私の生まれた理由   作:hi-nya

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前回のおまけかつ、次回への導入…です。
珍しく、はじめ承太郎視点です。
そのあと、やっちゃん→花京院です。


眠れないのはだれのせい?

 香港繁華街。ざわつく街角から少し外れた通りにある公園。

 その一角にあるテーブル付きのベンチで、おれは読書に勤しんでいた。

 

 アヴドゥルがあの刺客、フランス人電柱頭……ポルナレフを退けたあとのことだ。

 予定通り、今後は海路を行く、ということになり、じじいとアヴドゥルが船を手配している間、残ったおれたち三人は墜落時に捨て去ってしまった荷物の分その他の買い出しに行くことになった。

 

 何件かの店を回り、じじいたちに頼まれたものは買いそろえた。あとは個人で必要な物を……ということで、待ち合わせ場所を決め、別行動することになったわけだ。

 今読んでいるこの本をはじめとして、さっさと買い物を終えたおれは、残りの二人を待っていた。

 

 そこへ、片方が戻ってきた。

 

「あれ?承太郎君ひとり?花京院くんは? 」

「見てのとおりだ」

「そっか」

 

 言いながら、むかいの椅子に腰かける。

 

「……」

 

 おれは読みかけのページに再び目を落とす。

 たいていの女はこういうとき、べらべら話しかけてきてうっとーしいものだ。

 しかしどうやらこいつは違うらしい。

 ぼーっと黙って、過ぎ行く人波をながめていた。

 

 ちょうどいい。ふと思った疑問をぶつけてみることにする。

 

「おい、保乃……おまえ、今回もわかったのか? 」

「え? なにが? 」

「あのフランス人は、だ。ほんとうのこのひとじゃない…。ってな」

「へ? いや、今回は私がわかったわけじゃあなくて……」

「は? 」

「……ううん。なんでも。

 ……わかんなかったかも。そういえば。自分では……」

 

 そういって黙りこむ。

 

「……なんでだろう? 」

「……。おれに聞かれても、しるか」

「……だよね。……前よりも勘が鈍くなっちゃってるのかな……。うーん……」

 

 ひとりでなにやら考え込みだしたようだが、放っておく。

 

「…」

 

 個人的な見解はあるが、根拠もなにもない。推測の域を出ない。

 そんなことを、わざわざ教えてやることもない。

 

 気づいているが、他人にはばれないように振る舞っているわけでもなさそうだ。深刻な顔で、「直感を鍛えるって、どうすれば……。……修行……? 」とかなんとかぶつぶつ言っているところをみると、だが。

 

(自分ではそーいう発想にならないんだな。こいつ……)

 

 鋭いのやら鈍いのやら……どんだけボケているのか、なんなのか。

 

 

 そこへ、もうひとりが戻ってきたようだ。

 

「お待たせしました」

「ううん。全然」

 

 手に湯気の出ている紙袋を持って。

 

「どうしたの? それ」

「美味しそうだったので。つい買ってしまいました。餡饅です。食べませんか? 」

「いいの? ありがとう」

「いえ」

「いただきます。……おいしい! 」

「そうですか? よかった。承太郎も、どうぞ」

「ああ。……」

「……ん? どうした? 」

「……なんでもねぇよ」

 

(……こいつは、とくべつな相手だから。……なんてな)

 

 我ながら、なんてらしくねぇ発想だ。

 

「どうだい、味は? 」

「美味い。が……、すこし、……甘ぇな」

「そ、そうか」

 

「……。ひとにばっか食わせてねぇで、おまえも食えよ」

「そうだよ。せっかくじぶんが買ってきたのに。美味しいよ! 」

「……そうだな」

「ああ、そうだ」

「ふふ、じゃあ私、あそこの自販機でお茶買ってくるね」

 

(ったく、やれやれだぜ……)

 

「さ、食い終わったら、とっとと戻るぞ」

「ああ」

「うん」

 

 

 

*         *          *

 

 

 

 

 連れだって歩く、ふたりの後ろをついていく。

 承太郎君に問われた疑問。

 

 たしかに、言われてみれば、今回はわからなかった。

 鏡の中のお嬢さんに言われるまで……。

 

 彼女のことは、結局私は何も出来なかったわけであるし、言わずにおいたが。

 そもそも信じてもらえるわけもない。

 

(……よねぇ。ふつう)

 

 よく信じてくれたものだ。と、目の前のみどりいろの背中をちらりとみる。

 

(……そっちだって、じゅうぶん、『おかしなひと』じゃない)

 

 気づかれないように、心の中でだけ、そっと、いいかえしてみる。

 であってまだ数日にもかかわらず、すでになんども宣告を受けているその評価を。

 

 

(それにしても……)

 

 

 

(……。そんなわけ、ないよね)

 

 

 

*         *          *

 

 

 

「おはよう。花京院くん」

 

 翌朝、集合場所にて、彼女の挨拶に迎えられる僕。

 

「お、おはようございます……」

 

 なんだか朝陽によく似たそれを正視することができず、どうにか、返事をする。

 すると、すぐさま僕の変調を察してくれる彼女。

 

「あれ? なんか疲れてない……? もしや体調悪い?! 」

 

 その察しの良さは今の僕としては若干困りものなのだが……。必死に誤魔化す。

 

「だ、大丈夫です。ちょっと昨日眠れなかっただけなんで……」

「ほんとに……? 」

 

 心配そうなかおに、余計に胸が痛む。

 

「ええ、船で寝ますから……」

 

「よし、じゃあ出発するぞー」

 

 そこで全員揃ったのか、ジョースターさんから声がかかる。

 

「はい! じゃあ、その……無理しちゃ、駄目だよ」

 

 そう念を押して、前を行く彼女。

 

 そして、うしろからぼそっとこの男がいう。

 

「……くく。誰のせいだと思ってんだよ。……なぁ? 」

「……お前のせいだよ! 」

 

 

 

 

 

 そう。……昨晩のことである。

 

 

 買い出しから戻り、皆で夕食をとった後、ホテルの部屋に戻ってきた。そんなときだった。

 ちなみに、前日は緊急事態ゆえ彼女と僕が同室だったわけだが、元気になった今や、当然そういうわけにはいかない。ということで、承太郎と彼女が部屋をチェンジしている。念のため言っておこう。

 

 ひと心地ついたところで、急激な睡魔に襲われた僕。抗う気力も必要性もなかったため、さっさと休むことにした。

 

 そんな僕をみて、承太郎がいう。

 

「もう寝んのか? 早ぇな」

「ああ、ものすごく眠い。……お先に」

 

「そうか。昨日お前大変だったんだっけな……」

 

 それを聞き、納得したように、やつはとんでもないことをサラッといってのけた。

 

「……惚れかけてる女が横で寝てりゃ、そりゃ眠れんわな」

 

「はぁあーーー?! な、な、な、何言って! 」

「ああ。訂正だ。もう惚れている、か。

 ……なおさらおまえ、よく耐えたな」

「ぬぁッ!? 」

 

 思い出す。この男はそうだった。いくら法皇をひきずりだすためとはいえ、『自分』が操っていたあの女医に、ひとかけらの躊躇もなく、あんな……いわゆる、その、ディープな接吻をぶちかましたのだ。それがすべてを物語っている。

 

「そ、そそ、そんな真似するか! 君と一緒にするな!!

 そ、そもそも、僕はべつに保乃宮さんのことをそんなふうになど……」

「ふーん……。

 『保乃宮さん』……ね? いいんだぜ? ふつうに呼んで。……くく……」

 

「……ぐ、っ! 」

 

 やはり聞かれていたか。

 このような邪推を招かぬよう、皆の前では気をつけておこうと思ったのに……。

 うっかり叫んでしまったのだった。昨日も今日も。なんてことだ。

 

 苦し紛れ、誤魔化しがてら、反撃の狼煙をあげてみる。

 

「き、君こそ! 他の女性と明らかに扱いが違うじゃあないかっ!

 ど、どうなんだよ、そっちこそっ!」

「あぁ? ……」

 

 しかし、にやりと挑発的な笑みをうかべる承太郎。

 

「……はん! だったら? お前どうするよ? 」

「っ! べ、別にどうも……」

 

(そ、そうさ……べつに……)

 

 そんな僕の様子に、やつは心底楽しそうに笑う。

 

「……くく、安心しろよ。

 あいつのことは人間的には、まぁ、気に入っている方だが、それだけだ」

「そ、そうなのか……」

 

(よかっ……て? え? あれ…? )

 

 明らかにほっとしてしまった自分にとまどう。なぜだ。

 

 すると加えてこの男はまたもとんでもないことを言う。

 

「……付き合うなら、俺はもう少し、男に慣れていて、乳がでかい女がいい」

 

「わあぁあぁー! も、もう何もいうなぁーーー! 」

 

 これ以上の会話を拒否するかのように、ベッドにもぐりこみ布団をかぶる僕。

 

 

(まったく、何を言いだすんだ!

 ……彼女は……信頼できる大切な仲間だ。

 そんなひとに、そんな感情もつなんて……ありえないだろう! )

 

 ねがえりをうつ。

 

(……そりゃあ、彼女は、ひとを護る、という素晴らしい能力を持っていて……

 しかもその能力を、自分より他人のために使うことを厭わない……

 強くて、尊敬すべき心の持ち主だ……)

 

(でも普段は、なんかふわふわしてて、素直で、だまされやすそうで……

 こっちが護ってあげなきゃって……。

 控えめで口数は少ないけれど、くれる言葉は……。

 不思議なひとだ……。)

 

 おかげで、いつも調子が狂ってしまうのだ。

 今日だってそうだ。

 超常現象の類いなど、大概がトリックや錯覚にすぎない。

 メルヘンやファンタジー……そんな類いのものの中だけのお話。

 そんなことはわかりきっていた。

 

 彼女のあの話。

 正直、非現実的すぎる。都合のいい夢でもみただけにすぎない

 ……そんなふうに思うはず、だった。いつもの僕ならば。

 

 なのに、どうしてだろう。

 

 きっと、事実如何、ではないのだ。

 

 『鏡の中の少女』とやらのために、一生懸命訴えかける彼女の瞳をみていたら……

 

 疑う気にならなかった。なぜか。

 

 まったく、自分らしからぬ……。

 

 

 

「……」

 

――おれはもっと……――

 

 そして、浮かぶは、先程の奴のとんでもない発言。

 

(……なにが男慣れだ。そんなの、していない方が……いいじゃないか。

 外見だって、……可愛い、よ、な……

 そして、あの笑顔……あれは……なんだ……)

 

(……スタイルだって、スレンダーな方が僕は好きだ。

 そもそも、胸だって……たしかにそんなに大きくはないかもしれないけれど……

 昨日おぶった感じでいくと、こう……じゅうぶん……

 ……ってぇ!? )

 

 

 

「うわぁあーーーッ! ぼ、僕は一体何をぉぉーーーッッ!!! 」

 

「……。うるせぇな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




花京院と承太郎で、修学旅行の夜……

『おまえ、あいつのこと……すきなんだろ? 』

……みたいな話がやりたかった、だけなのです……
す、すみませんッ……!

もうすぐこのお話も完結です……が、性懲りもなく次回作も本作品にちなんだものにする可能性が高いです。どんなのだったら、また読んでやってもいいぜ? と思って頂けるでしょうか?

  • そのまま4部にクルセイダース達突入
  • 花京院と彼女のその後の日常ラブコメ
  • 花京院の息子と娘が三部にトリップする話
  • 花京院が他作品の世界へ。クロスオーバー。
  • 読んでほしいなら死ぬ気で全部書きやがれ!
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