【凍結】麻賀禮(まがれ)   作:あらやだ

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五捻り

   

 熊の攻撃は巧みな技ではなく純粋な力。振り下ろされるその豪腕はあらゆるものを殺す死神の鎌。体格的な部分もあるがその攻撃のすべては藤乃よりも上から揮われた。

 

 対して藤乃は子どもでそれに女の子ということもあり、体格差が激しく立ち上がった熊と比べると足までの高さしかなかった。

 

 しかし、藤乃はそんな不利な条件をものともしない。

 

『■■■■□■■■■□■□■■■■■□■■!』

 

「ふっ!」

 

 十七撃。残った右腕だけで一撃で死に至る熊の豪腕を捌く。実は受け流すというだけなら容易い。衝撃を体表を伝わらせて移動させる。本来は体の違う部位に移させる技術だが、その力を次の攻撃を受け流す力に利用することで実質的被害は皆無だった。

 

 そして、その力は反撃にも転じさせることができた!

 

 ───弾性高く鍛えられた体から放たれる回転の拳。柔らかい肉体を持つ女にしか体得出来ない伝説の秘拳。しなやかに全身の筋肉を捻らせてから反動を利用して肘撃ちを放つ。

 

 ───その名も、南家螺旋巻発条拳が奥義のひとつ。

 

 

「〝ねじまきえんちょうちゅう〟!!」

 

 

『□■■□□■□■■□□□■□□■□■■□!?』

 

 爆発的な威力の肘撃ちが熊の左脚部を破壊する。熊はバランスを保てずに絶叫をあげて大地に崩れ落ちる。

 

 ───だが反撃は止まらない。

 

 透かさず横腹に間合いを詰め、風の中の木の葉のように回転して背を向ける。至近距離で放たれる背面での体当たり。言わずと知れた八極拳が鉄山靠を組み込んだ大技。

 

 

「〝ねじまきてつざんこう〟!!」

 

『■□□□■□■□□■■■□□■□■□□■!?』

 

 熊の巨体が弾き飛ばされて岩肌に叩きつけられる。いままで絶対的な強者だった熊が完膚なきまでに叩きのめされるその心境は恐怖と絶望。狩るものから狩られるものに堕ちた瞬間だった。

 

「これで、さいご……」

 

 腕を大きく振りかぶる。上体を大きく捻って軸足を強く蹴る。前足を曲げて着地し強く蹴って伸ばす。軸を中心に体を回転させて体の回転によって腕が振られる。下半身から腰、背中、肩、肘、手首、指と体全体から回転エネルギーを伝える。

 

『黄金の回転』!

 

 

「いっけええええええぇぇぇぇッ!!」

 

 

 閃光。研ぎ澄まされた一球。矢が飛ぶが如く瞬く間の早さで心の臓に突き刺さった。その回転は止まらない。

 

 差し詰めそれはドリルのような、毛皮を裂きその肉を抉り骨まで砕く螺旋運動。不完全な回転では傷すらつけられなかった毛皮だが『黄金の回転』ではいともたやすく貫いた。

 

『■□□□■■□□■□■□■■□□□□□□……』

 

 無敵の回転パワーはどんな頑強な防御をも突き破る。熊の胸には螺旋状の風穴が開き絶命した。

 

 いま此処に熊殺しは成された。お祖父さんお祖母さんの敵を討ったのだ。

 

 ────────────────────。

 

「あ……れ……」

 

 暗転。視界が揺らぐ。それもそのはず鬼気迫る状況下での死闘でかなりの体力と集中力を消費し、さらにぶっつけ本番の螺旋巻発条拳の後遺症により三半規管がやられ平衡感覚が失われている。

 

 熊を討伐して安堵したことにより、緊張の糸が途切れ忘れていた疲労が一気に押し寄せた。

 

「───」

 

 藤乃はこと切れるように倒れた。

 

 

               ☆   

   

 

 たったひとりの少女による熊殺し。そんな与太話は誰も信じてはくれないだろう。熊の死骸を見てもライフル銃による射殺だと思われるだけだ。真実を知るのは少女ただひとりだけ。

 

 ───いいや。

 

 その一部始終をひとりの「魔術師」が目撃していた。

 

 全身黒ずくめの男。羽織っているコートも上着も中着も全て黒色。黒い外套の男。彼はどこからともなく現れると倒れている藤乃の許に戻ろうとしている鉄球を眺めている。

 

「!」

 

 それを掴もうと身を屈ませるが、それに触れた瞬間指先から全身が脱力し片膝をついてしまう。鉄球はまだ回転している。

 

「……興味深い」

 

 真実満足そうにある種の期待を含んで嗤う。

 

 鉄球からそっと手を引き、立ち上がると少女を見下ろす。

 

 

「女童よ───その体、荒耶宗蓮が貰い受ける」

 

 

 魔術師の名は、荒耶宗蓮と云った。

   




   
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