異世界攻略のススメ   作:渡久地 耕助

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アリシア

 明朝

 

「主様、時間です……そろそろ迎えが来ますので支度をしてください。」

「ん~何人たりとも俺の眠りを妨げるものは……」

「……黒○事さん?」

「カハッ!」

 

 やめろ!二つ名で呼ぶな!

 

「ん~外は早朝か……」

 

 そうして天蓋付きのベッドから起きる。

 S級ダンジョン黄泉の入口を攻略して以降、ナミの眠っていた神殿に住居を構えている。

 住み易い様に家財道具を持ち込んだり、改装している。

 

 一応拠点はトゥールズの宿屋の部屋を借りて、其処に影魔法の転移ダンジョンと繋げているのだ。

 外には黄泉の入口が攻略されたとは気づいていない。

 ダンジョンマスターの俺とナミが新たに影分身とナミの分体を配置している。

 ダンジョンも以前より凶悪な仕様に改良している。

 

 俺の罠技術が冴え渡る無理ゲー設定の要塞だ。

 ここなら思う存分研究できるし、訓練もできるからな。

 

「主様。遅くまで転移装置でなんの研究を?」

「いや ちょっと気になる応用方法を思いついてな……それより早く宿屋部屋に転移しないと。」

 

 そう言って自分の影を媒介に転移する。

 

 二ケ月間住んでいた部屋に視界が切り替わり、ベッドに腰掛ける。

 黄泉の入口の亡者狩り、死都での救助でだいぶ実力も上がり、後は竜の墓場、王墓の巨像と狩場が残っている。

 そこそこ必要な素材を集めるに留めておこう、この国の狩場は他の者の為に残しておきたい。

 

 

 コンコンコン

 

「アキラさん お目覚めですか」

「はい?」

「昨日話されていたギルドの迎えが来ておりますが?」

 

 宿屋の店員の若い小坊主が扉越しに声をかける。

 

「すぐ降りる。」

 

【索敵】で外の状況、人数を確認。

 同時に【鑑定】スキルも使い、ステータスを見破る。

……外に二人、そのうち一人は……この気配はギルドナイトか。

 監視か刺客だろうか? 

 今の俺の敵ではないが警戒しておこう。

 

 ギルドナイト

 ギルド職員、メンバー内から選抜された暗部を刺す。

 諜報組織であらゆるところにその工作員がいるっぽい。

 

 受付嬢のリィーンさん。

 ギルドメンバー

 定食屋の店主

 酒場のマスター

 近所の夫婦

 

 俺が確認した人数はこの街では六名だ。

 この街、いや確認は未だだが恐らく国中、下手すれば世界中に存在するんだろうな。

 

 そんな奴が近くにいる。

 通りすがりでは無く、俺狙いで。

 

 ナミと共に宿屋を出て、迎えの職員、初めて見るギルドナイトの女性が俺を迎える。

 

 後になって思い返すとこの出会いが始まりだったのだろう。

 別に運命の出会いって訳ではないが、彼女とは長い付き合いとなった。

 

 ドアを開けると美少女が立っていた。

 見た目は10代前半か中頃だろう。 未だ幼い。

 孤児院の子供達より、少し上くらい。 

 

 金髪を肩までに切りそろえており、美少女と言っても過言ではない程には整った顔だ。

 鋭い瞳に将来を期待させるような未成熟な肢体を持ってる。

 その細身には信じられないほど鍛え上げられただろう力強さと佇まいがある。

 性格はクソ真面目!!って感じ。

 

 この若さでレベルも100の大台を超えている。

 重心も安定しており、体が全くぶれていない。

 ギルドメンバーでもここまでの者は稀だし、それをこの少女が身につけているのに驚いた。

 

 クレアやリン、アニといいこの世界の美少女は化物か?

 ギルドナイトの中ではレベルは一番低いが、それでも水準は超えている。

 流石はギルドナイトというところか。

 

「おはようございます 皆さん 朝早くからお疲れ様です。」 

「お早うございます。 それでは王都に向いましょうか。

 街の外に竜籠を用意していますので、外で乗り換え、王都へ向かいます。」

 

 竜籠、4体の飛竜を使っての空飛ぶタクシーだな。

 移動速度も早いが、運賃が高い!

 竜の食費って高そうだな。

 

 正に王侯貴族の乗り物だな、転移のある俺には無用の長物だが。

 そうして街を出て、竜籠に乗り換え王都へ飛び立つ。

 

竜籠(空の上)でなら聞き耳を立てるものもいませんね。本日あなた達の護衛を務めます

 アリシア=ド=マイヤールです。お話は姉上からよく耳にしています。」

 

「ああ 君がリィーンさんの妹さんか ギルドナイトにしてはずいぶんと若いですね。」

「何故それを……いえ あの姉上が認める人物ですから当然ですか。 

 正確には元です。今はただの侍女兼騎士見習いですね。」

 

 今は引退しているらしい。

 栄転したって事か?

 

「護衛の件ですが、あなた一人でも十分、姫様を守れると思うのですが…

 ……といいますか姫様の元を離れて大丈夫なのですか?」

「騎士団長の父と末の妹が代わりに護衛に入っていますのでご安心を……

 それより彼女は?王妃様や姫様にどこか似た顔立ちと雰囲気があるのですが……」

 

 おおう、クリティカルな質問が来ましたね。

 素直に話すと混乱が起きるな。

 

「俺の従者のナミです。 俺の助手ですね。」

「ナミと申します。主人ともどもお世話になります。」

 

 うん、嘘はついてない。

 

「ご結婚されていたのですね。おめでとうございます。

 姉から聞いたときは未婚と聞いていましたが最近になって挙式を?」

 

 え? リィーンさん俺のプライベート調べて妹に話しちゃってるの?

 ちょっと背筋が冷えたがポーカーフェイスで話を続ける。 

 

「いや違うから。 ナミもいい加減にしなさい。」

「……アキラさんの下で働いている助手のナミです。

 精霊魔法を得意としています。よろしくお願いします。」

 

 そういって得心が得たのかアリシア嬢は一礼する。

 

「同胞の方でしたか、私もクルトの民の末裔です。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 クルトの民っていうか精霊そのものです。

 しかも大精霊なんですがあまり気づかれないものだな。 

 まぁ長時間実体化させるなんて普通は不可能っていうからな。

 さらにナミは受肉しているから気づきにくいとは思うが。

 このまま勘違いさせておくとしよう。

 

 そう決意しているとアリシア嬢は仕事の概要を話し始めた。

 

「今回の騒動ですが、要するにお家騒動です。

 クルトの民、神話の巫女の末裔であるガリア王家とブリタニア王家、そして我がマイヤール公爵家

 始祖の血を引いているのは現時点では姫様とマイヤール公爵家です。

 現国王と宰相、その息子は蚊程も通っていませんので次期国家元首はクラリス王女です。」

 

「……結構辛辣な意見だね?」

「辛辣にもなります、権力に取り付かれた宰相に放蕩を繰り返すあのバカが姫様を手にしようと画策しているのです!許されることではありません!」

 

 うん、やはり真面目だった。

 若い為かちょっと直情傾向だな。

 許容範囲だけど。

 

「宰相はともかくその息子の放蕩が周囲を油断させる演技で実は傑物という可能性は?」

 

 うつけと呼ばれた戦国大名が脳裏に浮かぶ。

 こういうタイプって螺子が飛んでるけど天才と馬鹿は紙一重だ。

 意外と傑物だったりする。

 

「そう思い調べましたが、その可能性は微塵もありません権力を笠に着た小物です。

 私が女ではなく男であったなら……クッ」

 

 え~百合っ子ですか~。

 なんてことは口にしない、それ程慕っているのだろう。

 事実、彼女が男だったら問題は無いわけだし。

 彼女の父親である当主と姫様を結婚させるのもアレだしな。

 

 婚約者候補である従兄弟がそれほど残念な奴ということだろう。

 

「依頼に担当医もありましたが……まさか彼女は毒か呪いで?」

「いえ、呪い毒の類ではないそうです。時たま発作や咳を、元々体もあまり頑丈ではありません。

 国中の医者、白魔導士、グレアム神父にも見てもらったのですが原因すらつかめず…」

 

 うん、深刻な問題だそうです。 

 無免許薬剤師の俺に話すことじゃないよね?

 

「ふむ まぁ病弱なお姫様の回復まで、家庭教師と担当医 兼 護衛ってことですか。」

「ええ 優秀な薬師とお聞きしています。 姫様をよろしくお願いします。」

 

「あくまでメインは護衛ですよ? まぁあまり期待しないでください。」

 

(ナミ、どう思う? 治せそうか?)

(見てみませんと何とも言えませんが恐らく可能です。しかし私の正体がバレる危険が出ますよ。)

 

 つまり精霊化もできない、ナミも使えない。

 となるとやはり俺の力、白魔法、錬金術、闇の精霊魔法の出番だ。

 あまり役に立たないが現代の家庭用医学程度の知識も動員して診察するしかないな。

 

 その上、武器の携帯なしでの護衛か…まぁこれは余裕だけどな。

 とにかく血みどろの権力闘争の渦中に飛び込みお姫様を救うとしますか。

 

 王城の中にある資料に帰還方法の手がかりもあるかもしれんし。

 そう思いながら俺は竜籠の窓から顔を出し、近づいてきた王都と王城をみてため息をついた。

 

「ヤレヤレ」

 

 

 


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