訓練兵団=王立士官学校生徒
近衛兵団=近衛騎士団 精鋭
毎朝、国王と王女、宰相、武官、文官が謁見の間にて、机を並べ報告、議論が行われ、国王であるお父様が裁可、却下、再考などの決定を行うのが常である。
しかし今日は何時もと様子が違った。
「ルイ宰相はどうした? 姿が見えんようだが?」
「珍しいですね、時間には厳しいお方なのに……」
そうこうしている内に謁見の間に一人の憲兵が急いだ様子で掛けこんできました。
「何事か! 王の御前であるぞ!」
「陛下!!一大事です! 王墓の巨像の封印が解かれ、大量の悪魔の軍勢と邪精霊が何者かに召喚され王都に向かっております!!!」
兵士の鬼気迫る表情からその発言に信憑性が感じさせられる。
巨像、ガリアの守護神を象った巨大ゴーレム。
王墓を守る守護者。
味方である筈のゴーレムが操られるだけでなく、悪魔と邪精霊の大群が敵意を持って王都に向かう。
「それは誠か!! 巨像が解き放たれ、悪魔、邪精霊の混成部隊だと!!」
王都駐屯兵、訓練兵団がこれを確認。
王墓に封印されていた巨像、全長15メートルを超える巨像に大量の悪魔、邪精霊の大軍どれも野外ではなくダンジョンに生息する強力な魔物だ。
全てCランク以上の魔物で巨像に至ってはAランクの怪物だ。
「全て事実です! 現在、駐屯兵、ギルドナイトが先攻し、巨像、悪魔、邪精霊の混成軍を食い止めています!!」
「近衛騎士団は必要最低限の人員を城内に残し、城下町の人民を避難誘導後、王都城門にて、攻城兵器バリスタ、大砲で迎え撃て!
駐屯兵団、訓練兵団の援軍に竜騎士隊を投入し救援!
援護に回れ、魔法騎士団は城壁の魔法障壁を張り、悪魔、邪精霊の侵入を防ぐのだ!!」
「「「ハッ!」」」
国王の迅速な決断で謁見の間にいる武官が飛び出していき、
文官も避難誘導、魔法障壁の起動の為、遅れて出ていく。
「父上 私も出撃します……」
「止むを得ん、詠唱を始めよ。【精霊化】の使用を許可する……娘を戦場に出すのは忍びないがそうも言ってられん。」
大精霊の巫女の奥義、【精霊化】により、寿命と引き換えに体内の精霊因子を活性化させ、
強力な魔術行使を可能とする荒業。
しかしアキラの治療によりそのリスクが無くなったクラリスは正に歴代最強の巫女と化している。
「元より覚悟の上です。」
兵士の役目は彼女の詠唱が完了するまで時間を稼ぐこと、
巨像と悪魔、邪精霊を彼女に近づかせずに、王都を守り切れば彼らの勝ちである。
そこに大広間の大扉が開いて数人の男たちが現れた。
「それは困りますな、王女様にはここで大人しくして頂きませんと…」
ルイ宰相が明らかに殺意をむき出しにして、武装した護衛を引き連れて謁見の間に引き連れて来た。
非常時とはいえ、武器を持っての入室にマイヤール親娘と部下が臨戦態勢に入る。
「ルイ宰相 今までどこにいたのですかな?
謁見の間に武器を持って入るとは非常時とはいえ褒められた行動とは言えませんな?」
マイヤール公爵が冷静に言いつつも陛下の前に庇うように立つ。
謁見の間に残った自分の部下の近衛騎士が国王と王女の周りを固めかばう。
「非常時に王位を剥奪する算段でもつきましたか? それともこの騒ぎはまさか……」
王女の護衛官にして元暗部のアリシアが全てを凍てつかせるような鋭い目つきで彼らを睨む。
静かに、だが確実に怒っている。
「ふふふ。ガリア王国の存続の為には西の力を集結する必要がある。
東方の蛮族共に怯え、戦争に否定的な王など今の時代に求められていない兄上。
その玉座に飾っている王冠を在るべきところ、私に譲り退任去れよ!」
「やはり、この事態を引き起こしたのはお前かルイよ。
無用に民の命を危機にさらし、ここまでやったのだ覚悟はできているのだろうが、あの巨像は如何するつもりだ?
悪魔は召喚者が消せるだろうが、巨像は如何するつもりだ?」
激昂する事無く、国の守護者たる王は謀反人に問い詰める。
「知れた事、西王国連邦の三英雄の力をもってすれば、あのような過去の遺物、消し去るのは容易い。
それに異世界人のいないガリア王国の遺産、物資、魔石坑など交渉材料も豊富な上、完全に復活した神代の巫女もいる。
大精霊の力を使い、私がガリアを導くのだ!」
「我らの祖、闇の御子に仕えし戦士の末裔の言葉がこれか…
さぞ先祖も草葉の陰で嘆いていることだろうよ?」
国王は余裕を崩さないがその目には自身の弟に対する失望の色が浮かんでいた。
「黙れ、大局を見誤り、和平など不抜けた事を行う暗愚が!
お前たちこの者を殺せ!然る後に我が王となり、正義の革命を世に知らしめるのだ!」
言葉と同時に宰相の兵が前に出る。
それに応じるように、公爵も号令をかける。
「陛下に指一本触れさせんぞ!
近衛騎士隊 抜剣! 反逆者を打ち取り、一刻も早く民を守るのだ!」
マイヤール公爵の号令により抜剣し謁見の間で戦闘が始まった。
◆◆◆◆◆
城下町は混乱の中にあったが兵士たちの先導により、住民の避難が行われた。
駐屯兵、憲兵、手すきの近衛兵団が魔法障壁に阻まれ、結界を破ろうとする邪精霊と悪魔を結界の内側から、ボウガン、バリスタ、魔法で内側から打ち込み、撃破していく。
郊外では巨大な甲冑騎士を模した巨像がゆっくりと確実に王都へ迫っていた。
歩兵が簡易式の爆弾や魔法を打ち込むが全く足止めにならない。
王墓の守護者である巨像は本来、王墓の侵入者、盗掘者が盗んだ王墓の財宝を持っているものをどこまでも追跡するよう創られている。
結界の外までには出られないのだが、結界が解かれ、王家の財宝が王都にあると認識し真っすぐに誘導されてここまで来たのだ。
彼はただ与えられた命令を忠実に守る為にここまでやってきているのである。
そして竜騎士、駐屯兵団、訓練兵団の攻撃では巨像を打倒できない。
常に地脈、大気中のソイルを吸い上げて活動した巨像の魔力量と大質量故の防御力が攻撃をすべて弾いてしまう。
大精霊の力を行使できる王女の詠唱が完了するまでの時間稼ぎが彼らに与えられた唯一の抵抗である。
「まだか まだ詠唱は完成しないのか!!」
「大砲もコイツの身体に掠り傷程の効果しかない!」
「攻撃の手を緩めるな!」
彼らが巨像に猛攻を加えていると、それに気付いた邪精霊、下級悪魔が襲い掛かってくる。
「くそ 鬱陶しい奴らだ!!」
「数が多すぎるこのままじゃ!!」
彼らが半ば諦め掛けたその時……
空から黒い閃光が走り、巨像の頭部を貫いた。
巨像は、突如その歩みを止めた。
「……何かと縁のある街でな早々潰されると困るんだよ。」
「まだ主様の逢瀬に使っていない穴場が在るのに、更地にされると困るんですよ。」
闇を形にした様な漆黒の竜に騎乗した漆黒の衣を纏う二人の英雄が現れた。
自由の槍 Aランク評価のチーム
国から独立を許され、死都奪還作戦の英雄のアキレウス、ナミの二人が帰還したのだ。
◆◆◆◆◆
その声に、姿に覚えのある訓練兵団、王宮騎士、駐屯兵団が歓声が上がる。
悪魔は遥か古代の魔王 闇の御子に畏怖し、邪精霊は大精霊の姿を本能的に感じ取り、悲鳴を上げる。
「やれ、ナミ。手加減は無用だ。先ずは雑魚共からだ。」
「らじゃー」
気の抜ける返事をしながらも、死と再生、闇を司る、精霊姫の瞳に魔法陣が浮かび、
その視界に入った悪魔と邪精霊が一瞬で蒸発する。
【死の魔眼】
眼で殺す。
死を体現する最強の呪いを誇る闇の大精霊。
彼女の魔力が瞳から放たれ、悪魔と邪精霊を視界に入れた瞬間、蒸発する。
格下の霊体、魔物相手に手を下すまでも無い。
格を超えて次元が違う。
命を奪うという点に置いて使い魔を使うまでも無い。
彼女は視界に怨敵を入れただけでその命を奪い去れるのだ。
その中で、彼女の魔眼に耐えきった高位の悪魔に聖水を仕込み純銀のミスリルの槍が取り出される。
【魔改造】で破魔の性能を強化された槍を大量に【投擲】で投げつけ 銀の槍の雨となって残った悪魔を狩りつくす。
「さて、次は君の番だ デカブツ」
その光景を目の当たりにしてようやく空の上の二人を自身の障害として認識した巨像が再び動き出す。
巨像はゴーレムだ。
頭部を貫いても重要基幹は顕在だ。
右手に持った巨大なメイスが唸りを上げて襲い掛かる。
この圧倒的な暴力を前に英雄は逃げない、回避も不要。
アキラは純金の槍を持って迎え撃った。
金色の閃光が貫き巨大な質量のメイスが幻の様に消え去る。
金の槍
対巨像用に用意していた石化治療アイテムの金の針を大量に用意して錬成した対鉱物系モンスター用の投擲武器。
鉱物を鉛から金に練成する、錬金術の真骨頂。
錬金術の英知を極めれば、巨像もタダの土塊同然。
本来は石化した者を治療するアイテムが
身体を鉱物で構成される魔物を一撃で消滅させる概念兵器となる。
石として存在出来なくなるという存在概念を壊す一撃。
この戦いこそアキラ。
死都、黄泉の入り口の亡者を全て浄化したガリアの英雄。
「止めだ!」
金の槍に石化治療魔法を込め、巨像の心臓部に目がけて全力で投擲!!
再度金色の閃光が巨像を貫く。
メイスと同じ様にその質量が幻だったかのように消えていく。
代わりにソイルとなった魔素が足元にいた駐屯兵団、訓練兵団、竜騎士に祝福の様に降り注がれる。
アキラは黒竜から立ち上がり、兵士たちに向かって腕を振り上げ勝ち名乗りを挙げた。
「俺の魔素を返せ~!!!」
上空に居る為、声は届かないが、その仕草から勝ち名乗りを上げる。
祝福の様に魔素を受け取り、勘違いして喜ぶ兵士たち。
自分の失敗に後悔し、叫ぶ英雄。
知らぬが仏である。
兎も角、こうして英雄は帰還した。