【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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二捻り

   

 十一時四十分。予定時間よりも早く帰宅できたため、藤乃は採れた木の実でジャムを作っていた。

   

 摘んだ実を綺麗に洗い流して水気をしっかりととり鍋に入れ、それに砂糖をまぶしてしばらく待つ。果汁が染み出てきたら火にかけ加熱し焦げつかないようにかき混ぜる。弱火で煮詰めナツミカンの果汁を加え、一旦火を止めて熱を冷ます。また加熱して柔らかくなるまで何度も繰り返す。

   

 ぱくり。味見をしてみる。うん。甘酸っぱくておいしい。

   

 熱湯消毒した空き瓶を火傷に気をつけて布巾で拭きジャムを詰め込む。容量ぎりぎりまで入れて素早く蓋を閉める。この動作により滅菌されて長期間日保ちする。

   

 ジャムの瓶を三つ作りおき、残りのジャムは平らげる。火の後始末をきちんとして使った鍋を洗う。もうそろそろ正午なのでこのまま昼食の支度をしてしまおう。

   

 お祖父さんは山菜を摘みに出ているし、お祖母さんも村に買い物に行っている。帰ってくる頃には出来上がっているだろう。

   

 氷室に締めて血抜きをした鮎があったはずだから塩焼きにして。それと村で買った空豆が残っているから空豆ごはんを作ろう。汁物は昨日のワラビとコゴミの山菜汁があるからいいだろう。

   

 お祖父さんとお祖母さんが喜んでくれるといいなあとにやにやを隠さずに鼻唄をうたいながら調理をはじめる。

   

   

 ───正午を過ぎても、夕方になっても二人が帰ってくることはなかった。

   

   

            ☆

   

   

(おかしい……。遅くなるにしてもさすがに遅すぎる)

 

 昼食は夕食に持ち越された。日もだいぶ沈んでしまっている。何かあったのだろうか。並べられた三人分の料理に蠅帳を被せて家を出る。

 

 ───嫌な予感がする。

 

 どうしても浮かんでしまう最悪な想像。動悸がする。もしお祖父さんとお祖母さんが……。

 

(っ!)

 

 頭を何度も振るう。脳がこれ以上余計なことを考えないように。だからか自然と足早になり果てには全力で駆け出していた。

 

 景色が目眩く変わっていく。通常村まで車でも一時間はかかる道を僅か十分で完走した。村の様子は特に変わった様子はない。歩きながら辺りを見回し二人を探す。そこで顔馴染みの八百屋のおばさんに出会った。

   

「あら? 藤乃ちゃん。どうしたの一人?」

 

「おばさんっ。おじいさんとおばあさんいますかっ」

 

「い、いいえ。でも、おばあちゃんならもう帰ったと思う、けど」

 

「っ!」

 

 ちょっとどうしたの待って、おばさんの静止を振り切って村を出る。

 

(何処だ? 何処にいるんだっ)

 

 山菜摘みの経路を探してみることにした。村とは反対方向でもう日も完全に沈んでしまったが、二人を見つけるまで帰る気なんてこれっぽっちもなかった。

 

(おじいさん! おばあさん!)

 

 

 ───そして見つけたのは、かつて人間だったものの残骸と無惨にも中身の散らばった買い物かごだった。

 

 

「────────────────────あ?」

 

 僕はそれを知っていた。なぜならこの切り裂かれている服は、自分が裁縫を教わってはじめて拵えた半纏で今日おばあさんが着ていたものだったのだから。

 

「あああ、ああぁ」

 

 チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!

 

「ぅあああ」

 

 ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ!

 

「───ああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 痛い。心が。痛い。

 

 なんでですか。どうしてですか。

 

 

            ☆

 

 

 その後、八百屋のおばさんが知らせてくれたらしく自警団が車で駆けつけてきた。団員たちは現場を発見すると顔をしかめ藤乃を抱えて車に乗せた。やってきた四人の内二人は現場に残り、村に戻った。

 

 熊が出たぞ。団員が村人に呼び掛けていた。藤乃はおばさんに抱きしめられているがその顔には感情はない。自警団は応援を引き連れ再び現場へと向かうらしい。お祖母さんの死体は見つけたがお祖父さんの死体は見つかっていないからだ。

 

「……今日はもうおばさんのお家で寝ましょう」

 

 藤乃はおばさんの家に連れていかれた。十歳の子どもにはとても重くて辛い現実。心が壊れかねない出来事。それが襲いかかってきたからだ。

 

 部屋に案内されおばさんと同じ布団に入る。脳の容量が限界にきたのか藤乃はすぐに眠りについた。

 

 

 ───次の日の朝。自警団が二人熊に食い殺されたという連絡が飛び込んできた。

   




 
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