【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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二捻り

   

『浅神君。気分転換に学校見学でもいかがですか?』

 

 半ば軟禁とも言える勉強に次ぐ勉強で、活字中毒になるのではとそこはかとなく心配していた時。

 

 たぶん酷い表情をしていたわたしを見兼ねて、分厚いテキストを鞄に仕舞いながら、教師である玄霧皐月は最高に心が躍る提案を口にした。

 

 

               ☆

 

 

 私立礼園女学院。いずれ通うことになる全寮制の由緒正しきカトリック系の学校で、昔はミッションスクールだったが最近ではお嬢様養成学校になっているらしい。

 

 寮監室で手続きを終え、わたしと玄霧先生はシスター達と別れて案内役の少女と共に学内を見学する。

 

 その案内役の少女なのだが───

 

「……。どうかしまして? 浅神さん」

 

「───すいません。綺麗だなと見惚れていました」

 

「あら、それはどうも。でも、あなたのような物言う花に褒められても皮肉にしか聞こえなくてよ」

 

「いえ、そんなつもりは」

 

「ふふ……冗談ですのよ」

 

「っもう、からかわないでください───()()()()

 

 黄路美沙夜。礼園女学院の理事を務める黄路財閥が黄路家の次女にして、正統な黄路の娘。

 

 彼女は中等部の三年生で、案の定というか昨年は学級委員としてクラスをまとめた人気の生徒だとシスターさんがべた褒めしていた。

 

 『忘却録音』にてはじめて登場する妖精使いの少女で、本編では妖精───とは名ばかりの使い魔を複数使役して記憶を奪う事件を起こしていた。

 

 でも、まだ彼女は魔術のマの字も知らないお嬢様であるから危険性はない。注意するのに越したことはないが。

 

「さっそく友人ができたようですね。それだけでもこの学校に来た甲斐があったというものです」

 

「そんな大げさですよ。環境が環境なだけあって同年代の子たちがいなかっただけなんですから」

 

「それもそうですね。けれど、それにつけても高等部からの中途入学は異例のこと。私は君がクラスで馴染めるのか気がかりです」

 

「───心配ありません。浅神藤乃、がんばります」

 

「……なぜでしょう。とても不安です」

 

 などと他愛ない話をしていると、前を歩いている黄路さんがチラチラと玄霧先生を見ていた。

 

 そういえば、玄霧皐月と黄路美沙夜は兄妹であるかは不明なものの、黄路さんは玄霧先生を兄だと思っていたのだった。

 

 黄路家の子どもは養子だ。もしかして───

 

 いや、玄霧先生はイギリスのウェールズ出身だと聞く、黄路さんの出身がどこかは分からないが勘違いだろう。

 

 生き別れの兄の面影がある人物、それが現段階の黄路さんの認識だろうから、いずれどうにかしなければ。

   

   

               ☆

   

   

「───以上が礼園の主な施設です。初等部と大学部は時間の都合上割愛させていただきました。もっとも、浅神さんは高等部からの編入学とのことなので関わりはほとんどありませんが」

 

「いえ、本日はどうもありがとうございます。今はまだ修行中の身ですが、二年後、必ず試験に合格してまたここに戻ってきます」

 

「ええ、再び貴女と会えることを心より願っていますわ」

 

 校舎、体育館、学生寮、寄宿舎、礼拝堂……ある程度見終わり再び寮監室に戻ってきた。

 

 玄霧先生は終了手続きのために寮監室に入っており、私と黄路さんは廊下で彼を待っている。

 

「……あの、その。浅神、さん……」

 

 黄路さんが言いづらそうにしている。

 

「どうしました? 黄路さん」

 

「……玄霧、先生とは、その、どのような……」

 

「え?」

 

「う、ぐ……ですから、二人は、その」

 

「あの、すいません。もう一度お願いします」

 

「あ、貴女と玄霧先生は一体どのような関係ですの!?」

 

 顔を赤くさせながらいい放つ。若干鼻息も荒い。

 

「ああ、玄霧先生はわたしの家庭教師……のようなものでしょうか。お父さんの知人だそうで、仲良くさせていただいています」

 

「そう、ですか。ご家族はいらっしゃいますの?」

 

「いえ、独身だと聞いていますが」

 

「そ、そうですのね」

 

 先ほどまでの固い淑女たる仮面はどこへやら、あどけないと言えるほど可愛らしい表情をしている。あざとい。

 

(どちらの顔も黄路美沙夜なのでしょうが、いいですね。いわゆるギャップ萌えもあると思いますが)

 

 呼吸を整えて平静さを装っている黄路さん。恥ずかしそうに頬を染めているところが大変よろしい。

 

 ───『終末録音』の黄路さんは素晴らしい。

 

(やはりといいますか、玄霧先生のことでしたか。あまり詮索されて暴走されても困りますしどうしましょうか。二人の邂逅も本来はもっと後のことですし)

 

「玄霧先生のこと、気になりますか?」

 

「ごふっ」

 

 思いきり咳きこんだ。気管に唾でも入ってしまったのかうずくまってむせているので寄り添って背中をさする。少しからかいすぎてしまったかもしれないと自重。

 

「大丈夫ですか? 黄路さん」

 

「え、ええ。よくてよ。浅神さん」

 

 しばらくして落ち着いたので立ち上がらせる。すると寮監室から玄霧先生とシスターさんが出てきた。どうやら手続きは滞りなく終わったようだ。

 

「どうかしたのかい?」

 

 黄路さんに寄り添ったままのわたしを見て玄霧先生は不思議そうに尋ねた。しまった。タイミングを逃した。

 

 すぐ隣の黄路さんを見る。どうか言わないでとばかりに目が物語っていたので誤魔化す。

 

「いえ。飛んできた羽虫に驚いて黄路さんが転びそうになったのを支えただけです。そうですよね? 黄路さん」

 

「……ええ、そうです。ありがとう。もう心配ありませんわ」

 

 黄路さんから離れ、玄霧先生の傍に立つ。

 

「では、我々はこれで失礼します。貴重な時間をどうもありがとうございました」

 

「いえ。可愛い後輩のためですもの、礼には及びませんわ。貴殿方が再び礼園に来ることを心待ちにしています」

 

 一礼をして踵を返す玄霧先生。わたしは少し立ち止まって黄路さんと目を合わせる。

 

「ありがとう。浅神さん。さっきの回答だけれど、そうね。気にかかっている、が正しいわ」

 

「……玄霧先生は英国生まれだそうです。もしも、玄霧先生を誰かと勘違いしていらっしゃるのなら……」

 

「───そう、なの」

 

 ため息を吐いて肩を落とす黄路さん。思っていたよりショックを受けてはいないようだ。これで玄霧先生にお兄さんの面影を追いかけることはないと思うが、どうなるだろう。

 

「本日は本当にありがとうございました」

 

「言ったはずです。可愛い後輩のためだと」

 

「ふふ。黄路さんも可愛いかったですよ?」

 

「なっ!? あの事を言っていまして!? もうお忘れなさい!」

 

「駄目ですよ。心のアルバムにきちんとしまってありますから」

 

「なんという……!? 弱味を握ったつもりですの!?」

 

「いえ。黄路さんのあざとらしさに眼福なだけです」

 

「あざとらしさ!? あざとらしさと言いまして!?」

 

 一応上級生なのだが軽口をたたいてしまう。噂では女の子女の子してるところが下級生に人気だと聞く。その通りだと思う。

 

 入学したら黄路さんとまた会えることを楽しみにしよう。

 

「まったく───では、浅神さん。ごきげんよう」

 

「ええ───黄路さん。ごきげんよう」

 

 きっと夢あふれる未来が訪れるはずだから。

  

  

               ☆

  

  

「ああ。そうだ浅神君。今の成績では礼園に合格できない可能性が出てきたので勉強量を増やしますから。覚悟してください」

 

「ぇ」

 

「当然です。出席日数が存在しない浅神君は成績だけで礼園に合格しなければなりません。ですが、今の成績は中の中。ゆくゆくは上の上になってもらわなければ確実性に欠けます」

 

「えっ」

 

「ずるをするのは簡単ですが、荒耶から教育を任されたからには実力で合格を勝ち取るまで面倒をみます。頑張りましょう」

 

「え──────────!?」

   




 
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