【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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五捻り

   

 

   ___西ア■ア_中□___

 

   ___イ■ン・イ■ラム□和国_□部___

 

   ___マーザ□ダ■ーン州_山■□域___

 

   ___□ルボ■ズ山脈_ダ□ー■ァンド山___

 

 

【そう。こんな話を聞いたことはないだろうか?】

 

【昔々、暗黒と絶望を以て王国を支配したという悪い王様が勇者に倒された後も生きながらにして幽閉されているという話】

 

()()()()()()んだよ。その王様は】

 

【鎖で繋がれて身動きもできずに今だって生きている。いつか封印が解かれて自由になるのをずうっと待っているのさ】

 

【恐ろしい話だろう。うん? そうだな。だいたい千年前のことさ】

 

【千年間。気が狂うほどの長い年月を老いさらばえながらも死ねないんだ。とてもじゃないが正気ではいられない】

 

【ま、そもそもその王様は正気とは言えないのだけどね】

 

【悪霊に取り憑かれているから真っ当な生き方はできなかっただろうし。その時点で人間として()()()()()()んだ】

 

【ふむ。王様が自由になったら何をするかだって?】

 

【そんなの決まっているだろう。それはね】

 

【                    だよ】

 

 

          ☆   

 

 

「なんと」

 

 ……最後の言葉が聞き取れなかった。そんなところで目が覚めた。なんだかもやもやする。

 

 藤乃は仰向けの状態で寝そべっていた。草がチクチクと当たってくすぐったい。おもむろに上体を起こす。

 

(奇妙な夢を見ていたような……。見知らぬ誰かと一緒にいたような……)

 

 むむむ、と唸るが思い出せない。小骨が喉に刺さったときのような微妙な不快感が残っている。

 

(あれは何だったんだろう。夢にしてはどことなく明瞭で、それでもって朧気な声。そんな不思議な)

 

「……うう」

 

 うめき声に気づいて横を向いた。美沙夜も傍にいたのかうつ伏せの状態から立ち上がろうと四つん這いになっていた。完全に意識がはっきりしていないのか頭をぶんぶんと振るっている。舞い上がる茄子紺色の長髪が歌舞伎の連獅子のようだと思った。

 

 ……気だるそうな美沙夜さんもいいですね。眼福です。

 

「おはようございます。美沙夜さん」

 

「あさ、かみさん?」

 

「はい。わたしはここにいます」

 

「ここは……? 確か地面が輝いて……」

 

 ……そうでした。プロイキッシャーの爆発に巻き込まれて目の前が真っ白になって気がついたら……。

 

 先ほどは気にも留めなかったがそういえばここはどこだろう。首だけを動かして景色を見る。辺りは一面の草原だ。最後に覚えている校庭ではない。もしや礼園ですらないのでは、と不安が過る。

 

 ……うふふ。そんなまさか。

 

 上体を捻って後ろの景色も見る。山があった。

 

「……………………………………………………」

 

 詳しくいえば山脈があった。視界の右端から左端まで山々が連なっていた。幼少期によく遊んでいた赤石山脈よりも高い。礼園どころか都内ですらないではないか。

 

 どことなく空気も普段と違う気がする。足下に生えている植物だってよく見ると全然知らない種類だ。これはいよいよもって確信めいてきたものがある。

 

 

 ここは()()()()()()可能性が高い。

 

 

「美沙夜さん。落ち着いて聞いてください」

 

「え、ええ。一体何が起こったの?」

 

「どうやらわたしたちは外国にいるかもしれません」

 

「───は?」

 

「わたしにも何が何やら分かりませんが、あの竜脈の爆発に巻き込まれて空間移動してしまったようです」

 

「えっ。ちょ、ちょっと待ちなさい。外国? 本当に?」

 

「はい。周りの景色からして礼園ではないことは確かです」

 

「空間移動って……。魔術って何でもありなのね」

 

「といっても事故のようなものですが。でも幸運(ラッキー)でした。あんな爆発へたをしたら木っ端微塵でしたから」

 

「そ、そうね。ええ。生きているだけ儲けものよね」

 

 自分に言い聞かせるようにして何度も反芻する美沙夜。本当に幸運で助かった。問題はどうやって日本へ、礼園へ戻るかということだ。連絡手段のない現状。頼みの綱である玄霧先生に助けを求めることができない。とりあえず人を探さなければ。

 

 幸いなことに時刻は日中。明るいうちに人里を見つけて電話を借りよう。そうと決まれば行動あるのみ。藤乃は美沙夜と共に山脈の麓を目指した。なぜどうしてという疑問は尽きなかったがこのままじっとしているのは非生産的で勿体無いから。

 

 楽観的過ぎるのもどうかと思うが悲観的過ぎよりは随分マシだ。兎に角できることはやらなければ。足下が悪い道中で美沙夜に手を貸しながら目的地に近づいていく藤乃。しかし、ことはそんなに上手く運ぶ訳もなく不吉な影が二人に忍びつつあった。

 

 

「それにしても、ここはどこなのかしらね」

 

「東京ではありませんね。あんな山脈なんて近くにありませんし。南アルプスでもないですよ。何度か遊んだことがあるので間違いありません」

 

「南アルプスで遊んだって、浅神さんって山育ちだったの?」

 

「はい。YAMA育ちです」

 

「……いま音調変じゃなかったかしら」

 

「変じゃありません」

 

 ならいいですけど、と美沙夜は呆れたように言った。かれこれ一時間近くは歩いているが一向に麓に辿り着かない。疲れも溜まってきているだろう。ここらで一度休憩しよう。

 

 木陰がないので手頃な岩場に腰を下ろす。美沙夜は靴を脱いで足を揉みほぐしている。やはり学校指定のローファーは不整地を歩くのには適しておらず足に負担がかかるようだ。普段から鍛えている藤乃は草履だろうが裸足だろうが難無く踏破できるのだがそれを一般人に要求するのは酷だろう。

 

 かといって美沙夜を背負おうものなら彼女の矜持を傷つけてしまう。何度か休憩を挟みながら向かうのが吉だ。天候もやや曇っているが晴れていて雨が降る心配はないだろう。このままのペースで歩いていけば夕方には到着するはずだ。

 

 ……野生の熊なんかも現れませんし、ハイキングだと思えば気が楽ですね。ああ、あの頃が懐かしいなあ。

 

「魔術、と言いましたか。あれって私にも扱うことって可能なのかしら?」

 

 ────────────────────。

 

 そういえば、と思い出したかのように言う美沙夜。それに対して藤乃はどきりとした。この時が来てしまった。いつか聞かれるであろうその質問に全身が硬直する。

 

 イエスかノーかで答えるならばイエスだ。『忘却録音』では透明な使い魔───偽装妖精を操る司令塔として鮮花と対決した。錬金術もかじっているため高速・並列思考を可能としている。

 

 けれど藤乃は美沙夜が魔術を使うことに否定的だった。魔道は非人道的。人の道から反れることになる。巻き込んでしまったのは申し訳ないと思うがだからといって魔術を教えることは嫌だった。

 

 美沙夜は藤乃の友だちだ。友だちを危険な目に遭わせることは気が引ける。心苦しい。どうにかして美沙夜に魔術を諦めてもらわなければ、と頭をしぼる。

 

「……可能ではありますが、わたしでは美沙夜さんに教えることはできません。わたしの魔術はなんというか特殊なので」

 

「そうですか。私も魔術が使えれば浅神さんの負担を少なくすることができると思ったのですが」

 

「その気遣いだけでもありがたいです。ですが魔術は生半可な覚悟で触れていいものではありません。美沙夜さんには人でなしになってもらいたくありませんので」

 

「人でなし、ね。誰のことを言っているかは分かりませんが少なくとも浅神さんは人でなしでなくてよ。どちらかといえばお人好し、じゃないかしら?」

 

「───ふふ。お上手ですね。座布団一枚です」

 

「こら茶化さない! でも本当に座布団が欲しいわね」

 

 お尻が痛いわ、と嘆く美沙夜。それもそのはず。岩場に腰を下ろしているため表面がごつごつしていて座り心地が壊滅的だ。せめて柔らかな草原であればいいのだが草原はもう抜けてしまった。辺りは砂利と岩石だらけだ。

 

 全くもって見当がつかない。景色も代わり映えのない。現在地がどこであるのか分からない。お手上げだ。何でもいいから情報がほしいな、と思った。

 

 ズズン。

 

 一瞬だったが大きな地響きを感じた。地震? それともあの山脈が火山で噴火活動を行ったのか? 立ち上がって周囲を見渡す藤乃と美沙夜。鳥たちが一斉に飛び立っていった。やはり地震なのか、と美沙夜に声をかけようとした───その瞬間。

 

「Giagiagiagiagiagiagiagiagiagia!」

 

 地面から【何か】が美沙夜に飛び掛かろうとした。

 

「美沙夜さんっ!」

 

「っ!」

 

 辛うじて避けることができたがそのまま転んでしまった美沙夜。それに追い打ちをかけるように再び襲いかかる何か。

 

「剛腕! 粉・砕・撃!」

 

 させるものか! 【何か】と美沙夜の間に割って入り回転軸を腕に纏ってラリアットをお見舞いする。高速回転する軸がミキサーのように相手の体を抉って削った。飛び散る肉片と撒き散る体液が藤乃の全身に降りかかる。

 

「Giaaa……」

 

 完全に頭部を粉砕された【何か】は力尽きて動かなくなった。死んだふりをしている可能性は───なさそうだ。地面に広がる体液と痙攣している体を見て亡骸だと判断した。

 

 【何か】をまじまじと観察する。艶のある黒色の鱗、地面から伸びている太く長い体躯。これは大蛇、なのか?

 

 世界最大の蛇はアミメニシキヘビとオオアナコンダが有名だ。だがそれでも九メートルくらいのものでこの大蛇は地表に十五メートルは出ているのにも拘わらず地中に埋まったままだ。全長は二十メートルあるのではないか。恐るべき巨体に唾を呑み込む。

 

 ……まるでB級映画のモンスターみたい。だとしたらこの一体だけだとは限らない。まだたくさんいるはず。

 

「美沙夜さん。休憩はここまでみたいです。早々に麓まで向かいましょう」

 

「ええ。この大蛇に仲間意識があるとは思いませんが先の戦闘で私たちの存在はばれてしまったでしょう。はあ。パニック映画の主人公なんてお断りなのですが」

 

「主人公なら生き残るので大丈夫です。それにジャバウォックと比べたらとても弱いので安心してください」

 

「その比較対象はどうかと思いますが。それに浅神さん基準よね、それ」

 

 反則じみた童話の怪物と比べることが烏滸がましい。しかしジャバウォックより弱いと知って少し安心する美沙夜。あの絶望を乗り越えた彼女だ。会話に挟んだ軽口が精神的余裕があることを物語っていた。

 

 ハンカチを取り出して返り血ですごいことになっている藤乃の顔を拭う美沙夜。白かったハンカチは汚れと血肉とでどす黒く変色してしまうがお構い無しで藤乃の身だしなみを整えていく。それは戦闘を藤乃に任せきりにしてしまう後ろめたさなのか謝意の気持ちなのかこの時はまだ分からなかった。

 

「これでよし、と。行きましょうか」

 

「はい。礼園に帰ったらお茶会が待ってますから」

 

「ですからそれは不吉です! この戦争が終わったら云々とか物音がしたから云々は絶対にノゥ! 口は災いの元でしてよ! 浅神さん!」

 

「わ、わかりました」

 

 映画の観すぎではないかとそこはかとなく心配になる。娯楽作品に幅広く手を出しているのではないだろうか。流石黄路の娘。そのまま魔術にまで手を出さなければいいのだが。

 

 ……玄霧先生と橙子さんに相談しよう。

 

 たぶん。というか間違いなく美沙夜は魔道を学ぶことになるだろう。妖精遣いとして。

 

 歩きながらそう遠くない未来について思いを馳せる。

 

 願わくば彼女に夢あふれる未来が訪れますように。

 

 

               ☆   

 

 

「目が一つ潰れたか。まあいい。向こうから来るのなら好都合だ。()の様子はどうだ?」

 

「相も変わらずだ。噴火の兆しすら見せない。こりゃあまだまだかかるんじゃあないか」

 

「いや、あと少しだ。あと少しで(オレ)は───」

 

「おいおい。まだ我慢してくれよ。ここで暴れられたら宮殿(しろ)が崩れちまうだろ」

 

「嗚呼、解っている。だが煩わしい。己の頭に巣食う()使()の声が煩わしくて堪らない」

 

「はあ。お前さんも難儀だねえ。しょうがない───俺が一肌脱いでやるよ」

 

「嗚於、往ってくれるか()()()()

 

「丁度退屈していたところだしな。さっさと()()()()して始めちまった方がいいだろう。んじゃ、往ってくるぜ総大将(ますたあ)

 

 

               ☆  

 

 

【いよいよ動きだす野望の影。一難去ってまた一難とはよく聞くがなった身にとっては堪ったものじゃないだろう】

 

【さあ藤乃。君はこの難関をどう乗り越える? 幸いなことに今回は()()()がいる。君がどんな物語で魅せてくれるのか(たの)しみにしているよ】

 

【君の宝石のような輝きは層一層に増すことだろう。その神の座足り得る輝きを   は……】

   




   
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