契約の際、名前を与えなければならないらしく、日本神話の黄泉の国に封じられた女神から拝借し普段はナミと呼ぶことにした。
神殿から帰って自分の部屋に戻り彼女のことを色々知ろうと訊ねてみたのだが
「女性の過去を根掘り葉掘り聞くなんて ダメな主様!」
と頬を膨らませて、黙秘してくる。
あの、俺、契約者ですよね?
仕方なく王立学園や教会、ギルドの文献を調べてみると彼女は神話の魔王の妹に当たる曰く付きの大精霊であり、冥界の精霊姫とか次代の魔王の母とか、まぁ調べれば出るわ出るわ、ヤヴァイ情報が・・・・・
まぁ歴史は勝者が残すものだから鵜呑みにはしないが・・・・・・それを信じてる人からすれば脅威なわけで歴史の生き証人である彼女はロマリア、ポルトガ、ゲルマニア辺り十字教圏内では厄介な存在だな。
逆にクルトの民、旧ガリア帝国の祖、彼女の母でもあるクルトの巫女の一族の末裔であるガリア王家とブリタニア王家にとっては信仰されている大精霊、女神として扱われている。
……どっちに知られても面倒だな。
あと大精霊の契約者は強力な精霊魔法を扱うことができ、契約中は殆ど不老不死になるらしい。
精霊化という彼女の魔力を取り込み、魔力の
止めなさいシンジ君!
精霊化の利点は物理攻撃完全無効化、同質の霊的攻撃か。
俺+イザナミの魔力量を超える攻撃でない限り無効化できる。
すげぇチート。
デメリットは精霊が異性の場合TS化すること。
その精霊の弱点の属性までシンクロすることだな。
つまり、精霊化した俺を傷つける方法は同じ大精霊の契約者か古代魔法か光属性の上級魔法攻撃でないと効果がないらしい。
しかも闇と死と再生を司る能力を持つため大精霊本体の戦闘能力も高い。
俺の概念崩壊の法則と酷似した攻撃手段を持っている。
即死攻撃、
つまり、アンデッド化攻撃+回復、蘇生魔法のコンボ攻撃で俺の対アンデッド攻略方法の上位互換の技をもっており、対象の弱点を作り上げ、殺すという俺よりエグイ即死コンボだ。
即死攻撃は視界に入れた格下の対象を確率で即死させる呪いの魔眼。
一撃必殺と弐撃決殺の二段構えの攻撃手段をもつ敵に回すと恐ろしい大精霊である。
闇属性の精霊魔法も身につけることができ、影を用いた転移、分身、道具収納、使い魔作成、分身、武器作成、重力魔法が使えるようになり、呪いの抵抗力が上がるなど色々特典があってこれで攻略に乗り出せるというものだ。
そして彼女だが常に実体化してもらっている。
「実体化は私も嬉しいのですが、よろしいのですか?主様の魔力を常に吸収し続けますので、非常時以外は霊体化しておく方が負担もかけないのですが。」
「大丈夫 既に擬似的な精霊との契約状態を再現する【源呼吸】があるからナミとの
「器用ですね主様 妻として鼻が高いです。」
【空気読み】【受け流し】← *そんなスキルはない
「・・・・・・さて、情報収集にギルドによりますか。実体化して付いてきていいから。」
「はい、主様」
◆◆◆◆◆
ドドドドドドドドドド
なんか某奇妙な冒険のような効果音が聞こえてくる、ギルドの空気。
目の前には笑顔の受付嬢リィーンさん。
あの救出劇以来からリンと呼ぶ間柄になったわけだが、俺は彼女と付き合ってるわけではない、ただの飲み友達だ。
ガーコルトは下戸だし、アニは未成年(多分)?この世界では十分に飲める年齢だが俺の気が引けるため、二十歳の彼女とは仕事の帰りに酒の付き合いにいくようになった。
そんな受付嬢にして、この国の騎士でもあるリンとナミが笑顔で対峙し重苦しい空気を出している。
「アキラさん? こちらの女性は? お召し物から家政婦をお雇いになったのですか?」
「あ~リン。彼女は俺の・・・・・・」
契約している大精霊とは言えない ここはメイドさんが無難だろう、それを理解してかメイド服に着替えてるし。
「初めまして リンさん いつも
ビシィ!
空気が張り詰める 胃が痛くなってきた。
さっきまで一緒に話していたガーコルトはこの修羅場から離れた席に移動した。
この様子を見て腹を抱えて笑いを堪えプルプル震えてる。
アニは渡した道具袋で遊んで興味ない様子。
「……ああ やはりメイドさ「アキラさんの妻です」……」
く! これが逆境か!
ただギルドで情報交換に寄りに来ただけなのに!
「いや 彼女はポーションづくりの助手兼家政婦で 結婚は……」
「ああ やはりそうでしたか。」
そう言って空気が柔らかくなった瞬間、再度爆弾を投下するナミ。
「出会ってすぐに契を交わした仲です♥」
周りの男どもが吹き出し、殺気が俺に集中される!
ナミは絶世の美女だ、その分、独り者の男どもの嫉妬は激しくなる。
「そうだ! リン、俺に何か用事があったんじゃ?」
そう!
リンは俺に話しかけてきたのだ。
何か俺に用事があるのだろう。
「……そうでした。アキラさん、一度、ギルドの応接室に来てください。」
そう言って彼女は心なしか、俺の襟首を乱暴に掴んで引きずっていく。
ドナドナド~ナ♫
目でガーコルトたちに助けを求めるが笑いながら手を振るだけだった。
この薄情者!
◆◆◆◆◆
「国王からの召喚状?」
「はい、アキラさんの新薬と携行食の開発の功績を認められ、国王が報奨と同時にお会いしたいとのことです。」
「……それだけ? 応接室に連れ込んだんだから何か裏があるんでしょう?」
「……私の妹、アリシアは、クラリス王女に仕える侍女兼見習い騎士なのですが……
彼女の便りから王宮内に不穏な影があるとのことです。
王政府の中は現国王の座を奪おうと王弟とその息子を担ぎ上げての権力争いが水面下で行われ、
姫様も危険が及ぶ恐れがある為、家庭教師か顧問医師の名目で護衛に当たらせるのが本来の依頼内容です。」
一介の冒険者(笑)にそんな大役まかせるなよ。
と言いたいが、取り敢えず最後まで聞こうと思い、続きを促す。
「国王直々の依頼ですか……家庭教師、顧問医師のポストに就けてかつ腕に自信のある実力者で俺に白羽の矢が立ったということですか。」
「ええ 銀狼の牙 猫の目 妖精の涙 円卓の騎士
確かに、魔物や荒くれ者が跋扈する世界で素手でも渡り合える奴はそうはいない…ガコライも数少ない体術、柔術に近い格闘術を有しているらしいが、家庭教師や意思も兼任すると弱い…アニも薬学は少々かじった程度(薬は苦いから勉強しなかったらしい)だから難しい。
それで、両方の能力と実績のある俺に……か。 だが、問題が一つ
「長期任務だな……外で待っているナミも連れて行っても?」
「修羅場を演じ、ここにあなたを連れ込む口実にしてもらえましたので聞きませんでしたが彼女は一体? それにどことなく王族の方に似通っている顔立ちなのですが……?」
そりゃ先祖でもあるから子孫が彼女に似るのは当然だろう。というかリンさん、やっぱり王族と付き合いがあるっぽいね、妹が近衛ということは、もしかしたらエリートですか?
能力も受付嬢の筈なのに異様に高いみたいだし……
「俺の
「では 彼女は助手ということで同行を許可します。 表向き、首都への長期護衛任務で王城では家庭教師兼顧問医師でお願いします。明朝出発しますので アキラさんの滞在している宿屋へ迎えを寄越します。
あと長期任務ですのでひと月ごとに向こうで契約更新されると思いますのでしばらく帰ってこれません。 拠点の整理も必要ですので、宜しければ部屋の荷造りや整理、管理を職員にさせますが?」
「明日の迎えと部屋の管理だけお願いします。 準備や用意は自分でしてきますのでこれで。」
「はい こちらこそよろしくお願いします。」
まさか向こうから接触が来るとは俺とナミの正体をバレないようにしないとな王宮の資料庫に入れるといいんだが。
それに権力争いか、何も起こらないといいんだが。 やっぱり起こるんだろ~な~。
『主様。王都で私の子孫に会えるんですね? 少し楽しみですね~。』
この大先祖?がいる前で家族間での争いか……彼女は草葉の陰ではなく俺の影で泣くような事態にならないことを祈るとしよう。