【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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、掌編閑話~嘉

   

      【はじめての歪曲】

 

 家からだいぶ離れた森の中。藤乃は歪曲の魔眼を試すために人里離れたこの場所を選択した。

 

「Spin/ON!」

 

 キイイィィィン。

 

 某熱血アニメから言葉を頂戴して歪曲の魔眼を開眼させる。

 

(自己暗示の呪文があるとしっくりくるなあ)

 

 さて、と。狙いを一本の木に絞る。

 

「───マガれ!」

 

 ドゴォ。ベキベキベキ。ズシャア。

 

 木はねじ切られず根っこから180度回転した。

 

「……………………………………………………あるえ? もういちど───マガれ!」

 

 ズシャアアアア。ガリガリガリガリ。

 

 もう180度回転しただけだった。

 

 うーん。困ったぞ、と手を組んで考える藤乃。本来であれば雑巾絞りのように捻れるはずがそのまま回転してしまっている。

 

(反時計回りに回転してるってことは左回転の軸は発生してる。右回転の軸が発生しないから回るだけなのか───たしか右目が右回転、左目が左回転だから)

 

 右手を伸ばし人差し指を見つめて寄り目をつくる。寄り目になったら指を戻して再び木を視る。

 

「マガれ!」

 

 ミシィ。バキバキバキバキ。ズシャン。

 

 両方の回転軸が発生して木をねじ切れた。

 

(でも戦闘中に寄り目をつくる余裕はなさそうだし、第一カッコ悪いから嫌だなあ。何か別の方法でも───)

 

 蜻蛉が木の枝にとまったのがみえた。

 

(おー。子どもの頃はよくトンボの目を回そうと指をくるくる回してたっけ。捕まえられた試しがないけど……!)

 

 そうだ!

 

「ゆびでかいてんじくをつくれたら!」

 

 違う木に狙いを定め指差しくるくる回す。

 

「マガれ!」

 

(左回り! そして右回り!)

 

 ベキベキ。バキバキバキバキ。ズシャアア。

 

 木がねじ切られて倒れる。

 

「よっし! せいこうした!」

 

(原作の藤乃みたいに視線での回転軸の作成はいまの自分には難しいけど、指で軌跡を画くことでならつくれる!)

 

(でも速さが足りない。もっと練習してタイムラグを短くしないと使い物にならない!)

 

「まだまだやるぞぅ! マガれ──────────!」

   

 

 ところ変わって家。

 

 

「聞いたかい婆さんや。近くの森が突然なくなったらしいのう。なんでも木が全部が絞られた雑巾みたいに捻れてるみたいじゃ」

 

「まあ。不思議なこともあるんですねえ。もしかしたら妖怪の仕業かもしれませんよ。おや? どうしたんだい藤乃。さっきから顔色が優れないようだけども」

 

「べ、べつにぃ! な、なんでもないよぉ!」

 

(……しまった。やりすぎた)

 

 

 

 

 

      【鮎釣り勝負】

 

 蓄えの魚が少なくなりお祖父さんと一緒に川にやってきた。

 

「今晩のおかずは鮎の塩焼きじゃな。藤乃。どっちがたくさん釣れるかおじいちゃんと勝負じゃ!」

 

「うけてたつよ、おじいちゃん!」

 

 手頃な岩に腰かけて獲物を待つ。お祖父さんは釣糸を垂らしてものの数分で魚を釣り上げていたが藤乃はいまだゼロ匹。俗に言うボウズというやつだ。

 

「ほっほっほ。どうじゃもう三匹目じゃぞ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 三十分経過しても一匹も釣れない。

 

「もういい!」

 

「おお、もう降参か?」

 

「すででとる!」

 

「──────────ほ?」

 

 ダッダッ。バッシャアアアン。

 

 釣りざおを手放して勢いよく川に飛び込む藤乃。水中で目を開けると流れに逆らって泳ぐ鮎がみえる。

 

(こんなに鮎がいるのになんで釣れないかなあ。よおし! えい! やっ! こらまて! にゃろ! ぐわっ!)

 

 見えているのに捕まえられない。するりするりと手の隙間から逃げて見えなくなってしまう。だんだん腹が立ってきた。

 

(奥の手を使うか……!)

 

 両手を胸の前で構える。

 

(ジャイロみたいに水の球をつくって……!)

 

 ズオオオオオオオ!

 

「水の中に入ったところで捕まえられんじゃろうて。阿呆じゃのう。場所を代わってやろうかの───」

 

 ドッパアアアアアン! ボトボトボトボト!

 

「な、なんじゃあああ!?」

 

 川が爆発して大量の鮎が降ってくる。回転の技術を使って水球を作りそれを川底に叩きつけたからだ。それは川の水ごと鮎を打ち上げた。

 

「ふっふーん。どう? おじいちゃん。ぼくのかち」

 

「……………………………………………………がくっ」

 

「おじいちゃ──────────ん!?」

 

 お祖父さんはびっくりして気絶した。

 

 

「まあ! たくさん釣れたのねえ。これなら干し鮎にしてとっておきましょう。藤乃にも手伝ってもらうわね」

 

「うんっ。ぼくもやるー!」

 

「はてー? そんなに釣れてたかのう?」

 

(お祖父さんが覚えてなくてよかった。ちょっと羽目を外しすぎちゃった。てへ)

 

 

 

 

 

      【ぼたん鍋の具は】

 

 お祖母ちゃんに遊んでくると伝えて山に登った藤乃。なお前回の修行では森林伐採して目立ってしまったので反省している。

 

「じ──────────っ」

 

 魔眼を開眼して掌を見つめる。

 

(螺旋丸ってできないかな? チャクラはないけど両方の回転軸を掌で固定してそれを回転の技術で圧縮、高速回転させたら───)

 

 ヒュウウウウウウン。

 

(偽・螺旋丸ってとこかな。属性はないけど高速の回転軸はスクリューみたいなものだから当たったらひとたまりもない)

 

 

「グルルルルッブモオオオオオオッ!」

 

 

「っ!」

 

 殺気。背後からの攻撃をとっさに避ける。受け身からすぐに立ち上がり前を向く。

 

「イノシシ……!」

 

(かなり大きい。乙事主ほどじゃないけど)

 

 某アニメ映画並みのイノシシではない。でも。どこかで見たことがあるような。ないような?

 

 グゥー。

 

「───きょうはぼたんなべだな。じゅるり」

 

「ブファッ!?」

 

 おなかがくうくうなりました。

 

「にくだ──────────!」

 

 偽・螺旋丸をイノシシに叩きつける。

 

 ドッゴオ! ズガアアアン!

 

「ファ──────────ッ!?」

 

 イノシシはきりもみ回転しながらぶっ飛んだ。

 

 

「罠にかかったイノシシを持って帰ってくるなんて偉いわねえ、藤乃。おかげでこんなに美味しいぼたん鍋ができました」

 

「はふっはふっ。旨い! いやあ、婆さんと藤乃の料理はどれも旨いのう。ほれ、藤乃も食べなさい」

 

「うんっ。はむっ、むぐむぐ。おいしい! おばあちゃん、おかわりちょうだい!」

 

 藤乃に喧嘩を売ったイノシシは今晩のおかずになった。毛皮が固くて下拵えするのにかなり時間がかかったが手間をかけただけあって美味である。

 

「あわてて食べなくてもまだたくさんありますからねえ。そういえば変わったイノシシでしたねえ。毛色といい牙といい」

 

「外来種かもしれんの。牙が固くて折れんかったがなんじゃろうなあ、あれ」

 

 な!?

 

「んぐ!? ん──────────!」

 

「だから言ったのにまったくもう。はい。お茶ですよ」

 

「ほっほ。たあんと食べなさい。食べて寝て遊ぶが子どもの仕事のようなものじゃからの」

 

 ふと思い出してしまった。あの大きさといい形といい。ケルトに生息している恐ろしい魔物のことを。

 

 

(もしかして───魔猪じゃね!?)

 

 

 晩御飯のぼたん鍋、具材は魔猪。

      

 

 

 

  

      【食べるという事】

 

 旅に出る前に一度家に帰ってきた。必要な荷物を取るためでもあるし最後に我が家を見ておきたかったからでもある。

 

「ぁ」

 

 机の上に並べられた冷めきった料理を見つける。

 

(……そっか。このまま出ていったんだっけ……もう三日も経ってるし片付けないと)

 

 亡くなった二人のことを考えて目頭が熱くなる。それを知ってか知らずか荒耶が尋ねた。

 

「これは、おまえが作ったのか」

 

「え? あ、はい」

 

 荒耶は蠅帳を外しておかずを見ている。

 

「よくできている。年端のいかないその身で、ここまでの料理が作れるとはたいしたものだ。棄てるのを躊躇うほどにな」

 

「ど、どうも」

 

(慰めてくれたのかな? とりあえず片付けをして───)

 

 グゥー。とお腹がなった。

 

「……みそしるはまだのこってるしごはんもある。ひむろにあゆもあるし、とっておきのやつも」

 

「どうした?」

 

「すわってまっていてくださいっ」

 

 髪を束ねて台所に向かう。

 

 

               ☆   

 

 

「おまたせしました!」

 

「ほう」

 

 机の上に並べられた料理の数々。

 

(空豆ごはんと山菜の味噌汁、鮎の塩焼き、山菜のおひたしに山菜の天麩羅、木の実の寒天にジャムをかけてできあがりっと)

 

「もうこのいえにはかえってこないとおもうので、もっていけないしょくざいはぜんぶつかいました。どうぞ、めしあがってください」

 

「では」

 

 荒耶は箸を取ろうと手を伸ばすが藤乃は小さく首を振ってそれを止める。

 

「その前に」

 

 手を合わせて食材となった命に感謝するからだ。

 

「いただきます!」

 

「……いただきます」

 

 空豆ごはんを一口食べる。

 

「!」

 

 また一口、二口と食べる。

 

「うまい」

 

 山菜の味噌汁をすすり、舌鼓を打つ。

 

「えへへ」

 

(まさか、あの荒耶宗蓮と食卓を囲むことになろうとは思わなんだ。心なしか口角が上がってるように見えなくもないし。人生なにがあるかわからないなあ。二度目だけど)

 

「おいし」

 

 二人とも夢中でがつがつ食べ続けた。

 

 

               ☆  

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「……ごちそうさまでした」

 

 二人とも一つ残らず食べきり満足げな様子。

 

「どうでしたか。かんそうは?」

 

「久方ぶりに食物を口にしたが、それにつけてもうまい。また食したいと思う」

 

 

「いきているというのはからだにものをいれてくということなんですよ」

 

 

「───うむ。正しく真理だな」

 

 微かに笑った。藤乃にはそう見えた。

 

「ぼくがいるからには、きちんとあさひるゆうのごはんはたべてもらいますからね」

 

「ああ。希望する」

 

 胃袋をがっしりと掴めた。手応えあり。

 

「ちなみに、りょうりのけいけんは?」

 

「皆無だ。煮て焼くだけならあるいは」

 

「じゃあ、こんどはいっしょにつくりましょう!」

 

 

               ☆

   

 

「───どうしたらそんなあじつけになるんですか」

 

「むう」

 

 できあがった料理は酷い有り様だった。なんとも言えない不思議な味。一言で表すなら不味い。

 

(そういえば、公式でメシマズだった……!)

 

 荒耶は今後一切の台所の立ち入りを禁じられた。

 

 

 

 

 

      【贈り物】

 

 旅の途中。天候が崩れてきたため近くの寺に立ち寄った二人。

 

「すこぶる、窶れているな」

 

「え? 全然大したことないですよ」

 

 山門での雨宿り。雨の強さはそこまで強くはない。服だってそこまで濡れてはいなかった。

 

「体ではなく、衣のことだ」

 

「───そうですね。あれから二年も経ちましたし」

 

 布地が痛んでいるだけでなく大きさも合ってない作務衣。村を出たときからずっと同じものを着ている。破れる度に荒耶が修繕してくれていたがみすぼらしかった。

 

「二年か。疾いな」

 

「そうですね……」

 

(歪曲の魔眼も視線で回転軸が発生できるようになったし、鉄球の回転も安定して黄金長方形のスケールで回転させられるようになった)

 

 思い返すと感慨深い。

 

(螺旋巻拳も求心力を理解してからは完全な穴を開けられるほど力を練れるように───あれ?)

 

 気づいてしまった。

 

(修業しかしてなくない?)

 

 思い出すは修業修業修業の日々。時たま荒耶と組み手をするくらい。バトルマンガの世界

 

「うわあ」

 

(時の流れは残酷だなあ。あれ、使い方あってるっけ?)

 

「どうした」

 

「……なんでもないです」

 

 修業のことしか思い出せなく肩を落とす。まあ。得られたものは大きいから良しとする。

 

「見窄らしくて敵わん。これを着るがいい」

 

「これは?」

 

 差し出された風呂敷を受けとる。恐る恐る開いて中に包まれていたものを確認した。あ。

 

「───尼僧服」

 

「私が拵えた。金剛の結界を施してある。並大抵の魔術なら綻びすらしないだろう」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

(凄い代物をプレゼントされた!? 尼僧服って某破戒僧が浮かんでしまうけど)

 

 第三の獣が頭を過る。ふふふ、ソワカソワカ。

 

「……さっそく着てみてもいいでしょうか?」

 

「おまえに贈呈したものだ。好きにするがよい」

 

「では───」

 

 その場で作務衣を脱ごうとする。

 

「待て。着替えなら庫裏でしろ」

 

「は、はい」

 

(前世の癖でついついやっちゃうな。今は女の子なんだから女の子らしさに気をつけないと!)

 

 庫裏に向かって走る。後ろから荒耶のため息が聞こえた気がしたが無視をした。

 

 

               ☆

 

 

「戻り、ました」

 

「……………………………………………………然知ったり」

 

 結論を云うと藤乃の尼僧服はぱっつんぱっつんだった。特に胸と尻が窮屈そうだった。発育がよろしいようで。

 

「すいません。大きさが……」

 

「いや、こちらの落ち度だ。寸法を測り違えていた。目視では正確さに欠くか。改めて、仕立て直す。脱いでくるがいい」

 

「はい……」

 

 着替えてから自分でスリーサイズを測って荒耶に伝える。一週間もしないうちに尼僧服は仕立て直され、荒耶から貰ったはじめての贈り物はぐだぐだな感じで終わった。

     

 

 

 

 

      【必殺技といえば】

    

 川原で少女の叫びが木霊している。

 

「ギガぁあ、ドリルうぅぅぅ、ブレイクううううぅぅぅぅ!」

 

 目には見えない回転軸で身の丈ほどある岩を粉砕する。周囲には同様の技で粉砕された残骸が多数。

 

「くぅー……。やっぱり必殺技といったらコレですね!」

 

 右肩を回しながら一息つく。

 

(欲をいえばもっとドリルしたいけれど。地形をだいぶ変えてしまいましたし、ここまでにしましょうか)

 

 砂ぼこりを払いその場を後にする。

 

 そして翌日。今度は採石場にて。

 

「ギガァ……」

 

 拳に回転軸を作りそれを基に大きな回転軸を構成。

 

「ドリルゥ……」

 

 それを高速回転させ最高速度で保つ。

 

「ブレエェェィクゥゥゥゥッ!」

 

 大地を蹴り弾丸の如く岩壁に叩きつける!

 

 ドッゴオオオゥン! バラバラバラ。

 

 岩壁に巨大なクレーターが刻まれた。

 

「うーん。威力は申し分ないのですが、如何せんオリジナルみたいにドリルを出せないでしょうか」

 

「……また派手にやったな」

 

 どこからともなく荒耶が現れる。眉間のしわがまた増えている気がするが気のせいかな。

 

「あ。荒耶パパ。この技にドリル要素を足したいんですけどどうしたらいいでしょうか?」

 

「ドリルだと? そのようなものを足さずともその技は完成されていると感じたが」

 

 パパと呼ばれたことを聞き流す荒耶。手強い。

 

「それは───かっこいいからです!」

 

「……はあ。イメージさえできているのなら投影魔術で鏡像を生み出せばよかろう。完璧なイメージでなければならんが。そもそも投影魔術というのは効率的では───」

 

 

「ああ! 盲点でした! 投影! 投影魔術! 長時間存在させないのならこれほどまでにピッタリの方法はありません! うふふ。こうなったらさっそく練習するしかありませんね! 荒耶パパ!」

 

 

「……教えるべきではなかったやもしれん」

 

 この後めちゃくちゃ練習した。

 

 

 

 

 

      【曲がり歪む】

 

 遮蔽物が何一つもない平地にて藤乃は荒耶を呼び出した。

 

「こんな所に連れてきて今度は何を企てた」

 

「最近の私の扱いひどくありませんか?」

 

 まあいいですけど。少しふてくされる藤乃。

 

「察しはつく。新しい技だろう」

 

「さすがはお父様です」

 

 荒耶の眉間に新しいしわが刻まれた。

 

「……こほん。まずは見てもらった方が早いと思うので」

 

 Spin/ON。魔眼を起動させる。

 

「凶れ」

 

 回転軸を複数作りだし高速回転をはじめる。

 

(自分の周囲の空間をねじ曲げて圧縮させる)

 

 巻き込まれた空間が曲がって歪む。

 

(方向を定めて一気に解放、空間は復元する!)

 

 

「ゼロシフト、レディ」

 

 

 次の瞬間。藤乃は消えた。

 

「!」

 

 荒耶は目を見開いた。そして後ろを振り向く。

 

「そう。瞬間移動です」

 

 藤乃は荒耶の背後に回っていた。荒耶は瞬間移動の知覚はできなかった。その直後でなければ認識すらできなかった。つまり刹那よりも早い。

 

「驚嘆。瞬間移動とはまた魔法の域のものをよくも……おまえは軽々と奇跡を起こしてくれるな」

 

 感服と呆然の入り交じった複雑な面持ちの荒耶。

 

「あはは、は」

 

 苦笑いを返す藤乃。

 

 

「───だが、それは金剛の結界を施した尼僧服あってこそ。その恩恵がなければ死に体だったろうに」

 

 

 衝撃的な発言だった。

 

「え」

 

「至極当然だな。あれは人体が認知できない光の速度、つまりは亜光速での移動。光は音の88万倍だ」

 

「はちじゅうはちまん」

 

「つまりマッハ88万。空間の元に戻ろうとする弾性を用いたため世界に影響はないようだが、それでも人体に対しての反動は凄まじいものがある。超重力で自壊するか、摩擦で塵芥か」

 

「────────────────────」

 

 恐怖で青ざめる藤乃。

 

「弁解はあるか?」

 

「危ないことをしてごめんなさい!!」

 

 怒られたという。

 

 

 

 

 

      【本日の授業:結界】

 

 今回は荒耶が直々に魔術を教えてくれることになった。心当たりは多々あった。

 

「旅先でおまえが鍛練を行う度に、怪奇現象だのミステリーサークルだのと騒がれているのは知っていよう」

 

「ええ、それは、ハイ」

 

 つい昨日にも新聞に掲載されたので鍛練を自粛している藤乃。

 

「そこでおまえには結界を作れるようになってもらう」

 

「結界、ですか」

 

 不倶、金剛、蛇蝎といったものを想像する。

 

「結界は特定の空間を仕切り内と外を分けるものだ。完結させるためには己を完成させなければならんがそこまでは求めん」

 

 出来んだろうからな。と毒を吐く荒耶。

 

「結界とは即ち『一つの閉じられた世界』。閉じる場所を世界から遮断した状況が結界である。謂わば地形魔術の部類だな」

 

 ふむふむ。

 

「結界の手法には二通りある。一つは地形地物などのもとある内外の境界に手を加えるもの。もう一つは術者自身が魔力で土地に網を張り後から空間を区切りその内部に手を加えるものだ」

 

 いつの間にか授業になっていた。荒耶宗蓮の楽しい結界建築~。

 

 ゴッ。

 

「聞け」

 

「ぁぃ」

 

 拳骨を脳天に食らい涙目になる藤乃。

 

(そういえば荒耶さんの結界は魔法の域に達しているって原作で橙子さんが言ってましたね。通常は動かすことのできない結界を移動させることができるんでしたっけ。魔術師としては平凡で結界師としては一流。防御力だけなら型月作品でトップクラスの───)

 

 ゴッ。

 

「三度は言わん」

 

「ごめんなさい」

 

 痛いのは嫌なので考えるのを中断し話を聞く藤乃。

 

「おまえには後者の方法での結界術を覚えてもらう。旅先に都合のいい土地があるとは限らん。それに未だ魔術使いであるおまえの修業にもなろう」

 

「分かりました。よろしくお願いしますっ」

 

 と息巻いたものの。半日後。

 

 

「……おまえにも不得手があるのだな」

 

「むむむ」

 

 土地に網を張るという行為が難航している。先程から魔力が途切れたり編みがほどけたりしている。結界は一度も作れていない。

 

「気難しく考えるな。いつもの奇抜な発想はどうした」

 

「と言われましても、なかなか思い浮かばなくて……」

 

「───ふむ」

 

 腕を組んで案ずる荒耶。

 

(うーん。何かありましたっけ。空間を区切る……内部に手を加える……空間を広げる……内部を押しのける……空間を引き伸ばす……内部を閉じこめる……!)

 

「ちょっと試してみます」

 

「ほう?」

 

「ふぅ───」

 

 左手を手刀の形に作り意識を集中させる。

 

 

「ディバイディング、ドライバァアアアアアアア!」

 

 

 地面に手刀を突き立て魔力を流し込む。

 

(空間をねじ曲げて周辺の地域を収縮させる。そして広範囲の領域を作り出す必殺技───じゃないけど。きちんとした理屈はよく分かりませんが、後は勇気で補えばいい!)

 

 藤乃を基点をとして空間が押し広げられある程度まで広がると空間が固定されて円型に湾曲する。地面が割かれ結界が形成された。

 

 二人はそれを下り結界内に侵入する。

 

「よかった。イメージ通りにできました」

 

(よくよく考えれば失敗したらかなりやばいものでしたね)

 

 内心穏やかではなく冷や汗をかく藤乃。

 

「……………………………………………………」

 

「? どうかしましたか」

 

「……む。いや、もう日が遅いここまでだ」

 

「えっ。分かりました」

 

 空を見上げるとオレンジ色ですでに夕暮れだった。二人が結界を脱出すると結界は消滅した。

 

「明日も結界術の練習を───ちょっと、荒耶さんっ」

 

 藤乃を置いて歩きだす荒耶。

 

 

(あの結界は、空間の密度を変化させ狭い空間を引き伸ばし、広い空間を小さく収縮している)

 

 荒耶は先ほどの藤乃の結界について考えていた。

 

(空間同士を一定方向へ引き離す、言い換えれば相互作用を一定の方向に働かなくしてしまう作用が見て取れる。その一方で相互作用の範囲を一定方向に拡大し物体間の結合する力は強まり、拘束力を発揮している)

 

 あんなものは荒耶でも作れない。

 

(はたして歪曲の力であのような芸当ができるか。いやできまい。あれはもっと別の───根源の渦の力だ)

 

 根源に至るために荒耶は立ち止まらない。

   

 たとえそれが邪道であっても。

   




   
   
お読み頂き有難う御座います。
   
  
    
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