【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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十余り一捻り

   

            ☆   

 

「真龍拳!」

 

「グワ────────────────────!?」

 

「スパイラルアロー!」

 

「グワ────────────────────!?」

 

「サイコクラッシャー!」

 

「グワ────────────────────!?」

 

「ライジングタックル!」

 

「もう……」

 

「空破弾!」

 

「やめ……」

 

 ───死んでしまいます。

 

 精神世界にてひたすら特訓を繰り広げる藤乃とラトナ。遠距離技を編み出すためのはずが気がつくと模擬戦(リンチ)になっていた。殴る蹴るの暴行を加えられずたぼろの毛玉もといラトナ。

 

(……死ぬ気でかかってこいとは言いましたが殺す気でかかってくるとは思わなんだです。ぐふ)

 

 ラトナは荒耶との戦いに使った獣人形態で相手を務めていたのだがそれが仇になりありとあらゆる格闘技の練習台にされてしまったのだ。憐れみ。

 

 幾度となくKOされて精神体とはいえガタガタのラトナ。美沙夜はそんなことも露知らず虚空に向かって技の練習をしている。

 

 ───というか。

 

 

(遠距離攻撃とは)

 

 

 そう。先ほどから近距離技しか受けていない。自慢の鉄球も魔眼も使っていないのだ。もしかして、もしかしてだが。

 

「藤乃さん。怒ってます?」

 

「……………………………………………………」

 

「えっ。本当に?」

 

「……………………………………………………」

 

「、あの、、えっと、、その、」

 

 申し訳ありませんでした。凍てつくような冷めた目をしている藤乃の眼下できれいな土下座を決める誇り高き森の人(笑)

 

 無言の圧力は強い。がくがくと震えてごめん寝状態のラトナを見下ろして満足した藤乃は深いため息を吐くとしゃがんでラトナの頭を撫でた。

 

「もういいですよ。丁度いいウォーミングアップになりましたし許します。……ただし二度目はないですよ?」

 

 こくりと頷くラトナに微笑みかける。その表情は笑顔だったのにも関わらず恐怖心が芽生えた。肩慣らしであれならば激昂していたらどれほどの仕打ちを受けたのだろう。ラトナは頭をぶんぶんと振るい考えるのを止めた。

 

 並大抵の魔術や神秘ではびくともしないラトナだが藤乃は()()()()()()()()()()()()ため防御を突破して攻撃が通るのだ。前回の荒耶のように徒手空拳という原始的な手段だということもあるがそれでも異常。

 

 世界の法則に囚われていない。

 

(起源覚醒をしているわけでもなし、かと云って根源に到っているわけでもない。藤乃さんの力はいったい───)

 

「別に遠距離攻撃がないわけではないんです」

 

「えっ」

 

 物思いに耽っていると藤乃から衝撃の告白が。いままで飛び道具といえば鉄球くらいのものだったがその他にも攻撃手段を持っていたことを明らかにした。

 

「威力が威力なので封印していましたがサーヴァント相手にそんなことは言っていられませんよね」

 

 こうなった以上は使わざるを得ません、と藤乃は右手を頭上に掲げ掌を天に突き上げると───

 

 ……………………………………………………。

 

 

「いや、()()()()()()()()()()ですよ」

 

 

 その技を見たラトナは呆れ顔でつっこんだ。

 

 

            ☆   

 

 

 村を出発しダマーヴァンドへと向かう()()。嫌でも分かるほどおどろおどろしい気配。身の毛が総立つ気味の悪さだ。本来であれば長く険しい道のりなのだが魔力が回復したマルタの宝具のおかげで疲労することはない。

 

「頼んだわよ、タラスク」

 

「─────────!」

 

 マルタがドラゴンライダーである所以(ゆえん)。ネルルクの街で暴虐を尽くしていた悪竜タラスク。彼女の拳での説伏によりその死後もマルタの守護霊となることで彼女が死ぬ時まで見守り続けた義理堅い舎弟(あいぼう)である。

 

 見かけによらず俊敏で景色を置き去りにして目的地へと駆けている。マルタ曰く乗り心地を度外視したのなら回転しながら空中を飛行できるようだ。それなんてガメ───

 

 ……このまま順調にことが進むわけもなく。

 

 

「giagiagiagiagiagiagiagiagiagia!」

 

「giiiiiaaaaagiiiiiaaaaa!」

 

「ggiaaggiaaggiaaggiaa!」

 

「giagiagiaaagiagiagiaaa!」

 

「giaagggiaagggiaaggggiaa!」

 

 

 前回の比ではないほどの大蛇の群れが黒い津波となって押し寄せてきた! 山から下り落ちてくる様は津波というよりは雪崩でしょうか、なんて悠長なことを言っている藤乃だがこの状況は不味い。全速力のタラスクを急停止させるわけにはいかないし範囲的に左右どちらかに逃げることもできない。

 

 ならば、と。

 

 藤乃は先頭に出てタラスクの首の付け根辺りで仁王立ちする。他の二人は前以てこれから何を行うのか聞いているため姿勢を低くしてタラスクの甲羅にしがみついている。徐に右手を上げて構える。その両の目の魔眼は開眼しており準備は十全。

 

 それは円盤。あるいは丸ノコか。藤乃の手の平に展開されたそれは暴風と凄まじい風切り音を発生させていた。ヘリコプターのプロペラを連想させる見た目だがそれよりも凶悪で強烈だ。

 

 ───とある忍者が開発した高速で乱回転するエネルギーの塊を変化させた微少な風の刃の集合体。幼少期の時に見様見真似で実践したことがある。その時は回転軸を手の平で固定させて殴り付けるという力業だったが。

 

 今回は違う。魔力を回転軸に上乗せしてそれを紙のように薄く針のように細く形成。前世の頃、公園でごっこ遊びをしていた時のように技術を鮮明にイメージする。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その名も。

 

 

「───螺旋手裏剣!」

 

 

 投擲されたそれは行く手を阻む(ことごと)くを切り刻む。憐れ大蛇の群れは草刈機に巻き込まれた雑草のように呆気なく散ることになった。立ち止まることなくその光景を特等席で見ていたタラスクはこの人が味方でよかったと安堵したとかしないとか。

 

 

            ☆            

 

 

「……随分と派手にやりましたわね」

 

 山の方から聞こえる(つんざ)くような轟音。十中八九、藤乃が何かしたのだろうという確信がある美沙夜はため息を吐きながらも歩みを止めなかった。その後ろには重華も控えている。

 

 美沙夜と重華は大きく迂回して側面からの潜入を試みていた。そのためには向こうが無視できないほどの騒ぎを起こさなくてはならないため藤乃が引き受けたのだ。病み上がりの藤乃に頼りたくはなかったが適任者はひとりだけだった。

 

 メーガナーダは早急に敵陣の霊脈を乗っ取りに行かねばならないため力を温存しなくてはならない。マルタは宝具を使用しているし尚且つマスター不在のため該当しない。藤太はというと町に残ってもらい生存者を守ってもらっている。

 

 本来ならば美沙夜たちと共に奇襲を仕掛ける人員だったがそうした場合、大蛇を対処できる存在がいなくなってしまうからだ。メーガナーダは戦力を削ることに反対していたが折角助けた命が奪われることは避けたかったため渋々了承した。藤太も残留することに賛成して何かあれば町から矢を放つと言っていた。

 

「では私たちも手筈通りいきましょう」

 

「ええ。お願いします」

 

 

 藤乃たちに注目が集まっている今が好機。美沙夜は重華に抱えられダマーヴァンドへと駆ける。木々をかき分け岩を蹴り前へ。サーヴァントの身体能力を以てすれば山を登ることなど造作もない。幸いなことに大蛇に出会(でくわ)すことなく中腹へとたどり着いた。中腹は霧が立ち込めており頂上どころか麓さえ見えない。重華に降ろしてもらった美沙夜はすぐにメーガナーダへ連絡する。

 

「こちら美沙夜。異状なく中腹に到着しました」

 

『了解した。私は別行動を取って霊脈を探す。マスターとマルタは予定通り正面突破してもらい目立ってもらう。お前たちも挟撃ができるように準備をしておけ』

 

「分かりました。お気をつけて」

 

『ああ。お前たちもな……死ぬなよ』

 

 メーガナーダはそう言うと念話を切った。敵の戦力としてバーサーカーともう二体サーヴァントがいるはず。どちらに出現するかは分からないが覚悟を決めなければ命はないだろう。

 

 遠くから二度三度と爆音が響く。藤乃だ。病み上がりのはずなのだが元気が有り余っているのだろうか。少々目立ちすぎのような気がしますが、と美沙夜は呆れた。

 

 一歩踏み出そうとするが───それを重華が遮った。

 

「……マスターは私のことをどう思いますか」

 

 ────────────────────。

 

 何を藪から棒に、とは言えなかった。重華の言葉には真剣さが表れていたためお茶を濁すことはできない。察するに前回の会話の続き、重華の生い立ちに関することだろうか。何と声をかければいいか迷っていると重華は思いもよらない言葉を吐き出した。

 

 

「私は───()()()()()()()()()()んです」

 

 

「えっ」

 

 実在する英雄ではない?

 

 神話や伝説、伝承、物語の人物が実在することすら知らなかった美沙夜にとっては言っていることがよく分からなかった。では目の前にいる重華は何だというのか。実在する人物(ノンフィクション)架空の人物(フィクション)の区別が分からない。

 

「実はバーサーカーとの戦いで少しだけ思い出したんです。自分は誰なのか、自分が何者なのか」

 

「っ記憶が……」

 

「私の真名は(しゅん)聖君(せいくん)舜。」

 

「舜って古代中国の、あの舜?!」

 

 重華は静かに頷いた。

 

 ───舜。三皇五帝の一人。伝説上初めて中国全土を統一した漢民族の祖であるともされる最初の帝王である黄帝(こうてい)の治世を引き継ぐ形で治世を行った五番目の帝王。

 

 重華というのは(めい)なのだろう。どことなく聞き覚えがある。しかし失礼ながら重華の姿は孝を尽くして和をはかったという君主には見えない。若すぎるのだ。サーヴァントとは全盛期で呼ばれるものだと聞いているが出鱈目な召喚をしたせいだろうか。

 

「無理な召喚のせいでということもあるのでしょうがとりあえずそれは置いておきます。私は舜ではありますが舜ではないのです」

 

「それはどういう……」

 

「矛盾、という言葉はご存知でしょう。その語源ともなった儒家批判の話も」

 

「……………………………………………………」

 

 ……ああ。なるほど。そういうことなの。

 

 儒家批判。それは最高の理想の王、(ぎょう)と舜が名君で民を良く治めていたとすれば、舜が悪きを改め、良い立派な行いをして人々を助けるということはそもそも起こりえない。一方が立派な人物だとすれば他方はそうではなくなってしまう。したがって、両方の者が同じく最高の人物で、理想的な政治を行ったというのは話が合わず、あり得ないという意味を込めた喩え話。

 

 漢文が大発展し論文も増えた春秋戦国時代。尭と舜は古代中国では既に有名であり、それゆえ論者の権威付けに散々引用され、結果としてさまざまな異説、解釈が生まれることになったという。

 

 つまり重華という英霊は。

 

「イフの、存在」

 

「───はい。そうあれかしと人々に望まれ、願われた空想上の聖君。それが私、重華という英霊の正体です」

 

 諸説あるが実態は聖人君子などではなかったのだろう。だからこそ不正役人や凶暴な支配者に常に支配されてきた当時の民の「聖人君子であってほしい」という想いの表れなのか。

 

“自分の身に余るとてつもない力をある日突然手に入れたらどうしますか?”

 

 ここに藤乃がいれば理解するだろう。重華という英霊の異質さに。彼の在り方は従来の召喚式ではありえない。人理が確定しているこの世界にあやふやな存在が紛れ込めるはずがないのだ。

 

 聖人君子の支配者という人々の思いの反映。あらゆる異説・解釈を内包した“イフの人類史の英霊”。聖杯戦争のどのクラスにも該当しない。別にクラスを与えるとするならばこうだろう。

 

 アルターエゴ。

 

「……重華のことをどう思うか、という質問だったわね?」

 

「はい」

 

「そうね───チグハグ、かしら」

 

「……………………………………………………」

 

「知りもしない使ったこともない熟練の技術を与えられて戸惑っている年相応の少年。それが私が重華に抱く印象です」

 

「……流石です、マスター」

 

 重華は嬉しそうな悲しそうな笑みを浮かべると自嘲気味に話を続けた。

 

「私には私の知らない記憶があります。民草と共に農耕に励んだことも、漁師のいさかいを収めたことも、陶工たちと土器を作ったことも全部全部全部! 私は知らない! けれど()()()()()。この霊基(からだ)は私の知らない私のことを()()()()()んです。それがとてつもなく気持ち悪い……自分が、重華という存在が気持ち悪い……!」

 

 ────────────────────。

 

 これが重華の抱えていた悩み。

 

 美沙夜が知りもしなかった闇。

 

 彼の在り方は英霊というよりは幻霊。聖君舜という可能性を寄せ集めた存在。自我から別たれた別人格(アルターエゴ)。偽物ではないが本物でもない。なんてあやふやで曖昧なのだ。

 

「バーサーカーの言うとおり。私は一度だって戦ったことがありませんでした。しかし人々が(こいねが)う舜は剣にも優れていたのでしょう。戦闘になれば自分がどう動けばいいのか理解(わか)ります。剣だって生前握ったこともないはずなのに」

 

 おかしいですよね、と重華は嗤った。

 

 ───聖君であれと望まれた舜。

 

 ───優等生であれと望まれた美沙夜。

 

 二人の共通点はその程度。過去を生きた人間に現代を生きる人間が助言できることなどそうない。

 

「私たちが邪王を倒すのは無辜(むこ)の民を守るため。でも私にはそれ以外にも理由があるんですよ」

 

「……………………………………………………」

 

 

「それは早く聖杯戦争を終わらせて消滅することです」

 

 

「!」

 

「英霊は聖杯戦争が終われば強制的に座へ返還されますが私は違います。本来座に到らなかった足りない英霊。この聖杯戦争が終われば聖君舜という可能性を剥奪されてただの重華に戻ることができる。───ああ、誤解しないでいただきたいのは別に死にたがりではありません。マスターのことは必ずお守りしますし負ける気なんてありません。ただ───」

 

 自分だけ目的が異なることが後ろめたくて、と重華は罪を告白するような絞り出したような声で言った。未熟なマスターと未熟なサーヴァント。なんとお似合いの組み合わせだろうか。美沙夜はくすりと笑うと重華を抱きしめた。

 

「マ、マスター?」

 

「ずっとひとりで悩んでいたのね。気づいてあげられなくてごめんなさい」

 

「……いえ、私の方こそすいません。こんな状況でお話ししてしまって。戦争が終わるまで黙っていようとも思ったのですが堪え性がなくて」

 

「いいのよ。それに重華の本音が聞けて嬉しかったわ。どことなく距離があると感じていましたから」

 

「すいません。あの……いつまでこの状態を?」

 

「私の気の済むまで、と言ったら?」

 

 ご冗談を、と重華が言って美沙夜と目が合い二人は笑った。先ほどまでの暗い雰囲気は霧散して重華の表情に明るさが戻る。美沙夜はするとゆっくりと離れて再び重華の目を見つめる。

 

「重華は知識にしろ技術にしろ手に余っているのよね?」

 

「え? ……ええまあ」

 

「ならば使いこなせるよう努力するしかないわね」

 

「ど、努力って今更じゃないですか」

 

「そんなことはありません。熟練の技術であろうと精神は未熟なまま。であるならば満足に扱えるよう努力することは至極当然のことではないかしら」

 

「しかし、」

 

「確かに時間もありませんし無理を言っている自覚もあります。ですが対抗する手段方法があるのにも関わらず使用しないというのは宝の持ち腐れでしかありません。己が何処までできて何処までできないという限界を知る必要があるのです。重華もそのことはご存知なのでしょう? ───()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

「────────────────────」

 

 図星だとばかりに顔をしかめる重華。重華からしてみれば聖君舜の技術なんて知りたくもなければ使いたくもない()()()()()()()だ。己が辿るはずのない将来未来の記憶。そんなものには蓋をしてしまいたかった。無かったことにしていたかった。

 

 だが美沙夜はそれを許さない。力があるのに使わないという愚行を許せるはずもない。力なき者として。マスターとして。

 

「マスターは私のことを恨んでいますか」

 

「恨む? まさか。戦ってくれた貴方は全力でこそなかったかもしれませんが本気ではあった。そんな貴方を恨むわけないでしょう。でもそうね……一つだけ恨むとするならば与えられた力をもてあそぶその卑屈さかしらね」

 

「……………………………………………………」

 

「前にも話したけれど他人から与えられた力に満足するのは間違いだとそして言ったはずです自学研鑽あるのみと。望まずして与えられた力をもて余しているのなら努力なさい。言ったでしょう───自分を変えることができるのは自分だけだと」

 

 辛辣な言葉それでいて穏和な声色で美沙夜は言い切った。助言ができなくとも道を示すことはできる。重華が重華として本当に前へ進めるよう持ち前の高潔さで導く美沙夜。

 

 重華は顔を伏せており表情が見えない。

 

 きつく言い過ぎたかしら、と心配になった美沙夜は重華の名前を呼ぼうと口を開く───その時。

 

 

「おいおいおいおい。いつまで待たせるつもりだ? なかなか来ねえもんだから俺自ら会いに来てやったぞ」

 

 

 ────────────────────!

 

 霧の奥から現れたのは紅蓮の鎧武者、バーサーカー。

 

 どうやら長居をし過ぎたようだ。重華は美沙夜を背後に隠すと双剣を構えてバーサーカーに突きつける。それを見てバーサーカーも不敵に笑って槍を構えると両者は睨み合った。どちらも一歩も動かず隙を窺っている。

 

 山風が吹き霧が濃くなる。重華の視界からバーサーカーが消え去り、勿論バーサーカーの視界からも重華は消え去った。そして再び霧が薄くなりお互いの姿が見えた瞬間。

 

 ───両者は激突した。

 

 バーサーカーは槍を横薙ぎに振るい重華の首を狙うが重華は膝を屈ませて回避しそのまま地面を蹴って懐に入り込んだ。鎧を着込んでいるバーサーカーの弱点は剥き出しの顔面か関節部の僅かな隙間のみ。顔面に突き刺そうと剣を繰り出すがバーサーカーは腰の刀を抜いてそれを防いだ。

 

 防がれたことで勢いが死んでしまう。バーサーカーは動きを止めた重華を前蹴りで吹き飛ばす。重華はわざと自分から後方に飛び退きかつ剣で受け止めたため怪我は軽微だった。それでもあまりの衝撃で口内を噛んでしまい出血してしまったが。

 

 宙に浮いていて着地をしていない重華を見過ごすわけもなくバーサーカーは大上段から槍を振り下ろす。その威力に勢い余って山肌が削れた。砂煙が巻き上がり重華は転がりながらも受け身を取って立ち上がった。矛先を双剣で逸らして直撃を避けたのだ。しかし槍の衝撃は殺せず体を打ち付けることになった。

 

 重華とバーサーカーの距離は再び離れた。重華は少なからずダメージを負ったがバーサーカーは全くの無傷だ。安全圏まで逃げた重華は止めていた呼吸を再開させ反撃に備える。膂力の差もそうだが場数の差が歴然だ。

 

「ほほう。少しはやるようになったか……。だが惜しい。実に惜しいな。体格がなっちゃいないその霊基じゃあ俺に傷を負わせることも叶わんぞ」

 

「、それは、、どうかな」

 

「あん?」

 

 がしゃん。バーサーカーの足元に何かが落ちた。

 

 それは刀を納めていた鞘だった。重華は攻撃の僅か一瞬の隙を突いて腰に吊るしていた太刀緒(たちお)を切ったのだ。バーサーカーは重華の剣が己に届いていたことに驚きを隠せずにいた。鞘が落ちるまで切られたことに気づかなかったからだ。

 

「小僧……」

 

「少しはやるようになっただろう?」

 

 バーサーカーはにやりと獰猛な笑みを浮かべると落ちた鞘を踏み砕いて走り出した。重華はバーサーカーの一挙手一投足まで観察し見極めることに徹した。右手の槍か左手の刀かはたまた蹴りか頭突きか。

 

 上からの袈裟斬りを払い正面からの突きを避けて先ずは刀を封じようと刀身の背面根元の部分、通称(むね)と呼ばれる場所に体の捻りを使った一太刀を叩きつける。日本刀は構造上そこが一番脆く折れやすい部分だからだ。

 

 がきん。直撃を食らったバーサーカーの刀だが折れるどころか(ひび)すらも入っておらず重華はバーサーカーの腿を足場に距離を取った。流石は最強のクラス。思い切り蹴ったはずなのに体勢を崩しもしない。思わず舌打ちをする重華。

 

「どうやらおまえさんのことを侮っていたようだ。前回はてんで戦い方がなっていなかったが今のおまえさんは()()()()()()()()ような研ぎ澄まされた感覚をしやがる。一体何があったんだ?」

 

 バーサーカーは興味深そうに訊ねた。重華はそれに対してふふと笑うと見守っている美沙夜の方を見やりこう言い放った。

 

 

「なあに───努力しただけですよ」

 

 

 憑き物が落ちたような清々しい笑顔だった。

   




 
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