【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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三捻り

   

   

 某村。黄昏。

 

 村は未曾有の危機に瀕していた。

   

 熊による獣害事件は今回がはじめての事例だった。農作物が荒らされたり家畜が食べられたりする被害は以前からあった。しかし人間が襲われる……あまつさえ殺害され補食されるということは村始まって以来の大事件だった。

   

 猟師は村に二名しかおらずその猟銃もライフル銃ではなく散弾銃だ。威力としては心許ない。猪や鹿とは訳が違い、分厚い毛皮に守られた熊に致命傷を与えられるかといえば難しいだろう。それに猟師二名はかなりの高齢で、正確に熊の急所に当てられるか、いや、的に当てられるかすら怪しいくらいだ。

   

 現時点で死者三名、行方不明者一名。

   

 村にいる男性は七十人と少なくその中でも若者は二十人も満たない。武器にしても鍬や鋤、鉈、斧といった農具がほとんどだった。これでは熊を討伐できるはずがない。

   

 すぐに電話で近隣の町に助けを求めた。警察にも通報した。だけどこんな辺鄙な村にいったいいつ来てくれるのだろう。事件が発生してからもう一日が経とうとしていた。

   

 村人たちはあの殺人熊の襲撃に怯えている。今度は誰が食べられてしまうのだろう。

 

 ───老人か。若者か。男か。女か。

 

 ───今日か。明日か。朝か。夜か。

 

 恐怖。絶望。二つの感情がこの村を支配していた。

 

 

 ──────────いや。

 

 

 ひとりだけ、違っていた。

 

 その心に渦巻いているのは恐怖や絶望などではなかった。その心を支配しているものは憎悪と殺意だ。

 

 

            ☆

 

 

 ユルサナイ。

 

 ユルサナイ。

 

 ユルサナイ。

 

 ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!

 

 藤乃は山道を歩いていた。おばさんに気づかれてしまわないようにこっそり部屋を抜け出して音をたてずに家を出る。

 

 その目には敵を討たんと怒りの炎が燃えていた。武器である鉄球を二つ握りしめて奴の気配を探る。

 

 いるのは分かっているんだ。

 

 出てこい。

 

 さあ。

   

 ──────────さあっ!

   

 ぞくり。視線を感じる。足を止めずに山道を歩く。木々という障害物のせいで狙いが定まらない。あの花畑まで出られれば確実に当てられる!

 

 がさがさがさ。向こうが走りだした。こっちも走りだし樹林を突破せんとする。出口が見えてきた!

 

『■■□■■■■■■□■■■■■■■■□■!』

 

 ────────────────────!

 

 全力でその場から飛び退く。轟! 木々がまとめて薙ぎ倒され土煙が立ちこめる。そのまま走り続けていたら体が上下泣き別れになっていたことだろう。

 

(なんて出鱈目……!)

 

 後退りをしつつ前方から視線を外さない。花畑の中央まで避難すると懐から鉄球を取り出して回転をはじめる。黄金の回転ではなくても心臓を麻痺させることなら出来るはずだ。きっと殺せる。

   

   

 ──────────それが、普通の熊だったらの話だが。

   

   

「うそ、でしょ……」

 

 煙が晴れると全貌が明らかになった。体長五メートルはあるだろうか。薙ぎ倒した木よりも大きなその姿。胸の三日月の斑紋からしてツキノワグマだろうが、それにしても威容だ。ツキノワグマは熊の中でも小柄な種類だ。だというのにこの熊は一回りも二回りも大きいではないか!

 

「……くまはくまでもKUMAってわけね、ハイハイ」

 

(やっぱりこの世界の生き物はどこかおかしいって。でもまあ───)

 

 いつでも鉄球を投げられるよう構えをとる。侮ることはできない。こいつはまともじゃない。油断したら死ぬ。

   

 

「こっちだってYAMAそだちなんだよ!」

 

   

 熊殺しがはじまる。

   




 
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