「……ふぅ、今日も地獄ながらいい朝ね。」
――親衛隊副長、
寝汗に濡れた体を水浴びと石鹸で清め手早く用意した朝食を口に放り込むと、前日に手帳に纏めていた姫君の
親衛隊副長と聞こえはよいが彼女に求められたものは他の親衛隊員と違い、その政治的な手腕である(それでも、武力や魔力はとある世界線において、数奇な運命をたどる錬金術師程はあるのだが)。
なぜこのような人材が求められたのかと言えば、姫君が政治に疎いことが理由である。
武勇、魔力、共に優れ
ようは「他の皆さんが頑張っていらっしゃるのに、私だけが見ている訳にはいきません」と、頑張りすぎてしまうのだ。
その点を姫君が幼い頃より把握し危惧していた王と王弟により、彼女は姫君の公私を管理する為に、親衛隊として任命されたのだ。
その結果、一癖も二癖もある親衛隊員に時に振り回されたりもしながら、彼女は秘書兼専属侍女長のような形で姫君を支えていくのだが、それはさておくとして。
侍女が用意した
――ここで少しだけ、彼女達親衛隊がどのような政務を行っていたのか、語るとしよう。
元老院【賢老七十二臣】によって決定した都市間の連携及び練兵計画。
この計画の一つとして、姫君の前線巡回に合わせ、練度の高い面々が集う親衛隊が都市防衛隊の教導を行うことになった。
それだけならばまだよかったのだが……ここで、元老院と親衛隊のみが把握している、とある事実が事態をややこしくさせていた。
それは、この都市防衛隊【戦争狂の守護者】に、『姫君が好意を持つ兵士が居る』ということだ。
いや、なぜ居るのかといえば元老院の思惑により箔をつけさせる為に放り込まれたのだが。
当然、この事実を知っている親衛隊員はそれはもう張り切ったのである。
曰く『姫様に相応しい男かどうか私が判断してやろう』
曰く『姫様が泣くのは心が痛くなるから、死なない程度に鍛えてやろう』
曰く『姫様の心を射止めるとか許せん』
そんな多種多様な思惑が複雑に絡み合った結果、明らかに教導というレベルを超えてやりすぎたのだ、親衛隊は。
苦笑いを浮かべる防衛隊長に対し頭を下げ。防衛隊の業務が滞りなく行われるよう薬品やら人材(という名の元凶共)を手配し。なんやかんやで乗り切ったのだ。
後は、姫君が都市を管理している元老院との会談を終わらせれば、次の都市への巡回へと向かうことができる。
少しは、この苦労も報われるだろう――そんなことを考えながら、
「おはようございます姫様、着替えの用意ができましたのでお迎えに上がりました。中に入ってもよろしいでしょうか?」
声掛けと共に、ノックを数回。しかし、姫君の返事はない。おかしい、と
「……姫様っ!」
嫌な予感がした
外に面した窓は開け放たれており、カーテンが風に揺らめく。寝台は綺麗に整えられており、争った形跡はない。
いや、争った形跡がないのは当然だ。
もし、(そもそも姫君相手にそんなことができるのかは置いておくといて)姫君が暗殺や誘拐などの事態に陥った場合、姫の警護を担当している親衛隊員
護衛の二人もろとも姫が居なくなっているという事は……その予測通り、寝台の横にある小箪笥の上に置かれた書き置きを、
『ひめさまとおでかけしてきます。かいだんにはまにあわせるようにするので、しんぱいしないでね♪あるふぁ』
――その、いかにも急いで書きましたと言わんばかりの書き置きを、
「
後に
「……………………っっっっっっっっっあぁぁあああああるぅぅぅぅぅふぁあああああああっっっっっっっ!!!!!!!!」
――そして
「しかし
「いいですっていいですって。姫様はこの街に居るのは今日が最後ですし、会談以降は慌ただしくなってろくに動けないじゃないですか。怒られるのは私と
「
「お姉さんも
「何を言っているんですかお二方!?」
さて、場面は移り変わり都市の市場。まだ朝方にも関わらず活気のあるその通りを、4人の女性が歩いている。
一人は、《認識阻害》の術式が施された眼鏡をかけ、目立たぬようにと用意された衣服を纏った姫君。
一人は、【賢老七十二臣】が一人【ラウム】によって親衛隊に任命された、
一人は、【賢老七十二臣】が一人【フラウロス】によって親衛隊に任命された、
一人は、【賢老七十二臣】が一人【アンドラス】によって親衛隊に任命された、
早朝に襲来した
「……
「お、さっすが
「うふふ、それじゃあ姫様?私達は少し姿を隠すけれど、ちゃあんと影から見守ってるから安心してね♪それじゃ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?ど、どうすればよいのでしょう……」
姫君を見てニヤニヤしていたかと思うと、そんな言葉を残して
その突如とした行動に、一人残された姫君が困惑していると――
「あれ、君はあの時の……どうしてこの街に?」
「え?あ――せ、先輩!?」
――それは、仕組まれた再会だった。
巡回とはいっても、姫君がその都市について多くの事を知る訳ではない。
そして、元老院や他の親衛隊も、わざわざ姫君に一兵士のことについて教えることはあまりない。
というより、妙な嫉妬心から教えてないだけだが。
それを逆手に取った、小さな恋を応援する為の
他の親衛隊が兵士を見定めようとするなか、この街に兵士が来てからの行動を調べ上げ、予測し、確実に姫君と出会える瞬間を
その結果がこれだ。
兵士と楽しそうに話す姫君の笑顔を報酬としながら、三人の騎士はその光景を微笑ましく見守っていたのだった――
「――なるほど、理解はしました。しかし、それはそれとして覚悟は出来ているんでしょうね?」
「「「申し訳ありませんでした!」」」
なお、会談に間に合うようにと急いで姫君を送り届けた後、怒髪天を衝いた
「フラウロス!アンドラス!貴様らが送り込んだ人材はどうしてああなった!?」
「「貴様に言われたくないぞラウム!?」」
「「「だが、それはそれとしてよくやった!姫様の笑顔に勝るものはない!」」」
「君達、ほんとぶれないね?」
また、この件が
続く?
・親衛隊
姫君をお守りする為に選抜された女騎士やら何やらの集団。
なお、姫様が恋をした結果それぞれが思い思いに行動する為、元老院ですら制御できない模様
現時点では13人ほどだが場合によって増減する模様。
なお、個人を識別する為に称号的なものを名前代わりにしているので、本来は別の名前があります。
元がやる夫スレというのもあるので、好きなAA当てればいいと思うよ。
以下、今回の登場人物
・
親衛隊副長にして
・
親衛隊長。ステータス的には姫君に並び親衛隊内では最強。戦闘時は輝くが平時はぽややんとしている。
・
前話の女騎士と同一人物。つまりあの極端なステを持つ一番槍。
・
ダイナマイトバディなニンジャ。姫君の恋応援し隊筆頭。
・
スレンダーなニンジャ。姫様の恋応援し隊筆頭。