ……。

 こーゆーときは……念のため……!」

 

 突き飛ばされ、少年が解放される。

 

「ジョルノ君! 大丈夫かい?!」

「……はい。すみません、花京院さん」

 

 安心したのも束の間、であった。

 

黒き幻影(ネーロ・ファンタズマ)!」

 

 再び集団に取り囲まれ、どこからともなく敵の声が聞こえてくる。

 

「へへぇーッ! これでもうどれがオレ……『本物』かわかるまい! 

 やれ、Tanto me stesso(沢山の自分達)

 

 ピストル、マシンガン、アサルトライフル、ショットガン、マグナム……

 御丁寧にも、ありとあらゆる種類の銃口が、こちらを向く。

 

「ふたり仲良く蜂の巣になりなーッ!!」

 

「くッ!」

 

 分身たちの持つ銃の引き金が一斉に引かれようとする。その刹那だった。

 

「……なに? どれが本物かわからない? 

 ぼくにはわかりますが」

 

 再び、おもむろに立ち上がる少年。

 

「なんだと? このガキ……

 てめーから先にあの世に行きてぇみたいだな……」

 

「いけない! ジョルノ君!!」

 

「……いけない? 

 いいえ。花京院さん、そんなことはありませんよ。

 これでいい。これだから『いい』んじゃあありませんか」

 

 にやりと、不敵な笑みを浮かべる。

 

「おかげで……ぼくはとうとう手に入れることができた」

 

「……え……?」

 

「先程ぼくを捕まえた人は『本物』だった。

 分身からは感じない生命エネルギーを感じたから」

 

 言いつつ、彼は懐からカフスボタンを取り出す。

 

「これは、あの時貴様から拝借した(スッた)もの。そして……」

 

 刹那、ボタンがふっと消え、その指先には一匹の『七星輝く天道虫』。

 

「な?! 手品……?」

 

「……『物』は、持ち主の所へ戻る」

 

 小さな昆虫は、その羽を震わせながら、一直線に一人の男の元へと飛び移り、その肩にとまる。

 

「え……あ!?」

 

「『本物』は、おまえだッ!!」

 

 戸惑う相手に少年がビシィッと指をさす。

 

「……無駄ァ!!」

 

 同時に、少年からまばゆい『なにか』が飛び出し、敵本体に強烈な一撃を繰り出す。

 

「ぐふぁ!」

 

 勢いよく壁までふっとぶ敵。

 それとともに、『分身』たちは一斉に消えた。

 

「そ、それは……!? そ、それに……!」

 

 僕の眼にとびこんできた、『驚くべきこと』はそれだけではなかった。

 

「ジョルノ君、か、髪が!」

 

 少年の漆黒だった髪の色は、明るいブロンドのそれに瞬く間に変わっていた。

 

「き、君は……! まさか……君も、……す、スタンド使い……?」

 

 混乱だらけの頭の中、どうにかひとつの結論を導き出す。

 

 そうだ。どこまでも僕は迂闊だった。

 

 

 ──マランツィーノさんへの刺客を追い払ったのは貴方でしょう? ──

 

 

 なぜわかったのか。

 ジョルノ君に『僕』がやつらを追い払ったことが。

 答えは簡単だった。

 

(……みえていたから。か……)

 

「……ありがとう、花京院さん。

 そして、すみません。黙っていて」

 

 少年の傍らに寄り添うのは、まぎれもなく……

 

 黄金色に輝く人型の『幽波紋(スタンド)』だった。

 

「ぼくの『これ』と貴方の『それ』……。

 同種、のものであろうということはわかっていた。

 花京院さん……強力な能力者である貴方の傍に居れば……

 存在だけはずっと……うっすらと感じていた……

 『こいつ』が具現化してくれる。……真にぼくのものになる。

 そんな気がしていた……」

 

「……そして、それは正しかった」

 

 ザッと、少年はその相棒とともに、ふっとんだ刺客のほうに向き直る。

 

「みせよう!! 『黄金体験(ゴールドエクスペリエンス)』!!」

 

 少年のスタンドの起こした現象。それはまさに言葉では言い表し難い『体験』であった。

 

 その黄金の両の拳で地面を殴る。

 すると何もないところ……いや、アスファルトが大樹に変化する。その幹は瞬く間にメキメキと伸び、刺客を磔にした。

 

「うわぁー!」

 

 そして少年は身動きできぬ相手に、そっと……しかし、悪魔をも震え上がらせるかの如き低音で囁く。

 

「……聞け。

 この組織は神の庇護を受けている。

 その意に背き、これに害をなす愚かな者に……その鉄槌は下る」

 

 

「……Capisci(わかったか)?」

 

 

「そういうわけで、だ。何度来ようと……」

 

 

「……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……無駄ァ!!」

 

 

 容赦なく浴びせかけられる拳の弾幕。

 それはまさに親友(承太郎)の『あれ』を彷彿とさせるほどのものだった。

 

 

 

「……終わりましたね」

 

 再起不能……を若干通り越している可能性の高い、敵を尻目に少年がしれっと言い放つ。

 

「ああ。言いたいことは山ほどあるけど、とりあえず……」

 

 それに対し、僕はにっこりと『微笑み』を返す。

 

「おしおきだよ……!!」

 

「……えッ?!」

 

 加えて、いうやいなや、少年の頭に思い切り、拳骨を落としてやる。

 

「……。痛い、のですが……」

「ああ、そりゃあそうだろうね! 

 まったく、いったい何を考えているんだッ! 

 上手く、君のスタンドが目覚めてくれたからよかったものの……! 

 一歩間違えたらどうなっていたかッ!」

 

「……」

 

「怪我どころじゃあ済まない……最悪死んでいてもおかしくなかったんだ! 

 わかっているのかい? そこのところは!!」

 

「……」

 

「彼を護るため、力が欲しかった……その気持ちは、すごくよくわかる。しかし……君に何かあったら、彼はどんな気持ちになると思う? 君ならわかるだろう? 僕は諸事情あって、途轍もなくよくわかってしまえるがね! いいかい? 二度としてはならない! あんな真似……ッ!」

 

「……」

 

 一気にまくし立てたのち、呆けている少年に気づき、いう。

 

「ちょっと……聞いているのかい? ジョルノ君?」

 

「……あの、質問、いいでしょうか?」

 

「……なんだい?」

 

「怒って、いますか?」

 

「ああ。そうだね。

 他にどう見えるのか、候補があるならば教えていただきたいものだ」

 

「……もしかして、ですが……それは……ぼくの、ために?」

 

「は!? ……しらないね、そんなの。自分で考えたまえ」

 

「わからないですよ……そんなの。

 だって、初めてだ……これが『叱られる』というものなのか……」

 

「と、とにかくだ! そんなのどうでもいいんだ! 

 重要なのは内容だ! そこのところ! わかったのかい? 

 ええい! わかったら返事をしたまえッ!」

 

「……はい。わかりました。

 花京院さん、貴方が、やっぱりとんでもなくお人好しで、お節介で……」

 

 

「……そして、『いいひと』だ、ということが」

 

 

「ジョルノ君……」

 

「あと、貴方の言いたいこともちゃんとわかっています。

 今後はなるべく、自身の安全にも配慮した方法を心がけようと思います」

 

「……ああ、そうしてくれたまえ。……ふっ!」

 

 やっぱりひとつも変わらない……少年の飄々とした態度に、つい、おもわず笑みが漏れ出てしまう。

 

「はぁ……、しかし、驚いたよ。君の能力は一体……」

 

 改めて少年にそう問いかけた、そのときだった。

 

「おーい! 花京院っ! ジョルノーっ!」

 

 声ともに向こうから駆けてくる足音と伸びてくるふたつの長い影。

 

「ふたりとも大丈夫かー?」

「は!? ぽ、ポルナレフ、おまえこそ!」

 

 呑気な声に似合わず……、街灯の明かりに照らされ、かろうじて見える男の腕からは真っ赤な鮮血がとめどなく流れ落ちていた。

 

「へへ、ちょっとしくじっちまって流れ弾にな……」

 

「ちがう! ……俺を庇ったんだ。すまない……」

「もー! にーちゃん、そんな顔すんなよ! だから平気だって。

 このくらいかすり傷よ。なめときゃなおるさ」

「そんなわけあるか! しかも、まだ中に弾丸が……」

「なにッ!? 馬鹿! 早く病院行くぞ! すぐ手術で摘出を……」

 

 しかし、慌てる義経さんと僕をよそに、あっけらかんとしている当人。

 

「えー、やだなぁ。……痛そうじゃん、手術とか。

 弾で傷塞がってんだからよくねぇ?」

 

「「いいわけないだろう……」」

 

「弾で……? 傷が……?」

 

 すると、そう呟いたのち、神妙な顔でなにかを考え込んでいる少年の様子に気づく。

 

「ジョルノ君?」

 

「……。ちょっとみせてください、ポルナレフさん」

「あん?」

 

 そういって、少年がその腕に触れた瞬間だった。

 

「いってぇーッ!! ……って……、あれ……?」

 

「腕にめり込んでいた銃弾を変化させ、組織修復に必要な部品……細胞を創って傷を塞ぎました。

 ポルナレフさん、貴方自身の言葉がいいヒントになった。

 ぼくの『黄金体験』は……」

 

「ま、まさか……まさか!! 君のスタンドは……」

 

 

「生命を、創り出せるのか!?」

 

 

 

 

「き、傷が……! しかも、そ、その髪……!? どうした!?」

「ってか、そ、それ、スタンドじゃあねーか! 

 な、『治す』スタンド使い!? ジョルノが!?」

「ほ、ほんとうに!? 俺には全く見えんが……そうなのか!?」

 

 あまりの急展開に、目を白黒させるポルナレフと義経さん。

 それに対し、冷静に返す少年。

 

「ええ。どうやらそういうことも可能なようですね。

 ためしにやってみたらできました。

 まだ研究、改良の余地がありそうですが」

 

「……おい、オレは実験台かよ。いや、いいけどさ……」

 

 加えて、そんなふたりの比ではない狼狽っぷりの人間がもうひとりいた。

 

「あ……う……え!? あ……!!」

 

 ……自分だが。

 

「お、おちつけ! 花京院! おい!! しっかりしろ!」

 

 視点の定まらない僕を義経さんが揺さぶる。そんなの無理な相談、というやつだろう。が、どうにか、いう。

 

「ジョルノ君、た、たのみが! たのみがあるんだ!! 

 僕のこい……な、仲間が……怪我が、仲間が……ッッ!!」

 

「だからおちつけって……。

 まぁ、きもちわかるけどよぉ……!! 

 チクショー!! やったな、花京院ッッ!!」

 

 ポルナレフが歓喜の叫びと共に僕の背中をばしばし叩く。容赦ないその痛みが僕にこれが夢ではないという事実を教えてくれた。

 

「よくわかりませんが……お仲間の怪我を治せばいいんですか? 

 もちろん、別にかまいませんよ」

 

(……やった。……やった……!!)

 

 ようやく、みつけたのだ。……僕は。

 

 

 そう、おもった。

 

 

 

 しかし……その矢先だった。

 

 少年のポケットから滑り落ちる、『なにか』。

 

「あ、ジョルノ君、手帳かなにか、落としたようだよ……」

 

「ああ、本当だ。ありがとうございます」

 

 拾い上げて、気づく。

 

「!?」

 

 挟まっていた一枚の写真が目に入る。

 

 

 そこに写る、ひとりの、男……。

 

 

(こ、これ……は……!)

 

「じょ、ジョルノ君……この、男は……?」

 

「ああ、そのひとは……。

 ぼくが生まれて間もなく、エジプトで死んだ……

 写真でしか見たことのない……名前すらしらない……」

 

 

「……ぼくの、ほんとうの父親、とのことです」

 

 

 

 

 

「日本か。実はぼく、物心つく前にはいたらしいんですが」

「へぇ、そうなのか」

「いいとこだぜー。女の子は皆やさしーし、かわいーし!」

「おい、ポルナレフ、過剰放送はよせ……」

「えー? そういう、にーちゃんもイケメンだもんなぁ……

 女の子よりどりみどり選び放題だろ? いいなぁ」

「んなわけあるか……」

「ああ! でも、うちの妹が一番かわいいって? もう、このシスコン!」

「ああ?! それこそ、んなことあるかッ!! あんのボケ妹のどこが……。

 花京院の趣味を疑うね! 俺は!」

「あらあら! もう、照れちゃってぇ! 

 まぁ、たしかに仁美はかわいい! 

 けど、うちの妹、シェリーにはちょびっと及ばないかな! ナハハハハ!」

「……。ポルナレフ、おまえにだけはぜってー、シスコンとか言われたくないぜ……」

 

 

「……まってくれ……」

 

 

「ん? 花京院? 

 ……どうした?」

 

「……ジョルノ君、さっき頼んだことは……忘れてほしい」

 

「は!?」

「な、なにいってんだよ! 花京院! 

 おまえ、治すスタンド使い(こいつ)のこと、どれだけさがして……」

 

「そういうわけには……いかない。

 いかないんだッ……!!」

 

「……か、花京院?」

 

「頼める、はずなどない……

 ……そんな資格、僕には……」

 

「……花京院さん……?」

 

「その写真の男……君の父親は……DIO。……ディオ・ブランドー」

 

「は!?」

「なッ!?」

 

「……君の父親を死に至らしめたのは……、……この、僕だ」

 

「……え……?」

 

「好きにするといい。君にはその権利がある。

 僕を、恨むなら恨んでいい。復讐にも、来るといい。

 弁解をする気はないし、そもそも奴を倒したことに、後悔など、ひとかけらもない。しかし……、結果的に……僕は君にそれだけのことをしたことになるのだから」

 

 

「そんな覚悟など……とうにしている」

 

 

「……もう二度と、僕から連絡することはないだろう」

 

 

 

 

 

 制止の声を振り払い、重くて仕方がない身体をひきずりどうにかホテルへと戻り、ベッドに潜り込む。

 

 

 

「……仁美さん……」

 

 

「仁美さん……!」

 

 

「っ……ごめん……。……ごめん……!!」

 

 

 

 夢の中の彼女は、微笑んで、首をふって……

 

 

 そして、つつみこむように、僕を抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

「よぉ」

「おはよう、花京院」

 

「……おはようございます」

 

 翌朝、部屋のドアを開けると、見知った二つの顔がそろって心配そうな表情を浮かべつつ出迎えてくれた。

 

「さ、明日から、義経さんいよいよ研修でしょう? 

 ポルナレフは、今日フランスに帰るんだよな? 

 僕の方が早い便だから見送りには行けないが……」

 

 その気遣いを払拭したくて、敢えて、矢継ぎ早にいう。

 

「花京院、待ってくれ」

 

 それを、やんわりと制される。

 

「おめーに会いたいってやつがいるんだ」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

「……ジョルノ……君……」

 

 そうして、彼らに連れられた先に居たのは、金の髪の、少年。

 僕の後ろの二人を指しつつ、言う。

 

「そこのおふたりに……あのあと事情は聞きました」

 

 そして、僕をじっと見たあと、こう問うた。

 

「花京院さん、ひとつ……尋ねたい。

 貴方は、自分を恨め……と言った。

 しかし……貴方は……貴方こそ、ぼくが、憎くはないんですか?」

 

「……僕が? 君を? ……なぜ?」

 

「なぜって……ぼくの父は、貴方のたいせつなひとを……

 そうなんでしょう?」

 

「……」

 

「おふたりも、いいひと、だ……。

 ぼくを気遣ってか、どうしてもはっきりとは教えてくれなかった。

 でも、そんなこと、少し考えれば……明白なことだ」

 

 うつむく少年に、伝える。

 

「……。何かと思えば……そんなことか。そんなの言うまでもないだろう……」

 

「……」

 

「……あくまで『仮に』だが……もし、それが事実だとしたら、どうだというんだい?」

「え……?」

「親は親……君じゃあない」

 

 

「……君は、君だ」

 

 

「……ッ!」

 

「それになにより、知り合って間もないが……聡明で、まっすぐで、揺るぎない夢を持ち、それに向けて邁進している。ジョルノ君、そんな君に、恨みどころか……実は僕はすでに、かなり好感を抱いてしまっていたりする」

 

「花京院さん……」

 

「まぁ、そんなわけで、……元気で。

 ……じゃあね」

 

 そうして背をむけ歩き出そうとした。

 そんな僕に放たれる言葉。

 

 

「……まってください!」

 

 

「ぼく、行きます。日本に」

 

「……え?」

 

 驚き、振り向くと、まっすぐに僕を見据える青い瞳。

 

「そして、貴方のたいせつなひとの怪我を、治す」

 

「……ど、どうして……? 僕は君のお父さんの……」

「どうして……だと? そんなの、決まっている……」

 

「義理と人情を重んじ、受けた恩義はきっちり返す……

 そしてなにより……生まれた友情を、決して裏切らない」

 

 

「それが、真のギャングスターってものだからです」

 

 

 

 

 

「じゃあ、無駄なことは嫌いなんです。時間の無駄。

 さっさと行きましょう、日本へ」

 

 戸惑う僕を尻目に、照れ隠しも兼ねてかそんなことをいい、さっさと歩きだす少年。

 

「……ああ。……ありがとう」

 

「へへっ!」

「……だとよ」

 

 まだ呆けていた僕の肩をバシッと一発ずつ叩き、ジョルノ君の元へと駆けていく二人。

 

「……ふたりも……。ありがとう」

 

「ああ、そうだ」

 

 ふと立ち止まり、振り返り、僕に問う少年

 

「ところで、うっかり聞き忘れていたんですが……

 花京院さん、肝心な貴方の『Amore』の怪我ってどんなものなんですか?

 治すイメージをかためるために聞いておきたい」

 

 それを受け、『兄達』はいう。

 

「ああ、そういえば」

「そこ言ってなかったな……」

 

「はぁ? ちょっとふたりとも、しっかりしてくださいよ……」

 

 揃いも揃ってなんともうっかりしたものだ。長兄とはそんなもん……とか聞いたことがあるが。

 しかたがない。あまり口に出したくもないが、彼女の現状を説明する。

 

「大脳の細胞が破壊されて、意識不明……昏睡状態なんだ。

 それを、治してほしい……」

 

「え……? の、脳……?」

 

 瞬間、けっしてうろたえることのなかった……少年の顔色が初めて変わる。

 

「言いづらいんですが、腕とか脚とかならともかく……

 ぼくの『黄金体験』が創るのはあくまで部品。

 脳細胞を新しく創って、それを埋め込むだけでは、おそらく『別人』に……

 それでもよければいつでも協力しますが、あまりおすすめしない……

 すみません、期待させるだけさせておいて……」

 

 

 

 

 

 そうして、僕たち三人は再び、ローマ、フィウミチーノ空港にやってきた。

 

「じゃあ、義経さん、研修頑張ってくださいね」

「ああ。来週には俺も帰国するがな。

 花京院、おまえはアメリカに寄るんだろう?」

「ええ。ジョースターさん達に会ってきます。

 今回の件、無用な心配と誤解を生まぬよう、直接きちんと報告しておきたいですし」

「そうだな。じゃあ、また日本で、だな」

「ええ」

 

 続いて、もうひとりに目をやる。

 

「ポルナレフ、おまえも元気でな」

「おお。ジョースターさんと承太郎によろしくな!」

「ああ」

 

 すると、ポルナレフは珍しく躊躇いがちに、なにかを言いかける。

 

「……なぁ、花京院?」

 

「ん?」

 

「……いや、なんでもねぇ」

「え? なんだよ……言いかけてやめるなよ」

「いーんだよ! ……またな!」

 

 しかし、それ以上やつは答えず、詰め寄ろうとしたタイミングで搭乗を促すアナウンスが流れてしまう。

 

「ああ、もう! じゃあ、なにかあったらすぐ言えよ! 絶対だぞ!!」

「へへ。わーったって。ありがとな」

 

「……じゃあ」

 

 そして、振り返ろうとしたところで、またも心配顔の義経さんに問われる。

 

「その、……だいじょうぶか? 花京院」

 

「どうして? 沢山の収穫があった旅じゃあないですか。

 そもそもの目的はおじいさんの記憶の情報収集だったわけだし」

「まぁ、そうだが……」

「むしろ、ジョルノ君に無駄に気を遣わせてしまって申し訳ないというものですよ。何気にものすごく気にしていたようですし……」

「ああ……そうだな。また俺からも声をかけておくよ」

「ええ。頼みます」

「そもそも……この出会いは、決して無駄などではない。

 ……そんな気がする」

 

 予感がした。

 

 

 ──二人の少年の力によってお姉さんは……ぱっちり目を覚まし、ちぎれた左腕も元通り──

 

 

 予言の書にあった金髪の少年。それはきっと……

 

「それに……」

「それに?」

 

「……非常に奇妙な御縁の……

 新しい『友人』ができましたし」

 

「……ふっ! そうだな」

 

 

 

 離陸した機体が、ゆっくりと高度を上げていく。

 

「……」

 

 窓から臨む、果てしなく続くかのような空。

 分厚い雲を突き抜けたその先で、僕の頬を照らした。

 

 黄金色に輝く、ひとすじの光が。

 

 

 

 僕の予感……

 

 それが確信に変わったのは、これからそう遠くない日のことだった。

 

 またも実に奇妙な縁でつながった……

 もうひとりの新たな『友人』との出会いによって。

 

 

 

 ──星々の光がひとところに集結するとき、『箱』は開くだろう──

 

 

 

 

 

 そして、実のところこのとき(……いや、厳密にはずっと前から……)、僕のあずかり知らないところで、とっくにある闘いの火蓋は切られていたわけなのだが……

 

 

 それはまた、別の話。

 

 

 

 *         *          *

 

 

 

「……ちくしょう、覚えてやがれ。

 マフィアは一度受けた恨みは忘れねぇ……

 報告して、ファミリー総出で、必ずおまえらを……」

 

「……」

 

「ん? ねぇちゃん……なんだよ? 見せもんじゃあねえぞ、コラ!」

 

「ええ、安心して。すぐに消えるわ。

 大丈夫。だれもいないから……」

 

「え……?」

 

「あたしと出会って……」

 

 

「あたしのこと『おぼえている』人なんて、だれも」

 

 

「ッ!? ……うわぁあああああッ!!」

 

 

「……本当に、あまいんだから。あいかわらずね」

 

 豊満なその胸の上で揺れるネックレス……『はんぶんだけのハート形』。

 

 鎖を引き寄せ、女はそれを手に取ると愛おしそうに口づける。

 

 

「……ジャン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださってありがとうございます! そしてそして、いつも嬉しすぎる感想やお気に入り登録、しおり……本当に励みになっています!

☆次回作に関するアンケートを設置させて頂きました。もしよろしければこちらも御気軽にぽちっとお願い致します。

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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